(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
後述する明細書及び図面の記載から、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0013】
第1方向に沿ってシングルモード光ファイバを保持するファイバ保持部と、光信号を反射する反射面と、を有する光路変換部材と、基板面に垂直な方向に対して傾斜した第2方向に光信号を入出力させるグレーティングカプラが設けられた基板に設けられる中継部材と、を備え、前記光路変換部材及び前記中継部材は、それぞれ光信号を入出射させる入出射面を有し、前記光路変換部材及び前記中継部材のそれぞれの前記入出射面には、凸レンズが形成されており、前記光路変換部材及び前記中継部材のそれぞれの前記凸レンズとの間で前記光信号のコリメート光を入出射させるとともに、前記光路変換部材の前記反射面によって前記光信号の方向を変換することによって、前記シングルモード光ファイバと前記グレーティングカプラとの間を光結合させることを特徴とする光コネクタ部が明らかとなる。このような光コネクタ部によれば、グレーティングカプラとシングルモード光ファイバとの間を高精度に光接続(光結合)させることができる。
【0014】
前記中継部材の熱膨張率は、前記光路変換部材の熱膨張率よりも前記基板の熱膨張率に近いことが望ましい。これにより、光路変換部材と基板との熱膨張の差による光接続への影響を低減することができる。
【0015】
前記光路変換部材の前記凸レンズの光軸が前記第2方向に沿うように、前記基板面に垂直な方向に対して傾斜していることが望ましい。これにより、収差(コマ収差や非点収差)による光信号の損失を抑制できる。
【0016】
前記中継部材の前記凸レンズの光軸が前記第2方向に沿うように、前記基板面に垂直な方向に対して傾斜していることが望ましい。これにより、収差(コマ収差や非点収差)による光信号の損失を抑制できる。
【0017】
前記ファイバ保持部は、幅方向に並ぶ複数のシングルモード光ファイバを保持するものであり、前記光路変換部材は、前記幅方向に並ぶ3本の位置決めピンを有し、前記中継部材は、前記幅方向に並び、前記位置決めピンが嵌合する3個の位置決め穴を有し、前記幅方向に並ぶ3個の位置決め穴のうちの中央の位置決め穴は、前記第1方向に長い長穴であり、前記幅方向に並ぶ3個の位置決め穴のうちの端の2個の位置決め穴は、前記幅方向に長い長穴であることが望ましい。これにより、熱膨張時の位置誤差の影響を抑制することができる。また、位置決めピンや位置決め穴の位置に製造誤差があっても嵌合可能である。
【0018】
前記光路変換部材は、前記第1方向に垂直な面に対して傾斜した傾斜面と、前記第1方向に垂直な面で構成され、前記シングルモード光ファイバのクラッドに接触する突き当て部と、を有し、前記突き当て部に前記シングルモード光ファイバの前記クラッドを突き当てたとき、前記シングルモード光ファイバのコアが、前記傾斜面と対向して配置されることが望ましい。これにより、突き当て位置の精度を高めることができ、また、伝送損失を抑制することができる。
【0019】
また、第1方向に沿ってシングルモード光ファイバを保持するファイバ保持部と、光信号を反射する反射面と、を有する光路変換部材と、基板面に垂直な方向に対して傾斜した第2方向に光信号を入出力させるグレーティングカプラが設けられた基板と、前記基板に設けられた中継部材と、を備え、前記光路変換部材及び前記中継部材は、それぞれ光信号を入出射させる入出射面を有し、前記光路変換部材及び前記中継部材のそれぞれの前記入出射面には、凸レンズが形成されており、前記光路変換部材及び前記中継部材のそれぞれの前記凸レンズとの間で前記光信号のコリメート光を入出射させるとともに、前記光路変換部材の前記反射面によって前記光信号の方向を変換することによって、前記シングルモード光ファイバと前記グレーティングカプラとの間を光結合させることを特徴とする光接続構造体が明らかとなる。このような光接続構造体によれば、グレーティングカプラとシングルモード光ファイバとの間を高精度に光接続させることができる。
【0020】
===本実施形態===
<概要>
図1Aは本実施形態の光接続構造体の断面図であり、
図1Bは基板10の拡大断面図である。
【0021】
ここでは以下のように「前後方向」と「上下方向」を定義する。前後方向は、シングルモード光ファイバ20の光軸方向であり、基板10の表面(以下、基板面ともいう)に平行な方向である。前後方向においてシングルモード光ファイバ20の端面の側を「前」とし、その逆側を「後」とする。上下方向は基板面に垂直な方向である。上下方向において基板10から見てシングルモード光ファイバ20の側を「上」とし、その逆側を「下」とする。なお、前後方向のことを「第1方向」と呼ぶことがある。また、グレーティングカプラ14と反射面31Eとの間の光信号の光路に平行な方向を「第2方向」と呼ぶことがある。
【0022】
本実施形態の光接続構造体は、基板10と、シングルモード光ファイバ20と、光コネクタ部30とを備えている。
【0023】
基板10は、シリコン製の基板であり、光導波路12(シリコン導波路)が形成されている。光導波路12は、光信号の伝送路であり、基板10の上部に形成されている。光導波路12を基板10(シリコン基板)に形成することにより、従来の石英系の導波路に比べて極めてサイズを小さくでき、高い熱光学定数を得ることができる。また、CMOS(Complementary metal oxide semiconductor)プロセスで製造可能であり、電子回路との親和性がよい。
【0024】
また、基板10の光導波路12の表層には複数の溝が形成されており、これによりグレーティングカプラ14が設けられている。グレーティングカプラ14は、光導波路12を伝搬中の光信号を回折させて上方もしくは下方(ここでは上方)に出射し、光ファイバ(ここではシングルモード光ファイバ20)と光結合させるものである。逆に、反対方向(シングルモード光ファイバ20から光導波路12への方向)の光結合にも用いられる。なお、グレーティングカプラ14は、基板面に垂直な方向(上下方向)に対して傾斜した方向(第2方向)に光信号を入出力させる。
図1Bでは、グレーティングカプラ14の発光性能又は受光性能が最大となる方向を1本の線(破線)で近似して示している。図中の角度θは、グレーティングカプラ14から出力された光の強度が最大となる方向(第2方向)である。角度θは、グレーティングカプラ14から出力される光の強度分布を測定することによって求めることが可能である。グレーティングカプラ14は、フォトリソグラフィー技術で容易に形成可能である。
【0025】
シングルモード光ファイバ20は、中心部のコア21と、コア21の周囲を覆うクラッド22とを備えている(
図3参照)。さらに、その外側は外被23(
図5参照)等で覆われている。シングルモード光ファイバ20は、コア径を小さくすることで、光信号を単一のモードで伝送するようにした光ファイバである。このため、シングルモード光ファイバ20は、マルチモード光ファイバと比べて信号が劣化しにくく、光信号の伝送距離を伸ばすこと(長距離伝送)が可能である。但し、コア径が小さいため、曲げに弱く、また、接続のときの不整合による減衰が大きいので、光信号の光路設計の高精度化が要求される。なお、以下の説明において、シングルモード光ファイバ20のことをSM光ファイバ20ともいう。
【0026】
光コネクタ部30は、基板10のグレーティングカプラ14と、SM光ファイバ20との間を光接続(光結合)させるための部位であり、光路変換部材31と中継部材32を備えている。
【0027】
光路変換部材31は、光の伝送路(光路)の方向を変換する部材であり、本実施形態では透明樹脂によって形成されている。透明樹脂としては、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカーボネイト(PC)、環状オレフィンコポリマー(COC)などを用いることができる。また、光路変換部材31は、ファイバ保持部31A、凹部31B、レンズ31C、ファイバ側入出射面31D、反射面31Eを有している。
【0028】
ファイバ保持部31Aは、SM光ファイバ20の端部を前後方向(第1方向)に沿って固定(保持)するための部位である。本実施形態では、ファイバ保持部31Aは、後述するV溝31Fと天板312で構成されている。但し、これには限られず、SM光ファイバ20の端部を保持できれば、どのような構成であってもよい。例えばファイバ穴であってもよい。
【0029】
凹部31Bは、光路変換部材31の下面(中継部材32との境界面)において上方に窪んだ部位である。
図1Aに示すように、凹部31Bの底面(ここでは窪みの上端部)は基板面(上下方向に垂直な面)に対して傾斜している。より具体的には、凹部31Bの底面は、第2方向に垂直である。
【0030】
レンズ31Cは、凹部31Bに設けられており、下側に凸状に形成されている(すなわち凸レンズである)。また、レンズ31Cのレンズ面は、光信号が入射又は出射する面(ここでは入射面)であり、光路変換部材31における基板10側の入出射面である。凹部31Bの底面(傾斜面)にレンズ31Cが設けられているため、レンズ31Cの光軸は、基板面に垂直な方向に対して傾斜している。具体的には、レンズ31Cの光軸は、第2方向に平行である。なお、レンズ31Cのレンズ面にARコートを施しても良い。ARコートを施すことにより、レンズ31Cと空気との界面で起こる反射を防止でき、光信号の損失を抑制できる(後述のレンズ32Cについても同様)。
【0031】
ファイバ側入出射面31Dは、SM光ファイバ20の端面との間において光信号が入射又は出射する面(ここでは出射面)である。なお、ファイバ側入出射面31Dは、上下方向に対して若干傾斜している(
図7参照)。
【0032】
反射面31Eは、光信号を反射させるための平面(フラットな面)である。本実施形態の反射面31Eにはレンズが設けられていない。この理由については後述する。
【0033】
中継部材32は、光路変換部材31と基板10との間に設けられた部材である。中継部材32は、光信号を伝搬可能であり、且つ、熱膨張率が、光路変換部材31(透明樹脂)の熱膨張率よりも基板10(シリコン)の熱膨張率に近い材料で形成されている。本実施形態では、中継部材32は石英ガラス(シリカガラス)で形成されているが、これには限定されず、他の材料(例えば、硼珪酸ガラスなど)で形成されていてもよい。例えば、光路変換部材31(透明樹脂)の熱膨張率は60ppmであるのに対し、基板10及び中継部材32の熱膨張率は、3〜8ppmの範囲内である。中継部材32は、基板側入出射面32Aと、凹部32Bと、レンズ32Cを有している。
【0034】
基板側入出射面32Aは、基板10と対向する面であり、光信号が入射又は出射する面(ここでは入射面)である。
【0035】
凹部32Bは、中継部材32の上面において下方に窪んだ部位である。凹部32Bは、光路変換部材31の凹部31Bと対向する位置に設けられており、凹部31Bと凹部32Bとによって空隙が形成されている。凹部32Bの底面は、凹部31Bの底面と平行である。すなわち、凹部32Bの底面は、基板面(上下方向に垂直な面)に対して傾斜しており、第2方向に垂直である。
【0036】
レンズ32Cは、凹部32Bに設けられおり、上側に凸状に形成されている(すなわち凸レンズである)。また、レンズ32Cのレンズ面は、光信号が入射又は出射する面(ここでは出射面)であり、中継部材32におけるSM光ファイバ20側の入出射面である。凹部32Bの底面にレンズ32Cが設けられているため、レンズ32Cの光軸は、基板面に垂直な方向に対して傾斜している。具体的には、レンズ32Cの光軸は、第2方向と平行であり、光路変換部材31のレンズ31の光軸と平行である。なお、レンズ32Cのレンズ面にARコートを施しても良い。
【0037】
図2Aは、本実施形態のレンズ配置の説明図であり、
図2Bは、レンズ配置の変形例を示す説明図である。なお、図中の一点鎖線は光軸を示している。
【0038】
本実施形態では、
図2Aに示すように、凹部31Bの底面と凹部32Bの底面がともに基板面に対して傾斜しており、凹部31Bに設けられたレンズ31Cと、凹部32Bに設けられたレンズ32Cも基板面に対して傾斜している。具体的には、レンズ31Cの光軸、及び、レンズ32Cの光軸が、それぞれ、第2方向に沿うように上下方向に対して傾斜している。グレーティングカプラ14から出射される光信号の方向は第2方向であるため、光軸が第2方向に沿うようにレンズ31C、及び、レンズ32Cを対向させて配置することで、収差(コマ収差や非点収差)による光信号の損失を抑制することができる。
【0039】
図2Bに示す変形例では、凹部32Bの底面が上下方向に垂直であり、レンズ32Cは傾斜していない(レンズ32Cの光軸は基板10に垂直な方向である)。
【0040】
この変形例においても、収差が許容できる範囲である場合や、レンズ32Cとして特殊なレンズ(非球面レンズなど)を用いて収差を補正できる場合、光結合させることが可能である。この変形例では、凹部32Bやレンズ32Cを傾斜させなくてもよいので中継部材32の製造が容易になる。特に、本実施形態のように中継部材32が加工困難なシリカ製である場合、この変形例のように凹部32Bやレンズ32Cを傾斜させないことは、中継部材32の製造上有利である。
【0041】
なお、
図2Bに示す変形例と同様に、レンズ31Cの光軸を基板10に垂直な方向にしても良い。但し、加工困難なシリカ製の中継部材32と比べて、樹脂製の光路変換部材31は成型が容易であるため、光路変換部材31のレンズ31Cは、
図2Bに示すように、光軸が基板10に垂直な方向に対して傾斜するように形成されることが望ましい。
【0043】
光導波路12を伝搬される光信号は、グレーティングカプラ14で回折されて、基板面に垂直方向(上下方向)に対して角度θ傾斜した方向(第2方向)に出射される。
【0044】
グレーティングカプラ14から出射された光信号は、中継部材32の基板側入射面32Aに入射されて、中継部材32の内部を伝搬する。なお、このときの光路は第2方向に沿っており、上下方向に対して傾斜している。
【0045】
中継部材32の内部を伝搬した後、中継部材32のレンズ32Cから光信号が出射される。このとき出射される光信号はほぼコリメート光になる。光信号(コリメート光)は中継部材32と光路変換部材31との空隙部(凹部32Bと凹部31Bとによって形成された空隙部、レンズ32Cとレンズ31Cの間)を伝搬する。このときの光路も第2方向に沿っており、上下方向に対して傾斜している。
【0046】
空隙部を伝搬した光信号は、光路変換部材31のレンズ31Cに入射され、光ファイバ端面に向かって徐々に集束する。このように、レンズ31Cと反射面31Eの間を光信号が伝搬する(この間の光路も第2方向に沿っており、上下方向に対して傾斜している)。
【0047】
そして、反射面31Eで光信号が反射し、光路変換が行われる(光信号の光路が第2方向から第1方向に変換される)。
【0048】
反射した光信号は、反射面31Eとファイバ側入出射面31Dとの間を伝搬する。このときの光路は基板10に平行な方向(第1方向)である。そして、ファイバ側入出射面31DからSM光ファイバ20の端面に向かって光信号が出射される(このときの光路も第1方向である)。
【0049】
図3Aは第1比較例の光接続構造体を示す図であり、
図3Bは第2比較例の光接続構造体を示す図である。
【0050】
第1比較例(
図3A)では、光路変換部材が設けられておらず、SM光ファイバ20が基板10に向けて曲げられている。このように第1比較例では、SM光ファイバ20を曲げて使用する必要がある。この場合、ファイバ自体の物理的限界に基づいた、曲げ(ファイバ曲げ曲率)の許容値があり、高さ方向の寸法を抑制するのが困難である(特に、SM光ファイバ20はマルチモード光ファイバに比べて曲げに弱い)。また、曲げたファイバを保持するための部材の費用や、ファイバを曲げる工程の工数も必要になる。
【0051】
本実施形態では、光路変換部材31を用いて光路を変換するため、SM光ファイバ20を曲げずに済む。これにより、高さ方向の寸法を抑制できる。
【0052】
第2比較例(
図3B)では、基板10に光路変換部材31´を直接配置している。光路変換部材31E´は、光路変換部材31Eと同様に透明樹脂で形成されており、反射面31E´を有している。なお、反射面31E´にはレンズが設けられている(すなわち、反射面31E´は平面ではない)。
【0053】
前述したように、基板10はシリコンで形成されており、光路変換部材31´は樹脂(透明樹脂)で形成されているので、基板10と光路変換部材31´との熱膨張の差が大きくなる。このため、基板10に光路変換部材31´を固定(例えば接着固定)しても、温度環境が変化したときに基板10と光路変換部材31´とが剥離してしまい、基板10と光路変換部材31´との間で光接続が難しくなるおそれがある(光信号の損失が増大するおそれがある)。
【0054】
これに対し、本実施形態では、基板10と光路変換部材31との間に中継部材32を配置している。基板10(シリコン)と中継部材32(シリカガラス)とは熱膨張の差が小さい。これにより、基板10と中継部材32との間では、熱膨張の差による光接続の問題は生じにくい(理由1)。
【0055】
また、中継部材32と光路変換部材31との間では、コリメート光による光接続が行われる。よって、中継部材32と光路変換部材31に熱膨張の差があっても、光信号の損失を抑制できる(理由2)。
【0056】
上記理由1及び理由2により、本実施形態では、グレーティングカプラ14と、SM光ファイバ20との間を高精度に光接続することができる。
【0057】
また、第2比較例では、反射面31E´にレンズを配置している。このように反射面にレンズを形成する場合、面の変化による影響度が大きくなり、必要となる成型精度が非常に厳しくなる。また、製造誤差が目立ちやすくなる。
【0058】
これに対し、本実施形態では、反射面31Eが平面であり、レンズが設けられていない。よって、第2比較例の場合のような成型精度が求められず、製造誤差が目立ちにくい(次述)。また、反射面31Eを平面にすることにより、グレーティングカプラ14からの傾斜光を全反射させやすくなる。
【0059】
ところで、外部から光を透明樹脂に入射させる場合には、入射面で光が屈折することになる。この場合、仮に入射面の角度にズレが生じると、透明樹脂を伝播する光(入射面で屈折した光)の角度のズレは、入射面の角度のズレの約半分(一般的な透明樹脂の屈折率を想定)となる。これに対し、透明樹脂の内部を伝播する光を反射面で反射させて光路を変換させる場合、仮に反射面の角度にズレが生じると、光路変換後の光(反射面で反射した光)の角度のズレは、反射面の角度のズレの2倍となる。このため、光の入出射面にレンズを形成した場合と、反射面にレンズを形成した場合とを比較すると、成型誤差の影響が4倍も異なることになる。したがって、本実施形態のように、光路変換部材31の光の入出射面にレンズ31Cを設けつつ、反射面31Eを平面にすれば、第2比較例のように反射面31E´にレンズを配置した場合と比べて、光路変換部材31の成型誤差の影響を緩和させることができる。本実施形態のようにシングルモード光ファイバを用いた場合には光信号の光路設計の高精度化が要求されるため、光路変換部材31の成型誤差の影響を緩和させることは、特に重要である。
【0060】
上記の本実施形態の光接続構造体は、上下方向に対して傾斜した第2方向に光信号を入出力させるグレーティングカプラ14が設けられた基板10と、SM光ファイバ20とグレーティングカプラ14との間を光結合させる光コネクタ部30と、を備えている。また、光コネクタ部30は、第1方向に沿ってSMモード光ファイバ20を保持するファイバ保持部31Aと、光信号を反射する反射面31Eと、を有する光路変換部材31と、基板10に設けられる中継部材32と、を備えている。
光路変換部材31及び中継部材32は、それぞれ光信号を入出射させる入出射面を有しており、光路変換部材31の入出射面にはレンズ31C(凸レンズ)が形成され、中継部材32の入出射面にはレンズ32C(凸レンズ)が形成されている。
そして、光路変換部材31のレンズ31C及び中継部材32のレンズ32Cとの間で光信号のコリメート光を入出射させるとともに、光路変換部材31の反射面31Eによって光信号の方向を変換することによって、SM光ファイバ20とグレーティングカプラ14との間を光結合させている。これにより、グレーティングカプラ14とSM光ファイバ20との間を高精度に光接続させることができる。
【0061】
また、本実施形態では、中継部材32として熱膨張率が、光路変換部材31(透明樹脂)の熱膨張率よりも基板10(シリコン)の熱膨張率に近い材料(シリカガラス)を用いている。これにより、光路変換部材31と基板10との熱膨張の差による光接続への影響を低減することができる。
【0062】
また、本実施形態では、光路変換部材31のレンズ31Cの光軸が第2方向に沿うように、上下方向に対して傾斜している。これにより、収差(コマ収差や非点収差)による光信号の損失を抑制できる。
【0063】
また、本実施形態では、中継部材32のレンズ32Cの光軸が第2方向に沿うように、上下方向に対して傾斜している。これにより、収差(コマ収差や非点収差)による光信号の損失を抑制できる。
【0064】
<光コネクタ部30の具体的構造>
図4は、本実施形態の光コネクタ部30の全体斜視図である。また
図5A及び
図5Bは、光コネクタ部30の分解図である。
【0065】
ここでは、前後方向、上下方向、左右方向を定義する。前後方向及び上下方向は
図1の場合と同じであるので説明を省略する。左右方向は、上下方向及び前後方向に直交する方向である。左右方向のうち、後側から前側を見た時の右側を「右」とし、左側を「左」とする。また、左右方向のことを「幅方向」と呼ぶことがある。
【0066】
前述したように、光コネクタ部30は、光路変換部材31と中継部材32を備えている。なお、本実施形態の光コネクタ部30は、基板10のグレーティングカプラ14と、複数のSM光ファイバ20とを光接続する。複数のSM光ファイバ20は左右方向(幅方向)に並んでいる。なお、
図4では不図示の基板10には、複数のグレーティングカプラ14が左右方向(幅方向)に並んでいる。
【0067】
光路変換部材31は、本体部311と天板312を有している。
【0068】
本体部311は、光路変換部材31の本体を構成する部位であり、凹部31B、レンズ31C、ファイバ側入出射面31D、反射面31E、V溝31F、突き当て部31G、及び、位置決めピン31Hを有している。
【0069】
凹部31Bは、光路変換部材31の下面(中継部材32との境界面)において上方に窪んだ部位であり、
図5Bに示すように、左右方向に沿って細長く形成されている。また、凹部31Bの底面は、上下方向に対して傾斜している。
【0070】
レンズ31Cは、凹部31Bにおいて、左右方向に複数並んで設けられている(レンズアレイ)。複数のレンズ31Cは、それぞれ、複数のSM光ファイバ20と対応している。また、各レンズ31Cの光軸は上下方向に対して傾斜している。
【0071】
ファイバ側入出射面31Dは、SM光ファイバ20の端面との間において光信号が入射又は出射する面(ここでは出射面)である。前述したように、ファイバ側入出射面31Dは、上下方向に対して若干傾斜している。
【0072】
反射面31Eは、光信号を反射させる(光路を変換させる)ための平面(フラットな面)である。
【0073】
V溝31Fは、断面がV字の溝状の部位であり、反射面31Eよりも後側に設けられている。また、V溝31Fは、複数のSM光ファイバ20に対応して、左右方向に複数並んで設けられている。各V溝31Fには、それぞれ、SM光ファイバ20の端部が配置される。
【0074】
突き当て部31Gは、SM光ファイバ20の端面(先端面)が突き当てられる部位であり、光軸(第1方向)に垂直な面(以下、突き当て面ともいう)で構成されている。この突き当て面は、SM光ファイバ20の端面のクラッド22と接触する(後述)。
【0075】
位置決めピン31Hは、本体部311の下面から下方に突出した突出部であり、反射面31Eから見てSM光ファイバ20側(すなわち後側)に設けられている。本実施形態では左右方向に間隔を空けて3本の位置決めピン31H(右端ピン31HR、左端ピン31HL、中央ピン31HC)が設けられている。なお、3本の位置決めピン31Hは同一形状(円柱形状)である。
【0076】
右端ピン31HRは、3本の位置決めピン31Hのうち最も右側に設けられている。左端ピン31HLは、3本の位置決めピン31Hのうち最も左側に設けられている。中央ピン31HCは、右端ピン31HRと左端ピン31HLとの間(中間)に設けられている。3本の位置決めピン31H(右端ピン31HR、左端ピン31HL、中央ピン31HC)は、中継部材32の3個の位置決め穴32D(右端穴32DR、左端穴32DL、中央穴32DC)にそれぞれ挿入(嵌合)される。これにより、光路変換部材31と中継部材32との位置決めが行われる。
【0077】
天板312は、本体部311のV溝31Fの上に配置される板状の部材である。V溝31FにSM光ファイバ20を配置した状態でその上に天板312を配置することにより、SM光ファイバ20はV溝31Fと天板312に挟まれて固定(保持)される。すなわち、天板312及びV溝31Fは、SM光ファイバ20を保持するファイバ保持部31Aに相当する。なお、前述したようにファイバ穴を設けて、ファイバ穴にSM光ファイバ20の端部を挿入して固定(保持)するようにしてもよい。
【0078】
中継部材32は、基板側入出射面32Aと、凹部32Bと、レンズ32Cと、位置決め穴32Dとを有している。
【0079】
基板側入出射面32Aは、基板10と対向する面であり、光信号が入射又は出射する面である。
【0080】
凹部32Bは、中継部材32の上面において下方に窪んだ部位であり、左右方向に沿って、細長く形成されている。また、凹部32Bの底面は、基板面(上下方向に垂直な面)に対して傾斜している。
【0081】
レンズ32Cは、凹部32Bにおいて、左右方向に複数並んで設けられている(レンズアレイ)。複数のレンズ32Cは、それぞれ、複数のSM光ファイバ20、及び、複数のレンズ31Cに対応している。また、各レンズ32Cの光軸は上下方向に対して傾斜している。
【0082】
位置決め穴32Dは、光路変換部材31の位置決めピン31Hが挿入されることによって、光路変換部材31と中継部材32との位置決めを行うための穴(本実施形態では長穴)である。中継部材32には、光路変換部材31の3本の位置決めピン31Hに対応して、3個の位置決め穴32D(右端穴32DR、左端穴32DL、中央穴32DC)が設けられている。
【0083】
右端穴32DRは、右端ピン31HRが挿入される穴であり、3個の位置決め穴32Dのうちの最も右側に設けられている。右端穴32DRは、長軸が左右方向の楕円形状の穴(幅方向に長い長穴)に形成されている。なお、楕円の短軸の長さ(短径)は、位置決めピン31Hの径とほぼ等しく、長軸の長さ(長径)は、位置決めピン31Hの径よりも大きい(左端穴32DL及び中央穴32DCについても同様)。
【0084】
左端穴32DLは、左端ピン31HLが挿入される穴であり、3個の位置決め穴32Dのうちの最も左側に設けられている。左端穴32DLも、長軸が左右方向の楕円形状の穴(幅方向に長い長穴)に形成されている。すなわち、左端穴32CLの長軸は、右端穴32DRの長軸と同じ方向である。
【0085】
中央穴32DCは、中央ピン31HCが挿入される穴であり、右端穴32DRと左端穴32DLとの中間に設けられている。また、中央穴32DCは、長軸が前後方法の楕円形状の穴(第1方向に長い長穴)に設けられている。すなわち、中央穴32DCの長軸の方向と、右端穴32DR及び左端穴32DLの長軸の方向とは異なっている。
【0086】
図6Aは、本実施形態の光コネクタ部30における位置決め部(位置決め穴32D及び位置決めピン31H)の配置図であり、
図6Bは、比較例の位置決め部の配置図である。
【0087】
比較例(
図6B)では、位置決めピン31Hとして、右端ピン31HRと左端ピン31HLが設けられており、位置決め穴32Dとして、右端穴32DR´と左端穴32DLが設けられている。右端ピン31HRと左端ピン31HLの中心間距離は長さLである。なお、右端穴32DR´は位置決めピン31Hの外形に対応した形状(すなわち円形)の穴である。この比較例の場合、光路変換部材31と中継部材32との熱膨張率の違いに応じて、熱膨張時に長さLに比例した位置誤差が生じる。
【0088】
本実施形態(
図6A)では、各位置決めピン31Hを対応する位置決め穴32Dに嵌合した後、中央ピン31HCを中央穴32DCに接着固定させる(右端ピン31HRと右端穴32DR、及び、左端ピンHLと左端穴32DLは嵌合のみで固定されていない)。この場合、熱膨張時の光路変換部材31と中継部材32との位置誤差の影響は、比較例の半分で済む。また、中央穴32DCの長軸が前後方向(左右方向に垂直な方向)なので、位置決めピン31Hや位置決め穴32Dの位置に製造誤差があっても、3本の位置決めピン31Hを、それぞれ、対応する位置決め穴32Dに嵌合可能である。
【0089】
図7は、ファイバ側入出射面31D付近の拡大断面図である。図に示すように、SM光ファイバ20の端面は、光軸(第1方向)に垂直な面である。
【0090】
突き当て部31Gは、SM光ファイバ20の端面のクラッド22に接触している(SM光ファイバ20のコア21には接触していない)。突き当て部31GにおけるSM光ファイバ20との接触面(突き当て面)は、光軸(第1方向)に垂直な面である。これにより、SM光ファイバ20を傾斜面に突き当てる場合よりも位置の精度を高めることができる。
【0091】
また、ファイバ側入出射面31D(傾斜面に相当)は、突き当て部31Gの上側に設けられており、第1方向に垂直な面に対して若干傾斜している。この傾斜の角度は、光路変換部材31の材料(ここでは透明樹脂)の屈折率に応じて最適化されている。そして、突き当て部31GにSM光ファイバ20のクラッド22が突き当てられたとき、SM光ファイバ20のコア21がファイバ側入出射面31Dと対向して配置される。これにより、伝送損失を抑制することができる(若しくは、ファイバ側入出射面31Dでの光信号の反射の影響を抑制することができる)。
【0092】
===その他の実施形態===
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更・改良され得ると共に、本発明には、その等価物が含まれることは言うまでもない。
【0093】
前述の実施形態では、光路変換部材31として透明樹脂を用いていたが、これには限られず、光信号を通す材質のものであればよい。例えば、中継部材32と同じ材料(シリカガラスなど)を用いてもよい。