【実施例】
【0021】
図1は、クランクピン50、コンロッド70、及びコンロッド70の大端部71に内装されるコンロッド軸受1からなる軸受装置2の構造を示す断面図である。
【0022】
クランクピン50は、円筒胴部55と、円筒胴部55内を通して延びる潤滑油路51と、円筒胴部55の外周面54に形成された、潤滑油路51の少なくとも1つの出口開口52とを有する。
【0023】
コンロッド70は、コンロッド本体部72の端面に形成された半円筒形状の第1軸受保持穴73と、コンロッドキャップ部74の端面に形成された半円筒形状の第2軸受保持穴75とが突き合わせられることで形成される円筒形状の、コンロッド軸受1を保持する軸受保持穴77を有し、
第1軸受保持穴73は、クランクピン50の回転方向の前方側の端面72aから、周方向中央部側に向かって延びる第1供給溝78aと、クランクピン50の回転方向の後方側の端面72bから、周方向中央部側に向かって延びる第2供給溝78bとを備え、
第2軸受保持穴75は、周方向の全長に亘って延びる第3供給溝78cを備え、
第3供給溝78cと、第1供給溝78a及び第2供給溝78bとはコンロッド本体部72とコンロッドキャップ部74の端面同士を突き合わせることによって連通される。
【0024】
コンロッド本体部72はまた、ピストンピン(図示せず)を回転自在に支持するコンロッド小端部を備えるとともに、コンロッド小端部と第1供給溝78a、第2供給溝78b及び第3供給溝78cの何れかとを連絡する連通路79を備える。
【0025】
コンロッド70の内周面には、分割されたコンロッド本体部72及びコンロッドキャップ部74のそれぞれの第1軸受保持穴73及び第2軸受保持穴75の形状に係合するように形成された一対の半割軸受であって、コンロッド本体部72及びコンロッドキャップ部74の端面同士を突き合わせることによって円筒形状に組み合わされる一対の半割軸受(コンロッド軸受1)が挿入される。
【0026】
図2及び
図4に示される通り、第2の半割軸受20は、摺動面23側に第2の半割軸受20の周方向の全長に亘って延びる一定深さの油溝25を有すると共に、油溝25内に軸受外周面21まで貫通するように形成される少なくとも1つの油穴29を有する。
【0027】
図3は、
図2における第1の半割軸受10の内面側の構成を示し、また
図4は、
図2における第2の半割軸受20の内面側の構成を示す。
【0028】
図2及び
図3に示される通り、第1の半割軸受10は、摺動面13側に、クランクピン50の回転方向Rの前方側の周方向端面14から周方向中央部側へ向かって延びる第1部分溝15と、クランクピン50の回転方向Rの後方側の周方向端面16から周方向中央部側へ向かって延びる第2部分溝17とを有し、また第1の半割軸受10は更に、第1部分溝15の周方向中央部側の周方向端部15aで第1部分溝15に連通するように形成された円筒形凹部18を有する。したがって第1の半割軸受10の第2部分溝17の周方向中央部側の周方向端部17aと、円筒形凹部18の周方向中央部側の周方向端部18aとの間には摺動面13が延びると共に、第1部分溝15内と第2部分溝17内にはそれぞれ、軸受外周面11まで貫通するように2つの油穴19が形成される。
【0029】
摺動面13からの半径方向距離として測定される第1部分溝15と第2部分溝17の溝深さは、第1の半割軸受10の周方向端面14、16側から周方向中央部側に向かって次第に小さくなっている。
【0030】
更に、
図2に示される通り、第1の半割軸受10と第2の半割軸受20は、それぞれの周方向端面14、16、24、26同士を突き合わせることによって円筒形状になり、このとき第2の半割軸受20の油溝25と、第1の半割軸受10の第1部分溝15及び第2部分溝17とは、それぞれの周方向端面14、16、24、26同士の突き合わせ箇所で連通される。
【0031】
本構造により、コンロッド軸受1に圧送された潤滑油の一部は、第1の半割軸受10に形成された第1部分溝15及び第2部分溝17、第2の半割軸受20に形成された油溝25、並びに一対の半割軸受に形成された油穴19、29を通じて、コンロッド70の第1軸受保持穴73に形成された第1供給溝78a及び第2供給溝78b、並びに第2軸受保持穴75に形成された第3供給溝78cに供給され、更にコンロッド70に形成された連通路79を通じて、コンロッドの小端部に供給される。
【0032】
図2〜4及び
図7を用いて、本発明の実施例におけるコンロッド軸受1の更に詳細な構造を説明する。
図2は、第1の半割軸受10と第2の半割軸受20から形成されるコンロッド軸受1を示す。
【0033】
コンロッド軸受1は以下の寸法を有している。
外径:φ200mm
肉厚:5mm
全幅:100mm
【0034】
また、第1の半割軸受10は以下の寸法を有している。
クランクピン50の回転方向Rの前方側の周方向端面14における、第1部分溝15の摺動面13からの深さ(半径方向の距離):2mm
クランクピン50の回転方向Rの後方側の周方向端面16における、第2部分溝17の摺動面13からの深さ(半径方向の距離):2mm
第1部分溝15及び第2部分溝17の摺動面13における軸線方向の長さ(W1):12mm
円筒形凹部18の内径(ID1):15mm
摺動層81の厚さ(T1):0.5mm
第1部分溝15と円筒形凹部18との連通部15aでの第1部分溝の深さ(D1):0.6mm
円筒形凹部18の深さ(D2):3mm
第1の半割軸受10の第2部分溝17の周方向中央部側の周方向端部17aと、円筒形凹部18の周方向中央部側の周方向端部18aとの間の摺動面の円周角度(θ1):80°
円筒形凹部18の軸心線18axに垂直な面18pと、円筒形凹部18の側面の間の角度(θ2):90°
【0035】
なお、ここに示す寸法は一例であり、本発明においてはこれら寸法に限定されない。また、クランクピン50の回転方向の後方側の周方向端面16から周方向中央部側の周方向端部17aまでの第2部分溝17の長さを規定する円周角度(θ3)は10°〜50°であってもよい。
【0036】
第1の半割軸受10と第2の半割軸受20は、裏金層82及び摺動層81を有し、摺動層81は、半割軸受10、20の摺動面13、23を構成する。摺動層81は、ホワイト合金(錫合金)、アルミニウム合金、銅合金等から成る合金層である。裏金層82は、炭素の含有量が0.05〜0.35質量%の亜共析鋼等の鉄合金とすることができる。
【0037】
図2及び
図3に示される通り、第1の半割軸受10には、第1部分溝15の周方向中央部側の周方向端部15aに隣接して円筒形凹部18が形成される。前述の円筒形凹部18の軸心線18axは、第1の半割軸受10の中心(軸心線)に向かって延びるように形成される。
【0038】
第1の半割軸受10の第2部分溝17の周方向中央部側の周方向端部17aと、円筒形凹部18の周方向中央部側の周方向端部18aとの間の摺動面の円周角度(θ1)は、燃焼室から生じた荷重を支持するために80°〜160°で形成されることが望ましい。
【0039】
次に、前述の第1の半割軸受10の円筒形凹部18の詳細な構成と作用を
図5〜7を参照して説明する。
図5は、第1の半割軸受10の第2部分溝17の周方向中央部側の周方向端部17aと、円筒形凹部18の周方向中央部側の周方向端部18aとの間に形成される摺動面13上にクランクピン50の出口開口52が位置している状態を示す。
図5の状態においては、クランクピン10の円筒胴部55の外周面54と第1の半割軸受10の摺動面13の隙間Sが狭いため、クランク軸の回転による遠心力の影響により潤滑油路51内の出口開口52付近の潤滑油の圧力は極めて高い状態にある(潤滑油の流れ方向F参照)。
【0040】
図6に示されるようにクランクピン50の出口開口52と円筒形凹部18とが連通を開始する瞬間、クランクピン50の潤滑油路51内部の潤滑油の圧力と、円筒形凹部18内の潤滑油の圧力との差により、瞬間的に潤滑油路51から円筒凹部18内へ遠心力の作用を受けた高圧な潤滑油が急激に流入する。この際、円筒形状凹部18の軸心線18axは、遠心力の作用方向と略同方向を向くため、潤滑油路51から流出した潤滑油は、円筒形凹部18の底面側へ向かって流れる。高圧であった潤滑油は、円筒形状凹部18の底面付近で急激な圧力低下が生じ、潤滑油内にキャビティC(気泡)の発生と崩壊が起こる。
【0041】
このように本発明では、潤滑油内のキャビティCの発生と崩壊は、摺動面13から離間した円筒形凹部18の底面付近でおこるため、第1部分溝15の周方向端部15a付近の底面や第1部分溝15の周方向端部15aに隣接する摺動層81の表面にキャビテーションエロージョンが起き難い。更に、円筒形凹部18は、第1の半割軸受10の第1部分溝15と円筒形凹部18との連通部15aでの第1部分溝15の深さ(D1)以上の深さを有するように形成されるため、連通部15aの位置には円筒形凹部18の側面18s(段差)が形成される。更に、円筒形凹部18の軸心線18axは、第1の半割軸受10の中心(軸心線)に向かって延び、それにより、円筒形凹部18の軸心線18axに垂直な面18pに対する円筒形凹部18の周方向前方側の側面18sの角度(θ2)は、垂直に近く形成される。したがって、潤滑油内に発生したキャビティC(気泡)は、崩壊する前に円筒形凹部18から第1部分溝15に排出されることがなく、より摺動層81のキャビテーションエロージョンが抑制される。
【0042】
仮に円筒形凹部18内で全てのキャビティCが崩壊されず、一部が円筒形凹部18から排出されたとしても、第1部分溝15と円筒形凹部18との連通部15aでの第1部分溝15の深さ(D1)が摺動層81の厚さ(T1)以上であることから、第1部分溝15の円筒形凹部18との連通部15aにおいてキャビティCが崩壊したとしても、摺動層81は浸食されにくい。すなわち、D1>T1とすることで、連通部15a付近の第1部分溝15の内面の大部分から摺動層81(軸受合金)が除去されるため、摺動層81のキャビテーションエロージョンは発生しない。
【0043】
なお、円筒形凹部18の軸心線18axは、第1の半割軸受10の摺動面13上での円筒形凹部18の開口中心と、第1の半割軸受10の軸心線とを結ぶ半径方向の線に対して最大で5°傾斜していてもよい。また、円筒形凹部18は、本実施例とは異なり、側面18sが円錐台形状であってもよい。これらの場合、円筒形凹部18の側面18sは、円筒形凹部18の軸心線18axに垂直な面18pに対して85°〜95°の角度(θ2)に形成されることが好ましい。
【0044】
なお、円筒形凹部18の内径(ID1)が過小であると、クランクピン50の潤滑油路51の出口開口52から流出する高圧な潤滑油の一部が直接第1部分溝15にも流れるため、第1部分溝15の周方向端部15a及び第1部分溝15の周方向端部15aに隣接する摺動層81の摺動面13にキャビテーションエロージョンが起こる場合がある。また反対に、円筒形凹部18の内径(ID1)が過大であると、摺動面積の減少から第1の半割軸受10の負荷能力低下を招く虞がある。したがって、円筒形凹部18の内径(ID1)は、円筒形凹部18と連通する位置における第1部分溝15の摺動面13上での軸線方向の長さ(W1)の100%〜150%に相当する寸法であることが望ましく、特に本実施例の場合125%である。
【0045】
また、円筒形凹部18の深さは、第1の半割軸受10の第1部分溝15と円筒形凹部18との連通部15aでの第1部分溝15の深さ(D1)以上に形成されることを示したが、以下の理由から、円筒形凹部18は第1の半割軸受10の外周面11まで貫通されてはならない。
【0046】
すなわち、もし特許文献4に示されるように第1の半割軸受10の第1部分溝15の周方向中央部側の端部15aに連通するように軸受外周面11まで貫通する円筒形凹部穴(貫通穴)が形成されると、クランクピン50の出口開口52と円筒形状凹部の貫通穴とが連通を開始する瞬間、クランクピン50の潤滑油路51内の加圧された潤滑油は、遠心力の影響で円筒形状凹部の貫通穴を通り、コンロッド70の内周面に形成された第1供給溝78aに大量に流出し、貫通穴に隣接する第1部分溝15の内部空間が瞬間的に油で満たされない状態になる。次いで、クランクピン50の潤滑油路51の出口開口52が円筒形状凹部の貫通穴を通り過ぎ始めると、クランクピン50の潤滑油路51内の潤滑油は、油で満たされていない第1部分溝15の端部に流れこんで急激に圧力が低下し、潤滑油中にキャビティの発生と崩壊が起こる。このため、第1部分溝15の周方向端部15a及び第1部分溝15の周方向端部15aに隣接する摺動層81の摺動面13にキャビテーションエロージョンが起き易い。
【0047】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を記述したが、具体的な構成は実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0048】
なお、コンロッド軸受1に形成される油溝(及び部分溝)の断面形状は特に限定されず、矩形、台形や円弧形状でも良い。また、円筒形凹部18の底面は、実施例に示した平面形状に限定されず、例えば、円筒形状凹部をドリルで加工する場合、円錐形状であってもよい。
【0049】
また、実施例では、第1の半割軸受10が少なくとも1つの油穴19を有する構成を示したが、第1の半割軸受10は油穴を有しない構成としてもよい。本発明において、第1の半割軸受10の油穴19の有無は発明の効果に何ら影響を与えるものではなく、油穴を有しない構成の場合でも、実施例に示した作用によって、油穴を有する場合と同等の効果が得られる。
【0050】
また、コンロッド軸受1の誤組付時でも本発明の効果が得られるよう、前述の円筒形凹部18は、第1の半割軸受10のクランクピンの回転方向後方側の第2部分溝17の油溝切上り部17aにも設けてもよい。
【0051】
更に、円筒形凹部18の摺動面13上での開口の角縁部は加工時にバリが発生することがあるが、この場合、開口の角縁部に面取を形成してもよい。
【0052】
また、第1の半割軸受10及び第2の半割軸受20の内周面側において、摺動層の表面、第1部分溝、第2部分溝及び油溝の内面、並びに円筒形凹部の内面には、鉛系、錫系、錫含有アルミニウム合金、合成樹脂等の薄い表面層(オーバレイ層)をさらに形成してもよい。