(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記磁気検出部は、それぞれ4つの前記磁気抵抗素子から構成される第1ブリッジ回路と第2ブリッジ回路を備え、前記第1ブリッジ回路の前記磁気抵抗素子の磁化方向と前記第2ブリッジ回路の前記磁気抵抗素子の磁化方向が互いに直交し、それぞれ4つの前記磁気抵抗素子がホイートストンブリッジを構成するように接続されていることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の磁極方向検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第一実施例>
図1を参照し、本実施例における磁極方向検出装置200が適用された3相電動モータMおよび多相電動モータ制御装置100を説明する。多相電動モータ制御装置100は、車両の電動パワーステアリング装置(図示せず)などに用いられる3相ブラシレスモータであり、ステアリング操作に補助力を付与する3相電動モータMを駆動および制御する。多相電動モータ制御装置100は、3相電動モータMの各相U/V/Wに対応した相回路Cu/Cv/Cwを並列に接続して構成されるブリッジ回路10と、ブリッジ回路10の各相にPWM信号(Pulse Width Modulation)を出力するPWM制御部20と、本装置全体を制御する制御部30と、を備える。なお、3相電動モータMは、磁気検出部220などを含み、検出した磁極方向に関する信号を出力する。磁気検出部220などについては後述する。
【0010】
ブリッジ回路10は、電源ラインLhを経由してバッテリBATの正極側に接続され、グランドラインLlを経由してバッテリBATの負極側に接続(接地)される。ブリッジ回路10の各相回路Cu/Cv/Cwは、電源ラインLh側に設けられる高電位側スイッチング素子Quh/Qvh/Qwhと、グランドラインLl側に設けられる低電位側スイッチング素子Qul/Qvl/Qwlと、最もグランドラインLl側に設けられる電流検出器Ru/Rv/Rwと、を直列に有する。本実施例では、高電位側スイッチング素子Quh/Qvh/Qwhおよび低電位側スイッチング素子Qul/Qvl/Qwlは、MOSFETすなわち金属酸化膜半導体電界効果トランジスタが用いられる。
【0011】
高電位側スイッチング素子Quh/Qvh/Qwhは、ドレインが電源ラインLhに接続されている。また、高電位側スイッチング素子Quh/Qvh/Qwhのソースは、低電位側スイッチング素子Qul/Qvl/Qwlのドレインに接続されている。低電位側スイッチング素子Qul/Qvl/Qwlのソースは、電流検出器Ru/Rv/Rwを介して、グランドラインLlに接続されている。高電位側スイッチング素子Quh/Qvh/Qwhおよび低電位側スイッチング素子Qul/Qvl/Qwlは、PWM制御部20で生成されたPWM信号がゲートに入力され、ソース−ドレイン間がオン/オフされる。
【0012】
電流検出器Ru/Rv/Rwは、電流検出用の抵抗器(シャント抵抗)であり、低電位側スイッチング素子Qul/Qvl/Qwlより低電位側(グランド側)に設けられ、ブリッジ回路10から3相電動モータMの各相U/V/Wに供給される電流を、後述する方法で検出する。通常、電動パワーステアリング装置の3相電動モータMは、正弦波を通電させることにより駆動電力を供給される。その際、各相U/V/Wの電流値のフィードバックが必要となるため、電流検出器Ru/Rv/Rwは、各相回路Cu/Cv/Cwに各相の電流検出を行なうために設けられている。なお、通電させる正弦波は、インバータを用いてPWM制御することによって生成した疑似的な正弦波である。
【0013】
高電位側スイッチング素子Quh/Qvh/Qwhと低電位側スイッチング素子Qul/Qvl/Qwlの接続点は、それぞれ、3相電動モータMの相U/V/Wの各コイルに接続されている。また、低電位側スイッチング素子Qul/Qvl/Qwlと電流検出器Ru/Rv/Rwの接続点は、それぞれ、各相回路Cu/Cv/Cwのアナログ値の相電流値をデジタル値に変換した相電流値Iu/Iv/Iwを出力する電流検出部240u/240v/240wに接続されている。また、低電位側スイッチング素子Qul/Qvl/Qwlと電流検出器Ru/Rv/Rwの接続点は、それぞれ、相電流値Iu/Iv/Iwを出力する電流検出部240u/240v/240wに接続されている。各相回路Cu/Cv/Cwに流れる相電流によって電流検出器Ru/Rv/Rwにおいて電流値に比例する電圧降下を生じる。この電圧降下の値はアナログ値であるが、これを相電流値Iu/Iv/Iwに変換し、デジタル値として出力する。
【0014】
制御部30は、電流検出部240u/240v/240wが出力した相電流値Iu/Iv/Iwに応じた電圧値と、他のセンサやECU(Electric Control Unit、図示せず)から得られるステアリングの操舵トルク値、3相電動モータMの回転角(電気角)、車速を入力として受け取る。また、制御部30は、さらに、3相電動モータMの磁気検出部220が検出した磁極方向に関する信号を入力として受け取る。制御部30は、その車速の時の運転者がステアリングに与える操舵トルク値や、後述する磁極方向検出装置200により補正された3相電動モータMの回転角、および電流検出部240u/240v/240wが検出した相電流値Iu/Iv/Iwに基づき、3相電動モータMがステアリングに付与すべき目標値としての補助力に対応した相毎の指令電圧Vu/Vv/Vwを制御信号として算出し、PWM制御部20に出力する。なお、制御部30は、CPUとメモリを備えるマイクロコンピュータにより構成される。
【0015】
PWM制御部20は、制御部30が出力した各相の指令電圧Vu/Vv/Vwに基づいてデューティ指示値Du/Dv/Dwを生成する。そして、PWM制御部20は、このデューティ指示値Du/Dv/Dwに基づいて、3相電動モータMを回転駆動させるPWM信号を生成し、高電位側スイッチング素子Quh/Qvh/Qwhおよび低電位側スイッチング素子Qul/Qvl/Qwlに出力する。このPWM信号は、それぞれ、高電位側スイッチング素子Quh/Qvh/Qwhおよび低電位側スイッチング素子Qul/Qvl/Qwlのゲートに入力されて、ブリッジ回路10は、直流電源としてのバッテリBATの電力をPWM制御によって変換し、3相電動モータMへ供給する。
【0016】
また、制御部30は、電流検出部240u/240v/240wに対して、電流検出部240u/240v/240wが電流を計測するタイミングを指示するためのサンプリング信号Su/Sv/Swを出力する。如何なるタイミングで電流を計測するのかは後述する。電流検出部240u/240v/240wは、このサンプリング信号Su/Sv/Swに基づいて各相の電流を計測し、相電流値Iu/Iv/Iwを制御部30にフィードバックする。
【0017】
また、制御部30には、後述する磁極方向検出装置200の一部200aを含んでいる。なお、磁極方向検出装置200の一部200aとは、後述する磁極方向算出部230、方向補正量算出部260、磁極方向補正部270である。制御部30は、3相電動モータMの磁気検出部220が検出した磁極方向に関する信号を入力として受け取り、磁極方向検出装置200の一部200aに渡す。本実施例では、磁極方向検出装置200は、マイクロコンピュータの制御部30の一部として図示するがこれに限定されず、異なるマイクロコンピュータ内に設けられてもよい。
【0018】
図2および
図3を参照し、3相電動モータMを説明する。3相電動モータMは、回転軸M4と、回転軸M4に固定された磁性を帯びたロータM3と、ロータM3に対向する位置に設けられステータM1に巻かれた多相コイルM2と、多相コイルM2を内壁に有するケースM5と、回転軸M4の先端に取り付けられた1対の磁極を有する被検知用磁石210と、トンネル型磁気抵抗素子223を含む磁気検出部220と、様々な回路を含む基板90と、電源とトルク信号などを接続するためのコネクタ91とを備える。多相コイルM2は、U相に対応するU相コイルM2Uと、V相に対応するV相コイルM2Vと、W相に対応するW相コイルM2Wとを有し、3相を有する。これらの構成要素は、公知の要素であってよい。磁気検出部220は、被検知用磁石210に対応する位置に適宜の距離を隔てて、基板90に設けられている。なお、基板90は、モータMを制御するための制御部30、電流検出部240、PWM制御部20、ブリッジ回路10などの回路を含む。
【0019】
図4および
図5を参照し、磁気検出部220と被検知用磁石210について説明する。被検知用磁石210は、円柱形を有し、半円柱の一方がN極、他方がS極となるように着磁されている。したがって、被検知用磁石210は、N極から出て、S極に入る磁場(一点鎖線)を形成し、磁極方向は、点線矢印の如く磁石の内部でS極からN極の方向である。磁気検出部220は、被検知用磁石210が形成する磁場に適宜の強さで含まれる位置に設けられる。
【0020】
磁気検出部220は基板90に固定され、被検知用磁石210は回転軸M4の先端に固定されているので、3相電動モータMが稼働し回転軸M4が回転すると、被検知用磁石210の磁場(点線)は磁気検出部220に対して回転し、磁束の密度や方向において変化を生じさせる。すなわち、永久磁石である被検知用磁石210による磁界が、回転軸M4が回転することによって回転することになる。そうすると、磁気検出部220のトンネル型磁気抵抗素子223は、磁束が横切ることで磁界の変化を検知する。なお、本図に示す磁場/磁界は、一部を模式的に示したものである。
【0021】
図6に示すように、磁気検出部220は、2つの磁気検出ユニット、すなわち、それぞれ4つのトンネル型磁気抵抗素子223から構成される第1ブリッジ回路221と第2ブリッジ回路222を備える。それぞれ4つの磁気抵抗素子223は、ホイートストンブリッジを構成するように接続されている。トンネル型磁気抵抗素子223は、磁場が作用していない場合には、同じ抵抗値を示すものである。トンネル型磁気抵抗素子223は、磁界の変化に応じて電気抵抗が変化するので、コネクタ91と電源供給部92を介して直流電源BATから電力の供給を受け、磁界の変化があるとそれに応じて電圧を変化させて出力する。第1ブリッジ回路221と第2ブリッジ回路222は、磁気抵抗素子223がたとえばTMRセンサ(Tunneling Magneto−resistive Sensor)とした場合には、磁化固着層の磁化方向は高電位側の磁気抵抗素子223と低電位側の磁気抵抗素子223とは反対方向であり、さらに右側のブリッジと左側のブリッジにおいて対応する磁気抵抗素子は反対方向となるように構成されている。なお、本図内の矢印の向きは、磁気抵抗素子223の着磁方向を示す。
【0022】
第1ブリッジ回路221と第2ブリッジ回路222のTMRセンサの磁化方向は全体として90度ずれるように配置されている。すなわち、第1ブリッジ回路221と第2ブリッジ回路222とは磁気の検出方向が90度異なっている。換言すれば、第1ブリッジ回路221の磁気抵抗素子のトンネル型磁化方向223と第2ブリッジ回路222の磁気抵抗素子223の磁化方向が互いに直交している。トンネル型磁気抵抗素子223は、被検知用磁石210の回転により磁界の強さに応じて電気抵抗が変化するので、第1ブリッジ回路221が出力する電圧の波形と第2ブリッジ回路222が出力する電圧の波形は、
図7に示すように、互いに90度位相の異なるSin波形とCos波形となる。したがって、磁気検出部220は、第1ブリッジ回路221が出力するSin波形のSin信号と、第2ブリッジ回路222が出力するCos波形のCos信号を出力する。なお、第1ブリッジ回路221が出力する電圧の波形と第2ブリッジ回路222が出力する電圧は、それぞれにおける2つのトンネル型磁気抵抗素子223の中点電位の電圧である。信号処理部93は、この出力電圧に係る電気信号を入力されて処理し、磁極方向に関して検出した信号を制御部30へ出力する。
【0023】
トンネル型磁気抵抗素子223は、酸化物の薄膜で形成されたトンネル障壁を両側から強磁性金属の電極で挟み込んだ構造を有し、外部からの磁場の印加でトンネル電流が流れて電気抵抗が変化する現象を利用し、磁界の変化を検知する素子である。電極は、外部の磁界によって磁極方向が変化する自由層と、磁極方向が固定されていて不変の磁化固定層から構成される。
図8(A)に示すように、自由層の磁極方向が磁化固定層の磁化方向と同じ方向(平行)になるように磁界が作用する場合には、トンネル型磁気抵抗素子223の電気抵抗は小さくなる。また、本図(B)に示すように、自由層の磁極方向が磁化固定層の磁化方向と逆の方向(反平行)になるように磁界が作用する場合には、トンネル型磁気抵抗素子223の電気抵抗は大きくなる。
【0024】
本図(C)は、回転軸M4の先端に固定された被検知用磁石210の磁界(点線矢印)が回転により変化することにより、自由層の磁極方向が変化する様子を示すものである。磁化固定層の磁化方向は、被検知用磁石210の磁界が変化しても変化せず一定の方向を向いているが、自由層の磁極方向は、被検知用磁石210の磁界の変化に伴って回転し変化する。本図(C)では、被検知用磁石210の磁界の回転に伴って、自由層の磁極方向が実線矢印から一点鎖線矢印へ変化することを示している。
【0025】
通常、上述したように、磁化固定層の磁化方向は固定されているので変化しないのであるが、発明者らは、被検知用磁石210を磁気検出部220に近接させるなど、磁場強度が強い環境では磁化固定層の磁化方向も被検知用磁石210の磁界の変化に引きずられてわずかに磁極方向が変化することを見出した。
図9を参照し、磁化固定層の磁化方向が変化することを説明する。
【0026】
図9(A)は、磁化固定層の磁化方向(実線矢印)と被検知用磁石210の磁極方向(点線矢印)が一致している場合を示す。本図(B)は、本図(A)で示した磁化固定層の磁化方向と被検知用磁石210の磁極方向が一致している状態から、被検知用磁石210の磁極方向が時計回りに90度回転した場合を示す。この場合、磁化固定層の磁化方向は、被検知用磁石210の磁極方向の変化に引きずられて微小な角度Δだけ時計回り方向(+方向)に変化する。
【0027】
本図(C)は、本図(B)で示した磁化固定層の磁化方向と被検知用磁石210の磁極方向が90度をなしている状態から、被検知用磁石210の磁極方向がさらに時計回りに90度回転した場合を示し、磁化固定層の磁化方向と被検知用磁石210の磁極方向は、180度すなわち逆方向になっている状態を示す。この場合、磁化固定層の磁化方向は、自由層の磁極方向のように被検知用磁石210の磁極方向の変化に引きずられて回転することはないので、磁化固定層本来の磁化方向に戻る。
【0028】
本図(D)は、本図(C)で示した磁化固定層の磁化方向と被検知用磁石210の磁極方向が逆方向になっている状態から、被検知用磁石210の磁極方向がさらに時計回りに90度回転した場合を示し、磁化固定層の磁化方向と被検知用磁石210の磁極方向は、270度(−90度)をなす。この場合、磁化固定層の磁化方向は、被検知用磁石210の磁極方向に引っ張られて微小な角度Δだけ反時計回り方向(−方向)変化する。
【0029】
本図(E)は、本図(D)に示した磁化固定層の磁化方向と被検知用磁石210の磁極方向が−90度をなしている状態から、被検知用磁石210の磁極方向がさらに時計回りに90度回転した場合を示し、本図(A)と同様、磁化固定層の磁化方向と被検知用磁石210の磁極方向が一致している場合を示す。このように、被検知用磁石210が1回転(360度)する間に、磁化固定層の磁化方向は、磁化固定層本来の磁化方向から微小な角度Δまでのずれを2回起こすことになる。
【0030】
図10は、第2ブリッジ回路222(Cos波形)内の一つのトンネル型磁気抵抗素子223における抵抗値の変化を示す。なお、図中グラフの左側の縦軸は、トンネル型磁気抵抗素子1つの抵抗値であり、右側の縦軸は、誤差Δに関する抵抗値である。細実線は、上述した磁化固定層の磁化方向のずれを考慮しない理論的な抵抗値を示し、太実線は、磁化固定層の磁化方向のずれ(図中において「Pin曲がり」と表記されている)が生じていると考えられる場合の実測抵抗値を示す。角度が0〜180度においては抵抗値の位相が若干進み、角度が180〜360度においては逆に若干遅れている。したがって、磁化固定層の磁化方向のずれに伴う抵抗値の理論値からの誤差は、点線のように、1/2の周期で微小な値Δの振幅の変動を示す。
【0031】
第2ブリッジ回路222(Cos波形)内の一つのトンネル型磁気抵抗素子223の抵抗値の変動は、第2ブリッジ回路222全体の電圧出力にも影響を与える。
図11(A)の太実線(合成出力)は、第2ブリッジ回路222から出力される電圧を示しており、この電圧は、4つのトンネル型磁気抵抗素子223における抵抗値の誤差が合成されて、複雑な位相の進みや遅れを呈する。また、同様に、本図(B)の太実線は、第1ブリッジ回路221から出力される電圧を示している。
【0032】
第2ブリッジ回路222からのCos波形と第1ブリッジ回路221のSin波形に基づき、逆正接(アークタンジェント)を計算すると、誤差を含んだ角度が得られる。別途、計測した角度の真値と誤差を含んだ角度の差を求めれば誤差の角度が得られるが、これを示したのが、本図(C)である。本図(C)が示すように、被検知用磁石210の回転周期の1/4の周期で誤差が生じている。本発明は、この誤差を考慮することにより、被検知用磁石210すなわちロータM3の磁極方向の検出精度を向上させるものである。
【0033】
図12、
図13および以下の数式を参照して、より詳細に説明する。
図12(A)は、磁気検出部220を示し、磁気検出部220は、内部に、本図(B)に示される第1ブリッジ回路221(Sin波形)および本図(C)に示される第2ブリッジ回路222(Cos波形)を含む。磁気検出部220は、図におけるθ=0を基準として、そこから被検知用磁石210の磁極方向がどの程度変化したかの角度θを出力電圧により検知するものである。
【0034】
第1ブリッジ回路221の磁化固定層の磁化方向は、本図(B)に示すように、θ=0の方向と直角の方向をなすように配置され、トンネル型磁気抵抗素子223の内、R1とR3は+90度方向に、R2とR4は−90度(+270度)の方向に向いている。また、第2ブリッジ回路222の磁化固定層の磁化方向は、本図(C)に示すように、θ=0の方向と平行の方向をなすように配置され、トンネル型磁気抵抗素子223の内、R5とR7は0度方向に、R6とR8は+180度の方向に向いている。
【0035】
第1ブリッジ回路221では、R2とR3の接続点がグランドに接続され、R1とR4の接続点には電源供給部92の電圧Vccが印加され、R1とR2の接続点から出力電圧(Vsin+)とR3とR4の接続点から出力電圧(Vsin−)を得る。また、第2ブリッジ回路222では、R6とR7の接続点がグランドに接続され、R5とR8の接続点には電源供給部92の電圧Vccが印加され、R5とR6の接続点から出力電圧(Vcos+)とR7とR8の接続点から出力電圧(Vcos−)を得る。
【0036】
まず、トンネル型磁気抵抗素子223の磁化固定層の磁化方向のずれを考慮しない場合を説明する。
図13(A)に示すように、被検知用磁石210の磁極方向がθの場合、自由層の磁極方向もθの方向を向く。この時、たとえばR1の磁化固定層の磁化方向は、変化しないこととするので、+90度の方を向いたままである。そうすると、自由層の磁極方向と磁化固定層の磁化方向がなす角度はθ
1となる。なお、以下では、R1〜R8における自由層の磁極方向と磁化固定層の磁化方向がなす角度をθ
1〜θ
8とする。
【0037】
第1ブリッジ回路221のR1〜R4における自由層の磁極方向と磁化固定層の磁化方向がなす角度はそれぞれ以下のようになる。
θ
1=θ−π/2
θ
2=θ−3π/2
θ
3=θ−π/2
θ
4=θ−3π/2
【0038】
ブリッジ回路の抵抗値を求める一般式は、
Rn(θn)=R0−rR0Cosθn (n=1〜8)
であるから、R1〜R4における抵抗値はそれぞれ以下のようになる。なお、R0は、抵抗値の中央値、rは、抵抗変動率である。
R1(θ
1)=R0−rR0Cosθ
1
R2(θ
2)=R0−rR0Cosθ
2
R3(θ
3)=R0−rR0Cosθ
3
R4(θ
4)=R0−rR0Cosθ
4
【0039】
第2ブリッジ回路222のR5〜R8も同様に以下のようになる。
θ
5=θ
θ
6=θ−π
θ
7=θ
θ
8=θ−π
R5(θ
5)=R0−rR0Cosθ
5
R6(θ
6)=R0−rR0Cosθ
6
R7(θ
7)=R0−rR0Cosθ
7
R8(θ
8)=R0−rR0Cosθ
8
【0040】
第1ブリッジ回路221および第2ブリッジ回路222においては、キルヒホッフの法則により、以下の式が成り立つ。なお、I
sin±およびI
cos±は、第1ブリッジ回路221および第2ブリッジ回路222の電流値である。
Vcc−R1I
sin+−R2I
sin+=0
Vcc−R4I
sin−−R3I
sin−=0
Vcc−R5I
cos+−R6I
cos+=0
Vcc−R8I
cos−−R7I
cos−=0
【0041】
これを、電流値で整理すると以下のようになる。
I
sin+=Vcc/(R1+R2)
I
sin−=Vcc/(R3+R4)
I
cos+=Vcc/(R5+R6)
I
cos−=Vcc/(R7+R8)
【0042】
第1ブリッジ回路221のR1とR2の接続点における出力電圧V
sin+およびR3とR4の接続点における出力電圧V
sin−、また、第2ブリッジ回路222のR5とR6の接続点における出力電圧V
cos+およびR7とR8の接続点における出力電圧V
cos−は、以下の式で表される。
V
sin+=Vcc−R1I
sin+
V
sin−=Vcc−R4I
sin−
V
cos+=Vcc−R5I
cos+
V
cos−=Vcc−R8I
cos−
【0043】
これらの式に、上記電流値を代入すると、以下のようになる。
V
sin+=Vcc−R1Vcc/(R1+R2)
=R2Vcc/(R1+R2)
=(R0+rR0Sinθ)Vcc/2R0 ・・・(10)式
V
sin−=(R0−rR0Sinθ)Vcc/2R0 ・・・(11)式
V
cos+=(R0+rR0Cosθ)Vcc/2R0 ・・・(12)式
V
cos−=(R0−rR0Cosθ)Vcc/2R0 ・・・(13)式
【0044】
このように、上記(10)式〜(13)式により、被検知用磁石210の磁極方向がθの場合における各ブリッジ回路の出力電圧を取得することができる。
【0045】
次に、トンネル型磁気抵抗素子223の磁化固定層の磁化方向のずれを考慮する場合を説明する。
図13(B)に示すように、被検知用磁石210の磁極方向がθの場合、自由層の磁極方向もθの方向を向く。この時、たとえばR1の磁化固定層の磁化方向は、被検知用磁石210の磁極方向に引きずられて、ずれがない場合に比べてΔθだけ自由層の磁極方向へ近寄るようにずれる。なお、Δθは、以下のようになる。
第1ブリッジ回路221の場合: Δθ=BCCosθ
第2ブリッジ回路222の場合: Δθ=BCSinθ
ただし、Bはトンネル型磁気抵抗素子223における被検知用磁石210の磁束密度であり、Cはトンネル型磁気抵抗素子223の固有係数である。
【0046】
そうすると、自由層の磁極方向とR1の磁化固定層の磁化方向がなす角度はθ
e1となる。同様に、R2の磁化固定層の磁化方向は、
図13(C)に示すように、被検知用磁石210の磁極方向に引っ張られて、ずれがない場合に比べてΔθだけ自由層の磁極方向へ近寄るようにずれる。そうすると、自由層の磁極方向とR2の磁化固定層の磁化方向がなす角度はθ
e2となる。以下、R3〜R8における自由層の磁極方向と磁化固定層の磁化方向がなす角度θ
e3〜θ
e8も同様である。
【0047】
第1ブリッジ回路221および第2ブリッジ回路222のR1〜R8における自由層の磁極方向と磁化固定層の磁化方向がなす角度はそれぞれ以下のようになる。
θ
e1=θ−π/2+Δθ
θ
e2=θ−3π/2−Δθ
θ
e3=θ−π/2+Δθ
θ
e4=θ−3π/2−Δθ
θ
e5=θ−Δθ
θ
e6=θ−π+Δθ
θ
e7=θ−Δθ
θ
e8=θ−π+Δθ
【0048】
そうすると、R1〜R8における抵抗値はそれぞれ以下のようになる。
R1(θ
e1)=R0−rR0Cosθ
e1
R2(θ
e2)=R0−rR0Cosθ
e2
R3(θ
e3)=R0−rR0Cosθ
e3
R4(θ
e4)=R0−rR0Cosθ
e4
R5(θ
e5)=R0−rR0Cosθ
e5
R6(θ
e6)=R0−rR0Cosθ
e6
R7(θ
e7)=R0−rR0Cosθ
e7
R8(θ
e8)=R0−rR0Cosθ
e8
【0049】
これらを上記同様に整理すると、第1ブリッジ回路221および第2ブリッジ回路222の出力電圧は、以下の式で表される。
V
sin+=Vcc×(R0−rR0Sin(Δθ−θ))/(2R0−2rR0SinΔθCosθ) ・・・(20)式
V
sin−=Vcc×(R0−rR0Sin(Δθ+θ))/(2R0−2rR0SinΔθCosθ) ・・・(21)式
V
cos+=Vcc×(R0+rR0Cos(Δθ+θ))/(2R0−2rR0SinΔθSinθ) ・・・(22)式
V
cos−=Vcc×(R0−rR0Cos(Δθ−θ))/(2R0−2rR0SinΔθSinθ) ・・・(23)式
Vsin=(V
sin+)−(V
sin−)=Vcc×rR0×(Sinθ×CosΔθ/R0−rR0SinΔθCosθ) ・・・(24)式
Vcos=(V
cos+)−(V
cos−)=Vcc×rR0×(Cosθ×CosΔθ/R0−rR0SinΔθSinθ) ・・・(25)式
【0050】
上述したように、(20)式〜(25)式に示すように、トンネル型磁気抵抗素子223の磁化固定層の磁化方向のずれを考慮した、磁気検出部220の第1ブリッジ回路221および第2ブリッジ回路222の出力電圧をモデル化できた。各ブリッジ回路の出力電圧がモデル化できると、後述するように、磁化固定層の磁化方向のずれに起因する誤差を補正することが可能となる。
【0051】
図14を参照して、本発明に係る磁極方向検出装置200を説明する。磁極方向検出装置200は、ステータM1に巻かれた多相コイルM2に流れる電流によって発生する磁界により回転するロータM3を有する多相電動モータMにおいて、ロータM3の磁極方向を検出する装置である。本実施例においては、被検知用磁石210の磁極方向がロータM3の磁極方向である。磁極方向検出装置200は、ロータM3の回転軸M4の先端に取り付けられた被検知用磁石210と、被検知用磁石210の回転による磁極方向(磁場)の変化を、トンネル型磁気抵抗素子223の電圧変化として捉える磁気検出部220と、磁気検出部220が出力する位相の異なるSin波形の電圧信号およびCos波形の電圧に関する検出信号に基づき逆正接を算出することにより被検知用磁石210の磁極方向を算出する磁極方向算出部230と、磁極方向算出部230が算出した磁極方向に含まれる、被検知用磁石210の磁場の作用により発生するトンネル型磁気抵抗素子223の磁化固定層の磁化方向ずれにより生じる誤差量を補正する方向補正量を算出する方向補正量算出部260と、磁極方向算出部230が算出した磁極方向に対して、方向補正量算出部260が算出した方向補正量を用いて補正を行う磁極方向補正部270と、を備える。
【0052】
磁極方向算出部230が算出した磁極方向θdは、磁気検出部220のトンネル型磁気抵抗素子223の磁化固定層の磁化方向のずれ(Δθ)に起因する誤差θxを含んでいるので、被検知用磁石210の磁極方向のθが真正な磁極方向であるとした場合、
θd=θ+θx
と表すことができる。したがって、被検知用磁石210の磁極方向のθは、
θ=θd−θx
となるので、磁極方向補正部270は、方向補正量算出部260が算出する方向補正量を減算することにより、被検知用磁石210の磁極方向のθの真正な値を検出することができる。
【0053】
まず、磁化固定層の磁化方向ずれを反映したモデル式である(24)式と(25)式を用いて、磁極方向算出部230が磁極方向θdを算出する手順について説明する。前述したようにB(トンネル型磁気抵抗素子223における被検知用磁石210の磁束密度)、C(トンネル型磁気抵抗素子223の固有係数)を用いて算出したΔθを算出する。このΔθ、予め求めておいたR0(抵抗値の中央値)、およびr(抵抗変動率)をモデル式に代入して、θを変化させてVsinとVcosを算出する。例えば、θを0.1間隔で変化させて、θごとにVsinおよびVcosを算出する。ここで、θは被検知用磁石210の着磁方向の真値とみなしている。
【0054】
そして、tanθd=(Vsin/Vcos)として、これから逆正接を計算することによってθdを求め、θdからθを減算することで誤差θxを求めることができる。たとえば、0.1ずつ変化させたθごとにθdと誤差θxを得て、各θdと各θxとを対応付けした補正テーブルを作成する。このようにして事前に作成した補正テーブルを用いることによって、方向補正量算出部260は、磁極方向算出部230が算出した磁極方向θdからその値に対応した誤差θxを減算することによって、被検知用磁石210の磁極方向θの真正な値を検出することができる。これによれば、磁化固定層の磁化方向ずれに起因する誤差を補正することにより、回転軸の回転角度(磁極方向)の検出精度を向上させた磁極方向検出装置200を提供できる。
【0055】
なお、方向補正量算出部260は、上述したように、磁気検出部220の出力電圧に基づいてモデル化した角度誤差の量を算出することにより方向補正量(Δθ)を導出してもよいし、事前に、被検知用磁石210の磁極方向θに応じて生ずる角度誤差を計測し、方向補正量対応表を作成しておき、磁気検出部220の出力電圧に対応した方向補正量(Δθ)を選択してもよい。
【0056】
<第一実施例の変形例>
以上では、磁極方向補正部270が方向補正量を減算することにより補正を行う例を説明したが、以下の方法により補正を行ってもよい。発明者らは、磁場強度が強い環境では磁化固定層の磁化方向がわずかに変化することを見出し、上述したようなモデル化をなしえたと共に、このようにモデル式に基づいてθごとに誤差θxを計算するシミュレーションを行ったところ、誤差θxはθに対して4次で脈動している事を見出した。本変形例は、かかる知見に基づくものである。
図15は、上述した回転軸M4を有する多相電動モータMと、該モータMに対して外部から回転軸M4を機械的に回動させる回転装置M7(外部装置)とを備える測定系を示す。
【0057】
多相電動モータ制御装置100の回路には通電を行うが、回転軸M4を回転させる制御は行わず、回転装置M7がロータおよび被検知用磁石210と一体となった回転軸M4を回転させる。回転装置M7は、回転軸M4の回転角度を出力するセンサであるエンコーダを有する。回転軸M4の回転角度ゼロと被検知用磁石210の磁極方向とが一致するように初期設定されている。エンコーダは、回転軸M4(またはロータM3)の物理的な回転角度(機械角)を正確に測定することができる。そこで、エンコーダからの出力である回転角度θを回転軸M4の回転角度、つまり、回転軸M4の磁極方向あるいは被検知用磁石210の磁極方向と同じもの、の真値とみなす。
【0058】
回転装置M7によって回転軸M4を所定間隔(たとえば、0.1度間隔)で回転させる。多相電動モータ制御装置100には通電されているので、トンネル型磁気抵抗素子223のブリッジ回路10は、その所定間隔ごとに、出力電圧であるVsinとVcosを出力する。これらを用いて逆正接を計算してθdを算出し、エンコーダ出力から得られる真値の回転角度θ(磁極方向θ)とθdの差分θyを算出する。なお、このように算出する装置を、本図に示すように角度誤差テーブル作成装置としてもよい。差分θyには、磁化固定層の磁化方向のずれに起因する誤差成分以外の要因に起因する誤差が含まれている可能性がある。上述したように、磁化固定層の磁化方向のずれに起因する誤差はθの変化に対する4次成分である事が分かったので、測定された差分θyの変動に含まれる4次成分を抽出して、これを磁化固定層の磁化方向のずれに起因する誤差成分θxとして求めることにする。
【0059】
θyには、磁化固定層の磁化方向のずれに起因する誤差成分θxと、他の要因によって生じる誤差成分が含まれている。磁化固定層の磁化方向のずれに起因する誤差成分θxのみを抽出するために、以下のようにθyの変動に含まれる4次成分を求める。縦軸をθyとし、横軸をθとした座標における関数f(θ)を次のように考える。
f(θ)=A0+A1sin(θ+B1)+A2sin(2θ+B2)+A3sin(3θ+B3)+A4sin(4θ+B4)+・・・・・・・
なお、A0〜Anは、各次数の正弦波の振幅の大きさを示し、B1〜Bnは、各次数の正弦波の位相を示す。
【0060】
たとえば、非線形最小二乗法を用いて、実測して得られたθyとθに良く適合するあてはめ関数(Fitting Function)を関数f(θ)として求める。その結果、4次成分であるA4sin(4θ+B4)が得られるので、これを磁化固定層の磁化方向のずれに起因する誤差成分θxとする。そして、θdの差分θxとの対応表を作成し、これを方向補正量対応表とする。このように作成された方向補正量対応表に基づき、磁気検出部220の出力電圧であるVsinとVcosを用いて逆正接を算出した結果であるθdに対応した方向補正量θxを選択すれば、補正量が得られる。これによれば、磁化固定層の磁化方向ずれに起因する誤差を補正することにより、回転軸の磁極方向の検出精度を向上させた磁極方向検出装置200を提供できる。
【0061】
なお、本発明は、例示した実施例に限定するものではなく、特許請求の範囲の各項に記載された内容から逸脱しない範囲の構成による実施が可能である。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。