(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
個別液体体積の前記配列のうちの後続の2つの個別液体体積を互いに分離するスペーサが、前記個別液体体積とは混合しない、請求項1に記載のマイクロ流体プローブ・ヘッド。
前記第2の流路は、個別液体体積の前記自由配列を前記付着領域から前記流出口に給送するように構成された、請求項1または2に記載のマイクロ流体プローブ・ヘッド。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体工学は、典型的には、マイクロメートル長スケールの流路と典型的にはミリメートル以下の範囲の体積とに制約された流体の微小体積の振る舞いと精密制御と操作とを扱う。ここでは、流体とは液体を指し、この2つの用語は本明細書の以下の説明では同義で使用される場合がある。特に、マイクロ流体工学における液体の典型的な体積は、10
−15Lないし10
−5Lの範囲であり、10
−7mないし10
−4mの典型的直径を有する微小流路を介して輸送される。
【0003】
マイクロスケールでは、液体の振る舞いは、より大きいスケール、すなわちマイクロスコピック・スケールの液体の振る舞いとは異なり、特に、表面張力、粘性エネルギー散逸および流体抵抗が流動の支配的な特性となる。例えば、流体の運動量の効果と粘性効果とを比較するレイノルズ数は、流体の流動作用が乱流ではなく層流になるほどまでに減少し得る。
【0004】
さらに、低レイノルズ数流動においては乱流が存在しないため、マイクロスケールの液体は、従来のカオス的な意味では必ずしも混合せず、拡散により隣接する液体間の分子または小粒子の界面輸送がしばしば発生する。その結果、濃度、pH、温度、剪断力など、液体の特定の化学特性および物理特性が決定的となる。これにより、一段階反応および多段階反応において、より一様な化学反応条件と、より高品位な生成物とが与えられる。
【0005】
マイクロ流体プローブは、液体、特に化学物質または生化学物質あるいはその両方を含む液体の付着、抽出、輸送、供給または除去あるいはこれらの組合せのためのデバイス、特に微細加工走査デバイスである。例えば、マイクロ流体プローブは、診断医学、病理学、薬理学の分野、および様々な分析化学の部門で使用することができる。ここでは、マイクロ流体プローブを、酵素的分析、デオキシリボ核酸(DNA)分析およびプロテオミクスの分子生物学手法を実行するために使用することができる。
【0006】
化学プロセスおよび生化学プロセスの多くは、異なる温度、異なる濃度または異なる期間あるいはこれらの組合せを含む様々な条件下で、特に(生)化学物質、溶媒、および緩衝剤を含む異なる液体に標的表面を暴露することを含む、順次に実行される複数のステップを必要とする。
【0007】
したがって、マイクロ流体プローブは、順次的な液体間で混合が少ないかまたはまったくない状態で表面に小体積単位の液体の配列を供給することを可能にする必要がある。液体の輸送時、毛細管またはマイクロ流体流路内の液体のこれらの順次的な各部分は、しばしば「プラグ」と称される。一般に、マイクロ流体毛細管および流路においては、(テイラー)分散による異なる液体を含む後続のプラグ間の混合によって、これらの後続プラグ間の濃度勾配が減少する。小体積プラグの配列を表面に給送するためには、マイクロ流体プローブは、小体積プラグの配列を形成する異なる液体間で迅速に切り換えを行うことができる必要がある。その一方で、後続のプラグが互いに混じり合うのを防止するために、表面への供給時におけるプラグの分散を制限する必要がある。
【0008】
表面上に生体分子の連続パターンおよび不連続パターンをパターニングすることや、表面上でレジスト材料を加工するのに適したマイクロ流体プローブ・ヘッドが知られている。しかし、標的表面に順次に供給される液体は、移流効果と拡散効果とにより、互いに混じり合う傾向がある。その結果、表面に供給されるプラグの配列は、表面に達する時点までにはプラグの配列が生成される時点直後の初期状態と比較して溶質濃度または粒子濃度、粘度およびプラグ体積が同じでなくなることがある。
【0009】
順次に供給される液体が互いに混じり合うのを防止する一手法は、異なる連続相液体を含む順次的プラグ間に、非混和相流体のスペーサを挿入することによって行われる。例えば、順次的プラグは水性の場合があり、非混和相スペーサは油または気体によって構成される。非混和相スペーサは、順次的プラグ間の溶質または粒子あるいはその両方の拡散を防止する。「The chemistrode: A droplet-basedmicrofluidic device for stimulation and recording with high temporal, spatial,and chemical resolution」、D. Chen et al., PNAS,2008(105), 16843-16848は、標的表面に、不混和相のセグメントによって分離された水性刺激プラグを供給し、反応プラグを取り出すツールを開示している。しかし、このツールと不混和相スペーサは、標的表面と直接接触する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
特に記載のない限り、図中、同様または機能的に同様の要素には同一の参照符号が付されている。
【0017】
図1に、流体力学流動閉じ込めを使用した連続的化学法を実行するためのマイクロ流体プローブ1の概略斜視図を示す。
【0018】
マイクロ流体プローブ1は、ロボット・アーム3に取り付けられたマイクロ流体プローブ・ヘッド2を含む。ロボット・アーム3は、マイクロ流体プローブ・ヘッド2を特定の位置、特に付着領域4aないし4gのそれぞれの上方に位置決めするように構成されている。マイクロ流体プローブ1は、任意の三次元の動きを行うように、さらにx、yおよびz位置決めステージを組み込むことが好ましい。特に、マイクロ流体プローブ1は、連続的化学法を実行するように構成される。
【0019】
マイクロ流体プローブ・ヘッド2は、給液部5aないし5cと、スペーサ供給部6と、廃棄部7とに流体接続される。給液部5aないし5cは、マイクロ流体プローブ・ヘッド2に異なる液体、特に、生化学物質を含む液体を供給する。スペーサ供給部6は、マイクロ流体プローブ・ヘッド2に油を供給する。廃棄部7は、マイクロ流体プローブ・ヘッド2から廃液を回収する。
【0020】
図2に、流体流動と流体力学的流動閉じ込めの形成とを示す、マイクロ流体プローブ・ヘッド2の第1の実施形態の部分図を示す。
【0021】
一般に、流体力学的流動閉じ込め(Hydrodynamic flow confinement:HFC)は、注入液体の層流が、バックグラウンド液体を含む液体槽内に空間的に閉じ込められる現象に関する。以下で詳述するように、本発明の各実施形態は流体力学流動閉じ込めに、都合よく依存する。例示のためであるが、本明細書に記載の各実施形態は主として流体力学的流動閉じ込めを前提とする。例えば、
図2の実施形態では、注入微小流路が注入液を注入流量で液体槽内に注入し、吸引微小流路が吸引流量で注入液とバックグラウンド液体の一部とを吸引する。吸引流量を注入流量よりも高く維持することにより、注入路から吸引路への注入液の層流が形成され、周囲の液体槽内の体積内に閉じ込められる。
【0022】
図2の実施形態では、付着領域4aないし4cは、付着領域4aないし4cが浸液10で覆われるように、少なくとも部分的に浸液10で満たされたペトリ皿9などの底面8上に配置されている。例えば、付着領域4aないし4cは、細胞や組織などの生物および生化学物質、またはウィルスもしくはバクテリアあるいはその両方の感染もしくはアレルギーを検出するデバイス(例えばチップ)、あるいはその両方を含み得る。
【0023】
マイクロ流体プローブ・ヘッド2は、端面12を有する本体11を含む。本体11には、第1の流路13と第2の流路14とが形成されている。端面12には、第1の開口15と第2の開口16とが形成されている。第1および第2の開口15、16は、第1および第2の流路13、14にそれぞれ流体接続されている。例えば、第1と第2の開口15、16間の距離T
1は、2.0mm未満、好ましくは1.5mm未満、より好ましくは1.0mm未満である。
【0024】
マイクロ流体プローブ・ヘッド2の本体11は、筐体または支持体の役割を果たす。本体11に組み込まれたすべての要素、部分またはデバイスあるいはこれらの組合せは、(例えばリソグラフィを使用して)オンチップで製造されてもよく、本体11とともに移動可能である。
【0025】
本体11内部には流体バイパス17が配置されている。流体バイパス17は、第1の流路13と第2の流路14とを接続するように、第1のバイパス合流部18で第1の流路13と流体接続され、第2のバイパス合流部19で第2の流路14と流体接続されている。
【0026】
マイクロ流体プローブ・ヘッド2は、
図2の付着領域4bの上方に位置決めされる。マイクロ流体プローブ・ヘッド2の端面12は、端面12と付着領域4bとの間の距離が1ないし100μm、好ましくは1.5ないし90μm、より好ましくは2ないし80μmとなるように、付着領域4bから離間している。この距離で、端面12は付着領域4aないし4cを覆う浸液10に浸漬される。スペーサ20によって分離された液体体積23a、23bを含む個別液体体積の配列が、第1の流路13を介して第1のバイパス合流部18に給送され、そこでブロッキング要素21がスペーサ20を流体バイパス17内に方向変更させる。
【0027】
スペーサ20、特に油相を含むスペーサが付着領域4aないし4cと接触した場合、付着領域4aないし4cの表面特性が変化する可能性があり、付着領域4aないし4cが汚染される可能性があり、流体力学的流動閉じ込めの安定性が破壊され、それによって必要な付着領域4aないし4cにおける液体体積の付着が妨げられる可能性がある。特に、付着領域4aないし4c上のタンパク質などの生化学物質、細胞、生物組織が、スペーサ20と接触することによって変性または損傷あるいはその両方を受ける可能性がある。一方、脂質、治療用分子、ホルモン、無極性色素またはトレーサなどの親油性検体は、スペーサ20によって運び去られる可能性がある。また、第1の開口15を介してスペーサ20が排出される場合、スペーサ20が下の物体に剪断応力を加える可能性があり、それによってそれらの物体に損傷または、ずれ、あるいはその両方を起こす可能性がある。
【0028】
液体体積の配列のうちの液体体積23a、23bを分離するスペーサ20を第1の流路13から除去することによって、スペーサ20が付着領域4aないし4cに達するのが防止される一方、スペーサ20が除去された状態の個別液体体積の配列である個別液体体積の自由配列が第1の開口15に向けて給送される。動作時、閉じ込め体積22のみ、したがって個別液体体積の自由配列の層流Cのみが、付着領域4aないし4cに接触する。
【0029】
個別液体体積の自由配列は、第1の流量Q
1で第1の開口15を通って浸液10中に排出する。同時に、浸液10の一部と、浸液10中に排出された個別液体体積の自由配列とが、第2の開口16を通って第2の流路14内に第2の流量Q
2で吸引される。例えば、第1および第2の流量Q
1、Q
2は、対応するポンプ(図示せず)を使用して生じさせることができる。
【0030】
第2の流量Q
2が第1の流量Q
1を上回り、第1の流量Q
1に対する第2の流量Q
2の比が、例えば1.2ないし10(ただし、好ましくは1.5ないし6、より好ましくは2ないし4)である場合、第1の開口15から第2の開口16への層流Cを得ることができる。このような層流を実現することによって、流体力学的流動閉じ込めが可能になり、すなわち、層流Cは浸液10によって、第1の開口15の下から第2の開口16の下まで延びる閉じ込め体積22内に流体力学的に閉じ込められる。閉じ込め体積22の大きさと層流Cの形状とは、第1の流量Q
1、第2の流量Q
2、第1の流量Q
1に対する第2の流量Q
2の比、第1の開口と第2の開口との間の距離、または端面12とそれぞれの標的領域4aないし4cとの間の距離あるいはこれらの組合せによって規定されるが、これらには限定されない。例えば、第1の流量Q
1は、1.0fL/sないし1.0mL/s、好ましくは1.0pL/sないし100nL/s、より好ましくは1.0ないし50nL/sとすることができ、第2の流量Q
2は、0.2fL/sないし4.0mL/s、好ましくは2.0pL/sないし400nL/s、より好ましくは2.0ないし200nL/sとすることができる。
【0031】
第1の液体体積23aを付着領域4bに付着させるために、マイクロ流体プローブ・ヘッド2は閉じ込め体積22が付着領域4bに接触するように位置決めされる。液体体積23aの一部または液体体積23a内で担持される物質あるいはその両方は、付着領域4bに付着するか、または付着領域4bの上部にある物質と反応するか、あるいはその両方を起こし得る。液体体積23aの残りの部分は、層流Cとともに移動し、第2の開口16を通って第2の流路14内に吸引される。
【0032】
第1の液体体積23aの付着後、マイクロ流体プローブ・ヘッド2は、第2の液体体積23bを付着させるために次の付着領域4cの上方に位置決めすることができる。マイクロ流体プローブ・ヘッド2をそれぞれの付着領域の上方に位置決めし、その上に液体体積を付着させるステップは、必要な回数だけ繰り返すことができる。
【0033】
図3に、
図1のマイクロ流体プローブ・ヘッド2および流体接続箇所の第1の実施形態の概略断面図を示す。
【0034】
マイクロ流体プローブ・ヘッド2の本体11の外部に給液部5aないし5cが配置されている。バルブ装置24が、給液部5aないし5cと流入口25とを流体接続する。給液部5aないし5cは、異なる液体を含む。給液部5aないし5cは、単一の液体、乳剤、懸濁液、または、同相の他の混合物、または例えば固体−液体、液体−気体または液体−液体の混合物などの異相の他の混合物、あるいはこれらの組合せを含んでもよい。特に、給液部5aないし5cのうちの少なくとも1つは、生化学物質を含む液体を含んでもよい。特に、給液部5aないし5cのうちの少なくとも1つは、(生)化学分析で使用される液体またはその分野に精通している者によってそのように判定され得る液体、例えば任意の有機流体または無機流体あるいはその両方、または生命体に関連する物質あるいはこれらの組合せを含み得る。したがって、給液部5aないし5cは、マイクロ流体プローブ・ヘッド2に、例えば細胞、タンパク質、DNA、薬剤、抗体、化学刺激物、または化学反応物あるいはこれらの組合せなどの、生物学的物質を含む1つまたは複数の液体を供給することができる。給液部5aないし5cによって供給される液体は、例えばその中に含まれる1つまたは複数の物質の化学組成または濃度が異なっていてもよい。給液部5aないし5cは、バルブ装置24に液体を供給する。
【0035】
バルブ装置24は、第1の流路13に流体接続され、給液部5aないし5cから受け取った液体を第1の流路13内に供給することができる。特に、バルブ装置24は、給液部5aないし5cからの液体のうちの1つの液体を特定の量だけ第1の流路13に選択的に供給するように構成される。マイクロ流体プローブ・ヘッド2の本体11内部に流入口制御部26が配置され、これは、バルブ装置24を制御することによって給液部5aないし5cの1つに流入口25を選択的に流体接続するように構成されている。この目的のため、バルブ装置24は、給液部5aないし5cから液体体積を流入口25を介して第1の流路13に連続的または交互に、あるいはその両方で供給し、それによって個別液体体積の自由配列を形成するように動作可能である。各個別液体体積の量と、個別液体体積の順序とは、流入口制御部26を使用して指定可能である。例えば、付着領域4aないし4gからの蛍光読み出し(対応するセンサは図示せず)を解釈して、特定の化学物質への暴露時間を制御することができる。所望の暴露時間に達した後は、バルブ装置24を使用して給液部5aないし5cが切り換えられる。
【0036】
あるいは、1つの給液部5aのみをマイクロ流体プローブ・ヘッド2に流体接続することも可能である。この場合、複数の異なる液体ではなく、給液部5aからの液体が第1の流路13内に流れる。
【0037】
マイクロ流体プローブ・ヘッド2の本体11の外部に配置されたスペーサ供給部6が、流入口27aを介してスペーサ挿入部27に流体接続され、スペーサ挿入部27に、給液部5aないし5cからの液体および浸液10のいずれとも混合しない油を供給し、それによってスペーサ20を供給するのに適合している。油の代わりに、給液部5aないし5cからの液体および浸液と混合しない、油脂、脂質、ヘキサンまたはトルエンあるいはこれらの組合せなどの他の無極性スペーサ流体を使用してもよい。このようにして、隣接するスペーサ20と液体体積との間の界面張力により液体体積を互いに分離することが容易になる。
【0038】
個別液体体積の自由配列は、第1の流路13に沿って、スペーサ挿入部27が第1の流路13と流体接続されるスペーサ合流部28に向かって流れる。スペーサ合流部28は、流入口25と第1の流路13内の第1のバイパス合流部18との間に配置されている。スペーサ挿入部27は、スペーサ20を第1の流路13に挿入し、それによってスペーサ20により分離された個別液体体積の配列を形成するように構成されている。特に、スペーサ挿入部27によるスペーサ20の挿入は、個別液体体積の自由配列の各液体体積がスペーサ20によって互いに分離されるようなタイミングで行われる。スペーサ合流部28に単一の液体のみが給送される場合、スペーサ20はその液体を個別液体体積23a、23bに分割する。マイクロ流体プローブ・ヘッド2の本体11内部に配置された制御部29が、スペーサ挿入部27による第1の流路13へのスペーサ20の挿入を制御する。
【0039】
1つの液体体積の付着後、その液体体積の残りの部分と、回収されたスペーサ20と、浸液10の一部とが、第2の流路14を介して廃棄部7に給送される。流出口30が、マイクロ流体プローブ・ヘッド2の本体11内部に配置された第2の流路14を、本体11の外部の廃棄部7に流体接続する。廃棄部7は、回収された液体の再利用、格納、適切な処分あるいはこれらの組合せを行うように構成することができる。これに代えて、またはこれに加えて、流出口30を介して第2の流路14を、流出口30に供給された液体またはスペーサあるいはその両方を分析する分析装置に流体接続することが可能である。
【0040】
マイクロ流体プローブ・ヘッド2の本体11内部の第1の流路13および第2の流路14の近傍にそれぞれ第1の検出器31と第2の検出器32とが設置されている。第1および第2の検出器31、32は両方とも、スペーサ20を検出し、特定するように構成されている。スペーサ20を検出すると、第1および第2の検出器31、32はそれぞれ第1の検出信号および第2の検出信号を生成し、それを制御部29に送信する。制御部29は、第1および第2の検出信号に基づいて、第1の流路13へのスペーサ20の挿入速度と、スペーサ20が第2の流路14を介して吸引される吸引速度とを同期させることができる。このために、制御部29はスペーサ挿入部27または上述のポンプあるいはその両方を適宜に制御してもよい。
【0041】
特に、第1および第2の検出器31、32は、光学手段、電気手段または磁気手段あるいはこれらの組合せによってスペーサ20を検出するように構成することができる。第1および第2の検出器31、32によって、親水性および表面張力などのスペーサ20の特性の検出または測定あるいはその両方を行うことができる。
【0042】
図4Aないし
図4Lに、
図2のマイクロ流体プローブ・ヘッド2の後続の動作ステップを示す。浸液10およびマイクロ流体プローブ・ヘッド2の本体11は図示されていない。
【0043】
以下では、層流の実現によって流体力学的流動閉じ込めを可能にする。
【0044】
図4Aにおいて、スペーサ20a、20bによって分離された個別液体体積23aないし23cの配列が第1の流路13を介して第1のバイパス合流部18に給送される。上述のような第1の流量Q
1に対する第2の流量Q
2の特定の比により、第1の開口15から第2の開口16への層流Cが形成され、第1の開口15の下から第2の開口16の下まで延びる閉じ込め体積22内に浸液10によって閉じ込められる。
【0045】
図4Bにおいて、第1の液体体積23aがブロッキング要素21を通過して流れ、第1の開口15を通って閉じ込め体積22内に排出され、閉じ込め体積22において第1の液体体積23aは層流Cによって第2の開口16に向かって移送される。
【0046】
図4Cにおいて、第1の液体体積23aと第2の液体体積23bとを互いに分離する第1のスペーサ20aが、ブロッキング要素21によって形成された狭い部分流路を通過せずに流体バイパス17に流入する。
【0047】
第1のスペーサ20aが第1の流路13から除去された後、
図4Cおよび
図4Dに示すように、第2の液体体積23bが先行する第1の液体体積23aに向かって移動し、接触する。同時に、第1のスペーサ20aが流体バイパス17内のスペーサ流体の体積に加えられることにより、流体バイパス内部で過圧状態になる。
【0048】
流体バイパス17内部の過圧は、
図4Dないし
図4Fに示すようにバイパス合流部19で流体バイパス17から第2の流路14にスペーサ20pを放出することによって低減される。
【0049】
閉じ込め体積22内に排出された第1の液体体積23aは、層流Cとともに移動する。閉じ込め体積22は付着領域4bと表面接触しているため、第1の液体体積23aは付着領域4bと接触し、第1の液体体積23aの一部または第1の液体体積23aによって担持される物質あるいはその両方が、付着領域4aに付着するかまたは付着領域4aと反応するかあるいはその両方を起こす。
図4Fに示すように、第1の液体体積23aの残りの部分が第2の開口16に達し、第2の流路14内に吸引される。
【0050】
図4Gないし
図4Kに示すように、第1の液体体積23aに続いて、第2の液体体積23bが第1の開口15を通って閉じ込め体積22内に排出され、第2の開口16に向かって流れる。一方、マイクロ流体プローブ・ヘッド2は、閉じ込め体積22が次の付着領域4cと表面接触するように、例えばロボット・アーム3によって次の付着領域4cの上方に位置決めされる。閉じ込め体積22内の層流Cに沿って流れる間、第2の液体体積23bの一部または第2の液体体積23bによって担持される物質が、次の付着領域4cに付着するかまたは次の付着領域4cと反応するかあるいはその両方を起こす。
図4Lに示すように、第2の液体体積23bの残りの部分が第2の開口16に達し、第2の流路14内に吸引される。
【0051】
図4Gおよび
図4Hにおいて、第2の液体体積23bを第3の液体体積23cから分離する第2のスペーサ20bが第1のバイパス合流部18に到達し、ブロッキング要素21によって形成された狭い流路を通過せずに流体バイパス17に流入する。第3の液体体積23cは、第2の液体体積23bに向かって移動し、接触する。第1と第2の両方の液体体積23a、23bについてこれまでに説明した手順は、第3の液体体積23cにも同様に適用される。
【0052】
図4Iないし
図4Kに示すように、第1および第2の流量Q
1、Q
2は、回収された第1の液体体積23aが第2のバイパス合流部19にちょうど到着するときに、バイパスするスペーサ23pが流体バイパス17から第2の流路14に挿入されるように(例えば制御部29によって)同期させることができる。回収された第1の液体体積23aは、それによって、流出口30に向かって第2の流路14を移動する先行する液体体積から分離される。
【0053】
したがって、第2の流路14へのスペーサ20の挿入を適切に時間調整することにより、後で回収し/吸引される第1および第2の液体体積23a、23bを分離することができる。
【0054】
図5に、
図1のマイクロ流体プローブ・ヘッド2および流体接続箇所の第2の実施形態の概略断面図を示す。
【0055】
マイクロ流体プローブ・ヘッド2の第2の実施形態は、
図3の第1の実施形態のすべての要素を含む。加えて、本体11内部に第3の流路33が設けられ、第3の流路33に流体接続される第3の開口34が端面12に形成される。さらに、第3の流路33は、流体を収容することができる追加の廃棄部35に流出口35aを介して流体接続される。
【0056】
例えば対応するポンプ(図示せず)を使用して、液体が第3の開口34を通って第3の流路33に吸引されるように、第3の流路33に第3の流量Q
3が適用される。吸引された液体は、第3の流路33を介して追加の廃棄部35に給送される。第1の開口15から第3の開口34への層流C’を生じさせ、維持するために、第3の流量Q
3は第1の流量Q
1より大きいことが好ましい。例えば、第1の流量Q
1を1.0fL/sないし1.0mL/s、好ましくは1.0pL/sないし100nL/s、より好ましくは1.0ないし50nL/sとしてもよい。第1の流量Q
1に対する第3の流量Q
3の比を、1.2ないし10、好ましくは1.5ないし6、より好ましくは2ないし4としてもよい。第3の流量Q
3は、1.2fL/sないし10mL/s、好ましくは2.0pL/sないし400nL/s、より好ましくは2.0ないし200nL/sとしてもよい。
【0057】
さらに、第1と第2の開口15、16の間の流れよりも第1と第3の開口15、34の間の層流C’を優先させ、維持するために、このデバイスは、第1の開口15と第2の開口16との間の距離T
1(
図6参照)が第1の開口15と第3の開口34との間の距離T
2よりも大きくなるように構成されることが好ましい。特に、距離T
2は、2.0mm未満、好ましくは1.5mm未満、より好ましくは1.0mm未満とすることができる。この場合も、このような層流を実現することによって流体力学的流動閉じ込めが可能になる。
【0058】
第1と第3の開口15、34の間に配置された閉じ込め体積22により、スペーサ20の回収のために第2の流路14を主として使用することができる。付着領域4bないし4dにそれぞれ付着しない液体体積23aないし23cの残りの部分は、第3の流路33を介して回収することができる。したがって、スペーサ20と液体体積23aないし23cの残りの部分の回収は、異なる場所で別々に行われる。
【0059】
図6に、マイクロ流体プローブ・ヘッド2の第2の実施形態を使用した流体流動と流体力学的流動閉じ込めを示す。浸液10とマイクロ流体プローブ・ヘッド2の本体11は示されていない。
【0060】
スペーサ20によって分離された個別液体体積の配列は、第1の流量Q
1で第1の流路13を第1の開口15に向かって流れる。第1のバイパス合流部18で、スペーサ20は液体バイパス17を介して第1の流路13から第2の流路14に方向変更される。第2の開口16において、浸液10が第2の流路14内に吸引される。吸引された浸液10と方向変更されたスペーサ20とは、第2の流路14を介して流出口30に給送される。
【0061】
第1の開口15から第3の開口34への層流C’が形成され、第1の開口15の下から第3の開口34の下まで延びる閉じ込め体積22’内に浸液10によって閉じ込められる。マイクロ流体プローブ・ヘッド2は、閉じ込め体積36が付着領域4と表面接触するように位置決めされる。
【0062】
液体体積23aが閉じ込め体積22’内部の層流C’とともに移動する間、液体体積23aの一部または液体体積23によって担持される物質あるいはその両方が、付着領域4に付着し、または付着領域4の上部にある物質と反応し、あるいはその両方を起こす。
【0063】
個別液体体積23aないし23cの配列をそれぞれの付着領域4に付着させるために、マイクロ流体プローブ・ヘッド2を位置決めし、液体体積23aの一部または液体体積23によって担持される物質あるいはその両方を付着させる動作ステップは、任意に繰り返すことができる。
【0064】
図7ないし
図9に、3つの異なる実施形態によるマイクロ流体プローブ・ヘッド2の一部を
図3または
図5の拡大
図VII、VIII、IXで示す。特に、第1および第2の流路9、11の一部と、ブロッキング要素21と、流体バイパス18が示されている。
【0065】
3つの実施形態のすべてにおいて、ブロッキング要素21aないし21cはそれぞれが幅Wと、異なる長さL
1ないしL
3とを有する3つの棒状に形成されている。例えば、Wは5ないし80μmであり、L
1は120ないし160μmであり、L
2は80ないし120μmであり、L
3は40ないし80μmである。2つの隣接するブロッキング要素21間または第1の流路13の内壁間あるいはその両方に、部分流路36が形成され、それぞれの部分流路36の幅は、ブロッキング要素21aないし21c同士の間または第1の流路13の内壁との間あるいはその両方で距離Dである。例えば、Dは5ないし30μmである。
【0066】
スペーサの粘度が液体体積23aないし23cの粘度よりも高い場合、スペーサ20は、スペーサと液体体積との間の界面張力により、部分流路36には流入せず、ブロッキング要素21aないし21cの前面から方向変更される。したがって、ブロッキング要素21aないし21cは、スペーサ20を第1の流路13から流体バイパス17に方向変更させることができる一方、液体体積23aないし23cは部分流路36を流れる。
【0067】
3つの実施形態のすべてにおいて、第1の流路13は、スペーサ合流部28と第1のバイパス合流部18との間で直径A
1を有する。第1の流路13は、ブロッキング要素21の位置において最大直径A
2にまで広がっている。第1の開口15までのブロッキング要素21の下流で、第1の流路13は先細りとなり、第1の開口15で直径A
3となっている。例えば、A
1は50ないし200μmであり、A
2は70ないし400μmであり、A
3は20ないし100μmである。
【0068】
第2の流路14は、第2の開口16において直径B
1を有し、残り部分において直径B
2を有する。B
1とB
2とは異なっていても等しくてもよい。例えば、B
1とB
2の両方がそれぞれ25μmないし150μmである。
【0069】
図7において、流体バイパス17は、第1のバイパス合流部18において幅P
1を有し、第2のバイパス合流部19に向かって連続的に先細りになって幅P
2となり、それによって第2のバイパス合流部19での圧力を増大させる。例えば、P
1は50ないし500μmであり、P
2は10ないし100μmである。
【0070】
図8において、流体バイパス17の幅は第1のバイパス合流部18におけるP
1から面37においてP
3に増大し、次に第2のバイパス合流部19においてP
2に減少する。このようにして、スペーサを収容するための流体バイパス17のより大きな収容容積が設けられる。例えば、P
3は100ないし1000μmである。
【0071】
図9において、流体バイパス17の幅P
1は、面38までは一定であり、第2のバイパス合流部19でP
2に減少する。これに加え、またはこれに代えて、圧力を増大させるために、第2の流路14は第2のバイパス合流部19で幅B
3に狭められる。例えばB
3は20ないし80μmである。
【0072】
流体バイパス17の3つの実施形態のすべてにおいて、第2のバイパス合流部19での圧力は、幾何形状により増大する。かくして、スペーサ20を第2の流路14内に漏洩させるのではなく、第2の流路14内に挿入することが可能になる。
【0073】
提案のマイクロ流体プローブ・ヘッドを含む提案の方法およびマイクロ流体プローブは、スペーサによって分離された複数の液体体積の連続付着を可能にするとともに、スペーサが付着領域に達するのを防ぐためにユーザがスペーサを実質的に除去することができるようにする。特に、マイクロ流体プローブまたはマイクロ流体プローブ・ヘッドあるいはその両方が付着領域に物理的に接触するのを回避することができる。
【0074】
提案のマイクロ流体プローブ・ヘッドを含む提案の方法およびマイクロ流体プローブは、表面上で免疫組織化学法の局所的な実行に適用可能である。固定化細胞、ホルマリン固定組織切片または凍結組織あるいはこれらの組合せに対して、複数の液体を順次に給送することができる。特に、疾病マーカーの存在(または不在)を示す比色信号を発生するために、間欠的バッファ洗浄ステップを使用して生体表面を一次抗体、ビオチン標識二次抗体、またはストレプトアビジン/HRPあるいはこれらの組合せに順次に暴露することができる。
【0075】
提案のマイクロ流体プローブ・ヘッドを含む提案の方法およびマイクロ流体プローブは、空間および試薬使用に関して高い効率を必要とする表面ベースの免疫学的検定に適用可能であり、特に、大量生産におけるバッチ処理に適用可能である。特に、マイクロ流体プローブに1つの抗体溶液を装填し、その後除去する動作ステップを繰り返すことによって、例えばアレルギー反応の研究のため、またはウィルス感染またはバクテリア感染あるいはその両方を検出するために、異なる種類のタンパク質または抗体あるいはその両方を表面にパターニングすることが可能である。提案の技術は、これらの検定に対する試薬使用および時間の要件を減少可能である。
【0076】
提案のマイクロ流体プローブ・ヘッドを含む提案の方法およびマイクロ流体プローブは、表面上に固定された細胞に一連の化学刺激パルスを送り、その表面を液体部分の配列に暴露することによる、セクレトーム解析に適用可能である。マイクロ流体プローブは、さらに、与えられた刺激に対する細胞の反応を取り出すためにも使用可能である。
【0077】
より一般的には、本発明について特定の実施形態を参照しながら説明したが、当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変更を加えることが可能であり、均等物で代用可能であることがわかるであろう。さらに、本発明の範囲を逸脱することなく、本発明の教示に特定の状況を適応させるために多くの変更を加えることができる。したがって、本発明は、開示した特定の実施形態に限定されることを意図しておらず、本発明は添付の特許請求の範囲に含まれるすべての実施形態を含むことを意図している。