特許第6796062号(P6796062)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796062
(24)【登録日】2020年11月17日
(45)【発行日】2020年12月2日
(54)【発明の名称】フィルター付きガスケット
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20201119BHJP
   F16J 15/12 20060101ALI20201119BHJP
   B01D 29/01 20060101ALI20201119BHJP
   B01D 46/10 20060101ALI20201119BHJP
【FI】
   F16J15/10 A
   F16J15/12 H
   F16J15/12 F
   B01D29/04 510A
   B01D29/04 530B
   B01D46/10 B
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-521605(P2017-521605)
(86)(22)【出願日】2016年10月18日
(86)【国際出願番号】JP2016080823
(87)【国際公開番号】WO2017077855
(87)【国際公開日】20170511
【審査請求日】2019年9月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-218672(P2015-218672)
(32)【優先日】2015年11月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 重輝
(72)【発明者】
【氏名】天野 琢也
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−245798(JP,A)
【文献】 実開平06−043421(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D24/00−24/02
24/06
24/16
24/26−24/28
24/32
24/36−25/12
25/172
25/19
25/22−27/06
27/08−27/10
29/00−29/01
29/07
29/085
29/11−29/13
29/17−29/21
29/25−29/33
29/37−29/39
29/44−29/50
29/60−29/66
29/72−29/74
29/88−33/00
33/04−33/048
33/06
33/09
33/13−33/17
33/21
33/25−33/29
33/327−33/333
33/44
33/58
33/70
33/80−35/00
35/02−35/05
35/10−35/147
35/16−35/30
36/00−37/02
37/04
46/00−46/54
F16J15/00−15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
網部を有するフィルター部材と、前記フィルター部材の周縁部に設けられたゴム状弾性材からなる環状のガスケット本体とからなり、
前記ガスケット本体の上下面の全周に亘って、該ガスケット本体の内周端側に、前記フィルター部材に対して垂直方向に延びる内周面と、前記ガスケット本体の外周に向けて傾斜する傾斜面とからなり、前記フィルター部材の外周よりも内周側に環状のシールリップ部がそれぞれ形成されていると共に、
前記ガスケット本体の外周面に、装着部の内周面と所定の締め代を有して接する外周突起部が、前記ガスケット本体の径方向に突出するように形成されていて、
上下の前記シールリップ部を含めた前記ガスケット本体の全体の初期状態の軸方向に沿う厚みは、前記装着部の深さよりも厚く、
前記シールリップ部は、上下から挟着された際に内周側に向けて倒れるように形成されていることを特徴とする
フィルター付きガスケット。
【請求項2】
前記外周突起部の先端部は、前記ガスケット本体の軸方向幅よりも小幅に形成されていることを特徴とする請求項1記載のフィルター付きガスケット。
【請求項3】
前記外周突起部は、先端部から前記ガスケット本体の上下面にかけて傾斜するテーパー面を有していることを特徴とする請求項1又は2記載のフィルター付きガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルター付きガスケットに関し、詳しくは、差圧によってフィルター部材を境にして上下側で異なった圧力が加わっても、シール状態を維持してシール抜けを防止できると共に、ガスケット本体の噛み込みが生じることのないようにしたフィルター付きガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルター付きガスケットとして、フィルター部材の周縁部に、ゴム状弾性材からなる環状のガスケット本体を一体形成したものが知られている(特許文献1、2)。
【0003】
このフィルター付きガスケットは、例えば、自動車、産業機械器具等において、ガスやオイル等の流体の流路を形成するハウジング内に装着され、上下から挟着されることにより、フィルター部材によって流体をろ過し、かつガスケット本体の弾性変形によって流路をシールする役割を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−245798号公報
【特許文献2】実願平4−90614号の全文明細書及び図面
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の一般的なガスケットは、流体の圧力が均一に作用することを想定して設計されている。しかし、フィルター付きガスケットは、使用される流体が脈動するものや高粘度のものである場合、フィルター部材があることによって、その前後で差圧が生じ、ガスケット本体に、フィルター部材を境にして大小異なる圧力が加わる場合がある。このとき、差圧が小さい場合には問題はないが、差圧が大きくなると、従来のフィルター付きガスケットでは、ガスケット本体によるシールの姿勢保持が難しくなり、シール機能が低下する場合があった。
【0006】
これを図8図9を用いて説明する。
【0007】
図8(a)〜(c)は、従来のフィルター付きガスケットを最小締め代で装着した状態を示す説明図である。図中、100はフィルター付きガスケット、101はフィルター部材、102はフィルター部材101の周縁部に設けられたガスケット本体、200はハウジング、300はシリンダブロックである。
【0008】
このフィルター付きガスケット100において、ガスケット本体102は、断面が略矩形状となる環状体によって形成されている。フィルター付きガスケット100をハウジング200とシリンダブロック300との間で挟着すると、図8(a)中の実線で示すように、ガスケット本体102が僅かに弾性変形し、その反発力によってハウジング200とシリンダブロック300との間をシールする。
【0009】
この状態で、図8(b)に示すように、フィルター部材101を境にしてガスケット本体102の内周面に均等に流体の圧力P00が加わると、ガスケット本体102の上下端部がそれぞれ圧力に応じて外周側に倒れ込むように変形する。この外周側への倒れ込みは、ガスケット本体102の上下端部でそれぞれほぼ均等となるため、ガスケット本体102は、ハウジング200とシリンダブロック300との間で適正な姿勢を保持でき、シール状態を維持することができる。
【0010】
図8(c)に示すように、フィルター部材101を境にして、下側の流体圧力がP11となり、上側の流体圧力は図示しないが、P11より小さい圧力になる。この場合、ガスケット本体102に対して、フィルター部材101を境にして異なった圧力が加わることになり、下側の流体圧力の方が上側の流体圧力に対して大きい圧力が加わるため、ガスケット本体102の下端部の方が上端部より外周側への倒れ込みが大きくなる。その結果、ガスケット本体102は、ハウジング200とシリンダブロック300との間で適正な姿勢を保持できなくなり、ガスケット本体102とハウジング200との間のシール状態が不安定となることにより、最悪の場合、シール抜けを生じさせるおそれがある。
【0011】
一方、図9は、従来のフィルター付きガスケットを最大締め代で装着した状態を示す説明図である。
【0012】
この場合、フィルター付きガスケット100をハウジング200とシリンダブロック300との間で挟着すると、図9中の実線で示すように、ガスケット本体102が大きく圧縮され、その反発力によってハウジング200とシリンダブロック300との間をシールする。
【0013】
この最大締め代状態では、ガスケット本体102は大きく圧縮された状態であるため、フィルター部材101を境にして上下側で異なった圧力が加わっても、作用してもガスケット本体102が位置変動することはなく、シール抜けを生じさせるおそれはない。しかし、大きく圧縮されたガスケット本体102が、ハウジング200の内周面の隅角部まで入り込むように変形する。そして、図示するようにハウジング200とシリンダブロック300との突き合わせ面が隅角部に配置されるような部位では、この隅角部(図9中に示すA部)にガスケット本体102が噛み込まれる場合がある。変形したガスケット本体102の外周側の上下端は、隅角部に向けて角張った形状となることにより、隅角部Aの突き合わせ面間に侵入し易くなるためである。ガスケット本体102の噛み込みは、ガスケット本体102の損傷につながり、シール性能に影響を及ぼす場合がある。
【0014】
そこで、本発明は、差圧によってフィルター部材を境にして上下側で異なった圧力が加わっても、シール状態を維持してシール抜けを防止できると共に、ガスケット本体の噛み込みが生じることのないフィルター付きガスケットを提供することにある。
【0015】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0017】
1.網部を有するフィルター部材と、前記フィルター部材の周縁部に設けられたゴム状弾性材からなる環状のガスケット本体とからなり、
前記ガスケット本体の上下面の全周に亘って、該ガスケット本体の内周端側に、前記フィルター部材に対して垂直方向に延びる内周面と、前記ガスケット本体の外周に向けて傾斜する傾斜面とからなり、前記フィルター部材の外周よりも内周側に環状のシールリップ部がそれぞれ形成されていると共に、
前記ガスケット本体の外周面に、装着部の内周面と所定の締め代を有して接する外周突起部が、前記ガスケット本体の径方向に突出するように形成されていることを特徴とするフィルター付きガスケット。
2.前記外周突起部の先端部は、前記ガスケット本体の軸方向幅よりも小幅に形成されていることを特徴とする前記1記載のフィルター付きガスケット。
3.前記外周突起部は、先端部から前記ガスケット本体の上下面にかけて傾斜するテーパー面を有していることを特徴とする前記1又は2記載のフィルター付きガスケット。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、差圧によってフィルター部材を境にして上下側で異なった圧力が加わっても、シール状態を維持してシール抜けを防止できると共に、ガスケット本体の噛み込みが生じることのないフィルター付きガスケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るフィルター付きガスケットの一実施形態を示す平面図
図2図1における(ii)−(ii)線断面図
図3図1に示すフィルター付きガスケットを最小締め代で装着した状態を示す部分断面図
図4】(a)は図3に示すガスケット本体に均等に圧力が作用している状態の説明図、(b)は図3に示すガスケット本体にフィルター部材を境にして上下側で異なった圧力が加わった状態の説明図
図5図1に示すフィルター付きガスケットを最大締め代で装着した状態を示す部分断面図
図6】(a)は本発明に係るフィルター付きガスケットの他の実施形態を示す部分断面図、(b)は本発明に係るフィルター付きガスケットの更に他の実施形態を示す部分断面図
図7】本発明に係るフィルター付きガスケットのフィルターの形状を示した平面図
図8】(a)は従来のフィルター付きガスケットを最小締め代で装着した状態を示す説明図、(b)はガスケット本体に均等に圧力が作用している状態の説明図、(c)はガスケット本体にフィルター部材を境にして上下側で異なった圧力が加わった状態の説明図
図9】従来のフィルター付きガスケットを最大締め代で装着した状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0021】
図1は、本発明に係るフィルター付きガスケットの一実施形態を示す平面図、図2は、図1における(ii)−(ii)線断面図である。
【0022】
フィルター付きガスケット1は、フィルター部材2と、このフィルター部材2の周縁部22に設けられたゴム状弾性材からなる環状のガスケット本体3とからなる。
【0023】
本実施形態に示すフィルター部材2は、例えばステンレス等の金属又はポリアミド等の合成樹脂によって形成されている。本実施形態に示すフィルター部材2は円盤状に形成されているが、何ら限定されない。フィルター部材2は、中央側に網部21を有すると共に、この網部21の外周側の周縁部22を一体に有している。
【0024】
ガスケット本体3は、フィルター部材2の周縁部22を上面と下面から包み込むように形成されている。そのガスケット本体3は、フィルター部材2の周縁部と一体に形成されている。なお、本明細書では、上下方向を必要により軸方向という。
【0025】
ガスケット本体3に使用されるゴム状弾性材としては、例えばエチレンプロピレンジエン三元共重合体(EPDM)、フッ素ゴム(FKM)、水素添加ニトリルゴム(HNBR)、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム(NR)、アクリル酸エステルゴム(ACM)等を適宜選択して用いることができる。
【0026】
ガスケット本体3は、環状のシールリップ部31を有している。そして、シールリップ部31は、ガスケット本体3の内周端側の上面と下面にそれぞれ形成されている。シールリップ部31の形状は、図2に示す。
【0027】
図2に示す各シールリップ部31の内周は、フィルター部材2に対して垂直方向に延びる内周面31aとなっている。また、各シールリップ部31の外周は、ガスケット本体3の外周に向けて傾斜する傾斜面31bとなっている。
【0028】
このように、シールリップ部31は、内周の内周面31aがフィルター部材2に対して垂直方向に延びているのに対し、外周の傾斜面31bがガスケット本体3の外周に向けて傾斜している。したがって、シールリップ部31は、内周側に向けてやや傾くような形態になっている。これにより、詳細には後述するが、このフィルター付きガスケット1が装着部内に装着され、2部材によって上下から挟着された際、2部材にそれぞれ押圧されて、各シールリップ部31は、ガスケット本体3の内周側に向けて倒れるように構成されている。
【0029】
ガスケット本体3の外周面には、外周に突出する外周突起部32が、全周に亘って一体形成されている。図示の例では、ガスケット本体3の外周に、山型に突出するように形成された外周突起部32を示している。この外周突起部32は、フィルター付きガスケット1が装着部内に装着された際、該装着部の内周面と所定の締め代を有して接する部位である。
【0030】
この山型の外周突起部32の先端部32aは、ガスケット本体3の軸方向の幅よりも小幅の帯状となるように形成されることにより、図2に示されるように断面形状が軸方向に沿う平坦面となっている。この先端部32aからガスケット本体3の上下面にかけての部位はテーパー面32bであり、ガスケット本体3の上下外周端部を斜めに切除したような形状となっている。
【0031】
次に、かかるフィルター付きガスケット1の作用及び効果について、図3図5を用いて説明する。
【0032】
まず、図3は、フィルター付きガスケット1が最小締め代で装着された状態を示す部分断面図、図4(a)は、図3に示すガスケット本体3に均等に圧力が作用している状態の説明図、(b)は図3に示すガスケット本体3にフィルター部材2を境にして上下側で異なった圧力が加わった状態の説明図である。
【0033】
ここでは、ハウジング4と、このハウジング4に突き合わされるシリンダブロック5との2部材によって、フィルター付きガスケット1の装着部6が構成されるものを示している。装着部6は、ハウジング4側のみに所定の深さで形成されている。
【0034】
このフィルター付きガスケット1において、ハウジング4の装着部6の深さは、図3中の破線で示す上下のシールリップ部31を含めたガスケット本体3全体の初期状態(無加圧状態)の軸方向に沿う厚みよりも僅かに小さい程度となっている。このため、このフィルター付きガスケット1をハウジング4とシリンダブロック5とで上下から挟着すると、図3中の実線で示すように、各シールリップ部31は、ハウジング4とシリンダブロック5とに押圧されて、僅かに内周側に倒れ込むように弾性変形し、その反発力によってハウジング4とシリンダブロック5との間をシールする。
【0035】
各シールリップ部31は、ガスケット本体3の内周側に配置されているため、上下から挟み付けられた際、ガスケット本体3の他の部分と少ない干渉で内周側にスムーズに倒れることができるようになっている。
【0036】
そして、この状態で、図4(a)中の破線矢印に示すように、フィルター部材2を境にしてガスケット本体3の内周面31aに均等に流体の圧力P0が加わると、圧力P0は、シールリップ部31を外周側に向けて変形させるように作用する。しかし、シールリップ部31は元々装着状態で内周側に向けて倒れ込むように弾性変形しているため、外周側に向けた圧力P0を受け、ハウジング4及びシリンダブロック5に対して更に圧接される。その結果、シールリップ部31によるシール状態はより強化され、シール抜けを確実に防止する。
【0037】
また、フィルター付きガスケット1は、図3中の破線で示すように、外周突起部32が装着部6の内周面6aに対して所定の締め代を有して接しているため、この外周突起部32によって装着部6の内周面6aに対してシールすると共に、ガスケット本体3が上下のシールリップ部31と外周突起部32の3点によって装着部6内に支持されるため、装着状態の姿勢を安定させることができる。
【0038】
次に、図4(b)中の矢印に示すように、フィルター部材2よりも下側のガスケット本体3の内周面31aに、上側よりも大きな圧力P1が加わった場合、圧力P1によって、フィルター付きガスケット1は上方に向けて、図4(b)中の破線位置から実線位置に変位する。このフィルター付きガスケット1の上方への変位により、上側のシールリップ部31は、内周側に倒れ込んだ状態のまま、シリンダブロック5に対して更に圧接される。その結果、上側のシールリップ部31のシール状態は、図4(a)に示す均等に圧力P0が加わった場合に比べて強化される。
【0039】
前述の圧力P1は、上側のシールリップ部31に比べて、下側のシールリップ部31を外周側に向けてより大きく変形させるように作用する。しかし、下側のシールリップ部31は、圧力P1によりフィルター部材2が上方に移動し、シール圧が減少しても、ハウジング4に対して圧接する。その結果、下側のシールリップ部31によるシール状態を維持することができる。
【0040】
また、このように、フィルター部材2を境にして上下側で異なった圧力が加わることにより、フィルター付きガスケット1が図4(b)中の破線位置から実線位置に変位する。具体的には、下側のシールリップ部31は、外周側に向けて変形し、上側のシールリップ部31は、内周側に向けて変形する。つまり、ガスケット本体3は、フィルター部材2との固着部位を中心にして、図4(b)における時計回りに回転するような力が働く。この下側の圧力P1が過大になると、フィルター付きガスケット1が更に上方に変位することにより、下側のシールリップ部31が圧力P1を受けて外周側に倒れ込んでしまうことが想定される。
【0041】
しかし、前記ガスケット本体3を回転しようとする力は、外周突起部32が装着部6の内周面6aへの当接力を高めることになり、ガスケット本体3の回転を阻止するように機能し、ガスケット本体3の姿勢を適正な状態に維持して安定したシール状態を保ち、シール抜けの発生を防止する。特に、本実施形態に示すように、外周突起部32の先端部32aが所定幅の帯状に形成されている場合、先端部32aが装着部6の内周面に当接することにより、ガスケット本体3を面で支え、ガスケット本体3の回転を効果的に阻止する機能を発揮する。これにより、ガスケット本体3の姿勢保持効果をより向上させることができる。
【0042】
次に、図5は、フィルター付きガスケット1が最大締め代で装着された状態を示す部分断面図である。
【0043】
この場合、ハウジング4の装着部6の深さは、図5中の破線で示す上下のシールリップ部31を含めたガスケット本体3全体の初期状態(無加圧状態)の軸方向に沿う厚みよりもかなり小さい。このため、このフィルター付きガスケット1をハウジング4とシリンダブロック5とで上下から挟着すると、図5中の実線で示すように、各シールリップ部31は、ハウジング4とシリンダブロック5とに押圧されて、内周側に大きく倒れ込むように弾性変形し、その反発力によってハウジング4とシリンダブロック5との間をシールする。この状態では、ガスケット本体3にフィルター部材2を境にして上下側で異なった圧力が加わっても、フィルター付きガスケット1が上下に変位することはほとんどないが、大きな締め代によってガスケット本体3は大きく圧縮された状態となる。
【0044】
ここで、シールリップ部31は内周側に倒れ込んでおり、更に外周突起部32を有することにより、ガスケット本体3の上下外周端部と装着部6の内面との間に空隙Sが形成される。これにより、ガスケット本体3が大きく圧縮されても、装着部6の隅角部に位置するハウジング4とシリンダブロック5との突き合わせ面(図5中のA部)にガスケット本体3が噛み込まれてしまうことはない。
【0045】
特に、本実施形態に示す外周突起部32は、先端部32aから上下に亘ってテーパー面32bを有しているため、空隙Sが大きく確保される。このため、ガスケット本体3が内周側から流体の過大な圧力を受けた際に、図5中の破線で示すように外周側に押圧されても、突き合わせ面に噛み込まれるおそれはない。
【0046】
以上のように、本発明によるフィルター付きガスケット1によれば、差圧によってフィルター部材2を境にして上下側で異なった圧力が加わっても、シール状態を維持してシール抜けを防止できると共に、ガスケット本体3の噛み込みが生じることもない。
【0047】
図6は、本発明に係るフィルター付きガスケットの他の実施形態を示す部分断面図である。
【0048】
図6(a)に示すフィルター付きガスケット1は、ガスケット本体3のシールリップ部31を、上述した態様よりも外周側にずらし、ガスケット本体3の径方向のほぼ中央部に配置させたものである。このように外周側にずらした場合も、各シールリップ部31の先端は、内周側に向けて緩やかに傾くように形成されているため、2部材によって上下から挟み付けられた際、上述した態様と同様に、内周側に向けて倒れ込むように変形し、確実なシール機能を発揮することができる。
【0049】
また、ガスケット本体3の外周突起部32に、先端部32aから上下に亘ってテーパー面32bを有しているため、ガスケット本体3が最大締め代で圧縮された場合でも、上記同様に噛み込みが発生するおそれはない。
【0050】
図6(b)に示すフィルター付きガスケット1は、ガスケット本体3の外周面から突出する外周突起部32を、上述した山型ではなく、ガスケット本体3の軸方向の幅よりも小幅の帯状のまま突出するように形成したものである。すなわち、この外周突起部32の先端部32aは、図示するように平坦面となる断面形状であるが、この先端部32aの幅のまま、ガスケット本体3の外周面から突出した形状となっている。
【0051】
この場合も、上述したように、ガスケット本体3の姿勢を適正に維持する機能を有すると共に、ガスケット本体3の内周側からフィルター部材2を境にして上下側で異なった圧力が加わっても、この外周突起部32がガスケット本体3の回転を効果的に阻止し、ガスケット本体3の適正な姿勢を維持することができる。
【0052】
なお、上述の図1に示すフィルター付きガスケット1におけるフィルターの格子状の形状は、図7に示すごとく大きさを変更した同図(a)(b)、或いは同図(c)の蜘蛛の巣形状の他、他の形状のものを使用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1:フィルター付きガスケット
2:フィルター部材
21:網部
22:周縁部
3:ガスケット本体
31:シールリップ部
31a:内周面
31b:傾斜面
32:外周突起部
32a:先端部
32b:テーパー面
4:ハウジング
5:シリンダブロック
6:装着部
6a:内周面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9