特許第6796743号(P6796743)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6796743耐酸性コンクリート、プレキャストコンクリート、及び耐酸性コンクリート製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796743
(24)【登録日】2020年11月18日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】耐酸性コンクリート、プレキャストコンクリート、及び耐酸性コンクリート製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20201130BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20201130BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20201130BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20201130BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20201130BHJP
   C04B 18/10 20060101ALI20201130BHJP
   C04B 111/23 20060101ALN20201130BHJP
【FI】
   C04B28/08
   C04B18/08 Z
   C04B24/26 E
   C04B22/06 Z
   C04B18/14 Z
   C04B18/14 A
   C04B18/10 Z
   C04B111:23
【請求項の数】11
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2020-505094(P2020-505094)
(86)(22)【出願日】2019年3月7日
(86)【国際出願番号】JP2019008980
(87)【国際公開番号】WO2019172349
(87)【国際公開日】20190912
【審査請求日】2020年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2018-43078(P2018-43078)
(32)【優先日】2018年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220675
【氏名又は名称】東京都下水道サービス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000229667
【氏名又は名称】日本ヒューム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】荻原 廣
(72)【発明者】
【氏名】林 悦朗
(72)【発明者】
【氏名】井川 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】畑 実
【審査官】 西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−128559(JP,A)
【文献】 特開平10−218644(JP,A)
【文献】 特開2015−071540(JP,A)
【文献】 特開2008−050214(JP,A)
【文献】 特開2017−193470(JP,A)
【文献】 特開平03−164459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 111/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメントを含まず、
水と、産業副産物と、アルカリ刺激材と、膨張材と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤とが配合され、
前記産業副産物は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、及びシリカフュームを含み、
前記アルカリ刺激材は、消石灰を含む
ことを特徴とする耐酸性コンクリート。
【請求項2】
前記水を170kg/m3、前記フライアッシュを207kg/m3、前記高炉スラグ微粉末を207kg/m3、前記シリカフュームを30kg/m3、前記消石灰を20kg/m3、前記膨張材を30kg/m3、前記細骨材を639kg/m3、前記粗骨材を959kg/m3、及び前記高性能減水剤を5.434kg/m3を標準の配合として、
重量パーセントにおいて、前記水を90〜105%、前記フライアッシュを10〜110%、前記高炉スラグ微粉末を90〜190%、前記シリカフュームを50〜130%、前記消石灰を50〜200%、前記膨張材を60〜130%、前記細骨材を80〜125%、前記粗骨材を80〜125%、及び前記高性能減水剤を50〜150%の割合で配合する
ことを特徴とする請求項に記載の耐酸性コンクリート。
【請求項3】
前記水を170kg/m3、前記フライアッシュを207kg/m3、前記高炉スラグ微粉末を207kg/m3、前記シリカフュームを30kg/m3、前記消石灰を20kg/m3、前記膨張材を30kg/m3、前記細骨材を639kg/m3、前記粗骨材を959kg/m3、及び前記高性能減水剤を5.434kg/m3を標準の配合として、
重量パーセントにおいて、前記水を90〜105%、前記フライアッシュを10〜110%、前記高炉スラグ微粉末を90〜190%、前記シリカフュームを50〜130%、前記消石灰を50〜500%、前記膨張材を60〜130%、前記細骨材を80〜125%、前記粗骨材を80〜125%、及び前記高性能減水剤を50〜150%の割合で配合する
ことを特徴とする請求項2に記載の耐酸性コンクリート。
【請求項4】
ポルトランドセメントを含まず、
水と、産業副産物と、アルカリ刺激材と、膨張材と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤とが配合され
前記産業副産物は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、及びシリカフュームを含み、
前記アルカリ刺激材は、消石灰を含み、
前記水を170kg/m3、前記フライアッシュを207kg/m3、前記高炉スラグ微粉末を207kg/m3、前記シリカフュームを30kg/m3、前記消石灰を20kg/m3、前記膨張材を30kg/m3、前記細骨材を639kg/m3、前記粗骨材を959kg/m3、及び前記高性能減水剤を5.434kg/m3を標準の配合として、
重量パーセントにおいて、前記水を90〜105%、前記フライアッシュを10〜110%、前記高炉スラグ微粉末を90〜190%、前記シリカフュームを50〜130%、前記消石灰を50〜500%、前記膨張材を60〜130%、前記細骨材を80〜125%、前記粗骨材を80〜125%、及び前記高性能減水剤を50〜150%の割合で配合する
ことを特徴とする耐酸性コンクリート。
【請求項5】
前記産業副産物として、
下水道汚泥焼却灰26kg/m3を標準の配合として、重量パーセントにおいて、前記下水道汚泥焼却灰を200%までの割合で配合する
ことを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の耐酸性コンクリート。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の耐酸性コンクリートで製造された
ことを特徴とするプレキャストコンクリート。
【請求項7】
下水道管である
ことを特徴とする請求項に記載のプレキャストコンクリート。
【請求項8】
ポルトランドセメントを含まず、
水と、産業副産物と、アルカリ刺激材と、膨張材と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤を配合し、
前記産業副産物は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、及びシリカフュームを含み、
前記アルカリ刺激材は、消石灰を含み、
遠心力成形で締め固める、振動成型する、又は、現場施工で打設する
ことを特徴とする耐酸性コンクリート製造方法。
【請求項9】
ポルトランドセメントを含まず、
水と、産業副産物と、アルカリ刺激材と、膨張材と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤とが配合され、
振動成型で製造され、
前記産業副産物は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、及びシリカフュームを含み、 前記アルカリ刺激材は、消石灰を含み、
前記水を170kg/m3、前記フライアッシュを207kg/m3、前記高炉スラグ微粉末を207kg/m3、前記シリカフュームを30kg/m3、前記消石灰を20kg/m3、前記膨張材を30kg/m3、前記細骨材を639kg/m3、前記粗骨材を959kg/m3、及び前記高性能減水剤を5.434kg/m3を標準の配合として、
重量パーセントにおいて、前記水を90〜105%、前記フライアッシュを10〜110%、前記高炉スラグ微粉末を90〜190%、前記シリカフュームを50〜130%、前記消石灰を50〜500%、前記膨張材を60〜130%、前記細骨材を80〜125%、前記粗骨材を80〜125%、及び前記高性能減水剤を50〜150%の割合で配合する
ことを特徴とする耐酸性コンクリート製造方法
【請求項10】
成形後に蒸気養生され、該蒸気養生の前置時間が1.5時間以上である
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の耐酸性コンクリート製造方法
【請求項11】
ポルトランドセメントを含まず、
水と、産業副産物と、アルカリ刺激材と、膨張材と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤とが配合され、
現場施工で打設され、
前記産業副産物は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、及びシリカフュームを含み、 前記アルカリ刺激材は、消石灰を含み、
前記水を170kg/m3、前記フライアッシュを207kg/m3、前記高炉スラグ微粉末を207kg/m3、前記シリカフュームを30kg/m3、前記消石灰を20kg/m3、前記膨張材を30kg/m3、前記細骨材を639kg/m3、前記粗骨材を959kg/m3、及び前記高性能減水剤を5.434kg/m3を標準の配合として、
重量パーセントにおいて、前記水を90〜105%、前記フライアッシュを10〜110%、前記高炉スラグ微粉末を90〜190%、前記シリカフュームを50〜130%、前記消石灰を50〜500%、前記膨張材を60〜130%、前記細骨材を80〜125%、前記粗骨材を80〜125%、及び前記高性能減水剤を50〜150%の割合で配合され、
前記産業副産物として、下水道汚泥焼却灰26kg/m3を標準の配合として、重量パーセントにおいて、前記下水道汚泥焼却灰を200%までの割合で配合する
ことを特徴とする耐酸性コンクリート製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸性コンクリート、プレキャストコンクリート、及び耐酸性コンクリート製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、耐用年数が50年を超えた下水道管の補修や、維持更新が行われている。また、耐用年数が50年に満たない下水道管であっても、管内が硫化水素によって腐食する「硫酸劣化」が深刻になっている。これが重度の場合には、道路陥没事故を引き起こした事例も報告されている。このため、耐用年数が100年を有する高耐久性の下水道管が要望され、新たな時代のニーズとして注目されるようになってきている。
【0003】
ここで、特許文献1によれば、コンクリートやモルタルを保護し得る、被覆モルタルであり、左官施工性、ポンプ圧送性、垂れ抵抗性、付着性、形状寸法安定性、及びひび割れ抵抗性に優れ、更に耐酸性に優れる耐食性モルタル組成物が記載されている。この耐食性モルタル組成物は、セメント用ポリマーを実質的に含まずに、(A)セメントと、(B)高炉スラグ微粉末と、(C)フライアッシュと、(D)膨張材と、(E)カルシウムとアルミニウムを化学成分として含む特定の骨材と、(F)増粘剤とを特定の割合でモルタル組成物に含有し、更に、(G)減水剤、(H)消泡剤、(I)炭酸アルカリ金属塩又は蟻酸塩から選ばれる1種以上の成分、(J)硫酸アルカリ金属塩、(K)有機繊維から選ばれる1種以上を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−132667号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】井手野下 敏明、鵜沢 正美、山口 晋、前田 正博、井川 秀樹、保坂 成司、「種々の養生条件による下水汚泥焼却灰混入モルタルの強度特性と微細構造変化、材料、Journal of Society of Materials Science, Japan、2017、Vol.66、No.10、p.752−757
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の耐食性モルタル組成物は、形成されたコンクリート製品へ別途、塗布する必要があった。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の問題を解消し、塗布等が必要ない耐酸性コンクリートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の耐酸性コンクリートは、ポルトランドセメントを含まず、水と、産業副産物と、アルカリ刺激材と、膨張材と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤とが配合され、前記産業副産物は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、及びシリカフュームを含み、前記アルカリ刺激材は、消石灰を含むことを特徴とする。
本発明の耐酸性コンクリートは、前記水を170kg/m3、前記フライアッシュを207kg/m3、前記高炉スラグ微粉末を207kg/m3、前記シリカフュームを30kg/m3、前記消石灰を20kg/m3、前記膨張材を30kg/m3、前記細骨材を639kg/m3、前記粗骨材を959kg/m3、及び前記高性能減水剤を5.434kg/m3を標準の配合として、重量パーセントにおいて、前記水を90〜105%、前記フライアッシュを10〜110%、前記高炉スラグ微粉末を90〜190%、前記シリカフュームを50〜130%、前記消石灰を50〜200%、前記膨張材を60〜130%、前記細骨材を80〜125%、前記粗骨材を80〜125%、及び前記高性能減水剤を50〜150%の割合で配合することを特徴とする。
本発明の耐酸性コンクリートは、前記水を170kg/m3、前記フライアッシュを207kg/m3、前記高炉スラグ微粉末を207kg/m3、前記シリカフュームを30kg/m3、前記消石灰を20kg/m3、前記膨張材を30kg/m3、前記細骨材を639kg/m3、前記粗骨材を959kg/m3、及び前記高性能減水剤を5.434kg/m3を標準の配合として、重量パーセントにおいて、前記水を90〜105%、前記フライアッシュを10〜110%、前記高炉スラグ微粉末を90〜190%、前記シリカフュームを50〜130%、前記消石灰を50〜500%、前記膨張材を60〜130%、前記細骨材を80〜125%、前記粗骨材を80〜125%、及び前記高性能減水剤を50〜150%の割合で配合することを特徴とする。
本発明の耐酸性コンクリートは、ポルトランドセメントを含まず、水と、産業副産物と、アルカリ刺激材と、膨張材と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤とが配合され前記産業副産物は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、及びシリカフュームを含み、前記アルカリ刺激材は、消石灰を含み、前記水を170kg/m3、前記フライアッシュを207kg/m3、前記高炉スラグ微粉末を207kg/m3、前記シリカフュームを30kg/m3、前記消石灰を20kg/m3、前記膨張材を30kg/m3、前記細骨材を639kg/m3、前記粗骨材を959kg/m3、及び前記高性能減水剤を5.434kg/m3を標準の配合として、重量パーセントにおいて、前記水を90〜105%、前記フライアッシュを10〜110%、前記高炉スラグ微粉末を90〜190%、前記シリカフュームを50〜130%、前記消石灰を50〜500%、前記膨張材を60〜130%、前記細骨材を80〜125%、前記粗骨材を80〜125%、及び前記高性能減水剤を50〜150%の割合で配合することを特徴とする。
本発明の耐酸性コンクリートは、前記産業副産物として、下水道汚泥焼却灰26kg/m3を標準の配合として、重量パーセントにおいて、前記下水道汚泥焼却灰を200%までの割合で配合することを特徴とする。
本発明のプレキャストコンクリートは、前記耐酸性コンクリートで製造されたことを特徴とする。
本発明のプレキャストコンクリートは、下水道管であることを特徴とする。
本発明の耐酸性コンクリート製造方法は、ポルトランドセメントを含まず、水と、産業副産物と、アルカリ刺激材と、膨張材と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤を配合し、前記産業副産物は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、及びシリカフュームを含み、前記アルカリ刺激材は、消石灰を含み、遠心力成形で締め固める、振動成型する、又は、現場施工で打設することを特徴とする。
本発明の耐酸性コンクリート製造方法は、ポルトランドセメントを含まず、水と、産業副産物と、アルカリ刺激材と、膨張材と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤とが配合され、振動成型で製造され、前記産業副産物は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、及びシリカフュームを含み、前記アルカリ刺激材は、消石灰を含み、前記水を170kg/m3、前記フライアッシュを207kg/m3、前記高炉スラグ微粉末を207kg/m3、前記シリカフュームを30kg/m3、前記消石灰を20kg/m3、前記膨張材を30kg/m3、前記細骨材を639kg/m3、前記粗骨材を959kg/m3、及び前記高性能減水剤を5.434kg/m3を標準の配合として、重量パーセントにおいて、前記水を90〜105%、前記フライアッシュを10〜110%、前記高炉スラグ微粉末を90〜190%、前記シリカフュームを50〜130%、前記消石灰を50〜500%、前記膨張材を60〜130%、前記細骨材を80〜125%、前記粗骨材を80〜125%、及び前記高性能減水剤を50〜150%の割合で配合することを特徴とする。
本発明の耐酸性コンクリート製造方法は、成形後に蒸気養生され、該蒸気養生の前置時間が1.5時間以上であることを特徴とする。
本発明の耐酸性コンクリート製造方法は、ポルトランドセメントを含まず、水と、産業副産物と、アルカリ刺激材と、膨張材と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤とが配合され、現場施工で打設され、前記産業副産物は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、及びシリカフュームを含み、前記アルカリ刺激材は、消石灰を含み、前記水を170kg/m3、前記フライアッシュを207kg/m3、前記高炉スラグ微粉末を207kg/m3、前記シリカフュームを30kg/m3、前記消石灰を20kg/m3、前記膨張材を30kg/m3、前記細骨材を639kg/m3、前記粗骨材を959kg/m3、及び前記高性能減水剤を5.434kg/m3を標準の配合として、重量パーセントにおいて、前記水を90〜105%、前記フライアッシュを10〜110%、前記高炉スラグ微粉末を90〜190%、前記シリカフュームを50〜130%、前記消石灰を50〜500%、前記膨張材を60〜130%、前記細骨材を80〜125%、前記粗骨材を80〜125%、及び前記高性能減水剤を50〜150%の割合で配合され、前記産業副産物として、下水道汚泥焼却灰26kg/m3を標準の配合として、重量パーセントにおいて、前記下水道汚泥焼却灰を200%までの割合で配合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水と、産業副産物と、アルカリ刺激材と、膨張材と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤とが配合され、遠心力成形で締め固めて製造されることで、塗布等が必要なく、耐用年数が長い耐酸性コンクリートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例1に係る本混合物のスランプフローを示す写真である。
図2】本発明の実施例1に係る遠心硬化体の外観及び遠心成形の写真である。
図3】本発明の実施例1に係る本混合物の凝結時間を示すグラフである。
図4】本発明の実施例1に係る振動成形の硬化体の圧縮強度の変化を示すグラフである。
図5】本発明の実施例1に係る遠心成形の硬化体の圧縮強度の変化を示すグラフである。
図6】本発明の実施例1に係る遠心成形に対する振動成形の強度比率のグラフである。
図7】本発明の実施例1に係る振動成形の硬化体の耐硫酸性試験後の写真である。
図8】本発明の実施例1に係る耐硫酸性試験の結果を示すグラフである。
図9】本発明の実施例1に係る遠心成形の硬化体の耐硫酸性試験後の写真である。
図10】本発明の実施例1に係る耐硫酸性試験の結果を示すグラフである。
図11】本発明の実施例1に係る本混合物の標準の配合について、添加率と圧縮強度との関係を示すグラフである。
図12】本発明の実施例2に係る耐硫酸性試験後の写真である。
図13】本発明の実施例2に係る耐硫酸性試験の結果を示すグラフである。
図14】本発明の実施例2に係る強度発現性試験の結果を示すグラフである。
図15】本発明の実施例2に係る強度発現性試験の結果を示すグラフである。
図16】本発明の実施例2に係る強度発現性試験の結果を示すグラフである。
図17】本発明の実施例2に係る強度発現性試験の結果を示すグラフである。
図18】本発明の実施例2に係る円柱硬化体と遠心硬化体の圧縮強度試験の結果を示すグラフである。
図19】本発明の実施例2に係る円柱硬化体と遠心硬化体の圧縮強度試験の結果を示すグラフである。
図20】本発明の実施例2に係る水酸化カルシウムの添加量による圧縮強度試験の結果を示すグラフである。
図21】本発明の実施例2に係る簡易促進中性化試験装置の概念図である。
図22】本発明の実施例2に係る中性化抑制効果試験の結果を示すグラフである。
図23】本発明の実施例2に係る中性化抑制効果試験の写真である。
図24】本発明の実施例2に係る振動成形した円柱硬化体の実製品の圧縮強度試験の結果を示すグラフである。
図25】本発明の実施例2に係るヒューム管の製造工程を示す流れ図である。
図26】本発明の実施例2に係る遠心硬化体の実製品の外圧試験の写真である。
図27】本発明の実施例2に係る外圧試験結果を示すグラフである。
図28】本発明の実施例2に係る外圧試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第一実施形態>
本発明の発明者らは、耐硫酸性等の耐酸性に優れ、100年の耐用年数が期待できる、高耐久性の下水道管を目指して鋭意実験と開発を進め、本発明を完成させるに至った。本実施形態の耐酸性セメントは、ポルトランドセメントを全く使用せず、産業副産物を、遠心成形を利用した硬化体とし、高耐久性が要求されるコンクリート製品に適用することが可能となる。
【0012】
以下、本発明の耐酸性コンクリートの実施の形態について説明する。
本実施形態の耐酸性コンクリートは、水と、産業副産物と、アルカリ刺激材と、膨張材と、細骨材と、粗骨材と、高性能減水剤とが配合され、遠心力成形で締め固めて製造されることを特徴とする。
【0013】
このうち、本実施形態の耐酸性コンクリートに用いる水は、特に制限されず、水道水であってもよい。本実施形態に係る水のpH等も任意である。
【0014】
また、本実施形態の耐酸性コンクリートの産業副産物は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、及びシリカフュームを含むことを特徴とする。
【0015】
本実施形態に係るフライアッシュは、火力発電所において石炭の微粉炭燃焼の集塵機で捕集されるコンクリート用のポラゾン石炭灰(フライアッシュ)である。本実施形態に係るフライアッシュとして、例えば、JIS A 6201で規定された、フライアッシュII種又はこれらの類似品、密度2.20g/cm3程度のものであることが好適である。フライアッシュは、主成分がシリカとアルミナなので、アルカリ刺激材によりカルシウムシリケート水和物等を生成するポゾラン反応により硬化する。
【0016】
また、本実施形態に係る高炉スラグ微粉末は、銑鉄製造過程で副産される高炉スラグ微粉末である。この高炉スラグ微粉末は、例えば、JIS A 6206で規定された、粉末度4000の比表面積のもの等が好適である。また、密度が2.91g/cmg/cm3程度のものであることが好適である。高炉スラグ微粉末も、アルカリ刺激剤により、カルシウムシリケート水和物及びカルシウムアルミネート水和物を生成して硬化する「潜在水硬性」により硬化する。
【0017】
また、本実施形態に係るシリカフュームは、アーク式電気炉から排ガス中のダストとして集塵される大部分が非晶質で球形のシリカ(SiO2)である。このシリカフュームは、JIS A 6207で規定された、密度2.30g/cm3程度のものを用いることが好適である。シリカフュームは、遠心後の硬化体の緻密化と強度向上のために用いることが好適である。
【0018】
これに加えて、本実施形態の産業副産物は、下水道汚泥焼却灰を更に含んでいてもよい。この下水道汚泥焼却灰としては、非特許文献1に記載されているような、下水汚泥焼却灰を粒度調整した「スーパーアッシュ」を用いることが好適である。
【0019】
また、本実施形態の耐酸性コンクリートは、アルカリ刺激材として、消石灰を含むことが好適である。この消石灰は、例えば、JIS R9001特号に該当する水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を用いることが好適である。また、消石灰の密度は、2.30g/cm3程度であることが好適である。このアルカリ刺激材により、従来のポルトランドセメントを全く使用しなくても、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を硬化させることが可能となる。
【0020】
また、本実施形態に係る膨張材は、粉体状で水分の供給によって膨張し、乾燥収縮によるひび割れを低減する性質の物質である。本実施形態の膨張材の例として、石灰系膨張材、エトリンガイト系(カルシウムサルフォアルミネート系)膨張材、エトリンガイト−生石灰複合系膨張材等が挙げられる。このうち、本実施形態においては、膨張材として、石灰系膨張材を用いることが好適である。また、膨張材は、例えば、日本工業規格JIS A 6202等で規定された品質に適合するものであることが好適である。
【0021】
また、本実施形態に係る細骨材は、一般的な砕砂等の細骨材を使用可能である。この細骨材は、JIS A 5005 砕砂(硬質砂岩)に該当するもので、密度が2.62 g/cm3程度であることが好適である。また、細骨材として、スラグ系骨材、例えば高炉の水砕スラグから製造した細骨材、電気炉酸化スラグ骨材等も用いることが可能である。
【0022】
また、本実施形態に係る粗骨材は、一般的な砂岩等の粗骨材を使用可能である。この粗骨材は、例えば、JIS A 5005 砕石2005(硬質砂岩)に該当するもので、密度が2.67g/cm3程度であることが好適である。
【0023】
また、本実施形態の高性能減水剤は、コンシステンシーに影響することなく単位水量を大幅に減少させる、又は単位水量に影響することなくスランプを大幅に増加させる化学混和剤である。本実施形態の高性能減水剤は、例えば、JIS A 6204に該当するもので、例えば、ポリカルボン酸系の密度1.00g/cm3程度のものを用いることが好適である。
【0024】
また、本実施形態の耐酸性コンクリートは、水170kg/m3、フライアッシュ207kg/m3、高炉スラグ微粉末207kg/m3、シリカフューム30kg/m3、消石灰20kg/m3、膨張材30kg/m3、細骨材639kg/m3、粗骨材959kg/m3、及び高性能減水剤5.434kg/m3を標準の配合とすることを特徴とする。
【0025】
このうち、水は、標準の配合を100重量パーセントとして、90〜105%を配合することが好適である。つまり、150kg/m3〜175kg/m3の水を配合することが好適である。この配合であれば、スラッジ水の排出が良好となる。また、90%以下であると、ノンスラッジとなり、遠心成形性が低下し、コンクリート形成品の最終的な強度とが低下する。また、105%以上であると、スラッジ水が増して、強度が低下する。
【0026】
同様に、フライアッシュは、10〜110%の割合で配合することが好適である。このうち、配合量の減少に伴い徐々に強度は向上するものの、高炉スラグ微粉末の使用量が増加するため、10%程度までを下限とすることが好適である。また、110%以上配合すると、強度が低下するため好ましくない。
また、高炉スラグ微粉末は、90〜190%の割合で配合することが好適である。ここで、配合量を少なくすると、フライアッシュの量が増して強度が低下するため、90%程度を下限とすることが好適である。逆に、使用量の増加に伴い徐々に強度は向上するものの、フライアッシュの量が低下するため、190%程度までの配合を上限とすることが好適である。
また、スーパーアッシュは、0〜200%の割合で配合することが好適である。すなわち、無使用の0%でもよく、配合の割合を少なくすると、硬化体の強度が向上する。逆に、200%より多く配合すると、硬化体の強度低下が顕著になるため、好ましくない。
また、シリカフュームは、50〜130%の割合で配合することが好適である。この配合であれば、遠心後の硬化体の緻密化と強度向上とを実現可能となる。50%未満であると、内面の脆弱層は無くなるものの、緻密化と強度向上が実現しなくなる。また、130%より多く配合すると、硬化体の内面の脆弱層が増して、下水道管としての性能が低下し、強度も向上しない。
つまり、本実施形態の産業副産物の混合比率としては、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を主成分として、シリカフュームを配合する。さらに、スーパーアッシュは、配合してもしなくてもよい。
【0027】
また、消石灰は、50〜200%の割合で配合することが好適である。50%未満の配合であると、強度が低下するため好ましくない。200%より多く配合しても、強度は向上しない。しかしながら、後述する第二実施形態に記載するように、消石灰を200%より多く配合すると、中性化抑制効果が得られる。
また、膨張材は、60〜130%の割合で配合することが好適である。60%未満であると、収縮ひび割れ防止効果が不十分となる。130%より多くても、収縮ひび割れ防止効果は向上しない。
また、細骨材は、80〜125%の割合で配合することが好適である。80%未満であると、細骨材が少なく粗骨材が過多であるため、硬化体の表面が粗々しくなり、強度が低下するため好ましくない。125%より多いと、細骨材と水とが増え、強度が低下するため好ましくない。
また、粗骨材は、80〜125%の割合で配合することが好適である。80%未満であると、細骨材と水とが増え、強度が低下するため好ましくない。125%より多いと、粗骨材が過多で細骨材が少なく、硬化体表面が粗々しくなり、強度が低下するため好ましくない。
また、高性能減水剤は、50〜150%の割合で配合することが好適である。50%未満であると、水が増えて製品の強度が低下するため好ましくない。150%より多いと過添加であり、流動性が過大となり、更に凝結遅延が生じ強度が低下し、コストも増大するため好ましくない。また、本実施形態においては、高性能減水剤は、水の内割り置き換えで用いることが好適である。
【0028】
また、本実施形態に係る耐酸性コンクリートは、遠心力成形で締め固めることが好適である。この遠心力成形では、上述の割合で配合された水、産業副産物、アルカリ刺激材、膨張材、細骨材、粗骨材、及び高性能減水剤の混合物(以下、単に「混合物」という。)を遠心成形用型枠に充填し、同型枠を成形機の上で高速回転させ、遠心力を利用して最終的に30〜50G程度の加速度で締固め、余剰水をスラッジ水として排出する。この際、余剰水が適切に排水されて緻密に締固められるよう、数段階に加速度を大きくして締固めてもよい。この段階としては、例えば、5G、15G、35Gを、それぞれ、1分、1分、7分の割合で締固めする。このように遠心力成形の締固めで製造することで、本実施形態に係る耐酸性コンクリートにより、強度のみならず耐酸性を高めて、更に、蒸気養生の時間を短くし、高性能な下水道管を製造することが可能となる。
【0029】
また、本実施形態の耐酸性コンクリートは、成形後に蒸気養生され、該蒸気養生の前置時間が1.5時間以上であることを特徴とする。プレキャストコンクリートは、脱型までの時間を短縮して、生産効率を上げるために、蒸気養生を行うことがある。この場合、対象とする製品や配合条件などによって、前置時間、上昇温度(昇温)、最高温度、保持時間、除冷方法等の蒸気養生条件を調整することが好適である。このうち、前置時間は、注水から温度上昇を開始するまでの時間である。
本実施形態においては、例えば、前置時間を1.5〜4時間、昇温を15〜25℃/時間、60〜75℃で3〜5時間以上保持し、その後、試験室温度にて徐冷して、気中養生するといった条件を用いる。このような条件で蒸気養生することで、混合物の凝結や硬化(強度発現性)を早め、製造効率を高められる。
ここで、本実施形態の混合物の蒸気養生では、特に前置時間の影響が大きい。下記で説明するように、遠心力成形を行うことで、前置時間が1.5時間以上あれば、6時間未満であっても、十分な強度で耐酸性に優れたコンクリートを製造することが可能となる。
【0030】
また、本実施形態に係る耐酸性コンクリートのスランプフローは、650±50mm程度とすることが好適である。つまり、本実施形態の混合物のフレッシュ性状は、高流動タイプとなる。これにより、成形時における型枠内への充填性を高め、余剰水をスラッジ水として円滑に排水し、良好な締固め効果を得ることが可能となる。また、水と、混合物との重量比(以下、単に「水粉体比」という。)は、20〜60%程度になる。
【0031】
また、本実施形態に係る耐酸性コンクリートの空気量は、2.0±1.5%、すなわち0.5〜3.5%であることが好適である。これにより、ワーカビリティーを向上させつつ、所望の強度を得ることができる。
また、本実施形態において、この空気量は、AE(Air Entraining)剤等の空気量調整剤により調整可能である。このAE剤の例として、陰イオン系、陽イオン系、非イオン系、及び両性系の各種界面活性剤が挙げられる。また、この陰イオン系の界面活性剤の例として、樹脂系、アルキルベンゼンスルホン酸系、高級アルコールエステル系等の界面活性剤が挙げられる。本実施形態においては、特に、変性ロジン酸化合物系陰イオン界面活性剤を用いることが好適である。なお、AE剤と減水剤との両方の性質をもつ、AE減水剤を用いることも可能である。
【0032】
また、本実施形態に係る耐酸性コンクリートにおいては、繊維等を混入させてもよい。この繊維等の例としては、ビニロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維等の繊維状物質が挙げられる。また、他にも、ゼオライト、シリカ質微粉末、炭酸カルシウム、ベントナイト等の粘土鉱物、石膏、ケイ酸カルシウム等を適宜配合してもよい。
【0033】
また、本実施形態に係る耐酸性コンクリートにおいては、他にも、流動化剤、遅延剤、防水混和剤、防湿混和剤、発泡剤、増粘剤、防凍剤、着色剤、ワーカビリティー増進剤、防しょう剤、消泡剤、凝結調整剤、収縮低減剤、セメント急硬材、高分子エマルション等を適宜配合することが可能である。
【0034】
また、本実施形態に係る耐酸性コンクリートは、プレキャストコンクリートの製造に用いることが好適である。このプレキャストコンクリートは、ヒューム管であることが好適である。また、このヒューム管の用途としては、高耐久性の下水道管として用いることが可能である。
上述のように構成することで、本実施形態に係る耐酸性コンクリートは、十分な耐酸性能力を発揮させることが可能である。また、専用工場においてコンクリート製品を製造する際の製造効率を高めることができる。このため、本実施形態に係る耐酸性コンクリートで、特に、下水道管を好適に製造することが可能である。
また、従来の下水道管には、ヒューム管、陶管、塩化ビニール管等があり、各々の下水道管には、使用用途が設定されていた。これに対して、本実施形態に係るプレキャストコンクリートは、耐久性が高いため、陶管等を用いる必要がある箇所についても使用することが可能である。
【0035】
以上のように構成することで、以下のような効果を得ることができる。
従来の下水道管は、ヒューム管と呼ばれる鉄筋コンクリート管が主体であった。このような鉄筋コンクリートやモルタルは、水、セメント、骨材から成り、水和反応により硬化する。このため、下水道管に用いると、管内が硫化水素によって腐食する「硫酸劣化」が深刻であり、補修に手間がかかっていた。ヒューム管の耐用年数は50年程度であり、近年では、昭和の高度成長期に、急速に普及した下水道管の維持更新が行われている。ヒューム管の耐用年数が50年に満たない場合でも、管内に発生する硫化水素によって下水道管が腐食劣化(硫酸劣化)し、これが重度の場合には道路陥没を引き起こした事例もあった。
しかしながら、この保守に特許文献1に記載のモルタルや、耐硫酸性普通ポルトランドセメントのようなものを塗布するとコストがかかっていた。このため、そもそも高耐酸性の硬化体である耐酸性コンクリートが求められていた。
これに対して、本実施形態の耐酸性コンクリートは、主にフライアッシュ及びと高炉スラグ微粉末を含む産業副産物と、アルカリ刺激剤とを含む混合物を用いることで、従来の耐硫酸性普通ポルトランドセメントよりも化学抵抗性が向上し、耐酸性を高めることができる。
具体的には、後述の実施例1で示すように、5%濃度の硫酸水溶液に28日間浸漬する耐硫酸性試験において、耐硫酸性普通ポルトランドセメントを振動成形した供試体の耐硫酸性(質量変化率)は−32%で、激しい硫酸劣化が生じた。これに対して、本実施形態の耐酸性コンクリートを振動成形した供試体は、硬化体は+1.2%で僅かな膨張が生じたが概ね健全な状態であった。
【0036】
また、本実施形態の耐酸性コンクリートは、遠心成形を行い、緻密化して拘束することで、振動成形のような膨張も生じなくなり、更に耐久性を高めることもできる。
この遠心成形の効果として、後述する実施例1で示すように、耐硫酸性普通ポルトランドセメントを遠心成形した硬化体は、−16%で激しい硫酸劣化と骨材露出が生じた。これに対して、本実施形態の耐酸性コンクリートを遠心成形した硬化体の耐硫酸性(質量変化率)は、−0.8%で概ね健全な状態であった。
つまり、遠心成形により締め固めて製造することで、耐硫酸性と高耐久性を備えた下水道管を製造可能となり、補修の手間を減らすことが可能となる。
また、本実施形態の耐酸性コンクリートは、遠心成形を行うことで、振動成形よりも蒸気養生時間(前置時間)を短縮でき、実用的な時間でプレキャストコンクリートの製品を製造することが可能となる。具体的には、圧縮強度は材齢28日で40N/mm2以上となる、優れた耐硫酸性を備えるヒューム管を製造可能である。
【0037】
また、近年、地球温暖化対策が世界規模での共通課題として認識されるようになり、その深刻さが刻々と増している状況下にある。このため、各国では、CO2等の温室効果ガスの削減に向けて本格的な取組みを既に始めている。ヒューム管にはセメントが使用されているため、セメント製造時におけるCO2排出量が多い。
これに対して、本実施形態の耐酸性コンクリートは、ポルトランドセメントは全く使用せず、産業副産物を有効活用したエコロジカルな製品を提供することができる。
これにより、地球環境に配慮し、CO2排出量の抑制に貢献することもできる。
【0038】
なお、本実施形態に係る耐酸性コンクリートは、ヒューム管以外にも、遠心成形して製造するプレキャストコンクリートの用途に用いることが可能である。
たとえば、本実施形態に係る耐酸性コンクリートは、耐硫酸性のみならず、耐塩酸性等の他の酸に対しても耐久性を備えるため、発電所、工場、各種生産製造施設等においても用いることが可能である。
【0039】
また、本実施形態の産業副産物として、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、下水道汚泥焼却灰、及びシリカフューム以外のものを用いることも可能である。たとえば、CaやSiや各種無機金属等を含む、バイオマス発電所の焼却灰、煤塵、鉱物精錬の残渣等も用いることが可能である。
また、アルカリ刺激材として、消石灰以外にも、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属水和物、石膏等も用いることが可能である。
【0040】
<第二実施形態>
上述の第一実施形態では、Ca(OH)2(水酸化カルシウム、消石灰)は標準配合で20kg/m3使用し、これに対する含有量の範囲を重量パーセントで50〜200%の割合(10〜40kg/m3)で配合する例について記載した。
これに対して、本発明の第二実施形態に係る耐酸性コンクリートは、上述の第一実施形態の配合について、消石灰をより多く配合するものである。本実施形態において、消石灰は、50〜500%(10〜100kg/m3)の割合で配合することが好適である。
水酸化カルシウムの混入量が増すと硬化体の中性化深さが顕著に小さくなる。すなわち、水酸化カルシウムの添加量を増加させると、中性化抑制効果が得られる。この効果を、後述する実施例2の簡易促進中性化試験装置による中性化抑制効果試験の結果として示す。
【0041】
さらに、本実施形態の耐酸性コンクリートは、上述の遠心成形の他に、振動形成されたプレキャストコンクリートとしてとしても用いることが可能である。
振動成形製品の対象としては、ボックスカルバートやマンホールなどが挙げられる。何れの製品も、ヒューム管等のプレキャストコンクリートの製造工程と同様の製造方法で製造可能である。すなわち、遠心成形を振動成形に変更するだけで製造することが可能である。したがって、本実施形態の混合物は、振動形成のプレキャストコンクリート製品の製造にも適用することが可能である。
【0042】
この際、本実施形態の耐酸性コンクリートは、適用する製品によっては、混合物の柔らかさに対する要求性能が異なる場合があり得る。この場合、コンクリートにおける水(W)とセメント(C)の割合(W/C)に相当する様に、混合物の水(W)と総粉体量(P)との割合(W/P)を微調整するだけで対応可能である。
また、必要に応じて細骨材率(S/a)や混和剤(Ad)添加量等も適宜調整して、混合物のフレッシュ性状(スランプ:SLや、空気量:Air)を、適用する製品の要求性能に合わせることが可能である。
本実施形態の混合物を実製品に適用する場合の配合例としては、後述する実施例2の表8に記載したような配合を用いることが好適である。表8では、本実施形態の混合物を遠心成形製品(ヒューム管)に適用する場合と、振動成形製品(ボックスカルバート)に適用する場合の配合例を示している。
なお、表8に示したように、適切な養生方法と温度管理を十分に行えば、本実施形態の混合物を用いて、現場で打設することも可能である。
【0043】
次に図面に基づき本発明を実施例によりさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0044】
〔標準の配合における耐酸性〕
(概要)
本実施例の耐酸性コンクリートを製造するための混合物(以下、単に「本混合物」と称する。)を、本実施例の実験対象とした。本混合物を用いて、遠心成形と振動成形により作製した硬化体(以下、単に「硬化体」と称する。)では、蒸気養生条件を5水準に設定した供試体を製造して、その強度発現性を確認した。また、本混合物の凝結時間については、プロクター貫入抵抗試験によるモルタル凝結試験を行い、始発時間と終結時間を確認した。化学抵抗性については、本混合物を振動成形したモルタル硬化体や、遠心成形した硬化体から採取した輪切り状の試験片(供試体)を、5%濃度の硫酸水溶液に浸漬し、耐硫酸性を普通ポルトランドセメント(以下、「OPC」という。)製試験片(供試体)と比較した。
【0045】
(使用材料)
本実施例における使用材料の種類と品質は、下記の表1に示すとおりである。使用材料は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、スーパーアッシュ、シリカフュームで構成される4種類の産業副産物と、アルカリ刺激剤としてJIS R9001特号に該当する水酸化カルシウム(消石灰)、収縮ひび割れ防止用としてJIS A6202に該当する膨張材の計6種類である。これに、骨材(粗骨材、細骨材)、水、高性能減水剤を練混ぜて本混合物を構成した。
【0046】
【表1】
【0047】
(本混合物の配合)
本混合物のフレッシュ性状は、図1に示すようにスランプフローが650±50mmの高流動タイプとした。このことによって、振動成形との違いが顕著に表れることを想定した。
また、本混合物の空気量は試験練りを繰返した結果、フレッシュ時に得られた空気量の実測値から、2.0±1.5%を目標値として設定した。
本混合物の配合は、下記の表2に示すように、水粉体比(W/P)34.0%、細骨材率41.0%とした。なお、スーパーアッシュは、総粉体量の5%に相当する量を細骨材と置換して用いた。
【0048】
【表2】
【0049】
(硬化体の成形方法)
本混合物を練混ぜた後、振動成形と遠心成形とにより、硬化体を作製した。
振動成形では、ブリキ製の円柱型枠(φ100×200mm)に、フレッシュ状態の本混合物を2層に分けて充填し、テーブルバイブレータ―で振動を与えながら、2層に分けて締固め、円柱硬化体を作製した。
遠心成形では、遠心成形用型枠(φ200×300mm)に、フレッシュ状態の本混合物を充填し、同型枠を成形機の上で高速回転させ、遠心力を利用して40Gに近い加速度で締固め、混合物の余剰水をスラッジ水として排出した。この際、下記の表3で示すような加速度と成形時間で、数段階で加速度を大きくして締固めて、遠心硬化体を作製した。
【0050】
【表3】
【0051】
図2(a)(b)に、製造された遠心硬化体の外観性状を示す。図2(c)に、遠心成形の様子を示す。
遠心成形では、加速度Gにより本混合物の余剰水がスラッジ水として円滑に排水された。その結果、遠心硬化体内面の脆弱層の厚さは0mmで、良好な締固め性状が得られた。また、硬化体の外面は、遠心力によって非常に緻密な硬化体となった。
【0052】
(凝結時間)
本混合物の硬化反応は、自然状態では凝結時間がかかることが想定された。このため、凝結試験として、プロクター貫入抵抗試験で始発時間と終結時間を確認した。本凝結試験に用いた混合物のモルタルは、表2に示した本混合物の配合から、単に粗骨材を除いたものである。
図3に示すように、本混合物の凝結時間は、始発が約14時間、終結が約19時間であった。これは、ポゾラン反応と潜在水硬性によるものと考えられる。
【0053】
(蒸気養生条件)
凝結試験結果を踏まえて、硬化体の強度発現性に有効な蒸気養生条件(前置時間)を把握するため、蒸気養生における前置時間が本混合物の強度発現性に及ぼす影響を確認した。本実施例では、注水から温度上昇を開始するまでの時間である前置時間を4時間、上昇温度を20℃/h、最高温度を65℃、保持時間を4時間、除冷は自然降温の条件で行った。この際、前置時間を、下記の表4に示す5水準に振り分けた。すなわち、前置時間は、0.5時間(30分)、1.5時間、3.0時間、6.0時間、24.0時間であり、他の蒸気養生条件は同一条件で実行した。
【0054】
【表4】
【0055】
(圧縮強度)
下記の表5に、硬化体の圧縮強度の試験結果を、振動成形及び遠心成形で区分し、前置時間及び材齢毎に示した。
【0056】
【表5】
【0057】
図4に振動成形、図5に遠心成形について、この結果をグラフ化したものを示す。各グラフにおいて、横軸は前置時間、縦軸は圧縮強度(N/mm2)を示す。また、各バーのδは材齢(日)を示す。これにより、振動成形と遠心成形との違いを明確にした。
前置時間の影響を見ると、前置0.5時間は材齢14日までの初期材齢における圧縮強度が低く、特に振動成形の材齢1日では顕著である。これと同様な傾向にあるのが前置1.5時間と前置3.0時間であり、その差は僅少で、振動成形の材齢1日では圧縮強度が変動している。
これに対して、前置時間が6.0時間になると、これよりも前置時間が短いものに比べて、圧縮強度は概ね堅調に推移し、遠心成形では材齢28日で40N/mm2以上の圧縮強度が得られている。更に、前置時間が24.0時間では、圧縮強度が最も高い水準となった。これは、前述した凝結試験の結果を踏まえれば、本混合物の始発時間である14時間よりも前置時間を長く、十分に確保したことの効果であると推察された。
このように、遠心成形は振動成形ほど前置時間の影響を受けず、圧縮強度は振動成形よりも、総じて5N/mm2程度高い水準となった。
【0058】
次に、図6に、上述の結果を基に、遠心成形(100%)に対する振動成形の強度比率を、各々の条件で対比させたものを示す。
この強度比率で見ると、振動成形では前置時間に硬化体の圧縮強度が鋭敏に反応しており、0.5時間、1.5時間、3.0時間のように短い前置時間の場合には、概ね85%を中心とした強度比率であった。これに対して、6.0時間以上の前置時間では、材齢14日までの強度比率には90%を超えるものがあり、この段階までは遠心成形との差が小さくなった。
これらの結果によれば、遠心成形は、振動成形よりも、本混合物の前置時間を短縮することが可能であった。また、硬化体の圧縮強度は、振動成形よりも高い水準になった。
【0059】
(耐硫酸性)
(振動成形による硬化体の耐硫酸性)
耐硫酸性試験の比較対象として、OPCによるモルタル供試体(φ50×100mm)を、振動成形を作製した。
このモルタルは、下記の表6に示したコンクリート配合から、単に粗骨材を除いたものである。
【0060】
【表6】
【0061】
また、上述した凝結試験と同様に、表2に示した本混合物の配合から、単に粗骨材を除いたモルタル配合を用いて、振動成形で硬化体(φ50×100mm)を作製した。
【0062】
これら、OPC製の硬化体と、本混合物の硬化体とを「日本下水道事業団の断面修復用モルタルに関する品質試験方法」に準拠して、5%濃度の硫酸水溶液に28日間浸漬させ、質量変化や外観性状から耐硫酸性を評価した。
なお、5%濃度の硫酸水溶液量(容積)は、試験体1個当たり1.96Lとし、供試体の表面積と、液体の容積比率(個液比)を一定として、7日毎に新しい硫酸水溶液に全量を入れ換えた。
【0063】
図7に、この28日間浸漬後の各供試体の外観の様子を示す。図7(a)はOPC製の供試体、図7(b)は本混合物の硬化体の供試体である。
また、図8に試験結果を示す。これによると、OPC製の供試体は、浸漬日数の進行に伴って質量が減少し、28日間で質量変化率は−32%に達している。
これに対して、本混合物の硬化体は、微細なひび割れが僅かに生じていたものの、概ね健全な状態にあり、優れた耐酸性を示した。
しかし、28日間浸漬後の質量変化率は約1%プラス側に転じており、硬化体には僅かな膨張が確認された。この結果について、本混合物から成る硬化体についてX線回折法により、硬化体の膨張や質量増加に影響している鉱物を同定した。その結果、高炉スラグ微粉末から生成された二水石膏(CaSO4・2H2O)が主原因であることが推定された。
【0064】
(遠心成形による硬化体の耐硫酸性)
前述したように、本混合物から成る硬化体の圧縮強度試験結果では、遠心成形が有効であることが分かった。
このことを踏まえて、上述の表6に示す配合のOPC製の遠心供試体と、本混合物を遠心成形した硬化体から輪切り状の試験片を採取して、耐硫酸性を評価した。
なお、この硫酸浸漬試験では、試験片の表面積と溶液との容積比率(個液比)を考慮せず、採取した試験片を5%濃度の硫酸水溶液中に28日間浸漬させた。
【0065】
図9に、この28日間浸漬後の各供試体の外観の様子を示す。図9(a)はOPC製の遠心供試体、図9(b)は本混合物の遠心供試体である。
また、図10に試験結果を示す。これによると、OPC製の遠心試験片(遠心OPC)では、浸漬28日間で−16%の質量減少と骨材の露出が確認され、激しい硫酸劣化が生じた。
一方、本混合物製の遠心供試体(遠心硬化体)では、浸漬28日間で−0.8%の質量減少が認められたものの、試験片の外観性状には殆ど変化が認められず、健全な状態であった。
また、振動成形で作製したモルタル硬化体に生じた、微細なひび割れや僅かな膨張は認められず、遠心成形で硬化体を締固めることの有効性が示された。
【0066】
(まとめ)
本実施例では、高耐久性のコンクリート製品を創出するために、ポルトランドセメントを全く使用しない、主にフライアッシュと高炉スラグ微粉末によって構成される産業副産物を含む混合物を用いて、遠心成形によって硬化体とした。
本実施例では、以下のような結果が得られた:
(1)本混合物の硬化反応は、ポゾラン反応と潜在水硬性によるものであり、凝結時間は、始発が14時間、終結が19時間であった。
(2)振動成形の場合、強度発現性と強度の伸びが悪い。たとえば、前置6時間、材齢28日の圧縮強度は35.1N/mm2であった。これに対して、遠心成形は、強度発現性と強度の伸びがよい。たとえば、前置6時間、材齢28日の圧縮強度は40.7N/mm2である。
(3)凝結時間の遅延により、振動成形では蒸気養生の前置時間が3.0時間以下の場合、6.0時間以上に比べて圧縮強度が低い水準にある。しかし、遠心成形で前置時間前が3.0時間以下と6.0時間以上を比較すると、圧縮強度の差は振動成形の場合よりも小さい。
したがって、遠心成形を用いることにより、本混合物の凝結時間の遅延を相殺でき、実用的なヒューム管の製造に用いることができる。具体的には、1.5時間以下で用いることも可能である。
(4)振動成形によるモルタル硬化体と、OPC製モルタル供試体を対象にした5%硫酸浸漬試験の結果、OPC製モルタル供試体は質量変化率が−32%であったのに対し、モルタル硬化体は僅かな膨張が認められたものの、ほぼ健全な状態であった。
(5)遠心成形で作製した遠心硬化体と、OPC製の遠心供試体を対象にした5%硫酸浸漬試験の結果、OPC製の遠心供試体は質量減少が−16%であったのに対し、遠心硬化体では−0.8%の質量減少に留まり、外観性状は概ね健全な状態であった。
【0067】
〔配合の割合を変化させた場合における強度〕
上述の標準の配合について、各材料の添加率と圧縮強度の関係を調べた。つまり、各材料の配合割合を変化させた際の圧縮強度の変化についての試験を行った。この結果を下記の表7に示す。
【0068】
【表7】
【0069】
また、図11に、この添加率と強度の関係グラフを示す。各グラフにおいて、横軸は標準の割合について、重量パーセントで示す添加率の割合(%)を示す。また、縦軸は圧縮強度(N/mm2)を示す。
結果として、標準の配合に対して、重量パーセントにおいて、W(水)90〜105%、FA(フライアッシュ)10〜110%、BFS(高炉スラグ微粉末)90〜190%、SF(シリカフューム)50〜130%、Ca(OH)2(水酸化カルシウム、消石灰)50〜200%、EX(膨張材)60〜130%、S(細骨材)80〜125%、G(粗骨材)80〜125%、及びAd(高性能減水剤)50〜150%の割合で配合することが好適であった。これらの効果については、上述の実施の形態で示した通りである。
【実施例2】
【0070】
(硫酸浸漬試験:遠心硬化体、OPC、BB、FCの比較)
実施例1では、遠心硬化体と普通セメント(OPC)製遠心供試体を記載した。これに加えて、標準の高炉セメントB種(BB)製遠心供試体と、標準のフライアッシュセメントC種(FC)製遠心供試体とを用いた硫酸浸漬試験を、実施例1と同様に行った。
図12に、各種遠心供試体の劣化状況の外観を示す。図12(a)は、28日間浸漬後の高炉セメントB種(BB)製遠心供試体の写真、図12(b)は、28日間浸漬後のフライアッシュセメントC種(FC)製遠心供試体の写真である。いずれも、見た目の劣化が激しかった。
図13に、各種遠心供試体を5%濃度の硫酸水溶液に28日間浸漬させ、その劣化の程度を質量変化率で表したグラフを示す。
結果として、5%濃度の硫酸水溶液に各種遠心供試体を28日間浸漬した結果、質量変化率は遠心OPCと遠心FCが約−16%、遠心BBが約−10%であった。
これに対して、実施例1及び実施例2の遠心硬化体の質量変化率は、僅かに−0.8%であり、これらの実施例の硬化体の優れた耐硫酸性を確認することができた。
【0071】
(W/P及びFAとBFSの混合比率による強度発現性)
次に、硬化体の主材であるフライアッシュ(FA)と高炉スラグ微粉末(BFS)の混合比率を、50%対50%と、40%対60%に変化させてモルタルとして用いて製造した硬化体(φ50×100mm)(モルタル硬化体)の強度発現性(モルタル強度)について、水粉体比(W/P)を変化させて比較した。
図14に、FAとBFSの混合比率を50%:50%とした場合の強度のグラフを示す。
図15に、図14の結果における、W/Pと強度の関係のグラフを示す。本図中のσは、材齢(日)を示す。
図16に、FAとBFSの混合比率を40%:60%とした場合の強度のグラフを示す。
図17に、図16の結果における、W/Pとモルタル強度の関係のグラフを示す。本図中のσは、材齢(日)を示す。
【0072】
結果として、硬化体のフライアッシュ(FA)と高炉スラグ微粉末(BFS)の混合比率を、50%対50%から40%対60%にすると圧縮強度(特に材齢14日までの初期強度)が向上した。また、W/Pを28%以下にすると、材齢28日の圧縮強度は概ね50N/mm2以上が得られることが分かった。
【0073】
(円柱硬化体と遠心硬化体の圧縮強度)
硬化体の主材であるフライアッシュ(FA)と高炉スラグ微粉末(BFS)の混合比率を、50%対50%と、40%対60%に変化させ場合の圧縮強度について、実施例1と同様に成形した円柱硬化体(φ100×200mm)と遠心硬化体(φ200×300mm)とにおいて、水粉体比(W/P)を変化させて比較した。これらの硬化体のフレッシュ性状は、空気量1.8%、スランプ10.0cmであった。
【0074】
図18に、FAとBFSの混合比率を50%:50%とした場合の圧縮強度のグラフを示す。
図19に、FAとBFSの混合比率を40%:60%とした場合の圧縮強度のグラフを示す。
結果として、硬化体の水粉体比(W/P)が小さくなると、これに伴って圧縮強度が大きくなる傾向が、実施例1と同様であった。
また、振動成形で製造した円柱供試体よりも、遠心成形で製造した遠心供試体の方が圧縮強度は大きいことから、実施例1の結果と同様な傾向にあった。
【0075】
(水酸化カルシウムの効果)
硬化体のアルカリ刺激材(硬化促進剤)である水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の添加量を変化させて、モルタル硬化体(粗骨材を除く)の圧縮強度を比較した。
図20に、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の添加量と圧縮強度の関係のグラフを示す。ここでは、W/Pを30%、フラアッシュ40%、高炉スラグ微粉末60%の条件で、水酸化カルシウムの添加率を変えた実験を行った。
この結果から、圧縮強度の発現性を見ると水酸化カルシウムの最適混入量は20kg/m3であり、それ以下では強度レベルが低く、それ以上混入しても強度の増進は得られないことが分かった。
【0076】
これに加え、本発明者らは、水酸化カルシウムの添加量の強度以外の観点として、中性化抑制効果について検討した。
図21に、中性化抑制効果試験に用いた簡易促進中性化試験装置の概要を示す。この装置は、デシケーター内に硬化体(供試体)を静置して蓋を閉め、炭酸ガス(濃度40%以上)を送って、硬化体の中性化を促進させる。
本実施例の中性化抑制効果試験においては、フライアッシュ40%及び高炉スラグ60%を配合した振動成形のモルタル硬化体(硬化体)を作成し、蒸気養生後、気中養生(気温20℃、湿度60%)を28日間、行ってから中性化を評価した。
中性化の判定は、硬化体を割裂した面にフェノールフタレイン(1%エタノール溶液)を噴霧し、赤紫色の呈色反応が生じない無色の部分を対象に、硬化体表面からの深さを10mm間隔で計測して平均値を求め、中性化深さとした。
【0077】
図22に、中性化抑制効果試験における、水酸化カルシウム量と中性化深さの関係の実験結果のグラフを示す。
図23に、中性化抑制効果試験の結果として、蒸気養生後に28日間の気中養生を行った硬化体の呈色反応の写真を示す。図23(a)は、水酸化カルシウム20kg/m3を加えた硬化体の写真である。中性化深さは、7mmであった。図23(b)は、水酸化カルシウム40kg/m3を加えた硬化体の写真である。中性化深さは、2mmであった。図23(c)は、水酸化カルシウム60kg/m3を加えた硬化体の写真である。中性化深さは、0mmであった。
【0078】
この簡易促進中性化試験装置による中性化抑制効果試験の結果として、水酸化カルシウムの混入量が増すと硬化体の中性化深さが顕著に小さくなることが分かった。すなわち、結果として、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の添加量を増加させると、中性化抑制効果が得られることが分かった。すなわち、Ca(OH)2(水酸化カルシウム、消石灰)は標準配合で20kg/m3使用し、これに対する含有量の範囲は50〜500%(10〜100kg/m3)とすることが好適である。
【0079】
(実製品の製造時に採取した円柱硬化体の強度)
次に、実製品の製造時に採取した混合物の振動成形した円柱硬化体の圧縮強度を測定した。具体的には、コンクリート二次製品工場において、遠心硬化体の実製品(φ250×2000mm)を製造する際に、投入口から混合物を採取し、振動成形で作製した円柱硬化体(φ100×200mm)の圧縮強度を測定した。この硬化体のフレッシュ性状は、空気量1.9%、スランプ13.0cmであった。
図24に、この振動成形の円柱硬化体の圧縮強度を示す。
結果として、圧縮強度は材齢28日で41.5N/mm2が得られた。振動成形の円柱硬化体のスランプを大きくすると、より高い値を得られると考えられる。
【0080】
(ヒューム管の製造方法)
次に、本実施例の混合物によるプレキャストコンクリートの一例として、ヒューム管を遠心成形で製造する際の製造方法について説明する。
図25に、ヒューム管の製造工程を示す。ヒューム管の製造では、鉄筋を組合せて編成した鉄筋カゴを型枠内に設置する。次に、型枠を成形機の上で回転させながら、ミキサーで練混ぜたコンクリートを投入し、遠心力(低速、中速、高速)で締固めながら成形する。この時、ヒューム管の内面仕上げも同時に行う。その後、型枠ごと蒸気養生を行い、徐冷してから脱型し、養生期間を経て、ヒューム管の外観、寸法等を検査して出荷に至る。
本実施例において、硬化体を製造する場合には、セメントの代わりに上述の粉体材料を使用する。この様に、硬化体実製品を遠心成形によって製造する場合、このヒューム管の製造工程と同様にして行うことが可能である。
なお、振動成型の場合、図25の「遠心成形・内面仕上げ」工程の際に、振動成型を行うことで、同様にプレキャストコンクリートを製造可能である。
【0081】
(遠心硬化体の実製品の外圧試験)
遠心硬化体の実製品として、φ250×2000mmのものとφ300×2000mmのものとを製造した。
図26に、この遠心硬化体の実製品と試験状況とを示す。図26(a)は、φ300×2000mmで製造した遠心硬化体実製品の外観である。図26(b)は、遠心硬化体実製品の外圧試験状況を示す写真である。
【0082】
外圧試験はφ250×2000mmを対象とし、本実施例の遠心硬化体の実製品と、従来のヒューム管とを並行して行った。
図27に、本実施例の遠心硬化体実製品(φ250×2000mm)の外圧試験結果を示す。
図28に、従来のヒューム管(φ250×2000mm)の外圧試験結果(比較例)を示す。
外圧試験の結果、従来のヒューム管に比べて、本実施例の遠心硬化体の実製品は、ひび割れ規格荷重と破壊規格荷重を十分に満足していた。すなわち、良好な耐荷性を備えていることが確認できた。さらに、たわみがやや大きいため、脆性破壊しにくいことが考えられる。
【0083】
(振動成形製品への適用)
次に、本発明者らは、上述の振動成形により実際のプレキャストコンクリート製品を製造し、振動成形製品の最適な配合割合について検討した。この対象としては、ボックスカルバートやマンホール等が挙げられる。
以下の表8に、本実施例の混合物を遠心成形の製品(ヒューム管等)に適用する場合と、振動成形の製品(ボックスカルバート等)に適用する場合の配合例を示す。さらに、表8の配合例に現場施工として示したように、適切な養生方法と温度管理を十分に行えば、混合物を現場で打設することも可能である。
【0084】
【表8】
【0085】
表8において、Gmaxは粗骨材の最大寸法、SLはスランプフロー、Airは空気量、W/Pは水(W)と総粉体量(P)との割合、S/aは細骨材率、Sは細骨材、Gは粗骨材、Adは混和剤を示す。
ここで、いずれも、従来のセメントを使用した製品と同等以上の規格荷重等の品質を満たした上で、耐酸性を高めることができる。
【0086】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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