(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796657
(24)【登録日】2020年11月18日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】水素富化合成ガスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/16 20060101AFI20201130BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20201130BHJP
B01J 23/04 20060101ALI20201130BHJP
B01J 23/882 20060101ALI20201130BHJP
B01J 27/051 20060101ALI20201130BHJP
C10K 3/04 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
C01B3/16
C01B32/50
B01J23/04 M
B01J23/882 M
B01J27/051 M
C10K3/04
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-548703(P2018-548703)
(86)(22)【出願日】2017年3月14日
(65)【公表番号】特表2019-509964(P2019-509964A)
(43)【公表日】2019年4月11日
(86)【国際出願番号】FR2017050575
(87)【国際公開番号】WO2017158277
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2018年11月13日
(31)【優先権主張番号】1652291
(32)【優先日】2016年3月17日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユンブロ,フランシス
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,ポール・ギヨーム
【審査官】
宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−268790(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0081567(US,A1)
【文献】
特開昭57−171438(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第105154140(CN,A)
【文献】
Yixin Lian et al.,Journal of Natural Gas Chemistry,2010年,19,p.61-66
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B3/00−6/34
C01B17/16,32/50
B01J21/00−38/74
C10K1/00−3/06
C10J3/00−3/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料合成ガスに作用させた触媒水性ガスシフト反応による、水素富化合成ガスを製造する方法であって、前記反応が少なくとも1つの式(I)の化合物の存在下で行われる方法。
【化1】
(式中:
−Rは、1〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルキル基、及び2〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルケニル基から選択され、
−nは、0、1又は2に等しく、
−xは、0、1、2、3又は4から選択される整数であり、
−R’は、1〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルキル基、2〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルケニル基、及び水素原子(n=x=0である場合のみ)から選択される)。
【請求項2】
前記式(I)の化合物が、ジメチルジスルフィド及びジメチルスルホキシド、好ましくはジメチルジスルフィドから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒水性ガスシフト反応が、少なくとも260℃、好ましくは280℃〜330℃の範囲の入口ガス温度を有する反応装置内で実施される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記式(I)の化合物が、0.1Nl/h〜10Nm3/hの流速で連続注入される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒水性ガスシフト反応が、硫黄耐性シフト触媒、好ましくはコバルト及びモリブデン系触媒の存在下で行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記硫黄耐性シフト触媒が、好ましくはナトリウム、カリウム又はセシウムから選択される、アルカリ金属を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記触媒水性ガスシフト反応が、少なくとも10バール、好ましくは10〜30バールの範囲の圧力で行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記原料合成ガスが、水及び一酸化炭素を、少なくとも1、好ましくは少なくとも1.2、より好ましくは少なくとも1.4の水対一酸化炭素のモル比で含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記反応装置における滞留時間が、20〜60秒の範囲である、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料合成ガスに作用させた触媒水性ガスシフト反応による、水素富化合成ガスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成ガス、又は簡潔にはシンガスは、一酸化炭素及び水素並びに任意に他のガス、例えば二酸化炭素、窒素及び水、炭化水素(例えばメタン)、希ガス(例えばアルゴン)、窒素誘導体(例えばアンモニア、シアン化水素酸)などを含む燃焼性ガス混合物である。合成ガスは、天然ガス、石炭、バイオマス又はほぼ任意の炭化水素供給原料を含む多くの源から、水蒸気又は酸素との反応によって製造することができる。合成ガスは、水素、アンモニア、メタノール及び合成炭化水素燃料を製造するための汎用性の中間資源である。
【0003】
合成ガス製造のために、業界では一般に各種の方法が使用され、該方法は主に以下の通りである:
−主にメタンの転化のための、水蒸気メタン改質(SMR)又は水蒸気改質。得られた合成ガスは、硫黄化合物を含有していない。
【0004】
−触媒(CPOx)でもあることができるガス化又は部分酸化は、ナフサ、液化石油ガス、重質燃料油、コークス、石炭、バイオマスなどの重質供給原料の転化に主に使用される。得られた合成ガスは、硫黄含有成分、主に硫化水素が特に富化され得る。
【0005】
一酸化炭素を二酸化炭素に転化することによって一酸化炭素を部分的又は完全に除去するために実施され得る、周知の水性ガスシフト反応(WGSR)に従ってより大量の水素を製造するために、合成ガスに水蒸気を添加することが可能である:
【0006】
【数1】
式中、(g)はガス状形態を示す。
【0007】
水性ガスシフト反応は、当業界でよく使用されている、可逆性発熱化学反応である。
【0008】
この反応は、通例500℃未満の合理的な温度範囲で実施されるために触媒され得る。通常用いられる触媒の種類は、処理される合成ガスの硫黄含有量によって変わる。したがって、水性ガスシフト触媒は、David S.NewsomeによってCatal.Rev.−Sci.Eng.,21(2),pp275−318(1980)に記載されているように、一般に2種類に分類される:
−硫黄によるその失活のために(例えばSMRの後の)硫黄不含有合成ガスと共に使用される、「スイートシフト触媒」とも呼ばれる、鉄系又は銅系シフト触媒;
−(例えば石炭ガス化の後に得られる)硫黄含有合成ガスと共に使用される、「硫黄耐性シフト触媒」又は「酸シフト触媒」とも呼ばれる、コバルト及びモリブデン系シフト触媒。これらの触媒は、ナトリウム、カリウム又はセシウムなどのアルカリ金属によってドープされることが多い。
【0009】
スイートシフト触媒と硫黄耐性シフト触媒との主な違いは、後者がその硫化形態で活性であり、したがって使用前に予め硫化する必要があることである。このため、硫黄耐性シフト触媒は一般に、その最も活性な形態で完全に硫化される。このため、これらの触媒は硫黄耐性であるだけでなく、その活性は実際には、処理される供給物中に存在する硫黄によって増強され得る。
【0010】
近年、硫黄耐性シフト触媒が広く開発されている。実際、化石燃料、主に天然ガス及び石油の量は減少し続けていて、多くの研究者は、通常、特に硫黄が豊富である石炭又はバイオマスなどの貴炭素源の低いものを用いた方法の開発に集中して研究を行ってきた。これらの炭素源から得られた合成ガスは、一般に、更なる処理水性ガスシフト反応中に硫黄耐性シフト触媒の活性を維持し得る硫化水素(H
2S)及び硫化カルボニル(COS)を含有する。
【0011】
しかし、一部の合成ガスは、初期炭素質供給原料中の硫黄含有量が低いため、十分な量の硫黄含有化合物を含有していない。実際、合成ガスの(内在)硫黄含有量は、表1に示すように、主に石炭の種類と石炭源によって変わる。
【0012】
【表1】
【0013】
硫化水素(H
2S)は、ガス化後に得られる合成ガス中の硫黄の主供給源である。硫黄含有量が不十分である合成ガスでは、硫黄耐性シフト触媒を効率的に活性化するために、硫化水素(外部からの硫化水素)の添加が一般に行われる。実際に、Stenberg et al.によってAngew.Chem.Int.Ed.Engl.,21(1982)No.8,pp619−620に記載されているように、CO及びH
2Oの混合物にH
2Sを添加すると、H
2及びCO
2の形成が相当向上する。
【0014】
しかし、硫化水素は、製造者らが回避しようとする、毒性の高い可燃性ガス状化合物であることが不都合である。
【0015】
したがって、硫黄耐性シフト触媒を活性化し、その活性を維持するために硫化水素と同様に有効であると同時に、取り扱いが容易であり、硫化水素よりも安全に使用される別の活性化剤を使用することが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】David S.Newsome,Catal.Rev.−Sci.Eng.,21(2),pp275−318(1980)
【非特許文献2】Stenberg et al.,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,21(1982)No.8,pp619−620
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、硫黄含有合成ガスからの水性ガスシフト反応のためのより安全な方法を開発することである。
【0018】
本発明の別の目的は、硫黄含有合成ガスからの水性ガスシフト反応のための工業規模の方法を実施することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の目的は、原料合成ガスに作用させた触媒水性ガスシフト反応による、水素富化合成ガスを製造する方法であって、前記反応が少なくとも1つの式(I)の化合物の存在下で行われる方法:
【0020】
【化1】
(式中:
−Rは、1〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルキル基、及び2〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルケニル基から選択され、
−nは、0、1又は2に等しく、
−xは、0、1、2、3又は4から選択される整数であり、
−R’は、1〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルキル基、2〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルケニル基、及び水素原子(n=x=0である場合のみ)から選択される)である。
【0021】
好ましい一実施形態により、式(I)の化合物は、ジメチルジスルフィド及びジメチルスルホキシド、好ましくはジメチルジスルフィドから選択される。
【0022】
一実施形態により、触媒水性ガスシフト反応は、少なくとも260℃、好ましくは280℃〜330℃の範囲の入口ガス温度を有する反応装置内で実施される。
【0023】
一実施形態により、式(I)の化合物は0.1Nl/h〜10Nm
3/hの流速で連続注入される。
【0024】
一実施形態により、触媒水性ガスシフト反応は、硫黄耐性シフト触媒、好ましくはコバルト及びモリブデン系触媒の存在下で行われる。
【0025】
好ましくは、硫黄耐性シフト触媒は、好ましくはナトリウム、カリウム又はセシウムから選択されるアルカリ金属を含む。
【0026】
一実施形態により、触媒水性ガスシフト反応は、少なくとも10バール、好ましくは10〜30バールの範囲の圧力にて行われる。
【0027】
一実施形態により、原料合成ガスは、水及び一酸化炭素を、少なくとも1、好ましくは少なくとも1.2、より好ましくは少なくとも1.4の水対一酸化炭素のモル比で含む。
【0028】
好ましくは、反応装置での滞留時間は20〜60秒の範囲である。
【0029】
本発明の別の目的は、硫黄耐性シフト触媒を活性化するための触媒水性ガスシフト反応における、少なくとも1つの式(I)の化合物の使用:
【0030】
【化2】
(式中:
−Rは、1〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルキル基、及び2〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルケニル基から選択され、
−nは、0、1又は2に等しく、
−xは、0、1、2、3又は4から選択される整数であり、
−R’は、1〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルキル基、及び2〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルケニル基、及び水素原子(n=x=0である場合のみ)から選択される)に関する。
【0031】
好ましい実施形態により、ジメチルジスルフィド及びジメチルスルホキシド、好ましくは、ジメチルジスルフィドは、触媒水性ガスシフト反応において硫黄耐性シフト触媒を活性化するために使用される。
【0032】
驚くべきことに、式(I)の化合物の使用は、硫化水素の代わりに硫黄耐性シフト触媒の活性化剤として特に有効であることが見出された。
【0033】
さらに、式(I)の化合物は、一般に液体形態で与えられ、液体形態であることによって、その化合物の取り扱い及びオペレータの安全のために講じられる措置が大幅に容易になる。
【0034】
別の利点として、本発明の方法により、COをCO
2に転化させることができる。
【0035】
さらに、本発明の方法は、安全及び環境に関する要件に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、原料合成ガスに作用させた触媒水性ガスシフト反応による、水素富化合成ガスを製造する方法であって、前記反応が少なくとも1つの式(I)の化合物の存在下で行われる:
【0037】
【化3】
(式中:
−Rは、1〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルキル基、及び2〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルケニル基から選択され、
−nは、0、1又は2に等しく、
−xは、0、1、2、3又は4から選択される整数であり、
−R’は、1〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルキル基、2〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルケニル基、及び水素原子(n=x=0である場合のみ)から選択される)方法に関する。
【0038】
原料合成ガスは、通例、コークス、石炭、バイオマス、ナフサ、液化石油ガス、重油などの原料のガス化ステップ後に得られる。合成ガスの製造は、従来技術において周知である。原料合成ガスは、水蒸気メタン改質装置からも得られ得る。
【0039】
本発明により、原料合成ガスは、一酸化炭素及び任意に、水素、二酸化炭素、窒素及び水などの他のガス、炭化水素(例えばメタン)、希ガス(例えばアルゴン)、窒素誘導体(例えばアンモニア、シアン化水素酸)などを含む。
【0040】
本発明の一実施形態により、原料合成ガスは、一酸化炭素及び水素、並びに任意に二酸化炭素、窒素及び水などの他のガス、炭化水素(例えばメタン)、希ガス(例えばアルゴン)、窒素誘導体(例えばアンモニア、シアン化水素酸)などを含む。
【0041】
本発明の別の実施形態により、原料合成ガスは、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、窒素及び水を含む。
【0042】
原料合成ガスは、硫黄含有成分も含み得る。この場合、原料合成ガスは、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、窒素及び水を主成分とし、硫黄含有成分をより低濃度で含み得る。硫黄含有成分は、硫化水素、硫化カルボニルであり得る。原料合成ガス中の代表的な(内在)硫黄含有量は、約20〜約50,000ppmvの範囲である。原料合成ガス中の代表的な(内在)硫黄含有量は、原料合成ガスの製造に最初に使用された原料に依存し得る。
【0043】
本発明の一実施形態において、水性ガスシフト反応は、触媒反応装置、好ましくは固定床触媒反応装置にて行われる。
【0044】
水性ガスシフト反応は、原料合成ガス中に含有される一酸化炭素及び水の、式(1)による二酸化炭素及び水素への転化に存する:
【0045】
【数2】
式中、(g)はガス状形態を示す。
【0046】
この水性ガスシフト反応によって、水素富化合成ガスを得ることができる。
【0047】
本発明による「水素富化合成ガス」とは、本発明の方法の出口における合成ガスが、本発明の方法の入口における合成ガスよりも多くの水素を含むことであることを理解されたい。言い換えれば、工程の出口におけるガス中の水素の割合は、工程の出口におけるガス中の水素の割合よりも大きい。
【0048】
本発明の一実施形態により、水が原料合成ガスに添加され得る。追加の(外部からの)水の導入は、平衡を二酸化炭素及び水素の生成に移動させる。追加の(外部からの)水は、反応装置に直接導入してもよく、又は原料合成ガスと混合して導入してもよい。
【0049】
水性ガスシフト反応の、したがって合成ガスの水素富化の効率は、例えばガスクロマトグラフなどの水素純度分析によって直接測定され得る。効率は、CO
2へのCO転化率を測定することによって間接的に測定することもでき、CO転化率は水性ガスシフト反応が起こったことを意味する。CO
2へのCO転化率は、CO転化率及びCO
2収率を測定することによってわかる。
【0050】
本発明の一実施形態において、水性ガスシフト反応に入るガス中の一酸化炭素に対する水の比は、少なくとも1、好ましくは少なくとも1.2、より好ましくは少なくとも1.4、有利には少なくとも1.5である。一酸化炭素に対する水のモル比は、1〜3、好ましくは1.2〜2.5、より好ましくは1.5〜2の範囲であり得る。
【0051】
本発明の一実施形態において、水性ガスシフト反応における使用に好適な触媒は、硫黄耐性シフト触媒である。「硫黄耐性シフト触媒」とは、硫黄含有成分の存在下で水性ガスシフト反応を触媒することができる化合物を意味する。
【0052】
水性ガスシフト反応での使用に好適な触媒は、好ましくはモリブデン、コバルト及びニッケルからなる群から選択される鉄及び銅以外の少なくとも1つの遷移金属を含み得る。コバルト及びモリブデン、又はニッケル及びモリブデン、より好ましくはコバルト及びモリブデンなどの、これらの遷移金属の少なくとも2つの組合せが好ましく使用される。
【0053】
本発明の触媒は、担持されていても担持されていなくてもよく、好ましくは担持されていてもよい。好適な触媒担体はアルミナであり得る。
【0054】
好ましい実施形態において、触媒は、ナトリウム、カリウム及びセシウム、好ましくはカリウム及びセシウムからなる群から選択されるアルカリ金属、又はその塩も含む。特に活性な触媒の例は、セシウムカーボネート、セシウムアセテート、カリウムカーボネート又はカリウムアセテートと、コバルト及びモリブデンとの組合せである。
【0055】
本発明による好適な触媒の一例として、Park et al.によって「A Study on the Sulfur−Resistant Catalysts for Water Gas Shift Reaction − IV.Modification of CoMo/γ−Al2O3 Catalyst with Iron Group Metals」,Bull.Korean Chem.Soc.(2000),Vol.21,No.12,1239−1244に開示されたものなどの、硫黄耐性シフト触媒を挙げることができる。
【0056】
本発明による方法は、少なくとも1つの式(I)の化合物を活性化剤として利用する:
【0057】
【化4】
式中:
−Rは、1〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルキル基、及び2〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルケニル基から選択され、
−nは、0、1又は2に等しく、
−xは、0、1、2、3又は4から選択される整数であり、
−R’は、1〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルキル基、2〜4個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝アルケニル基、及び水素原子(n=x=0である場合のみ)から選択される。
【0058】
一実施形態により、本発明の方法で使用され得る式(I)の化合物は、それ自体既知の任意の方法に従って得られた又は市販の、任意にその酸化物形態の(nがゼロと異なる場合)有機スルフィドであり、該有機スルフィドは、任意に望ましくない匂いの原因であり得る不純物の量が減少した若しくは不純物を含有せず、又は任意に1つ以上の臭気マスキング剤(例えばWO2011012815A1を参照のこと。)を含有する。
【0059】
好ましいR基及びR’基の中でも、メチル基、プロピル基、アリル基及び1−プロペニル基を挙げることができる。
【0060】
本発明の一実施形態により、上記式(I)において、xは1、2、3又は4を表し、好ましくは、xは1又は2を表し、より好ましくは、xは1を表す。
【0061】
好ましい実施形態により、本発明の方法において使用する式(I)の化合物は、式(Ia)の化合物であり:
R−S−S
x−R’(Ia)
これは、nが0に等しく、R、R’及びxが上で定義した通りである式(I)に相当する。
【0062】
好ましくは、式(Ia)の化合物はジメチルジスルフィド(「DMDS」)である。
【0063】
本発明の好ましい実施形態により、本発明の方法において有用な式(I)の化合物は、式(I)に対応する、式(Ib)の化合物であり:
【0064】
【化5】
これは、nが1に等しく、R、R’及びxが上で定義した通りである式(I)に相当する。
【0065】
好ましくは、式(Ib)の化合物は、ジメチルスルホキシド(「DMSO」)である。
【0066】
2つ以上の式(I)の化合物の混合物が本発明の方法で使用され得ることを理解すべきである。特に、ジスルフィド及び/又はポリスルフィドの混合物、例えばジスルフィド油(「DSO」)などのジスルフィドの混合物が使用され得る。
【0067】
本発明の一実施形態において、式(I)の化合物を反応装置の上流で原料合成ガス流に添加し、得られた混合物を好ましくは反応装置に連続注入する。原料合成ガス流中への式(I)の化合物の濃度は、100〜500,000ppmv、好ましくは100〜200,000ppmv、より好ましくは100〜100,000ppmvの範囲であり得る。式(I)の化合物、好ましくはジメチルジスルフィドの流速は、1Nl/h〜10Nm
3/hの範囲であり得る。
【0068】
本発明の一実施形態において、水性ガスシフト反応に入るガスは、少なくとも260℃の温度まで予熱される。好ましい実施形態において、この温度は280℃〜330℃、好ましくは290℃〜330℃の範囲であり、より好ましくは310℃である。
【0069】
水性ガスシフト反応ステップは、260℃の最低入口ガス温度で実施することができる。少なくとも260℃の入口ガス温度は、一酸化炭素の二酸化炭素への転化の改善を可能にする。
【0070】
本発明の一実施形態において、水性ガスシフト反応のための圧力は、少なくとも10バール(1MPa)、好ましくは10〜30バール(1MPa〜3MPa)、より好ましくは15〜25バール(1.5MPa〜2.5MPa)である。
【0071】
本発明の一実施形態において、反応装置における滞留時間は、反応装置内の触媒の量が測定できるように、20〜60秒、好ましくは30〜50秒の範囲である。滞留時間は、次の式で定義される:
【0072】
【数3】
式中、V
catは反応装置内の触媒の体積をm
3で表し、D
gasは入口ガス流速をNm
3/hで表し、P
reac及びP
atmはそれぞれ反応装置内の圧力及び大気圧をPaで表す。
【0073】
本発明の一実施形態において、水性ガスシフト反応のCO転化率は、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%である。CO転化率は次のように計算される:
【0074】
【数4】
式中、Q.CO
entryは、反応装置の入口におけるCOのモル流量をmol/hで表し、Q.CO
exitは、反応装置の出口におけるCOのモル流量をmol/hで表す。
【0075】
本発明の一実施形態において、水性ガスシフト反応のCO
2収率は、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%である。
【0077】
【数5】
式中、Q.CO
entryは、反応装置の入口におけるCOのモル流量をmol/hで表し、Q.CO
2,exitは、反応装置の出口でのCO
2のモル流量をmol/hで表す。
【0078】
本発明の好ましい実施形態において、触媒を含む反応装置に不活性材料を充填して、水性ガスシフト反応ステップのために反応装置を始動させる前に反応装置にガスを効率的に分布させることができる。好適な不活性材料は、シリコンカーバイド又はアルミナであり得る。有利には、触媒及び不活性材料は、反応装置内に連続した層で配置される。
【0079】
本発明の好ましい実施形態において、触媒の調製ステップは、水性ガスシフト反応ステップの前に行われる。触媒の調製ステップは、乾燥ステップ及び/又は予備活性化ステップ、好ましくは乾燥ステップ及び予備活性化ステップを含み得る。
【0080】
乾燥ステップの間に、触媒は、不活性ガス流下、好ましくは窒素ガス流下で乾燥され得る。不活性ガス流速は、0.1〜10,000Nm
3/hの範囲であり得る。乾燥ステップの間に、温度は20℃から200℃に上昇し得る。乾燥時間は1〜10時間の範囲であり得て、好ましくは6時間である。乾燥ステップは、周囲圧から15〜25バールの好ましい作用圧まで優先的に行われる。
【0081】
予備活性化ステップ中に、触媒が硫化され得る。反応装置は、0.1〜10,000Nm
3/hの流速、少なくとも、15〜25バール(1.5MPa〜2.5MPa)の好ましい作用圧の圧力にて水素流下で処理され得る。次いで、硫化水素及び/又は式(I)の化合物、通例ジメチルジスルフィドが1Nl/h〜10Nm
3/hの流速で水素流に上向きに注入され得る。次いで、当業者に既知の任意の手段によって、温度が150℃から350℃に上昇され得る。予備活性化ステップの時間は、1時間〜数時間、一般に1時間〜64時間の範囲であり得る。水素流は、好ましくは、予備活性化ステップ全体にわたって維持される。
【0082】
本発明の別の目的は、硫黄耐性シフト触媒を活性化するための触媒水性ガスシフト反応における、少なくとも1つの式(I)の化合物の使用に関する。
【0083】
本発明の一実施形態において、硫黄耐性シフト触媒を活性化するための少なくとも1つの式(I)の化合物を使用する触媒水性ガスシフト反応が、反応装置内で行われる。前記反応装置に流入するガスは、有利には少なくとも260℃の温度に加熱される。
【実施例】
【0084】
水性ガスシフト反応は、以下の手順に従って、パイロットプラントの触媒反応装置A内で行う。
【0085】
1)触媒反応装置Aの作製
150cm
3の触媒反応装置Aに周囲圧及び周囲温度にて、以下のように金属格子によって分離された3つの固体層を充填する:
−1.680mmの粒度を有するカーボランダム型炭化ケイ素の60cm
3の第1層:この不活性材料によって、十分なガス分布が可能となる、
−CoMo系硫黄耐性シフト触媒の40cm
3の第2層、
−1.680mmの粒度を有するカーボランダム型炭化ケイ素の50cm
3の第3層。
【0086】
次いで、触媒反応装置Aを100℃〜350℃の範囲の広い温度範囲に耐えられる炉内に配置する。触媒反応装置Aは入口管でガス供給原料に連結され、出口管にて分析装置に連結されている。
【0087】
この例では、CoMo系硫黄耐性シフト触媒は、最初に周囲圧にて20Nl/hの窒素流速で乾燥される。乾燥温度は+25℃/hの温度勾配で150℃に設定されている。乾燥時間を1時間に設定する。
【0088】
第2のステップは、CoMo系硫黄耐性シフト触媒を硫化して該触媒を予備活性化することに存する。このステップの間、反応装置を20Nl/hの水素流速、35バール(3.5MPa)の圧力にて処理する。次いで、硫化水素を0.5Nl/hの流速で水素供給材料中に上向きに注入する。次いで触媒を20℃/hの温度勾配に供する。最初のプラトーを150℃、2時間に設定した後、温度を+25℃/hの温度勾配で230℃まで上昇させる。4時間の第2プラトーを230℃に維持し、次いで温度を+25℃/hの温度勾配で350℃まで再び上昇させる。350℃で16時間の最終プラトーを行う。次いで、なお20Nl/hの流速の水素流の下で、温度を230℃に低下させた。触媒をこのように予備活性化する。
【0089】
2)水性ガスシフト反応ステップ
次いで、予備活性化したCoMo系硫黄耐性シフト触媒中の一酸化炭素から二酸化炭素への転化の研究を行う。触媒反応装置Aは、流速8.5Nl/hの水素、17Nl/hの一酸化炭素、0.33cm
3/分の水及び26Nl/hの窒素を含むガス混合物を用いて、20バール(2MPa)の圧力で上向き処理する。モル比H
2O/COは1.44であり、滞留時間は38秒である。次いで、活性化剤がガス混合物中に上向きに注入される。活性化剤は、硫化水素(H
2S)又はジメチルジスルフィド(DMDS)のどちらかである。活性化剤がDMDSである場合、DMDS流速は1cm
3/hに設定される。活性化剤がH
2Sである場合、H
2Sの流速は0.5Nl/hに設定される。触媒反応装置Aに流入するガスの温度は、310℃に維持される。
【0090】
CO転化率及びCO
2収率を求めるために、ガス状流のCO濃度及びCO
2濃度を触媒反応装置Aの出口に連結された赤外線分光分析装置によって測定する。
【0091】
活性化剤がH
2Sである場合、CO転化率92%及びCO
2収率95%が得られ、このような割合は水性ガスシフト反応の良好な性能を反映している。
【0092】
DMDSを活性化剤として使用する場合、同じ転化率が得られる。したがって、DMDSは、水性ガスシフト反応のための硫黄耐性シフト触媒を活性化するのに、H
2Sと同程度に効率的である。
【0093】
したがって、ガス状硫化水素の代わりに本発明で定義される式(I)に対応する、少なくとも1つの化合物を使用する方法は、効率的で、より安全で、容易に実施される。