(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の自動試料交換装置は試料の温調機能を備えていない。そのため、温度調整が必要な試料を測定する場合(例えば、温度をある一定の温度に維持しないと物性が変化する試料を測定する場合等)、例えば冷蔵庫等のように温調機能を備えた機器に試料を別途保管しておき、測定時に、作業者がその機器から試料を取り出して自動試料交換装置に設置する必要がある。このように、温度調整が必要な試料を測定する場合には、人的な作業が必要となる。また、温調機能を備えた機器から自動試料交換装置に試料を移動させる間に、試料の温度が変化するという問題も生じる。
【0007】
本発明の目的は、NMR用自動試料交換装置において、試料の温度を調整できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のNMR用自動試料交換装置は、核磁気共鳴測定用の複数のサンプルユニットを収容する中空のスリーブ列であって、底部に複数の導入孔が形成されたスリーブ列と、前記スリーブ列の底部に対向する位置に設けられ、複数の吹き出し孔を有する中空のマニホールドチューブと、を含み、前記マニホールドチューブ内に導入された温調用ガスが、前記複数の吹き出し孔から前記スリーブ列に形成された前記複数の導入孔を介して前記スリーブ列の内部に導入される、ことを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、スリーブ内に導入された温調用ガスによって、スリーブ内に収容されているサンプルユニット内の試料の温度が調整される。温調用ガスは、試料を冷却するためのガスが用いられてもよいし、試料を加熱するためのガスが用いられてもよい。
【0010】
前記マニホールドチューブは円環状の形状を有していてもよい。例えば、円環状のスリーブ列が用いられる場合、その形状に合わせて円環状のマニホールドチューブが用いられる。円環状のマニホールドチューブには、例えば1つの導入口が設けられ、その導入口からマニホールドチューブ内に温調用ガスが導入される。マニホールドチューブ内に導入された温調用ガスは、その導入口から分岐してマニホールドチューブ内を流れる。別の例として、直線状のマニホールドチューブが用いられてもよい。例えば、直線状のスリーブ列が用いられる場合、その形状に合わせて直線状のマニホールドチューブが用いられる。
【0011】
前記複数の吹き出し孔の大きさが互いに異なっていてもよい。例えば、マニホールドチューブに形成された導入口からの距離に応じて、各吹き出し孔の大きさが変わる。
【0012】
前記マニホールドチューブにおいて、前記温調用ガスの上流側から下流側にかけて前記吹き出し孔の径が徐々に大きくなっていてもよい。例えば、マニホールドチューブに形成された導入口が上流側に相当する。下流側においては上流側と比べて温調用ガスの圧力や流量が低下し、その結果、各サンプルユニットの間で温度差が生じ易いが、上記の構成を採用することで、各吹き出し孔の径を同一にする場合と比べて、その温度差を小さくすることができる。
【0013】
前記スリーブ列に含まれる各スリーブの中間部に、前記スリーブ内に導入された前記温調用ガスを前記スリーブの外部に排出するための排出孔が形成されていてもよい。中間部に排出孔を設けることで、スリーブの底部からスリーブ内に導入された温調用ガスがスリーブの上部に到達することを抑制又は防止することができる。
【0014】
前記スリーブ列の中で前記サンプルユニットが収容されていないスリーブには、ダミーサンプルが配置されてもよい。例えば、スリーブの上部は、サンプルユニットを収容するために開口しており、サンプルユニットが収容されないスリーブには、その開口にダミーサンプルが配置される。これにより、スリーブ内に導入された温調用ガスが、その上部の開口からスリーブの外部に排出されることを防止することができる。
【0015】
本発明のNMR用自動試料交換装置は、前記スリーブ列の周囲に設けられた断熱材を更に含んでもよい。断熱材を用いることで、結露の発生を抑制又は防止することができる。
【0016】
前記スリーブ列に含まれる各スリーブの底部に形成された前記導入孔に突出し棒が挿入されることで、前記各スリーブの上部から各サンプルユニットが取り出されてもよい。この構成によれば、導入孔が、温調用ガスをスリーブ内に供給するための孔と、サンプルユニットをスリーブから取り出すための孔を兼用することになる。こうすることで、温調用ガスを供給するための別の構成、又は、サンプルユニットを取り出すための別の構成を、別途設けずに済む。
【0017】
本発明のNMR用自動試料交換装置は、前記スリーブ列を載せて回転することで、前記スリーブ列に含まれる取り出し対象のスリーブをサンプリング位置に移動させるターンテーブル部を更に含んでもよい。前記サンプリング位置において、前記突出し棒が前記スリーブの底部に形成された前記導入孔に挿入されることで、前記スリーブの上部から前記サンプルユニットが取り出され、前記マニホールドチューブは、前記サンプリング位置において、前記突出し棒が前記スリーブの底面に突出する位置を避けて設けられてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、NMR用自動試料交換装置において、試料の温度を調整することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係るNMRシステムについて説明する。
図1には、本実施形態に係るNMRシステムの一例が示されている。NMRシステム10は、NMR装置12と、自動試料交換装置14と、温調用ガス供給装置16と、を含む。
【0021】
NMR装置12は、試料中の観測核によって生じたNMR信号を測定する装置である。NMR装置12は、静磁場発生装置18と、図示しないNMRプローブと、を含む。また、ホストコンピューターやNMR分光計をも含む装置をNMR装置と称してもよい。静磁場発生装置18は、例えば、超伝導電磁石(SCM)を備えており、静磁場を形成する装置である。NMRプローブは、送受信コイルを備えており、静磁場発生装置18に形成された筒状の空洞部内に挿入される。送受信コイルにRF送信信号が供給されると、そこで電磁波が生じ、観測核において共鳴吸収現象が生じる。その後、送受信コイルに誘起されるNMR信号(RF受信信号)がNMRプローブからNMR分光計に送られ、そのNMR信号のスペクトルが解析される。
【0022】
自動試料交換装置14は、NMR用自動試料交換装置の一例に相当する装置であり、複数のサンプルユニットを収容し、試料の温度を調整する機能を備えた装置である。自動試料交換装置14はカルーセル装置20を含む。カルーセル装置20は、例えば、ターンテーブル方式によって複数のサンプルユニットを収容する装置である。もちろん、ターンテーブル方式以外の方式によって複数のサンプルユニットが自動試料交換装置14に収容されてもよい。カルーセル装置20の構成については後で詳しく説明する。なお、後述するように、測定対象の試料はサンプルユニットに含まれる。
【0023】
温調用ガス供給装置16は、試料の温度を調整するためのガス(以下、「温調用ガス」と称する)を自動試料交換装置14に供給する装置である。自動試料交換装置14は、温調用ガス供給装置16から供給された温調用ガスによって、試料の温度を調整する。温調用ガスの温度は、一例として、−40℃〜100℃である。もちろん、温度が−40℃未満の温調ガスが用いられてもよいし、温度が100℃よりも高い温調用ガスが用いられてもよい。温調ガスとして、空気が用いられてもよいし、アルゴンガスや窒素ガス等が用いられてもよい。また、温調用ガス供給装置16は、温調用ガスの供給圧力と温調用ガスの流量を制御することができる。これにより、所望の圧力で、所望の流量の温調用ガスを供給することができる。
【0024】
静磁場発生装置18と自動試料交換装置14との間には、サンプルユニットを搬送するためのガイドレール22が設けられている。ガイドレール22には、ガイドレール22に沿って移動可能なマニピュレーター24が設けられている。マニピュレーター24は、カルーセル装置20に収容されたサンプルユニットを掴む機能を備えている。
【0025】
NMR装置12への試料導入時においては、測定対象の試料を含むサンプルユニットが、マニピュレーター24によって掴まれてカルーセル装置20から取り出される。マニピュレーター24がガイドレール22に沿って自動試料交換装置14側から静磁場発生装置18の上方に移動することで、サンプルユニットは、マニピュレーター24によって掴まれた状態で、自動試料交換装置14から静磁場発生装置18の上方に搬送される。静磁場発生装置18の上方には、静磁場発生装置18内に形成された空洞部に通じる開口部(試料導入口)が形成されている。マニピュレーター24は、その試料導入口の直上の位置までサンプルユニットを搬送し、その直上の位置にてサンプルユニットを放す。これにより、サンプルユニットは、下降して試料導入口から空洞部内に導入され、空洞部内を吹き上げるエアーによって制御されながら、その空洞部内に設置されたNMRプローブ内に配置される。
【0026】
試料取り出し時においては、サンプルユニットは、エアーの供給によって、NMRプローブから静磁場発生装置18の空洞部の試料導入口まで上昇させられる。そこで、マニピュレーター24がサンプルユニットを掴み、ガイドレール22に沿って静磁場発生装置18の上方から自動試料交換装置14側に移動し、カルーセル装置20の直上の位置までサンプルユニットを搬送する。サンプルユニットは、マニピュレーター24によって下方に下ろされて、カルーセル装置20に収容される。
【0027】
以下、
図2を参照して、カルーセル装置20について詳しく説明する。
図2は、カルーセル装置20を示す斜視図である。
図2には、カバーが取り外された状態のカルーセル装置20が示されている。また、後述する断熱材等も図示されていない。
【0028】
カルーセル装置20は、ターンテーブル部26と、モータ28と、マニホールド30と、温調用ガス導入部32と、を含む。
【0029】
ターンテーブル部26は、複数のサンプルユニットを乗せて回転する回転台機構として機能する。ターンテーブル部26は、上部テーブル34と、下部テーブル36と、複数の柱40とを含む。
【0030】
上部テーブル34は、全体として円盤状の形状を有する部材である。下部テーブル36は、全体として円環状(ドーナツ状)の形状を有する部材である。ドラム38は、全体として円柱状の形状を有する部材である。ドラム38の上面は、上部テーブル34との間に僅かなクリアランスを有している。ドラム38の径は、下部テーブル36の孔の径(円環の内径)よりも小さくなっており、ドラム38は、下部テーブル36の孔の部分(円環の孔の部分)を貫通して設けられている。ターンテーブル部26の下方、つまり、下部テーブル36の下方には、モータ28が設置されており、ドラム38は、下部テーブル36の孔の部分を貫通してモータ28に接続されている。後述するように、ドラム38よりも径方向外側の領域において、サンプルスリーブ52が、上部テーブル34と下部テーブル36に設置される。
【0031】
複数の柱40は、周方向に互いに予め定められた距離の間隔をおいて、周方向に沿って上部テーブル34と下部テーブル36との間に設置されている。各柱40の上端部は、上部テーブル34に固定されており、各柱40の下端部は、下部テーブル36に固定されている。複数の柱40によって、上部テーブル34と下部テーブル36とが互いに接続(固定)されている。
【0032】
また、上部テーブル34には、周方向に沿って複数の孔42が形成されており、下部テーブル36には、周方向に沿って、複数の孔42に対応する位置に複数の孔44が形成されている。複数の孔42,44には、サンプルスリーブ52が挿入される。一例として、30個の孔42と、それらに対応する30個の孔44が形成されている。
【0033】
上述したように、ドラム38にはモータ28が接続されており、ドラム38は、モータ28の駆動力によって、回転中心46を回転軸として回転する。ドラム38が回転すると、ドラム38に固定されている上部テーブル34と、複数の柱40によって上部テーブル34に接続(固定)されている下部テーブル36が、回転中心46を回転軸として回転する。
【0034】
下部テーブル36の下方には、下部テーブル36との間に隙間を確保した状態で、全体として円環状の形状を有する支持台49が設定されている。支持台49には、下部テーブル36に対向する上面にマニホールド30が設置されている。マニホールド30は、全体として円環状の形状を有する部材である。マニホールド30は、板金ベース48と、その板金ベース48上に設けられたマニホールドチューブ50と、を含む。マニホールドチューブ50は、下部テーブル36に形成された複数の孔44に対向する位置に設置されている。マニホールドチューブ50は、温調用ガス導入部32に接続されている。温調用ガス導入部32は、チューブによって温調用ガス供給装置16に接続されている。温調用ガス供給装置16から供給された温調ガスが、矢印Aで示すように、温調用ガス導入部32の接続口32aから温調用ガス導入部32内に導入され、その温調用ガス導入部32を介して、マニホールドチューブ50内に導入される。また、マニホールドチューブ50には、下部テーブル36に対向する部分に複数の吹き出し孔が形成されており、マニホールドチューブ50内に導入された温調用ガスは、当該複数の吹き出し孔からマニホールドチューブ50の外部に噴出する。マニホールドチューブ50の各吹き出し孔は、下部テーブル36に形成された各孔44に対応する位置に形成されている。マニホールド30については後で詳しく説明する。なお、支持台49の孔(円環の孔)を介して、モータ28の回転軸とドラム38の回転軸とが接続される。
【0035】
上部テーブル34に形成された各孔42と下部テーブル36に形成された各孔44に、サンプルスリーブ52が挿入され、その状態で、サンプルスリーブ52が、上部テーブル34によって支持される。サンプルスリーブ52は、サンプルユニット54を収容する中空の部材である。サンプルユニット54は、試料を収容する部材であり、サンプルローター56と試料管58とを含む。試料管58内に試料が収容される。サンプルスリーブ52とサンプルユニット54については後で詳しく説明する。複数の孔42,44のそれぞれにサンプルスリーブ52が挿入されることで、複数のサンプルスリーブ52がターンテーブル部26に設置される。各サンプルスリーブ52にサンプルユニット54が収容されることで、複数のサンプルユニット54がターンテーブル部26に設置される。
【0036】
モータ28の駆動力によって上部テーブル34と下部テーブル36が回転すると、上部テーブル34に支持されているサンプルスリーブ52が移動し、これにより、サンプルスリーブ52に収容されているサンプルユニット54が移動する。ターンテーブル部26は、そのような回転動作によって、所望のサンプルユニット54をサンプリング位置(予め定められた回転位置)に移動させることができる。そのサンプリング位置には、カルーセル装置20の下方に、図示しない棒状のZ軸アクチュエータ機構(突出し棒の一例に相当する部材)が配置されている。そのZ軸アクチュエータ機構は、サンプリング位置にて上下方向に移動可能な部材である。後述するように、各サンプルスリーブ52の底部には、内部の中空に繋がる導入孔が形成されており、サンプリング位置に移動させられたサンプルスリーブ52の導入孔にZ軸アクチュエータ機構が挿入されることで、そのサンプルスリーブ52に収容されているサンプルユニット54が上方に押し上げられる。NMR装置12への試料導入時においては、マニピュレーター24は、その押し上げられたサンプルユニット54を掴み、上述したように、ガイドレール22に沿って静磁場発生装置18の上方まで移動することで、静磁場発生装置18の上方に形成された試料導入口の直上の位置までサンプルユニット54を搬送し、その位置にてサンプルユニット54を放す。これにより、静磁場発生装置18内に設置されたNMRプローブ内にサンプルユニット54が配置される。試料取り出し時には、上述したように、マニピュレーター24は、静磁場発生装置18の試料導入口まで上昇させられたサンプルユニット54を掴み、ガイドレール22に沿って静磁場発生装置18の上方から自動試料交換装置14側に移動し、サンプリング位置にてサンプルユニット54を下方に下ろす。これにより、サンプルユニット54は、サンプリング位置に配置されているサンプルスリーブ52に収容される。次の試料を測定する場合、ターンテーブル部26が、次の測定対象の試料を含むサンプルユニット54がサンプリング位置に配置されるように回転する。これにより、次のサンプルユニット54がサンプリング位置に配置され、上記と同様の動作が行われる。
【0037】
本実施形態では、マニホールドチューブ50に形成された吹き出し孔から噴出した温調用ガスが、サンプルスリーブ52の底部に形成された導入孔からサンプルスリーブ52の内部に導入される。これにより、サンプルスリーブ52に収容されたサンプルユニット54内の試料の温度が制御される。サンプルスリーブ52の側面の中間部(サンプルスリーブ52の上部と下部との間の部分)には、内部の中空に繋がる排出孔60が形成されており、サンプルスリーブ52の内部に導入された温調用ガスが、その排出孔60を通って外部に排出される。
【0038】
以下、
図3を参照して、マニホールド30について詳しく説明する。
図3は、マニホールド30を示す斜視図である。
【0039】
マニホールド30は、全体として円環状の形状を有する板金ベース48と、その板金ベース48に取り付けられたマニホールドチューブ50と、を含む。板金ベース48には、内側に窪んだ部分62(例えば、U字状の形状を有する部分)が設けられている。この部分62の位置はサンプリング位置に対応する位置であり、この部分62を通って、Z軸アクチュエータ機構が上下方向(Z方向)に移動する。Z軸アクチュエータ機構が上方に移動することで、サンプリング位置に配置されたサンプルユニット54が上方に押し上げられる。このZ軸アクチュエータ機構とマニホールド30との干渉を避けるために、板金ベース48に部分62が設けられている。また、マニホールドチューブ50は板金ベース48に沿って設けられており、部分62においても、符号64で示すように、マニホールドチューブ50も内側に窪んでいる。なお、その窪んだ部分62においては、Z軸アクチュエータ機構を避けるようにマニホールドチューブ50が配置されているので、その部分62に配置されたサンプルスリーブ52内には温調用ガスは供給されない。
【0040】
マニホールドチューブ50には、マニホールドチューブ50の外部から内部に温調用ガスを導入するための導入口66が設けられている。その導入口66は、マニホールドチューブ50の内部に通じており、矢印Bで示すように、温調用ガスが導入口66からマニホールドチューブ50の内部に導入される。例えば、導入口66は、窪んだ部分62に対向する位置に設けられており、導入口66からマニホールドチューブ50内に導入された温調用ガスは、矢印C1,C2の方向に沿って、上流側の導入口66から下流側の部分62に向かって流れる。
【0041】
また、マニホールドチューブ50には、下部テーブル36に対向する部分に複数の吹き出し孔68(オリフィス孔)が形成されている。各吹き出し孔68は、下部テーブル36に形成された各孔44に対応する位置に形成されている。一例として、29個の吹き出し孔68が形成されている。導入口66を上流側として、圧力損失を抑えて温調ガスを下流側まで供給するために、マニホールドチューブ50は、ループ状の配管構造を有する。各吹き出し孔68がサンプルスリーブ52の下端に対応する位置に配置されるように、マニホールド30は支持台49上に設置される。熱損失を避けるために、マニホールドチューブ50は板金ベース48との接触を避けるように板金ベース48に取り付けられる。例えば、マニホールドチューブ50は、複数の樹脂製のケーブルクリップ70のみに接触して板金ベース48に取り付けられる。
【0042】
マニホールドチューブ50は、熱損失が小さく、耐熱温度範囲が広いフッ素系樹脂(例えばテフロン(登録商標))によって構成される。もちろん、別の材料によってマニホールドチューブ50が構成されてもよい。
【0043】
吹き出し孔68の大きさ(例えば孔の径の大きさ)は、上流側から下流側にかけて徐々に大きくなっている。例えば、吹き出し孔68の直径が、上流側から下流側にかけて0.6mmから段階的に大きくなっている。通常、下流ほど、温調用ガスの圧力が低く、流量が少なくなるので、下流ほど、吹き出し孔68から噴出する温調用ガスの圧力が低く、流量が少なくなり易い。その結果、下流ほど、サンプルスリーブ52内に供給される温調用ガスの圧力が低く、流量が少なくなり、下流側に配置されたサンプルユニット54内の試料の温度と、上流側に配置されたサンプルユニット54内の試料の温度と、の間の差が大きくなり易い。これに対処するために、吹き出し孔68の大きさが、上流側から下流側にかけて徐々に大きくなっている。こうすることで、各吹き出し孔68の大きさを同一にする場合と比べて、下流側の吹き出し孔68から噴出する温調用ガスの流量が増大する。その結果、下流側に配置されたサンプルユニット54内の試料の温度と、上流側に配置されたサンプルユニット54内の試料の温度と、の差を小さくすることができる。また、実験やシミュレーションによって吹き出し孔68の大きさを決定することで、温度差を最小にすることも可能である。
【0044】
下流側ほど吹き出し孔68の直径を大きくした場合(実施例)の温度差と、各吹き出し孔68の直径を同一にした場合(比較例)の温度差を計測した。実施例では、吹き出し孔68の直径を0.6mm〜1.3mmの範囲で変えた。つまり、最上流の吹き出し孔68の直径が最小の0.6mmであり、最下流の吹き出し孔68の直径が最大の1.3mmであり、最上流と最下流の間の各吹き出し孔68の直径を、下流ほど大きくした。比較例では、すべての吹き出し孔68の直径が0.7mmである。この計測では、温度が−20℃の温調用ガスをマニホールドチューブ50に導入した。導入時の温調用ガスの流量は40L/minである。実施例では、各試料管58の間の温度差は4℃程度となり、比較例では、その温度差は10℃程度となった。このように、下流側ほど吹き出し孔68を大きくすることで、各試料の温度差を小さくすることが可能となる。
【0045】
以下、
図4を参照して、サンプルユニット54について詳しく説明する。
図4は、サンプルユニット54を示す斜視図である。サンプルユニット54は、サンプルローター56と試料管58とを含む。試料管58は、例えば、一方の端部58aが開口し、他方の端部58bが閉じた円筒状の細長い形状を有する。一方の端部58aから試料管58内に試料(例えば溶液試料)が収容され、その後、一方の端部58aが封止される。試料管58は、保持部材としてのサンプルローター56を貫通してサンプルローター56によって保持されている。試料管58は、例えばガラスによって構成されている。
【0046】
以下、
図5及び
図6を参照して、サンプルユニット54とサンプルスリーブ52について詳しく説明する。
図5は、サンプルユニット54とサンプルスリーブ52を示す斜視図である。
図6は、サンプルユニット54とサンプルスリーブ52を示す断面図であり、
図2のIV−IV断面図である。
図6には、ターンテーブル部26に設置された状態のサンプルユニット54とサンプルスリーブ52が示されており、ターンテーブル部26の一部も示されている。
【0047】
サンプルスリーブ52の上部には、サンプルスリーブ52内の内部空間72に通じる挿入孔が形成されており、サンプルユニット54は、その挿入孔を介してサンプルスリーブ52に挿入されてサンプルスリーブ52に収容される。これにより、サンプルスリーブ52の内部空間72内に、試料管58の他方の端部58bを含む部分が配置される。その部分には測定対象の試料が収容されている。サンプルスリーブ52は、例えばABS樹脂によって構成されている。
【0048】
サンプルスリーブ52の底部には、内部空間72内に通じる導入孔74が形成されている。マニホールドチューブ50に形成された吹き出し孔68に対向する位置に導入孔74が配置されるように、ターンテーブル部26が回転する。なお、
図6には、マニホールドチューブ50の断面(円形)が示されているが、断面位置の関係上、吹き出し孔68は示されていない。吹き出し孔68から噴出した温調用ガスは、矢印Dで示すように、導入孔74から内部空間72に供給される。例えば、内部空間72に供給された温調用ガスは試料管58に直接接触すると共に、サンプルスリーブ52内で循環することで、試料管58と熱交換する。これにより、内部空間72内に配置された試料管58の温度、つまり、その試料管58内に配置された試料の温度が、温調用ガスによって制御される。冷却用の温調用ガスが用いられる場合において、温調用ガスが試料管58の一方の端部58aまで到達すると、ターンテーブル部26が冷却されて結露が生じることがある。これに対処するために、サンプルスリーブ52の中間位置(試料管58の一方の端部58aと他方の端部58bとの間の位置に相当する位置)に排出孔60が形成されており、温調用ガスはその排出孔60から外部に排出される。これにより、温調用ガスが一方の端部58aまで到達することを抑制又は防止することができる。
【0049】
なお、
図5に示すように、サンプルスリーブ52は、相対的に細い直径を有する本体部52aと、本体部52aの上部に設けられ、相対的に太い直径を有する上部52bと、によって構成されている。本体部52aの直径は、上部テーブル34及び下部テーブル36の孔42,44の直径よりも小さく、上部52bの直径は、孔42,44の直径よりも大きい。これにより、
図2及び
図6に示すように、本体部52aは孔42,44を通り、上部52bは孔42を通らず、サンプルスリーブ52は、上部テーブル34によって保持される。なお、本体部52aと上部52bは、一体的に形成されていてもよいし、それぞれ別体として形成されて一体化されてもよい。
【0050】
また、
図6に示すように、上部テーブル34から下部テーブル36にかけて、サンプルスリーブ52が設置される位置よりも外側の領域に、内側から順に、アルミ板76、断熱材78、メッシュ材80、及び、外側カバー82が設けられている。アルミ板76は、補強材として用いられる部材である。断熱材78は、例えばウレタンによって構成されている。メッシュ材80は、断熱層としての空気層を形成するために設けられており、例えばポリエステル等によって構成されている。外側カバー82は、例えばアルミ板によって構成されている。
【0051】
以下、ダミーサンプルついて説明する。ターンテーブル部26において、サンプルユニット54が装填されていない箇所が存在する場合、その箇所にはサンプルスリーブ52のみが配置されることになる。上述したように、サンプルユニット54の上部には、サンプルユニット54を挿入するための挿入孔が形成されている。そのため、サンプルユニット54がサンプルスリーブ52に収容されていないと、サンプルスリーブ52の上部から内部空間72に外気が入り込む。つまり、外気がカルーセル装置20の内部に入り込む。その結果、カルーセル装置20の内部の温度が外気によって変動してしまう。これに対処するために、サンプルユニット54が装填されていない箇所に設置されたサンプルスリーブ52にダミーサンプルを設置する。
【0052】
図7及び
図8には、ダミーサンプルの一例が示されている。
図7は、ダミーサンプル84を示す斜視図である。
図8は、ダミーサンプル84とサンプルスリーブ52を示す斜視図である。
【0053】
図7に示すように、ダミーサンプル84は、相対的に細い直径を有する円柱状の本体部86と、本体部86の上部に設けられ、相対的に太い直径を有する円柱状の上部88と、によって構成されている。本体部86の直径は、サンプルスリーブ52の上部に形成された挿入孔の直径よりも小さい。上部88の直径は、その挿入孔の直径よりも大きい。これにより、
図8に示すように、ダミーサンプル84の本体部86が、サンプルスリーブ52の上部に形成された挿入孔に挿入され、ダミーサンプル84がサンプルスリーブ52に収容される。ダミーサンプル84は、サンプルスリーブ52にとって蓋として機能し、サンプルスリーブ52の上部に形成された挿入孔から内部に外気が入り込むことを防止することができる。その結果、外気によるカルーセル装置20内の温度変動を抑制又は防止することが可能となる。
【0054】
なお、自動試料交換装置14には、サンプルユニット54の有無を検知するセンサが設けられているが、ダミーサンプル84は、その形状や色彩によって当該センサによって検知されないように構成されている。例えば、サンプルスリーブ52に設置されたときのダミーサンプル84の高さを、センサが反応しない高さとしてもよいし、反射型光電センサが用いられる場合、ダミーサンプル84から光が反射しないように、ダミーサンプル84の色を黒色としてもよい。
【0055】
また、ダミーサンプル84の上部88の直径を、マニピュレーター24のチャック機構部(物体を掴む機能を有する部分)が掴むことが可能な物体の大きさよりも大きくしてもよい。これにより、センサ等に不具合が発生して、ダミーサンプル84が測定対象のサンプルとして誤検知された場合であっても、マニピュレーター24によってダミーサンプル84が掴まれることを防止することが可能となり、その結果、NMR装置12へのダミーサンプル84の導入を防ぐことが可能となる。
【0056】
以下、カルーセル装置20の断熱構造について説明する。
【0057】
まず、
図9を参照して、温調用ガス導入部32における断熱構造について説明する。
図9は、温調用ガス挿入部を示す断面図である。温調用ガス導入部32内には、接続口32aとマニホールドチューブ50に設けられた導入口66との間を繋ぐ配管90が設けられている。温調用ガス供給装置16から供給された温調用ガスは、接続口32aから配管90内に導入され、その配管90内を通って導入口66からマニホールドチューブ50内に導入される。また、配管90には、結露防止のための断熱材92が巻き付けられている。その断熱材92の下側にはドレンパン94が設置されており、ドレンパン94の下側には更に別のドレンパン96が設置されている。ドレンパン94,96は、例えば皿状又は箱状の形状を有する。このように二重のドレンパンを設置することで、仮に結露が発生したとしても、発生した水分がドレンパン94又はドレンパン96に溜まるようになっている。
【0058】
次に、
図10を参照して、ターンテーブル部26における断熱構造について説明する。
図10は、ターンテーブル部26を示す断面図である。
図6を参照して説明したように、上部テーブル34から下部テーブル36にかけて、サンプルスリーブ52が設置されるよりも外側の領域に、内側から順に、アルミ板76、断熱材78、メッシュ材80、及び、外側カバー82が設けられている。また、ドラム38の上部には、ドラム38側から順に、アルミ板98、断熱材100及びエポキシ板102が設けられており、エポキシ板102の上に上部テーブル34が設けられている。上部テーブル34とエポキシ板102との間には空気層104が形成されている。例えば、上部テーブル34においてエポキシ板102と対向する面に彫り込みが形成されており、その彫り込みの部分が隙間となって空気層104が形成される。また、上部テーブル34の孔42よりも外側の領域には、断熱材106が設けられている。上述したように、孔42,44にサンプルスリーブ52が挿入される。
【0059】
以上のように、温調用ガスが導入される部分やターンテーブル部26に断熱効果を有する部材を設置することで、結露の発生を抑制又は防止することができる。また、サンプルスリーブ52の周囲に断熱効果を有する部材を設置することで、試料の温度変化を抑制又は防止することができる。
【0060】
以下、本実施形態に係る自動試料交換装置14の動作について説明する。自動試料交換装置14と温調用ガス供給装置16とを接続し、温調用ガス供給装置16から自動試料交換装置14に温調用ガスを供給する。これにより、温調用ガスがマニホールドチューブ50内を流れ、マニホールドチューブ50に形成された吹き出し孔68から噴出し、サンプルスリーブ52の下部に形成された導入孔74からサンプルスリーブ52の内部空間72に供給される。温調用ガスが、内部空間72に設置された試料管58に直接接触すると共に内部空間72を循環することで試料管58との間で熱交換を行う。これにより、試料の温度が目的の温度になる。熱交換を終えた温調用ガスは、サンプルスリーブ52の排出孔60からカルーセル装置20の内部に排出され、主に、Z軸アクチュエータ機構が通過するための窪んだ部分62(
図3参照)からカルーセル装置20の外部に排出される。
【0061】
本実施形態によれば、自動試料交換装置14に温調用ガスが供給されることで試料の温度が調整される。これにより、温調のために試料管を別の装置に保管し、測定時に、作業者がその装置から自動試料交換装置14に移さずに済む。また、作業者が試料管を移動させている間に試料の温度が変化することを防止することができる。
【0062】
また、Z軸アクチュエータが挿入される導入孔74を介して温調用ガスをサンプルスリーブ52内に導入するようにしたことで、つまり、導入孔74が、Z軸アクチュエータの挿入用の孔と温調用ガスの導入用の孔を兼用することで、温調用ガスをサンプルスリーブ52内に導入するための別の構成を設けずに済む。
【0063】
また、温調用ガスをサンプルスリーブ52内に供給するためのチューブとして、リング状のマニホールドチューブ50を用いることで、圧力が平準化された温調用ガスを上流側から下流側まで供給することが可能となり、圧力損失の発生を抑制することが可能となる。
【0064】
また、マニホールドチューブ50において、上流側から下流側にかけて吹き出し孔68を段階的に大きくすることで、温調用ガスの圧力や流量が低くなり易い下流側においても、各吹き出し孔68の大きさを同一にする場合と比べて、各試料の間の温度差を小さくすることが可能となる。
【0065】
また、マニホールドチューブ50をフッ素系樹脂によって構成することで、耐熱温度範囲が広くなり、使用可能な温度範囲を広げることができる。また、金属の配管と比べて熱伝導率が低いため、熱リークを抑制することができ、熱損失の少ないマニホールドを提供することができる。
【0066】
また、温調用ガスを試料管58に直接接触させるだけでなく、内部空間72を循環させることで、効率的に熱交換を行うことが可能となる。
【0067】
また、サンプルユニット54が設置されていないサンプルスリーブ52にはダミーサンプル84を設置することで、外気がサンプルスリーブ52内に入り込むことを防止することができる。その結果、外気によるカルーセル装置20内の温度変化を抑制又は防止することができる。ダミーサンプル84は、センサによって検知され難い色彩や形状を有しているため、サンプルとして検知され難い。仮にダミーサンプル84がサンプルとして検知された場合であっても、ダミーサンプル84は、マニピュレーター24によって掴まれ難い構造を有しているため、ダミーサンプル84がNMR装置12に搬送されることを防ぐことができる。
【0068】
また、カルーセル装置20内に断熱効果を有する部材(断熱材や空気層)を配置することで、結露の発生を抑制又は防止することができる。仮に結露が発生した場合も、ドレンパン94,96に水が溜まるので、装置の外部への水漏れを防止することができる。