特許第6796779号(P6796779)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796779
(24)【登録日】2020年11月19日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】乾湿計
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/62 20060101AFI20201130BHJP
   G01W 1/11 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   G01N25/62 E
   G01W1/11 C
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-149704(P2016-149704)
(22)【出願日】2016年7月29日
(65)【公開番号】特開2018-17669(P2018-17669A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 航太
(72)【発明者】
【氏名】松井 大
(72)【発明者】
【氏名】桑木 康之
(72)【発明者】
【氏名】小川 修
(72)【発明者】
【氏名】黒田 遼
【審査官】 佐々木 龍
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−055371(JP,A)
【文献】 特開平01−152350(JP,A)
【文献】 米国特許第04559823(US,A)
【文献】 特開昭62−011155(JP,A)
【文献】 特開昭52−106153(JP,A)
【文献】 特開2001−004503(JP,A)
【文献】 Lewis Greenspan,Heated Air Adiabatic Saturation Psychrometer,Journal of Research of the National Bureau of Standards-C. Engineering and Instrumentaion,1971年,Vol.75C, No.2,p.69-78
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00−25/72
G01W 1/00− 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾球温度を測定する測定部と、
収容空間内に前記測定部を収容する筒状の測定容器と、
一端が外気に開放され、他端が前記収容空間内において当該収容空間の中心軸から偏心する方向に向けて配設された吸込管と、
前記測定部を収容する筒状の内管と、備え、
前記内管は、前記収容空間内に配設され、前記収容空間内に吸い込んだ外気を吸引する吸引口と、当該吸引口から吸引された外気を吐出する吐出口とを有し、
前記吸込管の他端は、前記収容空間の中心軸に沿った方向において前記内管の吸引口から離れた位置に設けられ、
前記吸込管の他端から前記測定容器内に流出する外気は、前記測定容器の内面に沿って、螺旋状に通流して、当該外気に含まれるミストが水滴として分離された後に、前記内管の前記吸引口に流入する、
乾湿計。
【請求項2】
外気を排出する排出口を有し、前記測定容器を収容する筒状の外側容器を更に備え、
前記外側容器は、前記内管の吐出口と連通し、当該吐出口から吐出された外気を前記測定容器の外面と当該外側容器の内面との間に導き、前記排出口から排出する
請求項1に記載の乾湿計。
【請求項3】
前記外側容器の排出口に接続された吸引ポンプを更に備える請求項2に記載の乾湿計。
【請求項4】
前記測定容器の側面を貫通するように設けられたスリットと、
一端が前記スリットと接続するように、前記測定容器の外面側に配設された排水管と、
前記排水管の他端が接続された排水タンクと、を更に備えた請求項1に記載の乾湿計。
【請求項5】
前記排水タンクに接続された第2の吸引ポンプを更に備える請求項4に記載の乾湿計。
【請求項6】
前記排水管内に配設され、湿球温度を測定する第2の測定部と、
前記第2の測定部を被覆する吸水材と、
一端が前記吸水材に接続され、他端が前記排水タンクのタンク内に配設された供給管と、
を更に備えた請求項4に記載の乾湿計。
【請求項7】
前記測定容器は、アルミ材又は銅材のいずれかを溶接して構成される、請求項1に記載の乾湿計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾湿計に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、気象の観測や空間の温度および湿度を測定する装置として、測定容器内部に設けられた湿球用温度計および乾球用温度計に測定対象の気体を通風させ、温度を測定する通風乾湿計が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
図1は、特許文献1に記載された環境の温度および湿度を測定する乾湿計である。
【0004】
図1に示すように、特許文献1の乾湿計は、ケーシング91と、ケーシング91に設けられた空気流入口および空気流出口を有する通風路92と、通風路92の内部に設けられた測定環境の乾球温度および湿球温度を測定する測定部93と、測定部93よりも下流に設けられ、通風路92に所定の風量の風を発生させる送風ファン94と、送風ファン94の下流に設けられ、測定部93の電気信号を処理する電子機器95とからなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−301805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の乾湿計においては、送風ファン94の送風によってケーシング91に設けられた通風路92に測定対象の気体を流入させ、測定部93に測定対象の気体を当てることで、測定部93で乾球温度および湿球温度を検出する。尚、測定部93は、検出した乾球温度および湿球温度を電子機器95に電気信号として送信し、これによって乾球温度や湿球温度、あるいは湿度が算出される。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の乾湿計では、滝壺付近や早朝の森林など、測定対象の外気に微細なミストが含まれている環境の場合、高精度な測定が困難となる。
【0008】
具体的には、送風ファン94によってケーシング91の通風路92内部に導かれた微細なミストを含む測定対象の気体は、測定部93を通り通風路92の出口より排出される。この時、測定部93には微細ミストが付着するが、付着したミストは蒸散するため、気化熱冷却により測定部93が測定する温度を低下させる問題が生じる。このように、従来技術に係る乾湿計では、精度よく測定対象の乾球温度および湿度を測定することができないという課題があった。
【0009】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、測定対象の気体に微細ミストが含まれていても、高い精度で気体の乾球温度を測定することができる乾湿計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記従来の課題を解決する本発明は、乾球温度を測定する測定部と、収容空間内に前記測定部を収容する筒状の測定容器と、一端が外気に開放され、他端が前記収容空間内において当該収容空間の中心軸から偏心する方向に向けて配設された吸込管と、を備えた乾湿計である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る乾湿計によれば、気中の微細ミストの影響を受けることなく、気体の乾球温度を高い精度で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来技術に係る乾湿計の概略構成を示す模式図
図2】本発明の第1の実施形態に係る乾湿計の概略構成を示す模式図
図3】本発明の第1の実施形態に係る乾湿計の概略構成を示す断面図
図4】本発明の第2の実施形態に係る乾湿計の概略構成を示す模式図
図5】本発明の第2の実施形態に係る乾湿計の概略構成を示す断面図
図6】本発明の第2の実施形態に係るスリットの形状の一例を示す側面図
図7】本発明の第2の実施形態に係るスリットの形状の一例を示す平面図
図8】本発明の第3の実施形態に係る乾湿計の概略構成を示す模式図
図9】本発明の第3の実施形態に係る乾湿計の概略構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図2は、本発明の第1の実施形態における乾湿計の概略構成を示す模式図である。また、図3は、本発明の第1の実施形態における乾湿計の概略構成の断面図である。図3中に示す矢印は、測定対象の空間から吸い込んだ外気の流れを表す。
【0015】
本実施形態に係る乾湿計は、例えば、通風乾湿計である。この乾湿計は、測定部1と、測定部1を収容する略円筒形状の内管2と、内管2の上面と外面を覆う略円筒形状の測定容器3と、測定容器3を収容し、上面に排出口4aを持つ略円筒形状の外側容器4と、測定容器3の外面に測定容器3の中心軸に対して偏心して挿入され、外側容器4を貫通した吸込管5と、外側容器4の排出口4aに接続されたブロアモータ6と、を備えている。ここで、略円筒形上の内管2、測定容器3、外側容器4の中心軸は、略一致している。
【0016】
以下、各構成の詳細について説明する。
【0017】
測定部1は、乾球温度を測定するセンサである。測定部1は、内管2によって囲繞され、当該内管2の上面に形成された吸引口2aを介して流入した外気の乾球温度を測定する。測定部1としては、例えば、熱電対や水銀温度計等が用いられる。
【0018】
測定容器3は、内管2および測定部1を収容する略円筒形状の容器である。測定容器3は、内面によって、鉛直方向に延びる略円柱状の収容空間を形成する。尚、測定容器3の収容空間は、略密閉状態となっている。
【0019】
測定容器3の収容空間内には、外側面から吸込管5が挿入され、当該吸込管5を介して外気が導入される。また、内管2の上端には、吸引口2aが設けられ、吸込管5を介して導入された外気は、ブロアモータ6の吸引力によって当該吸引口2aから吸引される。換言すると、内管2の内部は、ブロアモータ6の吸引力によって、外気に対して負圧にされた状態となっている。ここで、吸引口2aは、吸込管5が挿入された位置よりも上部に位置するように配設される。
【0020】
吸込管5は、測定容器3の外側面から挿入され、測定対象の空間の外気を測定容器3の収容空間に導入する。吸込管5は、一端が外側容器4の外側に配設され、他端が測定容器3の収容空間内の中心軸から偏心する位置に配設される。
【0021】
吸込管5の他端は、より詳細には、測定容器3の内面が形成する略円柱状の収容空間において、測定容器3の中心軸(当該収容空間の長手方向に垂直な断面である円の中心)から偏心する方向に向けて配設されている。これによって、吸込管5の他端から流出する外気は、測定容器3の内面に沿って、螺旋状に通流することになる。
【0022】
内管2は、測定部1を収容し、測定部1にミストが分離した外気を導入する筒状部材である。内管2は、中心軸の方向が鉛直方向となるように、測定容器3の収容空間の中心軸上に配設されている。
【0023】
内管2の上方側の一端は、吸引口2aを構成し、測定容器3の収容空間内に配設され、測定容器3の収容空間内から外気を吸引する。内管2の下方側の他端は、吐出口2bを構成し、吸引口2aから吸引された外気を吐出する。吐出口2bには、外側容器4が測定容器3を収容する収容空間の下方側に配設され、ブロアモータ6の吸引力によって、吸引口2aから吸引した外気を外側容器4の排出口4aに向けて流通させる。このようにして、内管2の内部に配設された測定部1に外気が導入される。
【0024】
外側容器4は、測定容器3の外面を囲繞し、測定容器3の温度状態を安定させるための外装容器である。ここでは、外側容器4は、測定容器3がミストを含んだ外気に接しないように、当該測定容器3の外面全面を囲繞し、当該測定容器3を収容空間内に収容する。また、外側容器4は、断熱性を向上させるため、当該外側容器4の内面と測定容器3の外面とが接触しないように、測定容器3を収容している。
【0025】
これにより、測定容器3の内部は、測定容器3自体と、外側容器4内にある気体とによって断熱されており、かつ、外側容器4内にある気体は連続的に排出されるので、日射量変化などによる外部容器4外からの熱量変化に影響をうけにくい構成となっている。
【0026】
外側容器4は、上部にブロアモータ6に接続された排出口4aを有し、当該ブロアモータ6の吸引力を利用して、測定容器3の収容空間内の外気を排出する。
【0027】
ブロアモータ6は、外側容器4の排出口4aに接続されて、測定容器3の収容空間内に外気を吸引するとともに、測定容器3の収容空間内の外気を外側容器4から排出させる吸引ポンプである。
【0028】
尚、湿球温度を測定するセンサは、当該乾湿計内に内蔵してもよいし(例えば、図8図9)、当該乾湿計の外部に設けてもよい。また、これらの測定結果から、相対湿度等の演算処理を行ってもよいのは勿論である。
【0029】
以上のように構成された乾湿計について、以下、その動作、作用を説明する。まず、本実施形態に係る乾湿計のミスト分離作用について説明する。
【0030】
測定容器3の収容空間内は、ブロアモータ6によって大気に対して負圧の状態とされている。そのため、当該収容空間内には、測定対象の空間から吸込管5を介して、外気が流入する状態となっている(以下、流入した外気を「吸込気体」と称する)。
【0031】
ここで、吸込管5は、筒状の測定容器3の収容空間の中心軸から偏心して配設されている。従って、吸込気体は、測定容器3の収容空間内を螺旋状に上昇して、内管2の吸引口2aに流入する。この際、流入したミストは、遠心力によって、測定容器3の内面に衝突して水滴となり気体から分離される。つまり、吸込気体は、ミストが分離された気体となって内管2の吸引口2aに流入する。尚、気体から分離された水滴は、測定容器3の底面に落下することになる。
【0032】
一方、内管2を通った気体は、測定部1を通過した後、内管2の下部から排気され、外側容器4の内面と測定容器3の外面から形成される流路を通り、外側容器4の上部から排気される。
【0033】
このように、吸込気体からミストを分離させることによって、測定部1は、外気の乾球温度を正確に測定することができる。
【0034】
次に、本実施形態に係る乾湿計の温度安定化作用について説明する。
【0035】
吸込気体は、測定容器3や内管2を構成する部材と熱交換を行う。例えば、吸込気体は、内管2内にある気体と内管2側面を通じ、また、外側容器4内にある気体と測定容器3側面を通じ熱交換を行う。そのため、測定容器3、または、内管2の温度と、吸込気体の温度との間で温度差があるときには、測定容器3、または、内管2が吸込気体と同じ温度になるまで、測定部1は、測定対象の気体の温度とは異なる温度を測定することになる。そして、測定容器3と内管2の温度が、吸込気体の温度に対して差がある場合でも、吸引口2aから気体が連続的に送り込まれることで、測定容器3と内管2の温度は吸入気体の温度に馴化する。換言すると、測定容器3と内管2の温度が吸込気体の温度に略等しくなるまで、測定部1は、吸込気体の温度を正確に測定することができない。
【0036】
この点、本実施形態に係る乾湿計は、内管2と測定容器3との間の空間に吸込気体を導入し、その後、内管2の内部に吸込気体を導入することにより、内管2、および、測定容器3の温度を吸込気体の温度に早く近づけることができる。
【0037】
また、この乾湿計は、外側容器4で測定容器3の外面を囲繞することによって、微細ミストを含んだ外気に測定容器3が接触することを防止する構成となっている。これによって、微細ミストの気化熱冷却に起因して、測定容器3の温度状態が不安定になることを防止することができる。
【0038】
加えて、外側容器4の内面と測定容器3の外面の間は、ブロアモータ6の吸引によって負圧の状態が維持されるため、当該外側容器4の内面と測定容器3の外面の間は断熱状態に近い状態となる。そのため、外側容器4の温度変化の影響が測定容器3に及ぶことを抑制することができる。
【0039】
このように、本実施形態に係る乾湿計では、内管2、および、測定容器3の温度状態の早期安定化を図ることができる。その結果、測定部1は、外気の乾球温度を正確に測定することが可能となる。
【0040】
本実施形態に係る乾湿計の各部は、より望ましくは、以下のような構成とする。
【0041】
測定容器3は、アルミや銅などの比熱が小さく、熱伝導性の高い材料を用いるとともに、できるだけ壁面の厚みを薄くするのが望ましい。また、測定容器3における上下面の部材と側面の部材との接合は、ねじ等の部品を用いずに溶接し、測定容器3の質量、すなわち測定容器3の熱容量が少なくなるように製作することが望ましい。
【0042】
これによって、測定容器3の温度は、吸込気体の温度に早く近づく。その結果、測定部1が測定する温度が安定するまでの時間が短縮され、環境変動の激しい屋外における測定や、急激な温度差を生じる実験にも使用することができる。
【0043】
また、測定容器3の内面については、測定容器3の長手方向に垂直な断面の形状を略円形状とするのが望ましい。これによって、吸込管5から流入した微細ミストを含む気体は、測定容器3の内面に沿って螺旋を描き、測定容器3の上部まで流れるため、遠心力による微細ミストの分離の効果を増加させることができる。
【0044】
また、測定容器3の外面には、熱容量の小さい薄肉のフィンを取り付けるのが望ましい。これによって、外側容器4の内面と測定容器3の外面の間に形成される通風流路における伝熱面積が増加して、測定容器3の温度は、吸込気体の温度により早く近づく。換言すると、測定部1が測定する温度が安定するまでの時間が短縮され、環境変動の激しい屋外における測定や、急激な温度差を生じる実験にも使用することができる。
【0045】
また、外側容器4の内面には、断熱部材を設けることが望ましい。これによって、外側容器4の温度変化の影響が測定容器3に及ぶことを抑制することができ、測定部1が測定する温度が安定するまでの時間を短縮することができる。
【0046】
以上、本実施形態に係る乾湿計によれば、外気にミストが含まれる環境下においても、高い精度で乾球温度を測定することが可能である。
【0047】
また、本実施形態に係る乾湿計によれば、測定容器3へのミスト付着を防止し、付着したミストによる気化熱冷却の影響を受けることなく正確に乾球温度を測定することができる。また、日射量変化などによる外部容器4の外部からの熱量変化が大きい場合でも、乾球温度計周りでの熱量変化を抑えることで正確に乾球温度を測定することができる。また、ミストが多量に含まれる場合でも、気体から分離したミストによる気化熱冷却を防止して正確に乾球温度を測定することができる。
【0048】
(第2の実施形態)
次に、図4図7を参照して、第2の実施形態に係る乾湿計について説明する。
【0049】
図4は、第2の実施形態における乾湿計の概略構成を示す模式図である。また、図5は、第2の実施形態における乾湿計の概略構成の断面図である。尚、図5中に破線で示す矢印は、吸込気体から分離したミストを測定容器3の収容空間から除去するための水滴の流れを表す。
【0050】
本実施形態に係る乾湿計は、排水タンク7、スリット8、排水管9を備えている点で、第1の実施形態に係る乾湿計と相違する。尚、第1の実施形態と共通する構成については、説明を省略する(以下、他の実施形態についても同様)。
【0051】
スリット8は、測定容器3の側面を貫通するように設けられた開口である。スリット8は、測定容器3の底面から鉛直方向に伸びるように形成されている。
【0052】
尚、図6A図6Bは、スリット8の形状の一例を示す側面図である。また、図7A図7Bは、図5のA−A断面で切断した切断面における図であり、スリット8の形状を平面視した図である。スリット8の形状のより望ましい態様については、これらの図を参照して後述する。
【0053】
排水管9は、一端がスリット8に接続され、他端が排水タンク7に接続され、スリット8に流入する水滴を排水タンク7に排出させる管である。
【0054】
排水タンク7は、測定容器3の収容空間から除去した水滴を貯水する容器である。排水タンク7は、タンク吸引口7aを有し、当該タンク吸引口7aを介してブロアモータ6(「第2の吸引ポンプ」に相当)からの吸引力を排水管9およびスリット8に伝達する。尚、排水タンク7は、外側容器4の収納空間とは隔絶し、密閉された状態で、外側容器4の下部に設けられている。
【0055】
以上のように構成された乾湿計について、以下、その動作、作用を説明する。
【0056】
まず、吸込管5から流入した外気に含まれる微細ミストは、上記したように、遠心力によって測定容器3の内面に衝突して水滴となり気体から分離される。そして、このようにして生成された水滴は、測定容器3の内面に付着して粒径の大きい水滴となる。
【0057】
この際、測定容器3の内面に付着した水滴は、スリット8に達し、ブロアモータ6が生成する吸引力によって、スリット8を通して排水管9内に流入する。そして、排水管9内に流入した水滴は、排水タンク7に溜まる。このように、測定容器3の収容空間の内部の水滴を除去することによって、当該水滴から気中に蒸散するミストの量をより減少させることができる。
【0058】
尚、微細ミストを含む気体が、測定容器3の内部に流入した場合、測定容器3の内壁に衝突して気体から分離されたミストは、連続的にミストを含む気体が吸込口2aから流れてくるため、次第に粒径の大きい水滴となり、測定容器3の内面を流れる。
【0059】
この時、測定容器3の内面を流れる水滴と測定容器3の内部を流れる気体との境界面において、測定容器3内面を流れる水滴の一部は、蒸発するときの気化熱によって、測定対象の気体が冷却されることになる。
【0060】
この点、本実施形態に係る乾湿計によれば、水滴はすぐにスリット8に達して、ブロアモータ6の吸引により、排水管9内部に流出するため、測定対象の気体に対する冷却効果は微小となる。そして、排水管9内に流出した水滴は排水タンク7に溜まる。これにより、特に、測定対象の気体にミストが多量に含まれていても、水滴が測定容器3底部に溜まったりすることを防止し、水滴の蒸発による気体の温度低下を防ぎ、正確に乾球温度を測定することができる。
【0061】
本実施形態に係る乾湿計の各部は、例えば以下のような構成とする。
【0062】
スリット8は、図6Aに示すように、鉛直方向に一直線状に伸延する。または、図6Bに示すように、鉛直方向に破線状に伸延する形状としてもよい。図6Bに示すスリット8では、破線状に複数の開口が2列形成されている。そして、1列目に含まれる開口の範囲の一部は、2列目に含まれる開口の範囲の一部と鉛直方向において重なっている。
【0063】
薄肉の金属板を湾曲させて測定容器3を製作するためには、スリット8は、図6Bに示すように、鉛直方向に破線状に伸延する形状とするのが望ましい。
【0064】
スリット8を鉛直方向に一直線状に伸延する形状とした場合、金属板を湾曲させる際に、応力集中によりスリット8が形成された部位が折れ曲がり、長手方向に垂直な測定容器3の断面形状が、スリット8が形成された部位が突出した涙滴状となるおそれがある。
【0065】
この点、スリット8を破線状とすることによって、長手方向に垂直な測定容器3の形状を、真円に近づけることができる。その結果、吸込気体が測定容器3の内面に沿って螺旋を描き、測定容器3の上部まで流れやすくなるため、遠心力による微細ミストの分離効果を増大させることができる。
【0066】
また、1列目に含まれる開口の範囲の一部が、2列目に含まれる開口の範囲の一部と鉛直方向において重なるようにすることで、開口と開口との間を水滴が通ることにより水滴の回収効率が低下することを防止することができる。
【0067】
また、スリット8における気体の流速を増加させるため、スリット8のスリット幅をより狭くしてもよい。これによって、スリット8における吸引力が増加し、測定容器3の内面を流れる水滴をより強力に吸引することができる。
【0068】
その結果、測定容器3内に付着した水滴が蒸発し、その蒸発による潜熱冷却により吸込気体の温度が低下して、吸込気体の温度を正確に測定することができなくなるという事態を防止することができる。
【0069】
また、スリット8は、測定容器3の内面側に面取り部を有しない構成とするのが望ましい。換言すると、スリット8は、開口幅が測定容器3の内面側から外面側に向かって狭まる形状とならないようにするのが望ましい。つまり、スリット8は、開口幅が測定容器3の内面側から外面側に向かって略一定とするか、開口幅が測定容器3の内面側から外面側に向かって広がる形状とする。
【0070】
図7Aは、測定容器3が、内面側に面取り部を有しない構成を表し、図7Bは、測定容器3が、内面側に面取り部を有する構成を表している。尚、図7A図7B中で、w1は、吸込気体が通流する方向を表し、w2は、吸込気体から分離したミストが水滴化したものを表す。
【0071】
図7Bに示すように、測定容器3が、内面側に面取り部を有する場合、水滴w2は、吸引されたときに当該面取り部で衝突して、測定容器3の内部方向に飛散する。その結果、回収できない水滴が発生し、その水滴が測定容器3内で蒸発すると、その蒸発による潜熱冷却により吸込気体の温度が低下する。
【0072】
この点、図7Aに示すように、測定容器3が、内面側に面取り部を有しない構成とすることによって、水滴w2が、測定容器3の内部方向に飛散する事態を防止することができる。
【0073】
以上、本実施形態に係る乾湿計によれば、測定容器3の収容空間からミストを除去することができるため、外気にミストが含まれる環境下においても、より高い精度で乾球温度を測定することが可能である。
【0074】
(第3の実施形態)
次に、図8図9を参照して、第3の実施形態に係る乾湿計について説明する。
【0075】
図8は、第3の実施形態における乾湿計の概略構成を示す模式図である。また、図9は、第3の実施形態における乾湿計の概略構成の断面図である。
【0076】
本実施形態に係る乾湿計は、湿球温度測定部10、吸水材11、供給管12を備えている点で、第2の実施形態に係る乾湿計と相違する。
【0077】
湿球温度測定部10(「第2の測定部」に相当)は、湿球温度を測定するセンサである。ここでは、湿球温度測定部10は、排水管9の内部に配設され、当該排水管9を介して流入する外気の湿球温度を測定する。湿球温度測定部10としては、例えば、熱電対や水銀温度計等が用いられる。
【0078】
吸水材11は、湿球温度測定部10を被膜する保湿部材である。吸水材11は、供給管12を介して排水タンク7に貯まった水分を吸水する。吸水材11としては、例えば、スポンジ材等が用いられる。
【0079】
供給管12は、排水タンク7に貯まった水分を吸水材11に供給する管である。供給管12は、一端が吸水材11に接続され、他端が排水タンク7の内部に配設される。供給管12は、例えば、毛細管現象等を利用して、排水タンク7の内部から吸水材11に水分を供給する。
【0080】
このように、気中から分離したミストを湿球温度測定部10の吸水材11の保湿に利用することで、湿球温度測定部10に供給する水の供給頻度を抑えることができる。また、湿球温度測定部10を排水管9の内部に設置することによって、湿球温度測定部10は、吸込気体の流速が安定した領域で湿球温度を測定することができ、測定精度を向上させることができる。
【0081】
更に、湿球温度測定部10は、測定対象の気体の風速が2〜4m/sというJIS規格に準じた条件下で、湿球温度を測定することができる。
【0082】
尚、測定対象の気体の風速が2〜4m/sという条件を満足するため、排水管9の径を小さくしたり、ブロアモータ6の排気量を増加させるなどの調整を適宜行う。
【0083】
例えば、排水タンク7から排気される気体の排気量が40L/min(0.04m/min)の場合、排水管9の断面積Sは、少なくとも3.3cm以下とするのが望ましい。この断面積は、排気量0.04m/minを風速2〜4m/sで割り算することにより得られる。
【0084】
また、本発明の乾湿計で測定した乾球温度と湿球温度を用いて相対湿度を算出してもよい。相対湿度は、例えば、以下の式(1)、式(2)を用いて算出することができる。
【0085】
まず、次式(1)のSprungの公式を用いて水蒸気圧eを計算する。
【数1】
【0086】
次に、上式(1)で求めた環境の水蒸気圧eを、次式(2)を用いて相対湿度に変換する。
【数2】
【0087】
このようにして、気中の微細ミストが含まれる環境下においても、気中の相対湿度を高い精度で求めることができる。
【0088】
以上、本実施形態に係る乾湿計によれば、高い精度で湿球温度を測定することが可能である。また、上記のように、乾球温度、湿球温度および気中の相対湿度を求めることによって、例えば、路上に設置するミスト発生装置の運転制御にも資することとなる。
【0089】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0090】
例えば、上述した実施形態では、測定容器3の下部から吸引された外気が、内管2の外面と測定容器3の内面との間を通り、内管2の上端から内管2内に流れて内管2の下端から外側容器4に吐出され、測定容器3の外面と外側容器4の内面との間を通って外側容器4の上端から排出されることとした。
【0091】
しかしながら、外気の径路はこれに限定されるものではなく、内管2の下端から吐出された外気が外側容器4の下端から排出されることとしてもよいし、外側容器4の側面から排出されることとしてもよい。内管2、または、外側容器4についても、必ずしも設ける必要はなく、測定容器3内において外気に遠心力が働き、微細ミストが外気から分離されるように乾湿計が構成されていればよい。
【0092】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0093】
乾球温度を測定する測定部1と、収容空間内に前記測定部1を収容する筒状の測定容器3と、一端が外気に開放され、他端が前記収容空間内において当該収容空間の中心軸から偏心する方向に向けて配設された吸込管5と、を備えた乾湿計を開示する。
【0094】
この乾湿計によれば、外気にミストが含まれる環境下においても、外気からミストを分離することができるため、高精度に乾球温度を測定することが可能である。
【0095】
又、この乾湿計においては、前記測定部1を収容する筒状の内管2を更に備え、前記内管2は、前記収容空間内に配設され、前記収容空間内に吸い込んだ外気を吸引する吸引口2aと、当該吸引口2aから吸引された外気を吐出する吐出口2bとを有し、前記吸込管5の他端は、前記収容空間の中心軸に沿った方向において前記内管2の吸引口2aから離れた位置に設けられるものであってもよい。
【0096】
この乾湿計によれば、外気から分離したミストの気化をより確実に防止することができるため、より高精度に乾球温度を測定することが可能である。
【0097】
又、この乾湿計においては、外気を排出する排出口4aを有し、前記測定容器3を収容する筒状の外側容器4を更に備え、前記外側容器4は、前記内管2の吐出口2bと連通し、当該吐出口2bから吐出された外気を前記測定容器3の外面と当該外側容器4の内面との間に導き、前記排出口4aから排出するものであってもよい。
【0098】
この乾湿計によれば、測定容器3が外気と接触することを防止できるため、測定容器3の温度の早期安定化を図ることができる。
【0099】
又、この乾湿計においては、前記外側容器4の排出口4aに接続された吸引ポンプ6を更に備えるものであってもよい。
【0100】
又、この乾湿計においては、前記測定容器3の側面を貫通するように設けられたスリット8と、一端が前記スリット8と接続するように、前記測定容器3の外面側に配設された排水管9と、前記排水管9の他端が接続された排水タンク7と、を更に備えるものであってもよい。
【0101】
この乾湿計によれば、外気から分離したミストの気化をより確実に防止することができるため、より高精度に乾球温度を測定することが可能である。
【0102】
又、この乾湿計においては、前記排水タンク7に接続された第2の吸引ポンプ6を更に備えるものであってもよい。
【0103】
又、この乾湿計は、前記排水管9内に配設され、湿球温度を測定する第2の測定部10と、前記第2の測定部10を被覆する吸水材11と、一端が前記吸水材11に接続され、他端が前記排水タンク7のタンク内に配設された供給管12と、を更に備えたものであってもよい。
【0104】
この乾湿計によれば、高精度に湿球温度を測定することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本開示に係る乾湿計は、測定対象の気体に微細ミストが含まれる環境下で好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0106】
1 測定部
2 内管
3 測定容器
4 外側容器
5 吸込管
6 ブロアモータ
7 排水タンク
8 スリット
9 排水管
10 湿球温度測定部
11 吸水材
12 供給管
91 ケーシング
92 通風路
93 測定部
94 送風ファン
95 電子機器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9