特許第6796486号(P6796486)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アーバイン サイエンティフィック セールス カンパニー インコーポレイテッドの特許一覧

<>
  • 特許6796486-胚の培養方法および培地 図000010
  • 特許6796486-胚の培養方法および培地 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796486
(24)【登録日】2020年11月18日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】胚の培養方法および培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/073 20100101AFI20201130BHJP
   A61K 35/54 20150101ALI20201130BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20201130BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   C12N5/073
   A61K35/54
   A61P15/08
   C12N1/00 G
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-525468(P2016-525468)
(86)(22)【出願日】2014年7月9日
(65)【公表番号】特表2016-523563(P2016-523563A)
(43)【公表日】2016年8月12日
(86)【国際出願番号】US2014046051
(87)【国際公開番号】WO2015006509
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2017年7月3日
【審判番号】不服2019-11151(P2019-11151/J1)
【審判請求日】2019年8月23日
(31)【優先権主張番号】61/844,345
(32)【優先日】2013年7月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516008497
【氏名又は名称】フジフイルム アーバイン サイエンティフィック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ギルバート,レベッカ
(72)【発明者】
【氏名】ニー,シャオ‐シュ
(72)【発明者】
【氏名】ホワン,シュ‐フォン
【合議体】
【審判長】 長井 啓子
【審判官】 大久保 智之
【審判官】 高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−525818(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0082062(US,A1)
【文献】 Fertility and Sterility,2012年12月,98, 6,1481−1489
【文献】 South African Journal of Obsterics and Gynaecology.,2007年,13, 2,52−58
【文献】 Journal of Assisted Reproduction and Genetics,1996年,13,9,722−725
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N5
CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト胚をインビトロで培養する方法であって、
(a)1mMの出発乳酸塩濃度及び2mM未満かつ0mMを超えるグルコース濃度を含み、血清を含まない培地であって、連続型培地であるか前記胚の培養の最中に少なくとも一度補充される培地である、培地を提供することと、
(b)前記培地でヒト胚を培養することと
を含む、方法。
【請求項2】
インキュベーターで前記胚を培養することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記インキュベーターが、培養の最中に前記胚の1つまたは複数の画像を撮影するための撮像システムを備える、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記1つまたは複数の画像を、前記胚を移動させることなく撮影できる、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記培地が、グルコースもしくはリン酸塩を含むかもしくは含まないHTF(ヒト卵管液培地)、HTF改変培地、Whitten’s培地、Ham’s F−10培地、またはKSOM培地のいずれかの改変版であり、タンパク質の補充が行われても、または行われなくてもよい、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記胚が、不妊症に罹患しているかまたは不妊治療を受けている患者由来である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記胚を、1日〜7日間培養する、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記胚を、3日間〜6日間培養する、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記胚を、8細胞期または胚盤胞期に達するまで培養する、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記胚が女性の患者に移植するためのものである、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ヒト胚を培養するための組成物であって、1mMの乳酸塩濃度、2mM未満かつ0mMを超えるグルコース濃度を有するよう改変した胚培養培地を含み、前記胚培養培地が血清を含まず、前記胚培養培地が連続型培地であるか前記胚の培養の最中に少なくとも一度補充される培地である、組成物。
【請求項12】
前記培地がヒト血清アルブミンをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つの追加的なエネルギー基質をさらに含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記エネルギー基質がピルビン酸塩である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記ピルビン酸塩が約1.0mM〜約3mMの濃度で組成物中に存在する、請求項14に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する特許出願の相互参照
本願は、表題「EMBRYO CULTURE METHODS AND MEDIA」の2013年7月9日に出願した米国特許仮出願第61/844,345号から優先権を主張するものであり、この文献全体は参照により本明細書中に援用される。
【背景技術】
【0002】
技術分野
本願は、全体的に胚の培養のための方法および組成物に関する。具体的に、本方法および組成物は、全体的に、胚の発達に有益であると従来では認識されていない量の乳酸塩を有する培地およびこの培地を使用する方法に関する。
【0003】
関連技術の説明
不妊症は、概して、1年の避妊をしない性交などのいくらかの期間の後に妊娠することができなくなることを指す。米国の女性の約6%が不妊症を経験していると推定されている。英国では、カップルの約14%が生殖能力の問題を経験していると示唆されるとの報告がいくつかある。生殖能力の欠如は、いずれかの性、または男性および女性の両方に原因がある可能性がある。多くの要因のいずれも、不妊症の一因または不妊症の主な原因となり得る。このような要因として、DNAの損傷、遺伝的要因、いずれかのパートナーの健康もしくは他の疾患要因、毒素、免疫系の問題、ホルモンおよび他の内分泌因子、ウイルスまたは他の微生物により引き起こされる感染症などが挙げられる。
【0004】
体外受精(IVF)は、それがなければ不妊であり得るカップルの妊娠の成功を支援するための一手法である。IVFは、母親由来の卵を体外またはインビトロで精子により受精させる工程である。多くの場合成功しているが、IVF法は、技術および方法の改善により利益があるとされる。本明細書中に記載の一部の実施形態は、IVFおよび細胞培養の方法を改善することができる、胚を培養するための改善された方法および組成物に関連する。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、ヒト胚の培養およびIVFのプロトコルでこれまで利用されていなかった範囲内の乳酸塩濃度を有する培地中で胚を培養することが、胚の発達の改善およびより健康な胚をもたらすことができるとの驚くべき発見に基づくものである。
【0006】
一実施形態では、インビトロでヒトの胚を培養する方法であって、3mM未満の出発乳酸塩濃度を含む培地を提供することと、上記培地でヒト胚を培養することとを含む、方法を本明細書中に開示する。好ましい実施形態では、乳酸塩濃度は、0mM〜3mM、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲である。
【0007】
培地は、哺乳類の胚の培養に適したいずれの培地であってよい。一部の実施形態では、乳酸塩の量は、哺乳類の胚の母親の生殖器系に存在する量よりも少なくすることができる。好ましい実施形態では、培地は、ヒト胚の培養に適した培地である。一実施形態では、培地は、絶滅危惧種由来の胚の培養に適した培地である。一実施形態では、培地は、家畜種由来の胚の培養に適した培地である。一実施形態では、胚は、不妊症に罹患しているか、または不妊治療を受けている患者由来である。
【0008】
一実施形態では、培地は、複合組織培養培地である。好ましい実施形態では、培地は、エネルギー物質を添加した単純な塩溶液である。別の好ましい実施形態では、培地は連続型培地である。
【0009】
一実施形態では、培地は、以下のContinuous Single Culture(商標)培地(Irvine Scientific)、任意のGlobal(登録商標)培地(LifeGlobal)、G1培地(Vitrolife)、G2培地(Vitrolife)、グルコースまたはリン酸塩を有するか、または有さないHTF(ヒト卵管液)培地、Whitten’s培地、Ham’s F−10培地、Sage培地のいずれかの改変版であり、タンパク質補充物質を含んでも、含まなくてもよい。一実施形態では、この培地は、これまで公表または商業化されていない新規の培地である。
【0010】
一実施形態では、培地は、胚発達の最中の異なる細胞期で異なる培地に交換することを必要とする連続型培地である。一実施形態では、培地は、胚の培養の最中少なくとも一度補充される単一の非連続型または非中断型培地である。一実施形態では、培地は、胚の培養の最中に補充されない持続型の培地である。
【0011】
一実施形態では、胚は、インキュベーターで培養する。一実施形態では、このインキュベーターは、培養の最中に胚の1つまたは複数の画像を撮影するための撮像システムを備える。一実施形態では、1つまたは複数の画像は、胚を移動させることなく撮影できる。
【0012】
一実施形態では、胚を、約1日間〜約7日間培養する。好ましい実施形態では、胚を、約3日間〜約6日間培養する。一実施形態では、胚が8細胞期または胚盤胞期に達するまで培養する。
【0013】
一実施形態では、胚を、女性患者に移植する。一実施形態では、胚を冷凍保存する。
【0014】
さらに本発明は、約3mM未満の濃度の乳酸塩を有するように改変した胚培養培地を含む、ヒトの胚を培養するための組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】2つの異なる培地組成(プロトタイプAおよびContinuous Single Culture培地‐完全型[CSCM−C])に1mMまたは少なくとも5mMのL−乳酸塩を添加して6日間培養後に、拡大してハッチングした胚盤胞期のウシ胚のパーセンテージを表す。
図2】1mMまたは5mMの乳酸塩含有培地で2日、3日、および7日間培養後のウシ胚によるグルコース消費を表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本説明を読了した後に、様々な代替的な実施形態および代替的な応用で本発明を実施する方法が当業者に明らかとなる。しかしながら、本発明の多様な実施形態が全て本明細書中に記載されるものではない。本明細書中に提示された実施形態は、単なる例示として用いられ、限定するものでないことが理解される。このように、様々な代替的な実施形態の詳細な説明は、以下に記載される本発明の範囲または幅を限定するよう解釈されるものではない。
【0017】
本発明を開示および記載する前に、以下に記載される態様は、特定の組成物、当該組成物の調製方法、またはその使用に限定されるものではなく、当然変動するものとして使用することが理解される。同様に、本明細書中に使用される技術は、特定の態様を説明することのみを目的とし、限定を意図するものではない。
【0018】
特段定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての技術的および化学的な用語は、本発明に係る当業者の1人により一般に理解される意味と同一の意味を有する。
【0019】
次に続く本明細書および特許請求の範囲では、以下の意味を有するとして定義される多くの用語を参照する。
【0020】
本明細書中使用される用語は、特定の実施形態を記載することのみを目的とし、本発明を限定すると意図するものではない。本明細書中で使用されるように、単数形「a」、「an」、および「the」は、特段明確に別の記載がない限り、複数形をも含むものと意図される。
【0021】
「任意の」または「任意に」は、後に続く事象または状況が起こってもよくまたは起こらなくてもよく、この記載が、事象または状況が起こる例と事象または状況が起こらない例とを含むことを意味する。
【0022】
用語「〜を含む」は、組成物および方法が記載される要素を含むが、他を排除するものではないことを意味するよう意図される。組成物および方法を定義するために使用される場合の「本質的〜からなる」は、組み合わせに対して本質的に重要な他の要素を排除することを意味する。たとえば本明細書中に定義される要素から本質的になる組成物は、請求される本発明の基本かつ新規の特徴に実質的な影響を及ぼさない他の要素を除外するものではない。「〜からなる」は、列挙された微量の他の成分および実質的な方法ステップを超えるものを除外することを意味する。これらの移行用語のそれぞれにより定義された実施形態は本発明の範囲内である。
【0023】
体外受精(IVF)は、実験室の培養皿において、母体の体外で精子と卵(卵母細胞)の受精を行う工程である。受精卵または胚は、通常、一定期間、または望ましい発生段階に達するまでインビトロで培養される。たとえば、一部の胚は、胚が6〜8つの細胞に達するまで、または胚盤胞期に達するまで培養する。一方で、胚を、たとえば5日または6日などの期間培養してもよい。望ましい培養を達成した後に、胚の選別および胚の移植を行い、それによって胚が選別されて、女性の患者の子宮に移植され、および場合によっては後の移植のために保存(たとえば冷凍保存)される。
【0024】
一部の実施形態では、胚を、不妊症に罹患する患者に移植する。一部の実施形態では、胚を、不妊治療を受けている患者に移植する。一部の実施形態では、胚を代理母に移植する。すなわち、胚は、卵母細胞を提供した患者に戻すように移植する必要はない。一部の実施形態では、胚を冷凍保存する。一部の実施形態では、冷凍保存した胚を、後に女性の患者に移植する。
【0025】
本明細書中に記載される実施形態は、全体的に、ヒト胚の培養するため、またはIVFプロトコルのために従来利用されていない範囲内の乳酸塩濃度を有する培地で胚を培養する方法に関する。本方法は、胚の発達の改善およびより健康な胚をもたらすことができる。
【0026】
ヒト胚を培養するために使用されるほとんどの既存の培地は、インビボで母体の生殖系で天然に見出される量に近い濃度を有する。しかしながら、本明細書中に記載される一部の実施形態は、インビボで、母体で天然に見出される濃度未満の乳酸塩濃度を有する培地で、インビトロで胚を培養することが、胚の発達の改善を引き起こすことができるとの発見に基づくものである。たとえば、3mM未満の乳酸塩濃度を、ヒト胚の培養に使用できる。
【0027】
よって、本明細書中の一部の実施形態は、所定の種の母体で、インビボで見出される濃度未満の乳酸塩濃度を有する胚培養培地で、インビトロで胚を培養する方法に関する。たとえば、この量は、母体で一般的に見出される濃度の0%〜90%、またはその間の任意の値もしくは部分範囲とすることができる。本明細書中に記載される方法を利用して培養できる胚の例として、任意の動物細胞が挙げられるが、好ましくは哺乳類の胚を含む。使用できる哺乳類の胚として、限定するものではないが、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、サル、オオカミ、マウス、ウサギ、より好ましくはヒトまたはホモサピエンスの胚が挙げられる。一実施形態では、胚は絶滅危惧種由来である。一実施形態では、胚は、家畜種(たとえば限定するものではないが、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコなど)由来である。別の実施形態では、胚は、ヒトでない霊長類由来である。上述した種の1つまたは複数を、本明細書中に記載される方法のうち1つまたは複数から特に排除できると理解される。
【0028】
たとえば、ヒト胚の場合、これに限定されるものではないが、培地は、たとえば約3mM未満、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲(たとえば約0mM〜約0.4mM、約0.5mM、約0.6mM、約0.7mM、約0.8mM、約0.9mM、約1mM、約1.1mM、約1.2mM、約1.3mM、約1.4mM、約1.5mM、約1.6mM、約1.7mM、約1.8mM、約1.9mM、約2mM、約2.1mM、約2.2mM、約2.3mM、約2.4mM、約2.5mMなど、または約0.5mM〜約3mM、約0.6mM〜約2.5mMなど)の乳酸塩濃度を有することができる。この培地は、たとえば、(以下に論述されるように)全培養期間などの望ましい培養期間の間、さらに補充することなく初期濃度としてこのような乳酸塩濃度を有することができる。
【0029】
培地は、たとえば、連続型培地、または培養工程の最中に少なくとも一度補充される単一の培地、または非連続型培地、または胚の培養の最中に補充されない培地(たとえば非中断型または持続性の培養)を含む、胚の培養用の任意の適切な培地とすることができる。当業者に知られているか、または市販されている既存の培地を、本明細書中に記載される乳酸塩濃度(たとえば特定の非限定的なヒトの胚の培養では3mM未満)を有するように改変できる。本方法で利用できるか、または使用のために改変できる既存の培地の非限定的な例の一部として、限定するものではないが、Continuous Single Culture(商標)培地(Irvine Scientific)、任意のGlobal(登録商標)培地(LifeGlobal)、G1培地(Vitrolife)、G2培地(Vitrolife)、HTF(ヒト卵管液)培地、グルコースまたはリン酸塩を有するか、または有さないHTF培地、Whitten’s培地、Ham’s F−10培地、Sage培地などが挙げられ、これらはタンパク質補充物質を含んでもよく、または含まなくてもよい。一実施形態では、培地は、これまで公表されておらず、または商業化されていない新規の培地である。
【0030】
本発明に使用するために改変され得る公表された例示的な非限定的な培地の成分を表1に表す。本発明に使用するために改変され得る現在入手可能なIrvine Scientific培養培地に基づく例示的な非限定的な培地の成分を表2〜6に表す。









【表1】






【表2】


【表3】


【表4】

【表5】
【表6】
【0031】
一般的に、胚の培養培地は、少なくとも1つのエネルギー基質、少なくとも1つの塩/イオン、および好ましくは緩衝液を含む。任意に、胚の培養培地は、少なくとも1つの必須アミノ酸、少なくとも1つの非必須アミノ酸、少なくとも1つの抗酸化剤、pH指示薬、および/または抗生剤を含んでもよい。一実施形態では、表1〜6に記載される培地の成分は、最大約±40%、たとえば約±1%、約±2%、約±5%、約±10%、約±20%、または約±40%変更できる。いずれの場合も、培地中の乳酸塩濃度が、本発明に沿って変更される。
【0032】
一態様では、本明細書中に記載される培地は、乳酸塩に加えて少なくとも1つのエネルギー基質を含む。一実施形態では、少なくとも1つの追加的なエネルギー基質はピルビン酸塩(たとえばピルビン酸ナトリウム)である。一実施形態では、ピルビン酸は、約0mM〜約3mM、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲で存在する。好ましい実施形態では、ピルビン酸塩は、約0.1mM〜約2.3mM、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲(たとえば約0.1mM、約0.2mM、約0.3mM、約0.32mM、約0.33mM、約0.37mM、約0.5mM、約2.0mM、約2.27mM)で存在する。一実施形態では、ピルビン酸塩は、ピルビン酸塩は、上記の表1〜6に示されたうち1つの濃度で培地中に存在する。
【0033】
一実施形態では、少なくとも1つの追加的なエネルギー基質はグルコースである。一実施形態では、グルコースは、約0mM〜約10mM、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲で存在する。好ましい実施形態では、グルコースは、約0mM〜約6.5mM、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲で存在する。特に好ましい実施形態では、グルコースは、約3mM未満、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲(たとえば、約0.3mM、約0.5mM、約0.6mM、約0.8mM、約1.0mM、約1.5mM、約2.0mM、約2.5mM、または約3.0mM)で存在する。一実施形態では、グルコースは存在しない。一実施形態では、グルコースは、上記の表1〜6に示したうちの1つの濃度で培地中に存在する。
【0034】
一態様では、本明細中に記載される培地は少なくとも1つの塩を含む。本明細書中に記載される培地に使用できる塩として、限定するものではないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、硫酸銅、硫酸第二鉄、および硫酸亜鉛が挙げられる。
【0035】
一実施形態では、培地は塩化ナトリウムを含む。一実施形態では、塩化ナトリウムは、約65mM〜約150mM、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲の濃度で培地中に存在する。好ましい実施形態では、塩化ナトリウムは、約85mM〜約120mMの濃度で培地中に存在する。一実施形態では、塩化ナトリウムは、約85mM〜約110mMの濃度で培地中に存在する。一実施形態では、塩化ナトリウムは、上記の表1〜6に示したうちの1つの濃度で培地中に存在する。
【0036】
一実施形態では、培地は塩化カリウムを含む。一実施形態では、塩化カリウムは、約2mM〜約10mM、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲の濃度で存在する。好ましい実施形態では、塩化カリウムは、約2.5mM〜約6mMの濃度で存在する。一実施形態では、塩化カリウムは、上記の表1〜6に示したうちの1つの濃度で培地中に存在する。
【0037】
一実施形態では、培地は硫酸マグネシウムを含む。一実施形態では、硫酸マグネシウムは、約0mM〜約2mM、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲の濃度で存在する。好ましい実施形態では、硫酸マグネシウムは、約0.1〜約1mMの濃度で存在する。一実施形態では、硫酸マグネシウムは、上記の表1〜6に示したうちの1つの濃度で培地中に存在する。
【0038】
一実施形態では、培地は塩化カルシウムを含む。一実施形態では、塩化カルシウムは、約0mM〜約5mM、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲の濃度で存在する。好ましい実施形態では、塩化カルシウムは、約1mM〜約2.5mMの濃度で存在する。一実施形態では、塩化カルシウムは、上記の表1〜6に示したうちの1つの濃度で培地中に存在する。
【0039】
一実施形態では、培地はリン酸カルシウムを含む。一実施形態では、リン酸カリウムは約0mM〜約2mM、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲の濃度で存在する。好ましくは、リン酸カリウムは、約0mM〜約0.5mMの濃度で存在する。一実施形態では、リン酸カリウムは、上記の表1〜6に示したうちの1つの濃度で培地中に存在する。
【0040】
一実施形態では、培地はリン酸ナトリウムを含む。一実施形態では、リン酸ナトリウムは、約0mM〜約2mM、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲の濃度で存在する。好ましい実施形態では、リン酸ナトリウムは、約0mM〜約0.8mMの濃度で存在する。一実施形態では、リン酸ナトリウムは、上記の表1〜6に示したうちの1つの濃度で培地中に存在する。
【0041】
一実施形態では、培地は緩衝液を含む。緩衝液および培地溶液に対する緩衝液の濃度は当技術分野で周知である。一実施形態では、緩衝液は炭酸水素ナトリウムである。一実施形態では、炭酸水素ナトリウムは、約0mM〜約30mM、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲の濃度で存在する。好ましい実施形態では、炭酸水素ナトリウムは、約20mM〜約25mMの濃度で存在する。一実施形態では、リン酸ナトリウムは、上記の表1〜6に示したうちの1つの濃度で培地中に存在する。
【0042】
一実施形態では、培地は少なくとも1つの緩衝液を含む。緩衝液および培地溶液に対する緩衝液の濃度は当技術分野で周知である。一実施形態では、緩衝液はHEPESである。一実施形態では、HEPESは、約0mM〜約30mM、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲の濃度で存在する。一実施形態では、緩衝液は炭酸水素ナトリウムである。一実施形態では、炭酸水素ナトリウムは、約0mM〜約30mM、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲の濃度で存在する。好ましい実施形態では、緩衝液は、約20mM〜約25mMの濃度で存在する。一実施形態では、緩衝液は、上記の表1〜6に示したうちの1つの濃度で培地中に存在する。
【0043】
一実施形態では、培地は少なくとも1つのアミノ酸を含む。一実施形態では、培地は少なくとも1つの必須アミノ酸を含む。必須アミノ酸として、アルギニン、システイン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、タウリン、トリプトファン、チロシン、およびバリンが挙げられる。一実施形態では、培地は、少なくとも1つの非必須アミノ酸を含む。非必須アミノ酸として、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、グリシン、プロリン、およびセリンが挙げられる。一実施形態では、グルタミンはアラニル‐グルタミンとして存在する。一実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸が、約0mM〜約1.5mMの濃度で存在する。好ましい実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸が約0mM〜約0.6mMの濃度で存在する。一実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸が、上記の表1〜6に示したうち1つの濃度で培地中に存在する。
【0044】
一実施形態では、培地は少なくとも1つの抗酸化剤を含む。抗酸化剤および培地溶液に対する抗酸化剤の濃度は、当技術分野で周知である。一実施形態では、抗酸化剤はクエン酸ナトリウムである。一実施形態では、クエン酸ナトリウムは、約0mg/L〜約5mg/L、またはそのいずれかの値もしくは部分範囲(たとえば約0.1mg/L、約0.5mg/L、約1mg/L、約2mg/L)の濃度で存在する。一実施形態では、抗酸化剤はEDTAである。一実施形態では、EDTAは、約0μM〜約50μM、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲(たとえば約1μM、約5μM、約10μM、約25μM、約50μM)の濃度で存在する。一実施形態では、抗酸化剤は、上記表1〜6に示したうちの1つの濃度で培地中に存在する。
【0045】
一実施形態では、培地はpH指示薬を含む。好ましい実施形態では、pH指示薬はフェノールレッドである。一実施形態では、フェノールレッドは、約0mg/L〜約10mg/L、またはその値もしくは部分範囲(たとえば約0mg/L〜約5mg/L、約2mg/L、約3mg/L、約4mg/L)で存在する。一実施形態では、pH指示薬は、上記の表1〜6に示したうちの1つの濃度で培地中に存在する。
【0046】
一実施形態では、培地は、少なくとも1つの抗生剤を含む。抗生剤および培地溶液に対する抗生剤の濃度は当技術分野で周知である。一実施形態では、抗生剤は硫酸ゲンタマイシンである。一実施形態では、抗生剤はペニシリンである。一実施形態では、抗生剤はストレプトマイシンである。一実施形態では、抗生剤は、約0μg/mL〜約200μg/mL、またはその間の値もしくは部分範囲(たとえば約1μg/mL、約5μg/mL、約10μg/mL、約20μg/mL、約50μg/mL、約100μg/mL)の濃度で存在する。一実施形態では、抗生剤は、約0IU/mL〜約500IU/mL、またはその間のいずれかの値もしくは部分範囲(たとえば約1IU/mL、約5IU/mL、約10IU/mL、約20IU/mL、約50IU/mL、約100IU/mL、約250IU/mL、約500IU/mL)の濃度で存在する(IU=国際単位)。
【0047】
一実施形態では、培地にタンパク質を補充する。一実施形態では、このタンパク質はウシ血清アルブミン(BSA)である。好ましい実施形態では、タンパク質はヒト血清アルブミン(HSA)である。一実施形態では、タンパク質は、αグロブリンおよび/またはβグロブリンである。一実施形態では、デキストランを、グロブチンの代替物として使用する。一実施形態では、培地は、血清(たとえばヒト血清、ウマ血清、またはウシ血清)を含む。好ましい実施形態では、培地は血清を含まない。
【0048】
胚は、任意の望ましい期間の間、培地中で培養できる。たとえば胚は、受精後に24時間〜最大7日間、またはその間のいずれかの期間もしくは範囲で培養できる。好ましくは、胚を、移植前に3〜6日間培養する。胚は、特定の数の細胞(たとえば6〜8つの細胞)を得る、またはある細胞期(たとえば胚盤胞期)に達するなどの発達のマイルストーンに達するまで培養できる。一部の実施形態では、冷凍保存した胚を解凍し、本明細書中に記載される方法を使用して培養した後移植する。一部の実施形態では、冷凍保存する前に本明細書中に記載される方法を使用して胚を培養する。一部の実施形態では、冷凍保存前に本明細書中に記載される方法を使用して胚を培養しなかった。
【0049】
培養は、約5%〜約6.5%のCOを伴う任意の適切なインキュベーションシステムまたは培養システムを利用し、約35〜約40℃に維持することにより実施できる。一部の態様では、専用のインキュベーターを使用する。インキュベーターの非限定的な例として、MINCTMインキュベーター(Cook Medical)、Labotect CO2 Miniインキュベーター(Origio MidAtlantic Devices)、Origio Planer BenchtopインキュベーターBT37(Origio)、G185 IVF Tri−Gasインキュベーター(LabIVF)などが挙げられる。さらに本方法は、1つまたは複数の発生段階で胚の画像を得ることのできる撮像システムを含むことができる。一部の実施形態では、インキュベーター自体が、一体型の撮像システムまたは装置を備えることができる。このような装置の一例として、EmbryoScopeインキュベーター(Fertilitech)が挙げられる。
【0050】
本方法はさらに、不妊症に罹患している、不妊症の処置を経験している、および/または体外受精を希望する少なくとも1人の患者(女性および/または男性、たとえば母親および/または父親)由来の胚を培養することを含むことができる。本方法はさらに、望ましい期間胚を培養すること、およびその後胚を母体に移植すること、または胚を冷凍保存することを含む。
【0051】
一部の実施形態は、胚の培養のための本明細書中に記載される改変した培地を含む組成物および培養培地に関する。一部の実施形態は、本明細書中に記載される乳酸塩濃度を有する培地用の1つまたは複数の成分を備えるキットに関する。一部の実施形態は、本明細書中に記載の乳酸塩濃度を有する、胚を含むかまたは含まない培地を備えるインキュベーターに関する。
【0052】
実施例
追加的な実施形態を、以下の実施例でさらに詳細に開示する。これは、特許請求の範囲を限定する意図を全く持つものではない。
【0053】
実施例1:ウシ胚アッセイの試験プロトコル
0日目(受精日)に、洗浄皿および培養皿を、それぞれ対応する試験培地で調製した。この皿を、一晩5%COのインキュベーター内で、39℃で平衡にした。
洗浄皿:各試験培地に関する油の下100μLの洗浄アリコート
培養皿:各試験培地に関する油の下50μLの培養アリコート
【0054】
受精してから1日目に、50個の1細胞胚を、各試験培地の洗浄アリコートで洗浄した。結果的に、約10個の卵を各培養アリコートに分配した。2つの異なる培地組成(プロトタイプAおよびCSCM−C)を試験した。
【0055】
この胚を、インキュベーター(5%のCO、39℃)で、乱さないように8日間培養した。
【0056】
胚盤胞の発達を観察し、6日目に記録し、この観察結果および記録を表7に示す。表1および表2の概略を表7および図1に示す。


【表7】
【0057】
実施例2:ウシ胚によるグルコースの消費
ウシ胚を、1mMまたは5mMの乳酸塩を含むプロトタイプAの培地で、実施例1に記載されるように、受精させ、洗浄し、培養した。各培養培地の新鮮な液滴中で(胚を含まない各培地のそれぞれの対照液滴と共に)各時点から個々に胚を24時間培養することにより、2日目、3日目、および7日目に、胚によるグルコース消費を測定し、次いで、消費された培地および対照培地を、グルコース濃度について解析して、各時点での各培地中の胚により消費された量を決定した。結果を図2に示す。簡単に説明すると、これらのデータから、低濃度の乳酸塩培地(プロトタイプA、1mM)では、特にD2(2〜4細胞期)および第7日目(胚盤胞)の細胞期で胚によるグルコースの消費がより少ないことを証明される。
【0058】
理論に縛られるものではないが、生存性が高い着床前の胚は、生存性がより低い胚よりも「静的な」代謝を有することが考えられる。すなわち、質の高い胚は、質の低い胚よりも栄養素(たとえばグルコース、酸素、および他の栄養素)の消費が少ない。代謝の増加はストレスによってもたらされ、胚の生存性を減少させる。たとえば、Leese, et al., Mol. Human Reprod. 14(12),667−672(2008)を参照されたい。よって、1mMの乳酸塩で培養した胚による低レベルのグルコース消費は、より健康な胚を示している。これは、低濃度の乳酸塩培地が、インビトロでの生存性の高い胚の発達にとって有益であるという考え方を支援するものである。
【0059】
多くの様々な修正は、本開示の趣旨から逸脱することなく行うことができることは当業者に理解されている。よって、本明細書中に開示される形態は、単なる例示であり、本開示の範囲を限定する意図を有しないことが明示的に理解されるものである。
図1
図2