(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
荷電粒子線装置において、可動絞りは、荷電粒子線が照射されることによって発生する熱(ジュール熱)によって熱ドリフトを起こす。すなわち、絞りホルダーの熱膨張により絞りの位置が移動してしまう。例えば、透過電子顕微鏡では、この熱ドリフトは、強い電子ビームが照射されるコンデンサー絞りで顕著に起こる。近年、荷電粒子線を用いて長時間の点分析や面分析を行うことが一般的になっている。分析中にコンデンサー絞りが移動すると、分析点の移動や電圧軸のずれが生じてしまうため、絞りの熱ドリフトは長時間の分析において特に問題となっている。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、熱ドリフトを低減できるホルダーを提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、上記ホルダーを含む荷電粒子線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係るホルダーは、
ホルダー支持装置を含む荷電粒子線装置において、荷電粒子線の経路に配置される対象物を支持するホルダーであって、
前記ホルダー支持装置に固定される第1固定部、および前記第1固定部から第1方向に延出する第1延出部を有する第1部材と、
前記第1延出部に固定される第2固定部、および前記第2固定部から前記第1方向とは反対方向の第2方向に延出する第2延出部を有する第2部材と、
を含み、
前記第2延出部には、前記対象物を取付け可能な取付部が設けられ
、
前記第1延出部は、熱膨張により前記第1方向に伸び、
前記第2延出部は、熱膨張により前記第2方向に伸び、
前記第1延出部の熱膨張量と前記第2延出部の熱膨張量は、等しい。
【0008】
このようなホルダーでは、第1延出部が熱膨張により伸びる方向と第2延出部が熱膨張により伸びる方向とが反対方向となるため、第1延出部の熱膨張による対象物の移動方向と第2延出部の熱膨張による対象物の移動方向とが反対方向となる。したがって、このよ
うなホルダーでは、第1延出部の熱膨張による対象物の移動と第2延出部の熱膨張による対象物の移動とを相殺でき、対象物の熱ドリフトを低減できる。
【0011】
(
2)本発明に係るホルダーにおいて、
前記取付部に前記対象物を固定するための固定部材を含み、
前記固定部材は、前記第2部材に固定され、
前記固定部材の材質は、前記第2部材の材質と同じであってもよい。
【0012】
このようなホルダーでは、固定部材の熱特性と第2部材の熱特性とを同じにできるため、固定部材の熱膨張が第2部材に与える影響を低減できる。これにより、対象物の熱ドリフトを低減できる。
【0013】
(
3)本発明に係るホルダーにおいて、
前記固定部材は、前記第2延出部との間で前記対象物を挟んで固定する板状の部材であ
ってもよい。
【0014】
このようなホルダーでは、対象物の熱ドリフトを低減できる。
【0015】
(
4)本発明に係るホルダーにおいて、
前記第1延出部の長さの基点から前記第2固定部が固定されている固定位置までの前記第1延出部の長さと前記第1延出部の線膨張係数との積は、前記第2延出部の長さの基点から前記取付部までの前記第2延出部の長さと前記第2延出部の線膨張係数との積と等しくてもよい。
【0016】
このようなホルダーでは、第1延出部の熱膨張による対象物の移動量と第2延出部の熱膨張による対象物の移動量とを等しくできるため、対象物の熱ドリフトをより低減(または熱ドリフトを無くすことが)できる。
【0017】
(
5)本発明に係るホルダーにおいて、
前記対象物は、前記荷電粒子線装置の絞りであってもよい。
【0018】
このようなホルダーでは、絞りの熱ドリフトを低減できるため、荷電粒子線装置において分析点の移動や、電圧軸がずれてしまうというような問題を生じさせないことができる。
【0019】
(
6)本発明に係るホルダーにおいて、
前記対象物は、前記荷電粒子線装置の試料であってもよい。
【0020】
このようなホルダーでは、試料のドリフトを低減できるため、荷電粒子線装置において高分解能観察や微小領域の分析などが可能となる。
【0021】
(
7)本発明に係る荷電粒子線装置は、
本発明に係るホルダーを含む。
【0022】
このような荷電粒子線装置では、対象物の熱ドリフトを低減できるホルダーを含むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0025】
1. ホルダー
まず、本実施形態に係るホルダーについて図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係るホルダー100を模式的に示す分解斜視図である。
図2は、本実施形態に係るホルダー100を模式的に示す平面図である。
図3は、本実施形態に係るホルダー100を模式的に示す断面図であり、
図2のIII−III線断面図である。
【0026】
本実施形態では、ホルダー100は、絞り2(対象物)を支持するためのホルダーである。絞り2は、荷電粒子線装置において荷電粒子線の経路に配置され、例えば不要な荷電粒子線をカットするために用いられる。
【0027】
ホルダー100は、
図1〜
図3に示すように、ホルダー台(第1部材)10と、絞り支持部材(第2部材)20と、押さえ板(固定部材)30と、を含む。
【0028】
ホルダー台10は、例えば、板状の部材である。ホルダー台10は、絞り支持部材20を支持している。ホルダー台10は、ホルダー支持装置に固定される第1固定部12と、第1固定部12から+X方向(第1方向)に延出する第1延出部14と、を有している。
【0029】
第1固定部12には、後述するホルダー支持装置に締結するための締結用の穴13が設けられている。穴13は、例えば、ねじ止め用の穴である。第1固定部12は、後述するように、ねじを、穴13を通してホルダー支持装置の軸部材のねじ穴に螺合することにより固定される(
図6参照)。
【0030】
第1延出部14は、第1固定部12から+X方向に延出している部分である。第1延出部14の平面形状は、
図2に示すように、+X方向が長手方向となる長方形状である。第1延出部14には、開口部16が設けられており、開口部16には、絞り支持部材20が配置されている。第1延出部14の先端部には、絞り支持部材20を固定するためのねじ穴18が設けられている。
【0031】
絞り支持部材20は、例えば、板状の部材である。絞り支持部材20は、絞り2を支持している。絞り支持部材20は、ホルダー台10の第1延出部14に固定される第2固定部22と、第2固定部22から−X方向(+X方向とは反対方向、第2方向)に延出する第2延出部24と、を有している。
【0032】
第2固定部22には、ねじ用貫通穴21が設けられている。第2固定部22は、ねじ4を、ねじ用貫通穴21を通して、ホルダー台10の第1延出部14のねじ穴18に螺合することで、ホルダー台10に固定されている。
【0033】
第2固定部22は、
図2に示すように平面視で、第2延出部24よりも幅が大きくなっている。第2固定部22の幅(X方向と直交する方向の大きさ)は、開口部16の幅よりも大きく、第2延出部24の幅は、開口部16の幅よりも小さい。第2固定部22の−X方向を向く側壁23が、ホルダー台10の第1延出部14の+X方向を向く側壁15に当接することで、絞り支持部材20がホルダー台10に対して位置決めされる。
【0034】
第2固定部22には、貫通穴26が設けられている。貫通穴26は、絞り2を通過させずに荷電粒子線を通過させる場合に用いられる穴である。
【0035】
第2延出部24は、第2固定部22から−X方向に延出している。第2延出部24は、開口部16内に配置されており、ホルダー台10に接していない(固定されていない)。平面視において第2延出部24は、開口部16の外縁の内側に位置している。
【0036】
第2延出部24には、絞り2を設置(収容)するための穴25(取付部)が設けられている。穴25に設置された絞り2は、押さえ板30によって穴25内に固定される。穴25には、底部に荷電粒子線を通過させるための通過穴が形成されている。
【0037】
なお、ここでは、絞り2を取り付けるための取付部が穴25である場合について説明したが、絞り2を絞り支持部材20に取り付けることができれば、取付部の構成は特に限定されない。
【0038】
押さえ板30は、絞り2を穴25に固定するための部材である。押さえ板30は、絞り支持部材20(第2延出部24)との間で絞り2を挟んで固定する板状の部材である。具体的には、押さえ板30は、ねじ6を第2延出部24に設けられたねじ穴27に螺合することで、ねじ6の頭部と第2延出部24との間に挟まれて、固定される。このとき、押さえ板30は穴25に配置された絞り2に当接し、絞り2が穴25内に固定される。押さえ板30には、荷電粒子線を通過させるための貫通穴32が設けられている。
【0039】
なお、ここでは、穴25に絞り2を固定するための固定部材が押さえ板30である例について説明したが、絞り2を絞り支持部材20に固定するための固定部材の構成は、特に限定されない。
【0040】
本実施形態に係るホルダー100では、荷電粒子線が照射されることによって発生する熱(ジュール熱)による絞り2の熱ドリフトを低減できる。すなわち、絞り2に荷電粒子線が照射されることにより、ホルダー100に熱膨張が生じて絞り2が移動することを抑制できる。以下、絞り2の熱ドリフトを低減できる理由について説明する。
【0041】
図4は、ホルダー100の機能を説明するための図である。
【0042】
絞り2に荷電粒子線が照射されることにより、ジュール熱が発生する。発生した熱は、絞り支持部材20、押さえ板30、およびホルダー台10に伝わり、絞り支持部材20、押さえ板30、およびホルダー台10が加熱される。
【0043】
ホルダー100において、ホルダー台10の第1延出部14は第1固定部12から+X方向に延出し、絞り支持部材20の第2延出部24は第2固定部22から−X方向に延出している。そのため、第1延出部14が熱膨張により伸びる方向E1は、+X方向であり
、第2延出部24が熱膨張により伸びる方向E2は、−X方向である。すなわち、第1延出部14が伸びる方向E1と第2延出部24が伸びる方向E2とは、反対方向である。そのため、第1延出部14の熱膨張による絞り2の移動方向と第2延出部24の熱膨張による絞り2の移動方向とが反対方向となる。したがって、第1延出部の熱膨張による絞り2の移動と第2延出部の熱膨張による絞り2の移動とを相殺でき、絞り2の熱ドリフトを低減できる。
【0044】
ここで、絞り支持部材20、押さえ板30、およびホルダー台10の温度上昇をΔTとすると、熱膨張の計算式は次式で表される。
【0045】
ΔL=αLΔT
ただし、ΔLは部材の伸び(熱膨張量)であり、αは部材の線膨張係数であり、Lは部材の伸びる方向の長さである。
【0046】
ホルダー100では、上記式を利用して、絞り2の熱ドリフトをより低減できるように、ホルダー台10および絞り支持部材20の材質および形状(長さ)が設定されている。具体的には、本実施形態では、第1延出部14の長さの基点から第2固定部22が固定されている固定位置までの第1延出部14の長さL1と第1延出部14の線膨張係数との積が、第2延出部24の長さの基点から穴25(絞り2)までの第2延出部24の長さL2と第2延出部24の線膨張係数との積と等しい。以下、この点について詳細に説明する。
【0047】
ホルダー100では、例えば、ホルダー台10の線膨張係数が「a×A」となり、絞り支持部材20の線膨張係数が「b×A」となるように、ホルダー台10の材質および絞り支持部材20の材質が設定されている。
【0048】
また、ホルダー100では、第1延出部14の長さの基点から第2固定部22の固定位置までの第1延出部14の長さL1が「b×L」となり、第2延出部24の長さの基点から絞り2の位置(穴25の位置)までの第2延出部24の長さL2が「a×L」となるように、ホルダー台10および絞り支持部材20の形状が設定されている。
【0049】
なお、第1延出部14の長さL1は、第1延出部14のうち、伸びることで絞り支持部材20が移動することとなる部分のX方向の長さである。第2延出部24の長さL2は、第2延出部24のうち、伸びることで絞り2(穴25)が移動することとなる部分のX方向の長さである。
【0050】
このとき、第1延出部14の熱膨張による伸びΔL1、および第2延出部24の熱膨張による伸びΔL2は、上述した熱膨張の計算式からそれぞれ次式のようになる。
【0051】
第1延出部14の伸び・・・ΔL1=a×A×b×L×ΔT=a×b×A×L×ΔT
第2延出部24の伸び・・・ΔL2=b×A×a×L×ΔT=a×b×A×L×ΔT
【0052】
このように、第1延出部14の伸びΔL1と、第2延出部24の伸びΔL2とは、等しい(ΔL1=ΔL2)。すなわち、第1延出部14の熱膨張による絞り2の移動量と第2延出部24の熱膨張による絞り2の移動量とは等しい。さらに、上述したように、第1延出部14の伸びる方向E1と第2延出部24の伸びる方向E2とは反対方向である。したがって、ホルダー台10および絞り支持部材20の熱膨張に起因する絞り2の位置ずれ(熱ドリフト)は生じない(または位置ずれ量を極めて小さくできる)。
【0053】
なお、上述したホルダー台10の第1延出部14の長さの基点とは、第1延出部14と第1固定部12との境界の位置である。すなわち、第1延出部14の長さの基点とは、ホ
ルダー台10のホルダー支持部材に固定されて熱膨張により方向E1に伸びない部分と、ホルダー台10の熱膨張により方向E1に伸びる部分と、の境界の位置である。
【0054】
また、絞り支持部材20の第2延出部24の長さの基点とは、第2延出部24と第2固定部22との境界の位置である。すなわち、第2延出部24の長さの基点とは、絞り支持部材20のホルダー台10に固定されて熱膨張により方向E2に伸びない部分と、絞り支持部材20の熱膨張により方向E2に伸びる部分と、の境界の位置である。図示の例では、第2固定部22の固定位置と第2延出部24の長さの基点とは、同じ位置である。
【0055】
押さえ板30の材質は、絞り支持部材20の材質と同じである。これにより、押さえ板30の熱特性(例えば線膨張係数や熱伝導率など)と絞り支持部材20の熱特性とを同じにできる。したがって、押さえ板30の単位長さあたりの熱膨張による伸びと絞り支持部材20の単位長さあたりの熱膨張による伸びを同じにすることができ、押さえ板30の熱膨張が、絞り支持部材20に与える影響を低減できる(無視できる)。この結果、絞り2の熱ドリフトを低減できる。
【0056】
次に、ホルダー100の構成について具体例を挙げて説明するが、本発明は下記の具体例に限定されるものではない。
【0057】
ホルダー台10の材質をチタン(TP340)に設定し、絞り支持部材20および押さえ板30の材質をリン青銅に設定する。なお、チタン(TP340)の線膨張係数は8.4×10
−6/Kであり、リン青銅の線膨張係数は18.2×10
−6/Kである。すなわち、リン青銅とチタンの線膨張係数の比は、18.2:8.4=2.17:1である。
【0058】
このリン青銅とチタンの線膨張係数の比より、第1延出部14の長さの基点から第2固定部22の固定位置までの第1延出部14の長さL1を、第2延出部24の長さの基点から絞り2の位置までの第2延出部24の長さL2の2.17倍とすることで、第1延出部14の熱膨張による絞り2の移動量と第2延出部24の熱膨張による絞り2の移動量とを等しくできる。
【0059】
具体的には、例えば、第2延出部24の長さの基点から絞り2の位置までの第2延出部24の長さL2を10mmとし、第1延出部14の長さの基点から第2固定部22の固定位置までの第1延出部14の長さL1を2.17×10mm=21.7mmとする。
【0060】
このときの第1延出部14の伸びΔL1、および第2延出部24の伸びΔL2は、それぞれ次式のようになる。
【0061】
ΔL1=8.4×10
−6×2.17×10×ΔT
≒1.82×10
−4×ΔT[mm]
ΔL2=18.2×10
−6×10×ΔT
≒1.82×10
−4×ΔT[mm]
【0062】
このように、ΔL1≒ΔL2の関係が成り立つため、第1延出部14の熱膨張による絞り2の移動量と第2延出部24の熱膨張による絞り2の移動量とを等しくできる。
【0063】
本実施形態に係るホルダー100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0064】
ホルダー100では、ホルダー台10がホルダー支持装置に固定される第1固定部12、および第1固定部12から+X方向に延出する第1延出部14を有し、絞り支持部材20が第1延出部14に固定される第2固定部22、および第2固定部22から−X方向に
延出する第1延出部14を有している。また、第2延出部24には、絞り2を取付け可能な穴25(取付部)が設けられている。そのため、第1延出部14の熱膨張による絞り2の移動方向と第2延出部24の熱膨張による絞り2の移動方向とが反対方向となる。したがって、第1延出部の熱膨張による絞り2の移動と第2延出部の熱膨張による絞り2の移動とを相殺でき、絞り2の熱ドリフトを低減できる。
【0065】
ホルダー100では、第1延出部14の長さの基点から第2固定部22が固定されている固定位置までの第1延出部14の長さL1と第1延出部14の線膨張係数との積は、第2延出部24の長さの基点から穴25(取付部)までの第2延出部24の長さL2と第2延出部24の線膨張係数との積と等しい。そのため、ホルダー100では、第1延出部14の熱膨張による絞り2の移動量と第2延出部24の熱膨張による絞り2の移動量とを等しくでき、絞り2の熱ドリフトをより低減できる(または熱ドリフトを無くすことができる)。
【0066】
ホルダー100では、穴25に絞り2を固定するための押さえ板30を含み、押さえ板30は絞り支持部材20に固定され、押さえ板30の材質は絞り支持部材20の材質と同じである。そのため、ホルダー100では、押さえ板30の熱特性と絞り支持部材20の熱特性とを同じにできる。これにより、押さえ板30の単位長さあたりの熱膨張による伸びと絞り支持部材20の単位長さあたりの熱膨張による伸びが同じとなるため、押さえ板30の熱膨張が絞り支持部材20に与える影響を低減できる(無視できる)。この結果、絞り2の熱ドリフトを低減できる。
【0067】
ホルダー100は、荷電粒子線装置の絞り2を支持するためのホルダーである。そのため、ホルダー100では、絞り2の熱ドリフトを低減でき、例えば、荷電粒子線装置において分析点の移動や、電圧軸がずれてしまうというような問題を生じさせないことができる。
【0068】
2. 荷電粒子線装置
次に、本実施形態に係る荷電粒子線装置について、図面を参照しながら説明する。
図5は、本実施形態に係る荷電粒子線装置1000の構成を示す図である。なお、
図5では、便宜上、ホルダー100を簡略化して図示している。
【0069】
荷電粒子線装置1000は、本発明に係るホルダーを含んで構成されている。ここでは、荷電粒子線装置1000が本発明に係るホルダーとして、ホルダー100を含む例について説明する。なお、
図5では、便宜上、ホルダー100を簡略化して図示している。
【0070】
荷電粒子線装置1000は、
図5に示すように、電子源1002と、照射レンズ1004と、ホルダー100に支持されている絞り2と、ホルダー支持装置110と、試料ステージ1006と、試料ホルダー1008と、対物レンズ1010と、中間レンズ1012と、投影レンズ1014と、撮像装置1016と、を含んで構成されている。荷電粒子線装置1000は、試料Sを透過した電子線(電子ビーム)で結像する透過電子顕微鏡(TEM)である。
【0071】
電子源1002は、電子を発生させる。電子源1002は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。
【0072】
照射レンズ1004は、電子源1002から放出された電子線を集束して試料Sに照射する。照射レンズ1004は、図示はしないが、複数の電子レンズで構成されていてもよい。
【0073】
絞り2は、いわゆるコンデンサー絞りであり、照射系に組み込まれている。絞り2は、不要な電子線をカットし、試料Sに入射する電子線の開き角および照射量を調整するための絞りである。絞り2はホルダー100に取り付けられ、絞り2が取り付けられたホルダー100はホルダー支持装置110によって支持されている。
【0074】
図6は、ホルダー支持装置110を説明するための図である。
【0075】
ホルダー支持装置110は、鏡筒内の空間を規定する壁部1001に取り付けられている。ホルダー支持装置110は、先端部にホルダー100が固定される軸部材112を有している。
図6に示すように、ホルダー100は、ホルダー台10に設けられた穴13を通じてねじ114により、軸部材112に固定される。
【0076】
ホルダー支持装置110の軸部材112は、先端部が鏡筒内の空間(真空室)に位置し、後端部が鏡筒の外(真空室の外)に位置している。軸部材112は、軸部材112の軸方向にスライド可能に構成されている。軸部材112を軸方向にスライドさせることで、絞り2が光軸OA上(すなわち電子線の経路)に配置される状態(
図6参照)と、貫通穴26が光軸OA上に配置される状態(図示せず)と、を切り替え可能である。軸部材112のスライド動作は、モーター等の駆動部を動作させることで行われてもよいし、手動で行われてもよい。
【0077】
試料ステージ1006は、試料Sを保持する。図示の例では、試料ステージ1006は、試料ホルダー1008を介して、試料Sを保持している。試料ステージ1006によって、試料Sの位置決めを行うことができる。
【0078】
対物レンズ1010は、試料Sを透過した電子線で透過電子顕微鏡像を結像するための初段のレンズである。
【0079】
中間レンズ1012および投影レンズ1014は、対物レンズ1010によって結像された像を拡大し、撮像装置1016上に結像させる。対物レンズ1010、中間レンズ1012、投影レンズ1014は、荷電粒子線装置1000の結像系を構成している。
【0080】
撮像装置1016は、結像系によって結像された透過電子顕微鏡像を撮影する。撮像装置1016は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラ、CMOS(Complementary MOS)カメラ等のデジタルカメラである。
【0081】
図示はしないが、荷電粒子線装置1000は、エネルギー分散型X線分光器(energy dispersive X−ray spectrometer)や波長分散型X線分光器(wavelength−dispersive X−ray spectrometer)などの分析装置を搭載していてもよい。
【0082】
荷電粒子線装置1000では、電子源1002から放出された電子線は、照射レンズ1004によって集束されて試料Sに照射される。このとき、絞り2によって試料Sに照射される電子線の開き角および照射量が制御される。試料Sに照射された電子線は、試料Sを透過して対物レンズ1010によって結像される。対物レンズ1010によって結像された透過電子顕微鏡像は、中間レンズ1012および投影レンズ1014によってさらに拡大されて、撮像装置1016で撮影される。
【0083】
本実施形態に係る荷電粒子線装置1000では、ホルダー100を含むため、絞り2の熱ドリフトを低減できる。この結果、荷電粒子線装置1000では、絞り2の移動に伴う分析点の移動を抑制できる。また、絞り2の移動に伴う電圧軸のずれを低減できる。した
がって、荷電粒子線装置1000では、良好な電子顕微鏡像および良好な分析結果を得ることができる。例えば、長時間にわたる分析(面分析等)の際には、絞り2の熱ドリフトの影響が大きくなるため、絞り2の熱ドリフトを低減できる荷電粒子線装置1000は特に有効である。
【0084】
なお、ここでは、ホルダー100が支持する絞り2がコンデンサー絞りである例について説明したが、ホルダー100が支持する絞り2は、荷電粒子線装置のその他の絞りであってもよい。例えば、ホルダー100は、例えば対物絞りを支持してもよいし、制限視野絞りを支持してもよい。対物絞りは、対物レンズ1010の後焦点面に配置され、明視野像や暗視野像を得るために透過波や回折波を取り込むための絞りである。制限視野絞りは、対物レンズ1010と中間レンズ1012との間(対物レンズ1010の像面)に配置され、制限視野回折を行う際、回折図形を得る試料の領域を制限する絞りである。
【0085】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0086】
例えば、上述した実施形態では、
図1〜
図3に示すように、絞り2が1つの絞り穴を有している場合について説明したが、絞り2は複数の絞り穴を有していてもよい。この場合、複数の絞り穴は互いに異なる穴径を有しており、
図4に示すホルダー支持装置110の軸部材112をスライドさせることにより、穴の切り替え(光軸OAに配置される穴の切り替え)が可能となっていてもよい。なお、絞り2が複数の絞り穴を有する場合、最も穴径の小さい穴の位置を絞り2の位置(取付部の位置)として、第2延出部24の長さL2を設定することが望ましい。穴径が小さいほど、熱ドリフトの影響を大きく受けるためである。
【0087】
また、例えば、上述した実施形態では、
図1〜
図3に示すように、ホルダー100が絞り2を支持するホルダーである場合について説明したが、本発明に係るホルダーは、絞りを支持するホルダーに限定されない。本発明に係るホルダーは、例えば、荷電粒子線装置において、試料を支持するためのホルダーであってもよい。この場合、本発明に係るホルダーは、試料のドリフトを低減できる。したがって、荷電粒子線装置において高分解能観察や微小領域の分析などが可能となる。
【0088】
また、例えば、上述した実施形態では、荷電粒子線装置が透過電子顕微鏡(TEM)である例について説明したが、本発明に係る荷電粒子線装置は、荷電粒子(電子やイオン等)を試料に照射して、観察や、分析、加工等を行うことが可能な装置であればよい。本発明に係る荷電粒子線装置は、走査透過電子顕微鏡(STEM)や、走査電子顕微鏡(SEM)、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、集束イオンビーム装置(FIB装置)等であってもよい。
【0089】
また、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0090】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。