(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
任意の車両内の移動情報端末のセンサーから得られるセンサーデータと前記車両の状態量との関係を予め学習した状態推定器を用いて、監視対象車両内の移動情報端末のセンサーから得られるセンサーデータから前記監視対象車両の状態量を推定する状態推定部と、
前記状態推定部により推定された前記監視対象車両の状態量に基づいて、前記監視対象車両の状態に関する評価を行う状態評価部と、
前記状態評価部による前記監視対象車両の状態に関する前記評価の結果を出力する評価結果出力部と、を備え、
前記状態推定器は、前記移動情報端末の前記センサーから得られる加速度データ及び速度データと、前記車両の状態量として当該車両のブレーキ動作の有無のデータを学習データとして学習済みであり、
前記状態推定部は、前記監視対象車両内の移動情報端末のセンサーから得られる加速度データ及び速度データから前記監視対象車両のブレーキ動作の有無を推定し、前記状態評価部は、推定された前記監視対象車両のブレーキ動作の有無に基づいて、前記監視対象車両のブレーキの状態を評価する
車両状態監視装置。
前記評価結果出力部は、前記監視対象車両のブレーキの状態、前記監視対象車両の現在の異常度、及び前記監視対象車両の異常度の推移の中から1以上の項目について評価結果を出力する
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両状態監視装置。
前記任意の車両内の移動情報端末のセンサーから得られるセンサーデータと前記車両の状態量との関係を予め学習し、前記状態推定器を作成する推定器学習部、を更に備える
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の車両状態監視装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態の例について、添付図面を参照しながら説明する。添付図面において実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。なお、添付図面は本発明の原理に則った具体的な実施形態と実装例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0012】
<1.第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る車両状態監視システムの全体構成及び各装置の内部構成の一例を示す。
【0013】
[車両状態監視システム]
図1に示す車両状態監視システム100は、ユーザー(乗客)が携帯する移動情報端末110、車両状態監視装置120、及び情報端末130から構成されている。移動情報端末110と車両状態監視装置120はネットワークN1を介して、車両状態監視装置120と情報端末130はネットワークN2を介して、互いに通信可能に接続されている。ネットワークN1は、移動通信システムのネットワークである。ネットワークN2は、移動通信システム又はインターネット等のネットワークである。ネットワークN1とネットワークN2は、同一でもよい。
【0014】
車両状態監視システム100では、移動情報端末110が自動車C内にあることが前提である。車両状態監視装置120が、任意の移動情報端末のセンサーデータと自動車Cの状態監視に必要な自動車の状態量の計測データを学習データとし、移動情報端末110のセンサーデータから自動車Cの状態量を推定する推定器123a(状態推定モデル:状態推定器の一例)を予め作成する。そして、車両状態監視装置120は、推定器123aと移動情報端末110のセンサーデータにより、OBDからは直接取得することのできない自動車Cの状態を把握し、自動車Cの状態監視をより高精度に行う。
【0015】
[移動情報端末]
移動情報端末110は、一般に普及しているスマートフォンやタブレット型端末、ゲーム機などであり、ユーザーが携帯可能な通信機器である。移動情報端末110は、ユーザーによって自動車C内に持ち込まれる。移動情報端末110は、加速度センサーなど少なくとも一つ以上のセンサー111を備えており、状態監視の対象とする自動車Cの中に置かれているとする。移動情報端末110は、センサー111として加速度センサー309及び衛星測位部310(後述する
図3参照)を備える。衛星測位部310のセンサーデータ(以下「衛星測位データ」とも称する)から時間と移動距離との関係(速度)を計算することができる。そして、移動情報端末110では、センサーデータ取得部112として機能するアプリケーションが実行される。
【0016】
センサーデータ取得部112は、センサー111からセンサーデータを定期的に取得し、リサンプリングなど適切な処理を行った上で、ネットワークN1を介して当該センサーデータを車両状態監視装置120へ送信する処理を行う。なお、センサーデータ取得部112は、センサーデータ以外の、OBDデータなど移動情報端末110を介して得られるデータを車両状態監視装置120に送信してもよい。
【0017】
図1では監視対象の車両を自動車Cとしているが、自動車Cに限らず移動可能な種々の車両を監視対象とすることができる。例えば、監視対象として、道路交通法上の車両(自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバス)や路面電車、各産業用の車両、軍用車両、鉄道車両などが挙げられる。
【0018】
[車両状態監視装置]
車両状態監視装置120は、移動情報端末110から送信されるデータの蓄積及び処理を行うための演算処理機能や記憶機能を有するコンピューターであり、例えば運送会社や運行管理業者等のデータセンターに配置される。車両状態監視装置120は、データ入力部121、状態推定部122、推定器学習部123、状態評価部124、及び評価結果出力部125を有する。
【0019】
データ入力部121は、ネットワークN1を介して、移動情報端末110のセンサーデータ取得部112から出力されたセンサーデータを受信し、受信したセンサーデータを状態推定部122へ出力する。
【0020】
推定器学習部123は、自動車内に置かれた移動情報端末が備えるセンサーから出力されるセンサーデータと、車両の状態量との関係とを予め学習し、任意の自動車の状態量を推定する推定器123a(状態推定器の一例)を作成する。例えば推定器学習部123は、
図2に示すような各時刻における移動情報端末センサーデータD1(センサー値)と、自動車の状態量データD2(状態量の値)が組になったデータを学習データ200として用いる。そして、推定器学習部123は、この学習データ200を用いて機械学習などを行い、移動情報端末110が備えるセンサー111から出力されるセンサーデータから自動車の状態量を推定する推定器123aを作成する。機械学習には、教師あり学習を用いるパターン認識モデルの一つであり線形入力素子を利用して2クラスのパターン識別器を構成するサポートベクターマシンや、深層型ニューラルネットワークであるディープラーニング等を用いることができる。自動車は、車種に応じて大きさ、重量、性能等が異なるため、推定器123aは自動車の車種ごとに作成される。
【0021】
(学習データの構成例)
図2は、第1の実施形態に係る学習データの構成例を示す。
図2に示すように、学習データ200は、「時刻データ」、「移動情報端末センサーデータD1」、「自動車の状態量データD2」を有する。移動情報端末センサーデータD1は項目S1,S2…を有し、自動車の状態量データD2は項目A1,A2,A3を有する。本実施形態では、移動情報端末センサーデータD1は加速度データであり、自動車の状態量データD2はブレーキ動作の有無である。
【0022】
図1の車両状態監視装置120の説明に戻る。状態推定部122は、推定器学習部123から与えられる学習済みの推定器123aを用いて、自動車C内の移動情報端末110のセンサーから得られるセンサーデータから、自動車Cの状態を評価するのに必要な状態量(以下「状態推定値」と呼称することがある)を推定する。そして、状態推定部122は、推定した自動車Cの状態量(状態推定値)を状態評価部124へ出力する。
【0023】
なお、学習済みの推定器123aを車両状態監視装置120内に予め格納しておくことにより、推定器学習部123を不要とすることができる。また、学習済み推定器123aを車両状態監視装置120の外部のサーバー等に格納し、車両状態監視装置120に適宜呼び出せる構成としてもよい。
【0024】
状態評価部124は、状態推定部122により推定された自動車Cの状態量(状態推定値)に基づいて、安全や危険などの自動車Cの状態に関する評価を行う。本実施形態では、状態評価部124は、自動車Cのブレーキの状態(例えばブレーキのきき具合)、自動車Cの現在の異常度、又は自動車Cの異常度の推移の中から1以上の項目について評価を行う。
【0025】
評価結果出力部125は、状態評価部124による自動車Cの状態に関する評価の結果(状態評価結果)を、ネットワークN2を介して情報端末130へ送信する。
【0026】
[情報端末]
情報端末130は、パーソナルコンピューター(PC)、スマートフォンなどの移動情報端末である。情報端末130では、状態評価結果通知部131として機能するアプリケーションが実行される。この情報端末130は移動情報端末110と同一であってもよい。
【0027】
状態評価結果通知部131は、車両状態監視装置120の評価結果出力部125から送信された自動車Cの状態に関する評価の結果を、情報端末130の画面に表示する処理を行う(後述する
図9参照)。
【0028】
[移動情報端末(情報端末)のハードウェア構成例]
次に、移動情報端末110のハードウェア構成を説明する。
図3は、移動情報端末110のハードウェア構成例を示すブロック図である。ここでは、移動情報端末110が備えるコンピューター300のハードウェア構成を説明する。なお、情報端末130が移動情報端末である場合には、情報端末130のハードウェア構成は、
図3に示すような構成にすることができる。
【0029】
コンピューター300は、バス304にそれぞれ接続されたCPU(Central Processing Unit)301、ROM(Read Only Memory)302、RAM(Random Access Memory)303を備える。さらに、コンピューター300は、表示部305、操作部306、不揮発性ストレージ307、ネットワークインターフェース308、加速度センサー309、及び衛星測位部310を備える。
【0030】
CPU301は、本実施形態に係る各機能(センサーデータ取得部112の機能等)を実現するソフトウェアのプログラムコードをROM302から読み出して実行する。なお、コンピューター300は、CPU301の代わりに、MPU(Micro-Processing Unit)等の処理装置を備えるようにしてもよい。情報端末130が移動情報端末110と同一である場合には、ROM302に状態評価結果通知部131の機能を実現するプログラムコードが格納される。
【0031】
RAM303には、演算処理の途中に発生した変数やパラメーター等が一時的に書き込まれる。表示部305は、例えば、液晶ディスプレイモニタであり、コンピューター300で行われる処理の結果等を表示する。操作部306には、例えばタッチパネルが用いられ、ユーザーがタッチ操作による入力や指示を行うことが可能である。
【0032】
不揮発性ストレージ307としては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード等が用いられる。この不揮発性ストレージ307には、OS(Operating System)や各種のパラメーターの他に、コンピューター300を機能させるためのプログラムが記録されていてもよい。例えば不揮発性ストレージ307に、センサーデータ取得部112の機能等に相当するプログラムやデータ等が記憶されていてもよい。
【0033】
ネットワークインターフェース308は、CPU301の制御の下で、例えばアクセスポイントを介して移動通信システムを構成するネットワークN1に接続し、ネットワークN1に接続された車両状態監視装置120と通信を行う。情報端末130が移動情報端末110と同一である場合には、ネットワークN1とネットワークN2は同一でもよい。
【0034】
加速度センサー309は、移動情報端末110のセンサー111の一例であり、加速度(速度の変化率)を計測する。加速度センサー309には、例えば3軸加速度センサーを用いることができるが、加速度の計測方式は特に限定されない。なお、CPU301が加速度センサー309の加速度データを積分することにより、速度を算出することが可能である。
【0035】
衛星測位部310は、衛星測位システムの受信機であり、移動情報端末110のセンサー111の一例である。衛星測位部310として、例えば全地球測位システム(GPS:Global Positioning System)の受信機を用いることができる。GPS受信機は複数のGPS衛星からの電波を受信してそれぞれとの距離を割り出すことにより、GPS受信機が搭載された移動情報端末の現在位置(位置情報)を測定する。なお、CPU301が衛星測位部310の衛星測位データを微分することにより、速度を算出することが可能である。
【0036】
[車両状態監視装置のハードウェア構成例]
次に、車両状態監視装置120のハードウェア構成を説明する。
図4は、車両状態監視装置120のハードウェア構成例を示すブロック図である。ここでは、車両状態監視装置120が備えるコンピューター400のハードウェア構成を説明する。
【0037】
コンピューター400は、バス404にそれぞれ接続されたCPU401、ROM402、RAM403を備える。さらに、コンピューター400は、表示部405、操作部406、不揮発性ストレージ407、及びネットワークインターフェース408を備える。
【0038】
CPU401は、本実施形態に係る各機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをROM402から読み出して実行する。なお、コンピューター400は、CPU401の代わりに、MPU等の処理装置を備えるようにしてもよい。なお、CPU401は移動情報端末110から送信される加速度データを積分することにより、速度を算出することができる。また、CPU401が移動情報端末110から送信される衛星測位データを微分することにより、速度を算出することができる。
【0039】
RAM403には、演算処理の途中に発生した変数やパラメーター等が一時的に書き込まれる。表示部405は、例えば、液晶ディスプレイモニタであり、コンピューター400で行われる処理の結果等を表示する。操作部406には、例えば、キーボード、マウス又はタッチパネル等が用いられ、ユーザーが所定の入力操作、指示を行うことが可能である。
【0040】
不揮発性ストレージ407としては、例えば、HDD、SSD、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード等が用いられる。この不揮発性ストレージ407には、OSや各種のパラメーターの他に、コンピューター400を機能させるためのプログラムが記録されていてもよい。例えば不揮発性ストレージ407に、
図1に示した各ブロック部の機能に相当するプログラムが記憶されていてもよい。
【0041】
ネットワークインターフェース408は、CPU401の制御の下で、ネットワークN2に接続し、ネットワークN2に接続された情報端末130と通信を行う。情報端末130がパーソナルコンピューターである場合には、ネットワークN2としてインターネットやLANを利用することができる。ネットワークインターフェース408は、一例としてNIC(Network Interface Card)が用いられ、ネットワークN2を介して車両状態監視装置120と情報端末130間で各種のデータを送受信する。なお、ネットワークN1とネットワークN2の通信プロトコルが同一ではない場合には、車両状態監視装置120のコンピューター400は、それぞれのネットワークの通信プロトコルに対応したネットワークインターフェースを備える。
【0042】
なお、情報端末130がパーソナルコンピューターである場合には、情報端末130のハードウェア構成は、
図4に示すような構成にすることができる。
【0043】
[車両状態監視手法の手順]
次に、本実施形態に係る車両状態監視システム100における車両状態監視手法の手順を説明する。
【0044】
まず、車両状態監視装置120は、自動車Cの状態監視を行う前に、学習データ200を取得し、推定器学習部123により、予め移動情報端末のセンサーデータから自動車の状態量を推定する推定器123aを作成しておく。学習データ200は、自動車の状態量を計測可能なセンサーを取り付けた学習データ取得用の自動車を用意し、自動車の状態量を計測可能なセンサーのセンサーデータと移動情報端末のセンサーデータとを同時に計測可能な状態にした上で取得する。
【0045】
次に、推定器123aを作成した後の、車両状態監視システム100における車両状態監視手法の手順を説明する。
【0046】
図5は、推定器123aを作成した後の、車両状態監視システム100における車両状態監視手法の手順を示すフローチャートである。移動情報端末110(
図3のコンピューター300)のCPU301がROM302に記録されたプログラムを実行することにより、
図5に示すステップS501の処理が実行される。また、車両状態監視装置120(
図4のコンピューター400)のCPU401がROM402に記録されたプログラムを実行することにより、
図5に示すステップS502〜S504の処理が実行される。
【0047】
まず、自動車C内の移動情報端末110のセンサーデータ取得部112は、移動情報端末110に搭載されたセンサー111からセンサーデータを取得し、ネットワークN1を介して、そのセンサーデータを車両状態監視装置120に送信する(S501)。車両状態監視装置120のデータ入力部121は、ネットワークN1を介して移動情報端末110からセンサーデータの入力を受け付けて、そのセンサーデータを状態推定部122へ出力する。
【0048】
次に、状態推定部122が、学習済みの推定器123aと、移動情報端末110から受信したセンサーデータとから、自動車Cの状態を監視するのに必要な状態量を推定する(S502)。状態推定部122は、推定した自動車Cの状態量(状態推定値)を状態評価部124へ出力する。
【0049】
次に、状態評価部124は、状態推定部122により推定された状態量に基づいて、安全や危険などの自動車Cの状態に関する評価値を計算する(S503)。そして、評価結果出力部125は、状態評価部124による自動車Cの状態に関する評価値を、評価結果としてネットワークN2を介して、情報端末130へ送信する。
【0050】
最後に、情報端末130の状態評価結果通知部131が、車両状態監視装置120から送信された自動車Cの状態に関する評価値を、情報端末130の画面(例えば
図3の表示部305)に表示する(S504)。車両状態監視システム100は、ステップS504の処理後、車両状態監視手法の一連の処理を終了する。
【0051】
[推定器作成方法]
本実施形態の適用事例として、車両状態監視装置120を用いて自動車のブレーキの状態(一例としてブレーキのきき具合)を監視することを考える。
【0052】
自動車のブレーキ(制動装置)の状態監視を行うためには、少なくともブレーキ動作の有無を知る必要があるが、移動情報端末110はブレーキの動作を直接検知可能なセンサーを搭載していない。そこで、本実施形態では、推定器学習部123を用いて事前に、移動情報端末110のセンサーデータからブレーキの動作を検知可能な推定器123aを作成する。
【0053】
推定器123aを作成するために必要な学習データは、ブレーキ動作を検知可能なセンサーを搭載した自動車を用意し、ブレーキ動作を検知可能なセンサーのセンサーデータと移動情報端末のセンサーデータとを同時に計測可能な状態にした上で取得する。ブレーキ動作を検知可能なセンサーには、一例としてフットブレーキのペダルの位置を検出するスイッチが用いられる。また、ブレーキ動作の検知には、ブレーキの動作を含む自動車の動作に関するあらゆる情報を収集可能なCAN(Controller Area Network)データを利用してもよい。学習データを取得する際は、自動車を十分な距離及び時間を走行させて学習データを取得することが望ましい。なお、本実施形態では、移動情報端末110のセンサーデータとして、加速度及び速度を取得可能又は算出可能とする。
【0054】
推定器123aは、学習データから以下のように作成される。路面の勾配を無視すると、自動車の進行方向の運動方程式は、式(1)のように書ける。
【0055】
ma=f−μmg−(1/2)ρAC
dV
2 ・・・・(1)
【0056】
ここで、mは自動車の重量、aは自動車の加速度である。また、fは正の場合は駆動力、負の場合は制動力である。また、gは重力加速度、μは転がり抵抗、ρは空気密度、C
dは抗力係数、Aは車両前面投影面積、Vは自動車の速度である。a、Vに関しては移動情報端末110のセンサーデータから取得することができる。一方、m、μ、C
d、Aなどのパラメーター値は車種ごとに異なり、事前には分からないとする。式(1)は、式(2)のように変形できる。
【0057】
a=−(1/2m)ρAC
dV
2+f/m−μg ・・・・(2)
【0058】
式(2)より、V
2とaを軸とする平面において、ブレーキが作動している時(即ちfが負の時)のデータと、ブレーキが作動していない時(即ちfが正の時)のデータは、下記式(3)に示す直線で分離できることが分かる。
【0059】
a=−(1/2m)ρAC
dV
2−μg ・・・・(3)
【0060】
図6は、移動情報端末110から得られたセンサーデータを用いて推定器123aを作成する方法の一例を説明するためのグラフである。
図6の横軸は自動車の速度の二乗[V
2]であり、縦軸は自動車の加速度[a]である。丸形で示したセンサーデータは、ブレーキ動作有りの場合のデータであり、三角形で示したセンサーデータは、ブレーキ動作無しの場合のデータである。丸形で示したセンサーデータの大部分は、直線601の上側に位置し、三角形で示したセンサーデータの大部分は、直線601の下側に位置する。
【0061】
上記式(3)は、ブレーキが動作している時のデータと、動作していない時のデータを分離する直線601に対応する式である。この直線601に対応する式(3)の各係数は未知であるが、
図6に示すブレーキが動作している時としていない時のデータが、ブレーキ動作を検知可能なセンサーによって判別可能であるならば、直線601をサポートベクターマシンなどの機械学習により求めることができる。この直線601を用いることにより、移動情報端末110のセンサーデータから、自動車の状態としてブレーキ動作の有無を推定することができる。以下では、直線601を学習済み推定器123aとして用いる。
【0062】
[状態推定方法]
次に、ブレーキ動作の有無を推定する推定器123aを作成した後の、本適用事例における処理の流れを説明する。
図7は、自動車C内のセンサーから得られる計測データから自動車Cの状態を推定する方法の一例を示す。
図7の横軸は自動車の速度の二乗[V
2]であり、縦軸は自動車の加速度[a]である。
【0063】
まず、自動車C内の移動情報端末110のセンサーデータ取得部112が、移動情報端末110のセンサーデータとして加速度と速度のデータを取得する。そして、センサーデータ取得部112は、この加速度と速度のデータを車両状態監視装置120に送信する(S501に相当)。
【0064】
次に、車両状態監視装置120の状態推定部122は、移動情報端末110から得られた加速度と速度のデータと、学習済み推定器123aとから、ブレーキ動作の有無を推定する(S502に相当)。具体的には、得られた速度と加速度のデータ(計測データ)が、直線601の上側又は下側のいずれにあるかを判定する。状態推定部122は、
図7に示す計測データ701のように、a>−(1/2m)ρAC
dV
2−μgである場合には、ブレーキ動作有りと推定する。一方、計測データ702のように、a≦−(1/2m)ρAC
dV
2−μgである場合には、ブレーキ動作無しと推定する。
【0065】
次に、状態評価部124は、推定された自動車Cの状態であるブレーキ動作の有無と、移動情報端末110のセンサーデータである加速度及び速度とから、自動車Cの状態に関する評価を行う(S503に相当)。そして、評価結果出力部125は、状態評価部124による評価結果を情報端末130に送信する(S504に相当)。例えば状態評価部124は、自動車Cのブレーキの状態、自動車Cの現在の異常度、及び自動車Cの異常度の推移の中から1以上の項目について評価する(後述する
図9参照)。
【0066】
評価の方法としては、例えば
図8に示すように、ブレーキが動作し始めた時の速度を初期速度、またブレーキが動作してから自動車が停止するまでの距離を制動距離として、その変化をモニタリングし、正常な範囲からの逸脱の程度を異常度として計算する。車両状態監視装置120は、初期速度及び制動距離のデータを、予め学習データとして収集し、不揮発性ストレージ407等に蓄積しておく。自動車が停止するまでの制動距離が長くなると、異常度が大きくなる。状態評価部124は、異常度が所定値よりも大きい場合には、ブレーキのきき具合が悪い、即ちブレーキの状態が異常であると判断する。
【0067】
図8は、自動車の初期速度と制動距離との関係例を示すグラフである。
図8の横軸は初期速度、縦軸は制動距離を表す。異常度の計算は、例えば、マハラノビス距離803などを用いて、計測データ801と正常な学習データで構成されるデータ群802(破線で囲まれる部分)との距離を計算するようにしてもよい。マハラノビス距離とは、多次元のデータが相関を持つ場合などに使用されるものである。例えばマハラノビス距離は、教師なし学習によりデータのパターンを学習し、このデータから著しく外れたデータを異常値として検出する場合などに使用される。
【0068】
最後に、情報端末130の状態評価結果通知部131が、車両状態監視装置120の評価結果出力部125から送信された、自動車Cの状態に関する評価結果を情報端末130の画面に表示する。
【0069】
図9は、情報端末130に表示される自動車Cの状態に関する評価結果の一例を示す。
情報端末130の画面(表示部305)には、ブレーキの状態表示エリア910、現在の異常度表示エリア920、及び異常度の推移表示エリア930が設定されている。
【0070】
ブレーキの状態表示エリア910には、ブレーキの状態が、赤:正常、黄:やや異常、赤:異常というように、道路に設置される信号機を模して表示されている。また、現在の異常度表示エリア920には、現在のブレーキの異常度の値が表示される。さらに、異常度の推移表示エリア930には、過去(例えば5ヶ月前)から現在までのブレーキの異常度の推移がグラフとして表示される。異常度の推移表示エリア930には、ブレーキの状態表示エリア910の赤表示に対応する警告ライン931r、及び、同じく黄表示に対応する注意ライン931yが表示されている。なお、グラフの縦軸と横軸と注意ライン931yで囲まれる領域、及び、注意ライン931yと警告ライン931rと縦軸で囲まれる領域ごとに、領域の表示色(背景色)を変えてもよい。
【0071】
このようにブレーキの状態表示エリア910、現在の異常度表示エリア920、及び異常度の推移表示エリア930を画面に表示することにより、ユーザーは、ブレーキの状態に関する多様な情報に接して、ブレーキの状態を確認及び判断することができる。
【0072】
上述した第1の実施形態によれば、自動車C(監視対象車両)内の移動情報端末110に搭載されたセンサー111のセンサーデータを用いることにより、自動車に搭載されたOBD等の車両診断装置から取得することのできない自動車Cの状態に関する情報(ブレーキ動作の有無、制動距離)を把握し、自動車Cの状態(ブレーキの状態)を監視することを実現している。
【0073】
また、第1の実施形態によれば、OBDデータではなく移動情報端末110に搭載されたセンサー111のセンサーデータを用いることにより、少ない追加のコストで安価に、自動車Cの状態監視を実現できる。
【0074】
さらに、第1の実施形態では、任意の自動車内に置かれた移動情報端末110のセンサー111から出力されるセンサーデータと当該自動車の状態量との関係を予め学習した推定器123aを作成しておく。そして、第1の実施形態では、この推定器123aを用いて、自動車C内に置かれた移動情報端末110のセンサーから得られるセンサーデータから自動車Cの状態量を推定し、この推定した状態量に基づいて自動車Cの状態に関する評価を行う。それにより、第1の実施形態は、学習済みの推定器123aと移動情報端末110に搭載されたセンサー111のセンサーデータとによって、少ない追加のコストで安価に、より高精度に自動車Cの状態監視を実現できる。
【0075】
なお、上述した第1の実施形態では、自動車のブレーキの状態として、ブレーキのきき具合を監視したが、ブレーキパッドの摩耗量など、他の状態を監視してもよいことは勿論である。ブレーキパッドの摩耗量を監視する場合には、一例としてブレーキバッドの取替日(新車納入日)、取替日以降の自動車の走行距離、加速度センサー309の加速度データ、及び、速度データからなる学習データセットを用意して推定器123aを作成する。加速度データ及び速度データは、ブレーキパッドの摩耗量に影響を与えるドライバーの運転の荒さを反映するために使用される。走行距離の積算値は、衛星測位部310の衛星測位データから得られる。また速度データは、衛星測位部310の衛星測位データを積分する、又は加速度センサー309の加速度データを微分することにより得られる。
【0076】
<2.第2の実施形態>
第2の実施形態は、さらに車両状態監視装置が外部データを利用することにより、路面の勾配を考慮して自動車等の車両のブレーキの状態(ブレーキのきき具合)を監視する例である。路面に勾配がある場合、自動車の進行方向(路面と平行な方向)に勾配に応じた重力成分が作用するために、車両のブレーキ動作の有無の判断が変わってくる。必然的に、自動車のブレーキの状態に関する評価も異なるものになる。
【0077】
[車両状態監視システム]
図10は、本発明の第2の実施形態に係る車両状態監視システムの全体構成及び各装置の内部構成の一例を示す。
図10に示す車両状態監視システム1000は、移動情報端末110、車両状態監視装置120A、及び情報端末130から構成されている。車両状態監視システム1000のうち、
図1の車両状態監視システム100(
図1)に示された同一の符号を付された構成要素については、説明を省略する。
【0078】
[車両状態監視装置]
車両状態監視装置120Aは、移動情報端末110から送信されるデータの蓄積及び処理を行うための演算処理機能や記憶機能を有するコンピューターである。車両状態監視装置120Aは、データ入力部121、状態推定部122、推定器学習部123、状態評価部124、評価結果出力部125に加えて、さらに外部データ取得部1010を備える。即ち、車両状態監視装置120Aは、第1の実施形態に係る車両状態監視装置120と比較して、外部データ取得部1010を備える点と、状態推定部122が外部データ取得部1010で取得した外部データ1011も考慮して自動車Cの状態量を推定する点が異なる。
【0079】
本実施形態では、状態推定部122において自動車Cの状態量を推定する際に、移動情報端末110のセンサーデータに加え、地図情報や気象情報などの外部データ1011を用いる。これにより、さらに高精度に自動車Cの状態量を推定し、自動車Cの状態に関する評価を行うことができる。
【0080】
外部データ取得部1010は、自動車内の移動情報端末以外から当該移動情報端末のセンサーデータとは異なる外部データ1011を取得する。例えば外部データ取得部1010は、インターネット上や外部のデータベースにある気象情報や勾配情報を含む地図情報などの外部データ1011を、指示された場合など必要に応じて取得し、状態推定部122に送信する。
【0081】
例えば勾配情報を含む地図情報として、例えば国土地理院から提供される標高データ(例えば数値標高モデル)を用いることができる。標高データには位置ごとに標高の値が登録されており、標高データから一定区間の始点から終点までの勾配が求められる。あるいは、勾配情報を含むものであれば、カーナビゲーションシステムに利用されるような地図情報でもよい。また、気象情報としては、例えば気象庁や気象情報提供会社から提供される気象情報を利用できる。
【0082】
推定器学習部123は、自動車内に置かれた移動情報端末が備えるセンサーから出力されるセンサーデータと、外部データ1011と、車両の状態量との関係を予め学習し、任意の自動車の状態量を推定する推定器123b(状態推定器の一例)を作成する。例えば推定器学習部123は、
図11に示すような各時刻における移動情報端末センサーデータD1(センサー値)と、外部データD3(外部データ値)と、自動車の状態量データD2(状態量の値)が組になったデータを学習データ1100として用いる。そして、推定器学習部123は、この学習データ1100を用いて機械学習などを行い、移動情報端末110が備えるセンサー111から出力されるセンサーデータと外部データ1011から、自動車の状態量を推定する推定器123bを作成する。
【0083】
(学習データの構成例)
図11は、第2の実施形態に係る学習データの構成例を示す。
図11に示すように、学習データ1100は、「時刻データ」、「移動情報端末センサーデータD1」、「外部データD3」、「自動車の状態量データD2」を有する。移動情報端末センサーデータD1は項目S1…、外部データD3は項目E1…、自動車の状態量データD2は項目A1,A2,A3を有する。本実施形態では、移動情報端末センサーデータD1は加速度データ、及び衛星測位部310で測位した自動車の位置情報(衛星測位データ)であり、外部データD3は地図情報(勾配情報)であり、さらに自動車の状態量データD2はブレーキ動作の有無である。
【0084】
図10の車両状態監視装置120Aの説明に戻る。状態推定部122は、推定器学習部123から与えられる学習済みの推定器123bを用いて、自動車C内の移動情報端末110のセンサーから得られるセンサーデータと外部データ1011から、自動車Cの状態を評価するのに必要な状態量を推定する。
【0085】
[車両状態監視手法の手順]
次に、本実施形態に係る車両状態監視システム1000における車両状態監視手法の手順を説明する。
【0086】
まず、第1の実施形態と同様に、車両状態監視装置120Aは、自動車Cの状態監視を行う前に、学習データ1100を取得し、推定器学習部123により、予め移動情報端末のセンサーデータから自動車の状態量を推定する推定器123bを作成しておく。学習データ1100は、自動車の状態量を計測可能なセンサーを取り付けた学習データ取得用の自動車を用意し、自動車の状態量を計測可能なセンサーのセンサーデータと移動情報端末のセンサーデータとを同時に計測可能な状態にした上で取得する。
【0087】
次に、推定器123bを作成した後の、車両状態監視システム1000における車両状態監視手法の手順を説明する。
【0088】
図12は、推定器123bを作成した後の、車両状態監視システム1000における車両状態監視手法の手順を示すフローチャートである。車両状態監視装置120A(
図4のコンピューター400)のCPU401がROM402に記録されたプログラムを実行することにより、
図12に示すステップS1201,S1203〜S1205の処理が実行される。また、移動情報端末110(
図3のコンピューター300)のCPU301がROM302に記録されたプログラムを実行することにより、
図12に示すステップS1202の処理が実行される。なお、
図12のステップS1202〜S1205の処理は、
図5のステップS501〜S504の処理と同じ又は対応するものである。
【0089】
まず、車両状態監視装置120Aの外部データ取得部1010は、外部データ1011から気象情報や地図情報などの必要な情報を取得する(S1201)。
【0090】
また、自動車C内の移動情報端末110のセンサーデータ取得部112は、移動情報端末110に搭載されたセンサー111からセンサーデータを取得し、ネットワークN1を介して、そのセンサーデータを車両状態監視装置120に送信する(S1202)。車両状態監視装置120のデータ入力部121は、ネットワークN1を介して移動情報端末110からセンサーデータの入力を受け付けて、そのセンサーデータを状態推定部122へ出力する。
【0091】
次に、状態推定部122が、学習済みの推定器123bと、移動情報端末110から受信したセンサーデータと、外部データ取得部1010で取得した外部データ1011とから、自動車Cの状態を監視するのに必要な状態量を推定する(S1203)。状態推定部122は、推定した自動車Cの状態量(状態推定値)を状態評価部124へ出力する。
【0092】
次に、状態評価部124は、状態推定部122により推定された状態量に基づいて、安全や危険などの自動車Cの状態に関する評価値を計算する(S1204)。そして、評価結果出力部125は、状態評価部124による自動車Cの状態に関する評価値を、評価結果としてネットワークN2を介して、情報端末130へ送信する。
【0093】
最後に、情報端末130の状態評価結果通知部131が、車両状態監視装置120から送信された自動車Cの状態に関する評価値を、情報端末130の画面(例えば
図3の表示部305)に表示する(S1205)。車両状態監視システム100は、ステップS1205の処理後、車両状態監視手法の一連の処理を終了する。
【0094】
[推定器作成方法]
本実施形態の適用事例として、車両状態監視装置120Aを用い、路面の勾配を考慮して自動車のブレーキの状態(一例としてブレーキのきき具合)を監視することを考える。本実施形態では、移動情報端末のセンサーデータとして、加速度、速度、衛星測位部310の衛星測位データ(例えばGPSデータ)を取得可能又は算出可能とする。また、外部データ1011として、勾配情報を含む地図情報が利用可能とする。
【0095】
地図情報(勾配情報)を反映した推定器123bは、学習データから以下のように作成される。路面の勾配(一例として走行した路面での平均値)をθとすると、自動車の進行方向の運動方程式は、式(4)のように書ける。
【0096】
ma=f−μmgcosθ−(1/2)ρAC
dV
2−mgsinθ・・・・(4)
【0097】
なお、一般に自動車が走行した路面(走行距離)に対して勾配を有する路面の割合は小さいので、式(4)は式(5)のように近似することができる。
【0098】
ma=f−μmg−(1/2)ρAC
dV
2−mgθ ・・・・(5)
【0099】
ここで、mは自動車の重量、aは自動車の加速度である。また、fは正の場合は駆動力、負の場合は制動力である。また、gは重力加速度、μは転がり抵抗、ρは空気密度、C
dは抗力係数、Aは車両前面投影面積、Vは自動車の速度である。a、Vに関しては移動情報端末110のセンサーデータから取得することができる。また、θに関しては、移動情報端末110の衛星測位部310の衛星測位データと勾配情報を持つ地図情報とを用いることにより取得することができる。一方、m、μ、C
d、Aなどのパラメーター値は車種ごとに異なり、事前には分からないとする。式(5)は、式(6)のように変形できる。
【0100】
a+gθ=−(1/2m)ρAC
dV
2+f/m−μg ・・・・(6)
【0101】
式(6)より、V
2とa+θを軸とする平面において、ブレーキが作動している時(即ちfが負の時)のデータと、ブレーキが作動していない時(即ちfが正の時)のデータは、下記式(7)に示す直線で分離できることが分かる。
【0102】
a+gθ=−(1/2m)ρAC
dV
2−μg ・・・・(7)
【0103】
図13は、移動情報端末110から得られたセンサーデータを用いて推定器123bを作成する方法の一例を説明するためのグラフである。
図13の横軸は自動車の速度の二乗[V
2]であり、縦軸は自動車の加速度と勾配に応じた重力成分との加算値[a+gθ]である。丸形で示したセンサーデータは、ブレーキ動作有りの場合のデータであり、三角形で示したセンサーデータは、ブレーキ動作無しの場合のデータである。丸形で示したセンサーデータの大部分は、直線1301の上側に位置し、三角形で示したセンサーデータの大部分は、直線1301の下側に位置する。説明の便宜上、
図13に示したセンサーデータと、
図6に示したセンサーデータが同じであるが、実際には異なると考えてよい。
【0104】
直線1301は、
図6の直線601と同様に、サポートベクターマシンなどの機械学習により求めることができる。この直線1301を用いることにより、移動情報端末110のセンサーデータと、外部データ1101(勾配情報を含む地図情報)から、自動車の状態として勾配を考慮したブレーキ動作の有無を推定することができる。以下では、直線1301を学習済み推定器123bとして用いる。
【0105】
[状態推定方法]
次に、路面の勾配を考慮してブレーキ動作の有無を推定する推定器123bを作成した後の、本適用事例における処理の流れを説明する。
図14は、自動車C内のセンサーから得られる計測データから自動車Cの状態を推定する方法の一例を示す。
図14の横軸は自動車の速度の二乗[V
2]であり、縦軸は自動車の加速度と勾配に応じた重力成分との加算値[a+gθ]である。基本的な処理の流れは、第1の実施形態の場合と同じである。
【0106】
まず、車両状態監視装置120Aの外部データ取得部1010は、外部データ1011から勾配情報を含む地図情報を取得する(S1201に相当)。一方、自動車C内の移動情報端末110のセンサーデータ取得部112が、移動情報端末110のセンサーデータとして加速度と速度、衛星測位データを取得する。そして、センサーデータ取得部112は、この加速度と速度のデータを車両状態監視装置120Aに送信する(S1202に相当)。
【0107】
次に、車両状態監視装置120の状態推定部122は、移動情報端末110から得られた加速度と速度、外部データ取得部1010が取得した勾配情報を含む外部データ1011と、学習済み推定器123aとから、ブレーキ動作の有無を推定する(S1203に相当)。具体的には、得られた速度と加速度と進行方向の重力成分のデータ(計測データ)が、直線1301の上側又は下側のいずれにあるかを判定する。状態推定部122は、
図14に示す計測データ1401のように、a+gθ>−(1/2m)ρAC
dV
2−μgである場合には、ブレーキ動作有りと推定する。一方、計測データ1402のように、a+gθ≦−(1/2m)ρAC
dV
2−μgである場合には、ブレーキ動作無しと推定する。
【0108】
これ以降の状態評価部124による自動車Cに関する状態の評価結果の計算(S1204に相当)、情報端末130による自動車Cに関する状態の評価結果の表示(S1205に相当)に関しては、第1の実施形態と同様である。
【0109】
上述した第2の実施形態は、移動情報端末110のセンサーデータから自動車Cの状態を推定する推定器123bを作成することで第1の実施形態と同様の効果を奏するとともに、次のような効果も奏する。第2の実施形態は、車両状態監視装置120Aが勾配情報を含む地図情報(外部データ1011)を利用することにより、路面の勾配を考慮して自動車等Cのブレーキの状態(ブレーキのきき具合)を監視することができる。このように、第2の実施形態は、外部データとして勾配情報を含む地図情報を利用することにより、さらに高精度に自動車等の車両の状態監視を実現できる。
【0110】
なお、上述した第2の実施形態では、外部データとして地図情報を利用して自動車のブレーキの状態を推定したが、他の情報を用いてもよいことは勿論である。例えば制動距離は気象条件に左右されるため、地図情報に代えて気象情報を用いて、自動車のブレーキの状態を推定してもよい。また、地図情報と気象情報の両方を用いて、自動車のブレーキの状態を推定することで、さらにより高精度に自動車等の車両の状態監視を行うようにしてもよい。
【0111】
また、第2の実施形態において、自動車のブレーキパッドの摩耗量を監視する構成としてもよい。
【0112】
本発明は上述した各実施形態例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
【0113】
例えば、上述した実施形態例は本発明を分かりやすく説明するために装置及びシステムの構成を詳細且つ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態例の構成の一部を他の実施形態例の構成に置き換えることは可能である。また、ある実施形態例の構成に他の実施形態例の構成を加えることも可能である。また、各実施形態例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0114】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。
【0115】
また、上述した本開示の実施形態に係る車両状態監視装置120,120Aの各構成要素は、それぞれのハードウェアがネットワークを介して互いに情報を送受信できるならば、いずれのハードウェアに実装されてもよい。また、ある処理部により実施される処理が、1つのハードウェアにより実現されてもよいし、複数のハードウェアによる分散処理により実現されてもよい。