特許第6796441号(P6796441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796441
(24)【登録日】2020年11月18日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】レーザスポット溶接の評価方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20201130BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20201130BHJP
   B23K 26/22 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   B23K26/00 P
   B23K26/21 G
   B23K26/22
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-186757(P2016-186757)
(22)【出願日】2016年9月26日
(65)【公開番号】特開2018-51565(P2018-51565A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】712004783
【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 正皓
(72)【発明者】
【氏名】河田 直樹
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−229672(JP,A)
【文献】 特開2007−283398(JP,A)
【文献】 特開2008−087056(JP,A)
【文献】 特開昭60−018287(JP,A)
【文献】 特開2008−183614(JP,A)
【文献】 特開2004−330292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
B23K 26/21
B23K 26/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光の照射によって金属板の重ね合わせ部分に形成したスポット状の溶接部を評価するレーザスポット溶接の評価方法であって、
溶接時に前記溶接部に照射される前記レーザ光の反射強度を第1の時系列データとして検出する検出ステップと、
前記第1の時系列データにおけるピーク値に所定の係数を乗算した値を階級値とした前記レーザ光の反射強度のヒストグラムにおいて、前記レーザ光の反射強度が第1の閾値以下である領域に前記ヒストグラムの裾部が含まれるように前記第1の閾値を設定する閾値設定ステップと、
前記第1の時系列データにおける立ち上がり時刻から立ち下がり時刻までの時間幅に所定の係数を乗算した値を解析幅として設定する解析幅設定ステップと、
前記第1の時系列データにおける各時刻について、前記解析幅内のデータのうち前記レーザ光の反射強度が前記第1の閾値以上であるデータの個数をカウント値として算出するカウントステップと、
前記カウントステップで算出した前記カウント値についての第2の時系列データと、前記溶接部における前記金属板間の隙間が許容範囲内であるときの前記第2の時系列データとに基づいて前記溶接部における前記金属板間の隙間の大きさの可否を判定する判定ステップと、を含み、
前記閾値設定ステップでは、前記溶接部における前記金属板間の隙間が許容範囲内であるときの前記第1の時系列データを用いて前記第1の閾値を設定する、レーザスポット溶接の評価方法。
【請求項2】
前記判定ステップでは、前記第2の時系列データにおける前記カウント値の最大値に所定の係数を乗算した値を第2の閾値とし、前記第2の時系列データのうち前記カウント値が前記第2の閾値以下であるデータの個数に基づいて、前記溶接部における前記金属板間の隙間の大きさの可否を判定する、請求項1に記載のレーザスポット溶接の評価方法。
【請求項3】
前記検出ステップでは、複数の前記溶接部のそれぞれについて前記第1の時系列データを検出し、
前記カウントステップでは、複数の前記第1の時系列データのそれぞれについて前記第2の時系列データを算出する、請求項2に記載のレーザスポット溶接の評価方法。
【請求項4】
前記判定ステップでは、互いに値が異なる複数の前記第2の閾値を用いて前記溶接部における前記金属板間の隙間の大きさの可否を判定する、請求項2又は3に記載のレーザスポット溶接の評価方法。
【請求項5】
前記解析幅設定ステップでは、前記溶接部における前記金属板間の隙間が許容範囲内であるときの前記第1の時系列データを用いて前記解析幅を設定する、請求項1〜のいずれか一項に記載のレーザスポット溶接の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザスポット溶接の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板の溶接形態として、例えばレーザ光の照射によって金属板の重ね合わせ部分にスポット状の溶接部を形成するレーザスポット溶接がある。レーザスポット溶接においては、健全な溶接部を形成する観点から、溶接部における金属板間の隙間管理が極めて重要となっている。例えば、特許文献1には、溶接時に溶接部から発生する光を検出し、検出した光検出信号に基づいて溶接部の品質判定を行うことで、金属板間の隙間の大きさに起因する溶接異常を検知する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4624089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなレーザスポット溶接には、溶接品質の向上や溶接作業の効率化のために、簡易に且つ精度良く溶接部を評価できる評価方法が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、簡易に且つ精度良く溶接部を評価できるレーザスポット溶接の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレーザスポット溶接の評価方法は、レーザ光の照射によって金属板の重ね合わせ部分に形成したスポット状の溶接部を評価するレーザスポット溶接の評価方法であって、溶接時に溶接部に照射されるレーザ光の反射強度を第1の時系列データとして検出する検出ステップと、第1の時系列データにおけるピーク値に所定の係数を乗算した値を階級値としたレーザ光の反射強度のヒストグラムにおいて、レーザ光の反射強度が第1の閾値以下である領域にヒストグラムの裾部が含まれるように第1の閾値を設定する閾値設定ステップと、第1の時系列データにおける立ち上がり時刻から立ち下がり時刻までの時間幅に所定の係数を乗算した値を解析幅として設定する解析幅設定ステップと、第1の時系列データにおける各時刻について、解析幅内のデータのうちレーザ光の反射強度が第1の閾値以上であるデータの個数をカウント値として算出するカウントステップと、カウントステップで算出したカウント値についての第2の時系列データと、溶接部における金属板間の隙間が許容範囲内であるときの第2の時系列データとに基づいて溶接部における金属板間の隙間の大きさの可否を判定する判定ステップと、を含む。
【0007】
このレーザスポット溶接の評価方法では、第1の時系列データに基づくレーザ光の反射強度についてのヒストグラムにおいて、レーザ光の反射強度が第1の閾値以下である領域にヒストグラムの裾部が含まれるように第1の閾値を設定する。そして、第1の時系列データの各時刻について、解析幅内のデータのうちレーザ光の反射強度が第1の閾値以上であるデータの個数をカウントすることにより、第2の時系列データを算出する。このようにヒストグラムの裾部に対応して設定された第1の閾値を用いて算出された第2の時系列データは、溶接部における金属板間の隙間が許容範囲内である場合と許容範囲外である場合とで異なる挙動を示す。したがって、算出した第2の時系列データと、溶接部における金属板間の隙間が許容範囲内であるときの第2の時系列データとを用いることで、溶接部における金属板間の隙間の大きさの可否を判定でき、簡易に且つ精度良く溶接部を評価することが可能となる。
【0008】
また、判定ステップでは、第2の時系列データにおけるカウント値の最大値に所定の係数を乗算した値を第2の閾値とし、第2の時系列データのうちカウント値が第2の閾値以下であるデータの個数に基づいて、溶接部における金属板間の隙間の大きさの可否を判定してもよい。第2の時系列データにおいては、溶接部における金属板間の隙間が許容範囲内である場合にはカウント値が最大値の近傍で安定する傾向があるのに対し、当該隙間が許容範囲外である場合にはカウント値が小さくなる方向にばらつく傾向がある。そのため、第2の時系列データのうちカウント値が第2の閾値以下であるデータの個数に基づいて溶接部における金属板間の隙間の大きさの可否を判定することで、より簡易に且つ精度良く溶接部を評価することが可能となる。
【0009】
また、検出ステップでは、複数の溶接部のそれぞれについて第1の時系列データを検出し、カウントステップでは、複数の第1の時系列データのそれぞれについて第2の時系列データを算出してもよい。この場合、複数の溶接部についてのデータに基づいて溶接部Wを評価できるので、一層精度良く溶接部を評価することが可能となる。
【0010】
また、判定ステップでは、互いに値が異なる複数の第2の閾値を用いて溶接部における金属板間の隙間の大きさの可否を判定してもよい。この場合、複数の第2の閾値についての判定結果に基づいて溶接部を評価できるので、一層精度良く溶接部を評価することが可能となる。
【0011】
また、閾値設定ステップでは、溶接部における金属板間の隙間が許容範囲内であるときの第1の時系列データを用いて第1の閾値を設定してもよい。この場合、溶接部の評価の度に同一の第1の閾値を用いることができるので、一層簡易に且つ精度良く溶接部を評価することが可能となる。
【0012】
また、解析幅設定ステップでは、溶接部における金属板間の隙間が許容範囲内であるときの第1の時系列データを用いて解析幅を設定してもよい。この場合、溶接部の評価の度に同一の解析幅を用いることができるので、一層簡易に且つ精度良く溶接部を評価することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易に且つ精度良く溶接部を評価できるレーザスポット溶接の評価方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るレーザスポット溶接の評価方法を実現するレーザスポット溶接システムの構成図である。
図2図1のレーザ照射部及び光検出装置の拡大正面図である。
図3】判定値算出ステップの処理手順を示すフローチャートである。
図4】金属板同士が密着している場合の第1の時系列データを示すグラフである。
図5図4の第1の時系列データに基づくヒストグラムを示すグラフである。
図6図4の第1の時系列データに基づく第2の時系列データを示すグラフである。
図7】各第2の閾値についての偏差平方和を示すグラフである。
図8】隙間評価ステップの処理手順を示すフローチャートである。
図9】隙間が0.1mmである場合の第1の時系列データを示すグラフである。
図10】隙間が0.25mmである場合の第1の時系列データを示すグラフである。
図11】隙間が0.50mmである場合の第1の時系列データを示すグラフである。
図12】隙間が0.75mmである場合の第1の時系列データを示すグラフである。
図13図9の第1の時系列データに基づくヒストグラムを示すグラフである。
図14図10の第1の時系列データに基づくヒストグラムを示すグラフである。
図15図11の第1の時系列データに基づくヒストグラムを示すグラフである。
図16図12の第1の時系列データに基づくヒストグラムを示すグラフである。
図17図9の第1の時系列データに基づく第2の時系列データを示すグラフである。
図18図10の第1の時系列データに基づく第2の時系列データを示すグラフである。
図19図11の第1の時系列データに基づく第2の時系列データを示すグラフである。
図20図12の第1の時系列データに基づく第2の時系列データを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0016】
図1に示されるレーザスポット溶接システム1は、2枚の金属板2,2同士を重ね溶接するためのシステムである。溶接対象の金属板2,2は、例えば鉄道車両構体に用いられる外板パネルと骨部材である。金属板2を構成する材料としては、例えばSUS301L等のステンレス鋼が挙げられる。この例では、上側(後述するレーザ光Lの照射側)の金属板2の厚さは0.8mm程度であり、下側の金属板2の厚さは1.5mm程度である。
【0017】
レーザスポット溶接システム1は、レーザ光Lの照射によって金属板2,2の重ね合わせ部分Pにスポット状の溶接部Wを形成するレーザスポット溶接装置3と、溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間の大きさの可否を評価する隙間評価装置4と、を含んで構成されている。本実施形態では、レーザスポット溶接装置3は、重ね合わせ部分P上に設定された溶接予定線Rに沿って並ぶように、複数の溶接部Wを順次形成する。
【0018】
レーザスポット溶接装置3は、レーザ照射部11と、金属板送り部12と、を備えている。レーザ照射部11は、金属板2,2にレーザ光Lを照射する。レーザ照射部11は、金属板2,2の上方に配置されたレーザヘッド13を有している。レーザ照射部11は、レーザヘッド13の先端から金属板2,2に向けてレーザ光Lを出射させる。レーザ照射部11から出射されるレーザ光Lは、例えば、波長800〜1120nm、出力3〜5kW、パルス幅30〜50msecのパルス光である。本実施形態では、波長940nmのレーザ光Lを用いている。1パルスのレーザ光Lの照射により、1つの溶接部Wが形成される。
【0019】
金属板送り部12は、金属板2,2を移動させることによってレーザ照射部11による金属板2,2へのレーザ光Lの照射位置を走査させる。金属板送り部12は、金属板2,2を載置可能な可動ステージ14を有している。金属板送り部12は、可動ステージ14を矢印A方向に一定の速度で移動させる。これにより、可動ステージ14に載置された金属板2,2が、溶接予定線Rに沿って、レーザ照射部11によるレーザ光Lの照射位置に対して相対的に移動する。レーザ照射部11及び金属板送り部12の動作は、後述する制御部16により制御される。
【0020】
隙間評価装置4は、光検出部15と、制御部16と、を備えている。光検出部15は、溶接時に溶接部Wに照射されるレーザ光Lの反射強度を検出し、検出結果を制御部16に出力する。光検出部15は、レーザヘッド13の左右両側(溶接予定線Rと直交する方向における両側)に一対設けられている。
【0021】
図2に示されるように、各光検出部15は、例えば、光検出素子21と、バンドパスフィルタ22と、延長バレル23と、ピンホール部材24と、アッテネータ25と、保護部材26と、を有している。光検出素子21は、例えばフォトダイオードであり、受光部に入射したレーザ光Lの強度を検出し、検出したレーザ光Lの強度に対応した電圧値を制御部16に出力する。光検出素子21のサンプリング周期は、レーザ光Lのパルス幅の1/1000〜1/100程度であり、この例では0.1msecである。
【0022】
光検出素子21からレーザ光Lの照射位置Yに向かう方向において、バンドパスフィルタ22、延長バレル23、ピンホール部材24、アッテネータ25及び保護部材26は、この順に設けられ、互いに同軸に配置されている。バンドパスフィルタ22は、レーザ光Lの波長を含む所定の波長域の光のみを透過させ、当該波長域以外の光を遮断する。延長バレル23は、バンドパスフィルタ22とピンホール部材24との間の距離を調節するための筒状部材である。延長バレル23は、互いに同軸に2つ設けられている。ピンホール部材24は、所定径のピンホールを有し、当該ピンホールに入射した光のみを通過させる。アッテネータ25は、透過するレーザ光Lのうち散乱光の強度を減衰させる一方で反射光の強度を保つように機能する減衰器である。アッテネータ25は、互いに同軸に2つ設けられている。保護部材26は、例えばガラス板であり、溶接位置において発生するヒュームやスパッタ等から各部材を保護する。
【0023】
一対の光検出部15のそれぞれは、レーザヘッド13を保持する図略のホルダに固定されている。同時刻に一対の光検出部15で検出されるレーザ光Lの反射強度が互いに等しくなるように、一対の光検出部15の姿勢及び向きは調整されている。本実施形態では、一対の光検出部15は、レーザ光Lの光軸X1に関して互いに線対称となるように配置されている。図2では、一方の光検出部15が省略されている。各光検出部15の光軸X2は、レーザ光Lの照射位置Yを通っている。各光軸X2とレーザ光Lの光軸X1とのなす角は、例えば約40度となっている。
【0024】
制御部16は、例えば、CPU、メモリ、通信インタフェイス及びハードディスク等を備えたコンピュータにより構成されている。制御部16は、レーザスポット溶接システム1の各部の動作を制御する。また、制御部16は、各光検出部15から出力される電圧値を第1の時系列データとして受け取り、受け取った第1の時系列データに基づいて溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間の大きさの可否を評価する。この評価の詳細については後述する。また、制御部16は、例えば、ディスプレー等の表示部に評価結果を表示させたり、通信インタフェイスを介して評価結果を外部に送信することができる。
【0025】
続いて、レーザスポット溶接システム1により実行されるレーザスポット溶接の評価方法について説明する。このレーザスポット溶接の評価方法では、複数(この例では10個)の溶接部Wについての第1の時系列データに基づいて、それら複数の溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間の大きさの可否を一体的に判定する。このレーザスポット溶接の評価方法は、金属板2,2間の隙間の大きさが許容範囲内であるときのレーザスポット溶接に基づいて判定値を算出する判定値算出ステップと、評価対象となるレーザスポット溶接により得られたデータと当該判定値とを用いて金属板2,2間の隙間の大きさの可否を判定する隙間評価ステップと、を備えている。以下では、まず、図3のフローチャートを参照しつつ判定値算出ステップについて説明する。
【0026】
判定値算出ステップでは、まず、一対の光検出部15によって、10個の溶接部Wのそれぞれについて第1の時系列データを検出する(ステップS1)。各第1の時系列データは、例えば、金属板2,2間に隙間が無く、金属板2,2同士が密着している場合のデータである。この例では、一対の光検出部15のそれぞれで検出された電圧値の合算値を第1の時系列データとしている。図4に示されるように、これらの第1の時系列データは、略台形状部分を有する互いに類似した波形となる。各第1の時系列データにおいて、レーザ光Lの反射強度(電圧値)は、ある時刻においてゼロから急激に増加してピークを迎えた後、電圧値がピーク値の約半分程度となるまで急激に減少している。そして、一定時間徐々に減少した後、急激に減少してほぼゼロとなっている。
【0027】
続いて、それらの第1の時系列データのピーク値の平均値を平均ピーク値として算出する(ステップS2)。ステップS2以降の処理は、制御部16によって実行される。続いて、各第1の時系列データについて、レーザ光Lの反射強度が平均ピーク値の5%以下であるデータをカットする(ステップS3)。これにより、各波形のうち、立ち上がり時刻以前及び立ち下がり時刻以後のレーザ光Lの反射強度がほぼゼロである部分をカットし、溶接時に照射された1パルスのレーザ光Lに対応する略台形状部分を切り出すことができる。図4には、カット後の各第1の時系列データの例が示されている。この例では、平均ピーク値は2.5V程度である。
【0028】
続いて、各第1の時系列データについて、平均ピーク値に所定の係数を乗算した値を階級値としてレーザ光Lの反射強度のヒストグラムを作成する(ステップS4)。この係数は、例えば5〜10%程度である。この例では、階級値を0.2Vとしている。図5には、図4の各第1の時系列データから作成したヒストグラムが示されている。図5に示されるように、各ヒストグラムは、所定の階級値においてピークをとる略山型の分布となっている。
【0029】
続いて、ステップS4で作成したヒストグラムにおいて、レーザ光Lの反射強度が第1の閾値以下である領域にヒストグラムの裾部が含まれ、且つピーク部分が含まれないように第1の閾値を設定する(ステップS5)。ここで、ヒストグラムの裾部とは、山型の分布における裾に相当する部分であり、ピーク部分と比べて傾斜が緩やかな部分を意味する。例えば、図5の例では、いずれの第1の時系列データにおいても、階級値が0.6Vを超える位置において傾斜が急激に増加しており、階級値が0.6V以下の領域がヒストグラムの裾部となっている。また、第1の閾値は、レーザ光Lの反射強度が第1の閾値以上である領域に全データの例えば85〜95%が含まれるように設定されることが好ましい。
【0030】
この例では、第1の閾値を0.6Vとしている。なお、複数のヒストグラムから第1の閾値を設定する場合、例えば、第1の閾値以下である領域に各ヒストグラムの裾部が含まれるように、複数のヒストグラムの分布の形状を考慮して第1の閾値を設定してもよいし、或いは、各ヒストグラムから第1の閾値を上記のとおりに導出した上で、それらの平均値等を第1の閾値として設定してもよい。
【0031】
続いて、第1の時系列データにおける立ち上がり時刻から立ち下がり時刻までの時間幅に所定の係数を乗算した値を解析幅として設定する(ステップS6)。この例では、10個の第1の時系列データについて当該時間幅を算出し、それらの時間幅の平均値に当該係数を乗算した値を解析幅とする。この係数は、例えば10%程度である。この例では、解析幅を5msecとしている。
【0032】
続いて、第1の時系列データにおける各時刻について、解析幅内のデータのうちレーザ光Lの反射強度が第1の閾値以上であるデータの個数をカウント値として算出する(ステップS7)。より詳細には、例えば、各時刻について、当該時刻から解析幅だけ後の時刻までの区間内にレーザ光Lの反射強度が第1の閾値以上であるデータが幾つあるかをカウントする。このカウント値についての第2の時系列データは、各第1の時系列データについて算出される。
【0033】
図6には、図4の各第1の時系列データから算出された第2の時系列データが示されている。図6に示されるように、各第2の時系列データにおいて、カウント値は、立ち上がり時刻の直後に最大値である50となった後、一定区間、最大値のまま維持され、その後、急激に減少して0となっている。10個の第2の時系列データのうち幾つかの第2の時系列データにおいては、カウント値は、後半部分において値が小さくなる方向に僅かにばらついている。
【0034】
続いて、第2の時系列データにおけるカウント値の最大値(図6の例では50)に所定の係数を乗算した値を第2の閾値として設定する(ステップS8)。この例では、一例として、この係数を20%,40%,60%,80%の4つとし、第2の閾値を10,20,30,40の4つとしている。
【0035】
続いて、第2の時系列データのうちカウント値が第2の閾値以下であるデータの個数に基づいて、第2の閾値のそれぞれについて判定値を算出する(ステップS9)。より詳細には、各第2の時系列データについてカウント値が第2の閾値以下であるデータの個数を算出し、それらの個数の偏差平方和を判定値とする。例えば、この例では、第2の閾値が10である場合において、1〜10個目の第2の時系列データにおけるカウント値が10以下であるデータの個数がそれぞれ16,17,…,23個であり、それらの平均が20個である。この場合、(20−16)+(20−17)+…+(20−23)=113と偏差平方和を算出できる。同様に、第2の閾値が20,30,40である場合のそれぞれについて、約110,170,2630と偏差平方和を算出できる(図7)。
【0036】
続いて、制御部16は、平均ピーク値、階級値、第1の閾値、解析幅、各第2の閾値及び各判定値を含む計算結果を上述したメモリやハードディスク等の記憶部に記憶し、判定値算出ステップを終了する(ステップS10)。
【0037】
次に、図8のフローチャートを参照しつつ隙間評価ステップについて説明する。隙間評価ステップでは、まず、上記ステップS1と同様に、一対の光検出部15によって、10個の溶接部Wについての第1の時系列データを検出する(ステップS11)。各第1の時系列データは、評価対象となるレーザスポット溶接により得られるデータである。続いて、上記ステップS3と同様に、各第1の時系列データについて、レーザ光Lの反射強度が平均ピーク値の5%以下のデータをカットする(ステップS12)。この平均ピーク値としては、上述したステップS2で算出され、記憶部に記憶されている値を用いる。ステップS12以降の処理は、制御部16によって実行される。
【0038】
続いて、上記ステップS4と同様に、各第1の時系列データについてレーザ光Lの反射強度のヒストグラムを作成する(ステップS13)。このヒストグラムの作成に用いる階級値としては、上述したステップS4で設定され、記憶部に記憶されている階級値を用いる。続いて、記憶部に記憶されている第1の閾値を、判定値算出ステップで用いる第1の閾値として設定する(ステップS14、閾値設定ステップ)。続いて、記憶部に記憶されている解析幅を、判定値算出ステップで用いる解析幅として設定する(ステップS15、解析幅設定ステップ)。
【0039】
続いて、ステップS14,S15で設定した第1の閾値と解析幅を用い、上記ステップS7と同様に、各第1の時系列データについて第2の時系列データを算出する(ステップS16、カウントステップ)。続いて、記憶部に記憶されている4つの第2の閾値のそれぞれについて評価値を算出する(ステップS17、判定ステップ)。より詳細には、上記ステップS9と同様に、各第2の時系列データについてカウント値が第2の閾値以下であるデータの個数を算出し、それらの個数の偏差平方和を評価値とする。
【0040】
続いて、ステップS17で算出された各第2の閾値についての評価値が所定の条件を満たすか否かを判定する(ステップS18、判定ステップ)。例えば、各第2の閾値について評価値を判定値で除した値を算出し、当該値が5未満である第2の閾値が3個以上あった場合には条件を満たすと判定する。
【0041】
ステップS18の判定の結果、各第2の閾値についての評価値が条件を満たすと判定した場合にはステップS19に進み、溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間の大きさが許容範囲内であったと判定する(判定ステップ)。一方、各第2の閾値についての評価値が条件を満たさないと判定した場合にはステップS20に進み、溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間の大きさが許容範囲外であったと判定する(判定ステップ)。ステップS19,S20の実行後、隙間評価ステップを終了する。
【0042】
続いて、図4〜7、図9図20を参照しつつ、上述したレーザスポット溶接の評価方法によって溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間の可否を判定できることを説明する。図9〜20には、金属板2,2間の隙間の大きさが0.1mm,0.25mm,0.5mm,0.75mmのそれぞれである場合についての第1の時系列データ、レーザ光Lの反射強度のヒストグラム、及び第2の時系列データの例が示されている。
【0043】
また、図7には、金属板2,2同士が密着している場合の各第2の閾値についての偏差平方和に加えて、金属板2,2間の隙間の大きさが0.1mm,0.25mm,0.5mm,0.75mmのそれぞれである場合の各第2の閾値についての偏差平方和が示されている。隙間が0.1mmである場合、10,20,30,40の各第2の閾値についての偏差平方和は約90,90,100,1800である。隙間が0.25mmである場合、各第2の閾値についての偏差平方和は約3000,2400,2200,4900である。隙間が0.25mmである場合、各第2の閾値についての偏差平方和は約4500,4800,5300,4800である。隙間が0.75mmである場合、各第2の閾値についての偏差平方和は約21000,19000,18000,6000である。
【0044】
本実施形態のような重ねレーザ溶接においては、健全な溶接部Wを形成する観点から、金属板2,2間の隙間は、例えば上側の金属板2の厚さの10%程度以内であることが求められる。例えば、本実施形態のように上側の金属板2の厚さが1.5mm程度である場合、上述した4つの例のうち、隙間が0.1mmである場合は許容範囲内となる一方、隙間が0.25mm,0.5mm,0.75mmである場合は許容範囲外となる。
【0045】
図7に示されるように、いずれの第2の閾値についても、金属板2,2間の隙間が許容範囲内である場合と許容範囲外である場合との間で偏差平方和の値が大きく相違している。したがって、上述したように、隙間評価ステップにおいて算出した各第2の閾値についての評価値と、金属板2,2間の隙間の大きさが許容範囲内であるときの第1の時系列データに基づいて算出された各第2の閾値についての判定値とを比較することで、溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間の大きさの可否を判定できる。
【0046】
以上説明したように、このレーザスポット溶接の評価方法では、第1の時系列データに基づくレーザ光Lの反射強度のヒストグラムにおいて、レーザ光Lの反射強度が第1の閾値以下である領域にヒストグラムの裾部が含まれるように第1の閾値を設定する(ステップS14)。そして、第1の時系列データの各時刻について、解析幅内のデータのうちレーザ光Lの反射強度が第1の閾値以上であるデータの個数をカウントすることにより、第2の時系列データを算出する(ステップS16)。このようにヒストグラムにおける裾部に対応して設定された第1の閾値を用いて算出された第2の時系列データは、図6及び図17〜20に示されるように、溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間が許容範囲内である場合と許容範囲外である場合とで異なる挙動を示す。したがって、算出した第2の時系列データと、溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間が許容範囲内であるときの第2の時系列データとを用いることで、溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間の大きさの可否を判定でき、簡易に且つ精度良く溶接部Wを評価することが可能となる。
【0047】
また、判定ステップ(ステップS17〜S20)では、第2の時系列データにおけるカウント値の最大値に所定の係数を乗算した値を第2の閾値とし、第2の時系列データのうちカウント値が第2の閾値以下であるデータの個数に基づいて、溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間の大きさの可否を判定している。図6及び図17〜20に示されるように、第2の時系列データにおいては、溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間が許容範囲内である場合にはカウント値が最大値の近傍で安定する傾向があるのに対し、当該隙間が許容範囲外である場合にはカウント値が小さくなる方向にばらつく傾向がある。そのため、第2の時系列データのうちカウント値が第2の閾値以下であるデータの個数に基づいて溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間の大きさの可否を判定することで、より簡易に且つ精度良く溶接部Wを評価することが可能となる。
【0048】
なお、当該傾向の相違は、第2の時系列データの後半部分において特に顕著となる。これは、図4図9図12に示されるように、隙間が許容範囲外である場合には、隙間が許容範囲内である場合と比べて、第1の時系列データの後半部分においてレーザ光Lの反射強度が第1の閾値である0.6Vを下回り易い傾向があるためと考えられる。このため、図5図13図16に示されるヒストグラムにおいても、隙間が許容範囲外である場合の方が、隙間が許容範囲内である場合と比べて、階級値が第1の閾値以下である領域に含まれるデータの個数が多くなっている。
【0049】
また、検出ステップ(ステップS11)では、複数の溶接部Wのそれぞれについて第1の時系列データを取得し、カウントステップでは、複数の第1の時系列データのそれぞれについて第2の時系列データを算出している。これにより、複数の溶接部Wについてのデータに基づいて溶接部Wを評価できるので、一層精度良く溶接部Wを評価することが可能となる。
【0050】
また、判定ステップ(ステップS17〜S20)では、互いに値が異なる複数の第2の閾値を用いて溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間の大きさの可否を判定している。これにより、複数の第2の閾値についての判定結果に基づいて溶接部Wを評価できるので、一層精度良く溶接部Wを評価することが可能となる。
【0051】
また、閾値設定ステップ(ステップS14)では、溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間が許容範囲内であるときの第1の時系列データを用いて第1の閾値を設定している。これにより、溶接部Wの評価の度に同一の第1の閾値を用いることができるので、一層簡易に且つ精度良く溶接部Wを評価することが可能となる。
【0052】
また、解析幅設定ステップ(ステップS15)では、溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間が許容範囲内であるときの第1の時系列データを用いて解析幅を設定している。これにより、溶接部Wの評価の度に同一の解析幅を用いることができるので、一層簡易に且つ精度良く溶接部Wを評価することが可能となっている。
【0053】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態の判定ステップ(ステップS17〜S20)では、各第2の時系列データから算出した偏差平方和に基づいて溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間の大きさの可否を判定したが、例えば、偏差平方和を算出することなく第2の時系列データのうちカウント値が第2の閾値以下であるデータの個数自体を比較することによって当該判定を行ってもよいし、或いは、当該データの個数を算出することなく第2の時系列データ同士を直接比較することによって当該判定を行ってもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、複数の溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間の大きさの可否を判定したが、1つの溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間の大きさの可否を判定してもよい。この場合、偏差平方和の算出に代えて、例えば、第2の時系列データのうちカウント値が第2の閾値以下であるデータの個数自体を比較することによって当該判定を行えばよい。
【0055】
また、上記実施形態の閾値設定ステップ(ステップS14)では記憶部に記憶されている第1の閾値を用いたが、評価対象となるレーザスポット溶接により得られた第1の時系列データに基づいてステップS5と同様に第1の閾値を算出し、当該第1の閾値を用いてもよい。解析幅設定ステップ(ステップS15)についても同様に、評価対象となるレーザスポット溶接により得られた第1の時系列データに基づいてステップS6と同様に解析幅を設定してもよい。
【0056】
また、上記実施形態の検出ステップ(ステップS11)では、2つの光検出部15を用いて第1の時系列データを検出していたが、1つの光検出部15のみを用いてもよい。ただし、上記実施形態のように2つの光検出部15を用いた場合、一方の光検出部15が故障した場合であっても、溶接部Wにおける金属板2,2間の隙間の大きさの可否の評価を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0057】
2…金属板、L…レーザ光、W…溶接部。
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