特許第6796744号(P6796744)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6796744
(24)【登録日】2020年11月18日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】接合方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/36 20060101AFI20201130BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20201130BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20201130BHJP
   C09J 5/06 20060101ALI20201130BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20201130BHJP
   C09J 201/04 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   B29C65/36
   C09J7/35
   C09J201/00
   C09J5/06
   C09J11/04
   C09J201/04
【請求項の数】13
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2020-540363(P2020-540363)
(86)(22)【出願日】2020年3月16日
(86)【国際出願番号】JP2020011325
【審査請求日】2020年7月20日
(31)【優先権主張番号】特願2019-68489(P2019-68489)
(32)【優先日】2019年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 遼
(72)【発明者】
【氏名】青木 拓斗
(72)【発明者】
【氏名】田矢 直紀
【審査官】 ▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−107809(JP,A)
【文献】 特表平07−505836(JP,A)
【文献】 特開平07−138875(JP,A)
【文献】 特開2014−037489(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/186297(WO,A1)
【文献】 実開昭59−041517(JP,U)
【文献】 国際公開第2017/154926(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00 − 65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被着体と、高周波誘電加熱接着シートと、を接合させる接合方法であって、
前記被着体は、表面に少なくともフッ素を含むフッ素含有表面を有し、
前記高周波誘電加熱接着シートは、高周波誘電接着剤層を有し、
前記高周波誘電接着剤層は、熱可塑性樹脂(A)と、誘電フィラー(B)と、を含有し、
前記熱可塑性樹脂(A)は、フッ素を含むフッ素系熱可塑性樹脂であり、
前記高周波誘電接着剤層の表面自由エネルギーは、15mJ/m以上、30mJ/m以下であり、
前記高周波誘電接着剤層の融点は、110℃以上、300℃以下であり、
前記被着体の前記フッ素含有表面と、前記高周波誘電接着剤層と、を当接させる工程と、
前記高周波誘電接着剤層に高周波を印加して、前記フッ素含有表面に前記高周波誘電加熱接着シートを接合する工程と、を有する、
接合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の接合方法において、
前記誘電フィラー(B)は、酸化亜鉛である、
接合方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項に記載の接合方法において、
前記高周波誘電接着剤層中の前記誘電フィラー(B)の含有量は、3体積%以上、50体積%以下である、
接合方法。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の接合方法において、
前記被着体の融点T1と前記高周波誘電接着剤層の融点T2との差T1−T2は、10
℃以上、90℃以下である、
接合方法。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の接合方法において、
前記高周波誘電加熱接着シートの引張破断伸度は、10%以上、600%以下である、
接合方法。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の接合方法において、
前記高周波誘電加熱接着シートのヤング率は、400MPa以上、3000MPa以下である、
接合方法。
【請求項7】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の接合方法において、
前記高周波誘電加熱接着シートの密度は、1.5g/cm以上、3.5g/cm以下である、
接合方法。
【請求項8】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の接合方法において、
前記被着体の厚さは、0.01mm以上、2mm以下である、
接合方法。
【請求項9】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の接合方法において、
前記被着体と、前記被着体とは異なる別の被着体とを前記高周波誘電接着剤層を介して接合する、
接合方法。
【請求項10】
請求項に記載の接合方法において、
前記別の被着体も、表面に少なくともフッ素を含むフッ素含有表面を有する、
接合方法。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の接合方法において、
前記高周波誘電接着剤層に対して、1kHz以上、300MHz以下の高周波を印加する、
接合方法。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の接合方法において、
高周波の印加時間は、1秒以上、60秒以下である、
接合方法。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の接合方法において、
前記被着体と、前記高周波誘電加熱接着シートと、を接合して得た接合体は、屋外で使用される、
接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合方法及び高周波誘電加熱接着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、耐候性、防汚性、耐薬品性及び耐熱性に優れているが、フッ素樹脂を含む部材を他の部材に接着するのが難しく、フッ素樹脂の接着方法が検討されている。
【0003】
特許文献1には、フッ素樹脂の接着方法として、フッ素樹脂の表面にコロナ処理を施し、さらにフッ素樹脂の表面にプライマーを塗布し、接着剤として熱可塑性ポリエステルまたはポリアミドを用いる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭63−009533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フッ素樹脂を接着させる際には、例えば、特許文献1に記載のように、フッ素樹脂の表面にコロナ処理を施したり、フッ素樹脂の表面にプライマーを塗布したりする等の表面処理が必要であった。
【0006】
本発明は、フッ素を含む被着体の表面への前処理を施さなくても、当該被着体へ強固に接合できる接合方法を提供すること、並びに当該接合方法に用いる高周波誘電加熱接着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、被着体と、高周波誘電加熱接着シートと、を接合させる接合方法であって、前記被着体は、表面に少なくともフッ素を含むフッ素含有表面を有し、前記高周波誘電加熱接着シートは、高周波誘電接着剤層を有し、前記高周波誘電接着剤層は、熱可塑性樹脂(A)と、誘電フィラー(B)と、を含有し、前記高周波誘電接着剤層の表面自由エネルギーは、15mJ/m以上、30mJ/m以下であり、前記高周波誘電接着剤層の融点は、110℃以上、300℃以下であり、前記被着体の前記フッ素含有表面と、前記高周波誘電接着剤層と、を当接させる工程と、前記高周波誘電接着剤層に高周波を印加して、前記フッ素含有表面に前記高周波誘電加熱接着シートを接合する工程と、を有する、接合方法が提供される。
【0008】
本発明の一態様に係る接合方法において、前記誘電フィラー(B)は、酸化亜鉛であることが好ましい。
【0009】
本発明の一態様に係る接合方法において、前記熱可塑性樹脂(A)は、フッ素を含むフッ素系熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0010】
本発明の一態様に係る接合方法において、前記高周波誘電接着剤層中の前記誘電フィラー(B)の含有量は、3体積%以上、50体積%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の一態様に係る接合方法において、前記被着体の融点T1と前記高周波誘電接着剤層の融点T2との差T1−T2は、10℃以上、90℃以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の一態様に係る接合方法において、前記高周波誘電加熱接着シートの引張破断伸度は、10%以上、600%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の一態様に係る接合方法において、前記高周波誘電加熱接着シートのヤング率は、400MPa以上、3000MPa以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の一態様に係る接合方法において、前記高周波誘電加熱接着シートの密度は、1.5g/cm以上、3.5g/cm以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の一態様に係る接合方法において、前記被着体の厚さは、0.01mm以上、2mm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の一態様に係る接合方法において、前記被着体と、前記被着体とは異なる別の被着体とを前記高周波誘電接着剤層を介して接合することが好ましい。
【0017】
本発明の一態様に係る接合方法において、前記別の被着体も、表面に少なくともフッ素を含むフッ素含有表面を有することが好ましい。
【0018】
本発明の一態様に係る接合方法において、前記高周波誘電接着剤層に対して、1kHz以上、300MHz以下の高周波を印加することが好ましい。
【0019】
本発明の一態様に係る接合方法において、高周波の印加時間は、1秒以上、60秒以下であることが好ましい。
【0020】
本発明の一態様に係る接合方法において、前記被着体と、前記高周波誘電加熱接着シートと、を接合して得た接合体は、屋外で使用されることが好ましい。
【0021】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係る接合方法に用いることを特徴とする高周波誘電加熱接着シートが提供される。
【0022】
本発明の一態様によれば、フッ素系材料の被着体表面への前処理を行わなくとも強固に接合できる接合方法を提供できる。
また、本発明の一態様によれば、当該接合方法に用いる高周波誘電加熱接着シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態に係る構造体の断面概略図である。
図2】第1実施形態において誘電加熱接着装置を用いて実施する誘電加熱処理を説明するための図である。
図3】変形例に係る構造体の断面概略図である。
図4】別の変形例に係る構造体の断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔第1実施形態〕
本実施形態に係る接合方法は、被着体と、高周波誘電加熱接着シートと、を接合させる方法である。
【0025】
[被着体]
本実施形態に係る被着体は、表面に少なくともフッ素を含むフッ素含有表面を有する。そのため、本実施形態に係る被着体の全体がフッ素を含む材料で構成されていれば、被着体の表面は、フッ素を含むフッ素含有表面である。また、被着体がフッ素を含む材料で構成される部位と、フッ素を含まない材料で構成される部位とを有する場合、フッ素を含む材料で構成される部位が被着体の表面の内、一部、複数箇所、又は全面に現れていればよい。
フッ素を含む材料としては、フッ素樹脂であることが好ましい。
フッ素樹脂としては、フッ素を含む樹脂であれば、特に限定されない。
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFEと称する場合がある。)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン系共重合樹脂(PFAと称する場合がある。)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合樹脂(FEPと称する場合がある。)、ポリフッ化ビニル(PVFと称する場合がある。)、ポリフッ化ビニリデン(PVdFと称する場合がある。)、テトラフルオロエチレン−エチレン系共重合樹脂(ETFEと称する場合がある。)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFEと称する場合がある。)、及びクロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFEと称する場合がある。)等が挙げられる。フッ素含有量を保ちつつ、エチレンの含有量を変更することで加工性を容易に調節できるという観点から、フッ素樹脂は、ETFEであることが好ましい。
【0026】
本実施形態に係る被着体の形状は、特に限定されない。本実施形態に係る被着体としては、例えば、フッ素樹脂を成形してなるフッ素樹脂成形体、及びフッ素樹脂を含有する層を表面に有するシート等が挙げられる。被着体がフッ素樹脂を含有する層(フッ素樹脂含有層)を表面に有するシートである場合、当該被着体は、ポリエステルフィルム等の基材と、当該基材の上に設けられたフッ素樹脂含有層とを有することが好ましい。また、強度の観点からガラス繊維織布と、当該ガラス繊維織布にフッ素樹脂がコーティングされて形成されたフッ素樹脂含有層とを備える被着体であることも好ましい。
【0027】
本実施形態に係る被着体の厚さは、高周波誘電加熱接着時における被着体へのダメージを小さくする観点から、0.01mm以上であることが好ましく、0.05mm以上であることがより好ましく、0.1mm以上であることがさらに好ましい。
本実施形態に係る被着体の厚さは、効率的に接合を行う観点から、2mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましい。
【0028】
[高周波誘電加熱接着シート]
本実施形態に係る接合方法に用いる高周波誘電加熱接着シートについて、説明する。
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートは、高周波誘電接着剤層を含む。高周波誘電接着剤層は、熱可塑性樹脂(A)及び誘電フィラー(B)を含有する。本明細書において、熱可塑性樹脂(A)をA成分と称する場合もある。本明細書において、誘電フィラー(B)をB成分と称する場合もある。
【0029】
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートは、一態様としては高周波誘電接着剤層の一層のみからなる。なお、本発明に係る高周波誘電加熱接着シートは、高周波誘電接着剤層の一層のみからなる態様に限定されず、高周波誘電加熱接着シートの変形例としては、高周波誘電接着剤層以外の層が積層されている態様も挙げられる。
このように、高周波誘電加熱接着シートは、高周波誘電接着剤層の一層のみからなる場合があるため、本明細書において、「高周波誘電加熱接着シート」という用語と、「高周波誘電接着剤層」という用語は、場合によっては、互いに入れ替えることが可能である。
【0030】
<高周波誘電接着剤層>
本実施形態において、高周波誘電接着剤層の表面自由エネルギーが15mJ/m以上、30mJ/m以下であり、かつ、高周波誘電接着剤層の融点が110℃以上、300℃以下である。
【0031】
・表面自由エネルギー
高周波誘電接着剤層の表面自由エネルギーは、16mJ/m以上であることが好ましく、17mJ/m以上であることがより好ましい。
高周波誘電接着剤層の表面自由エネルギーは、28mJ/m以下であることが好ましく、26mJ/m以下であることがより好ましく、24mJ/m以下であることがさらに好ましい。
高周波誘電接着剤層の表面自由エネルギーの測定方法は、次のとおりである。
高周波誘電接着剤層の表面自由エネルギー(mJ/m2)は、各種液滴の接触角(測定温度:25℃)を測定し、その接触角の値をもとに北崎・畑法により求める。
ジヨードメタン、1−ブロモナフタレン、及び蒸留水を液滴として使用し、協和界面科学(株)製、DM−70を用いて、静滴法により、JIS R 3257:1999に準拠して接触角(測定温度:25℃)を測定し、その接触角の値に基づいて北崎・畑法により、表面自由エネルギー(mJ/m2)を求める。
【0032】
・融点
高周波誘電接着剤層の融点は、130℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましい。
高周波誘電接着剤層の融点は、270℃以下であることが好ましく、245℃以下であることがより好ましく、220℃以下であることがさらに好ましく、210℃以下であることがよりさらに好ましい。
表面自由エネルギー及び融点を上記範囲内とすれば、表面にフッ素を含有する被着体に対して、良好な接着力が得られる。
【0033】
<熱可塑性樹脂(A)>
熱可塑性樹脂(A)の種類は、特に制限されない。
【0034】
(フッ素系熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂(A)は、フッ素を含むフッ素系熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂(A)がフッ素系熱可塑性樹脂を含むことで、被着体のフッ素含有表面に対する接着力が向上する。また、フッ素系熱可塑性樹脂は、耐候性、防汚性、耐薬品性及び耐熱性に優れた樹脂であるため、被着体と高周波誘電加熱接着シートとが接合されてなる構造体は、屋外に設置される用途で使用される場合に好適である。屋外に設置される用途の構造体としては、例えば、屋根用部材及び壁用部材が挙げられる。
【0035】
フッ素系熱可塑性樹脂は、フッ素を含む繰り返し単位と、フッ素を含まない繰り返し単位と、を有する共重合樹脂であることが好ましい。フッ素系熱可塑性樹脂が共重合樹脂であれば、フッ素を含まない繰り返し単位の種類及び共重合樹脂における割合を適宜調整することで、被着体の表面への接着性を向上させたり、高周波誘電接着剤層の融点を下げたり、高周波誘電接着剤層における誘電フィラー(B)の分散性を向上させたりすることができる。フッ素系熱可塑性樹脂が共重合樹脂である場合、フッ素を含まない繰り返し単位としては、オレフィン単位であることが好ましく、エチレン単位であることがより好ましい。
【0036】
フッ素系熱可塑性樹脂としては、例えば、被着体の説明において例示したフッ素樹脂(PTFE、PFA、FEP、PVF、PVdF、ETFE、PCTFE及びECTFE等)であることも好ましい。
フッ素系熱可塑性樹脂は、テトラフルオロエチレン−エチレン系共重合樹脂(ETFE)であることがより好ましい。この共重合樹脂において、フッ素原子を含まないエチレン部位の割合を増やすことによってフッ素系熱可塑性樹脂の融点を下げることができると考えられる。
【0037】
また、本実施形態の別の態様においては、熱可塑性樹脂(A)は、例えば、融解し易いとともに、所定の耐熱性を有する等の観点から、ポリオレフィン系樹脂、極性部位を有するポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、フェノキシ系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種であってもよく、高周波誘電接着剤層は、これら樹脂を含んでも良いが、被着体への接着性の観点からは含まない方がより好ましい。
【0038】
・融点
熱可塑性樹脂(A)の融点は、110℃以上、300℃以下である。
熱可塑性樹脂(A)の融点は、130℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂(A)の融点が110℃以上であることにより、高周波誘電接着剤層の耐熱性が優れる。
熱可塑性樹脂(A)の融点は、270℃以下であることが好ましく、245℃以下であることがより好ましく、220℃以下であることがさらに好ましく、210℃以下であることがよりさらに好ましい。熱可塑性樹脂(A)の融点が300℃以下であることにより、高周波誘導加熱処理の際に、溶融温度が高くなり過ぎて、熱により被着体が損傷することを防止できる。
本明細書において、融点の測定方法は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0039】
・軟化温度
熱可塑性樹脂(A)の軟化温度は、150℃以上であることが好ましく、165℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂(A)の軟化温度は、350℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、280℃以下であることがさらに好ましく、260℃以下であることがよりさらに好ましく、240℃以下であることがさらになお好ましく、220℃以下であることが特に好ましい。
熱可塑性樹脂(A)の軟化温度が、150℃以上であれば、高周波誘電接着剤層の耐熱性を向上させることができる。本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートと被着体とを接合させて得た構造体を屋外に設置した場合、真夏のように高温環境下でも、被着体と高周波誘電加熱接着シートとの接合状態を確保し易くなる。
熱可塑性樹脂(A)の軟化温度が、350℃以下であれば、短時間で安定した接合強度が得られ易くなる。
本明細書において、軟化温度の測定方法は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0040】
・密度
本実施形態に係る熱可塑性樹脂(A)の密度は、1.2g/cm以上であることが好ましく、1.5g/cm以上であることがより好ましく、1.7g/cm以上であることがさらに好ましい。
本実施形態に係る熱可塑性樹脂(A)の密度は、2.3g/cm以下であることが好ましく、2.1g/cm以下、1.9g/cm以下であることがより好ましく、1.8g/cm以下であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂(A)の密度が1.2g/cm以上であれば、ロール・ツー・ロール方式でシート成形を行う際に、ばたつきを抑制し易くなる。
熱可塑性樹脂(A)の密度が2.3g/cm以下であれば、高周波誘電加熱接着シートの自重による撓みを防止し、被着体との接合部位における剥離のきっかけが生じることを防止し易くなる。
熱可塑性樹脂(A)の密度が2.3g/cm以下であれば、高周波誘電加熱接着シートの重量の増加を抑制でき、その結果、構造体の重量の増加を抑制できる。構造体の重量増加が抑制されることにより、構造体を用いた施工時の作業性が向上し易い。
熱可塑性樹脂(A)の密度は、高周波誘電加熱接着シートの密度は、JIS K 7112:1999のA法(水中置換法)に準じて測定できる。
【0041】
・流動開始温度
熱可塑性樹脂(A)の流動開始温度は、70℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましく、180℃以上であることがよりさらに好ましい。
熱可塑性樹脂(A)の流動開始温度は、380℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、260℃以下であることがさらに好ましく、230℃以下であることが特に好ましい。
熱可塑性樹脂(A)の流動開始温度が70℃以上であれば、良好な耐熱性を得易い。
熱可塑性樹脂(A)の流動開始温度が380℃以下であれば、短時間で良好な接着性を得易くなる。
熱可塑性樹脂(A)の流動開始温度の測定方法は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0042】
<誘電フィラー(B)>
誘電フィラー(B)は、1kHz以上、300MHz以下の高周波の印加により発熱することが好ましい。さらに、誘電フィラー(B)は、例えば、周波数27.12MHz又は40.68MHz等の高周波の印加により、発熱可能な高誘電損率を有する高周波吸収性充填剤であることが好ましい。
【0043】
誘電フィラー(B)は、酸化亜鉛、炭化ケイ素(SiC)、アナターゼ型酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸カリウム、ルチル型酸化チタン、水和ケイ酸アルミニウム、アルカリ金属の水和アルミノケイ酸塩等の結晶水を有する無機材料又はアルカリ土類金属の水和アルミノケイ酸塩等の結晶水を有する無機材料等の一種単独又は二種以上の組み合わせが好適である。
【0044】
誘電フィラー(B)は、金属酸化物であることが好ましく、酸化亜鉛であることがより好ましい。誘電フィラー(B)としての酸化亜鉛は、誘電特性が高く、熱可塑性樹脂(A)に及ぼす影響が少ない。また、酸化亜鉛は、種類が豊富であり、様々な形状及びサイズから選択できる。さらに、誘電フィラー(B)が酸化亜鉛であれば、高周波誘電加熱接着シートの接着特性及び機械特性を用途に合わせて改良できる。
誘電フィラー(B)としての酸化亜鉛は、接着剤成分である熱可塑性樹脂(A)中へ均一に配合し易い。そのため、酸化亜鉛の配合量が、比較的、少量である高周波誘電接着剤層であっても、所定の誘電加熱処理において、他の誘電フィラーを配合した高周波誘電加熱接着シートと比較して、優れた発熱効果を発揮できる。
したがって、高周波誘電接着剤層が、誘電フィラー(B)として酸化亜鉛を含んでいることで、高周波誘電加熱接着シートは、誘電加熱処理により、フッ素含有表面を有する被着体に対して優れた溶着性を示す。
【0045】
本実施形態に係る高周波誘電接着剤層は、導電性物質を含有しないことが好ましい。導電性物質としては、炭素又は炭素を主成分とする炭素化合物(例えば、カーボンブラック等)及び金属等が挙げられる。導電性物質の含有量は、高周波誘電接着剤層の全体量基準で、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%であることがよりさらに好ましい。高周波誘電接着剤層中の導電性物質の含有量が5質量%以下であれば、誘電加熱処理した際に電気絶縁破壊して接着部及び被着体の炭化という不具合を防止し易くなる。
【0046】
・平均粒子径
誘電フィラー(B)のJIS Z 8819−2:2001に準拠し測定される平均粒子径(メディアン径、D50)は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましく、5μm以上であることがよりさらに好ましい。
誘電フィラー(B)のJIS Z 8819−2:2001に準拠し測定される平均粒子径(メディアン径、D50)は、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることがさらに好ましく、20μm以下であることがよりさらに好ましく、15μm以下であることがさらになお好ましい。
誘電フィラー(B)の平均粒子径が小さ過ぎると、高周波印加した際の反転運動が低下するため、誘電加熱接着性が過度に低下し、被着体間の強固な接着が困難となる場合がある。
一方、誘電フィラー(B)の平均粒子径が増大するにつれて、フィラー内部で分極できる距離が大きくなる。そのため、分極の度合いが大きくなり、高周波印加した際の反転運動が激しくなり、誘電加熱接着性が向上する。
したがって、誘電フィラー(B)の平均粒子径が1μm以上であれば、フィラーの種類にもよるが、フィラー内部で分極できる距離が小さくなり過ぎず、分極の度合いが小さくなることを防ぐことができる。そのため、接合に要する時間が過度に長くなることを防止できる。
誘電フィラー(B)の平均粒子径が大き過ぎると、周囲の誘電フィラーとの距離が短いため、その電荷の影響を受けて高周波印加した際の反転運動が低下し、誘電加熱接着性が過度に低下したり、あるいは、被着体間の強固な接着が困難となったりする場合がある。
そのため、誘電フィラー(B)の平均粒子径が50μm以下であれば、誘電加熱接着性が過度に低下すること、並びに被着体間の強固な接着が困難となることを防止できる。誘電フィラー(B)の平均粒子径が50μm以下であれば、高周波誘電接着剤層の成形性が低下することを防止できる。
誘電フィラー(B)としての酸化亜鉛のJIS Z 8819−2:2001に準拠し測定される平均粒子径(メディアン径、D50)は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましく、5μm以上であることがよりさらに好ましい。
誘電フィラー(B)としての酸化亜鉛のJIS Z 8819−2:2001に準拠し測定される平均粒子径(メディアン径、D50)は、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましく、15μm以下であることがよりさらに好ましい。
なお、誘電フィラー(B)の平均粒子径は、高周波誘電接着剤層の厚さよりも小さい値であることが好ましい。
誘電フィラーの平均粒子径としての体積平均粒子径は、次のような方法によって測定される。レーザー回折・散乱法により、誘電フィラーの粒度分布測定を行い、粒度分布測定の結果からJIS Z 8819−2:2001に準じて体積平均粒子径を算出する。
【0047】
・体積含有率
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートは、誘電フィラー(B)を、高周波誘電接着剤層中に3体積%以上含有することが好ましく、10体積%以上含有することがより好ましく、15体積%以上含有することがさらに好ましい。
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートは、誘電フィラー(B)を、高周波誘電接着剤層中に50体積%以下含有することが好ましく、40体積%以下含有することがより好ましく、35体積%以下含有することがさらに好ましく、25体積%以下含有することがよりさらに好ましい。
誘電フィラー(B)の体積含有率が、3体積%以上であれば、誘電加熱処理の際に発熱性が乏しくなることを防止できる。その結果、熱可塑性樹脂(A)の溶融性が過度に低下して強固な接着力が得られないという不具合を防止できる。
誘電フィラー(B)の体積含有率が、50体積%以下であれば、誘電加熱処理の際に、高周波誘電加熱接着シートの流動性が低下したり、高周波を印加した際に電極間で通電したりすることを防止し易い。また、誘電フィラー(B)の体積含有率が、50体積%以下であれば、高周波誘電加熱接着シートの製膜性、フレキシブル性及び靭性の低下を防止し易い。
【0048】
なお、本実施形態に係る高周波誘電接着剤層は、熱可塑性樹脂(A)及び誘電フィラー(B)を含んでいるため、熱可塑性樹脂(A)及び誘電フィラー(B)の合計体積に対して、誘電フィラー(B)を3体積%以上含有していることが好ましく、10体積%以上含有していることがより好ましく、15体積%以上含有していることがさらに好ましい。
本実施形態に係る高周波誘電接着剤層は、熱可塑性樹脂(A)及び誘電フィラー(B)の合計体積に対して、誘電フィラー(B)を50体積%以下含有していることが好ましく、40体積%以下含有していることがより好ましく、35体積%以下含有していることがさらに好ましく、25体積%以下含有していることがよりさらに好ましい。
【0049】
・質量部数
本実施形態に係る高周波誘電接着剤層は、誘電フィラー(B)を、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、5質量部以上含有することが好ましく、10質量部以上含有することがより好ましく、20質量部以上含有することがさらに好ましく、40質量部以上含有することがよりさらに好ましく、60質量部以上含有することがさらになお好ましい。
本実施形態に係る高周波誘電接着剤層は、誘電フィラー(B)を、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、300質量部以下含有することが好ましく、250質量部以下含有することがより好ましく、200質量部以下含有することがさらに好ましく、150質量部以下含有することがよりさらに好ましく、100質量部以下含有することがさらになお好ましい。
誘電フィラー(B)の質量部数が、5質量部以上であれば、誘電加熱処理の際に発熱性が乏しくなることを防止できる。その結果、熱可塑性樹脂(A)の溶融性が過度に低下して強固な接着力が得られないという不具合を防止できる。
誘電フィラー(B)の質量部数が、300質量部以下であれば、誘電加熱処理の際に、高周波誘電加熱接着シートの流動性が低下したり、高周波を印加した際に電極間で通電したりすることを防止し易い。また、誘電フィラー(B)の質量部数が、300質量部以下であれば、高周波誘電加熱接着シートの製膜性、フレキシブル性及び靭性の低下を防止し易い。
【0050】
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートにおいては、高周波誘電接着剤層の全体質量に対して、熱可塑性樹脂(A)及び誘電フィラー(B)の合計質量は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。
【0051】
<添加剤(C)>
本実施形態に係る高周波誘電接着剤層は、添加剤を含んでいてもよいし、添加剤を含んでいなくてもよい。
【0052】
本実施形態に係る高周波誘電接着剤層が添加剤を含む場合、添加剤としては、例えば、粘着付与剤、可塑剤、ワックス、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、カップリング剤、粘度調整剤、有機充填剤及び無機充填剤等が挙げられる。添加剤としての有機充填剤及び無機充填剤は、B成分としての誘電フィラーとは異なる。
【0053】
粘着付与剤及び可塑剤は、高周波誘電接着剤層の溶融特性及び接着特性を改良することができる。
粘着付与剤としては、例えば、ロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂の水素化物、テルペンフェノール樹脂、クマロン・インデン樹脂、脂肪族石油樹脂、芳香族石油樹脂及び芳香族石油樹脂の水素化物が挙げられる。
可塑剤としては、例えば、石油系プロセスオイル、天然油、二塩基酸ジアルキル及び低分子量液状ポリマーが挙げられる。石油系プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル及び芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。天然油としては、例えば、ひまし油及びトール油等が挙げられる。二塩基酸ジアルキルとしては、例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ−2−エチルへキシル及びアジピン酸ジブチル等が挙げられる。低分子量液状ポリマーとしては、例えば、液状ポリブテン及び液状ポリイソプレン等が挙げられる。
【0054】
本実施形態に係る高周波誘電接着剤層が添加剤を含む場合、高周波誘電接着剤層は、通常、高周波誘電接着剤層の全体量基準で、添加剤を0.01質量%以上含有することが好ましく、0.05質量%以上含有することがより好ましく、0.1質量%以上含有することがさらに好ましい。また、本実施形態に係る高周波誘電接着剤層が添加剤を含む場合、高周波誘電接着剤層は、高周波誘電接着剤層の全体量基準で、添加剤を20質量%以下含有することが好ましく、15質量%以下含有することがより好ましく、10質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0055】
<高周波誘電接着剤層の成形方法>
本実施形態に係る高周波誘電接着剤層は、前述の各成分(熱可塑性樹脂(A)及び誘電フィラー(B)。必要に応じてさらに添加剤(C))を予備混合し、公知の混練装置を用いて混練し、公知の成形方法により製造できる。混練装置としては、例えば、押出機及び熱ロール等が挙げられる。成形方法としては、例えば、押出成形、カレンダー成形、インジェクション成形及びキャスティング成形等が挙げられる。
【0056】
<高周波誘電加熱接着シートの形態及び特性>
次に、高周波誘電加熱接着層の形態、並びに表面自由エネルギー及び融点以外の特性について、説明する。
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートが、高周波誘電接着剤層の一層のみからなる場合は、高周波誘電加熱接着シートの形態及び特性は、高周波誘電接着剤層の形態及び特性に相当する。
【0057】
被着体の融点T1と、高周波誘電接着剤層の融点T2との差(T1−T2)は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましく、40℃以上であることがよりさらに好ましい。
被着体の融点T1と、高周波誘電接着剤層の融点T2との差(T1−T2)は、90℃以下であることが好ましく、75℃以下であることがより好ましく、60℃以下であることがさらに好ましい。
【0058】
なお、被着体が融点の無い材料で構成されている場合は、実施例に記載の方法で測定して得られる被着体の流動開始温度をT1とする。
なお、被着体の融点T1は、被着体が多層構造の場合は、フッ素を含むフッ素含有表面を有し、かつ高周波誘電接着剤層と接する層の融点である。
融点の差(T1−T2)が10℃以上であれば、熱可塑性樹脂が溶融した時の温度による被着体の熱劣化を防止できる。融点の差(T1−T2)が20℃以上であれば、被着体の熱変形をより防止できる。
融点の差(T1−T2)が90℃以下であれば、高周波誘電接着剤層は、被着体に対する良好な接着性を得易い。
【0059】
・引張破断伸度
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートの引張破断伸度は、10%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートの引張破断伸度は、600%以下であることが好ましく、500%以下であることがより好ましく、400%以下であることがさらに好ましい。
高周波誘電加熱接着シートの引張破断伸度が10%以上であれば、高周波誘電加熱接着シートは、被着体の撓みにより高周波誘電加熱接着シートが破壊される不具合を防ぎ易くなる。
高周波誘電加熱接着シートの引張破断伸度が600%以下であれば、成形加工時にシートが伸び過ぎて裁断し難くなるといった不具合の発生を抑制し、シートを良好にハンドリングし易くなる。
本明細書における高周波誘電加熱接着シートの引張破断伸度は、JIS K 7161−1:2014及びJIS K 7127:1999に準拠して測定する。
【0060】
・ヤング率
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートのヤング率は、400MPa以上であることが好ましく、500MPa以上であることがより好ましく、600MPa以上であることがさらに好ましい。
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートのヤング率は、3000MPa以下であることが好ましく、2000MPa以下であることがより好ましく、1300MPa以下であることがさらに好ましい。
高周波誘電加熱接着シートのヤング率が400MPa以上であれば、シートが自立性を有するため、接合時にシートを扱い易い。
高周波誘電加熱接着シートのヤング率が3000MPa以下であれば、高周波誘電加熱接着シートは、被着体の撓みに追従し易い。
本明細書における高周波誘電加熱接着シートのヤング率は、JIS K 7161−1:2014及びJIS K 7127:1999に準拠して測定する。
【0061】
・密度
高周波誘電加熱接着シートの密度は、1.5g/cm以上であることが好ましく、1.8g/cm以上であることがより好ましく、2.0g/cm以上であることがさらに好ましく、2.2g/cm以上であることがよりさらに好ましい。
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートの密度は、3.5g/cm以下であることが好ましく、3.3g/cm以下であることがより好ましく、3.0g/cm以下であることがさらに好ましく、2.7g/cm以下であることがよりさらに好ましい。
高周波誘電加熱接着シートの密度が1.5g/cm以上であれば、ロール・ツー・ロール方式でシート成形を行う際に、ばたつきを抑制し易くなる。
高周波誘電加熱接着シートの密度が3.5g/cm以下であれば、高周波誘電加熱接着シートの自重による撓みを防止し、被着体との接合部位における剥離のきっかけが生じることを防止し易い。
高周波誘電加熱接着シートの密度が3.5g/cm以下であれば、構造体の重量の増加を抑制できるため、被着体と高周波誘電加熱接着シートとを接合した構造体を用いた施工時の作業性を向上させ易い。
高周波誘電加熱接着シートの密度は、JIS K 7112:1999のA法(水中置換法)に準じて測定できる。
【0062】
・流動開始温度
高周波誘電接着剤層の流動開始温度は、150℃以上であることが好ましく、165℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましい。
高周波誘電接着剤層の流動開始温度は、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、260℃以下であることがさらに好ましく、240℃以下であることが特に好ましい。
高周波誘電接着剤層の流動開始温度が150℃以上であれば、良好な耐熱性を得易い。
高周波誘電接着剤層の流動開始温度が300℃以下であれば、短時間で良好な接着性を得易い。
高周波誘電接着剤層の流動開始温度の測定方法は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0063】
・厚さ
本実施形態に係る高周波誘電接着剤層の厚さは、通常、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることがさらに好ましい。
本実施形態に係る高周波誘電接着剤層の厚さは、2,000μm以下であることが好ましく、1,000μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることがさらに好ましい。
高周波誘電接着剤層の厚さが10μm以上であれば、被着体に対する接着力が急激に低下することを防止できる。また、高周波誘電接着剤層の厚さが10μm以上であれば、被着体の接着面に凹凸がある場合、高周波誘電接着剤層が当該凹凸に追従可能になり、接着強度が発現し易くなる。
高周波誘電接着剤層の厚さが2,000μm以下であれば、長尺物として、ロール状に巻いたり、ロール・ツー・ロール方式に適用したりすることもできる。また、抜き加工などの次工程で高周波誘電加熱接着シートの取り扱いが容易となる。また、高周波誘電接着剤層の厚さが増すほど接着構造体(構造体)全体の重量も増加するため、使用上問題の生じない範囲の厚さであることが好ましい。
【0064】
・誘電特性(tanδ/ε’)
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートの誘電特性としての誘電正接(tanδ)及び誘電率(ε’)は、JIS C 2138:2007に準拠して測定することもできるが、インピーダンスマテリアル法に準じて、簡便かつ正確に測定することができる。
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートの誘電特性(tanδ/ε’)は、0.005以上であることが好ましく、0.008以上であることがより好ましく、0.01以上であることがさらに好ましい。
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートの誘電特性(tanδ/ε’)は、0.05以下であることが好ましく、0.03以下であることがより好ましい。誘電特性(tanδ/ε’)は、インピーダンスマテリアル装置等を用いて測定される誘電正接(tanδ)を、インピーダンスマテリアル装置等を用いて測定される誘電率(ε’)で除した値である。
高周波誘電加熱接着シートの誘電特性が、0.005以上であれば、誘電加熱処理をした際に、所定の発熱をせずに被着体と強固に接着することが困難となるという不具合を防止し易い。
高周波誘電加熱接着シートの誘電特性が、0.05以下であれば、高周波を印加する接合時に、被着体の損傷を防ぎ易い。
なお、高周波誘電加熱接着シートの誘電特性の測定方法の詳細は、次の通りである。所定大きさに切断した高周波誘電加熱接着シートについて、インピーダンスマテリアルアナライザE4991(Agilent社製)を用いて、23℃における周波数40.68MHzの条件下、誘電率(ε’)及び誘電正接(tanδ)をそれぞれ測定し、誘電特性(tanδ/ε’)の値を算出する。
【0065】
・メルトフローレート
本実施形態に係る高周波誘電接着剤層のメルトフローレート(Melt flow rate,MFR)は、1g/10分以上であることが好ましく、3g/10分以上であることがより好ましく、5g/10分以上であることがさらに好ましく、7g/10分以上であることがよりさらに好ましく、10.0g/10分以上であることが特に好ましい。
本実施形態に係る高周波誘電接着剤層のメルトフローレートは、85g/10分以下であることが好ましく、55g/10分以下であることがより好ましく、40g/10分以下であることがさらに好ましく、20g/10分以下であることがよりさらに好ましい。
高周波誘電接着剤層のMFRが1g/10分以上であれば、流動性が維持でき、膜厚精度が得られ易い。
高周波誘電接着剤層のMFRが85g/10分以下であれば、造膜性が得られ易い。
高周波誘電接着剤層のMFRは、後述する実施例の項目において説明する方法により測定できる。
【0066】
・軟化温度
高周波誘電加熱接着シートの軟化温度は、140℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましく、200℃以上であることがよりさらに好ましい。
高周波誘電加熱接着シートの軟化温度は、300℃以下であることが好ましく、260℃以下であることがより好ましく、240℃以下であることがさらに好ましく、220℃以下であることがよりさらに好ましい。
高周波誘電加熱接着シートの軟化温度が、140℃以上であれば、高周波誘電接着剤層の耐熱性を向上させ易い。本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートと被着体とを接合させて得た構造体を屋外に設置した場合、真夏のように高温環境下でも、被着体と高周波誘電加熱接着シートとの接合状態を確保し易い。
高周波誘電加熱接着シートの軟化温度が、300℃以下であれば、短時間で安定した接合強度が得られ易くなる。
【0067】
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートは、フッ素含有表面を有する被着体に接合するために用いられる。本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートを用いて被着体を接合することで、例えば、構造体を製造できる。
【0068】
<構造体>
図1には、本実施形態の第1態様に係る構造体1を示す断面概略図が示されている。
本実施形態の第1態様に係る構造体1は、第1被着体21と、高周波誘電加熱接着シート10と、第2被着体22と、を有する。構造体1は、第1被着体21と第2被着体22との間に高周波誘電加熱接着シート10を含む。構造体1は、高周波誘電加熱接着シート10によって第1被着体21及び第2被着体22を接合して得られる接合体である。
高周波誘電加熱接着シート10は、前述の本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートを用いることができる。
第1被着体21及び第2被着体22は、前述の本実施形態に係る被着体である。第1被着体21は、フッ素含有表面21A(第1のフッ素含有表面)を有する。第2被着体22は、フッ素含有表面22A(第2のフッ素含有表面)を有する。第1被着体21及び第2被着体22の形状は、図1においては、シート状であるが、本発明に係る高周波誘電加熱接着シートは、このような形状に限定されない。
【0069】
構造体1は、耐候性、防汚性、耐薬品性及び耐熱性の少なくともいずれかの性能が要求される用途に使用できる。構造体1の用途は、特に限定されないが、例えば、屋外に設置される用途であることが好ましい。
【0070】
<接合方法>
被着体は、誘電加熱処理によって接合することが好ましく、下記工程(P1)及び工程(P2)を含む接合方法によって接合することがより好ましい。
工程(P1):被着体のフッ素含有表面と、高周波誘電接着剤層と、を当接させる工程。
工程(P2):高周波誘電接着剤層に高周波を印加して、フッ素含有表面に高周波誘電加熱接着シートを接合する工程。
【0071】
工程(P1)は、高周波誘電加熱接着シートを、所定場所に配置する工程である。本実施形態においては、工程(P1)は、第1被着体21と第2被着体22との間に、高周波誘電加熱接着シート10を挟持する工程である。第1被着体21及び第2被着体22の全体がフッ素を含む材料で構成されていれば、第1被着体21及び第2被着体22の表面が、フッ素含有表面21A及びフッ素含有表面22Aに相当する。また、第1被着体21及び第2被着体22がフッ素を含む材料で構成される部位と、フッ素を含まない材料で構成される部位とを有する場合、フッ素含有表面21A及びフッ素含有表面22Aを互いに向かい合わせて、フッ素含有表面21Aとフッ素含有表面22Aとの間で高周波誘電加熱接着シート10を挟持する。
【0072】
高周波誘電加熱接着シート10は、第1被着体21と第2被着体22とを接合できるように、第1被着体21と第2被着体22の間に挟持すればよい。高周波誘電加熱接着シート10は、第1被着体21と第2被着体22との間の一部において、複数箇所において又は全面において挟持すればよい。第1被着体21と第2被着体22との接合強度を向上させる観点から、第1被着体21と第2被着体22との接合面全体に亘って高周波誘電加熱接着シート10を挟持することが好ましい。また、第1被着体21と第2被着体22との間の一部において高周波誘電加熱接着シート10を挟持する一態様としては、第1被着体21と第2被着体22との接合面の外周に沿って高周波誘電加熱接着シート10を枠状に配置して、第1被着体21と第2被着体22との間で挟持する態様が挙げられる。このように高周波誘電加熱接着シート10を枠状に配置することで、第1被着体21と第2被着体22との接合強度を得るとともに、接合面全体に亘って高周波誘電加熱接着シート10を配置した場合に比べて構造体1を軽量化できる。また、第1被着体21と第2被着体22との間の一部に高周波誘電加熱接着シート10を挟持する一態様によれば、用いる高周波誘電加熱接着シート10のサイズを小さくできるため、接合面全体に亘って高周波誘電加熱接着シート10を配置した場合に比べて高周波誘電加熱処理時間を短縮できる。
【0073】
工程(P2)は、第1被着体21と第2被着体22との間に挟持した、高周波誘電加熱接着シート10に対して、誘電加熱接着装置を用いて、誘電加熱処理を行う工程である。
次に、工程(P2)において使用する誘電加熱接着装置及びその誘電加熱処理の条件について、説明する。ここでは、構造体1を製造する例を挙げて説明する。
【0074】
<誘電加熱接着装置>
図2には、誘電加熱接着装置100の概略図が示されている。
誘電加熱接着装置100は、第1高周波印加電極160と、第2高周波印加電極180と、高周波電源200と、を備えている。
第1高周波印加電極160と、第2高周波印加電極180とは、互いに対向配置されている。第1高周波印加電極160及び第2高周波印加電極180は、プレス機構を有している。このプレス機構により、第1被着体21、高周波誘電加熱接着シート10及び第2被着体22を、第1高周波印加電極160と第2高周波印加電極180との間で加圧処理できる。
【0075】
第1高周波印加電極160と第2高周波印加電極180とが互いに平行な1対の平板電極を構成している場合、このような電極配置の形式を平行平板タイプと称する場合がある。
高周波の印加には平行平板タイプの高周波誘電加熱装置を用いることも好ましい。平行平板タイプの高周波誘電加熱装置であれば、高周波が電極間に位置する高周波誘電加熱接着シートを貫通するので、高周波誘電加熱接着シート全体を暖めることができ、被着体と高周波誘電加熱接着シートとを短時間で接着できる。
【0076】
第1高周波印加電極160及び第2高周波印加電極180のそれぞれに、例えば、周波数27.12MHz程度又は周波数40.68MHz程度の高周波を印加するための高周波電源200が接続されている。
誘電加熱接着装置100は、図2に示すように、第1被着体21及び第2被着体22との間に挟持した高周波誘電加熱接着シート10を介して、誘電加熱処理する。さらに、誘電加熱接着装置100は、誘電加熱処理に加えて、第1高周波印加電極160及び第2高周波印加電極180による加圧処理によって、第1被着体21と第2被着体22とを接着する。
【0077】
第1高周波印加電極160及び第2高周波印加電極180の間に、高周波電界を印加すると、第1被着体21及び第2被着体22の重ね合わせ部分において、高周波誘電加熱接着シート10における接着剤成分中に分散された誘電フィラー(図示せず)が、高周波エネルギーを吸収する。
そして、B成分としての誘電フィラーは、発熱源として機能し、誘電フィラーの発熱によって、A成分としての熱可塑性樹脂成分を溶融させ、短時間処理であっても、最終的には、第1被着体21と第2被着体22とを強固に接着できる。
【0078】
第1高周波印加電極160及び第2高周波印加電極180は、プレス機構を有することから、プレス装置としても機能する。そのため、第1高周波印加電極160及び第2高周波印加電極180による圧縮方向への加圧及び高周波誘電加熱接着シート10の加熱溶融によって、第1被着体21と第2被着体22とをより強固に接着できる。
【0079】
<高周波誘電加熱接着条件>
高周波誘電加熱接着条件は、適宜変更できるが、以下の条件であることが好ましい。
【0080】
高周波出力は、10W以上であることが好ましく、50W以上であることがより好ましく、100W以上であることがさらに好ましい。
高周波出力は、50,000W以下であることが好ましく、20,000W以下であることがより好ましく、15,000W以下であることがさらに好ましく、10,000W以下であることがよりさらに好ましく、1,000W以下であることがさらになお好ましい。
高周波出力が10W以上であれば、誘電加熱処理によって、温度が上昇し難く、良好な接着力が得られないという不具合を防ぎ易い。
高周波出力が50,000W以下であれば、誘電加熱処理による温度制御が困難となる不具合を防ぎ易い。
【0081】
高周波の印加時間は、1秒以上であることが好ましい。
高周波の印加時間は、60秒以下が好ましく、45秒以下がより好ましく、35秒以下であることがさらに好ましく、25秒以下であることがよりさらに好ましく、10秒以下であることがさらになお好ましい。
高周波の印加時間が1秒以上であれば、誘電加熱処理によって、温度が上昇し難く、良好な接着力が得られないという不具合を防ぎ易い。
高周波の印加時間が60秒以下であれば、構造体の製造効率が低下したり、製造コストが高くなったり、さらには、被着体が熱劣化するといった不具合を防ぎ易い。
【0082】
印加する高周波の周波数は、1kHz以上であることが好ましく、1MHz以上であることがより好ましく、5MHz以上であることがさらに好ましく、10MHz以上であることがよりさらに好ましい。
印加する高周波の周波数は、300MHz以下であることが好ましく、100MHz以下であることがより好ましく、80MHz以下であることがさらに好ましく、50MHz以下であることがよりさらに好ましい。具体的には、国際電気通信連合により割り当てられた工業用周波数帯13.56MHz、27.12MHz又は40.68MHzが、本実施形態の高周波誘電加熱接着方法(接合方法)にも利用される。
【0083】
(第1実施形態の効果)
フッ素系樹脂は、極性が極めて低いため、通常の接着剤又は熱融着シートではフッ素を含有する被着体を接合することができない。また、フッ素系樹脂の誘電特性が低いため、通常のウェルダー加工でもフッ素を含有する被着体を接合できない。
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートを、フッ素含有表面を有する被着体との接合に用いることで、被着体表面への前処理を行わなくとも強固に接合できる。
【0084】
また、高周波誘電加熱接着層の融点と被着体の融点との差が所定値以上になるようにA成分を選択することで、被着体への熱による損傷も抑制できる。
【0085】
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートは、塗布が必要な接着剤を用いる場合と比べて、取り扱い易く、被着体との接合時の作業性も向上する。本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートは、短時間の高周波印加により被着体と接合できる。
【0086】
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートは、一般的な粘着剤に比べて、耐水性及び耐湿性が優れる。
【0087】
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートは、溶剤を含有しないため、被着体との接合に用いる接着剤に起因するVOC(Volatile Organic Compounds)の問題が発生し難い。そのため、本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートを被着体との接合に用いた構造体は、建築物等に適している。
【0088】
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートは、高周波誘電加熱により加熱されるため、被着体の高周波誘電加熱接着シートと接する表面側が局所的に加熱されるだけである。それゆえ、本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートによれば、被着体との接合時に被着体全体が溶融するという問題を解消できる。
【0089】
本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートを用いた接着方法によれば、誘電加熱接着装置によって、外部から、所定箇所のみを局所的に加熱することができる。そのため、被着体が、大型で且つ複雑な立体構造体又は厚さが大きく且つ複雑な立体構造等であり、さらに高い寸法精度を求められる場合でも、本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートを用いた接合方法は、有効である。
【0090】
また、本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートによれば、高周波誘電加熱接着シートの厚さなどを適宜制御できる。そのため、本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートをロール・ツー・ロール方式に適用することもでき、かつ、抜き加工等により、被着体との接着面積、並びに被着体の形状に合わせて、高周波誘電加熱接着シートを任意の面積及び形状に加工できる。そのため、本実施形態に係る高周波誘電加熱接着シートは、製造工程の観点からも、利点が大きい。
【0091】
〔実施形態の変形〕
本発明は、前記実施形態に限定されない。本発明は、本発明の目的を達成できる範囲での変形及び改良等を含むことができる。
【0092】
高周波誘電加熱接着シートは、粘着部を有していてもよい。粘着部を有することで、被着体と被着体との間に高周波誘電加熱接着シートを挟持する際に、位置ずれを防止して、正確な位置に配置できる。粘着部は、高周波誘電接着剤層の一方の面に設けてもよいし、両面に設けてもよい。また、粘着部は、高周波誘電接着剤層の面に対して、全面に設けられていても良いし、部分的に設けられていてもよい。
【0093】
また、仮固定用の孔及び突起等が、高周波誘電加熱接着シートの一部に設けられていてもよい。仮固定用の孔及び突起等を有することで、高周波誘電加熱接着シートを被着体に貼り合わせる際に、位置ずれを防止して、正確な位置に配置できる。
【0094】
高周波誘電加熱接着シートを用いた接合方法においては、被着体と、当該被着体とは異なる別の被着体とを高周波誘電接着剤層を介して接合することも好ましい。この場合、当該別の被着体も、表面に少なくともフッ素を含むフッ素含有表面を有することが好ましい。被着体と別の被着体との組合せとしては、例えば、前述の実施形態における第1被着体と第2の被着体との組合せ、又は第1被着体、第2被着体及び第3被着体からなる組合せ等が挙げられる。接合方法は、4以上の被着体についても接合できる。
【0095】
高周波誘電加熱接着シートを用いた接合方法によって製造された構造体は、図1に示す態様に限定されない。
例えば、図3に示す構造体2が挙げられる。構造体2は、第1被着体21と第2被着体22との間に高周波誘電加熱接着シート10を挟持した構造体1とは異なり、第1被着体21及び第2被着体22を、第1高周波誘電加熱接着シート11と第2高周波誘電加熱接着シート12とで挟持した構造を有する。第1高周波誘電加熱接着シート11及び第2高周波誘電加熱接着シート12としては、第1実施形態で説明した高周波誘電加熱接着シートを用いることが好ましい。
構造体2は、次のようにして製造できる。第1被着体21のフッ素含有表面21A及び第2被着体22のフッ素含有表面22Aを外側に向けた状態で重ね合わせ、フッ素含有表面21A側に第1高周波誘電加熱接着シート11を貼り合せ、フッ素含有表面22A側に第2高周波誘電加熱接着シート12を貼り合せて、高周波を印加することにより、構造体2を製造できる。
【0096】
高周波誘電加熱接着シートを用いた接合方法に使用される被着体の数は、それぞれ、特に制限されない。
前記実施形態とは異なる態様の被着体の接合構造としては、3つ以上の被着体を接着させた接合構造も挙げられる。例えば、3つの被着体(第1被着体、第2被着体及び第3被着体)を接着させる場合、第1被着体に対向させて、第2被着体及び第3被着体を並べて配置し、第1被着体と第2被着体との間に第1高周波誘電加熱接着シートを挟持し、第1被着体と第3被着体との間に第2高周波誘電加熱接着シートを挟持してもよい。より具体的には、第1被着体に対して、第2被着体及び第3被着体を並べて配置する態様が挙げられる。
または、一つの高周波誘電加熱接着シートを第1被着体及び第2被着体に亘って配置して、第3被着体と、第1被着体及び第2被着体との間で、当該一つの高周波誘電加熱接着シートを挟持してもよい。この場合の例として、図4に示すような構造体3が挙げられる。構造体3は、第1被着体21、第2被着体22及び第3被着体23、並びに高周波誘電加熱接着シート10を有する。高周波誘電加熱接着シート10は、第1被着体21及び第2被着体22に亘って配置されている。さらに、高周波誘電加熱接着シート10のフッ素含有表面21A及びフッ素含有表面22Aに対向する面とは反対側に第3被着体23が配置されている。第3被着体23もフッ素含有表面23A(第3のフッ素含有表面)を有し、フッ素含有表面23Aを高周波誘電加熱接着シート10に向けて第3被着体23が配置されている。構造体3のように、第3被着体23と、第1被着体21及び第2被着体22との間で、1つの高周波誘電加熱接着シート10が挟持された構造であれば、第1被着体21及び第2被着体22を強固に連結できる。また、例えば、1つの被着体が2つに分裂してしまった場合には、補修用に第3被着体に相当する部材を用いて分裂してしまった被着体同士(第1被着体及び第2被着体)を接合するといった接合方法でもよい。また、被着体に欠損部が生じてしまった場合に、補修用に第3被着体に相当する部材を用いて当該欠損部を覆うために第3被着体を接合するといった接合方法も挙げられる。
【0097】
高周波誘電加熱処理は、前記実施形態で説明した電極を対向配置させた誘電加熱接着装置に限定されず、格子電極タイプの高周波誘電加熱装置を用いてもよい。格子電極タイプの高周波誘電加熱装置は、一定間隔ごとに第1の電極と、第1の電極とは反対極性の第2の電極とを同一平面上に交互に配列した格子電極を有する。
例えば、図1に示すような構造体1を製造する場合は、第1被着体21側又は第2被着体22側に格子電極タイプの高周波誘電加熱装置を配置して高周波を印加する。
【0098】
格子電極タイプの高周波誘電加熱装置を用いて構造体を製造する際に、構造体の両面側に格子電極(第1の格子電極及び第2の格子電極)をそれぞれ配置し、両面側から同時に高周波を印加してもよい。
例えば、構造体1を製造する場合、第1被着体21側に第1の格子電極を配置し、第2被着体22側に第2の格子電極を配置して、同時に高周波を印加してもよい。
【0099】
格子電極タイプの高周波誘電加熱装置を用いて構造体を製造する際に、構造体の一方の面側に格子電極を配置し、高周波を印加し、その後、構造体の他方の面側に格子電極を配置し、高周波を印加してもよい。
例えば、構造体1を製造する場合、第1被着体21側に格子電極を配置し、高周波を印加し、その後、第2被着体22側に格子電極を配置して、高周波を印加してもよい。
【0100】
高周波の印加には格子電極タイプの高周波誘電加熱装置を用いることも好ましい。格子電極タイプの高周波誘電加熱装置を用いることで、構造体の厚さの影響を受けず、構造体の表層側、例えば、高周波誘電加熱接着シートまでの距離が近い表層側から誘電加熱により被着体同士を接着できる。また、格子電極タイプの高周波誘電加熱装置を用いることで、構造体の製造の省エネルギー化を実現できる。
【0101】
なお、図においては、簡略化のために電極を対向配置させた誘電加熱接着装置を用いた態様を例示した。
【実施例】
【0102】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれら実施例に何ら限定されない。
【0103】
[高周波誘電加熱接着シートの作製]
[実施例1]
A成分としてフッ素系熱可塑性樹脂(ダイキン工業株式会社製、製品名「ネオフロン EFEP RP−5000」)80.0体積%と、B成分として酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製、製品名「LPZINC11」,平均粒子径:11μm、表1中、ZnOと記載する。)20.0体積%と、をそれぞれ秤量して容器内へ入れた。表1にA成分として用いた樹脂の物性を示し、表2に高周波誘電接着剤層における各成分の配合割合を示す。表2において各成分の配合割合は、体積%で表示した値である。
秤量したA成分及びB成分を容器内で予備混合した。各成分を予備混合した後、30mmΦ二軸押出機のホッパーに供給し、シリンダー設定温度を210℃以上230℃以下、ダイス温度を230℃に設定し、溶融混練した後、ペレタイザーにてペレット状に加工した。
次いで、得られたペレットを、Tダイを設置した単軸押出機のホッパーに投入し、シリンダー温度を230℃、ダイス温度を230℃の条件として、Tダイからシート状溶融混練物を押出し、冷却ロールにて冷却させることにより、厚さ400μmの高周波誘電加熱接着シートを作製した。
【0104】
<高周波接着性>
得られた高周波誘電加熱接着シートを用いて、被着体としての2枚のフッ素樹脂シートを、下記の高周波印加条件にて、接着させて、実施例1の構造体を得た。フッ素樹脂シートは、ダイキン工業株式会社製のネオフロンEF−0100(融点:250℃)を用いた。フッ素樹脂シートのサイズは、25mm×100mm×0.1mmとした。
【0105】
<高周波印加条件>
フッ素樹脂シートとフッ素樹脂シートとの間に、得られた高周波誘電加熱接着シートを挟持して、高周波誘電加熱装置(山本ビニター株式会社製、YRP−400T−A)の電極間に固定した状態で、周波数40.68MHz、出力400Wの条件下で、高周波を20秒印加して、試験片を作製した。
【0106】
[実施例2〜6]
A成分の種類及び配合量、B成分の配合量、並びに高周波誘電加熱接着シートの厚さを下記表2に記載の通り変更し、混練及び製膜時の温度を適宜調整したこと以外、実施例1と同様にして、実施例2〜6の構造体(試験片)を得た。
実施例6のA成分としては、AGC株式会社製、製品名「AH−2000」を用いた。
【0107】
[比較例1]
A成分の種類を下記表2に記載の通り変更し、混練及び製膜時の温度を適宜調整したこと以外、実施例1と同様にして、比較例1の構造体(試験片)を得た。
比較例1では、エチレン−酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル株式会社製、エバフレックスEV560)を熱可塑性樹脂として用いた。
【0108】
[高周波誘電加熱接着シートの評価]
(接着性テスト(引張せん断力))
万能引張試験機(インストロン社製、インストロン5581)を用い、引張速度100mm/分の条件で、前述の<高周波接着性>で得られた試験片につき、引張せん断力を測定した。さらに、引張せん断力の測定における試験片の破壊モードを観察し、下記基準に沿って、接着力を評価した。引張せん断力の測定は、JIS K 6850:1999に準拠した。
材料破壊又は界面破壊(0.1MPa以上)であった場合を「A」と評価し、それ以外の場合を「F」と評価した。
【0109】
(表面自由エネルギー)
高周波誘電接着剤層の表面自由エネルギー(mJ/m2)は、各種液滴の接触角(測定温度:25℃)を測定し、その接触角の値をもとに北崎・畑法により求めた。
ジヨードメタン、1−ブロモナフタレン、及び蒸留水を液滴として使用し、協和界面科学(株)製、DM−70を用いて、静滴法により、JIS R 3257:1999に準拠して接触角(測定温度:25℃)を測定し、その接触角の値に基づいて北崎・畑法により、表面自由エネルギー(mJ/m2)を求めた。
【0110】
(引張破断伸度及びヤング率)
上記実施例および比較例で製造した高周波誘電加熱接着シートを15mm(TD方向)×150mm(MD方向)の試験片に裁断し、JIS K 7161−1:2014及びJIS K 7127:1999に準拠して、23℃における引張破断伸度(%)及びヤング率(MPa)を測定した。具体的には、上記試験片を、引張試験機(株式会社島津製作所製,オートグラフAG−IS 500N)にて、チャック間距離100mmに設定した後、200mm/分の速度で引張試験を行い、引張破断伸度(%)及びヤング率(MPa)を測定した。
【0111】
(軟化温度及び流動開始温度)
実施例及び比較例で使用した熱可塑性樹脂又は実施例および比較例で製造した高周波誘電加熱接着シートの軟化温度及び流動開始温度を、降下式フローテスター(株式会社島津製作所製,型番「CFT−100D」)を用いて測定した。荷重5kgとし、穴形状がφ2.0mm、長さが5.0mmのダイを使用し、内径が11.329mmのシリンダーを使用し、測定試料の温度を昇温速度10℃/分で上昇させながら、昇温とともに変動するストローク変位速度(mm/分)を測定して、試料のストローク変位速度の温度依存性チャートを得た。このチャートにおいて、低温側に得られるピークトップの温度を軟化温度とした。
また、軟化温度のピークを経過した後、再度ストローク変位速度が上昇し始める温度を流動開始温度とした。
【0112】
(メルトフローレート)
測定試料のMFRは、JIS K 7210−1:2014に記載の試験条件を下記のとおり変更して測定した。
・試験温度:230℃
・荷重:5kg
・ダイ:穴形状φ2.0mm、長さ5.0mm
・シリンダー径:11.329mm
【0113】
(融点)
JIS K 7121:2012に準じて、示差走査熱量計(DSC ティー・エイ・インスツルメンツ社製,製品名「Q2000」)を用いて融点を測定した。
具体的には、まず、昇温速度20℃/分で常温から250℃まで加熱し、250℃で10分間保持し、降温速度20℃/分で−60℃まで低下させ、−60℃で10分間保持した。その後、再び昇温速度20℃/分で250℃まで加熱してDSC曲線を得て、融点を測定した。
【0114】
(密度)
JIS K 7112:1999のA法(水中置換法)に準じて、高周波誘電加熱接着シート及び熱可塑性樹脂の密度(g/cm)を測定した。
【0115】
(誘電特性)
作製した高周波誘電加熱接着シートを、30mm×30mmの大きさに切断した。切断した高周波誘電加熱接着シートについて、インピーダンスマテリアルアナライザE4991(Agilent社製)を用いて、23℃における周波数40.68MHzの条件下、誘電率(ε’)及び誘電正接(tanδ)をそれぞれ測定した。測定結果に基づき、誘電特性(tanδ/ε’)の値を算出した。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
実施例1〜6に係る高周波誘電加熱接着シートによれば、比較例1に係るシートに比べて、フッ素樹脂シート同士を強固に接合できることが分かった。
さらに、実施例1〜5に係る高周波誘電加熱接着シートによれば、試験片を作製した際に被着体であるフッ素樹脂シートの変形が生じなかった。実施例6に係る高周波誘電加熱接着シートを用いて試験片を作製した際にフッ素樹脂シートの変形が生じた。
【符号の説明】
【0119】
1…構造体、10…高周波誘電接着剤層(高周波誘電加熱接着シート)、11…第1高周波誘電加熱接着シート、12…第2高周波誘電加熱接着シート、2…構造体、21…第1被着体、21A…フッ素含有表面、22…第2被着体、22A…フッ素含有表面、23…第3被着体、23A…フッ素含有表面、3…構造体。
【要約】
被着体(21,22)と高周波誘電加熱接着シートとを接合させる接合方法であって、被着体(21,22)は、表面に少なくともフッ素を含むフッ素含有表面(21A,22A)を有し、高周波誘電加熱接着シートは、高周波誘電接着剤層(10)を有し、高周波誘電接着剤層(10)は、熱可塑性樹脂(A)と誘電フィラー(B)とを含有し、高周波誘電接着剤層(10)の表面自由エネルギーは、15mJ/m以上、30mJ/m以下であり、高周波誘電接着剤層(10)の融点は、110℃以上、300℃以下であり、被着体(21,22)のフッ素含有表面(21A,22A)と高周波誘電接着剤層(10)とを当接させる工程と、高周波誘電接着剤層(10)に高周波を印加して、フッ素含有表面(21A,22A)に高周波誘電加熱接着シートを接合する工程と、を有する、接合方法。
図1
図2
図3
図4