(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導体バーの前記空洞部内に位置している箇所、および前記回転子鉄心の前記導体バーに対応する箇所の何れか一方には、軸方向の少なくとも一部に、他方に向かって突出する凸条部が形成され、
前記導体バーの前記空洞部内に位置している箇所、および前記回転子鉄心の前記導体バーに対応する箇所の何れか他方には、一方に形成されている前記凸条部を受け入れる凹部が形成されている
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の同期リラクタンス型回転電機。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の同期リラクタンス型回転電機を、図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、回転電機1の一部の構成を示すシャフト14(中心軸O)に直交する断面図である。なお、
図1では、回転電機1の1/4セクター、すなわち、1/4周の周角度領域分のみを示している。
同図に示すように、回転電機1は、略円筒状の固定子3と、固定子3よりも径方向内側に設けられ、固定子3に対して回転自在に設けられた回転子4と、を備えている。なお、固定子3および回転子4は、それぞれの中心軸線が共通軸上に位置した状態で配置されている。以下、共通軸を中心軸(回転軸線)Oと称し、中心軸Oに直交する方向を径方向と称し、中心軸O回りに周回する方向を周方向と称する。
【0012】
固定子3は、略円筒状の固定子鉄心10を有している。固定子鉄心10は、電磁鋼板を複数枚積層したり、軟磁性粉を加圧成形したりして形成することが可能である。固定子鉄心10の内周面には、中心軸Oに向かって突出し、周方向に等間隔で配列された複数のティース11が一体成形されている。ティース11は、断面略矩形状に形成されている。そして、隣接する各ティース11間には、それぞれスロット12が形成されている。これらスロット12を介し、各ティース11に電機子巻線13が巻回されている。
【0013】
図2は、回転子4を示すシャフト14の径方向からみた側面図である。
図1、
図2に示すように、回転子4は、固定子鉄心10よりも径方向内側に配置されている。回転子4は、中心軸Oに沿って延びるシャフト14と、シャフト14に外嵌固定された略円柱状の回転子鉄心15と、を備えている。
回転子鉄心15は、電磁鋼板を複数枚積層したり、軟磁性粉を加圧成形したりして形成することが可能である。回転子鉄心15の外径は、径方向で対向する各ティース11との間に、所定のエアギャップGが形成されるように設定されている。また、回転子鉄心15の径方向中央には、中心軸O方向に貫通する貫通孔16が形成されている。この貫通孔16に、シャフト14が圧入等され、シャフト14と回転子鉄心15とが一体となって回転する。
【0014】
さらに、回転子鉄心15には、1/4周の周角度領域のそれぞれに、4層の空洞部(フラックスバリア)21,22,23,24(第1空洞部21、第2空洞部22、第3空洞部23、第4空洞部24)が径方向に並んで形成されている。すなわち、最もシャフト14に近い位置(回転子鉄心15の径方向最内側)に第1空洞部21が形成され、この第1空洞部21から、シャフト14から離間する方向(径方向外側)に向かって順に第2空洞部22、第3空洞部23、第4空洞部24が並んで形成されている。そして、第4空洞部24が、シャフト14から最も離間した位置(径方向最外側)に配置されている。
【0015】
また、各空洞部21〜24は、電機子巻線13に通電した際に形成される磁束の流れに沿うように形成されている。つまり、各空洞部21〜24は、周方向の中央が最も径方向内側に位置するように(径方向内側に向かって凸形状となるように)、湾曲形成されている。これにより、回転子鉄心15には、磁束の流れ易い方向と磁束の流れにくい方向が形成される。なお、以下の説明では、中心軸O方向からみて各空洞部21,22,23,24の長手方向(
図1において、ほぼ左右方向)を、単に空洞部21,22,23,24の長手方向と称して説明する場合がある。
【0016】
ここで、本実施形態において、磁束の流れ易い方向をq軸と称する。また、q軸に対して電気的、磁気的に直交する径方向に沿った方向をd軸と称する。すなわち、各空洞部21〜24は、d軸に沿った径方向において、多層構造となる。
より詳しくは、回転子鉄心15においてq軸方向は、各空洞部21〜24によって磁束の流れが妨げられない方向をq軸と称する。すなわち、回転子鉄心15の外周面15aの任意の周角度位置に正の磁位(例えば磁石のN極を近づける)、これに対して1極分(本実施形態の場合は機械角で90度)ずれた他の任意の周角度位置に負の磁位(例えば磁石のS極を近づける)を与え、任意の位置を周方向へずらしていった場合に最も多くの磁束が流れる時の中心軸Oから任意の位置に向かう方向をq軸と定義する。そして、各空洞部21〜24の長手方向がq軸である。
【0017】
一方、各空洞部21〜24によって磁束の流れが妨げられる方向、すなわちq軸に対して磁気的に直交する方向をd軸と称する。本実施形態では、各空洞部21〜24によって、中心軸Oに近い領域と遠い領域に分離された2つの回転子鉄心部分が対向する方向に対して平行な方向がd軸である。また、本実施形態のように各空洞部21〜24が多層に形成されている場合(本実施形態では4層)、層の重なり方向がd軸である。本実施形態では、d軸は、q軸に対して電気的、磁気的に直交するのに限らず、直交する角度からある程度の角度幅(例えば機械角で10度程度)をもって交わってよい。
【0018】
このように、回転子鉄心15は、4極に構成されており、1極当り(回転子鉄心15の1/4周の周角度領域)に4層の空洞部21〜24が形成されていることになる。そして、1極とは、q軸間の領域をいう。つまり、各空洞部21〜24は、d軸上が最も径方向内側に位置するように、径方向内側に向かって湾曲形成されている。
【0019】
また、各空洞部21〜24は、中心軸O方向からみて長手方向両端が回転子鉄心15の外周部に位置するように湾曲形成されている。そして、各空洞部21〜24は、長手方向両端に近い箇所ほどq軸に沿うように、且つ長手方向中央に近い箇所ほどd軸と直交するように形成されている。
また、q軸方向において、各空洞部21〜24の長手方向両端と回転子鉄心15の外周面15aとの間には、それぞれブリッジ26,27,28,29(第1ブリッジ26、第2ブリッジ27、第3ブリッジ28、第4ブリッジ29)が形成されている。
【0020】
ここで、各空洞部21〜24のうち、第3空洞部23および第4空洞部24には、それぞれ3つの導体バー41(41a,41b,41c)が挿入されている。3つの導体バー41は、対応する空洞部23,24内に長手方向に沿って等間隔で配置されている。より具体的には、各空洞部23,24のd軸上に、3つの導体バー41のうちの1つ(導体バー41b)が配置されている。また、各空洞部23,24の長手方向両側に、それぞれ1つずつ導体バー41(導体バー41a,41c)が配置されている。各空洞部23,24の長手方向両側に配置された導体バー41a,41cは、対応するブリッジ28,29との間に所定間隔をあけて配置されている。
【0021】
導体バー41は、中心軸O方向に直交する断面形状が略矩形状で、且つ細長い板状の部材である。また、導体バー41は、例えばアルミ合金や銅合金等の非磁性で且つ導電性を有する材料により形成されている。さらに、導体バー41は、中心軸O方向両端が、それぞれ回転子鉄心15の中心軸O方向両端から突出するように形成されている。これら導体バー41の両端は、それぞれ短絡環45によって短絡されている。
【0022】
短絡環45は、回転子鉄心15から中心軸O方向両方に離間して配置された環状の部材である。短絡環45の径方向中心も中心軸Oに一致している。短絡環45は、導体バー41と同様に、非磁性で且つ導電性を有する材料により形成されている。具体的には、短絡環45の材料は、導体バー41と同じ材料で例えばアルミ合金や銅合金により形成されることが好ましい。しかしながら、これに限られるものではない。
【0023】
短絡環45の回転子鉄心15側の内面には、各導体バー41に対応する位置に、これら導体バー41が挿入可能な凹部46が形成されている。これら凹部46に各導体バー41が圧入、または挿入され、さらに融着等により短絡環45と各導体バー41とが接続固定される。
なお、短絡環45と各導体バー41の固定方法は、上記の方法に限られるものではない。例えば、短絡環45を鋳物構造とすることにより、この短絡環45の成形時に短絡環45と各導体バー41とを固定するようにしてもよい。
【0024】
また、回転子鉄心15の中心軸O方向両端には、それぞれ鉄心押さえ42が設けられている。鉄心押さえ42は、非磁性材(例えば、硬質樹脂等)により略円板状に形成されたものであって、シャフト14に対する回転子鉄心15の中心軸O方向への移動を規制したり、電磁鋼板を複数枚積層して構成される回転子鉄心15を一体化させたりする。
鉄心押さえ42の径方向中央には、シャフト14を圧入可能な貫通孔42aが形成されている。これにより、シャフト14に鉄心押さえ42が固定され、さらに、シャフト14に対する回転子鉄心15の中心軸O方向への移動が規制される。
【0025】
また、鉄心押さえ42には、導体バー41に対応する位置に、導体挿通孔42bが形成されている。この導体挿通孔42bには、対応する導体バー41が圧入されている。これにより、鉄心押さえ42に導体バー41が固定される。そして、導体挿通孔42bを介し、鉄心押さえ42の中心軸O方向両方(短絡環45側)に導体バー41が突出している。
【0026】
このような構成のもと、回転電機1を駆動する場合、固定子3の電機子巻線13に三相交流を供給する。すると、所定のティース11に磁束が形成される。そして、磁束が形成されるティース11が回転子4の回転方向(周方向)に沿って順次切り替えられる(形成される磁束が回転移動する)。
このとき、停止した状態の回転子4が固定子3側の磁束の回転移動に同期して回転するまでの非同期状態において、回転子鉄心15に設けられた導体バー41に誘導電流が生じる。つまり、各導体バー41は、二次コイルとして機能し、固定子3との間で、回転子4を回転させるための始動トルクを発生する。
【0027】
ここで、各空洞部23,24の長手方向両側に配置された導体バー41(導体バー41a,41c)は、それぞれ対応するブリッジ28,29との間に所定間隔をあけて配置されている。このため、固定子3と回転子4との間のエアギャップGで生じるトルクリップルに起因した高調波磁束が各導体バー41a,41cと鎖交しにくく、高調波二次銅損が発生しにくい。
【0028】
したがって、上述の第1の実施形態によれば、回転電機1を始動するにあたって、インバータを必要としないので、回転電機1の商品コストを低減できる。
また、上述の第1の実施形態では、回転子鉄心15の中心軸O方向両端に設けられた鉄心押さえ42に導体バー41が固定されている。このため、回転子鉄心15の各空洞部21〜24に非磁性で且つ導電性を有する導体を鋳込むことなく、空洞部21〜24の一部にのみ導体バー41を確実に固定することができる。
この結果、導体バー41を最小限に抑えることができるので、回転電機1の製造コストも低減できる。また、導体バー41を最小限に抑えつつ効率よく回転子4を回転させるための始動トルクを得ることができ、回転電機1の駆動効率を向上させることができる。
【0029】
さらに、鉄心押さえ42に導体バー41を固定するので、各空洞部23,24の長手方向両側に配置された導体バー41(導体バー41a,41c)を、それぞれ対応するブリッジ28,29との間に所定間隔をあけて配置することが可能になる。このため、回転子4の回転に寄与しない高調波磁束が導体バー41と鎖交してしまうことを、できる限り抑制しつつ、高い始動トルクを得ることが可能になる。よって、回転電機1の駆動効率を確実に向上させることができる。
【0030】
(第1の実施形態の変形例)
なお、上述の第1の実施形態では、鉄心押さえ42に導体バー41を固定するにあたり、鉄心押さえ42に形成された導体挿通孔42bに、導体バー41を圧入する場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、鉄心押さえ42に導体バー41を固定できれば、さまざまな構成を採用することが可能である。
例えば、圧入に代わって、鉄心押さえ42の導体挿通孔42bに、導体バー41を焼嵌め固定してもよい。その他、例えば以下の変形例のような構成を採用することが可能である。
【0031】
(第1の実施形態の第1の変形例)
図3は、第1の実施形態における第1の変形例の回転子4を示す側面図であって、前述の
図2に対応している。なお、前述の第1の実施形態と同一態様には、同一符号を付して説明を省略する(以下の変形例、および実施形態についても同様)。
同図に示すように、鉄心押さえ42の導体挿通孔42bの開口面積は、導体バー41の導体挿通孔42bに対応する箇所における中心軸Oに直交する断面積(以下、単に断面積という)よりも若干大きく設定されている。そして、導体挿通孔42bと導体バー41との間に形成される隙間には、固定用杭51が打ち込まれている。固定用杭51は、いわゆる楔状に形成されている。固定用杭51を打ち込むことにより、鉄心押さえ42と導体バー41とが固定される。
【0032】
したがって、本第1の変形例によれば、導体挿通孔42bや導体バー41の加工寸法を高精度に設定する必要なく、確実に鉄心押さえ42と導体バー41とを固定できる。このため、鉄心押さえ42や導体バー41の加工コストを抑えることが可能になる。
【0033】
(第1の実施形態の第2の変形例)
図4は、第1の実施形態における第2の変形例の回転子4を示す側面図であって、前述の
図2に対応している。
同図に示すように、鉄心押さえ42の外周面42cには、導体挿通孔42bの近傍に、複数のカシメ部(カシメ痕)71が周方向に沿って形成されている。各カシメ部71は、鉄心押さえ42の外周面42cをカシメることによって形成される。鉄心押さえ42の外周面42cにカシメ部71を形成することにより、導体挿通孔42bの径方向外側が僅かに押し潰された形になる。これにより、鉄心押さえ42に導体バー41がカシメ固定される。
【0034】
したがって、本第2の変形例によれば、前述の第1の変形例と同様の効果に加え、固定用杭51等の部品も必要なくなるので、鉄心押さえ42や導体バー41の加工コストをさらに抑えることが可能になる。
【0035】
(第1の実施形態の第3の変形例)
図5は、第1の実施形態における第3の変形例の回転子4を示す側面図であって、前述の
図2に対応している。
同図に示すように、鉄心押さえ42の貫通孔42aは、シャフト14の周囲を取り囲むように、且つシャフト14の外周面との間に径方向で所定の間隔K1があくように円環状に形成されている。
【0036】
そして、鉄心押さえ42の貫通孔42aには、導体挿通孔42bの近傍に、複数のカシメ部(カシメ痕)72が周方向に沿って形成されている。各カシメ部72は、鉄心押さえ42の貫通孔42aをカシメることによって形成される。鉄心押さえ42の貫通孔42aにカシメ部72を形成することにより、導体挿通孔42bの径方向内側が僅かに押し潰された形になる。これにより、鉄心押さえ42に導体バー41がカシメ固定される。
【0037】
なお、本第3の変形例では、鉄心押さえ42にシャフト14が圧入されないので、シャフト14に鉄心押さえ42が固定されていない。しかしながら、回転子鉄心15は中心軸O方向両側から鉄心押さえ42に挟持された形になり、さらに、鉄心押さえ42と導体バー41とが固定されている。このため、電磁鋼板を複数枚積層して構成される回転子鉄心15であっても、この回転子鉄心15が分解してしまうことがない。また、本第3の変形例のような鉄心押さえ42を用いる場合、シャフト14に回転子鉄心15を圧入等により固定すればよい。
したがって、本第3の変形例によれば、前述の第2の変形例と同様の効果を奏することができる。
【0038】
なお、上述の第2の変形例では、鉄心押さえ42の外周面42cにカシメ部71を形成し、上述の第3の変形例では、鉄心押さえ42の貫通孔42aにカシメ部72を形成した場合について説明した。しかしながら、鉄心押さえ42に2つのカシメ部71,72を形成してもよい。このように構成することで、鉄心押さえ42への導体バー41の固着力をさらに高めることができる。
【0039】
(第1の実施形態の第4の変形例)
図6は、第1の実施形態における第2の変形例の導体バー41の中心軸O方向端部の概略構成図であって、(a)、(b)はそれぞれ導体バー41の異なる変形例を示す。
導体バー41の中心軸O方向端部には、端部に向かうに従って徐々に先細りとなる先細り部52が一体成形されている。先細り部52は、
図6(a)に示すように、一辺のみが傾斜して先細りになっていてもよいし、
図6(b)に示すように、対向する二辺が傾斜して先細りになっていてもよい。
【0040】
ここで、導体バー41に先細り部52が一体成形されている場合において、鉄心押さえ42の導体挿通孔42bの開口面積は、導体バー41の空洞部23,24に挿通されている箇所であるバー本体43の断面積よりも小さく設定されている。また、導体挿通孔42bの開口面積は、先細り部52の先端52aにおける断面積よりも大きく設定されている。
【0041】
このような構成のもと、鉄心押さえ42の導体挿通孔42bに導体バー41を挿入する際、導体挿通孔42bの開口面積が先細り部52の先端52aの断面積よりも大きいので、導体挿通孔42bに先細り部52をスムーズに挿入させることができる。そして、そのまま導体挿通孔42bにさらに導体バー41を差し込むことにより、導体挿通孔42bにスムーズに導体バー41を圧入できる。
したがって、本第4の変形例によれば、回転子4の組立作業を容易化できる。
【0042】
(第1の実施形態の第5の変形例)
図7は、第1の実施形態における第3の変形例の導体バー41を示すシャフト14の径方向からみた一部拡大側面図である。
図8は、
図7のA−A線に沿う断面図である。
図7、
図8に示すように、鉄心押さえ42に導体バー41を固定するにあたり、鉄心押さえ42から中心軸O方向に突出した導体バー41に捩じり部53を形成してもよい。捩じり部53は、導体バー41を軸方向回りに捩じることにより形成される。このように構成することで、導体挿通孔42bの向きに対する捩じり部53の断面形状の向きがずれる。このため、鉄心押さえ42からの導体バー41の抜け方向が規制されるので、鉄心押さえ42に導体バー41を固定することができる。
【0043】
(第1の実施形態の第6の変形例)
図9は、第1の実施形態における第6の変形例の回転子鉄心15の一部の構成を示すシャフト8に直交する断面図であって、前述の
図1に対応している。
同図に示すように、回転子鉄心15の導体バー41が配置されている箇所に、それぞれ各空洞部23,24に臨む突出部31を形成してもよい。そして、これら突出部31によって、それぞれ導体バー41を挟持するように構成してもよい。このように構成することで、各空洞部23,24内に導体バー41をより強固に固定できる。
【0044】
なお、本第6の変形例では、回転子鉄心15の導体バー41が配置されている箇所のそれぞれに突出部31を形成する場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、任意の導体バー41が配置されている箇所のみに突出部31を形成し、突出部31によって任意の導体バー41のみを挟持するように構成してもよい。
【0045】
(第1の実施形態の第7の変形例)
図10は、第1の実施形態における第7の変形例の回転子鉄心15の一部の構成を示すシャフト8に直交する断面図であって、前述の
図1に対応している。
同図に示すように、各導体バー41には、各空洞部23,24内に位置している箇所に、中心軸O方向全体に渡って凸条部73が形成されている。凸条部73は、導体バー41の厚さ方向両面のうちの一方の面(
図10におけるシャフト14側の面)に、導体バー41の厚さ方向に突出している。換言すれば、凸条部73は、各空洞部23,24に臨むように突出形成されている。
【0046】
一方、回転子鉄心15には、各凸条部73に対応する位置に、この凸条部73を受け入れる凹部74が中心軸O方向全体に渡って形成されている。つまり、各凹部74に、それぞれ対応する凸条部73が嵌り込む。
したがって、本第7の変形例によれば、各空洞部23,24内に導体バー41をより強固に固定できると共に、各空洞部23,24内における導体バー41の位置を精度よく決定させることができる。
【0047】
なお、本第7の変形例では、導体バー41の厚さ方向両面のうちの一方の面(
図10におけるシャフト14側の面)に、凸条部73が突出形成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、導体バー41の厚さ方向両面に、それぞれ凸条部73を形成してもよい。この場合、回転子鉄心15に、各凸条部73を受け入れる凹部74を形成すればよい。
【0048】
また、本第7の変形例では、各導体バー41に形成された凸条部73が、各空洞部23,24内に位置している箇所の中心軸O方向全体に渡って形成されている場合について説明した。また、回転子鉄心15に形成されている凹部74は、凸条部73の形状に対応するように、中心軸O方向全体に渡って形成されている場合について説明した。しかしながら、これらに限られるものではなく、回転子鉄心15の中心軸O方向の長さよりも凸条部73の長さを短く設定してもよい。また、この長さの短い凸条部73を、中心軸O方向に沿って複数並べてもよい。この場合、回転子鉄心15に形成される凹部74の形状は、凸条部73の形状に対応するように形成すればよい。
【0049】
さらに、各導体バー41に凸条部73を形成し、回転子鉄心15に凹部74を形成するのに限られるものではなく、凸条部73と凹部74を逆に形成してもよい。すなわち、回転子鉄心15に導体バー41に向かって突出する凸条部73を形成し、導体バー41に凹部74を形成してもよい。
【0050】
また、上述の第1の実施形態では、各空洞部21〜24のうち、第3空洞部23および第4空洞部24に、それぞれ3つの導体バー41(41a,41b,41c)が挿入されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、任意の空洞部21〜24に導体バー41を挿入してよい。但し、少なくとも任意の空洞部21〜24の長手方向両側に対応するブリッジ26〜29との間に所定間隔をあけて導体バー41を配置する。これにより、各導体バー41が二次コイルとして適正に機能し、固定子3との間で、回転子4を回転させるための始動トルクを発生させることができる。
【0051】
(第2の実施形態)
次に、
図11、
図12に基づいて、第2の実施形態について説明する。
図11は、第2の実施形態における回転子鉄心215の一部の構成を示すシャフト8に直交する断面図である。
同図に示すように、第2の実施形態における回転子鉄心215には、空洞部23,24にそれぞれ導体バー41が挿入されておらず、この導体バー41に代わって導体241が鋳込まれている。この点、前述の第1の実施形態と相違する。
【0052】
回転子鉄心215の各空洞部21〜24には、各々長手方向両側に対応するブリッジ26〜29との間に所定間隔をあけて仕切りブリッジ61〜64が形成されている。これら仕切りブリッジ61〜64により、各空洞部21〜24が仕切られる。そして、各空洞部21〜24の長手方向両側に、それぞれ鋳込みスペース66〜69が形成される。これら鋳込みスペース66〜69に、導体241が鋳込まれている。導体241は、前述の第1の実施形態と同様に、例えばアルミ合金や銅合金等の非磁性で且つ導電性を有する材料により形成されている。
【0053】
次に、
図12に基づいて、導体241の成形方法について説明する。
図12は、回転子鉄心215と導体241の分解斜視図である。
同図に示すように、各空洞部21〜24に形成された鋳込みスペース66〜69に導体241を鋳込む際、回転子鉄心215に中心軸O方向端部にマスクプレート80を配置する。
【0054】
マスクプレート80は、回転子鉄心215の仕切りブリッジ61〜64よりも径方向内側(貫通孔16側)を閉塞するように平面視略四角形状に形成された板材である。すなわち、マスクプレート80は、各辺が対応する仕切りブリッジ61〜64に沿うように略四角形状に形成されている。これにより、各空洞部21〜24のうち、鋳込みスペース66〜69以外がマスクプレート80によって閉塞される。
また、マスクプレート80には、回転子鉄心215の貫通孔16に対応する位置に、貫通孔80aが形成されている。この貫通孔80aの内径は、回転子鉄心215の貫通孔16の内径とほぼ同一に設定されている。
【0055】
続いて、回転子鉄心215にマスクプレート80を配置した状態で、回転子鉄心215の鋳込みスペース66〜69に溶融された導体241を流し込む。この際、各空洞部21〜24は、マスクプレート80によって鋳込みスペース66〜69以外が閉塞されているので、この鋳込みスペース66〜69以外の空洞部21〜24に、導体241が漏れてしまうことが防止される。
【0056】
続いて、回転子鉄心215の中心軸O方向両端に、略円環状の短絡環81を形成する。この短絡環81は、導体241と同じ材料により金型等で成形される。短絡環81は、導体241に対応する位置に形成され、径方向内側にマスクプレート80と同一形状の四角形状の開口部81aが形成される。短絡環81は、各導体241の中心軸O方向端部と接続される。これにより、短絡環81を介して各導体241が短絡される。
そして、導体241および短絡環81が冷却硬化された後、マスクプレート80を取り外す。これにより、導体241の成形が完了する。
【0057】
したがって、上述の第2の実施形態によれば、各空洞部21〜24に仕切りブリッジ61〜64を設けることにより、各空洞部21〜24に導体241を鋳込む場合であっても空洞部21〜24全体が導体241で満たされてしまうことを防止できる。このため、導体241の材料コストを低減できる。
【0058】
(第2の実施形態の変形例)
なお、上述の第2の実施形態では、金型等により短絡環81を形成した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、例えばアルミ合金や銅合金等の非磁性で且つ導電性を有する板材にプレス加工を施して短絡環81を形成してもよい。そして、この短絡環81を導体241と接合するように構成してもよい。このように構成することで、短絡環81を形成する際に金型等が必要なくなり、設備コストを低減できる。
【0059】
また、上述の第2の実施形態では、仕切りブリッジ61〜64による各空洞部21〜24の仕切り範囲が、全体として中心軸O方向からみて略四角形状になっている場合について説明した。さらに、上述の第2の実施形態では、仕切りブリッジ61〜64に対応して形成されるマスクプレート80が、中心軸O方向からみて略四角形状に形成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、仕切りブリッジ61〜64による各空洞部21〜24の仕切り範囲、およびマスクプレート80の形状は、任意に設定することが可能である。
【0060】
また、上述の第2の実施形態では、仕切りブリッジ61〜64により形成された鋳込みスペース66〜69に、導体241を鋳込む場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、鋳込みスペース66〜69に前述の第1の実施形態における導体バー41を配置してもよい。このように構成した場合であっても、各空洞部21〜24の所望の箇所に、導体バー41を配置固定することができる。
さらに、各空洞部21〜24のそれぞれに仕切りブリッジ61〜64を設けなくてもよく、任意の空洞部21〜24に仕切りブリッジ61〜64を形成し、これによって形成された鋳込みスペース66〜69に導体241を成形すればよい。
【0061】
(第3の実施形態)
次に、
図13、
図14に基づいて、第3の実施形態について説明する。
図13は、第3の実施形態における回転子鉄心315の一部の構成を示すシャフト8に直交する断面図である。
図14は、第3の実施形態における回転子304を示すシャフト14の径方向からみた側面図である。
図13、
図14に示すように、第3の実施形態における回転子鉄心315には、各空洞部21〜24内に導体バー41が挿入されておらず、これに代わって回転子鉄心315の空洞部21〜24を避けた位置に貫通孔17(17a〜17l)が形成されている。そして、これら貫通孔17に、導体バー341が設けられている。この点、前述の第1の実施形態と相違する。
【0062】
より具体的には、回転子鉄心315には、d軸上において第4空洞部よりも回転子鉄心315の外周面315a寄りに、貫通孔17aが形成されている。また、回転子鉄心315には、各空洞部21〜24の間に、それぞれ3つずつ貫通孔17b〜17jが形成されている。さらに、第1空洞部21とシャフト14が挿通される貫通孔16との間には、q軸側にそれぞれ2つの貫通孔17k,17lが形成されている。
【0063】
各貫通孔17a〜17lは、回転子鉄心315の中心軸O方向に沿って貫通されており、その中心軸Oに直交する断面形状は、略矩形状になっている。また、各貫通孔17a〜17lのうち、各空洞部21〜24の間に形成された貫通孔17b〜17jは、各空洞部21〜24の長手方向に沿って等間隔で配置されている。つまり、回転子鉄心315のd軸上に、それぞれ1つずつ貫通孔17c,17f,17iが配置されている。また、回転子鉄心315の外周面315a寄りに、それぞれ1つずつ貫通孔17b,17d,17e,17g,17h,17jが配置されている。
【0064】
このように形成された各貫通孔17a〜17lに、それぞれ導体バー341が挿入されている。導体バー341は、回転子鉄心315の磁束が通る経路上に配置されることになるので、磁束の流れを妨げることない磁性体で且つ導電性を有する材料により形成されている。例えば、導体バー341は、鉄やパーメンジュール等の高透磁率材料により形成されていることが望ましい。また、導体バー341は、各貫通孔17a〜17lの断面形状とほぼ同一の断面形状となるように略矩形状に形成されている。そして、導体バー341は、各貫通孔17a〜17lに対して隙間なく配置されている。さらに、導体バー341は、中心軸O方向両端が、それぞれ回転子鉄心315の中心軸O方向両端から突出するように形成されている。
【0065】
ところで、各貫通孔17a〜17lは、導体バー341が挿入されない状態では、各空洞部21〜24と同様に機能する。しかしながら、各貫通孔17a〜17lに導体バー341を挿入することにより、これら導体バー341と回転子鉄心315とが一体となり、導体バー341が磁気障壁となることがない。
【0066】
各導体バー341の両端は、それぞれ回転子鉄心315の中心軸O方向両端に設けられた鉄心押さえ342に接合されて短絡されている。この鉄心押さえ342も導体バー341と同様に、磁性体で且つ導電性を有する材料により形成されている。
【0067】
鉄心押さえ342には、各導体バー341に対応する位置に、それぞれ導体挿通孔342bが形成されている。これら導体挿通孔342bに、対応する導体バー341が圧入固定されている。なお、鉄心押さえ342に導体バー341を固定するにあたり、圧入に代わって導体挿通孔342bに導体バー341を焼嵌め固定してもよい。その他、前述の実施形態および変形例のように、固定用杭51を用いたり各導体バー341の両端部を捩じったりして固定してもよい。
【0068】
このような構成のもと、各導体バー341は鉄心押さえ342と共に二次コイルとして機能し、固定子3(
図13、
図14では不図示)との間で、回転子304を回転させるための始動トルクを発生する。
【0069】
したがって、上述の第3の実施形態によれば、前述の第1の実施形態と同様、回転子304を始動するにあたってインバータを必要としないので、商品コストを低減できると共に、駆動効率を向上させることができる。
また、停止した状態の回転子304が固定子3側の磁束の回転移動に同期して回転するまでの非同期状態において、回転子鉄心315に設けられた導体バー341に誘導電流が生じる。この誘導電流は、導体バー341の周辺部を磁気飽和させる。この磁気飽和により、q軸磁路の磁気抵抗が高くなり、突極比が小さくなる。
【0070】
一方、回転子304の始動時(固定子3側の磁束の回転移動速度に対して回転子304の回転速度が遅い場合)には、回転子304の突極性に起因した逆相電流が流れる。そして、回転子304の回転数が同期速度の1/2以上となる回転数では、始動トルクを妨げる方向にトルクを発生させる。これに対し、回転子鉄心315に導体バー341を設けると、始動時の突極比が小さくなる。
このため、逆相電流が緩和され、始動トルクの低下を抑えることができる。なお、同期運転時には、導体バー341には電流が殆ど発生しないので、突極比が低下することなく、トルク特性や力率等が低下しない。
【0071】
なお、上述の第3の実施形態では、回転子鉄心315の空洞部21〜24を避けた、あらゆる位置に導体バー341を設けることが可能であるが、回転子鉄心315の外周面315aに近い位置に、導体バー341を設けることが望ましい。但し、導体バー341に不所望な高調波電流が流れない好適な距離で、回転子鉄心315の外周面315aから内側に所定間隔をあけて導体バー341を配置することが望ましい。
【0072】
また、上述の実施形態では、回転子鉄心15,215,315には、1/4周の周角度領域のそれぞれに(1極当りに)、4層の空洞部21〜24が形成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、4層以上の複数層の空洞部が形成されていてもよい。空洞部が4層以上形成されている場合であっても、任意の空洞部に導体バー41を挿入したり導体241を成形したりすればよい。
【0073】
さらに、上述の実施形態では、各空洞部21〜24は、周方向の中央が最も径方向内側に位置するように(径方向内側に向かって凸形状となるように)、湾曲形成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、各空洞部21〜24は、径方向内側に向かって凸形状に形成されていればよい。すなわち、各空洞部21〜24が湾曲形成されていなくてもよい。
また、上述の実施形態では、回転子鉄心15,215,315は、4極に構成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、回転子鉄心15,215,315を4極以上で構成してもよい。
【0074】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、回転電機1を始動するにあたって、インバータを必要としないので、回転電機1の商品コストを低減できる。なお、インバータを用いて回転電機1を始動させることも当然可能である。
また、回転子鉄心15の空洞部21〜24の一部にのみ、導体バー41および導体241を固定することができる。このため、回転電機1の製造コストも低減できる。また、導体バー41および導体241を最小限に抑えつつ効率よく回転子4を回転させるための始動トルクを得ることができ、回転電機1の駆動効率を向上させることができる。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。