(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796514
(24)【登録日】2020年11月18日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】青色光を用いた殺虫機器
(51)【国際特許分類】
A01M 1/00 20060101AFI20201130BHJP
【FI】
A01M1/00 L
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-31665(P2017-31665)
(22)【出願日】2017年2月23日
(65)【公開番号】特開2018-134046(P2018-134046A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2020年1月6日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】594120157
【氏名又は名称】アース環境サービス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081558
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 晴男
(74)【代理人】
【識別番号】100154287
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 貴広
(72)【発明者】
【氏名】堀 雅敏
(72)【発明者】
【氏名】松本 吉雄
(72)【発明者】
【氏名】俊藤 浩史
【審査官】
竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−104359(JP,A)
【文献】
特開2015−076393(JP,A)
【文献】
実開昭50−023185(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲食品工場や医薬品工場等における機械 駆動部や配電盤等の内奥の、清掃がしにくくて粉体や塵埃等がたまりやすく、害虫が生息しやすい狭隘箇所に使用するための殺虫機器であって、
前記狭隘箇所に使用するのに適したサイズの長尺筐体内に、400〜500nmの波長範囲の青色光を放射する青色照射用LEDを多数一列に配備した青色LEDユニットが複数、適宜長さのフレキシブルなコードを介して直列接続されて成る青色光を用いた殺虫機器。
【請求項2】
前記複数の青色LEDユニットで7×1017photons・m-2・s-1以上の光強度の照射が可能である、請求項1に記載の青色光を用いた殺虫機器。
【請求項3】
前記青色照射用LEDを備える面を上向きにした前記青色LEDユニットと、前記青色照射用LEDを備える面を横向きにした前記青色LEDユニットとが併用され、上方及び側方への二次元的照射が可能にされる、請求項1又は2に記載の青色光を用いた殺虫機器。
【請求項4】
前記複数の青色LEDユニットは透光性樹脂製の透光ケース内に収装されている、請求項1乃至3のいずれかに記載の青色光を用いた殺虫機器。
【請求項5】
前記透光ケース内に前記複数の青色LEDユニットが三角形状に配置されている、請求項4に記載の青色光を用いた殺虫機器。
【請求項6】
前記青色LEDユニット6基で三角形状にされ、内側の3基の前記青色LEDユニットは前記青色照射用LEDを備える面が上向きにされ、外側の3基の前記青色LEDユニットは前記青色照射用LEDを備える面が横向きにされる、請求項5に記載の青色光を用いた殺虫機器。
【請求項7】
前記透光ケースは、少なくともその上面を払拭するワイパーを備えている、請求項4乃至6のいずれかに記載の青色光を用いた殺虫機器。
【請求項8】
前記ワイパーはL字形であって、前記透光ケースの上面から側面にかけて払拭可能である、請求項7に記載の青色光を用いた殺虫機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色光を用いた殺虫機器に関するものであり、より詳細には、例えば、飲食品工場や医薬品工場等における機械駆動部や配電盤内に設置して、発生している昆虫類を殺虫すると共にその発生を防止する、青色光を用いた殺虫機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一部の昆虫は、害虫としてヒトや家畜に対して様々な害を及ぼす。例えば、農業害虫は、農業分野において農作物の生産量の低下や植物病害の蔓延等の深刻な問題をもたらし、衛生害虫は、ウイルスや細菌、又は原虫等の病原体を媒介し、衛生面で多大な影響を与える。従って、害虫の効率的な防除は、農業上、衛生上重要な課題である。
【0003】
害虫の防除には、従来、化学製剤による化学的防除方法が主に用いられてきたが、化学的防除方法による害虫の防除は、薬剤抵抗性個体の出現、環境汚染、農作物への残留等が問題となる。そこで近年では、安全性が高く、且つ、環境への影響が少ない代替防除方法の1つとして、光を利用した光学的防除方法が採用されるようになってきている。
【0004】
この光学的防除方法としては、例えば、昆虫の走光性を利用して紫外光〜青色光で虫を誘引して捕殺する方法が知られている。この方法は、誘蛾灯のように、農業害虫の防除法として古くから利用されてきた簡便且つ比較的安価な方法ではあるが、誘引される個体の多くは飛翔能力を有する成虫であるので、卵や幼虫等を絶つ根本的な防除は望めない。
【0005】
そこで、これに代わる光学的防除方法として、380〜500nmの長波長紫外線〜短波長可視光を昆虫に照射することで、複眼の色素粒移動を抑制する装置が提案されている(特許文献1)。この装置は、当該可視光の照射により昆虫の明暗適応を妨害し、神経伝達を撹乱させることでホルモン分泌を撹乱させて、昆虫の生態リズムを破壊しようとするもので、これによって成虫を死滅させ、また、産卵撹乱、交尾撹乱、変異撹乱等の生理撹乱により害虫の繁殖を防止することができるとされている。
【0006】
しかし、特許文献1には、この発明の効果を立証するデータが記載されておらず、しかも、直接的に作用する防除対象が成虫に限定されており、また、複眼を持たない卵や一部の幼虫には効果がない。更に、複眼の明適応と暗適応する光受容特性は、昆虫の種類によって大きく異なる。例えば、夜行性蛾類の場合、明適応を起こさせる光は、500〜590nmの黄色光〜緑色光であり、380〜500nmの紫色光〜青色光では効果が弱い。従って、特定域の波長で種々の夜行性昆虫に対して攪乱させることはできないという問題があり、また、このような明暗適応による錯乱は、昼行性の昆虫には全く効果がないという問題もある。
【0007】
このような諸問題を解決するために、400〜500nmの波長範囲の特定波長光を放射する害虫防除用光源を標的害虫の卵、幼虫、又は蛹に、7×10
17photons・m
−2・s
−1以上の光強度で照射可能なように構成された害虫防除装置の提案がある(特許文献2)。この装置は、特定の短波長可視光を標的害虫の卵、幼虫、又は蛹に照射したときに、標的害虫の変態を阻害して殺虫できるという知見の下に開発されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−104444号公報
【特許文献2】特開2015−104359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献2においては、その発明に係る害虫防除装置が、400〜500nmの波長範囲の特定波長光を放射する害虫防除用光源を標的害虫の卵、幼虫、又は蛹に7×10
17photons・m
-2・s
-1以上の光強度で照射可能なように構成されていること、及び、必須の構成要素として害虫防除用光源を、また、選択的な構成要素として、光強度調整部及び光強度調節器、波長調節器、波長選択フィルタ、開閉器、電池並びに他の光源を含むことが開示されると共に、各構成要素について説明がなされている。
【0010】
ところで、飲食品工場や医薬品工場等における機械駆動部や配電盤の内奥の狭い箇所等の、清掃がしにくくて粉体や塵埃等がたまりやすい部分には害虫が生息しやすいが、上記特許文献2において提案されている害虫防除装置の場合は、このような機器内奥部の狭い箇所に生息する害虫の防除のために使用することは想定されておらず、当然のことながら、そのような箇所に使用するのに好適な形態についての開示を欠く。
【0011】
そこで本発明は、飲食品工場や医薬品工場等における機械駆動部や配電盤等の内奥の狭い箇所等の、清掃がしにくくて粉体や塵埃等がたまりやすく、害虫が生息しやすい箇所における害虫の防除のために使用するのに好適で、発生している昆虫類を殺虫すると共にその発生を有効に防止し得る、青色光を用いた殺虫機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、
飲食品工場や医薬品工場等における機械駆動部や配電盤等の内奥の、清掃がしにくくて粉体や塵埃等がたまりやすく、害虫が生息しやすい狭隘箇所に使用するための殺虫機器であって、
前記狭隘箇所に使用するのに適したサイズの長尺筐体内に、400〜500nmの波長範囲の青色光を放射する青色照射用LEDを多数一列に配備した青色LEDユニットが複数、適宜長さの
フレキシブルなコードを介して直列接続されて成る青色光を用いた殺虫機器である。
【0013】
好ましい実施形態においては、前記複数の青色LEDユニットで7×10
17photons・m
-2・s
-1以上の光強度の照射が可能である。
【0014】
一実施形態においては、前記青色照射用LEDを備える面を上向きにした前記青色LEDユニットと、前記青色照射用LEDを備える面を横向きにした前記青色LEDユニットとが併用され、上方及び側方への二次元的照射が可能にされる。
【0015】
一実施形態においては、前記複数の青色LEDユニットは透光性樹脂製の透光ケース内に収装される。その場合、前記透光ケース内に前記複数の青色LEDユニットを三角形状に配置することができる。そして一実施形態においては、前記青色LEDユニット6基で以て三角形状にされ、内側の3基の前記青色LEDユニットは前記青色照射用LEDを備える面が上向きにされ、外側の3基の前記青色LEDユニットは前記青色照射用LEDを備える面が横向きにされる。
【0016】
一実施形態においては、前記透光ケースは、少なくともその上面を払拭するワイパーを備える。好ましい実施形態においては、前記ワイパーはL字形にされ、前記透光ケースの上面から側面にかけて払拭可能にされる。
【発明の効果】
【0017】
上記のとおり、本発明に係る青色光を用いた殺虫機器は、長尺筐体内に多数の青色照射用LEDを一列に配備した青色LEDユニットが複数、適宜間隔を置いてコードで直列接続されて成り、複数基の青色LEDユニットが、コードで接続された状態でそれぞれ分離されて構成されているので、その配置態様に自由性があり、照射向きを変えることもできる。そのため、飲食品工場や医薬品工場等における機械駆動部や配電盤等の内奥の、狭くて清掃がしにくい箇所等に用いるのに好適で、その設置箇所の状況に応じた配置にて設置することにより、その設置箇所に発生している昆虫類を殺虫すると共にその発生を有効に防止することができる効果がある。
【0018】
請求項4−8に記載の発明の場合は、例えば、穀物サイロ等の粉塵が浮遊するような場所に設置した場合において、青色照射用LEDに粉塵が付着して青色LEDユニットからの照射量が減衰することを防止し得る効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る青色光を用いた殺虫機器の構成例(一体化状態)を示す平面図である。
【
図2】本発明に係る青色光を用いた殺虫機器の構成例(分離状態)を示す平面図である。
【
図3】本発明に係る青色光を用いた殺虫機器の構成例を示す側面図である。
【
図4】本発明に係る青色光を用いた殺虫機器の使用態様例を示す平面図である。
【
図5】本発明に係る青色光を用いた殺虫機器の使用態様例を示す側面図である。
【
図6】本発明に係る青色光を用いた殺虫機器の他の構成例を示す平面図である。
【
図7】本発明に係る青色光を用いた殺虫機器の他の構成例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための形態につき、添付図面を参照しつつ説明する。本発明に係る青色光を用いた殺虫機器は、長尺の筐体2内に多数の青色照射用LED3を一列に配備した青色LEDユニット1を複数、適宜間隔を置いて直列に接続して成るものである。青色LEDユニット1は、例えば、長さが260mm、幅が40mm、高さが35mmのサイズの防水構造にされ、各青色LEDユニット1間は、それぞれ適宜長さのコード4を介して連結される。
【0021】
一例を挙げると、8灯の青色照射用LED3を8灯備えた青色LEDユニット1が3台、150mmほどの長さのコード4を介して連結されて構成され、直流電源又は交流電源に接続して使用される(
図1,2参照)。ここで用いる青色照射用LED3は、400〜500nmの波長域に波長ピークを有する短波長可視光である青色光を発光するものである。なお、必要に応じて筐体2内に、光強度調整部及び光強度調節器、波長調節器、波長選択フィルタ、開閉器、電池等が適宜組み込まれる。
【0022】
本発明に係る青色光を用いた殺虫機器は、主に太陽光が直接当たらない比較的暗い場所に生息する害虫を殺虫対象としているので、青色照射用LED3を8灯並置した青色LEDユニット1は、7×10
17photons・m
-2・s
-1以上の光強度の照射が可能であれば足りる。この条件を達成するためには、例えば、青色照射用LED3を8灯並置した青色LEDユニット1を3基用いればよい。
【0023】
本発明に係る青色光を用いた殺虫機器は、飲食品工場や医薬品工場等における機械駆動部や配電盤等の内奥の、狭くて清掃がしにくい箇所等に用いることを想定して開発されたものであるところ、上記3基の青色LEDユニット1は、コード4で接続された状態でそれぞれ分離されているのでその配置態様に自由性があり、下記のように設置箇所の状況に合わせた配置態様とすることができるという利点がある。
【0024】
図1乃至
図3は、配置する機器の架台ケースの内底面等に比較的広いスペースがあるような場合の配置例を示すもので、その場合は、3基の青色LEDユニット1を当接させて(
図1参照)、あるいは、適宜間隔を置いて(
図2参照)、横並べに配置される。図示した例では、3基の青色LEDユニット1がいずれも上向きにされているが(一次元的照射)、一方の側の又は両側の青色LEDユニット1を横向きにすることもある(二次元的照射)。
【0025】
図4は、機器の架台ケースの内底面等にL字形に配置する場合の配置例を示すものである。この配置例においても、3基の青色LEDユニット1のすべてが上向きにされる場合(
図4参照)と、一部が横向きにされる場合とがある。また、
図5は、例えば、青色LEDユニット1を機器の架台ケースの内底面と内側面とに設置するような場合の配置例を示すもので、図示した例では、1基の青色LEDユニット1が内壁面に設置され、2基の青色LEDユニット1が内底面に一直線上に配置されている。この配置例においても、一部の青色LEDユニット1が横向きにされる場合がある。なお、青色LEDユニット1の配置固定には、必要に応じ、接着材、両面テープ、磁石等が用いられる。
【0026】
本発明に係る青色光を用いた殺虫機器は、小麦粉等の粉体を扱う製粉工場や食品工場等の粉体が飛散しやすい環境下で使用されることもある。そのような環境下においては、粉体や塵埃が青色照射用LED3に付着し、対象個所に対する青色光の照射強度が落ちて、青色照射用LED3による昆虫類の殺虫作用とその発生防止作用が阻害されるおそれがある。そこで、一実施形態においては、複数の青色LEDユニット1が、透光性樹脂製の透光ケース5内に配置される。
【0027】
図6、7はその実施形態を示すもので、そこに示される透光ケース5は円形を呈するものであり、回転駆動機構を配備したベース6と、ベース6上に配置される複数の青色LEDユニット1と、ベース6上の複数の青色LEDユニット1を被覆する透明カバー7とから成る。この構成の場合、青色LEDユニット1から発せられる青色光は、透明カバー7を通して対象部に照射されることになる。
【0028】
回転駆動機構の駆動軸8はベース6の上面中央部から突出し、更に透明カバー7を突き抜けて伸び、その先端にワイパー9が取り付けられる。ワイパー9は、少なくとも透明カバー7の上面を払拭し得る棒状のものとされるが、好ましくは、L字形のものとされ、透明カバー7の上面から側面にかけて払拭可能にされる。ワイパー9の透明カバー7に接触する部分には、樹脂、ゴム、繊維等の払拭部材10が配備される。
【0029】
ベース6上に複数配置される青色LEDユニット1は、例えば、三角形状に組まれて配置される。即ち、連結された3基又は6基の青色LEDユニット1が三角形状に配置される。6台の青色LEDユニット1を用いる場合、内側の三角形を構成する3台が上向きにされ、外側の三角形を構成する3台が横向きにされることがある。そのようにした場合は、広範囲に亘って比較的均一な照射が可能となる。
【0030】
この実施形態の場合、ベース6内の回転駆動機構を継続的に、間欠的に、あるいは、定期的に作動させることで、駆動軸8を介してワイパー9が回転駆動される。かくして、透明カバー7の上面から側面にかけて付着する粉体や塵埃が随時ワイパー9によって払拭されるので、粉体や塵埃が透明カバー7の上面から側面にかけて付着し、対象個所に対する青色光の照射強度が落ちて、青色照射用LED3による昆虫類の殺虫作用とその発生防止作用が阻害されるおそれがなくなる。
【0031】
上記のとおり本発明に係る青色光を用いた殺虫機器の場合は、複数基の青色LEDユニット1が、コード4で接続された状態でそれぞれ分離されて構成されているので、その配置態様に自由性がある。そのため、飲食品工場や医薬品工場等における機械駆動部や配電盤等の内奥の、狭くて清掃がしにくい箇所等に用いるのに好適で、その設置箇所の状況に応じた配置にて設置することにより、その設置箇所に発生している昆虫類を殺虫すると共にその発生を有効に防止することができ、更に、粉塵等による青色LEDユニット1からの照射量の減衰抑止対策もなされており、その産業上の利用可能性は大である。
【符号の説明】
【0032】
1 青色LEDユニット
2 筐体
3 青色照射用LED
4 コード
5 透光ケース
6 ベース
7 透明カバー
8 駆動軸
9 ワイパー
10 払拭部材