(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
接触冷感の向上を目的に吸水性を向上させた布地としては、例えば、カルボキシル基や水酸基等の親水性基を導入した樹脂からなる繊維を用いた布地が挙げられる。また、熱伝導性を向上させた布地としては、例えば、熱伝導性の高いフィラーを練り込んだ樹脂からなる繊維や表面にメッキ処理を施した繊維を用いた布地が挙げられる。しかし、このような繊維を用いた布地は、理論的には接触冷感が期待できるものの、実際にヒトによる官能試験を行うと、ほとんど未処理のものと変わるところがなく、接触冷感を実感できることはなかった。
【0007】
また、特許文献4は、吸水性ポリマーを内包した多孔質無機粉末粒子を繊維に把持させてなる接触冷感作用を備えた繊維からなる布地を開示している。この布地は確かに実感できるレベルの接触冷感を有する。しかしながら、充分な接触冷感を得るためには大量の多孔質無機粉末粒子を含有させる必要があり、その結果、風合いや肌触りに悪影響がでて肌着や、寝具用シーツなどに用いることはできないものであった。
【0008】
一方、ポリアセタールの繊維から得られる製品としては、機械的特性、摺動性、耐熱性、耐薬品性などの従来から知られているポリアセタールの特性を利用した工業用途、産業用途が主であり、肌着や寝具用シーツなどに使用可能な、接触冷感に優れたポリアセタールからなる布地は知られていない。
【0009】
本発明は上記の事情を鑑みてなされたものであり、生地として用いても、接触冷感及び染色堅牢度に優れた布地を提供することを目的とする。更には、速乾性、光沢性にも優れた布地を提供することを目的とする。このような布地は、接触冷感、肌触り、速乾性が要求される内衣(肌着)、外衣(例えば、スポーツウェア)などの衣料品、シーツ、布団カバー、枕カバーなどの寝装品、カーテンなどのインテリア品、自動車内装品等の布地製品として好適に使用できる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定量のオキシアルキレン基を含むポリアセタールコポリマーを表面に有する繊維からなり、温度20℃、相対湿度65%の環境下、前記布地と温度40℃の貯熱板とを接触圧0.098N/cm
2で接触させたときのq
maxの値が0.2W/cm
2以上である布地が、生地として用いても、接触冷感及び染色堅牢度に優れていることを見出した。また、そのような布地は、速乾性、光沢性にも優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下である。
(1)オキシメチレン基と下記一般式(1)で表されるオキシアルキレン基とを含有するポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維を含む布地であって、
前記ポリアセタールコポリマー(X)中の前記オキシアルキレン基の含有量が、オキシメチレン基のモル量とオキシアルキレン基のモル量の合計に対して0.2〜5.0mol%であり、かつ
温度20℃、相対湿度65%の環境下、前記布地と温度40℃の貯熱板とを接触圧0.098N/cm
2で接触させたとき、前記貯熱板から前記布地に移動する単位面積当たりの熱流束q(t)を時間tに対してプロットして得られる熱流束曲線の最大値を表すq
maxの値が0.2W/cm
2以上である、布地。
【化1】
(式(1)中、R
0及びR
0’は、各々、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルキル基を有する有機基、フェニル基、又はフェニル基を有する有機基を表す。複数あるR
0及びR
0’は、同一であってもよく、異なっていてもよい。mは2〜6の整数を表す。)
(2)前記ポリアセタールコポリマー(X)の分子鎖の配向度が75%以上95%以下である、(1)に記載の布地。
(3)前記ポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維が、ポリアセタールコポリマー(X)の単層繊維である、(1)又は(2)に記載の布地。
(4)前記ポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維が、熱可塑性樹脂を含む繊維をポリアセタールコポリマー(X)で被覆した多層繊維である、(1)又は(2)に記載の布地。
(5)前記ポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維が、熱可塑性樹脂を含む繊維の表面にポリアセタールコポリマー(X)を有する複合繊維である、(1)又は(2)に記載の布地。
(6)前記熱可塑性樹脂が、ポリアセタールホモポリマー、ポリアセタールコポリマー(X)以外のポリアセタールコポリマー、ポリオレフィン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニル樹脂、及びこれらのエラストマーから選択される1種類又は2種類以上である、(4)又は(5)に記載の布地。
(7)(1)〜(6)のいずれか一項に記載の布地を用いた衣料品。
(8)(1)〜(6)のいずれか一項に記載の布地を用いた寝装品。
(9)(1)〜(6)のいずれか一項に記載の布地を用いたインテリア品。
(10)(1)〜(6)のいずれか一項に記載の布地を用いた自動車内装品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生地として用いても、接触冷感及び染色堅牢度に優れた布地を提供することができる。また、接触冷感、染色堅牢度に加えて、速乾性、光沢性に優れた布地を提供することができる。更には、本発明の布地は、接触冷感、速乾性、光沢性、染色堅牢度に優れるため、風合いや肌触りに優れた、衣料品、寝装品、インテリア品、自動車内装品等の布地製品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<接触冷感及び染色堅牢度に優れた布地>
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、オキシメチレン基と後述する一般式(1)で表されるオキシアルキレン基を含有するポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維を含む布地であって、前記ポリアセタールコポリマー(X)中の前記オキシアルキレン基の含有量が、オキシメチレン基のモル量とオキシアルキレン基のモル量の合計に対して0.2〜5.0mol%であり、かつ温度20℃、相対湿度65%の環境下、前記布地と温度40℃の貯熱板(純銅板)とを接触圧0.098N/cm
2で接触させたとき、前記貯熱板から前記布地に移動する単位面積当たりの熱流束q(t)を時間tに対してプロットして得られる熱流束曲線の最大値を表すq
maxの値が0.2W/cm
2以上である布地である。このような布地が、接触冷感及び染色堅牢度に優れる。
【0014】
<本発明の布地を構成する繊維>
本発明の接触冷感及び染色堅牢度に優れた布地は、布地を構成する繊維として、オキシメチレン基と後述する一般式(1)で表されるオキシアルキレン基とを含有するポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維であって、前記ポリアセタールコポリマー(X)中の前記オキシアルキレン基の含有量が、オキシメチレン基のモル量とオキシアルキレン基のモル量の合計に対して0.2〜5.0mol%である繊維を、含む。
【0015】
上述したように、本発明の布地は、布地を構成する繊維として、上述した特定量のオキシアルキレン基を含有するポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維を用いる。ポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維の形態は特に限定されないが、好ましくは、[A]ポリアセタールコポリマー(X)の単層繊維の形態、[B]表面がポリアセタールコポリマー(X)で被覆された多層繊維の形態、[C]熱可塑性樹脂を含む繊維の表面にポリアセタールコポリマー(X)が露出している複合繊維の形態である。
【0016】
上述した[A]ポリアセタールコポリマー(X)の単層繊維の形態は、ポリアセタールコポリマー(X)からなる繊維である。単層繊維は、ポリアセタールコポリマー(X)を溶融紡糸して得られ、必要に応じてさらに延伸加工して得ることができる。
【0017】
上述した[B]表面がポリアセタールコポリマー(X)で被覆された多層繊維の形態における芯部分としては、熱可塑性樹脂を含む繊維を使用することができる。前記熱可塑性樹脂の種類は特に限定されないが、例えば、ポリアセタールホモポリマー、ポリアセタールコポリマー(X)以外のポリアセタールコポリマー(例えば、一般式(1)で表されるオキシアルキレン基の含有量が、オキシメチレン基のモル量とオキシアルキレン基のモル量の合計値に対して5mol%を超えるポリアセタールコポリマー)、ポリオレフィン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニル樹脂、並びにこれらのエラストマーなどが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種類を単独であるいは2種類以上を積層または相溶させて使用できる。なお、本発明でいう「被覆」とは、芯繊維の繊維方向に対して平行な面の、表面の全部または一部が覆われた形態をいう。表面の被覆の割合は、布地のq
maxの値を0.2W/cm
2以上にすることができる範囲内であれば特に限定されるものではないが、割合が高いほど接触冷感及び染色堅牢度が優れるため、好ましくは5割以上、より好ましくは8割以上、更に好ましくは9割以上が推奨される。
【0018】
このような多層繊維は、ポリアセタールコポリマー(X)と上述の熱可塑性樹脂を溶融紡糸して得られ、必要に応じてさらに延伸加工して得ることができる。得られた多層繊維の形態は、芯繊維である熱可塑性樹脂繊維のまわりの全部または一部を、ポリアセタールコポリマー(X)が被覆する芯鞘構造となる。
【0019】
上述した[C]熱可塑性樹脂を含む繊維の表面にポリアセタールコポリマー(X)が露出している複合繊維の形態における熱可塑性樹脂の種類は特に限定されず、上述した多層繊維の形態における熱可塑性樹脂と同じものを使用することができる。これらの熱可塑性樹脂は、1種類を単独であるいは2種類以上を積層または相溶させて使用できる。
【0020】
熱可塑性樹脂を含む繊維の表面にポリアセタールコポリマー(X)が露出している複合繊維は、ポリアセタールコポリマー(X)と上述の熱可塑性樹脂の混合物を溶融紡糸して得られ、必要に応じてさらに延伸加工して得ることができる。得られた複合繊維の形態は、ポリアセタールコポリマー(X)が熱可塑性樹脂と相溶した状態であってよく、海島構造またはそれに由来した分散状態となっている状態であってよく、サイドバイサイドのようにポリアセタールコポリマー(X)と熱可塑性樹脂が表面に存在する状態であってもよい。前記複合繊維表面におけるポリアセタールコポリマー(X)の露出割合は、布地のq
maxの値を0.2W/cm
2以上にすることができる範囲内であれば特に限定されるものではないが、割合が高いほど接触冷感及び染色堅牢度が優れるため、好ましくは5割以上、より好ましくは8割以上、更に好ましくは9割以上が推奨される。
【0021】
本発明の布地に用いられるポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維は、上述した形態の繊維中、ポリアセタールコポリマー(X)の分子鎖の配向度が、75%以上の繊維が好ましく、80%以上の繊維がより好ましく、90%以上の繊維が特に好ましい。これは、配向度が高いほど布地の接触冷感及び染色堅牢度が優れるからである。配向度の上限は、接触冷感及び染色堅牢度の点から限定されるものではないが、製造の容易さの点から配向度が95%以下の繊維が好ましい。
【0022】
後述するように本発明の布地の接触冷感及び染色堅牢度は、ポリアセタールコポリマー(X)のオキシアルキレン基含有量とも相関がある。また、布地の染色堅牢度も、ポリアセタールコポリマー(X)のオキシアルキレン基含有量及び繊維中のポリアセタールコポリマー(X)の分子鎖の配向度の影響を受ける。このため、上述した配向度は、布地に付与する接触冷感、染色性、染色堅牢性の程度と、ポリアセタールコポリマー(X)のオキシアルキレン基含有量を考慮して、適宜選択される。例えば、オキシアルキレン基含有量が多いポリアセタールコポリマー(X)は接触冷感及び染色堅牢性が低くなる傾向があるが、オキシアルキレン基含有量が多いポリアセタールコポリマー(X)ほど、接触冷感及び染色堅牢性に対する配向度の影響が大きいので、配向度を高めることで接触冷感及び染色堅牢性をより優れたものに改善することができる。その際、布地の染色性は、配向度が高くなるにつれて低下する傾向にあるので、配向度は上述した範囲の中で、接触冷感、染色堅牢性、染色性のバランスを考慮して決めることができる。
【0023】
本発明の布地に用いられるポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維の配向度は、本明細書の実施例で述べるように広角X線回折装置を用いて求めることができる。
【0024】
本発明の布地に用いられるポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維の単繊度は、布地の用途に応じて許容値が異なるため特に限定されないが、特に肌と接触するような布地として用いる場合は、風合い、肌触りを損なわないために、10dtex(単位:デシテックス)以下が好ましく、5dtex以下がより好ましく、2.5dtex以下が更に好ましい。
【0025】
<本発明の布地を構成する繊維の製造方法>
本発明の布地に用いられるポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維は、従来公知の繊維の製造方法にしたがって製造できる。例えば、ポリアセタールコポリマー(X)のペレットを溶融紡糸して製造できる。その際、配向度を高くする観点から、溶融紡糸した繊維を更に延伸加工するのが好ましい。延伸加工の条件も従来公知の方法、条件で行うことができる。延伸倍率は、配向度の観点から3倍以上であるのが好ましい。延伸倍率の上限は配向度の点で限定されるものではないが、生産時の安定性(糸切れ防止)や過度なフィブリル化防止の点から15倍である。なお、溶融紡糸、延伸加工の装置は、従来公知の装置を用いて行うことができる。
【0026】
本発明の布地に用いられるポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維の断面形状は、溶融紡糸時のノズル口金の形状によりさまざまに設計が可能であるが、特に限定されるものではなく、単純な円形であっても異形断面であってもよい。中でも、異形断面とすることで更に接触冷感を高めることができる。
【0027】
<ポリアセタールコポリマー(X)>
本発明の布地に用いられるポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維におけるポリアセタールコポリマー(X)は、分子中にオキシメチレン基(−CH
2−O−)以外に、下記一般式(1)で表される構造のオキシアルキレン基を有する。
【化2】
式(1)中、R
0及びR
0’は、各々、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルキル基を有する有機基、フェニル基、又はフェニル基を有する有機基を表す。複数あるR
0及びR
0’は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、mは2〜6の整数を表す。
【0028】
前記炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。また、前記炭素数1〜8のアルキル基を有する有機基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜8のアルコキシ基などが挙げられる。前記フェニル基を有する有機基としては、ベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
【0029】
上述したオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、及びオキシブチレン基が好ましく、オキシエチレン基が特に好ましい。
【0030】
上述したオキシアルキレン基は、ポリアセタールコポリマー(X)中に、1種類あるいは2種類以上含んでいてよい。すなわち、本発明のポリアセタールコポリマー(X)は、2元共重合体のみならず、多元共重合体も含む。
【0031】
また、布地のq
maxの値を0.2W/cm
2以上にすることができる範囲内であれば、本発明におけるポリアセタールコポリマー(X)は、オキシメチレン基、オキシアルキレン基以外のブロック構造をさらに有するポリアセタールコポリマーであってもよく、あるいは、分子内に分岐構造をさらに有するポリアセタールコポリマーであってもよい。これらのポリアセタールコポリマーとしては、例えば、水酸基のような活性水素を有する官能基を分子末端又は分子中に有する熱可塑性樹脂やオリゴマーを連鎖移動剤として用いることによって得られる末端に前記連鎖移動剤の構造が導入されたポリアセタールコポリマー、ポリビニルホルマールのような共重合反応性を有する環状ホルマール部位を主鎖中に含む化合物の存在下で重合反応を行うことによって得られるポリアセタールコポリマーが挙げられる。
【0032】
同様に、布地のq
maxの値を0.2W/cm
2以上にすることができる範囲内であれば、本発明におけるポリアセタールコポリマー(X)は、ターモノマーとしてグリシジルエーテルのようなエポキシ化合物やアリルエーテルなどを用いて製造したものであってよく、ポリアセタールコポリマー中にこれらの化合物に由来する構造を有しているものも含まれる。
【0033】
一般にポリアセタールコポリマー中のオキシアルキレン基の含有量(オキシアルキレン基のモル量)は、0.01〜20mol%と幅広い範囲であるが、本発明におけるポリアセタールコポリマー(X)中のオキシアルキレン基の含有量(オキシアルキレン基のモル量)は、オキシメチレン基のモル量とオキシアルキレン基のモル量の合計に対して0.2〜5.0mol%であり、好ましくは0.2〜4.0mol%であり、特に好ましくは1.0〜4.0mol%である。前記オキシアルキレン基の含有量が0.2mol%以上、5.0mol%以下であれば、接触冷感及び染色堅牢度が優れる。その中で、前記オキシアルキレン基の含有量が0.2mol%以上、4.0mol%以下であれば、接触冷感及び染色堅牢性が特に優れる。上述したように、本発明の布地の接触冷感及び染色堅牢度は、ポリアセタールコポリマー(X)中のオキシアルキレン基含有量と繊維の配向度の影響を受けるので、ポリアセタールコポリマー(X)中のオキシアルキレン基含有量は、配向度と合せて、上述した範囲の中で、求められる用途に応じて適宜設定される。中でも接触冷感の点では、ポリアセタールコポリマー(X)中のオキシアルキレン基含有量が少なく、分子鎖の配向度が高いほど好ましい。
【0034】
特に、本発明の布地の染色性は、ポリアセタールコポリマー(X)中のオキシアルキレン基含有量が多いほど良く、染色堅牢度はオキシアルキレン基の含有量が少ないほど良いため、ポリアセタールコポリマー(X)中のオキシアルキレン基の含有量は、用途に応じて求められる性能に合わせて、上述した0.2〜5.0mol%の範囲内で適宜設定される。中でも、1.0mol%以上、4.0mol%以下であれば、接触冷感、染色性、染色堅牢度のバランスが特に優れる。
【0035】
本発明におけるポリアセタールコポリマー(X)は、1種類を単独で用いてもよく、オキシアルキレン基の種類が異なるポリアセタールコポリマーを2種類以上組合せて用いてもよく、オキシアルキレン基の含有量が異なるポリアセタールコポリマーを2種類以上組合せて用いてもよい。オキシアルキレン基の種類あるいはオキシアルキレン基の含有量が異なる2種類以上のポリアセタールコポリマーを組合せて用いる場合は、これらのポリアセタールコポリマーが相溶した状態であってよく、海島構造またはそれに由来した分散状態となっている状態であってよく、サイドバイサイドのような状態であってもよい。
【0036】
本発明におけるポリアセタールコポリマー(X)は、ISO1133に則ったMVR(Melt Volume Rate)が100cm
3/10分以下であることが好ましく、80cm
3/10分以下であることがより好ましく、60cm
3/10分以下であることが特に好ましい。MVR値が大きいほど溶融紡糸において細い繊維を得るのに適しているが、100cm
3/10分以下であれば、機械物性(特に靭性)にも優れた繊維が得られる。MVR値の下限は特に限定されるものではないが、MVR値が小さいほど溶融紡糸において溶融粘度が高くなり、変形に対して追随できなくなるため、細い繊維を効率的に得ることが難しくなる傾向がある。したがって、MVR値の下限としては、3cm
3/10分以上が好ましく、より細い繊維を得るためには8cm
3/10分以上がより好ましい。
【0037】
<ポリアセタールコポリマー(X)の製造方法>
本発明におけるポリアセタールコポリマー(X)の製造方法は任意であり、従来公知の任意の方法によって製造すればよい。例えば、オキシメチレン基と、炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を構成単位とするポリアセタール樹脂の製造方法としては、ホルムアルデヒドの3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のオキシメチレン基の環状アセタールと、エチレンオキシド、1,3−ジオキソラン、1,3,6−トリオキソカン、1,3−ジオキセパン等の炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を含む環状アセタールとを共重合することによって製造することができる。中でも本発明のポリアセタールコポリマー(X)としては、トリオキサンやテトラオキサン等の環状アセタールと、エチレンオキシド又は1,3−ジオキソランとの共重合体であることが好ましく、中でもトリオキサンと1,3−ジオキソランとの共重合体であることが特に好ましい。
【0038】
例えば、本発明におけるポリアセタールコポリマー(X)は、オキシメチレン基の環状アセタールと、コモノマーである炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を含む環状アセタールとを、重合触媒を用いて塊状重合させる方法で得ることができる。重合触媒及び重合成長末端の失活処理のために、必要に応じて反応停止剤を用いてもよい。また、ポリアセタールコポリマーの分子量調節のために、必要に応じて分子量調節剤を用いてもよい。本発明のポリアセタールコポリマー(X)の製造に用いることができる重合触媒、反応停止剤、分子量調節剤の種類や量は、本発明の効果を阻害しない限りにおいては特に限定されるものではなく、従来公知の任意の重合触媒、反応停止剤、分子量調節剤を適宜使用することができる。
【0039】
前記重合触媒としては特に限定されるものではないが、例えば、三フッ化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、五塩化リン、五フッ化リン、五フッ化ヒ素、及び五フッ化アンチモンなどのルイス酸、並びにこれらルイス酸の錯化合物または塩化合物が挙げられる。また、トリフルオロメタンスルホン酸、パークロル酸などのプロトン酸;パークロル酸と低級脂肪族アルコールのエステルなどのプロトン酸のエステル;パークロル酸と低級脂肪族カルボン酸との混合無水物などのプロトン酸の無水物なども挙げられる。このほかに、トリエチルオキソニウムヘキサフルオロホスファート、トリフェニルメチルヘキサフルオロアルゼナート、アセチルヘキサフルオロボラート、ヘテロポリ酸またはその酸性塩、イソポリ酸またはその酸性塩、パーフルオロアルキルスルホン酸またはその酸性塩などが挙げられる。中でも、三フッ化ホウ素を含む化合物が好ましく、エ−テル類との配位錯体である三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート、三フッ化ホウ素ジブチルエーテラートが特に好ましい。
【0040】
前記重合触媒の使用量は特に限定されるものではないが、トリオキサンとコモノマーの合計の全モノマー1molに対して、通常1.0×10
−8〜2.0×10
−3molであり、好ましくは5.0×10
−8〜8.0×10
−4mol、特に好ましくは5.0×10
−8〜1.0×10
−4molの範囲である。
【0041】
前記反応停止剤としては特に限定されるものではないが、例えば、三価の有機リン化合物、アミン化合物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が挙げられる。これらの反応停止剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、三価の有機リン化合物、三級アミン、ヒンダードアミンが好ましい。
【0042】
前記反応停止剤の使用量は、重合触媒を失活させるのに十分な量であれば特に制限はないが、重合触媒に対するモル比として、通常1.0×10
−1〜1.0×10
1の範囲である。
【0043】
前記分子量調節剤としては特に限定されるものではないが、例えば、メチラール、メトキシメチラール、ジメトキシメチラール、トリメトキシメチラール、オキシメチレンジ−n−ブチルエーテルなどが挙げられる。中でもメチラールが好ましい。これらの分子量調節剤の使用量は、目標とする分子量に応じて適宜決められる。通常、全モノマーに対して0〜0.1質量%の範囲で添加量が調整される。
【0044】
<ポリアセタールコポリマー(X)に添加してもよい、任意成分、その他の成分>
また、本発明を実施するとき、本発明におけるポリアセタールコポリマー(X)には、本発明の目的を損なわない範囲内で、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、アミノ置換トリアジン化合物、リン系安定剤、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、脂肪酸塩、無機酸塩、又はアルコキシドからなる群で示される金属含有化合物を添加することができる。以下、本明細書では、上述した「ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、アミノ置換トリアジン化合物、リン系安定剤、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、脂肪酸塩、無機酸塩、又はアルコキシドからなる群で示される金属含有化合物」のことを「任意成分」ということもある。これらの任意成分としては、従来公知のものを使用することができる。
【0045】
また、本発明を実施するとき、本発明におけるポリアセタールコポリマー(X)には、本発明の目的を損なわない範囲内で、上述した任意成分の他に、必要に応じて安定剤、核化剤、離型剤、充填剤、顔料、染料、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、油剤、集束剤、サイジング剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤などの各種添加剤、他の熱可塑性樹脂、エラストマーなどを適宜添加してもよい。以下、本明細書では、上述した「安定剤、核化剤、離型剤、充填剤、顔料、染料、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、油剤、集束剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤などの各種添加剤、他の樹脂、エラストマーなど」のことを「その他の成分」ということもある。充填剤としてはガラスフレーク、ガラスビーズ、ウオラストナイト、マイカ、タルク、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、カオリン、二酸化珪素、クレー、シリカ、ケイソウ土、グラファイト、二硫化モリブデンなどの鉱物質充填剤、さらに、カーボンブラック、顔料等を挙げることができる。
【0046】
上述した任意成分やその他の成分を、ポリアセタールコポリマー(X)へ添加する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、上記したポリアセタールコポリマー(X)と必要に応じて添加される任意成分及び/又はその他の成分を、任意の順序で混合、混練することによって製造できる。混合・混練の温度、圧力等の条件は、従来公知のポリアセタールコポリマーの製造方法にしたがって適宜選択すればよい。例えば、混練はポリアセタールコポリマーの溶融温度以上で行えばよく、通常は180℃以上260℃以下で行うのが好ましい。ポリアセタールコポリマーの製造装置も特に限定されるものではなく、従来からこの種のポリアセタールコポリマーの製造に用いられている混合、混練装置などを用いることができる。なお、上述した任意成分やその他の成分は、ポリアセタールコポリマー(X)を含有する繊維に別途、混合、浸透、吸着、付着させてもよい。
【0047】
<布地の種類>
本発明における布地とは、繊維を織ったり、編んだりして得られるシート状の一次加工品を指す。具体的には、たて糸とよこ糸を直角に組み合わせて一定の幅と厚みをもった平面状とする織物や、編目(ループ)をつなげて平面状とする編物の形態が挙げられ、組物、レース、フェルトの形態もこれに含まれる。不織布の形態は含まれない。特に、織物、編物の形態が、接触冷感及び染色堅牢度の特性を十分に発揮できるので好ましい。
【0048】
本発明の接触冷感及び染色堅牢度に優れた布地は、上述した特定量のオキシアルキレン基を含有するポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維を含んでいればよい。すなわち、上述した特定量のオキシアルキレン基を含有するポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維のみから得た布地であってもよく、上述した特定量のオキシアルキレン基を含有するポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維と、上述した特定量のオキシアルキレン基を含有するポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維以外の他の繊維(以下、「他の繊維」という)とから得た布地であってもよい。中でも、上述した特定量のオキシアルキレン基を含有するポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維のみから得た布地が、接触冷感に優れるため好ましい。
【0049】
前述した「他の繊維」としては、上述した特定量のオキシアルキレン基を含有するポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維以外であれば特に限定されないが、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタンなどの合成繊維、木綿、麻、絹などの天然繊維が挙げられる。他の繊維の断面形状は、溶融紡糸時のノズル口金の形状によりさまざまに設計が可能であるが、特に限定されるものではなく、単純な円形であっても異形断面であってもよい。中でも、異形断面とすることで更に接触冷感を高めることができる。
【0050】
更に、本発明の接触冷感及び染色堅牢度に優れた布地は、上述した特定量のオキシアルキレン基を含有するポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維と、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタンなどの合成繊維、若しくは木綿、麻、絹などの天然繊維とを、複合させて合撚糸やカバリング糸とし、これを用いて布地としたものであってもよい。また、上述した特定量のオキシアルキレン基を含有するポリアセタールコポリマー(X)を表面に有する繊維と、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタンなどの合成繊維、若しくは木綿、麻、絹などの天然繊維とを混繊、混紡して、布地としたものであってもよい。
【0051】
<布地の製造方法>
本発明の布地の製造方法は、特に限定されるものではなく、一般公知の方法が使用できる。例えば、上述した、たて糸とよこ糸を直角に組み合わせて一定の幅と厚みをもった平面状とする織物や、編目(ループ)をつなげて平面状とする編物、レース、組物、フェルトにおける一般的な製造方法が使用できる。また、布地が織物、編物の場合、その織り方も特に限定されるものではなく、織物であれば、例えば平織り、綾織り、朱子織り、ななこ織り、紋織りなどの形態であってよい。編物であれば、たて編み、よこ編みのほか、平編み、リブ編み、両面編み、パール編みなどの形態であってよい。
【0052】
<布地の用途>
本発明の接触冷感及び染色堅牢度に優れた布地は、更に種々の布地製品(二次加工品)に加工できる。本発明の布地は、接触冷感の効果や染色堅牢度の効果を有する添加剤や表面処理剤を繊維や布地に添加または表面処理して得られる布地とは異なり、基本的に洗濯耐久性が優れるので、種々の布地製品の原料として好適に用いることができる。特に、本発明の布地は、肌着等の内衣、スポーツウェア、ズボン、スカート等の外衣、ワイシャツ、ナイトウェア、ストッキング、タイツなどの衣料品、シーツ、布団カバー、枕カバーなどの寝装品、マット、カーテン、カーペットなどのインテリア品、ハンカチ、タオルなどの生活雑貨品、シート、シートカバーなどの自動車内装品として好適に使用することができる。
【0053】
<接触冷感及びq
max値>
本発明における接触冷感とは、布地に触れた際に冷たく感じるかどうかという官能試験の指標であり、一般にq
max値と相関がある。即ち、q
max値が大きいと接触冷感に優れ、逆にq
max値が小さいと接触冷感が悪い傾向がある。本発明の接触冷感に優れた布地は、生地として用いても、官能レベルにおいて十分な接触冷感を体感できる。すなわち、本発明の布地からなる衣料品を着用した際、ほとんどのヒトに対してヒンヤリとした感覚を与え、清涼感を与えることができる。
【0054】
本発明において接触冷感に優れた布地は、温度20℃、相対湿度65%の環境下、布地と温度40℃の貯熱板(純銅板)とを接触圧0.098N/cm
2で接触させたとき、前記貯熱板から前記布地に移動する単位面積当たりの熱流束q(t)を時間tに対してプロットして得られる熱流束曲線の最大値を表すq
max値が0.2W/cm
2以上を示す布地である。熱流束q(t)は貯熱板と布地試料の接触直後(通常1時間以内)にピーク値を示し、以後緩やかに減少する。このピーク値は初期熱流束最大値q
maxと呼ばれ、布地に対する接触冷温感の客観的評価値と考えられている。前記q
max値が0.2W/cm
2以上であれば、上述した接触冷感に優れる。その理由は、一般的に衣類等に幅広く使用されているポリエステル(PET)繊維からなる布地のq
max値よりも大きいからである。また、q
max値が0.3W/cm
2以上であれば、接触冷感が特に優れるので好ましい。q
max値は、実施例で述べたような一般的な方法で測定できる。前記q
max値は、ポリアセタールコポリマー(X)中のオキシアルキレン基の含有量が少ないほど優れる傾向がある。前記q
max値の観点から、本発明の繊維におけるポリアセタールコポリマー(X)中のオキシアルキレン基の含有量は5mol%以下が好ましく、3mol%以下が特に好ましい。また、q
max値は、ポリアセタールコポリマー(X)の分子鎖の配向度が高いほど優れる傾向がある。q
max値の点から、配向度は75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が特に好ましい。
【0055】
<染色性及び染色堅牢度>
本発明における染色性とは、布地の染色のしやすさを表す指標である。染料のもつ染着性を利用して、布地を好みの色や模様に着色することを染色という。染色性は、布地に対する染料の染み込み性や染着性の強さを表す指標で、染み込み性や染着性が強いほど、染料に近い着色となり、染色性が良い。逆に、染み込み性や染着性が弱いと、染料よりも薄い色にしか着色できない。染料は、分散染料、酸性染料、カチオン染料、反応染料、直接染料等の公知の染料を用いて行うことができる。染色性や後述する染色堅牢度の 観点からは分散染料が好ましい。なお、染色は、布地にする前の糸の段階で行ってもよい。一方、染色堅牢度とは、染料で染色された布地の、染色の丈夫さ(抵抗性)、いわゆる「色の変わりにくさ」、代表的には「色落ちのしにくさ」を見る指標であり、「変退色」と「汚染」の程度で評価される。染色堅牢度を測定する際の処理としては、日光、洗濯、汗、摩擦、酸、アイロンなどがある。染色堅牢度は、目視または機械を用いた方法により、処理前後の試験片を比較して、変退色や汚染の数値を級数として求められる。一般に、染色性と染色堅牢度に優れる布地ほど、染色の点で用途の自由度が広がるので、好ましい。例えば、JIS L0844「洗濯に対する染色堅牢度試験方法」のA−2法に準じて測定される等級が大きい布地ほど、染色の点で用途の自由度が広がるので、好ましい。
【0056】
<速乾性>
本発明における布地の速乾性とは、水分を含んだ布地が速く乾く性質を表す指標であり、速乾性に優れることが一般に知られているポリエステル(PET)繊維からなる布地よりも速く乾く布地が、肌着や寝具のようにヒトの肌に接する用途として清涼感を与え、より接触冷感を感じやすいので好ましい。これは、肌から繊維に吸収された水分が蒸発する際に、潜熱を奪うことによるものと考えられる。速乾性は、実施例で述べる方法で測定できる。PET繊維からなる布地の乾燥速度を基準(1.0)とした場合、0.9以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。速乾性は、ポリアセタールコポリマー(X)中のオキシアルキレン基の含有量が少ないほど優れる傾向がある。速乾性の点から、本発明の繊維におけるポリアセタールコポリマー(X)中のオキシアルキレン基の含有量は5mol%以下が好ましく、2mol%以下が特に好ましい。また、速乾性は、ポリアセタールコポリマー(X)の分子鎖の配向度が高いほど優れる傾向がある。速乾性の点から、配向度は75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が特に好ましい。
【0057】
<光沢性>
本発明における布地の光沢性とは、布地の表面が光を受けた際の輝きの度合いを表す指標であり、数値が大きいほど、表面が滑らかで艶があり高級感を付与することができる。光沢性は、実施例で述べた可視光線の反射率を測定する方法で、測定できる。PET繊維からなる布地の光沢性を基準(1.0)とした場合、1.1以上が好ましく、1.2以上がより好ましい。光沢性は、ポリアセタールコポリマー(X)中のオキシアルキレン基の含有量が5mol%以下であれば良い傾向があるので、本発明の繊維におけるポリアセタールコポリマー(X)中のオキシアルキレン基の含有量は5mol%以下が好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明について実施例、比較例を示して、その実施形態と効果について具体的に説明をするが、本発明はこれらの例によりなんら限定されるものではない。
【0059】
<ポリアセタールコポリマー(X)>
実施例及び比較例で用いたポリアセタールコポリマー(X)は、以下のとおりである。なお、ポリアセタールコポリマー(X)中のオキシエチレン基の含有量(オキシエチレン基のモル量)は、オキシメチレン基のモル量とオキシエチレン基のモル量の合計に対する値である。
POM−1:オキシエチレン基の含有量が0.4mol%であり、MVRが15であるポリアセタールコポリマー。
POM−2:オキシエチレン基の含有量が1.6mol%であり、MVRが15であるポリアセタールコポリマー。
POM−3:オキシエチレン基の含有量が3.0mol%であり、MVRが15であるポリアセタールコポリマー。
POM−4:オキシエチレン基の含有量が4.7mol%であり、MVRが15であるポリアセタールコポリマー。
POM−5:オキシエチレン基の含有量が5.7mol%であり、MVRが15であるポリアセタールコポリマー。
【0060】
<MVRの測定>
ポリアセタールコポリマー(X)のMVRは、ISO1133に従って測定した。
【0061】
<ポリアセタールコポリマー(X)中のオキシエチレン基の含有量の測定>
実施例及び比較例で用いたポリアセタールコポリマーをヘキサフルオロイソプロパノール(d2)に溶解させて、NMR測定試料を作製し、この測定試料についてNMRスペクトルを測定して、ポリアセタールコポリマー中のオキシエチレン基の含有量を測定した。
【0062】
<ポリアセタールコポリマー繊維の作成>
実施例及び比較例で用いた布地を作成するためのポリアセタールコポリマー繊維は次のようにして作成した。シリンダー、ノズル部の温度を200℃に加温し、直径が0.6mmのホールを36個備えたノズルから0.8〜1.2kg/hの速度で、溶融樹脂を吐出した。この時、引取り速度を約200〜400m/分で連続的に未延伸繊維を採取し、得られた未延伸繊維を引き続き加熱延伸工程へ導き、ロール温度120〜140℃で延伸処理を行って繊維試料を作成した。なお、芯鞘複合繊維の場合は、ノズルからの吐出速度は、芯成分の樹脂、鞘成分の樹脂ともに0.4kg/hとした。
【0063】
<その他の熱可塑性樹脂>
PET(ポリエチレンテレフタレート樹脂):単繊度2デシテックスのマルチフィラメントをそのまま用いた。
【0064】
<繊維の繊度測定>
繊維の繊度[dtex(デシテックス)]は、光学顕微鏡を用いて単繊維の繊径を測定し、繊維の密度から繊度を算出し、測定本数50本の平均値を、繊維の繊度とした。繊維の密度は、ポリアセタールコポリマーの単層繊維の場合は、1.40g/cm
3とした。また、多層繊維の場合は、構成する材料の密度についての加重平均値とした。また、PETの単層繊維の場合は、1.37g/cm
3とした。
【0065】
<繊維の配向度fc(%)測定>
広角X線回折装置(株式会社島津製作所製 DP−D1)を用い、CuKα(Niフイルターを使用)を線源として測定した(出力45KV、40mA)。分子鎖の配向度(fc)は、2θ=22.2°付近に観察される(100)面について、円周方向にスキャンして得られる回折強度の分布曲線(方位角分布曲線)の半値幅FWHM(°)から、下記の式(1)を用いて求めた。
【数1】
【0066】
<布地の作成>
実施例及び比較例で用いた布地中、編みにより得た布地は、上述の方法で作成したポリアセタールコポリマーを表面に有する繊維、又はPET繊維を用いて、ウェール44本/インチ、コース40本/インチにて編み立てた。なお、編みにより得た布地のウェールとは、1インチ間にループ状の編目を横方向に数えた数としてあらわされ、コースとは縦方向に数えた数としてあらわされ、これらにより編みにより得た布地の密度が変わる。
同様に上述の方法で作成したポリアセタールコポリマーからなる単層繊維を用いて64mm長の捲縮糸とし、カード機にかけ、得られたウェブをニードルパンチ処理することで不織布を作成した。
得られた布地の目付はいずれも約200g/m
2とした。
【0067】
<布地のq
max値の測定>
温度20℃、相対湿度65%に設定した試料台の上に、実施例又は比較例の布地を置き、布地の上に温度40℃に温めた貯熱板(純銅板)を接触圧0.098N/cm
2で重ね、その直後から、前記貯熱板から低温側の布地試料に移動する熱量を測定した。q
max値は、単位面積当たりの熱流束q(t)を時間tに対してプロットして得られる熱流束曲線の最大値から求めた。熱の移動量の測定は、サーモラボII型精密迅速熱物性測定装置(カトーテック社製)を用いて行った。q
max値が大きいほど、熱の移動速度が速く、接触冷感に優れる。
【0068】
<速乾性(残留水分率)の測定>
大きさ10cm×10cmの布地に0.6gの水をしみこませ、温度20℃、相対湿度65%の環境中に、この布地を吊り下げた状態で放置した。一定時間ごとに、放置した布地の質量を測定して、布地中の残留水分量を算出し、残留水分率(単位:質量%)として求めた。残留水分率が10質量%に到達するまでの時間(分)を速乾性の指標とした。時間が短いほど、速乾性に優れる。
【0069】
<光沢性(可視光反射率)の測定>
株式会社島津製作所製の紫外・可視・近赤外分光光度計UV−3600(積分球:ISR−3100)を用いて、測定波長域400〜780nmにおける光線反射率として、可視光線反射率を求めた。可視光線反射率が大きいほど光沢性が高いことを意味する。
【0070】
<接触冷感試験>
実施例及び比較例の布地に、触れたときの感触を◎(優)、○(良)、×(不可)の3段階で評価した。
【0071】
<染色性及び染色堅牢度試験>
実施例及び比較例の布地をアントラキノン系の分散染料を用い、0.2%omf(omf:on the mass of fiberの略称、繊維に対する付着量を表す)で青色に染色した。染色した各布地を目視にて濃度を比較し、1−4の4段階で評価した。十分な濃度を有しているものを4、薄くなるにつれて3、2、1として表1に記載した。数値が大きいほど染色性に優れ、1は不良である。次にこれをJIS L0844「洗濯に対する染色堅牢度試験方法」のA−2法に準じて堅牢度を1−5級で示される“級”で評価した。数値が大きいほど染色堅牢度が優れることを意味する。
【0072】
<実施例及び比較例>
表1に、オキシエチレン基の含有量が所定範囲内であるポリアセタールコポリマーの単層繊維を用いて作成した布地、オキシエチレン基含有量が所定範囲内であるポリアセタールコポリマーの多層繊維を用いて作成した布地、オキシエチレン基含有量が所定範囲内であるポリアセタールコポリマーとポリ乳酸樹脂(PLA)の多層繊維を用いて作成した布地に関する実施例、並びにPET繊維を用いて作成した布地、オキシエチレン基含有量が所定範囲よりも多いポリアセタールコポリマー単層繊維を用いて作成した布地、ポリアセタールコポリマーの単層繊維を用いて作成した不織布に関する比較例を示した。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例1〜7より、オキシアルキレン基の含有量が所定範囲内であるポリアセタールコポリマーの単層繊維を用いて作成した布地、オキシアルキレン基含有量が所定範囲内であるポリアセタールコポリマーの多層繊維を用いて作成した布地、オキシアルキレン基含有量が所定範囲内であるポリアセタールコポリマーとPLAの多層繊維を用いて作成した布地であって、q
maxの値が0.2W/cm
2以上である布地は、接触冷感、染色堅牢度に優れることがわかる。また、実施例4と5より、アルキレン基の含有量が同じであっても、繊維の配向度が高いほど接触冷感、染色堅牢度が優れることがわかる。