特許第6796510号(P6796510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796510
(24)【登録日】2020年11月18日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】流動接触分解装置の連続運転方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 11/18 20060101AFI20201130BHJP
   B01J 38/30 20060101ALN20201130BHJP
【FI】
   C10G11/18ZAB
   !B01J38/30
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-26721(P2017-26721)
(22)【出願日】2017年2月16日
(65)【公開番号】特開2018-131551(P2018-131551A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2020年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】菊地 将
【審査官】 澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−131959(JP,A)
【文献】 特開平7−90790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 11/00−11/18
B01J 38/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒に原料油を接触させて該原料油を分解することによって分解生成物を生成する反応塔、分離した前記触媒上のコークを燃焼させることによって前記触媒を再生する再生塔、および、再生塔で排出される排ガス回収手段を備え、
得られた再生触媒を反応塔に循環使用して連続的に運転する原料油の流動接触分解装置において、
排ガス回収手段として廃熱ボイラーを含み、再生塔から排出された排ガスの熱量を回収するとともに、反応塔から再生塔に送られる使用済触媒の一部を抜出し、廃熱ボイラー内の排ガス流路に、使用済触媒の一部を投入することを特徴とする流動接触分解装置の連続運転方法。
【請求項2】
投入する前記使用済触媒における平均粒子径が40μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の流動接触分解装置の連続運転方法。
【請求項3】
触媒投入量が、廃熱ボイラー排ガス量に対して、0.5〜2.0vol-ppmとなるように、一週間に少なくとも1回以上、使用済触媒を投入することを特徴とする請求項1に記載の流動接触分解装置の連続運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料油を接触分解するための流動接触分解装置(FCC装置)を長期間、安定的に連続運転する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流動接触分解(FCC)とは、分子の大きい重質油留分を低分子のガソリンや中間留分に分解する反応をいい、500℃以上の高温で重質油と流動接触分解触媒とを接触させることにより進行する。流動接触分解を行うと、そのままでは使用することが難しい劣悪な重質油からクリーンなガソリンを製造できるため、石油精製分野では非常に重要な反応であると同時に、限りある資源を有効に活用できる、環境にやさしい精製処理である。
【0003】
このような流動接触分解に使用される装置(FCC装置)としては、反応塔と再生塔とを備えたものが従来より知られている(たとえば、特許文献1参照)。FCC装置では、触媒に原料油を接触させて原料油を分解し、反応塔内で分解生成物と触媒とを分離し、分離した触媒を再生塔へ移送し、再生塔内で触媒上のコークを燃焼させて、触媒を再生し、再生した触媒は、原料油の分解に再び使用される。
【0004】
FCC装置に使用される触媒として、数多くの触媒が提案され、粘土鉱物、結晶性アルミノ珪酸塩、アルミナバインダーなどから構成されるものが使用されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0005】
再生塔内では、約650〜800℃程度の温度に触媒が再生されるので、再生塔から排出される排ガスは700℃以上となっている。このため、排ガスを、廃熱ボイラーを通して、熱量を回収することが行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−102204号公報
【特許文献2】特開2008−173583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
再生塔からの排ガスは、サイクロンを経て廃熱ボイラーに送られる。廃熱ボイラー内で熱交換が行われ、たとえば、円筒状シェル内に配置された複数の熱交換管を備えた内管内に排ガスを流通させ、シェル内に工業用水内などの冷却媒体を通して、排ガスの熱量を回収して、排ガスを200℃程度にまで冷却する。
【0008】
しかしながら、FCC装置の長期間連続運転を行っていると、廃熱ボイラーでの熱の回収が不十分となり、廃熱ボイラーでの設計温度を超えるという事態が生じることがわかった。そして再生塔から運び込まれた触媒が廃熱ボイラー内管の排ガス流路に堆積してスケールとなり、廃熱ボイラーでの熱交換を阻害し、熱量の回収不充分となっていることを見出した。また、廃熱ボイラーはオンラインで洗浄出来ない為、廃熱ボイラーの伝熱効率が悪化すると、装置を停止しなければならなかった。
【0009】
また、このような廃熱ボイラーで回収できなかった熱は、排ガス中に含まれる触媒などの固形分を除去する電気集塵器や排煙処理設備の設計温度を超えてしまうため、装置を停止させる原因となる。さらに、回収されなかった熱は、排煙脱硫装置への負荷となり、排ガスの処理効率が低下するという課題を生じる。このため、廃熱ボイラー出口での排ガス温度をモニタリングしながら、定期的にFCC装置を止めて、廃熱ボイラー内の排ガス流路をクリーニングする必要があった。しかしながら、廃熱ボイラー内管の排ガス流路には熱伝導性を高めることを目的に突起物などの伝熱部材が設けられているため、クリーニング作業は突起物を外す作業もあって、時間と手間を要するものとなり、その間、長ければ月単位で、FCC装置を停止する必要があるため、原料油の処理効率が悪くなるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは上記問題点を解決すべく鋭意検討した結果、FCC装置の使用済触媒を一部抜き取り、廃熱ボイラー内の排ガス流路に投入すれば、上記課題をいずれも解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
[1]触媒に原料油を接触させて該原料油を分解することによって分解生成物を生成する反応塔、分離した前記触媒上のコークを燃焼させることによって前記触媒を再生する再生塔、および、再生塔で排出される排ガス回収手段を備え、
得られた再生触媒を反応塔に循環使用して連続的に運転する原料油の流動接触分解装置において、
排ガス回収手段として廃熱ボイラーを含み、再生塔から排出された排ガスの熱量を回収するとともに、反応塔から再生塔に送られる使用済触媒の一部を抜出し、廃熱ボイラー内の排ガス流路に、使用済触媒の一部を投入することを特徴とする流動接触分解装置の連続運転方法。
[2]投入する前記使用済触媒における平均粒子径が40μm以上であることを特徴とする[1]に記載の流動接触分解装置の連続運転方法。
[3]触媒投入量が、廃熱ボイラー排ガス流量に対して、0.5〜2.0vol-ppmとなるように、1週間に少なくとも1回以上、使用済触媒を投入することを特徴とする[1]に記載の流動接触分解装置の連続運転方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多額な費用をかけることなく、廃熱ボイラーの排ガス流路をオンライン洗浄することが可能になる。その結果、FCC装置を停止することなく、長期間安定して原料油の処理を行うことができ、回収した熱も再利用できるので、FCC装置の省エネ運転(廃熱利用)が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態のFCC装置を示す概略構成図である。
図2】実施例および比較例における、運転期間に対する廃熱ボイラーのU値(総括伝熱係数)の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらに限定的に解釈されるものではない。
[FCC装置]
図1を参照して、本発明の一実施形態におけるFCC装置を説明する。図1は、本発明の一実施形態のFCC装置を示す概略構成図である。FCC装置1は、反応塔11、再生塔12、および廃熱ボイラー13を備え、必要に応じて、図1に示される蒸気槽、電気集塵器、FCC排煙脱硫装置および煙突を備える。各構成は、配管などによって接続し、かつ所望の温度や圧力に調整する手段が設けられている。
【0014】
FCC装置における接触分解反応器の運転条件としては、反応温度を400〜600℃、好ましくは450〜550℃、反応圧力を常圧〜5kg/cm2、好ましくは常圧〜3kg/cm2、触媒/原料炭化水素油の質量比を2〜20、好ましくは4〜15とすることが適当である。
【0015】
反応温度が400℃以上であれば、炭化水素油の分解反応が好適に進行して、分解生成物を好適に得ることができる。また、600℃以下であれば、分解により生成するドライガスやLPGなどの軽質ガス生成量を軽減でき、目的物のガソリン留分の収率を相対的に増大させることができ経済的である。
【0016】
圧力は5kg/cm2以下であれば、モル数の増加する反応の分解反応の進行が阻害されにくい。また、触媒/原料炭化水素油の質量比が2以上であれば、クラッキング反応器内の触媒濃度を適度に保つことができ、原料炭化水素油の分解が好適に進行する。また、20以下であれば、触媒濃度を上げる効果が飽和してしまい、触媒濃度を高くするに見合った効果が得られずに不利をとなることを回避できる
【0017】
反応塔11
反応塔11は、触媒に原料油を接触させて該原料油を分解することによって分解生成物を生成する。反応塔には、たとえば、再生塔12で再生された触媒を供給する再生触媒輸送ラインおよび原料油を供給する原料油供給ラインと接続している。反応塔内には、揚送用流体が流通しており、供給された触媒は、揚送用流体と一緒に反応塔11内を流動する。原料油は、予め予熱装置などによって加熱され、必要に応じてスチームを加えられた後、原料油供給ラインから反応塔11に供給される。反応塔11内に供給された原料油は触媒と接触し分解する。原料油が分解して生成した分解生成物は、反応塔より抜き出され、フラクショネーターで精留されて、必要な成分に分別される。
【0018】
接触分解反応では、後述のように通常、原料油として重質油を使用するので、反応生成物は、ガソリン基材となるが、特にこの限りではない。
分解生成物と触媒とを分離するため反応塔には、適宜、サイクロン、分解生成物排出ライン、ストリッパーおよび使用済触媒輸送ラインを備える。サイクロンでは、遠心力を利用して、分解生成物を触媒から分離する。
【0019】
また、分離された使用済触媒は必要に応じてストリッパーに供給される。ストリッパーには、スチームが供給されている。ストリッパーでは、スチームにより触媒上の炭化水素が除去され、触媒上のコークの量を少なくすることができる。使用済触媒は、使用済触媒輸送ラインより反応塔から排出され、再生塔12に移送される。
本発明では、再生塔に送られる使用済触媒の一部を、廃触媒槽に抜き出す。このため、使用済輸送ラインには、使用済触媒の抜き出し口が設けられていてもよい。
【0020】
(触媒)
反応塔11において原料油に接触させる触媒は、再生塔12によって再生された触媒を含む。原料油に接触させる触媒のすべてが再生塔12によって再生された触媒であってもよい。また、原料油に接触させる触媒の一部が新しい触媒であってもよい。なお、通常、触媒の活性を一定に維持するために、FCC装置内を循環している触媒の一部がFCC装置から抜き出されるとともに新しい触媒がFCC装置に供給される。このように、触媒の活性を一定に維持されている状態の触媒は、一般に、平衡触媒と呼ばれている。
【0021】
原料油に接触させる触媒は、FCC装置内で流動して原料油と接触分解できるものであれば特に大きさは限定されず、好ましくは平均粒子径が40μm以上にあり、通常は、40〜100μmの範囲にあるものが使用される。
【0022】
原料油に接触させる触媒の組成は、Y型ゼオライト、超安定性Y型ゼオライトおよびZSM−5型ゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種のゼオライトを含む。触媒中の該ゼオライトの割合は、好ましくは10質量%以上40質量%以下であり、好ましくは15質量%以上40質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以上35質量%以下である。また、原料油に接触させる触媒は、アルミナ、粘土鉱物およびシリカからなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。この場合、たとえば、触媒におけるアルミナの割合は、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下であり、さらに好ましくは45質量%以下である。また、触媒における粘土鉱物の割合は、好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは75質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以下である。さらに、触媒におけるシリカの割合は、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下であり、さらに好ましくは45質量%以下である。
【0023】
(原料油)
FCC装置の原料油としては、通常使用されるものであれば特に制限なく使用可能であり、予め水素化脱硫および水素化分解されている脱硫重油が好ましく、たとえば熱分解脱硫重油、間接脱硫重油、直接脱硫重油などを使用することが可能である。
【0024】
(熱分解脱硫重油)
本実施形態に係るFCC装置の原料油として使用される熱分解脱硫重油は、原油の常圧蒸留で得られる常圧蒸留残渣油及び減圧蒸留残渣油のうちの1種以上を熱分解装置で以下の条件で熱分解処理して得られた熱分解重油を、熱分解脱硫装置で水素化脱硫及び水素化分解して得られるものである。
【0025】
(熱分解処理の条件)
熱分解処理の条件は特に限定されないが、通常、熱分解温度は、好ましくは490〜510℃、特に好ましくは495〜505℃であり、また、熱分解処理の際の圧力(ゲージ圧)は、好ましくは0.01〜0.6MPaG、特に好ましくは0.05〜0.4MPaGである。また、熱分解処理の雰囲気は、スチームである。また、熱分解処理中に過度の発泡が認められる場合は、消泡剤を投入する事もある。消泡剤としては、一般的にシリコン系の消泡剤などを用いることができる。
【0026】
(間接脱硫重油)
本実施形態に係るFCC装置の原料油として使用される間接脱硫重油は、原油の常圧蒸留にて得られる重質軽油、減圧軽油等をそれぞれ間接脱硫装置にて水素化脱硫処理して得られる脱硫重質軽油、脱硫減圧軽油および、重質油を溶剤脱れき装置にて処理して得られる脱れき油等が併用できる。
【0027】
(直接脱硫重油)
本実施形態に係るFCC装置の原料油として使用される直接脱硫重油とは、原油の常圧蒸留残油及び減圧蒸留残油、重質軽油、接触分解残油、熱分解重油などの密度の高い石油留分を用いて重油直接脱硫装置において水素化脱硫及び水素化分解して得られるものである。
【0028】
直接脱硫重油を得るための水素化脱硫及び水素化分解は、触媒の存在下で行い、反応温度、反応圧力、液空間速度等の反応条件を最適化することにより必要とされる脱硫率や重質油の分解率を達成することができる。
【0029】
前記直接脱硫重油および間接脱硫重油を得るための脱硫装置における水素化脱硫及び水素化分解は、通常250〜450℃、好ましくは300〜400℃の温度条件下で通常は3〜20MPa、好ましくは5〜17MPaの水素加圧下で行われる。液空間速度(LHSV)は通常0.1〜3h-1、好ましくは0.15〜2.0h-1、水素/油比は通常1,000〜3,000Nm3/KL、より好ましくは1,500〜2,500Nm3/KLの範囲で行われる。
【0030】
水素化脱硫及び水素化分解に用いる触媒は、水素化脱金属能、水素化脱硫能を持った公知の触媒をいずれも用いることができ、例えば、アルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライトあるいはこれらの混合物等の担体に、周期表第5〜15族金属、あるいはこれらの硫化物、酸化物を担持した触媒を用いることができる。上記周期表第5〜15族の金属の金属としては、水素化脱硫に適した活性金属を用いる点から、好ましくはニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン等、あるいはこれらの組み合わせが用いられる。本発明においては、重質油に対してより水素化脱硫、水素化分解および水素化能の優れている点から、触媒としてアルミナ等の多孔質無機酸化物担体にCo−Mo、Co−Mo−P、Ni−Mo、Ni−Mo−P等の金属を担持した触媒を用いることが好ましい。
【0031】
(分解生成物)
反応塔11から排出された分解生成物は、たとえば、メインフラクショネーター(主蒸留塔ともいう)によって洗浄および精留される。これによって、液化石油ガス(LPG)、ガソリン(FCCG)、分解軽油(LCO)、分解重油(HCO)、スラリーオイル(SLO)に分別される。
【0032】
再生塔12
再生塔12は、反応塔11で分離した使用済触媒上のコークを燃焼させることによって触媒を再生する。再生塔12は、たとえば、加熱手段、エアブロワー、エアグリッド、サイクロン、再生触媒輸送ラインおよび排ガスラインを備えていてもよい。エアブロワーからエアグリッドに空気が供給され、エアグリッドから再生塔12内に空気が供給される。また、使用済触媒輸送ラインから使用済触媒が再生塔12に供給される。再生塔12内に空気が供給されると、触媒上のコークは燃焼し、触媒は再生される。再生塔12では、たとえば、600〜800℃程度の温度で使用済の触媒を再生する。再生した触媒と、コークの燃焼により生じた排ガスとはサイクロンにより分離される。再生触媒輸送ラインにより、再生した触媒は再生塔12から排出され、反応塔11に供給される。排ガスは、排ガスラインにより再生塔12から排出される。排ガスは、主成分として、CO2ガスおよびSOxガスを含み、さらに、サイクロンで分離されなかった触媒もわずかに排出される。
【0033】
本発明では、廃熱ボイラー内の排ガス流路に、再生塔に送られる使用済触媒を投入する。このため、再生塔12あるいは使用済触媒輸送ラインに、使用済触媒の取り出し口が設けられている。
【0034】
使用済触媒は、平均粒子径が40μm以上であり、通常40〜100μmの範囲にある。廃熱ボイラー内の排ガス流路に、投入する場合、さらに好ましくは60〜80μmにあると効果が高い。通常、使用済触媒は平衡触媒と同程度か、複数の触媒が凝集して粒径は大きくなる。また使用済触媒は、嵩密度が、0.70〜0.90g/mlの範囲にあるものが使用される。この範囲にある使用済触媒を使用することで、廃熱ボイラー内の排ガス流路に堆積した触媒のスケールを除去することが可能であり、FCC装置を長期間安定して運転することが可能となる。
【0035】
廃熱ボイラー13
再生塔からの排ガスを廃熱ボイラー13に通して、再生塔から排出された排ガスの熱量を回収する。廃熱ボイラー13では、熱交換により、排ガスの熱から冷却媒を加熱させることで熱量を回収するが、冷却媒として、通常、水を使用し、蒸気ないし熱水として熱回収するものが最も一般的である。典型的に、廃熱ボイラーは、円筒状シェル内に内管(チューブ)を配置された複数の熱交換管を備えた、シェルアンドチューブ型熱交換器が使用される。
【0036】
再生塔12からの排ガスが内管内を流路として流れ、シェル内には、冷却媒である水が通液されて、蒸気として回収される。回収された蒸気は熱源として再利用される。通常、廃熱ボイラー入口での排ガス温度は、通常、600〜800℃であるが、廃熱ボイラー出口では、150〜300℃程度までに冷却される。
【0037】
内管内には、伝熱面積を増すこと目的に冷却フィンなどの伝熱部材が設けられ、冷却フィンは、断面が矩形で、伝熱面積を増して熱通過量を増大させると共に流れに乱れを与えて熱伝達率を向上させる。この一態様に、タービュレンスプロモータ(turbulence promotor)などが挙げられる。
【0038】
本発明では、排ガス流路内に、前記廃触媒槽に回収した使用済触媒を投入する。投入設備については特に制限されないが、流路内にノズルを設置し、加圧ポットなどを用いて、使用済触媒を導入すればよい。
【0039】
使用済触媒の投入量としては、廃熱ボイラー排ガス量に対して、0.5〜2.0vol-ppm、好ましくは0.7〜1.2vol-ppmとなることが好ましい。投入頻度としては特に制限はないが、連続的に投入しても、断続的に、たとえば1週間に少なくとも1回の頻度で投入してもよい。
【0040】
使用済触媒を排ガス流路内に投入すると、堆積したスケールのみが除去され、廃熱ボイラーの排ガス量に対する使用済触媒の投入量も少ないため、内管内部や伝熱部材が削られることもなく廃熱ボイラーでの熱交換効率を高く維持できる。なお、本発明では、排ガス流路内に使用済触媒を投入するが、再生触媒や新規触媒を投入することも可能であり、本発明と同様な効果を奏するが、コストや冷却手段、投入経路の設計等の点で、使用済触媒を使用することが望ましい。
【0041】
また、定期的に所定量の使用済触媒を投入してもよく、さらに廃熱ボイラー出口での排ガス温度や、再生塔から飛散する触媒量を電気集塵器回収量から算出してモニターして、温度や触媒量が上昇した場合に、使用済触媒を投入することも可能である。さらに、HTRI(Heat Transfer Research, Inc.)の伝熱計算プログラムを用いて連続運転の際、廃熱ボイラー入り口温度や出口温度、補正U値(総括伝熱係数)を計測し、これらのデータ変化などから、使用済触媒の投入を判断し、たとえば、補正U値や出口温度が上昇した場合に、使用済触媒を排ガス流路内に投入するようにしてもよい。これによって、FCC装置を停止することなく、廃熱ボイラーをオンラインで洗浄できる。
【0042】
廃熱ボイラーを経た排ガスは、電気集塵器にて、投入した使用済触媒や脱離した堆積物を捕集したのち、排煙脱硫装置を経由して処理され、環境基準に応じて煙突より大気中に排出されたり、再利用される。また、電気集塵器に排ガスを通す前に、重力集塵器、慣性力集塵器、遠心力集塵器(サイクロン)などで粗大粒を除去したり、洗浄集塵器(スクラバ)、濾過集塵器(バグフィルタ)などを併用してもよい。
【0043】
本発明の流動接触分解装置の連続運転方法を採用することで、前記したような、オンラインで排ガス流路内の清掃効果がもたらされ、FCC装置の運転停止を伴う廃熱ボイラーの洗浄という手間や生産量の低下という問題も解消される。
【0044】
[実施例]
以下、本発明の一実施態様を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0045】
以下のようにして接触分解を実施した。
原料油として密度:0.85−0.95、硫黄:0.29質量%、残炭:3.0質量%以下のものを使用し、図1に示すFCC装置を用いて、下記の運転条件で原料油を接触分解した。なお、プラント設備での実施であるため、反応条件は厳密に一定ではなく、この範囲となるように適宜調整した。
反応温度:508〜515℃
反応圧力:0.1〜0.3MPaG
再生塔温度: 732〜737℃
【0046】
触媒は市販のFCC触媒を使用した。FCC装置内での平衡触媒の平均粒子径は、68μmであった。廃触媒槽に送られる使用済触媒の平均粒子径は、70〜74μmであった。
廃熱ボイラーとしては、チューブ内に排ガスを通し、シェル内に工業用水を通じる熱交換器を使用した。チューブの内径が38.8mmであり、シェル内に540本のチューブが配設され、チューブ入口流速を35〜38m/secとした。
【0047】
実施例および比較例
3か月間、廃熱ボイラーで排ガスを処理した。実施例では、投入頻度:1回/週、投入量:42.5kg/回(50L/回)、嵩密度:0.85g/mlの使用済触媒を、排ガス中に0.8vol-ppmとなるように、投入した。比較例は使用済触媒を投入せず、同じ条件で、廃熱ボイラーを運転した。3か月間のHTRIによる計測値の平均を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1より、同一運転条件にて、使用済触媒を廃熱ボイラーのチューブに通す実施例の運転では、出口温度が低く、廃熱ボイラーでの交換熱量も大きくなり、U値は60kcal/m2・℃・h程度高めで推移しており、且つ蒸気発生量も3T/h程度多めに推移している。
【0050】
また、図2に、運転期間に対する廃熱ボイラーのU値(総括伝熱係数)の変化を示す。図2より、比較例の条件での運転では、触媒堆積による汚れで伝熱が低下しているが、実施例のように、使用済触媒を投入することで初期のU値を維持できている。
【0051】
通常、運転開始より、2週間程度から、廃熱ボイラーの総括伝熱係数は低下し始め、触媒飛散率が増え始めるが、定期的には、使用済触媒を流路に投入することで、総括伝熱係数を初期の数値に戻すこと可能となり、また、堆積した触媒も除去されるとともに、新たに飛散する触媒の堆積も抑制されるので廃熱ボイラーの熱交換効率を高く維持できる。
【0052】
電気集塵器への入口圧力を低めに推移できるので、電気集塵効率も高い状態を維持できる。さらに、廃熱ボイラー出口温度が低位で推移するために、排煙脱硫装置での圧力を低く推移し、長期間の連続運転が可能であるとともに、排煙処理自体も省エネ可能となる。
【0053】
本発明によれば、FCC運転初期の廃熱ボイラー流路における伝熱を長期間維持できるので、省エネ量が高く、原油換算単位で、約700 COE−KL/年、約4千万円/年の省エネを達成できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、オンラインで排ガス流路内の清掃効果がもたらされ、FCC装置の運転停止を伴う廃熱ボイラーの洗浄やそれに伴う生産量の低下という問題が解消される。このため、長期間安定的に原料油の接触分解を行う流動接触分解装置の連続運転方法を提供できる。
【符号の説明】
【0055】
1 FCC装置
11 反応塔
12 再生塔
13 廃熱ボイラー
図1
図2