(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような荷電粒子線装置では、電子銃のフィラメントが消耗して、電子線の照射量が変化してしまう。例えば、熱電子放出型の電子銃の場合、フィラメント(エミッタ)は1カ月〜数カ月程度で消耗してしまう。そのため、上記のテーブルを用いてプローブ電流量を設定する場合、精度よくプローブ電流量を設定するためには、ユーザーは頻繁にテーブルを更新する必要がある。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、容易に、精度よく、荷電粒子線の照射量を制御することできる荷電粒子線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る荷電粒子線装置は、
荷電粒子線源と、
照射対象に照射される荷電粒子線の照射量を制御する光学系と、
前記照射対象に照射される荷電粒子線の照射量を測定する照射量測定部と、
荷電粒子線の照射量と、前記光学系の光学条件と、が関連付けられた履歴情報を記憶する記憶部と、
前記履歴情報に基づき前記光学系を制御し、制御された前記光学系の光学条件に基づき前記履歴情報を更新する制御部と、
を含
み、
前記制御部は、
前記履歴情報に含まれる照射量の情報から、目標照射量と一致するものがあるか否かを判定する第1処理と、
前記第1処理において一致するものがあると判定した場合に、前記履歴情報に含まれる、一致した照射量の情報に関連付けられた前記光学系の光学条件に基づいて、前記光学系を制御する第2処理と、
を行う。
【0009】
このような荷電粒子線装置では、例えばフィラメントの劣化やフィラメントの交換により荷電粒子線源から放出される荷電粒子線の量が変化した場合であっても、ユーザーが照射量と光学系の光学条件とを関連付けたテーブル等を更新する必要がない。したがって、このような荷電粒子線装置では、容易に、精度よく荷電粒子線の照射量を制御することができる。特に、設定頻度の高い照射量については、短時間で設定することができる。
また、このような荷電粒子線装置では、履歴情報に基づき光学系を制御するため、設定頻度の高い照射量については、荷電粒子線の照射量の測定回数を減らすことができ、荷電粒子線の照射量を短時間で設定可能である。
【0010】
(2)本発明に係る荷電粒子線装置において、
前記制御部は、
前記照射量測定部で測定された照射量の目標照射量に対する誤差を計算し、誤差が所定値未満の場合に、前記目標照射量を前記光学系の光学条件と関連づけて前記記憶部に記憶させて前記履歴情報を更新してもよい。
【0011】
このような荷電粒子線装置では、制御部が履歴情報を更新するため、ユーザーが照射量と光学系の光学条件とを関連付けたテーブル等を更新する必要がなく、容易に精度よく荷電粒子線の照射量を制御することができる。
【0014】
(
3)本発明に係る荷電粒子線装置において、
前記制御部からの制御信号に基づき前記光学系を駆動する光学系駆動部を含み、
前記光学系駆動部は、
前記照射対象に照射される荷電粒子線の照射量を第1ステップ幅で変更する第1照射量変更部と、
前記照射対象に照射される荷電粒子線の照射量を前記第1ステップ幅よりも大きい第2ステップ幅で変更する第2照射量変更部と、
を有し、
前記制御部は、
前記第2処理の後に、前記照射量測定部で測定された照射量の情報を取得する第3処理と、
前記照射量測定部で測定された照射量の前記目標照射量に対する誤差を算出する第4処理と、
誤差が第1の値以上第2の値未満の場合に、照射量が前記目標照射量となるように前記第1照射量変更部を制御する第5処理と、
誤差が前記第2の値以上の場合に、照射量が前記目標照射量となるように前記第2照射量変更部を制御する第6処理と、
を行ってもよい。
【0015】
このような荷電粒子線装置では、荷電粒子線の照射量を、広範囲かつ高精度に設定することができる。
【0016】
(
4)本発明に係る荷電粒子線装置において、
前記制御部は、
誤差が前記第1の値未満の場合に、前記目標照射量と、前記第2処理における前記光学系の光学条件と、を関連付けて前記記憶部に記憶させて前記履歴情報を更新する第7処理を行ってもよい。
【0017】
このような荷電粒子線装置では、制御部が履歴情報を更新するため、ユーザーが照射量と光学系の光学条件とを関連付けたテーブル等を更新する必要がなく、容易に精度よく荷電粒子線の照射量を制御することができる。
【0018】
(
5)本発明に係る荷電粒子線装置において、
前記第5処理では、
前記第1照射量変更部を制御した後に、前記照射量測定部で測定された照射量の情報を取得して前記目標照射量に対する誤差を計算する処理と、
誤差が所定値以上か否かを判定する処理と、
を行い、
誤差が所定値以上と判定した場合には、再び、前記第1照射量変更部を制御した後に前記照射量測定部で測定された照射量の情報を取得して前記目標照射量に対する誤差を計算する処理、および誤差が所定値以上か否かを判定する処理を行い、
これらの処理が繰り返された回数が所定回数以上の場合に、前記履歴情報から前記目標照射量と一致する照射量の情報を削除する第8処理を行ってもよい。
【0019】
このような荷電粒子線装置では、履歴情報から、荷電粒子線の照射量の設定に不要なデータを削除することができる。
【0020】
(
6)本発明に係る荷電粒子線装置において、
前記第6処理では、
前記第2照射量変更部を制御した後に、前記照射量測定部で測定された照射量の情報を取得して前記目標照射量に対する誤差を計算する処理と、
誤差が所定値以上か否かを判定する処理と、
を行い、
誤差が所定値以上と判定した場合には、再び、前記第2照射量変更部を制御した後に前記照射量測定部で測定された照射量の情報を取得して前記目標照射量に対する誤差を計算する処理、および誤差が所定値以上か否かを判定する処理を行い、
これらの処理が繰り返された回数が所定回数以上の場合に、前記履歴情報から前記目標照射量と一致する照射量の情報を削除する第9処理を行ってもよい。
【0021】
このような荷電粒子線装置では、履歴情報から、荷電粒子線の照射量の設定に不要なデータを削除することができる。
【0022】
(
7)本発明に係る荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子線源は、熱電子放出型の電子銃であってもよい。
【0023】
このような荷電粒子線装置では、電子銃のフィラメントの劣化、フィラメントの交換などにより電子銃から放出される荷電粒子線の量が変化したとしても、ユーザーが照射量と光学系の光学条件とを関連付けたテーブル等を更新する必要がない。したがって、このよ
うな荷電粒子線装置では、容易に、精度よく荷電粒子線の照射量を制御することができる。
【0024】
(
8)本発明に係る荷電粒子線装置において、
前記照射対象は、荷電粒子線が照射されることによりX線を発生させるX線ターゲットであってもよい。
【0025】
(
9)本発明に係る荷電粒子線装置において、
前記照射対象は、荷電粒子線が照射されることにより蒸発する蒸発材料であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0028】
また、以下では、本発明に係る荷電粒子線装置として、電子線を照射して分析を行う電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を例に挙げて説明するが、本発明に係る荷電粒子線装置は電子線以外の荷電粒子線(イオン等)を照射して分析や加工を行う装置であってもよい。本発明に係る荷電粒子線装置は、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)、オージェ電子分光装置、X線光電子分光装置などの電子銃を備えた分析装置、電子ビーム蒸着装置などの電子銃を備えた加工装置であってもよい。
【0029】
1. 電子プローブマイクロアナライザー
まず、本実施形態に係る電子プローブマイクロアナライザーについて、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る電子プローブマイクロアナライザー100の構成を示す図である。
【0030】
電子プローブマイクロアナライザー100は、電子線EBを試料Sに照射して電子線EBの照射に応じて試料Sから発生する特性X線を検出して分析を行う装置である。電子プローブマイクロアナライザー100は、
図1に示すように、電子銃11と、集束レンズ12と、偏向器13と、対物レンズ14と、試料ステージ15と、二次電子検出器17と、エネルギー分散型X線検出器18と、波長分散型X線分光器19と、ファラデーカップ20と、電流計22と、集束レンズ駆動装置30(光学系駆動部の一例)と、処理部40と、操作部50と、表示部52と、記憶部54と、を含む。
【0031】
電子銃11は、電子線EBを発生させる。電子銃11は、所定の加速電圧で加速された電子線EBを試料Sに向けて放出する。電子銃11は、例えば、熱電子放出型の電子銃である。熱電子放出型の電子銃では、金属を高温で加熱したときに、電子がエネルギー障壁を越えて真空中に放出される現象(熱電子放出)を利用した電子銃である。熱電子放出型の電子銃の陰極には、例えば、タングステンフィラメント、六硼化ランタンチップ(LaB
6)等が用いられる。
【0032】
集束レンズ12は、電子銃11の後段(電子線EBの下流側)に配置されている。集束レンズ12は、電子線EBを集束させるためのレンズである。集束レンズ12は、試料Sに照射される電子線EBの照射量(照射電流量)、すなわちプローブ電流量を制御する。プローブ電流量は、試料Sに照射される電子プローブ(電子線EB)内を流れる電流量である。
【0033】
偏向器13は、集束レンズ12の後段に配置されている。偏向器13は、電子線EBを偏向させることができる。
【0034】
対物レンズ14は、偏向器13の後段に配置されている。対物レンズ14は、電子線EBを集束させて試料Sに照射する。
【0035】
試料ステージ15は、試料Sを支持することができる。試料ステージ15上には、試料Sが載置される。図示はしないが、モーター等の駆動源を備えるステージ移動機構によって、試料ステージ15を移動させることができる。
【0036】
二次電子検出器17は、試料Sから放出された二次電子を検出するための検出器である。二次電子検出器17の出力信号は、電子線EBの走査信号と同期して記憶装置に記憶される。これにより、二次電子像(SEM像)を得ることができる。
【0037】
エネルギー分散型X線検出器18は、X線をエネルギーで弁別し、スペクトルを得るための検出器である。エネルギー分散型X線検出器18は、電子線EBを試料Sに照射することにより試料Sから発生する特性X線を検出する。
【0038】
波長分散型X線分光器19は、複数の分光素子(分光結晶)19aと、X線検出器19bと、を含んで構成されている。波長分散型X線分光器19は、広い波長範囲の測定を可能とするために、結晶面間隔が異なる複数の分光素子19aを有している。波長分散型X線分光器19は、試料Sから発生する特性X線を、分光素子19aでのブラッグ反射を利用して特定波長のX線に分離し、X線検出器19bで検出する。
【0039】
ファラデーカップ20は、プローブ電流を測定するための装置である。ファラデーカップ20は、電子銃11から放出された電子(電子線EB)を捕捉する導電性(例えば金属製)のカップを備えている。ファラデーカップ20で捕捉された電子(電子線EB)は、電流計22で電流として計測される。ファラデーカップ20および電流計22は、試料Sに照射される電子線EBの照射量(プローブ電流)を測定する照射量測定部として機能する。なお、プローブ電流を測定する照射量測定部は、ファラデーカップ20および電流計22に限定されない。
【0040】
ファラデーカップ20は、
図1に示す例では、集束レンズ12の後段に配置されている。ファラデーカップ20は、集束レンズ12と偏向器13との間に配置されている。
図1では、ファラデーカップ20が光学系の光軸上に配置されており、ファラデーカップ20でプローブ電流を測定している状態を図示している。なお、図示はしないが、試料Sに電子線EBを照射する際には、ファラデーカップ20を光軸上から退避させる。
【0041】
集束レンズ駆動装置30は、処理部40からの制御信号に基づき、集束レンズ12を駆動する。集束レンズ駆動装置30は、微調整用回路32(ファイン調整用回路、第1照射量変更部)と、粗調整用回路34(コース調整用回路、第2照射量変更部)と、集束レンズ用電源36と、を含んで構成されている。
【0042】
微調整用回路32は、プローブ電流を第1ステップ幅で変更する。粗調整用回路34は、プローブ電流を第1ステップ幅よりも大きい第2ステップ幅で変更する。すなわち、微調整用回路32は、プローブ電流量の微調整を行うために用いられ、粗調整用回路34は、プローブ電流量の粗調整を行うために用いられる。第1ステップ幅は、等間隔であってもよいし、等間隔でなくてもよい。また、第2ステップ幅は、等間隔であってもよいし、等間隔でなくてもよい。いずれの場合であっても、第2ステップ幅は、第1ステップ幅よりも大きい。
【0043】
集束レンズ駆動装置30が微調整用回路32と粗調整用回路34とを有することにより、プローブ電流を広範囲かつ高精度に設定することができる。
【0044】
微調整用回路32および粗調整用回路34は、処理部40からの制御信号(デジタル信号)を受け付けて、当該制御信号に基づくアナログ信号を集束レンズ用電源36に送る。集束レンズ用電源36は、微調整用回路32の出力信号(DAC出力)と粗調整用回路34の出力信号(DAC出力)とを重畳(加算)し、当該重畳(加算)された信号に基づく励磁電流を集束レンズ12に供給する。
【0045】
図2は、微調整用回路32および粗調整用回路34を説明するための図である。
【0046】
図2には、微調整用回路32から出力されるレンズ設定値(DAC出力)および粗調整用回路34から出力されるレンズ設定値(DAC出力)を示している。レンズ設定値は、集束レンズ12に供給される励磁電流をプローブ電流量が所定の関数に従って変化するように置き換えたものである。例えば、プローブ電流量の対数がレンズ設定値と線形関係になるような関数であってもよい。具体的には、微調整用回路32のレンズ設定値をCL
Fとした場合、プローブ電流量Irは、
logIr=CL
F×a+b・・・(1)
で表される。ただし、a、bは、任意の数である。
【0047】
また、粗調整用回路34のレンズ設定値をCL
Cとした場合、プローブ電流量Irは、
logIr=CL
C×c+d・・・(2)
で表される。ただし、c、dは、任意の数である。
【0048】
粗調整用回路34のレンズ設定値の間隔は、微調整用回路32のレンズ設定値の間隔よりも大きい。
図2に示す例では、粗調整用回路34のレンズ設定値の間隔は、微調整用回路32のレンズ設定値の間隔の8倍である。微調整用回路32の調整可能範囲は、粗調整用回路34のレンズ設定値の間隔よりも大きい。微調整用回路32の調整可能範囲の中心(図示の例では「8」と「9」の間)は、粗調整用回路34のレンズ設定値の間隔の中心(または略中心)に位置するように構成されている。
【0049】
操作部50は、ユーザーによる操作に応じた操作信号を取得し、処理部40に送る処理を行う。操作部50は、例えば、ボタン、キー、タッチパネル型ディスプレイ、マイクなどである。
【0050】
表示部52は、処理部40によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRTなどにより実現できる。
【0051】
記憶部54は、処理部40が各種の計算処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部54は、処理部40の作業領域として用いられ、処理部40が各種プログラムに従って実行した算出結果等を一時的に記憶するためにも使用される。記憶部54の機能は、ハードディスク、RAMなどにより実現できる。
【0052】
記憶部54には、履歴情報2が記憶されている。履歴情報2は、プローブ電流量と、集束レンズ12の光学条件と、が関連付けられた情報である。より具体的には、履歴情報2は、電子プローブマイクロアナライザー100でこれまでに設定されたプローブ電流量と、設定されたプローブ電流量に対する誤差が所定値未満であるときの集束レンズ12の光学条件とが関連付けられた情報である。履歴情報2では、例えば、プローブ電流量と集束レンズ12の光学条件とがリストになっている。集束レンズ12の光学条件は、例えば、集束レンズ12に供給される励磁電流量で表される。なお、集束レンズ12の光学条件は、微調整用回路32のレンズ設定値および粗調整用回路34のレンズ設定値で表されてもよい。
【0053】
記憶部54には、さらに、上記式(1)および上記式(2)が記憶されている。
【0054】
処理部40(CPU)は、後述する「2. 処理」で説明するように、履歴情報2に基づき集束レンズ12を制御する処理、制御された集束レンズ12の光学条件に基づき履歴情報2を更新する処理、履歴情報2の一部を削除する処理などを行う。このように、処理部40は、集束レンズ12を制御する制御部として機能する。
【0055】
また、処理部40は、集束レンズ12の光学条件を記憶部54に記憶させる処理を行う。例えば、処理部40は、集束レンズ12の光学条件を変更した場合には、記憶部54に記憶されている集束レンズ12の光学条件を更新する。すなわち、記憶部54に記憶されている集束レンズ12の光学条件を読み出すことで、現在の集束レンズ12の光学条件を取得することができる。
【0056】
また、処理部40は、操作部50からの操作信号に応じた各種の処理、表示部52に各種の情報を表示させる処理などの処理を行う。処理部40の機能は、各種プロセッサ(CPU等)で記憶部54に記憶されたプログラムを実行することにより実現することができる。
【0057】
2. 処理
次に、処理部40の集束レンズ12を制御する処理、すなわちプローブ電流を設定する処理について、図面を参照しながら説明する。
図3は、電子プローブマイクロアナライザー100の処理部40の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0058】
まず、処理部40は、ユーザーがプローブ電流の設定を開始する指示(開始指示)を行ったか否かを判断し(ステップS10)、開始指示が行われるまで待機する(ステップS10のNO)。処理部40は、例えば、操作部50から開始指示が入力された場合に、ユーザーが開始指示を行ったと判断する。
【0059】
処理部40は、開始指示が行われたと判定した場合(ステップS10のYES)、プローブ電流の測定が行われたか否かを判定する(ステップS12)。処理部40は、記憶部54に、プローブ電流量の測定結果が記憶されている場合には、プローブ電流の測定が行われた(測定済み)と判定する。
【0060】
処理部40は、プローブ電流の測定が行われていると判定した場合(ステップS12のYES)、記憶部54に記憶されているプローブ電流量を読み出し、現在のプローブ電流量の情報を取得する。
【0061】
例えば、EPMAの測定を行う時以外は、ファラデーカップ20が光軸上に配置されるような設定の場合、開始指示が行われる直前のプローブ電流の測定結果が記憶部54に記
憶されている。そのため、現在の集束レンズ12の光学条件におけるプローブ電流量として、この記憶部54に記憶されているプローブ電流の測定結果を用いることができる。したがって、後述するステップS14の処理を行わなくてもよく、開始指示が行われた後に、ファラデーカップ20を用いてプローブ電流を測定する回数を減らすことができる。これにより、プローブ電流の設定にかかる時間を短縮できる。プローブ電流量は微小であるため、プローブ電流量の測定に時間を要する。そのため、プローブ電流を測定する回数を減らすことは、プローブ電流の設定にかかる時間を短縮するために、特に有効である。
【0062】
処理部40は、プローブ電流の測定が行われていないと判定した場合(ステップS12のNO)、電流計22から、現在のプローブ電流量の測定結果を取得する(ステップS14)。このとき、ファラデーカップ20は光軸上に配置されており、ファラデーカップ20で捕捉された電子(電子線EB)が電流計22で電流として測定される。この測定結果を処理部40が取得する。
【0063】
次に、処理部40は、取得したプローブ電流量(現在のプローブ電流量)と目標電流量(目標照射量)とを比較する。具体的には、処理部40は、取得したプローブ電流量(現在のプローブ電流量)の目標電流量に対する誤差E(E=|プローブ電流量−目標電流量|/目標電流量)を計算する。そして、処理部40は、算出された誤差EがA%未満か、A%以上かを判定する(ステップS16)。
【0064】
なお、目標電流量は任意の値に設定可能であり、例えばユーザーが操作部50を操作することで設定できる。また、「A%」は、プローブ電流量を設定する際の精度を表しており、要求されるプローブ電流量の精度に応じて適宜設定可能である。
【0065】
処理部40は、誤差EがA%未満と判定した場合(ステップS16のE<A)、要求されるプローブ電流量の精度が満たされているため、処理を終了する。
【0066】
処理部40は、誤差EがA%以上と判定した場合(ステップS16のE≧A)、記憶部54に記憶されている履歴情報2に含まれるプローブ電流量の情報(リスト)のなかから、目標電流量と一致するものがあるか否かを判定する(ステップS18)。
【0067】
処理部40は、履歴情報2に含まれるプローブ電流量の情報(リスト)のなかに、目標電流量と一致するものがあると判定した場合(ステップS18のYES)、履歴情報2に含まれる、一致したプローブ電流量の情報に関連付けられた集束レンズ12の光学条件の情報を取得する(ステップS20)。
【0068】
次に、処理部40は、履歴情報2に基づき集束レンズ12の光学条件を制御する(ステップS24)。具体的には、処理部40は、集束レンズ12の光学条件を、履歴情報2に含まれる、ステップS20で取得した集束レンズ12の光学条件とするための制御信号を生成する。処理部40は、生成した制御信号を、集束レンズ駆動装置30に送る。この結果、集束レンズ駆動装置30が当該制御信号に基づき集束レンズ12を駆動し、集束レンズ12が履歴情報2に含まれる光学条件となる。
【0069】
次に、処理部40は、電流計22から、現在のプローブ電流量の測定結果を取得する(ステップS26)。
【0070】
次に、処理部40は、取得したプローブ電流量(現在のプローブ電流量)と目標電流量とを比較する。具体的には、処理部40は、取得したプローブ電流量(現在のプローブ電流量)の目標電流量に対する誤差Eを計算する。そして、処理部40は、求めた誤差EがA%未満、A%以上B%未満、またはB%以上かを判定する(ステップS28)。
【0071】
なお、「B%」は、例えば微調整用回路32の調整可能範囲に基づき設定され、誤差EがB%未満の場合には、現在のプローブ電流量と目標電流量との差が微調整用回路32の調整可能範囲に含まれるような値に設定される。
【0072】
処理部40は、誤差EがA%未満であると判定した場合(ステップS28のE<A)、要求されるプローブ電流量の精度が満たされているため、プローブ電流を設定する処理を停止する(ステップS36)。
【0073】
処理部40は、誤差EがA%以上B%未満であると判定した場合(ステップS28のA≦E<B)、微調整用回路32の設定(ステップS34)を行う前段階として、粗調整用回路34の設定を行う(ステップS30)。
【0074】
具体的には、現在の微調整用回路32のレンズ設定値が下限に近く(例えば、
図2に示す例では微調整用回路32のレンズ設定値が「3」以下の場合)、目標電流量と現在のプローブ電流との差が負であり(目標電流量−現在のプローブ電流量<0)、かつ、粗調整用回路34のレンズ設定値が下限ではない(
図2に示す例では粗調整用回路34のレンズ設定値が「1」ではない場合)、粗調整用回路34のレンズ設定値を「−1」する。例えば、現在の粗調整用回路34のレンズ設定値が「3」であって、上記の条件を満たす場合、粗調整用回路34のレンズ設定値を「2」にする。
【0075】
また、現在の微調整用回路32のレンズ設定値が上限に近く(例えば、
図2に示す例では「14」以上の場合)、目標電流量と現在のプローブ電流との差が正であり(目標電流量−現在のプローブ電流量>0)、かつ、粗調整用回路34のレンズ設定値が上限ではない(
図2に示す例では「5」ではない場合)、粗調整用回路34のレンズ設定値を「+1」する。例えば、現在の粗調整用回路34のレンズ設定値が「3」であって、上記の条件を満たす場合、粗調整用回路34のレンズ設定値を「4」にする。
【0076】
また、これらの条件を満たさない場合、処理部40は、粗調整用回路34のレンズ設定値を変更しない。
【0077】
上記のように、微調整用回路32の設定を行う前段階として、粗調整用回路34の設定を行うことにより、微調整用回路32の設定(ステップS34)において、微調整用回路32のレンズ設定値を調整可能範囲の中心付近の値とすることができる。この結果、微調整用回路32の設定(ステップS34)の際に、微調整用回路32の調整可能範囲を超えないようにすることができる。
【0078】
処理部40は、粗調整用回路34の設定(ステップS30)の後に、プローブ電流が目標電流量となるように微調整用回路32の設定(制御)を行う(ステップS34)。
【0079】
処理部40は、誤差EがB%以上であると判定した場合(ステップS28のE≧B)、プローブ電流が目標電流量となるように粗調整用回路34の設定(制御)(ステップS32)、および微調整用回路32の設定(制御)を行う(ステップS34)。
【0080】
また、処理部40は、履歴情報2に含まれるプローブ電流量の情報のなかに、目標電流量と一致するものがないと判定した場合(ステップS18のNO)、誤差EがB%以上であると判定した場合(ステップS28のE≧B)と同様に、粗調整用回路34の設定(ステップS32)、および微調整用回路32の設定を行う(ステップS34)。
【0081】
なお、粗調整用回路34の設定(ステップS32)および微調整用回路32の設定(ス
テップS34)を行う処理については後述する。
【0082】
処理部40は、プローブ電流量が目標電流量となるように微調整用回路32の設定を行った後(ステップS34の後)、プローブ電流を設定する処理を停止する(ステップS36)。
【0083】
次に、処理部40は、履歴情報2を、更新(または追加)する(ステップS38)。具体的には、処理部40は、目標電流量と、誤差EがA%未満と判定されたときの集束レンズ12の光学条件とを関連づけて履歴情報2として記憶部54に記憶させる。このとき、履歴情報2に、目標電流量と同じプローブ電流量の情報が含まれている場合には、当該プローブ電流量に関連付けられた集束レンズ12の光学条件の情報を更新する。また、履歴情報2に、目標電流量が含まれていない場合には、履歴情報2に、新たに、目標電流量および集束レンズ12の光学条件の情報を追加する。
【0084】
なお、ステップS38の処理において、誤差EがA%未満と判定されたときの集束レンズ12の光学条件の情報は、ステップS28において誤差EがA%未満であると判定された場合(ステップS28のE<A)には、ステップS24で設定(制御)された集束レンズ12の光学条件である。また、微調整用回路32の設定(ステップS34)が行われた場合には、ステップS34で設定(制御)された集束レンズ12の光学条件(より具体的には後述するステップS331で設定された集束レンズ12の光学条件)である。
【0085】
以上の処理により、プローブ電流を設定することができる。
【0086】
図4は、微調整用回路32を設定(制御)する処理(ステップS32)の一例を示すフローチャートである。
【0087】
処理部40は、まず、微調整用回路32の設定を行う(ステップS321)。具体的には、微調整用回路32のレンズ設定値を中心付近(
図2に示す例では「8」または「9」)にする。これにより、微調整用回路32の設定(ステップS34)において、微調整用回路32のレンズ設定値を調整可能範囲の中心付近の値とすることができる。この結果、微調整用回路32の設定(ステップS34)の際に、微調整用回路32の調整可能範囲を超えないようにすることができる。
【0088】
次に、処理部40は、電流計22から、現在のプローブ電流量の測定結果を取得する(ステップS322)。
【0089】
次に、処理部40は、目標電流量と現在のプローブ電流量(ステップS322で取得したプローブ電流量)との差に基づいて、粗調整用回路34の設定(レンズ設定値の設定)を行う(ステップS323)。
【0090】
例えば、処理部40は、目標電流量と現在のプローブ電流との差が負の場合(目標電流量−現在のプローブ電流量<0)、粗調整用回路34のレンズ設定値を「−1」する。また、処理部40は、目標電流量と現在のプローブ電流との差が正の場合(目標電流量−現在のプローブ電流量>0の場合)、粗調整用回路34のレンズ設定値を「+1」する。なお、目標電流量と現在のプローブ電流量との差が大きい場合には、当該差に応じて粗調整用回路34のレンズ設定値を変更してもよい。すなわち、当該差が大きいほど、レンズ設定値の変更の度合いを大きくしてもよい。
【0091】
次に、処理部40は、電流計22から、現在のプローブ電流量の測定結果を取得する(ステップS324)。
【0092】
処理部40は、取得したプローブ電流量(現在のプローブ電流量)と目標電流量とを比較する。具体的には、処理部40は、取得したプローブ電流量(現在のプローブ電流量)の目標電流量に対する誤差Eを計算する。そして、処理部40は、求めた誤差EがC%未満か、C%以上かを判定する(ステップS325)。
【0093】
なお、「C%」は、粗調整用回路34のレンズ設定値の間隔に基づき設定され、例えば、誤差Eが「C%」未満の場合には、目標電流量と現在のプローブ電流量との差が粗調整用回路34のレンズ設定値の間隔(1目盛り分)よりも小さくなるような値に設定される。
【0094】
処理部40は、誤差EがC%以上と判定した場合(ステップS325のE≧C)、ステップS323の処理、ステップS324の処理、ステップS325の処理が規定回数以上繰り返されたか否かを判定する処理を行う(ステップS326)。
【0095】
処理部40は、ステップS323〜ステップS325の処理が規定回数以上繰り返されていないと判定した場合(ステップS326のNO)、ステップS323に戻って、ステップS323の処理、ステップS324の処理、ステップS325の処理を行う。処理部40は、誤差EがC%未満と判定されるまで(ステップS325のE<C)、または、ステップS323〜ステップS325の処理が規定回数以上繰り返されたと判定されるまで(ステップS326のYES)、ステップS323〜ステップS326の処理を繰り返し行う。なお、ステップS326の処理における規定回数は、任意の数に設定可能である。
【0096】
処理部40は、誤差EがC%未満と判定した場合(ステップS325のE<C)、粗調整用回路34の設定(ステップS323の処理で設定されたレンズ設定値)と、その設定において測定されたプローブ電流量(ステップS324の処理で取得したプローブ電流量)と、に基づいて、記憶部54に記憶されている上記式(2)を更新する(ステップS327)。処理部40は、例えば、粗調整用回路34の設定(レンズ設定値)とプローブ電流量との組み合わせを2つ以上取得し、上記式(2)の「c」、「d」の値を求める。そして、処理部40は、記憶部54に記憶されている上記式(2)の「c」、「d」の値を新たに求めた値に変更して上記式(2)を更新する。
【0097】
以上の処理により、粗調整用回路34の設定を終了する。
【0098】
なお、処理部40は、ステップS323〜ステップS325の処理が規定回数以上繰り返されたと判定した場合(ステップS326のYES)、プローブ電流を設定する処理を停止する(ステップS328)。
【0099】
次に、処理部40は、履歴情報2のなかから、目標電流量と一致するプローブ電流量の情報を検索する。そして、処理部40は、履歴情報2のなかに、目標電流量と一致するプローブ電流量の情報があった場合には、履歴情報2から、当該プローブ電流量の情報およびこのプローブ電流量の情報に関連付けられた集束レンズ12の光学条件を削除する(ステップS329)。そして、処理部40は、処理を終了する。なお、処理部40は、一致するプローブ電流量の情報が無かった場合には、ただちに処理を終了する。
【0100】
図5は、微調整用回路32を設定(制御)する処理(ステップS34)の一例を示すフローチャートである。
【0101】
処理部40は、まず、目標電流量と現在のプローブ電流量との差に基づいて、微調整用回路32の設定(レンズ設定値の設定)を行う(ステップS331)。
【0102】
例えば、処理部40は、目標電流量と現在のプローブ電流との差が負の場合(目標電流量−現在のプローブ電流量<0)、微調整用回路32のレンズ設定値を「−1」する。また、処理部40は、目標電流量と現在のプローブ電流との差が正の場合(目標電流量−現在のプローブ電流量>0の場合)、微調整用回路32のレンズ設定値を「+1」する。なお、目標電流量と現在のプローブ電流量との差が大きい場合には、当該差に応じて粗調整用回路34のレンズ設定値を変更してもよい。すなわち、当該差が大きいほど、レンズ設定値の変更の度合いを大きくしてもよい。
【0103】
次に、処理部40は、電流計22から、現在のプローブ電流量の測定結果を取得する(ステップS332)。
【0104】
処理部40は、取得したプローブ電流量(現在のプローブ電流量)と目標電流量とを比較する。具体的には、処理部40は、取得したプローブ電流量(現在のプローブ電流量)の目標電流量に対する誤差Eを計算する。そして、処理部40は、求めた誤差EがA%未満か、A%以上かを判定する(ステップS333)。
【0105】
処理部40は、誤差EがA%以上と判定した場合(ステップS333のE≧A)、ステップS331の処理、ステップS332の処理、ステップS333の処理が規定回数以上繰り返されたか否かを判定する処理を行う(ステップS334)。
【0106】
処理部40は、ステップS331〜ステップS333の処理が規定回数以上繰り返されていないと判定した場合(ステップS334のNO)、ステップS331に戻って、ステップS331の処理、ステップS332の処理、ステップS333の処理を行う。処理部40は、誤差EがA%未満と判定されるまで(ステップS333のE<A)、または、ステップS331〜ステップS333の処理が規定回数以上繰り返されたと判定されるまで(ステップS334のYES)、ステップS331〜ステップS334の処理を繰り返し行う。なお、ステップS334の処理における規定回数は、任意の数に設定可能である。
【0107】
処理部40は、誤差EがA%未満と判定した場合(ステップS333のE<A)、微調整用回路32の設定(ステップS331の処理で設定されたレンズ設定値)と、その設定において測定されたプローブ電流量(ステップS332の処理で取得したプローブ電流量)と、に基づいて、記憶部54に記憶されている上記式(1)を更新する(ステップS335)。処理部40は、例えば、微調整用回路32の設定(レンズ設定値)とプローブ電流量との組み合わせを2つ以上取得し、上記式(1)の「a」、「b」の値を求める。そして、処理部40は、記憶部54に記憶されている上記式(1)の「a」、「b」の値を新たに求めた値に変更して上記式(1)を更新する。
【0108】
以上の処理により、微調整用回路32の設定を終了する。
【0109】
なお、処理部40は、ステップS331〜ステップS333の処理が規定回数以上繰り返されたと判定した場合(ステップS334のYES)、プローブ電流を設定する処理を停止する(ステップS336)。
【0110】
次に、処理部40は、履歴情報2のなかから、目標電流量と一致するプローブ電流量の情報を検索する。そして、処理部40は、履歴情報2のなかに、目標電流量と一致するプローブ電流量の情報があった場合には、履歴情報2から、当該プローブ電流量の情報およびこのプローブ電流量の情報に関連付けられた集束レンズ12の光学条件を削除する(ステップS337)。そして、処理部40は、処理を終了する。なお、処理部40は、一致するプローブ電流量の情報が無かった場合には、ただちに処理を終了する。
【0111】
電子プローブマイクロアナライザー100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0112】
電子プローブマイクロアナライザー100では、処理部40は、履歴情報2に基づき集束レンズ12を制御し、制御された集束レンズ12の光学条件に基づき履歴情報2を更新する。そのため、電子プローブマイクロアナライザー100では、例えば電子銃11のフィラメントの劣化やフィラメントの交換により電子銃11から放出される電子線EBの量が変化した場合であっても、ユーザーがプローブ電流と集束レンズ12の光学条件とを関連付けたテーブル等を更新する必要がない。また、プローブ電流量を一度設定すれば、そのときの集束レンズ12の光学条件が記憶されるため、プローブ電流の測定回数を少なくでき、プローブ電流を設定するための時間を短縮できる。特に、設定頻度の高いプローブ電流量は、履歴情報2に基づく集束レンズ12の光学条件の設定のみで設定できる場合が多くなり、短時間で、高い精度でのプローブ電流の設定ができる。したがって、電子プローブマイクロアナライザー100では、容易に、精度よくプローブ電流を制御することができる。
【0113】
例えば、あらかじめプローブ電流と集束レンズ12の光学条件が関連付けられたテーブルや関数などを準備する場合、ユーザーは、電子銃11のフィラメントの劣化やフィラメントの交換によりプローブ電流量が変化した場合には、テーブル等をつくり直さなければならない。これに対して、電子プローブマイクロアナライザー100では、処理部40が履歴情報2を更新するため、ユーザーがテーブル等を更新する必要がない。
【0114】
また、例えば、集束レンズ12の光学条件を変化させつつプローブ電流量を測定して、最小二乗法などによりプローブ電流量を目標電流量に近づける手法では、プローブ電流量を測定する回数が多くなってしまう。そのため、最小二乗法を用いた手法では、プローブ電流の設定に時間がかかってしまう。これに対して、電子プローブマイクロアナライザー100では、履歴情報2に基づき集束レンズ12を制御するため、例えば最小二乗法を用いた手法と比べて、プローブ電流の測定の回数を少なくすることができ、短時間でプローブ電流を設定することができる。
【0115】
電子プローブマイクロアナライザー100では、処理部40は、ファラデーカップ20で測定されたプローブ電流量の、目標電流量に対する誤差Eを計算し、計算された誤差Eが所定値未満の場合に、目標電流量と、誤差EがA%未満と判定されたときの集束レンズ12の光学条件と、を関連付けて記憶部54に記憶させて履歴情報2を更新する(ステップS38)。このように、電子プローブマイクロアナライザー100では、処理部40が履歴情報2を更新するため、ユーザーがテーブル等を更新する必要がなく、容易に精度よくプローブ電流を制御することができる。
【0116】
電子プローブマイクロアナライザー100では、処理部40は、履歴情報2に含まれるプローブ電流量の情報から、目標電流量と一致するものがあるか否かを判定する第1処理(ステップS18)と、当該第1処理において一致するものがあると判定した場合に、目標電流量と一致したプローブ電流量の情報に関連付けられた集束レンズ12の光学条件に基づいて、集束レンズ12を制御する第2処理(ステップS24)と、を行う。
【0117】
このように、電子プローブマイクロアナライザー100では、履歴情報2に基づき集束レンズ12を制御することができるため、例えば、設定頻度の高いプローブ電流については、ファラデーカップ20でのプローブ電流の測定回数を減らすことができ、短時間でプローブ電流を設定可能である。
【0118】
電子プローブマイクロアナライザー100では、処理部40は、目標電流量と一致した
プローブ電流量の情報に関連付けられた集束レンズ12の光学条件に基づいて、集束レンズ12を制御する第2処理(ステップS24)の後に、ファラデーカップ20で測定されたプローブ電流量の情報を取得する第3処理(ステップS26)と、測定されたプローブ電流量の目標電流量に対する誤差Eを算出する第4処理(ステップS28)と、誤差EがA%(第1の値)以上B%(第2の値)未満の場合に、プローブ電流量が目標電流量となるように微調整用回路32を制御する第5処理(ステップS34)と、誤差EがB%以上の場合に、プローブ電流量が目標電流量となるように粗調整用回路34を制御する第6処理(ステップS32)と、を行う。
【0119】
そのため、電子プローブマイクロアナライザー100では、プローブ電流を広範囲かつ高精度に設定することができる。
【0120】
電子プローブマイクロアナライザー100では、処理部40は、誤差EがA%未満の場合に、目標電流量と、誤差EがA%未満と判定されたときの集束レンズ12の光学条件(ステップS24またはステップS331で設定された集束レンズ12の光学条件)と、を関連付けて記憶部54に記憶させる第7処理(ステップS38)を行う。このように、電子プローブマイクロアナライザー100では、処理部40が履歴情報2を更新するため、容易に精度よくプローブ電流を設定することができる。
【0121】
電子プローブマイクロアナライザー100では、プローブ電流量が目標電流量となるように微調整用回路32を制御する第5処理(ステップS34)では、微調整用回路32を設定した後に(ステップS331の後に)、測定されたプローブ電流量の情報を取得して(ステップS332)目標電流量に対する誤差Eを計算する処理(ステップS333)を行い、誤差EがA%以上と判定した場合(ステップS333のE≧A)には、再び、ステップS331〜ステップS333の処理を行い、これらの処理(ステップS331〜333)が繰り返された回数が所定回数以上の場合に、履歴情報2から目標電流量と一致する照射量の情報を削除する第8処理(ステップS337)を行う。
【0122】
そのため、電子プローブマイクロアナライザー100では、履歴情報2から、プローブ電流の設定に不要なデータを削除することができる。
【0123】
また、電子プローブマイクロアナライザー100では、プローブ電流量が目標電流量となるように粗調整用回路34を制御する第6処理(ステップS32)では、粗調整用回路34を設定した後に(ステップS323の後に)、測定されたプローブ電流量の情報を取得して(ステップS324)目標電流量に対する誤差Eを計算する処理(ステップS325)を行い、誤差EがC%以上と判定した場合(ステップS324のE≧C)には、再び、ステップS323〜ステップS325の処理を行い、これらの処理(ステップS323〜325)の処理が繰り返された回数が所定回数以上の場合に、履歴情報2から目標電流量と一致する照射量の情報を削除する第9処理(ステップS329)を行う。
【0124】
そのため、電子プローブマイクロアナライザー100では、履歴情報2から、プローブ電流の設定に不要なデータを削除することができる。
【0125】
電子プローブマイクロアナライザー100では、電子銃11は、熱電子放出型の電子銃である。熱電子放出型の電子銃の場合、フィラメントは短い期間(例えば1カ月〜数カ月)で消耗してしまう。電子プローブマイクロアナライザー100では、フィラメントが消耗しても(またはフィラメントを交換しても)、ユーザーがテーブル等を更新する必要がないため、容易に精度よくプローブ電流を設定することができる。
【0126】
3. 変形例
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0127】
3.1. 第1変形例
上述した実施形態では、集束レンズ12が試料Sに照射される電子線の照射量(すなわちプローブ電流)を制御する光学系である例について説明したが、プローブ電流を制御する光学系は集束レンズ12に限定されない。
【0128】
例えば、プローブ電流を制御する光学系は、通過する電子線の量を調整する絞りであってもよい。絞りの孔径(電子線を通過させる開口の大きさ)を変えることで、プローブ電流を制御することができる。この場合、履歴情報2は、プローブ電流量と、絞りの光学条件(すなわち孔径)と、が関連付けられた情報である。
【0129】
また、プローブ電流を制御する光学系は、集束レンズ12および絞りであってもよい。すなわち、集束レンズ12および絞りの両方によって、プローブ電流を制御してもよい。この場合、履歴情報2は、プローブ電流量と、集束レンズ12の光学条件(励磁電流)および絞りの光学条件(孔径)と、が関連付けられた情報である。
【0130】
また、プローブ電流の制御には、集束レンズ12や絞りに加えて、加速電圧(電子銃11の陰極と陽極との間に印加される電圧)などの光学条件を制御してもよい。この場合、履歴情報2は、プローブ電流と、光学系(集束レンズや絞り)の光学条件および加速電圧と、が関連付けられた情報である。
【0131】
本変形例によれば、上述した実施形態と同様に、容易に精度よくプローブ電流を設定することができる。
【0132】
3.2. 第2変形例
上述した実施形態では、記憶部54に記憶されている履歴情報2に含まれるプローブ電流量の情報のなかに、目標電流量と一致するものがあるか否かを判定する処理(
図3に示すステップS18)を行った。ステップS18の処理は、これに限定されず、履歴情報2に含まれるプローブ電流と目標電流量との一致度合いに応じて判定してもよい。
【0133】
例えば、履歴情報2に含まれるプローブ電流の目標電流量に対する誤差が、所定の値未満の場合にステップS20の処理を行い、所定の値以上の場合にステップS32の処理を行ってもよい。これにより、履歴情報2に含まれるプローブ電流量と目標電流量とが完全に一致していなくても、履歴情報2に含まれるプローブ電流の目標電流量に対する誤差が小さい場合には、履歴情報2に基づきプローブ電流を設定することができる。
【0134】
本変形例によれば、上述した実施形態と同様に、容易に精度よくプローブ電流を設定することができる。
【0135】
3.3. 第3変形例
上述した実施形態では、電子線が照射される照射対象が試料Sであったが、照射対象は試料Sに限定されない。例えば、上述した実施形態では、本発明に係る荷電粒子線装置として電子プローブマイクロアナライザーを例に挙げて説明したが、本発明に係る荷電粒子線装置はX線を試料に照射して分析を行う分析装置(例えばX線光電子分光装置(XPS))であってもよい。このような分析装置では、X線源が電子銃とX線ターゲットとを含んで構成されており、電子銃から放出された電子線がX線ターゲットに照射されることによりX線を発生させる。この場合、照射対象は、電子線が照射されることによりX線を発生させるX線ターゲットである。
【0136】
また、例えば、本発明に係る荷電粒子線装置は、電子ビーム蒸着装置などの加工装置であってもよい。例えば、電子ビーム蒸着装置では、電子銃から放出された電子線を蒸発材料に照射し、蒸発材料を加熱、蒸発させることで、基板やレンズ等の被成膜物へ薄膜を形成する。この場合、照射対象は、電子線が照射されることにより蒸発する蒸発材料である。
【0137】
また、例えば、上述した実施形態および各変形例では、照射対象に照射される荷電粒子線として電子線を例に挙げて説明したが、照射対象に照射される荷電粒子線は電子線に限定されず、例えば、イオンなどであってもよい。すなわち、本発明に係る荷電粒子線装置は、荷電粒子線源として電子銃を搭載した装置に限定されず、例えば、イオン銃を搭載した装置であってもよい。
【0138】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0139】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。