(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
走査電子顕微鏡で試料の組成を観察する場合、上記のように2つの検出素子の信号を加算して組成像を取得する。しかしながら、2つの検出素子の信号を加算して組成像を取得したとしても、試料表面に凹凸があれば組成像には凹凸のコントラストが現れてしまう。
【0006】
ここで、反射電子検出器として用いられる半導体検出器は、従来、10keV程度の比較的高いエネルギーの電子を検出し、それ以下の低いエネルギーの電子の検出は難しかった。そのため、反射電子像の取得は、10kV以上の高加速電圧で行われていた。
【0007】
近年、半導体検出器は、2keV程度の比較的低いエネルギーの電子を検出可能なものが登場し、反射電子像の取得を低加速電圧で行えるようになった。低加速電圧では、高加速電圧に比べて電子の散乱領域が狭いため、高加速電圧では観察できなかった微細構造まで観察できる。
【0008】
しかしながら、一方で、低加速電圧で得られる反射電子像は、高加速電圧で得られる反射電子像と比べて、試料表面の凹凸の影響を受けやすい。高加速電圧の場合、電子の散乱領域が広いため、電子の散乱領域に対して試料表面の凹凸が小さくなり、反射電子放出量は凹凸の影響を受けにくい。これに対して、低加速電圧の場合、電子の散乱領域が狭くなるため、電子の散乱領域に対して試料表面の凹凸が大きくなり、反射電子放出量は凹凸の影響を受けやすい。そのため、低加速電圧の場合、組成像には、凹凸のコントラストが現れやすい。
【0009】
本発明の目的は、試料表面の凹凸のコントラストを低減して、良好な組成像を取得することができる荷電粒子線装置および画像取得方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る荷電粒子線装置の一態様は、
荷電粒子線で試料上を走査し、前記試料から放出される荷電粒子を検出して走査像を取得する荷電粒子線装置であって、
前記試料から放出される荷電粒子を検出する複数の検出部と、
前記複数の検出部から出力される複数の検出信号に基づいて、前記走査像を生成する画像処理部と、
を含み、
前記画像処理部は、
荷電粒子線の照射位置ごとに、複数の前記検出信号を取得する処理と、
取得した複数の前記検出信号のなかから、信号量の最大値および信号量の最小値を抽出し、前記最大値と前記最小値の差を算出する処理と、
複数の前記検出信号の信号量の総和を算出する処理と、
前記総和に基づく第1の値と前記差に基づく第2の値の和に基づいて、前記照射位置に対応する前記走査像の画素の画素値を求める処理と、
を行う。
【0011】
このような荷電粒子線装置では、前記総和に基づく第1の値と前記差に基づく第2の値の和に基づいて画素値を求めるため、凹凸のコントラストが低減された良好な組成像を取得することができる。
【0012】
本発明に係る画像取得方法の一態様は、
荷電粒子線で試料上を走査し、前記試料から放出される荷電粒子を複数の検出部で検出して走査像を取得する荷電粒子線装置における画像取得方法であって、
荷電粒子線の照射位置ごとに、前記複数の検出部から出力される複数の検出信号を取得する工程と、
取得した複数の前記検出信号のなかから、信号量の最大値および信号量の最小値を抽出し、前記最大値と前記最小値との差を算出する工程と、
複数の前記検出信号の信号量の総和を算出する工程と、
前記総和に基づく第1の値と前記差に基づく第2の値の和に基づいて、前記照射位置に対応する前記走査像の画素の画素値を求める工程と、
を含む。
【0013】
このような画像取得方法では、前記総和に基づく第1の値と前記差に基づく第2の値の和に基づいて画素値を求めるため、凹凸のコントラストを低減された良好な組成像を取得することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0016】
また、以下では、本発明に係る荷電粒子線装置として、電子線を照射して試料から放出される電子を検出して走査像を取得する走査電子顕微鏡を例に挙げて説明する。なお、本発明に係る荷電粒子線装置は電子線以外の荷電粒子線(イオンビーム等)を照射して試料から放出される荷電粒子を検出して走査像を取得する装置であってもよい。
【0017】
1. 走査電子顕微鏡の構成
まず、本実施形態に係る走査電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る走査電子顕微鏡100の構成を示す図である。
【0018】
走査電子顕微鏡100は、電子線で試料101上を走査し、試料101から放出される電子を検出して、走査像を取得する。走査電子顕微鏡100は、
図1に示すように、電子源2と、収束レンズ3と、対物レンズ4と、走査偏向器5と、試料ステージ6と、電子検出器8と、走査信号発生器10と、増幅器12a,12b,12c,12dと、信号調整器14と、信号取得部16と、信号変換器18と、操作部20と、表示部22と、記憶部24と、画像処理部30と、を含む。
【0019】
電子源2は、電子を発生させる。電子源2は、例えば、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。
【0020】
収束レンズ3は、対物レンズ4とともに、電子源2から放出された電子線を収束させて電子プローブを形成する。収束レンズ3によって、電子プローブの径やプローブ電流(照射電流量)を制御することができる。
【0021】
対物レンズ4は、試料101の直前に配置された電子プローブを形成するためのレンズである。対物レンズ4は、例えば、コイルと、ヨークと、を含んで構成されている。対物レンズ4では、コイルで作られた磁力線を、鉄などの透磁率の高い材料で作られたヨークに閉じ込め、ヨークの一部に切欠きを作ることで、高密度に分布した磁力線を光軸OA上に漏洩させる。
【0022】
走査偏向器5は、収束レンズ3と対物レンズ4とによって形成された電子プローブ(収束された電子線)を偏向させる。走査偏向器5は、電子プローブで、試料101上を走査するために用いられる。走査偏向器5は、走査信号発生器10が発生させた走査信号に応じて駆動し、電子線を偏向させる。この結果、電子プローブで試料101上を走査することができる。
【0023】
試料ステージ6には、試料101が載置される。試料ステージ6は、試料101を支持している。試料ステージ6は、試料101を移動させるための駆動機構を有している。
【0024】
電子検出器8は、試料101に電子線が照射されることによって試料101から放出された電子(例えば、反射電子)を検出する。電子検出器8は、例えば、半導体検出器である。電子検出器8は、対物レンズ4と試料ステージ6との間に配置されている。
【0025】
図2は、電子検出器8を模式的に示す平面図である。電子検出器8は、
図2に示すように、4つの検出領域(第1検出領域9a、第2検出領域9b、第3検出領域9c、第4検出領域9d)を有している分割型検出器である。4つの検出領域9a,9b,9c,9dは、それぞれ独立して電子を検出可能である。すなわち、4つの検出領域9a,9b,9
c,9dの各々が、検出された電子の量に応じた信号量の検出信号を出力する検出部として機能する。図示の例では、第1検出領域9aから第1検出信号が出力され、第2検出領域9bから第2検出信号が出力され、第3検出領域9cから第3検出信号が出力され、第4検出領域9dから第4検出信号が出力される。
【0026】
図2に示す例では、円環状の検出面を円周方向に分割することで、4つの検出領域9a,9b,9c,9dが形成されている。電子検出器8には、電子線を通過させる孔が設けられている。電子検出器8では、4つの検出領域9a,9b,9c,9dが光軸OAに関して対称に配置されている。4つの検出領域9a,9b,9c,9dは、光軸OAに垂直な面内に配置されている。すなわち、4つの検出領域9a,9b,9c,9dは、光軸OAに垂直な面内において、光軸OAに関して対称に配置されている。4つの検出領域9a,9b,9c,9dの面積は、例えば、互いに等しい。
【0027】
なお、検出器(検出面)の形状や、分割数は、
図2に示す例に限定されない。また、電子検出器8として分割型検出器のかわりに、検出領域が1つの電子検出器を複数配置してもよい。この場合、1つの電子検出器が1つの検出部を構成する。
【0028】
また、
図1に示す例では、電子検出器8が対物レンズ4の直下に配置されているが、電子検出器8は、試料101から放出された反射電子を検出することができればその位置は特に限定されない。
【0029】
例えば、図示はしないが、走査電子顕微鏡100において、対物レンズ4として、レンズの磁場を積極的に試料101付近まで発生させることで低加速電圧での分解能を向上させたレンズ(いわゆるシュノーケルレンズ)を用いた場合、電子検出器8を対物レンズ4内に配置してもよい。この場合、試料101から放出された電子は対物レンズ4の中心穴を通過して対物レンズ4内に到達しやすいためである。
【0030】
走査電子顕微鏡100では、電子源2から放出された電子線を収束レンズ3および対物レンズ4によって収束して電子プローブを形成し、走査偏向器5で電子線を偏向させることによって、電子プローブで試料101上を走査する。これにより、試料101から電子(例えば反射電子)が放出される。試料101から放出された反射電子は、電子検出器8で検出される。
【0031】
第1検出領域9aから出力された検出信号は、増幅器12aで増幅される。第2検出領域9bから出力された第2検出信号は、増幅器12bで増幅される。第3検出領域9cから出力された第3検出信号は、増幅器12cで増幅される。第4検出領域9dから出力された第4検出信号は、増幅器12dで増幅される。増幅器12a,12b,12c,12dにおける検出信号の増幅率およびオフセット量等は、信号調整器14により調整される。
【0032】
信号取得部16は、増幅器12a,12b,12c,12dで増幅された第1〜第4検出信号を取得する。また、信号取得部16は、走査信号発生器10からの走査信号を受け付けて、試料101における電子線の照射位置の情報を取得する。信号取得部16では、第1〜第4検出信号が電子線の照射位置の情報に関連づけられる。信号取得部16は、例えば、専用回路により実現できる。
【0033】
信号取得部16から出力された検出信号は、信号変換器18において画像処理部30で読み取り可能な信号に変換される。
【0034】
操作部20は、ユーザーからの指示を信号に変換して画像処理部30に送る処理を行う
。操作部20は、例えば、ボタン、キー、タッチパネル型ディスプレイ、マイクなどの入力機器により実現できる。
【0035】
表示部22は、画像処理部30で生成された画像を出力する。表示部22は、例えば、LCD(liquid crystal display)などのディスプレイにより実現できる。
【0036】
記憶部24は、画像処理部30が各種の計算処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部24は、画像処理部30のワーク領域として用いられる。記憶部24は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、およびハードディスクなどにより実現できる。
【0037】
画像処理部30は、4つの検出領域9a,9b,9c,9dから出力される第1〜第4検出信号に基づいて、走査像を生成する処理を行う。
【0038】
具体的には、画像処理部30は、電子線の照射位置ごとに、第1〜第4検出信号を取得する処理と、取得した第1〜第4検出信号のなかから、信号量の最大値および信号量の最小値を抽出し、最大値と最小値との差を算出する処理と、複数の検出信号の信号量の総和を算出する処理と、前記総和に基づく第1の値と前記差に基づく第2の値の和に基づいて、前記照射位置に対応する画素の画素値を求める処理と、を行う。
【0039】
画像処理部30の機能は、各種プロセッサー(CPU(Central Processing Unit)など)でプログラムを実行することにより実現できる。なお、画像処理部30の機能の少なくとも一部を、ASIC(ゲートアレイ等)などの専用回路により実現してもよい。
【0040】
2. 画像取得方法
次に、走査像を生成する手法について説明する。
【0041】
試料101上の1点である照射位置(x,y)で得られた、第1検出信号の信号量をaとし、第2検出信号の信号量をbとし、第3検出信号の信号量をcとし、第4検出信号の信号量をdとする。
【0042】
まず、照射位置(x,y)で得られた第1〜第4検出信号のなかから、信号量の最大値Smax(a,b,c,d)と、信号量の最小値Smin(a,b,c,d)を抽出する。そして、最大値Smax(a,b,c,d)と最小値Smin(a,b,c,d)の差の信号量Sdiff=Smax(a,b,c,d)−Smin(a,b,c,d)を求める。
【0043】
照射位置において、試料表面が平坦(水平)であれば、4つの検出領域9a,9b,9c,9dでは等しく電子が検出されるので、第1〜第4検出信号の信号量はほぼ等しくなり、信号量Sdiffはほぼ零となる。
【0044】
これに対して、照射位置において、試料表面が傾いていれば、試料表面の法線方向の検出領域の検出信号の信号量が多くなり、当該法線方向とは反対方向の検出領域の検出信号の信号量が少なくなる。そのため、最小値Smin(a,b,c,d)と最大値Smax(a,b,c,d)に差が生じる。このとき、傾斜角が大きいほど、信号量Sdiffは大きくなる。そのため、信号量Sdiffを求めることで、試料表面の傾斜を検出できる。
【0045】
次に、第1〜第4検出信号の信号量a,b,c,dの総和の信号量Stotal=a+b+c+dを求める。信号量Stotalは、一般的に使用される円環状の半導体検出器
と同様の信号となるため、信号量Stotalには、組成の信号と、試料表面の傾斜の信号と、が含まれる。そのため、信号量Stotalで生成された走査像は、試料101の組成と試料表面の凹凸の両方が反映された画像となる。
【0046】
信号量Stotalは、試料表面の傾斜が大きくなるに従って減少するため、信号量Sdiffに基づく値に応じて信号量Stotalを補正すれば、走査像において凹凸のコントラストを低減できる。
【0047】
例えば、信号量Sdiffが傾斜角に比例して増加し、総和Stotalが傾斜角に比例して減少する場合、次式に示すように、信号量Sdiffに係数Kを掛けて、総和Stotalに加算することで、信号量Sc(次式参照)を求める。
【0048】
Sc=Stotal+K×Sdiff
係数Kは、任意の定数であり、あらかじめ設定されていてもよい。また、係数Kを任意の定数として走査像を生成し、生成された走査像を表示部22に表示させ、表示部22に表示された走査像を見て、ユーザーが係数Kを設定してもよい。このとき、走査像の生成と、係数Kの設定と、を繰り返すことで、良好な走査像を得ることができる。
【0049】
次に、信号量Scに基づいて、照射位置(x,y)に対応する画素の画素値を求める。ここでは、走査像はグレースケールで表されるため、画素値は輝度値である。通常のSEM像を生成する場合と同様に、信号量Scに応じて、輝度値を決定する。例えば、輝度値は信号量に比例するものとして、画素の輝度値を決定する。
【0050】
このようにして、走査像を構成するすべての画素について画素値を求めることで、凹凸のコントラストが低減された走査像を得ることができる。
【0051】
なお、次式のように、信号量Sdiffに応じて信号のオフセット量Osを変化させてもよい。
【0052】
Sc=Stotal+K×(Sdiff+Os)
これにより、凹凸のコントラストをより低減できる。
【0053】
なお、上記では、信号量Sdiffが傾斜角に比例して増加し、信号量Stotalが傾斜角に比例して減少する場合について説明したが、これは比較的、試料表面の傾斜角が小さい場合に有効である。試料表面の傾斜が大きい場合、この関係から大きく外れる場合がある。そのため、試料表面の傾斜が大きい場合には、次式に示すように、信号量Sdiffを変数とした多項式を信号量Stotalに加えてもよい。
【0054】
Sc=Stotal+f(Sdiff)
例えば、f(Sdiff)=C1×Sdiff
2+C2×Sdiff+C3としてもよい。ただし、C1、C2、およびC3は、任意の定数である。
【0055】
以下、上記の手法で凹凸のコントラストが低減された走査像を得ることができる理由について説明する。
【0056】
まず、試料表面の凹凸と信号量の関係を説明する。
【0057】
反射電子の放出率と試料表面の傾斜角の関係は、試料表面が水平の場合(傾斜角が零の場合)に放出率が最大となり、試料表面の傾斜角が大きくなるに従って放出率は低下する。
【0058】
図3および
図4は、試料表面の凹凸と信号量の関係を説明するための図である。ここでは、便宜上、電子検出器が2つの検出領域(検出領域R2および検出領域R4)を有しているものとする。
【0059】
図3に示すように、検出領域R2と検出領域R4とは、光軸OAを挟んで対称な位置に配置されている。なお、実際の装置では、電子の走査領域に対して電子検出器が十分に大きく、電子の放出点に関して検出領域R2と検出領域R4とは対称となるため、検出領域R2と検出領域R4とはほぼ同じ角度範囲の電子を検出する。そのため、試料表面が平坦(水平)であれば、検出領域R2と検出領域R4には同じ量の電子が入射する。
【0060】
図4には、電子線で、平坦な第1部分101aから凸形状の頂点101bを通って、平坦な第2部分101cまで走査した場合の検出領域R2の信号量Aと検出領域R4の信号量Bを示している。
【0061】
検出領域R2の信号量Aは、電子線が第1部分101aから凸形状の頂点101bに向かうに従って増加し、電子線が頂点101bから第2部分101cに向かうに従って減少する。
【0062】
これに対して、検出領域R4の信号量Bは、電子線が第1部分101aから頂点101bに向かうに従って減少し、電子線が頂点101bから第2部分101cに向かうに従って増加する。
【0063】
ここで、反射電子の放出率は、試料表面が水平の状態が最大であり、試料表面の傾斜角が大きくなるに従って低下する。そのため、試料表面が水平の場合の信号量hに対して、試料表面の傾斜により信号量が増えた方の信号量の増加量をh1とし、信号量が減った方の減少量をh2とすると、それぞれの絶対値は|h1|<|h2|となる。そのため、信号量Aと信号量Bとを足し合わせても、
図3に示すように、信号量A+Bは平坦にならず、傾斜のあるところで信号量が低下する。
【0064】
したがって、本実施形態では、信号量Aと信号量Bに基づいて、試料表面の傾斜情報を取得する。
【0065】
具体的には、まず、電子線を走査しながら、信号量Aと信号量Bとを比較して、信号量の最大値Smax(A,B)と信号量の最小値Smin(A,B)を抽出する。第1部分101aと頂点101bとの間では、信号量Aが信号量Bよりも大きいため、最大値Smax(A,B)は信号量Aとなり、最小値Smin(A,B)は信号量Bとなる。また、頂点101bと第2部分101cとの間では、信号量Bが信号量Aよりも大きいため、最大値Smax(A,B)は信号量Bとなり、最小値Smin(A,B)は信号量Aとなる。また、第1部分101aおよび第2部分101cでは、信号量Aと信号量Bは等しくなるため、最大値Smax(A,B)と最小値Smin(A,B)は同じ値となる。信号量Aと信号量Bが同じ値の場合、最大値Smax(A,B)および最小値Smin(A,B)はどちらの値であってもよい。
【0066】
次に、最大値Smax(A,B)と最小値Smin(A,B)の差を求める。抽出した最大値Smax(A,B)と最小値Smin(A,B)は、常に、最大値Smax(A,B)≧最小値Smin(A,B)の関係を満たすため、減算結果である信号量Sdiff=Smax(A,B)−Smin(A,B)は、正の数または零となる。信号量Sdiffは、試料表面が水平の場合、ほぼ零となり、試料表面の傾斜が大きい程、値が大きくなる。そのため、信号量Sdiffから、試料表面の傾斜の大きさを判断できる。
【0067】
なお、組成による信号量の変化は、試料表面の傾斜の影響を受けない。そのため、信号量Sdiffには、組成の情報は含まれない。
【0068】
ここで、
図4に示すように、信号量Stotal=A+Bは、試料表面の傾斜角が大きくなるほど信号量が低下するのに対して、信号量Sdiff=Smax(A,B)−Smin(A,B)は、試料表面の傾斜角が大きくなるほど信号量が増加する。そこで、信号量Stotalに基づく値(第1の値)と信号量Sdiffに基づく値(第2の値)を足し合わせることで、試料表面の傾斜による信号量の変化が相殺され、試料表面の凹凸の影響が低減された走査像を得ることができる。
【0069】
3. 処理
次に、画像処理部30における処理を説明する。
図5は、画像処理部30における走査像を生成する処理の一例を示すフローチャートである。ここでは、走査像は、第gの画素(g=0,1,2,・・・,m−1)として表される第1〜第mの画素で構成されているものとする。
【0070】
まず、g=0として(S10)、第gの画素(g=0)に対応する照射位置における第1検出信号、第2検出信号、第3検出信号、および第4検出信号を取得する(S12)。
【0071】
次に、ステップS10で取得された第1〜第4検出信号のなかから、信号量の最大値Smax(a,b,c,d)および信号量の最小値Smin(a,b,c,d)を抽出し、最大値Smax(a,b,c,d)と最小値Smin(a,b,c,d)の差の信号量Sdiff=Smax(a,b,c,d)−Smin(a,b,c,d)を算出する(S14)。
【0072】
次に、ステップS10で取得された第1〜第4検出信号の信号量の総和の信号量Stotal=a+b+c+dを算出する(S16)。
【0073】
次に、信号量Stotalに、係数Kを掛けた信号量Sdiffを加算して、信号量Sc=Stotal+K×Sdiffを算出する(S18)。
【0074】
次に、信号量Scに基づいて、画素値(輝度値)を求める(S20)。
【0075】
次に、表示部22において第gの画素(g=0)に対応する領域が、求めた輝度値で表示されるように表示部22を制御する処理(描画処理)を行う(S22)。これにより、表示部22の第gの画素(g=0)に対応する領域が、求めた輝度値で表示される。
【0076】
次に、g=g+1として(S24)、ステップS12に戻って、同様に、第gの画素(g=1)の画素値を求めて(S14、S16、S18、S20)、描画処理(S22)を行う。これらの処理を、g>m−1となるまで繰り返す(S26)。
【0077】
以上の処理により、走査像を表示部22に表示させることができる。このようにして、走査像を生成することができる。
【0078】
なお、上記の走査像を生成する処理は、電子線の走査と並行して行われてもよい。これにより、試料101の走査像をリアルタイムに表示部22に表示することができる。
【0079】
また、最初に、第1検出信号でSEM像(
図6参照)を生成し、第2検出信号でSEM像(
図7参照)を生成し、第3検出信号でSEM像(
図8参照)を生成し、第4検出信号
でSEM像(
図9参照)を生成した後に、生成した4つのSEM像から画素ごとに信号量a,b,c,dの情報を取得して、上述した
図5に示す処理と同様の処理を行って、走査像を生成してもよい。
【0080】
図6は、第1検出信号(信号量a)で生成されたSEM像である。
図7は、第2検出信号(信号量b)で生成されたSEM像である。
図8は、第3検出信号(信号量c)で生成されたSEM像である。
図9は、第4検出信号(信号量d)で生成されたSEM像である。
【0081】
図6〜
図9に示す4つのSEM像を比較すると、組成のコントラストは同じであるが、凹凸のコントラストが異なる。これは、照明効果によるものである。
【0082】
図10は、信号量Stotal=a+b+c+dで生成された走査像(組成像)である。
図10に示す組成像では、組成のコントラストが得られているが、視野の中心付近には、凹凸のコントラストが確認できる。
【0083】
図11は、信号量Sdiff=Smax(a,b,c,d)−Smin(a,b,c,d)で生成された走査像(傾斜像)である。
図11に示す傾斜像では、視野の中心付近に、凹部または凸部があることがわかる。
【0084】
図12は、信号量Stotal+k×Sdiffで生成された走査像である。
図12に示す走査像では、
図10に示す組成像と比べて、凹凸のコントラストが低減している。
【0085】
4. 特徴
走査電子顕微鏡100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0086】
走査電子顕微鏡100では、画像処理部30は、電子線の照射位置ごとに、複数の検出信号を取得する処理と、取得した複数の検出信号のなかから、信号量の最大値Smaxおよび信号量の最小値Sminを抽出し、最大の信号量と最小の信号量との差Sdiffを算出する処理と、複数の検出信号の信号量の総和Stotalを算出する処理と、前記和に基づく第1の値(総和Stotal)と前記差に基づく第2の値(K×Sdiff、またはf(Sdiff))に基づいて、照射位置に対応する画素の画素値を求める処理と、を行う。
【0087】
そのため、走査電子顕微鏡100では、上述したように、凹凸のコントラストが低減された良好な走査像(組成像)を取得することができる。
走査電子顕微鏡100では、複数の検出領域9a,9b,9c,9dは、光軸OAに関して対称に配置されているため、検出信号から画素値を求める計算を簡素化することができる。
【0088】
走査電子顕微鏡100では、信号量Scを、Sc=S
total+K×S
diffにより求め、信号量Scに基づいて画素値を求める。そのため、走査電子顕微鏡100では、凹凸のコントラストが低減された走査像を取得することができる。
【0089】
走査電子顕微鏡100では、画素値を決定する処理では、前記第2の値を、差の信号量Sdiffを変数とした多項式f(Sdiff)により算出する。そのため、走査電子顕微鏡100では、凹凸のコントラストが低減された走査像を取得することができる。
【0090】
走査電子顕微鏡100では、画像処理部30は、電子線の走査と並行して、第1〜第4検出信号を取得する処理、差の信号量Sdiffを算出する処理、総和の信号量Stot
alを算出する処理、および信号量Scに基づき画素値を求める処理を行う。そのため、走査電子顕微鏡100では、凹凸のコントラストが低減された走査像を短時間で取得することができる。
【0091】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0092】
例えば、上述した実施形態では、第1の値としての総和Stotalに、差に基づく第2の値(K×Sdiff)を加算することで、信号量Scを算出したが、例えば、総和Stotalに任意の係数K´を掛けた第1の値(K´×Stotal)に、第2の値を加算することで信号量Scを算出してもよい。
【0093】
また、例えば、上記では、電子検出器8が4つの検出領域9a,9b,9c,9dを有する場合について説明したが、電子検出器8が有する検出領域の数は、2以上であればよく、3以上であることが好ましい。
【0094】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。