(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
12.3〜15.2質量%のクロム、4.8〜12.0質量%のコバルト、2.5〜8.3質量%のタングステン、0.0〜0.5質量%のモリブデン、0.0〜0.5質量%のレニウム、3.5〜6.7質量%のアルミニウム、6.1〜10.7質量%のタンタル、0.0〜0.5質量%までのハフニウム、0.0〜0.5質量%のニオブ、0.0〜0.5質量%のチタン、0.0〜0.5質量%のバナジウム、0.0〜0.1質量%のケイ素、0.0〜0.1質量%のイットリウム、0.0〜0.1質量%のランタン、0.0〜0.1質量%のセリウム、0.0〜0.003質量%の硫黄、0.0〜0.05質量%のマンガン、0.0〜0.05質量%のジルコニウム、0.0〜0.005質量%のホウ素、0.0〜0.01質量%の炭素から成り、残部はニッケル及び不可避的不純物から成るニッケル基合金組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、腐食損耗に対する改良された耐性と結びついた機械的特性であって、IGT用途に用いられる他の合金と同等の機械的特性を有する、IGT用途に用いられるニッケル基合金を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、表1に列挙された合金と比べてコストが同等及び/又は低い合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、12.3〜15.2質量%のクロム、4.8〜12.0質量%のコバルト、2.5〜8.3質量%のタングステン、0.0〜0.5質量%のモリブデン、0.0〜0.5質量%のレニウム、3.5〜6.7質量%のアルミニウム、6.1〜10.7質量%のタンタル、0.0〜0.5質量%までのハフニウム、0.0〜0.5質量%のニオブ、0.0〜0.5質量%のチタン、0.0〜0.5質量%のバナジウム、0.0〜0.1質量%のケイ素、0.0〜0.1質量%のイットリウム、0.0〜0.1質量%のランタン、0.0〜0.1質量%のセリウム、0.0〜0.003質量%の硫黄、0.0〜0.05質量%のマンガン、0.0〜0.05質量%のジルコニウム、0.0〜0.005質量%のホウ素、0.0〜0.01質量%の炭素から成り、残部はニッケル及び不可避的不純物から成るニッケル基合金組成物が提供される。この組成物によれば、コスト、密度、クリープ強度、及び耐酸化性の間で、良好なバランスが得られる。
【0009】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物は、12.3〜14.7質量%のクロム、好ましくは13.0〜14.7質量%のクロムを備える。このような合金は、有害なTCP相をほとんど形成しない状態が維持されつつ、酸化損傷に対して特に耐性を有する。
【0010】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物は、7.1〜11.0質量%のコバルト、好ましくは7.8質量%より高いコバルトを備える。このような合金は特に、観察されるクリープ異方性(配向依存性)の制限レベルにおけるクリープ変形に対する耐性を有する。
【0011】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物は、3.3〜6.4質量%のタングステン、好ましくは4.2〜5.8質量%のタングステンを備える。この組成物は、軽量化、TCP相の形成に対する耐性、及び耐クリープ性の間で、折衷点を取る。
【0012】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物は、4.5〜6.4質量%のアルミニウム、好ましくは4.7〜5.7質量%のアルミニウムを備える。この組成物によれば、耐酸化性の増加と同時に、高い耐クリープ性及び密度の低下が達成される。
【0013】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物は、6.1〜10.7質量%のタンタルを備える。これにより、耐クリープ性と密度との最良のバランスが得られ、及び/又はイータ(ε)相Ni
3Taが形成される可能性が抑制される。合金は、好ましくは6.5〜10.7質量%のタンタル、より好ましくは6.6〜9.4質量%のタンタルを備える。これにより、ε相の形成の傾向が弱まることに加え、合金のコスト及び密度がさらに低減される。
【0014】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物は、0.0〜0.2質量%のハフニウムを備える。これは、合金内の不可避的不純物、例えば炭素の拘束に最適である。
【0015】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物内のコバルト元素及びタングステン元素の合計は、13.5質量%より高い。このような合金は、優れた耐クリープ性を有する。
【0016】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物内のタングステン元素及びタンタル元素の合計は、14.4質量%未満、好ましくは12.6質量%未満である。このような合金は、比較的低い密度を有する点で有利である。
【0017】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物は、50〜65%の体積分率のγ´、好ましくは50〜60%の体積分率のγ´、より好ましくは50〜55%の体積分率のγ´を有する。これにより、耐クリープ性と、耐酸化性と、TCP相が形成される傾向との間で、好ましいバランスが得られる。
【0018】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物内のアルミニウム元素及びタンタル元素の合計は、11.5〜16.2質量%、好ましくは11.5〜15.8質量%、より好ましくは11.5〜15.5質量%である。これは、所望の体積分率のγ´を得るのに役立つ。
【0019】
一つの実施形態では、合金に含まれるタンタル及びアルミニウムの質量%をそれぞれW
Ta、W
Alとすると、ニッケル基合金組成物は、以下の式を満たす。
33≦W
Ta+5.2W
Al≦45
好ましくは、以下の式を満たす。
33≦W
Ta+5.2W
Al≦41
より好ましくは、以下の式を満たす。
33≦W
Ta+5.2W
Al≦39
最も好ましくは、以下の式を満たす。
33≦W
Ta+5.2W
Al≦36
これは、適切な体積分率のγ´を存在させることができるため、有利である。
【0020】
一つの実施形態では、合金に含まれるタンタル、アルミニウム、チタン、ニオブ、及びバナジウムの質量%をそれぞれW
Ta、W
Al、W
Ti、W
Nb、W
Vとすると、ニッケル基合金組成物は、以下の式を満たす。
4.2≦(W
Ta+W
Ti+W
Nb+W
V)−0.5W
Al
これは、高いAPBエネルギー及び非常に優れた耐クリープ性を有する合金を得られるため、有利である。
【0021】
一つの実施形態では、合金に含まれるタングステン、モリブデン、レニウム、及びコバルトの質量%をそれぞれW
W、W
Mo、W
Re、W
Coとすると、ニッケル基合金組成物は、以下の式を満たす。
15.2≦[1.26(W
W+W
Mo+W
Re)]+W
Co
好ましくは、以下の式を満たす。
16.1≦[1.26(W
W+W
Mo+W
Re)]+W
Co
これは、高い耐クリープ性を有する合金を得られるため、有利である。
【0022】
一つの実施形態では、合金に含まれるタンタル及びタングステンの質量%をそれぞれW
Ta、W
Wとすると、ニッケル基合金組成物は、以下の式を満たす。
12.7≧W
Ta+0.87W
W
これは、比較的低い密度を有する合金を得られるため、有利である。
【0023】
一つの実施形態では、合金に含まれるクロム及びタングステンの質量%をそれぞれW
Cr、W
Wとすると、ニッケル基合金組成物は、以下の式を満たす。
11.64≧W
Cr+0.179W
W2−1.54W
W
好ましくは、以下の式を満たす。
10.75≧W
Cr+0.179W
W2−1.54W
W
これは、TCP相形成に対する感受性が低い合金を得られるため、有利である。
【0024】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物内のニオブ元素、チタン元素及びバナジウム元素の合計は、1質量%未満である。つまり、これらの元素は、合金の環境耐性に対して有害な影響をあまり及ぼさない。
【0025】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物内のニオブ元素、チタン元素、バナジウム元素及びタンタル元素の合計は、6.1〜10.7質量%、好ましくは6.5〜10.7質量%、より好ましくは6.6〜9.4質量%である。これにより、好ましい体積分率のγ´が得られる。
【0026】
一つの実施形態では、レニウム元素、モリブデン元素及びタングステン元素の合計は、少なくとも2.5質量%、好ましくは少なくとも3.3質量%、より好ましくは少なくとも4.2質量%である。これにより、耐クリープ性と、TCP相が形成される傾向が弱いことと、の良好なバランスが達成される。
【0027】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物は、0.0〜0.3質量%のレニウムを備える。これにより、耐クリープ性とコストとのバランスが最適となる。
【0028】
一つの実施形態では、ニッケル基合金組成物は、0.1質量%以上のモリブデンを備える。これにより耐クリープ性が向上するため、有利である。
【0029】
一つの実施形態では、上述の実施形態のうちいずれかのニッケル基合金組成物で形成された単結晶物が得られる。
【0030】
一つの実施形態では、上述の実施形態のうちのいずれかに基づく合金で形成された、ガスタービンエンジン用のタービンブレードが得られる。
【0031】
一つの実施形態では、上述の実施形態のタービンブレードを備えるガスタービンエンジンが得られる。
【0032】
本明細書における「を備える」との用語は、組成物を100%として、追加の成分の存在を排斥することでパーセンテージを100%にしていることを示すために用いられる。
【0033】
本発明について、単なる例示を通じて、添付図面を参照しながら、さらに十分に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0035】
従来、ニッケル基超合金は、経験主義に基づき設計されてきた。したがって、ニッケル基超合金の化学的組成物は、限られた量の材料の小規模処理と、挙動についてのその後の特性分析と、を含む時間のかかる高価な実験開発によって特定されてきた。その後、最良の、すなわちもっとも望ましい特性の組み合わせを示すことを見出された合金組成物が採用される。この組み合わせを達成可能な合金元素群が多数存在することは、これらの合金が完全には最適化されておらず、より改良された合金が存在する可能性が高いことを示している。
【0036】
超合金においては一般的に、耐酸化性を付与するためにクロム(Cr)及びアルミニウム(Al)が添加され、硫化に対する耐性を向上させるためにコバルト(Co)が添加される。耐クリープ性の為に、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、コバルト、レニウム(Re)、及び場合によってルテニウム(Ru)が導入されるが、これは、これらの元素が、クリープ変形の割合を決定する熱活性化過程(例えば、転位上昇)を阻害するためである。静的強度及び繰り返し強度を高めるために、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、及びチタン(Ti)が導入されるが、これは、これらの元素が、析出硬化相ガンマプライム(γ´)の形成を促進させるためである。この析出相は、ガンマ(γ)と呼ばれる面心立方(FCC)マトリックス相とコヒーレントである。
【0037】
本明細書においては、ニッケル基超合金の新たなグレードの特定に用いられる、モデルに基づく手法を、「合金設計」(ABD)法という用語で記載する。この手法には、非常に広範な組成領域に亘って設計関連特性を推定するための計算材料モデルのフレームワークが利用される。原則的に、この合金設計ツールにより、いわゆる逆問題が解決可能となる。すなわち、指定された設計制約を最も満足する、最適な合金組成を特定できる。
【0038】
設計過程の第1ステップは、元素表と、その元素表に付随した組成制限の上限及び下限と、を規定することである。本発明においては、「合金設計領域」と呼ばれる、各元素を添加する際の元素ごとの組成制限が考慮される。この組成制限については、表2に詳述されている。表2に、「合金設計」法を用いて調べた、質量%における合金設計領域を示す。
【0040】
第2ステップは、特定の合金組成物の相図及び熱力学的特性を計算するための、熱力学的計算に基づいて行われる。これは、CALPHAD法(CALculate PHAse Diagram)と呼ばれることが多い。これらの計算を、新しい合金の使用温度(900℃)で実施することで、相平衡(微細構造)についての情報が得られる。
【0041】
第3段階には、所望の微細構造を有する合金組成物を特定することが含まれる。クリープ変形に対する優れた耐性を必要とする単結晶超合金の場合、析出硬化相γ´の体積分率が増加するにつれてクリープ破断寿命が徐々に改良される。クリープ破断寿命が最も有益となるγ´の体積分率の範囲は、60〜70%である。γ´の体積分率が70%を超えると、耐クリープ性の低下が観察される。
【0042】
また、γ/γ´格子不整は、コヒーレンシーを失うため、正又は負のうち、いずれか小さい値に従う必要がある。したがって、制限はその値の絶対値に依存する。格子不整δは、γ相とγ´相との間の不整合として定義され、以下の式によって求められる。
【0044】
ここで、α
γ及びα
γ´は、γ相及びγ´相の格子定数である。
【0045】
不適当な微細構造に基づいた合金は、形態的最密充填(TCP)相に対する感受性の推定値によっても排斥される。本計算においてCALPHADモデリングを使用することで、有害なTCP相シグマ(σ)、Ρ及びミュー(μ)の形成が予測される。
【0046】
したがって、このモデルにより、γ´の体積分率の計算結果が所望の値となる、設計領域内における全ての組成物が特定される。これらの組成物では、γ´の格子不整が所定の絶対値未満であり、TCP相の総体積分率が所定の大きさ未満である。
【0047】
第4段階では、データセット内に残った特定された合金組成物について、メリット指数が推定される。メリット指数の例として、クリープメリット指数(平均組成のみに基づく合金の耐クリープ性を示す)、逆位相境界(APB)エネルギー、密度、及びコストが含まれる。
【0048】
第5段階では、計算されたメリット指数が所望の挙動に対する制約と比較され、これらの設計制約が、問題に対する境界条件とみなされる。境界条件を満たさないすべての組成物は排斥される。この段階において、試験データセットのサイズは非常に小さくなる。
【0049】
最後の第6段階には、残った組成物のデータセットを分析することが含まれる。この分析は、様々な方法で行われ得る。1つには、メリット指数が最大値を示す合金について、データベースを介して分類してもよい。メリット指数が最大値を示す合金とは、例えば最軽量合金、最も耐クリープ性が高い合金、最も耐酸化性が高い合金、及び最も安価な合金である。又は、その代わりに、データベースを用いて、特性の異なる組み合わせによって生じる、性能の相対的なトレードオフを求めてもよい。
【0051】
第1のメリット指数はクリープメリット指数である。最も重要な観測は、単結晶超合金の時間依存変形(即ち、クリープ)が、γ相に限られた初期活性に伴う転位クリープによって発生することである。したがって、γ´相の割合が大きくなるため、転位セグメントが急速にγ/γ´界面に固定される。律速段階は、γ/γ´界面からの、転位のトラップされた構成の離脱である。それは、クリープ特性に対して合金組成物が及ぼす重大な影響を引き起こす局所化学に依存する。
【0052】
物理学に基づいた微細構造モデルは、荷重が一軸であって<001>結晶学的方向に沿っている場合において、クリープ歪ε
・の蓄積速度に援用される。集合方程式は、以下の式である。
【0054】
ここで、ρ
mは可動転位密度、φ
pはγ´相の体積分率、ωはマトリックスチャネルの幅である。項σ及びΤはそれぞれ、作用応力及び温度である。項b及びkはそれぞれ、バーガースベクトル及びボルツマン定数である。項K
CFは、拘束係数である。
【0056】
項K
CFは、これらの合金内の立方状粒子の近接度を示す。式3は、乗算パラメータC及び初期転位密度の推定を必要とする転位乗算過程を示している。項D
effは、粒子/マトリックス界面における上昇過程を制御する有効拡散率である。
【0057】
なお、上述の内容において、組成依存性は、2つの項φ
pとD
effから生じる。したがって、微細構造が一定である(微細構造の大部分が熱処理によって制御される)と仮定すると、φ
pが固定されるため、化学組成への依存性は、D
effによって生じる。ここに説明されている合金設計モデリングの目的のために、各プロトタイプ合金組成物に対して式2及び式3の完全な積分を実施する必要がないことがわかる。代わりに、最大化が必要な、一次メリット指数M
creepが用いられる。M
creepは、以下の式で求められる。
【0059】
ここで、x
iは、合金中の溶質iの原子分率である。D
i〜は、適切な相互拡散係数である。
【0060】
第2のメリット指数は、逆位相境界(APB)エネルギーに関する。γ´相における欠陥エネルギー、例えばAPBエネルギーは、ニッケル基超合金の変形挙動に重大な影響を及ぼす。APBエネルギーの増加によって、引張強さ及びクリープ変形に対する耐性を含む機械的特性が改善することが判明している。APBエネルギーの研究は、密度汎関数理論を用いて、多くのNi−Al−X系について行われた。この研究により、γ´相のAPBエネルギーに対する三元元素の影響が計算され、複合多成分系を考慮した場合における、各三元元素の添加による影響の線形重畳が仮定された。その結果、以下の式が導かれた。
【0062】
ここで、x
Cr、x
Mo、x
W、x
Ta、x
Nb及びx
Tiはそれぞれ、γ´相におけるクロム、モリブデン、タングステン、タンタル、ニオブ及びチタンの原子%濃度を表す。γ´相における組成は、相平衡計算によって求められる。
【0063】
第3のメリット指数は、密度である。密度ρは、混合物の単純な規則及び補正係数を用いることで計算された。ここで、ρ
iは所与の元素の密度であり、x
iは合金元素の原子分率である。
【0065】
第4のメリット指数は、コストである。各合金のコストを推定するために、混合物の単純な規則を適用した。ここで、各合金のコストは、合金元素の質量分率x
iに、合金元素の現在(2015)の原材料コストc
iを掛けたものを用いた。
【0067】
この推定は、加工コストがすべての合金において同一であると仮定している。すなわち、製品収率は組成物による影響を受けない。
【0068】
上述のABD法を用いて、本発明の合金組成物を特定した。この合金の設計意図は、IGT用途に用いられるニッケル基単結晶超合金組成物の組成を最適化することであった。本発明は、IGT用途に用いられる同等の合金グレードに匹敵する耐クリープ性と、大幅に改良された耐食性と、を有することが必要であった。この合金は、大型の鋳物が必要となる用途で有利とするため、比較的低コストとなるように設計された。IGT用途の場合、燃料によって積極的な腐食損耗が生じるが、新たな合金の特性のバランスにより、この新たな合金がIGT用途に適するものとなる。最適な挙動を実現するために、設計においては、他の材料特性の制御も考慮された。他の材料特性は、例えば、密度、微細構造安定性(即ち、望ましくないTCP相をほぼ含まない状態の維持)、格子不整等である。
【0069】
IGTエンジンに用いられる典型的なニッケル基単結晶超合金の組成物の材料特性を、表3に列挙する。この材料特性は、ABD法を用いて求められた。これらの合金について列挙された、予測される特性との関連を踏まえ、新しい合金の設計が検討された。表3には、合金ABD−3についての計算された材料特性も示されている。合金ABD−3は、本発明に従う合金であって、表4に示す公称組成を有する。表3は、「合金設計」ソフトウェアによって作成された、計算された相割合及びメリット指数を示している。これは、表1に列挙された、IGT用途に用いられる単結晶タービンブレードと、表4に列挙された新しい合金ABD−3の公称組成と、を用いて計算した結果である。
【0070】
新たな合金の設計原理について、以下に説明する。
【0072】
耐クリープ性を最大とするために、合金の微細構造の最適化が必要であった。この微細構造は主に、オーステナイト面心立方(FCC)ガンマ相(γ)及び規則化されたL1
2析出相(γ´)からなる。典型的には、合金に含まれるγ´相の体積分率を60〜70%とすることで、耐クリープ性が最大となる。一方、本発明の場合においては、トレードオフのバランスを取るために、γ´の体積分率を50〜70%の範囲とすることが検討された。γ´の体積分率を最小の50%とすることで、十分な耐クリープ性が得られる。一方、以下の説明によってさらに明らかとなるように、上限とすることで、十分な耐酸化性/耐食性及び微細構造安定性が確保される。これらの特性の間のトレードオフは、
図7〜10に示されている。すなわち、耐酸化性/耐食性が向上し(クロムが添加され)、耐クリープ性が向上する(タングステン含有量及びγ´の体積分率が増加する)につれて、析出する有害なTCP相のレベルが増加する。
【0073】
合金設計領域に含まれる各元素の分配係数は、
図1に示すように、900℃で実施される相平衡計算によって求められた。分配係数が1である場合は、元素が、γ相又はγ´相に等しい優先度で分配されていることを表す。分配係数が1未満である場合は、元素が、γ´相に対する優先度を有することを表し、分配係数の値が0に近づくほど、その優先度が大きくなる。分配係数の値が1より大きくなるほど、元素はγ相内に優先的に存在するようになる。アルミニウム及びタンタルの分配係数は、これらの元素が強力なγ´形成元素であることを示している。クロム元素、コバルト元素及びタングステン元素は、γ相に分配されることが好ましい。合金設計領域内で考慮される元素では、アルミニウム及びタンタルが最も強くγ´相に分配される。したがって、アルミニウム及びタンタルのレベルは、γ´の所望の体積分率を生成するように制御された。
【0074】
図2は、ある運転温度(この場合は900℃)において、γ´相を形成するために添加された元素(主にアルミニウム及びタンタル)が合金内のγ´相の割合に及ぼす影響を示す。合金を設計するために、γ´の体積分率が50〜70%となる合金組成物が検討された。したがって、3.5〜7.0質量%のアルミニウムが必要であった。
【0075】
以下の式に従って、γ´体積分率は、アルミニウム及びタンタルの含有量が変化することによって変わる。
【0077】
ここで、f(γ´)は、所望の割合(今回においては0.5〜0.7)のγ´を有する合金における数値である。この数値は、35〜45の範囲の値である。W
Ta及びW
Alはそれぞれ、合金に含まれるタンタル及びアルミニウムの質量パーセントである。
【0078】
γ´相の逆位相境界(APB)エネルギーを増加させるためには、アルミニウム及びタンタルのレベルの最適化も必要であった。APBエネルギーはγ´相の化学的性質に強く依存する。
図3は、APBエネルギーに対するアルミニウム及びタンタルの影響を示す。これは、産業用ガスタービンの用途に適した合金が有するAPBエネルギー(〜300mJ/m
2)以上のAPBエネルギーを有する合金組成物を特定するために必要であった。合金内におけるタンタルのレベルを6.1質量%より高くすることによって、許容可能な高APBエネルギー及び非常に高い耐クリープ性を有する合金が生成されることが、モデリング計算により示された。
【0079】
以下の式に従って、APBエネルギーは、アルミニウム及びタンタルの含有量が変化することによって変わる。
【0081】
ここで、f(APB) の数値は、300mJ/m
2より高いAPBエネルギーを有する合金を製造するために、4.2以上である。望ましくは、f(APB)は5.0以上である。これにより、より高いAPBエネルギーを有する合金が得られる。
【0082】
所望の最小のTa濃度で所望のγ´体積分率を達成するために、Al添加は最大6.7質量%までに制限される(
図2)。したがって、所望のγ´体積分率と、許容可能な高APBエネルギーと、の双方を実現するために、アルミニウム濃度は3.5〜6.7質量%であることが必要である。タンタルの最大含有量は
図6を参照して以下に説明するが、タンタルの範囲は、6.1〜10.7質量%、好ましくは6.5〜10.7質量%、より好ましくは6.6〜9.4質量%である。これは、密度(以下で扱う)とAPBエネルギーとの好ましい組み合わせに起因する。すなわち、タンタルの好ましい最小レベルによって、所与のアルミニウム量においてより高いAPBエネルギーが確保されると共に、合金におけるアルミニウムの範囲内で少なくとも300mJ/m
2のレベルが確保される。
図2より、タンタルの最小レベルをより高めるために、アルミニウム濃度は4.5質量%及び4.7質量%であることが好ましいことが分かる。これにより、所望の体積分率を有するγ´が得られる。
【0083】
ニオブ(Nb)元素、チタン(Ti)元素、及びバナジウム(V)元素は、タンタルと同様の挙動を示す。すなわち、これらの元素は、逆位相境界エネルギーを増加させるγ´形成元素である。これらの元素は、必要に応じて合金に添加することができる。これらの元素は、以下の式に従うように添加されることが望ましい。
【0085】
ここで、f(APB) の数値は、300mJ/m
2より高いAPBエネルギーを有する合金を生成するために、4.2以上である。W
Ti、W
Nb、及びW
Vはそれぞれ、合金に含まれるチタン、ニオブ、及びバナジウムの質量パーセントである。
【0086】
ニオブ、チタン、又はバナジウムを添加することで、タンタルと比較して利点が生じ得る。この利点には、コスト及び密度を低くできることが含まれる。一方、これらの元素は、合金の耐環境性に悪影響を及ぼし得るため、その添加は制限されなければならない。したがって、これらの元素はそれぞれ、0.5質量%までしか含有させることができない。これらの元素は、タンタルの代わりに用いられることが好ましい。すなわち、ニオブと、チタンと、バナジウムと、タンタルと、から成る元素群の合計が、好ましくは6.1〜10.7質量%、より好ましくは6.5〜10.7質量%、さらにより好ましくは6.6〜9.4質量%に制限される。これらの範囲は、タンタルにとっての好ましい範囲である。これとは無関係に、一つの実施形態では、合金の耐環境性の低減を回避するため、ニオブ、チタン及びバナジウムからなる元素群の合計は、好ましくは1.0質量%未満、好ましくは0.5質量%未満に制限される。
【0087】
上述の要求を満たした合金においては、耐クリープ性を最大とするために、難揮発性元素のレベルを最適化する必要があった。耐クリープ性は、クリープメリット指数モデルを用いて決定された。タングステン及びコバルトが耐クリープ性に及ぼす影響を
図4に示す。クリープメリット指数の最大化は、耐クリープ性の向上に関連しているため、望ましい。タングステン及びコバルトのレベルを増加させると耐クリープ性が向上することが分かる。
【0088】
現在の第2世代単結晶合金に匹敵する耐クリープ性を有する合金を生成するためには、4.5×10
−15m
−2s以上のクリープメリット指数が必要であった(表3参照)。
【0089】
図4は、十分な耐クリープ性を付与するためには最低2.5質量%のタングステンが必要であることを示す。モデル計算により、コバルトがクリープメリット指数を増加させることが示されている。コバルトの添加によってガンママトリックス中の積層欠陥エネルギーが減少することも知られており、これにより耐クリープ性も向上する。しかしながら、コバルトのレベルが高いと、合金のクリープ異方性が、特に一次クリープで増加するため、コバルトの添加を制限する必要がある。これにより、クリープ速度が単結晶の配向に強く依存することとなる。異方性を有するクリープの量を許容可能なレベルに制御するために、コバルトの上限を、12質量%、好ましくは11質量%とする必要がある。クリープ異方性の傾向を低減できるようコバルトのレベルのさらなる低下を可能とするために、タングステンの最小濃度を3.3質量%とすることが好ましい。
【0090】
耐酸化性を増加させるために、クロムのレベルを高めることが好ましい。耐クリープ性を増加させるために、タングステンのレベルを高めることが好ましい。一方、γ´体積分率を低下させることが好ましい。γ´体積分率を低くしないと、微細構造の安定性が損なわれる(
図7〜10)可能性がある。したがって、低いγ´体積分率を補償すべく、表3に列挙された合金が有するクリープメリット指数(〜4.6×10
−15m
−2s)のいずれよりも大きいクリープメリット指数が好ましい。すなわち、4.7×10
−15m
−2s以上のクリープメリット指数を有する合金が好ましい。最大のコバルト濃度が低い値となる(11質量%)ことを許容するために、タングステンの最小レベルを4.2質量%とすることが好ましい。これにより、所望の値のクリープメリット指数が得られる。
【0091】
モリブデンは、タングステンと同様の挙動を示す。すなわち、拡散が遅いこの元素は、耐クリープ性を向上させることができる。したがって、モリブデンは少なくとも0.1質量%の量で存在することが好ましい。しかしながら、モリブデンは、合金における、有害なTCP相を形成する傾向を強める。そのため、モリブデンの添加を制御する必要がある。したがって、モリブデンは、0.5質量%までの量で存在する場合に有益となり得る。
【0092】
レニウムは、タングステンと比較して、耐クリープ性を大幅に向上させる。しかしながら、レニウムは比較的高コストであるため、合金のコストを制御するには、レニウムの使用量を制限しなければならない。Re含有量と合金コストとの相関を
図5に示す。現在の合金のコスト以下でコストを維持するために、0.5質量%まで、好ましくは0.3質量%までのレニウムを含有させる。これにより、コストへの影響が制限されつつクリープが改善される。
【0093】
好ましくは、モリブデン及び/又はレニウムがタングステンの代わりに用いられ、タングステンと、レニウムと、モリブデンと、からなる元素群の合計は少なくとも2.5%であり、好ましくは3.3質量%より高く、より望ましくは4.2質量%より高い。
【0094】
特にモリブデン(0.5質量%までの添加)及びレニウム(0.3質量%までの添加)が存在する場合にあっては、タングステンのレベルを2.5質量%まで、より好ましくは3.3質量%まで低減することができる。これは、モリブデン及びレニウムが、耐クリープ性を向上させる点でタングステンと同様の挙動を示すためである。
【0095】
(
図4に示す4.5m
−2s×10
−15の等値線の位置に基づいて計算すると、)十分な耐クリープ性を有する合金を製造するためには、合金元素であるタングステン及びコバルトの合計は、13.5質量%より高いことが好ましい。他の実施形態では、レニウム及びモリブデンがタングステンと代替可能であるため、合金元素であるタングステン、レニウム、モリブデン、及びコバルトの合計は、13.5質量%より高い。
【0096】
以下の式に従って、タングステン、レニウム、モリブデン、及びコバルトを添加することにより、耐クリープ性を良好なレベルで得られる。
【0098】
ここで、f(Creep) の数値は、計算結果が4.5m
−2s×10
−15以上となるクリープメリット指数を有する合金を製造するために、15.2以上である。W
W、W
Mo、W
Re、及びW
Coはそれぞれ、合金に含まれるタングステン、モリブデン、レニウム、及びコバルトの質量パーセントである。好ましくは、f(Creep)の数値は16.1より大きい。これにより、より優れた耐クリープ性を有する合金が得られる。
【0099】
IGT用途においては、合金密度を制限することが有利である。特に回転部品の場合、回転速度が高くなると、エンジンアセンブリに大きな応力が生じる。この応力は、密度の影響を強く受ける。表1に列挙されている合金は、表3に示すように8.0〜9.1g/cm
3の範囲の密度を有する。設計の目的は、合金密度を8.6g/cm
3までに制限し、好ましくは8.5g/cm
3以下の密度を有する合金を設計することであった。タンタル及びタングステンの密度はニッケルの密度より大きいため、タンタル及びタングステンの添加が密度に最も強い影響を与える。タンタルの所望の最小レベル(許容可能なAPBエネルギーを得るために6.1質量%)に基づいて、合金密度を8.6g/cm
3までに制限するためには、タングステンの濃度を8.3質量%以下とする必要がある。一方、タンタルの所望の最小レベル(6.1質量%)において、タングステンの好ましい最大濃度を6.4質量%までに制限することで、合金密度が8.5g/cm
3未満に制限される。8.5g/cm
3以下の密度を有する合金を製造するために、タングステンの最大含有量は5.8質量%であることが好ましい。密度を8.6g/cm
3未満とするために、タンタルの含有量は10.7質量%までに制限される。タングステンのレベルが低い場合において、密度を8.5g/cm
3未満とするために、タンタルの含有量は9.4質量%までに制限されることが好ましい。また、タングステン及びタンタルの合計を14.4質量%まで、好ましくは12.6質量%までに制限して、合金密度を制御することが好ましい(
図6を参照。
図6は、密度に対するタングステン及びタンタルの影響と、14.4質量%及び12.6質量%とそれぞれ同視し得る8.6g/cm
3及び8.5g/cm
3の等値線の位置と、を示す)。タンタルの生元素のコストが非常に高いため、タンタルを低減することでコスト上の利点が得られる。また、タンタルを高いレベルとすることで、機械的特性を悪化させ得る、有害なイータ相(Ni
3Ta)が形成される可能性がある。
【0100】
以下の式に従ってタンタル及びタングステンを添加することにより、低密度が達成される。
【0102】
ここで、f(Density) の数値は、密度が低い合金を製造するために、12.7以下である。好ましくは、f(Density)の数値は11.7未満である。これにより、より密度が低い合金が得られる。
【0103】
クリープメリット指数に対するコバルト及びタングステンの影響を考慮すると、コバルトの最小レベルは、
図4に示す、タングステンの許容可能な最大レベルに応じて選択される。タングステン添加の上限(密度を考慮した結果、8.3質量%)においては、少なくとも4.5m
−2s×10
−15のクリープ抵抗指数を得るために、コバルトの最小濃度を4.8質量%とする必要がある。好ましくは、コバルトの最小濃度は7.1質量%である。これにより、タングステンをより低いレベル(6.4質量%以下)とすることが可能となるため、密度が低く保たれる。より好ましくは、コバルトの最小濃度は7.8質量%である。これにより、タングステンをより低いレベル(5.8質量%まで)とすることが可能となるため、密度が低く保たれる。十分に高いクリープメリット指数を確保するためには、コバルトレベルの制御が必要である。これにより、許容可能な耐クリープ性を有する合金が得られる。
【0104】
長時間に亘ってクリープに対する耐性を維持するためには、拡散が遅い元素であるタングステン、コバルト、レニウム及びモリブデンの添加が有利である。また、クロムの添加は、酸化/腐食による損傷への耐性を向上させるために有利である。新たに設計された合金には、表1に列挙された合金と比較して、酸化挙動が改善されることが必要であった。このため、クロムの含有量は12.3質量%より高いことが望ましかった。この含有量は表1に記載のいずれの合金より高いが、これは、表1に記載の合金より優れた耐酸化性及び耐食性、さもなければ表1に記載の合金と同等の耐酸化性及び耐食性を得ることを目的とするものである。好ましくは、クロムの含有量は、12.5質量%、12.7質量%、又は13.0質量%より高い。この含有量は表1に列挙されているすべての合金よりはるかに高いが、これは、現在提供されている合金より優れた耐酸化性を得るためであった。
【0105】
タングステン及びクロムを高いレベルで添加することにより、望ましくないTCP相(
図7〜10)、主にσ相、Ρ相及びμ相が形成される傾向が強まることが明らかとなった。900℃での平衡状態において、新たに設計された合金が含有するTCP相は、望ましくは体積分率で1%未満であり、より好ましくは0.5%未満である。
【0106】
図7〜10には、900℃での平衡状態でγ´の割合を異なるレベルで含む合金における、TCP相(σ+μ+Ρ)の全体割合に対するクロム及びタングステンの添加による効果を示している。制限されたTCP形成の要求を合金が満たす場合においては、γ´の体積分率を増加させることにより、クロム及びタングステンの許容可能な最大濃度が制限されることがわかる。体積分率が65%より大きいγ´(
図10)を含有する合金では、所望の最小レベルのクロムを備えることは困難である。したがって、合金が含有するγ´の体積分率は65%未満であることが好ましい。すなわち、好ましい割合のγ´を有する合金を製造するためには、f(γ´)の値は33〜41の範囲になければならない。より好ましくは、50〜60%の体積分率のγ´を有する合金、すなわちf(γ´)の値が33〜39の範囲にある合金を設計する。これにより、合金に含まれるクロムの含有量をより多くできる(13質量%以上)と共に、耐クリープ性を高めるべくタングステンの含有量をより多くできる。このようなγ´の体積分率を実現するために、好ましい実施形態では、アルミニウムの最大の含有量は6.4%までに制限される。さらにより好ましくは、γ´の体積分率を50〜55%に制限する、すなわちf(γ´)の値を33〜36の範囲とする。これにより、有害なTCP相を形成することなく、合金内に含まれるクロムをさらにより多くすることができると共に、タングステン含有量をより多くすることができる。その結果、耐クリープ性と、耐酸化性/耐食性と、が最適にバランスされる。したがって、一つの実施形態では、γ´の体積分率を最も好ましいものとするために、アルミニウムの最大含有量を5.7質量%までに制限する。
図7より、形成されるTCP相の体積分率を1%未満、より好ましくは0.5%未満に制限するために、クロムが15.2質量%まで、より好ましくは14.7質量%までに制限されることが分かる。
【0107】
TCP相の形成を制限するため、好ましくは、以下の式に従ってクロム及びタングステンを添加する。
【0109】
ここで、f(TCP) の数値は、11.64以下である。W
Crは、合金に含まれるクロムの質量パーセントである。好ましくは、f(TCP)の数値は10.75未満である。これにより、TCP相形成の影響を受けにくい合金が製造される。
【0110】
γ´の体積分率の好ましい範囲(50〜60%)及びより好ましい範囲(50〜55%)を考慮すると、アルミニウム元素及びタンタル元素の合計は、好ましくは11.5〜16.0質量%、より好ましくは11.5〜15.5質量%である(
図2に基づく)。
【0111】
合金を製造する際、その合金は不可避的不純物をほとんど含まないことが有益である。この不純物には、炭素(C)、ホウ素(B)、硫黄(S)、ジルコニウム(Zr)及びマンガン(Mn)の元素が含まれ得る。炭素の濃度が100PPM以下(質量基準)に維持される場合、望ましくない炭化物相は形成されない。ホウ素の含有量は、望ましくないホウ化物相の形成を防ぐために、50PPM以下(質量基準)に制限することが望ましい。炭化物相及びホウ化物相は、γ相及びγ´相に強度を付与するために添加された、タングステンやタンタル等の元素を拘束する。したがって、炭素及びホウ素が多量に存在すると、耐クリープ性を含む機械的特性が低下する。硫黄(S)元素及びジルコニウム(Zr)元素はそれぞれ、30PPM未満及び500PPM未満(質量基準)に維持されることが好ましい。マンガン(Mn)は、不可避的不純物であり、0.05質量%(質量基準で500PPM)までに制限されることが好ましい。硫黄が0.003質量%より多く存在すると、合金が脆化し、酸化の際に形成された合金/酸化物界面に硫黄が偏析する。この偏析により、保護酸化物スケールの剥離が増加する可能性がある。ジルコニウム及びマンガンによって、鋳造過程における鋳造欠陥、例えば偏析が生じる可能性がある。そのため、ジルコニウム及びマンガンのレベルを制御する必要がある。これらの不可避的不純物の濃度が所定のレベルを超えた場合、製品収率を取り巻く問題が生じるとともに、合金の材料特性の劣化が予想される。
【0112】
合金内の不可避的不純物、特に炭素を拘束するために、ハフニウム(Hf)を0.5質量%まで、より好ましくは0.2質量%まで添加することは有益である。ハフニウムは、強力な炭化物形成材であるため、この元素を添加することは、合金内に含まれる可能性のある残留炭化不純物を拘束するのに有益である。また、ハフニウムの添加は、小傾角粒界を合金内に導入する際に有益な、さらなる結晶粒界の強化をもたらし得る。
【0113】
いわゆる「反応性元素」(ケイ素(Si)、イットリウム(Y)、ランタン(La)及びセリウム(Ce))は、0.1質量%までのレベルの添加とする。これは、Al
2O
3等の保護酸化物層の接着性を向上させるのに有益である。これらの反応性元素は、硫黄などの有害元素を「掃討」することができる。硫黄は、合金酸化物界面に偏析して酸化物と基材との結合を弱め、酸化物の剥離をもたらす。特に、ニッケル基超合金に0.1質量%までのレベルのケイ素を添加することは、酸化特性に対して有益であることが示されている。特にケイ素は合金/酸化物界面に偏析し、基材に対する酸化物の結合力を向上させる。これにより、酸化物の剥離が抑制され、結果として耐酸化性が向上する。
【0114】
このセクションにおける本発明の記載に基づき、各元素添加の広範な範囲及び好ましい範囲が規定された。これらの範囲は、表4に列挙されている。実施例の組成物―合金ABD−3―は、好ましい組成範囲から選択されたが、この合金の組成は表4に規定されている。合金ABD−3は、単結晶タービンブレード部品の製造に使用される標準的な方法に従うことが明らかとなった。この製造方法には、ABD−3の組成を有する合金の準備、インベストメント鋳造法を用いて合金を鋳造するための鋳型の準備、単結晶合金を製造するための「粒セレクター」が用いられる方向性凝固技術を使用した合金の鋳造、その後の単結晶鋳造の多段階熱処理が含まれる。表4は、新たな設計合金における組成範囲を質量%で表示している。
【0116】
合金ABD−3についての実験によって、この特許において主張すべき重要な材料特性を検証した。材料特性として主に、IGT用途に用いられる現在の単結晶合金と比較した、十分な耐クリープ性及び改善された酸化挙動を検証した。合金ABD−3の挙動を、同一の実験条件下において試験した合金PWA1483の挙動と比較した。
【0117】
表4に基づく公称組成の合金ABD−3の単結晶鋳造物を、単結晶組成物を製造する従来の方法を用いて製造した。鋳造物は、直径10mm、長さ160mmの円柱棒の形態であった。鋳造棒は、<001>方向から10°以内に配向された単結晶であることが確認された。
【0118】
鋳造された材料には、所望のγ/γ´微細構造を製造するために、一連の追加熱処理が施された。1300℃にて4時間の溶体化熱処理を行ったところ、残留した微細偏析及び共晶混合物が除去されていることが明らかとなった。合金の熱処理窓が、溶体化熱処理中の初期溶融を回避するのに十分であることがわかった。溶体化熱処理の後、合金に対して2段階の時効熱処理を施した。時効熱処理は、1段階目では1125℃で1時間行い、2段階目では870℃で16時間行った。
【0119】
完全に熱処理された単結晶棒から、ゲージ長20mm、直径4mmのクリープ試験片を機械加工した。その試験片は、<001>方向から10°以内に配向された。800〜1100℃の実験温度範囲を用いて、ABD−3合金のクリープ性能を評価した。繰り返し酸化試験は、完全に熱処理された材料に対して行われた。繰り返し酸化試験は、1000℃で、50時間にわたって2時間サイクルで行われた。
【0120】
合金ABD−3の耐クリープ性を合金PWA1483と比較するために、ラーソン・ミラーダイアグラム(Larson-Miller diagram)を使用した。
図11において、双方の合金における1%クリープ歪までの時間を比較して示す。大半のガスタービン部品は、最大限のエンジン性能を達成するために厳しい精度で製造されるため、1%歪までの時間は、重要な意味を有する。歪が低いレベル―数パーセントのオーダー―であっても、部品が取り換えられることはよくある。合金ABD−3における1%クリープ歪までの時間は、PWA1483に匹敵することが分かる。
図12では、双方の合金におけるクリープ破断までの時間を比較して示す。
図12より、合金ABD−3の破断寿命はPWA1483に匹敵することが分かる。
【0121】
合金ABD−3及び合金PWA1483の酸化挙動についても比較した。タービン温度が上昇を続ける(エンジンの熱効率が向上する)につれて、酸化等の腐食損耗に起因する部品の故障がより一般的となる。この損耗のメカニズムは特に、IGT用途と関連する。これは、IGT用途における燃料が、航空エンジン用途に用いられる燃料よりクリーンでないためである。したがって、耐酸化性/耐食性を向上させることにより、部品の寿命を大幅に進歩させることができる。合金ABD−3は、現在の第2世代合金と比較して改善された酸化挙動を有するように設計された。ABD−3及びPWA1483の繰り返し酸化の結果を、
図13に示す。時間に対して質量の増加が抑制されていることは、酸化挙動が改善された証拠である。この酸化挙動の改善は、保護酸化物スケールの形成によって酸素の基材材料への進入が制限されたことに起因する。ABD−3合金は、PWA1483と比較して、時間に対する質量の増加が大幅に抑制されていることを示しており、酸化性能が改善されていることを表している。これは、ABD−3のクロムのレベル(13.00質量%)がPWA1483のクロムのレベル(12.20質量%)より高いことによるものであると考えられ、本発明の合金に含まれるクロムのレベルが高いために酸化性能が改善されている直接的証拠である。
【0122】
全体として合金ABD−3は、PWA1483と比較して、同等のクリープ挙動を示す。この挙動を、大幅に改善された酸化挙動を有する合金を使用して達成した。すなわち、合金を、従来の製造技術に従って低コスト及び低密度としつつ、設計目標を達成した。
【0123】
ABD−3と比較して、特性を好ましいバランスで備えた合金組成物の例を以下に記載する。これらの合金の組成を、表5に示す。表5は、新たに設計された単結晶合金ABD−3の公称組成と、耐クリープ性が向上する(MC)組成と、耐酸化性が向上する(MO)組成との違い、を質量%において示している。
【0125】
合金ABD−3(MC)は耐クリープ性が向上するように設計されているが、この設計においては耐酸化性及びコストが犠牲となる。合金ABD−3(MO)は耐酸化性が向上するように設計されているが、この設計においては耐クリープ性が犠牲となる。表6において、ABD−3(MC)及びABD−3(MO)が有する特性を、公称組成を備えた合金ABD−3の特性と比較する。ABD−3(MC)合金及びABD−3(MO)合金の設計原理を以下に記載するが、記載されている変更は、ABD−3の公称組成と関連している。表6は、「合金設計」ソフトウェアによって作成された、計算された相割合及びメリット指数を示す。表6は、表5に列挙されている、新たに設計された単結晶合金ABD−3と、耐クリープ性が向上する(MC)組成の合金と、耐酸化性が向上する(MO)組成の合金との違い、における結果である。
【0127】
耐クリープ性の向上が要求される合金ABD−3(MC)においては、γ´体積分率、APBエネルギー及びクリープメリット指数の増加が必要であった。アルミニウムをより多く含有させ、チタンをいくらか添加することにより、γ´の体積分率が50%から57%に増加した。また、チタンは、γ´析出相の強度を向上させることで知られるAPBエネルギーを増加させるため、有益であった。クリープメリット指数を増加させるため、タングステン、モリブデン及びレニウムをさらに含有させた。これにより、クリープメリット指数が増加した。添加されたレニウムは、耐クリープ性に強い影響を及ぼすが、コストには悪影響を及ぼす。(上述の方法を用いて)耐クリープ性を増加させることで、クロム含有量が減少した。これにより、合金にTCP相がほぼ含まれない状態が維持される。したがって、耐クリープ性がさらに向上した一方で、耐酸化性はわずかに減少した。
【0128】
耐酸化性の向上が要求される合金ABD−3(MO)においては、クロム含有量がより多い合金組成が選択された。ハフニウム及びシリコンは酸化物スケールの接着性を向上させるため、これらの元素の添加も有益である。より低いレベルのタングステンを、より高いレベルのクロムと組み合わせて使用することで、合金にTCP相がほぼ含まれない状態が維持され得る。選択されたタングステンのレベルはABD−3より低いにも関わらず、クリープメリット指数は高いままである。これにより、優れた耐クリープ性が得られる。合金内におけるタングステンとクロムとをバランスさせることにより、合金にTCP相がほぼ含まれない状態が維持される。すなわち、耐酸化性はさらに向上した一方で、耐クリープ性が犠牲となった。