【文献】
KWON, K.C. et al.,Inhibition of Ion Migration for Reliable Operation of Organolead Halide Perovskite-Based Metal/Semiconductor/Metal Broadband Photodetectors,Advanced Functional Materials,2016年,Volume 26, Issue 23,p.4213-4222,DOI:10.1002/adfm.201600405
【文献】
JENA, A.K. et al.,Steady state performance, photo-induced performance degradation and their relation to transient hysteresis in perovskite solar cells,Journal of Power Sources,2016年,Volume 309,p.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電圧制御部は、前記第1の期間の長さが、前回の前記電圧の印加が終了した時点からの前記太陽電池が光に照射された時間の積算値に対して0.1倍以上10倍未満となるように、前記電源を制御する、請求項1または2に記載の太陽電池システム。
前記電圧制御部は、前記電源が前記電圧を印加することによって消費する電力量が、前回の前記電圧の印加が終了した時点からの前記太陽電池が発電した電力量に対して0.001%以上1%未満となるように、前記電源の前記電圧の大きさおよび前記第1の期間の長さを制御する、請求項1または2に記載の太陽電池システム。
前記太陽電池は、前記第1電極と前記光吸収層との間に位置し、前記光吸収層から前記第1電極へ電子を輸送する電子輸送層をさらに備える、請求項1から4のいずれか1項に記載の太陽電池システム。
前記太陽電池は、前記第2電極と前記光吸収層との間に位置し、前記光吸収層から前記第2電極へ正孔を輸送する正孔輸送層をさらに備える、請求項1から5のいずれか1項に記載の太陽電池システム。
前回の前記電圧の印加が終了した時点からの前記太陽電池が光に照射された時間の積算値が所定の時間に達したとき、前記電圧を印加する、請求項7または8に記載の運転方法。
前回の前記電圧の印加が終了した時点からの前記太陽電池が光に照射された時間の積算値に応じて、前記電圧の大きさおよび前記第1の期間の長さを設定する、請求項7から9のいずれか1項に記載の運転方法。
前記電圧を印加することによって消費される電力量が、前回の前記電圧の印加が終了した時点からの前記太陽電池が発電した電力量に対して0.001%以上1%未満となるように、前記電圧の大きさおよび前記第1の期間の長さを設定する、請求項7から9のいずれか1項に記載の運転方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ペロブスカイト太陽電池を屋根等に設置し、屋外で発電させる場合には、高い変換効率とともに、高い光耐久性が求められる。しかしながら、非特許文献4に記載されているように、ペロブスカイト太陽電池に太陽光を照射すると、時間とともに変換効率が低下するという問題があった。
【0012】
本開示の一態様の概要は以下のとおりである。
【0013】
[項目1]
第1電極と、前記第1電極に対向する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に位置し、光を電荷に変換する光吸収層と、を含む太陽電池と、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する電源と、電圧制御部と、を備え、前記光吸収層は、Aを1価のカチオンとし、Mを2価のカチオンとし、Xをハロゲンアニオンとしたとき、AMX
3で示されるペロブスカイト結晶構造を有する化合物を含み、前記電圧制御部は、非発電時の第1の期間において、発電時とは逆方向であって1μA/cm
2以上100μA/cm
2以下の電流が前記光吸収層に流れるように、前記電源の前記電圧を制御する、太陽電池システム。
【0014】
[項目2]
前記電流は、5μA/cm
2以下である、項目1に記載の太陽電池システム。
【0015】
[項目3]
前記電圧制御部は、前記第1の期間の長さが、前回の前記電圧の印加が終了した時点からの前記太陽電池が光に照射された時間の積算値に対して0.1倍以上10倍未満となるように、前記電源を制御する、項目1または2に記載の太陽電池システム。
【0016】
[項目4]
前記電圧制御部は、前記電源が前記電圧を印加することによって消費する電力量が、前回の前記電圧の印加が終了した時点からの前記太陽電池が発電した電力量に対して0.001%以上1%未満となるように、前記電源の前記電圧の大きさおよび前記第1の期間の長さを制御する、項目1または2に記載の太陽電池システム。
【0017】
[項目5]
前記太陽電池は、前記第1電極と前記光吸収層との間に位置し、前記光吸収層から前記第1電極へ電子を輸送する電子輸送層をさらに備える、項目1から4のいずれか1項に記載の太陽電池システム。
【0018】
[項目6]
前記太陽電池は、前記第2電極と前記光吸収層との間に位置し、前記光吸収層から前記第2電極へ正孔を輸送する正孔輸送層をさらに備える、項目1から5のいずれか1項に記載の太陽電池システム。
【0019】
[項目7]
太陽電池を備えた太陽電池システムの運転方法であって、前記太陽電池は、第1電極と、前記第1電極に対向する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に位置し、光を電荷に変換する光吸収層であって、Aを1価のカチオンとし、Bを2価のカチオンとし、Xをハロゲンアニオンとしたとき、AMX
3で示されるペロブスカイト結晶構造を有する化合物を含む光吸収層とを含み、発電時において、前記光吸収層が光を電荷に変換することによって発生する電力を前記第1電極および前記第2電極を介して取り出し、非発電時の第1の期間において、発電時とは逆方向であって1μA/cm
2以上100μA/cm
2以下の電流が前記光吸収層に流れるように、前記第1電極および前記第2電極の間に電圧を印加する、運転方法。
【0020】
[項目8]
前記発電時における電力の取り出し、および前記非発電時における電圧の印加を交互に繰り返す、項目7に記載の運転方法。
【0021】
[項目9]
前回の前記電圧の印加が終了した時点からの前記太陽電池が光に照射された時間の積算値が所定の時間に達したとき、前記電圧を印加する、項目7または8に記載の運転方法。
【0022】
[項目10]
前回の前記電圧の印加が終了した時点からの前記太陽電池が光に照射された時間の積算値に応じて、前記電圧の大きさおよび前記第1の期間の長さを設定する、項目7から9のいずれか1項に記載の運転方法。
【0023】
[項目11]
前記電圧を印加することによって消費される電力量が、前回の前記電圧の印加が終了した時点からの前記太陽電池が発電した電力量に対して0.001%以上1%未満となるように、前記電圧の大きさおよび前記第1の期間の長さを設定する、項目7から9のいずれか1項に記載の運転方法。
【0024】
(実施の形態)
図1は、本開示の一実施形態の太陽電池システム1000を模式的に示す断面図である。
【0025】
太陽電池システム1000は、ペロブスカイト太陽電池(以下、単に「太陽電池」と略す)100と電圧印加部200とを備える。
【0026】
太陽電池100は、基板1上に設けられた第1電極2と、第1電極2上に位置し、光を電荷に変換する光吸収層(「光電変換層」ともいう)3と、光吸収層3上に位置する第2電極4とを有する。
【0027】
光吸収層3は、組成式AMX
3で示されるペロブスカイト型結晶構造を有する化合物を含む。ただし、Aは1価のカチオンであり、Mは2価のカチオンであり、Xは1価のアニオンである。後述するように、第1電極2と光吸収層3との間に電子輸送層を有していてもよい。また、光吸収層3と第2電極4との間に正孔輸送層を有していてもよい。
【0028】
図示する例では、基板1側から光吸収層3に光が入射する。光吸収層3は入射した光を吸収し、励起された電子と、正孔とを発生させる。この励起された電子は第1電極2に移動する。一方、光吸収層3で生じた正孔は、第2電極4に移動する。これにより、負極としての第1電極2と、正極としての第2電極4とから、電流を取り出すことができる。
【0029】
電圧印加部200は、電源10と、電源10の電圧を制御する電圧制御部13とを有している。電源10は、第1電極2および第2電極4を介して光吸収層3に電圧を印加することにより、発電時とは逆方向に電流を流すように構成されている。この例では、電源10の負極は第1電極2に電気的に接続され、電源10の正極は第2電極4に電気的に接続されている。
【0030】
電圧制御部13は、非発電時の所定の期間において、光吸収層3の面積に対して1μA/cm
2以上100μA/cm
2以下の電流が光吸収層3に流れるように、電源10の電圧を制御する。ここでいう「光吸収層3の面積」は、基板1の法線方向から見たときの光吸収層3の面積を指す。
【0031】
本実施形態の太陽電池100は、例えば以下の方法によって作製することができる。まず、化学気相蒸着法やスパッタ法などにより、基板1の表面に第1電極2を形成する。次に、塗布法や蒸着法などにより、第1電極2の上に光吸収層3を形成する。続いて、光吸収層3の上に第2電極4を形成することにより、太陽電池100を得ることができる。
【0032】
以下、太陽電池システム1000を構成する各構成要素を説明する。
【0033】
<基板1>
基板1は、任意の構成要素である。基板1は、太陽電池100の各層を保持する役割を果たす。基板1は、透明な材料から形成することができる。例えば、ガラス基板またはプラスチック基板(プラスチックフィルムを含む)を用いることができる。また、第1電極2が十分な強度を有している場合、第1電極2によって各層を保持することができるので、必ずしも基板1を設けなくてもよい。
【0034】
<第1電極2>
第1電極2は、導電性を有する。また、第1電極2は、光吸収層3とオーミック接触を形成しない。さらに、第1電極2は、光吸収層3からの正孔に対するブロック性を有する。光吸収層3からの正孔に対するブロック性とは、光吸収層3で発生した電子のみを通過させ、正孔を通過させない性質のことである。このような性質を有する材料とは、光吸収層3の価電子帯下端のエネルギー準位よりも、フェルミ準位が低い材料である。具体的な材料としては、アルミニウムが挙げられる。
【0035】
また、第1電極2は、透光性を有する。例えば、可視領域から近赤外領域の光を透過する。第1電極2は、例えば、透明であり導電性を有する金属酸化物を用いて形成することができる。このような金属酸化物としては、例えば、インジウム−錫複合酸化物、アンチモンをドープした酸化錫、フッ素をドープした酸化錫、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムの少なくとも一種をドープした酸化亜鉛、あるいはこれらの複合物が挙げられる。
【0036】
また、第1電極2は、透明でない材料を用いて、光が透過するパターンを設けて形成することができる。光が透過するパターンとしては、例えば、線状、波線状、格子状、多数の微細な貫通孔が規則的又は不規則に配列されたパンチングメタル状のパターン、または、これらとはネガ・ポジが反転したパターンが挙げられる。第1電極2がこれらのパターンを有すると、電極材料が存在しない部分を光が透過することができる。透明でない電極材料として、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、鉄、ニッケル、スズ、亜鉛、またはこれらのいずれかを含む合金を挙げることができる。また、導電性を有する炭素材料を用いることもできる。
【0037】
第1電極2の光の透過率は、例えば50%以上であってもよく、80%以上であってもよい。透過すべき光の波長は、光吸収層3の吸収波長に依存する。第1電極2の厚さは、例えば、1nm以上1000nm以下の範囲内にある。
【0038】
<光吸収層3>
光吸収層3は、組成式AMX
3で示されるペロブスカイト構造を有する化合物を含む。Aは1価のカチオンである。カチオンAの例としては、アルカリ金属カチオンや有機カチオンのような1価のカチオンが挙げられる。さらに具体的には、メチルアンモニウムカチオン(CH
3NH
3+)、ホルムアミジニウムカチオン(NH
2CHNH
2+)、セシウムカチオン(Cs
+)が挙げられる。Mは2価のカチオンである。カチオンMの例としては、遷移金属や第13族元素〜第15族元素の2価のカチオンが挙げられる。さらに具体的には、Pb
2+、Ge
2+、Sn
2+が挙げられる。Xはハロゲンアニオンなどの1価のアニオンである。カチオンA、カチオンM、アニオンXのそれぞれのサイトは、複数種類のイオンによって占有されていてもよい。ペロブスカイト構造を有する化合物の具体例としては、CH
3NH
3PbI
3、CH
3CH
2NH
3PbI
3、NH
2CHNH
2PbI
3、CH
3NH
3PbBr
3、CH
3NH
3PbCl
3、CsPbI
3、CsPbBr
3があげられる。
【0039】
光吸収層3の厚さは、例えば100nm以上1000nm以下である。光吸収層3に含まれるペロブスカイト層は、溶液による塗布法、共蒸着法などを用いて形成することができる。
【0040】
<第2電極4>
第2電極4は、導電性を有する。また、第2電極4は、光吸収層3とオーミック接触しない。さらに、光吸収層3からの電子に対するブロック性を有する。光吸収層3からの電子に対するブロック性とは、光吸収層3で発生した正孔のみを通過させ、電子を通過させない性質のことである。このような性質を有する材料とは、光吸収層3の伝導帯上端のエネルギー準位よりも、フェルミ準位が高い材料である。具体的な材料としては、金、グラフェンなどの炭素材料が挙げられる。
【0041】
なお、第1電極2および第2電極4のうち、光を入射させる側の電極が少なくとも透光性を有していればよい。従って、第2電極4が透光性を有する場合、第1電極2は透光性を有していなくてもよい。また、図示する例では、第1電極2は負極、第2電極4は正極であるが、第1電極2が正極、第2電極4が負極であってもよい。
【0042】
<電圧印加部200>
電圧印加部200は、太陽電池100の第1電極2と第2電極4との間に電圧を印加する。これによって、発電時と逆方向の電流を光吸収層3に流すことができる。
【0043】
電圧印加部200は、例えば、回路8、スイッチ9、電源10および電圧制御部13を含む。
【0044】
電源10は、外部に直流電圧を印加できる機能を持つ装置である。電源10として、任意の電圧を印加できる電源装置の他に、一次電池、二次電池といった化学電池、太陽電池や風力発電機といった物理電池が挙げられる。あるいは、太陽電池100によって発生した電力を電圧印加部200で利用してもよい。例えば電源10は、太陽電池100で発生した電力を蓄える蓄電池を含んでもよい。
【0045】
回路8は、電源10の負側を第1電極2に接続し、電源10の正側を第2電極4に接続する。回路8は、スイッチ9を有している。スイッチ9の切り替えによって、太陽電池100への電圧の印加を制御することができる。
【0046】
電圧制御部13は、太陽電池100に印加する電圧の大きさ、電圧を印加する時間の長さ、電圧の印加を開始するタイミングなどを制御する手段である。電圧制御部13は、例えば、電源10およびスイッチ9に接続され、電源10から太陽電池100に印加する電圧の大きさ、および、スイッチ9の切り替えの制御を行う。
【0047】
本実施形態では、電圧制御部13は、非発電時の所定の期間において、発電時とは逆方向の所定の大きさの電流が光吸収層3に流れるように、電源10の電圧を制御する。本明細書では、発電時と逆方向の電流が光吸収層3に流れるように電圧を印加する動作を「電圧印加動作」と呼ぶ。また、電圧印加動作によって光吸収層3に流れる電流を「回復電流」と呼び、発電時に太陽電池100から取り出される電流を「出力電流」と呼んで両者を区別する。
【0048】
電圧制御部13は、太陽電池100が光に照射された時間の積算値(以下、「積算照射時間」という。)が所定の時間に達したとき、太陽電池100への電圧の印加を開始するように電圧印加部200を制御してもよい。さらに、電圧印加動作を開始した後、所定の時間(以下、「電圧印加時間」)が経過すると、電圧の印加を終了するように電圧印加部200を制御してもよい。なお、「積算照射時間」とは、太陽電池システム1000が運転を開始した時点からの照射時間の積算値をいう。あるいは、「積算照射時間」とは、電圧印加動作を一度でも行った場合には、直前の電圧印加動作が終了した時点からの照射時間の積算値をいう。積算照射時間は、光が照射されていない期間を間に挟んで積算してもよい。すなわち、照射時間と非照射時間とが混在する場合、積算照射時間は、非照射時間を除いて積算したものである。また、ここでいう照射時間は、太陽電池100が動作する程度の照度(例えば1mW/cm
2以上)の光が照射された時間を意味し、照度が極端に小さい光で照射された時間を含まない。
【0049】
回路8は、
図2に例示するように、他のスイッチ11を介して、太陽電池100から電力を取り出すための外部回路12と接続されていてもよい。これにより、電圧制御部13は、スイッチ9および11の切り替えによって、積算照射時間が所定の時間に達すると、太陽電池100からの発電電力の取り出しを停止させるとともに、電圧印加動作を開始させることが可能になる。
【0050】
本実施形態の太陽電池システム1000によると、次のような効果が得られる。
【0051】
非特許文献4に記載されているように、ペロブスカイト太陽電池では、長時間の使用によって変換効率が低下するという課題がある。これは、光吸収層3においてペロブスカイト型化合物を構成するイオンの分布に偏りが生じるためである。これに対し、本実施形態では、光吸収層3に電圧を印加することによって、光吸収層3で生じたイオンの分布の偏りを低減できる。それにより、太陽電池100の変換効率を回復させることが可能になる。以下、図面を参照して説明する。
【0052】
図3Aおよび
図3Bは、太陽電池システム1000の光吸収層3における電荷の状態を説明するための模式的な断面図である。ここでは、光吸収層3がペロブスカイト型化合物としてCH
3NH
3PbI
3を含む場合を例に説明する。CH
3NH
3PbI
3では、AMX
3におけるAサイトにメチルアンモニウムイオン(CH
3NH
3+)、Bサイトに鉛イオン(Pb
2+)、Xサイトにヨウ化物イオン(I
-)が位置している。
【0053】
光吸収層3に対する光の照射時間が長くなると、CH
3NH
3PbI
3のペロブスカイト骨格からメチルアンモニウムイオンが抜け出し、正極側に拡散して移動する。そのため、
図3Aに例示するように、光吸収層内でイオンの分布に偏りが生じる。イオンの分布の偏りは、太陽電池100の変換効率を低下させる要因となる。光吸収層内のイオンの分布が不均一になると、光吸収層3に光を照射せずに放置したとしても、イオンの拡散のみによって均一な状態に戻すことは困難である。イオンの分布を均一に近い状態に戻すには、偏りを生じさせた時間よりも十分に長い時間を要するおそれがある。
【0054】
本実施形態では、
図3Bに示すように、イオンの分布が不均一になった光吸収層3に対して、発電時とは反対方向に電流が流れるように、外部からの電圧E
exを印加する。これにより、正極側に高い濃度で存在していたメチルアンモニウムイオンが負極側に向かって移動する。このため、イオンの分布の偏りを速やかに解消させることができる。この結果、長時間の使用によって低下した変換効率の少なくとも一部を回復させることが可能になる。
【0055】
光吸収層3に印加される電圧E
exは、第1電極2の面積に対して、1μA/cm
2以上100μA/cm
2以下の電流が流れるような電圧に設定される。電流が1μA/cm
2以上であれば、より短い電圧印加時間でイオンの分布の偏りを低減することが可能になるので、太陽電池100の変換効率を速やかに回復できる。また、電流が100μA/cm
2以下であれば、変換効率の回復の際に必要とされる電源10の電力量を増大させることなく、変換効率を回復させることが可能である。
【0056】
太陽電池100の変換効率を回復するのに要する時間は、電流の大きさにほぼ反比例する。非発電時における太陽電池100では、電流の変化量に対して電圧E
exの変化量は小さい。そのため、電流の値が小さいほど、変換効率を回復させるのに必要とされる電源10の電力量は小さくなる。上記理由により、光吸収層3に流れる電流は、第1電極2の面積に対して、1μA/cm
2以上5μA/cm
2以下であることがさらに望ましい。
【0057】
電圧印加時間は、例えば、積算照射時間に依存して設定され得る。電圧印加時間は、回復電流の大きさにもよるが、例えば、積算照射時間の0.1倍以上10倍未満の範囲内で設定されてもよい。0.1倍以上であれば、変換効率の低下要因であるイオンの分布の偏りをより確実に解消でき、変換効率の回復率をより大きくできる。また、10倍以下であれば、電圧印加動作を行う際に電源10が使用する電力量が増大するのを抑えることができる。
【0058】
このように、本実施形態によると、光照射によって太陽電池100の変換効率が低下してしまった場合でも、太陽電池100に分解、組み立てといった手を加えることなく、簡便な手法で変換効率を回復させることが可能である。
【0059】
(太陽電池システム1000の運転方法)
図4は、太陽電池システム1000の運転方法の一例を示す図である。
【0060】
太陽電池システム1000の運転方法は、例えば光照射工程と電圧印加工程とを含む。光照射工程では、太陽電池に光が照射される。また、光照射によって太陽電池で生じた電力を太陽電池外部へ取り出す。電圧印加工程は、光照射工程の後、光照射による変換効率の低下を回復させるために行われる。電圧印加工程では、太陽電池100に、発電時とは逆方向に所定の回復電流を流すように電圧を印加する。1回の電圧印加工程に要する時間(電圧印加時間)は、電圧印加工程を行う前の積算照射時間と、回復電流の大きさなどによって適宜調整される。また、光照射工程と電圧印加工程とを繰り返し行ってもよい。電圧印加工程は、太陽電池100に光が照射されていない状態で行うことが望ましいが、照射された状態で行ってもよい。
【0061】
太陽電池システム1000は、積算照射時間を検知する手段をさらに備えていてもよい。電圧印加工程は、積算照射時間が予め設定された時間に達すると、開始されてもよい。これに加えて、あるいはこれに代わって、積算照射時間に関わらず、光が照射されていない時間帯に電圧印加工程が行われてもよい。その場合には、積算照射時間に応じて、回復電流の大きさおよび/または電圧印加時間が適宜設定されてもよい。
【0062】
(太陽電池システムの他の構成)
本実施形態における太陽電池の構成は、
図1に示す構成に限定されない。
【0063】
図5から
図7は、それぞれ、本実施形態の太陽電池システムの他の例を示す模式的な断面図である。これらのシステムは、
図1に示すシステムと太陽電池の構成が異なる。太陽電池以外の構成は同じである。
【0064】
図5に示す太陽電池システム1001では、太陽電池101は、基板1上に、第1電極22、電子輸送層5、光吸収層3および第2電極4を備える。太陽電池101は、電子輸送層を備える点で、
図1に示す太陽電池100と異なる。
【0065】
以下、太陽電池101の各構成要素について具体的に説明する。太陽電池100と同一の機能および構成を有する構成要素については説明を適宜省略する。
【0066】
本実施形態の太陽電池101の基本的な作用効果を説明する。
【0067】
太陽電池101に光が照射されると、光吸収層3が光を吸収し、励起された電子と、正孔とが発生する。励起された電子は、電子輸送層5を介して第1電極22に移動する。一方、光吸収層3で生じた正孔は第2電極4に移動する。これにより太陽電池101は、負極としての第1電極22と、正極としての第2電極4とから、電流を取り出すことができる。
【0068】
本実施形態においても、第1の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0069】
また、本実施の形態においては、電子輸送層5を設けている。そのため、第1電極22が光吸収層3からの正孔に対するブロック性を有さなくてもよい。したがって、第1電極22の材料選択の幅が広がる。
【0070】
本実施形態の太陽電池101は、第1の実施の形態の太陽電池100と同様の方法によって作製することができる。電子輸送層5は、第1電極22の上にスパッタ法などによって形成する。
【0071】
以下、太陽電池101の各構成要素について、具体的に説明する。
【0072】
<第1電極22>
第1電極22は、導電性を有する。第1電極22は、第1電極2と同様の構成とすることもできる。本実施形態では、電子輸送層5を用いるため、第1電極22は、光吸収層からの正孔に対するブロック性を有さなくてもよい。すなわち、第1電極22の材料は、光吸収層とオーミック接触する材料であってもよい。
【0073】
第1電極22は、透光性を有する。例えば、可視領域から近赤外領域の光を透過する。第1電極22は、透明であり導電性を有する金属酸化物を用いて形成することができる。このような金属酸化物としては、例えば、インジウム−スズ複合酸化物、アンチモンをドープした酸化スズ、フッ素をドープした酸化スズ、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムのうち少なくとも一種をドープした酸化亜鉛、あるいはこれらの複合物が挙げられる。
【0074】
また、第1電極22の材料として、透明でない材料を用いることもできる。その場合、第1電極2と同様に、第1電極22を、光が透過するパターン状に形成する。透明でない電極材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、鉄、ニッケル、スズ、亜鉛、またはこれらのいずれかを含む合金を挙げることができる。また、導電性を有する炭素材料を用いることもできる。
【0075】
第1電極22の光の透過率は、例えば50%以上であってもよく、80%以上であってもよい。透過すべき光の波長は、光吸収層3の吸収波長に依存する。第1電極22の厚さは、例えば、1nm以上、1000nm以下である。
【0076】
<電子輸送層5>
電子輸送層5は、半導体を含む。電子輸送層5は、バンドギャップが3.0eV以上の半導体であってもよい。バンドギャップが3.0eV以上の半導体で電子輸送層5を形成することにより、可視光および赤外光を光吸収層3まで透過させることができる。半導体の例としては、有機または無機のn型半導体が挙げられる。
【0077】
有機のn型半導体としては、例えば、イミド化合物、キノン化合物、ならびにフラーレンおよびその誘導体が挙げられる。また無機のn型半導体としては、例えば、金属元素の酸化物、ペロブスカイト型酸化物を用いることができる。金属元素の酸化物としては、例えば、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Crの酸化物を用いることができる。より具体的な例としては、TiO
2が挙げられる。ペロブスカイト型酸化物の例としては、SrTiO
3、CaTiO
3が挙げられる。
【0078】
また、電子輸送層5は、バンドギャップが6eVよりも大きな物質によって形成されていてもよい。バンドギャップが6eVよりも大きな物質としては、フッ化リチウムまたはフッ化カルシウムなどのアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のハロゲン化物、酸化マグネシウムなどのアルカリ金属酸化物、二酸化ケイ素などが挙げられる。この場合、電子輸送層5の電子輸送性を確保するために、電子輸送層5は、例えば10nm以下に構成される。
【0079】
電子輸送層5は、互いに異なる材料からなる複数の層を含んでいてもよい。また、電子輸送層と光吸収層とは、境界において一部で混在していてもよい。
【0080】
図6に示す太陽電池システム1002では、太陽電池102は、多孔質層6を備える点で、
図5に示す太陽電池101と異なる。太陽電池101と同一の機能および構成を有する構成要素については説明を適宜省略する。
【0081】
太陽電池102では、基板1上に、第1電極22と、電子輸送層5と、多孔質層6と、光吸収層3と、第2電極4とがこの順に積層されている。多孔質層6は、多孔質体を含む。多孔質体は、空孔を含む。なお、太陽電池102は基板1を有していなくてもよい。
【0082】
多孔質層6中の空孔は、光吸収層3と接する部分から、電子輸送層5と接する部分まで繋がっている。これにより、光吸収層3の材料は多孔質層6の空孔を充填し、電子輸送層5の表面まで到達することができる。したがって、光吸収層3と電子輸送層5とは接触しているため、直接電子の授受が可能である。
【0083】
太陽電池102に光が照射されると、光吸収層3が光を吸収し、励起された電子と、正孔とを発生させる。この励起された電子は、電子輸送層5を介して第1電極22に移動する。一方、光吸収層3で生じた正孔は、第2電極4に移動する。これにより、太陽電池100は、負極としての第1電極22と、正極としての第2電極4とから、電流を取り出すことができる。
【0084】
また、電子輸送層5の上に多孔質層6を設けたことにより、光吸収層3を容易に形成できるという効果が得られる。すなわち、多孔質層6を設けたことにより、多孔質層6の空孔に光吸収層3の材料が侵入し、多孔質層6が光吸収層3の足場となる。そのため、光吸収層3の材料が多孔質層6の表面で弾かれたり、凝集したりすることが起こりにくい。したがって、光吸収層3を均一な膜として形成することができる。
【0085】
また、多孔質層6によって光散乱が起こることにより、光吸収層3を通過する光の光路長が増大する効果が期待される。光路長が増大すると、光吸収層3中で発生する電子と正孔の量が増加すると予測される。
【0086】
太陽電池102は、太陽電池101と同様の方法によって作製することができる。多孔質層6は、電子輸送層5の上に、例えば塗布法によって形成する。
【0087】
<多孔質層6>
多孔質層6は、光吸収層3を形成する際の土台となる。多孔質層6は、光吸収層3の光吸収や、光吸収層3から電子輸送層5への電子移動を阻害しない。
【0088】
多孔質層6は、多孔質体を含む。多孔質体としては、例えば、絶縁性または半導体の粒子が連なった多孔質体が挙げられる。絶縁性の粒子としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素の粒子を用いることができる。半導体粒子としては、無機半導体粒子を用いることができる。無機半導体としては、金属元素の酸化物、金属元素のペロブスカイト酸化物、金属元素の硫化物、金属カルコゲナイドを用いることができる。金属元素の酸化物の例としては、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、Crの酸化物が挙げられる。より具体的な例としては、TiO
2が挙げられる。金属元素のペロブスカイト酸化物の例としては、SrTiO
3、CaTiO
3が挙げられる。金属元素の硫化物の例としては、CdS、ZnS、In
2S
3、PbS、Mo
2S、WS
2、Sb
2S
3、Bi
2S
3、ZnCdS
2、Cu
2Sが挙げられる。金属カルコゲナイドの例としては、CdSe、In
2Se
3、WSe
2、HgS、PbSe、CdTeが挙げられる。
【0089】
多孔質層6の層さは、0.01μm以上10μm以下が望ましく、0.1μm以上1μm以下がさらに望ましい。また、多孔質層6の表面粗さは大きい方が望ましい。具体的には、実効面積/投影面積で与えられる表面粗さ係数が10以上であることが望ましく、100以上であることがさらに望ましい。なお、投影面積とは、物体を真正面から光で照らしたときに、後ろにできる影の面積である。実効面積とは、物体の実際の表面積のことである。実効面積は、物体の投影面積および厚さから求められる体積と、物体を構成する材料の比表面積および嵩密度とから計算することができる。
【0090】
図7に示す太陽電池システム1003は、正孔輸送層7を備える点で、
図6に示す太陽電池102と異なる。太陽電池102と同一の機能および構成を有する構成要素については、太陽電池102と共通する符号を付し、説明を適宜省略する。
【0091】
太陽電池103では、基板31上に、第1電極32と、電子輸送層5と、多孔質層6と、光吸収層3と、正孔輸送層7と、第2電極34とがこの順に積層されている。太陽電池103は基板31を有していなくてもよい。
【0092】
次に、太陽電池103の基本的な作用効果を説明する。
【0093】
太陽電池103に光が照射されると、光吸収層3が光を吸収し、励起された電子と、正孔とを発生させる。この励起された電子は電子輸送層5に移動する。一方、光吸収層3で生じた正孔は、正孔輸送層7に移動する。電子輸送層5は第1電極32に接続され、正孔輸送層7は第2電極34に接続されている。これにより、太陽電池103は、負極としての第1電極32と、正極としての第2電極34とから電流を取り出すことができる。
【0094】
太陽電池103においても、太陽電池100と同様の効果が得られる。
【0095】
また、太陽電池103は、光吸収層3と第2電極34との間に正孔輸送層7を有している。このため、第2電極34は、光吸収層3からの電子に対するブロック性を有さなくてもよい。したがって、第2電極34の材料選択の幅が広がる。
【0096】
太陽電池103は、太陽電池100と同様の方法によって作製することができる。正孔輸送層は、光吸収層の上に塗布法などによって形成する。
【0097】
以下、太陽電池103の各構成要素について、具体的に説明する。
【0098】
<基板31>
任意の構成要素である基板31は、基板1と同様の構成とすることができる。また、第2電極が透光性を有している場合には、透明でない材料を用いて基板31を形成することができる。例えば、金属やセラミックス、透光性の小さい樹脂材料を用いることができる。
【0099】
<第1電極32および第2電極34>
上述したように、第2電極34は、光吸収層3からの電子に対するブロック性を有さなくてもよい。すなわち、第2電極34の材料は、光吸収層3とオーミック接触する材料であってもよい。そのため、第2電極34を、透光性を有するように形成し得る。
【0100】
第1電極32および第2電極34の少なくとも一方は、透光性を有する。透光性を有する電極は、第1電極22と同様の構成とすることができる。
【0101】
第1電極32および第2電極34の一方は、透光性を有さなくともよい。透光性を有さない電極は、第1電極22の材料として挙げられたもののうち、透明でない材料を用いて形成することができる。また、透光性を有さない電極には、電極材料が存在しない領域を形成する必要はない。
【0102】
<正孔輸送層7>
正孔輸送層7は、光吸収層3から第2電極4に正孔を輸送する層である。正孔輸送層7は、例えば、有機物や、無機半導体によって構成される。正孔輸送層7は、互いに異なる材料からなる複数の層を含んでいてもよい。正孔輸送層7は、光吸収層3と一部混在していてもよい。
【0103】
有機物としては、例えば、3級アミンを骨格内に含む、フェニルアミン、トリフェニルアミン誘導体および、チオフェン構造を含むPEDOT化合物が挙げられる。分子量は、特に限定されず、高分子体であってもよい。有機物で正孔輸送層7を形成する場合、正孔輸送層7の厚さは、1nm以上1000nm以下であることが望ましく、100nm以上500nm以下であることがより望ましい。厚さがこの範囲内であれば、十分な正孔輸送性を発現できる。また、低抵抗を維持できるので、高効率に光発電を行うことができる。
【0104】
無機半導体としては、例えばp型の半導体を用いることができる。p型の半導体の例としては、CuO、Cu
2O、CuSCN、酸化モリブデンや酸化ニッケルが挙げられる。無機半導体で正孔輸送層7を形成する場合、正孔輸送層7の厚さは、1nm以上1000nm以下であることが望ましく、10nm以上50nm以下であることがより望ましい。厚さがこの範囲内であれば、十分な正孔輸送性を発現できる。また、低抵抗を維持できるので、高効率に光発電を行うことができる。
【0105】
正孔輸送層7の形成方法としては、塗布法または印刷法を採用することができる。塗布法としては、例えば、ドクターブレード法、バーコート法、スプレー法、ディップコーティング法、スピンコート法が挙げられる。印刷法としては、例えばスクリーン印刷法が挙げられる。また、必要に応じて、混合物の膜を加圧、もしくは焼成するなどしてもよい。正孔輸送層7の材料が有機の低分子体や無機半導体である場合には、真空蒸着法などによって形成することも可能である。
【0106】
正孔輸送層7は、支持電解質および溶媒を含んでいてもよい。支持電解質および溶媒は、正孔輸送層7中の正孔を安定化させる効果を有する。
【0107】
支持電解質としては、例えば、アンモニウム塩、アルカリ金属塩が挙げられる。アンモニウム塩としては、例えば、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩やピリジニウム塩が挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えば、過塩素酸リチウムや四フッ化ホウ素カリウムが挙げられる。
【0108】
正孔輸送層7に含まれる溶媒は、イオン伝導性に優れるものが望ましい。水系溶媒および有機溶媒のいずれも使用できるが、溶質をより安定化するためには、有機溶媒が望ましい。具体例としては、tert−ブチルピリジン、ピリジン、n−メチルピロリドンなどの複素環化合物溶媒が挙げられる。
【0109】
また、溶媒としてイオン液体を、単独で、または他種の溶媒に混合して用いてもよい。イオン液体は、揮発性が低く、難燃性が高い点で望ましい。イオン液体としては、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレートなどイミダゾリウム系、ピリジン系、脂環式アミン系、脂肪族アミン系、アゾニウムアミン系のイオン液体を挙げることができる。
【0110】
(実施例)
以下、本開示を実施例によって具体的に説明する。ここでは、評価用のペロブスカイト太陽電池システム(以下、評価用システム)を作製し、その効果を評価した。
【0111】
<評価用システムの作製>
図7に示した太陽電池システム1003と実質的に同じ構造を有するシステムを作製した。評価用システムの各構成要素は、以下の通りである。
基板:ガラス基板 厚さ0.7mm(日本板硝子製)
第1電極:透明電極 フッ素ドープSnO
2層(表面抵抗10Ω/square)
電子輸送層:TiO
2 厚さ30nm
多孔質層:多孔質酸化チタン 厚さ0.2μm
光吸収層: CH
3NH
3PbI
3 厚さ0.5μm
正孔輸送層:Spiro−OMeTAD(Merck社製)
第2電極:Au 厚さ100nm
【0112】
評価用システムは、以下のようにして作製した。
【0113】
基板として、厚さ0.7mmの導電性ガラス基板(25mm×25mm)を用いた。基板の上には、第1電極として、フッ素ドープSnO
2層が配置されている。次に、第1電極上に、スパッタ法により厚さが約30nm厚の酸化チタン層を、電子輸送層として形成した。
【0114】
次に、平均1次粒子径が20nmの高純度酸化チタン粉末をエチルセルロース中に分散させ、スクリーン印刷用の酸化チタンペーストを作製した。電子輸送層の上に酸化チタンペーストを塗布して乾燥した。さらに500℃で30分間、空気中で焼成することによって、厚さが0.2μmの多孔質酸化チタン層(チタンコート)である多孔質層を形成した。
【0115】
次に、PbI
2を1mol/L、メチルアンモニウムを1mol/Lの濃度で含むDMSO(ジメチルスルホキシド)溶液を用意した。そして、多孔質層の上にこの溶液をスピンコートした。その後、基板31を130℃のホットプレート上で熱処理することにより、光吸収層3であるペロブスカイト層CH
3NH
3PbI
3を形成した。光吸収層3の厚さは500nmであった。
【0116】
Spiro−OMeTADを60mmol/L、LiTFSI(リチウム ビス(フルオロスルホニル)イミド)を30mmol/L、tBP(tert−ブチルピリジン)を200mmol/L、Co錯体(FK209:dyesol社製)を1.2mmol/Lの濃度で含むクロロベンゼン溶液を用意した。次いで、この溶液を光吸収層上にスピンコートすることにより、正孔輸送層を作製した。
【0117】
正孔輸送層上にAuを100nm蒸着し、第2電極とした。
【0118】
次に、太陽電池の第1電極、および、第2電極を電気化学アナライザ(BAS社製)と接続した。これにより、ペロブスカイト太陽電池に任意の電圧を印加できる評価用システムを構築した。
【0119】
<評価試験方法および結果>
評価用システムを用いて、実施例1〜3および比較例1〜6の評価試験を行った。
【0120】
[実施例1]
まず、光照射工程として、評価用システムにおける太陽電池に、ソーラーシミュレータを用いて100mW/cm
2の照度の光を照射し、この状態で、太陽電池からの出力電流の値の時間変化を測定した。光を60分間照射した後、光の照射を停止した。
【0121】
次いで、電圧印加工程として、電気化学アナライザを用いて、太陽電池に、発電時と逆方向に100μA/cm
2の回復電流が流れるような電圧を60分間印加した。
【0122】
このようにして、光照射工程および電圧印加工程を3回繰り返した。
【0123】
図8は、光照射工程における出力電流値の時間変化を示す図である。
【0124】
また、1回の電圧印加工程で消費される電力量(以下、「電圧印加工程における消費電力量」)を、以下の式に従って算出した。
(電圧印加工程における消費電力量)=(印加電圧)×(電流)×(電圧印加時間)
【0125】
さらに、60分間の光照射工程と60分間の電圧印加工程とを3回繰り返して行う際のシステム発電量を以下の式に従って算出した。
(システム発電量)=(光照射による太陽電池の発電量)―(電圧印加工程における消費電力量)
【0127】
[実施例2]
実施例2では、電圧印加工程において、回復電流が5μA/cm
2流れるような電圧を60分間印加した点以外は、実施例1と同様の方法で評価試験を行った。
【0128】
[実施例3]
実施例3では、電圧印加工程において、回復電流が1μA/cm
2流れるような電圧を60分間印加した点以外は、実施例1と同様の方法で評価試験を行った。
【0129】
[比較例1]
比較例1では、電圧印加工程において、回復電流が1mA/cm
2流れるような電圧を60分間印加した点以外は、実施例1と同様の方法で評価試験を行った。
【0130】
[比較例2]
比較例2では、電圧印加工程において、回復電流が0.1μA/cm
2流れるような電圧を60分間印加した点以外は、実施例1と同様の方法で評価試験を行った。
【0131】
[比較例3]
比較例3では、電圧印加工程において、回復電流が100μA/cm
2流れるような電圧を10時間印加した点以外は、実施例1と同様の方法で評価試験を行った。
【0132】
[比較例4]
比較例4では、電圧印加工程において、回復電流が1μA/cm
2流れるような電圧を100秒間印加した点以外は、実施例1と同様の方法で評価試験を行った。
【0133】
[比較例5]
比較例5では、実施例1と同様の光照射工程を行った後、電圧印加工程を行わずに、次の光照射工程を行った。このようにして、60分間の光照射工程を連続して3回繰り返し、システム発電量を算出した。
【0134】
[比較例6]
比較例6では、実施例1と同様の照射条件で、2時間の光照射工程を行った後、電圧印加工程を行わずに、次の2時間の光照射工程を行った。このようにして、2時間の光照射工程を連続して3回繰り返し、システム発電量を発電した。比較例6は、実施例1で電圧印加工程を行っている間も常に発電させている状態を表している。
【0135】
実施例1から3および比較例1から6の評価結果を、表1にまとめて示す。
【0137】
実施例1〜3および比較例5、6の結果から、電圧印加工程を行わずに発電を行い続けたとしても(比較例5、6)、実施例1〜3のように高いシステム発電量が得られないことが分かった。このことから、電圧印加工程を行うことによって、太陽電池の変換効率を回復させることができ、その結果、システム発電量を向上できることが確認された。
【0138】
また、実施例1〜3および比較例1、2の結果から、回復電流の大きさを適切に制御することにより、システム発電量を向上できることが確認された。具体的には、回復電流が大きすぎると(比較例1)、電圧印加工程における消費電力量が増大し、その結果、システム発電量が低下した。一方、回復電流が小さすぎると(比較例2)、電圧印加工程における消費電力量を低減できるものの、十分な回復効果が得られず、高いシステム発電量が得られなかった。
【0139】
さらに、実施例1〜3および比較例3、4の結果から、電圧印加時間を適切に制御することにより、システム発電量を向上できることが確認された。具体的には、電圧印加時間が長すぎると(比較例3)、電圧印加工程における消費電力量が増大し、その結果、システム発電量が低下した。一方、電圧印加時間を短縮しすぎると(比較例4)、電圧印加工程における消費電力量を低減できるものの、十分な回復効果が得られず、高いシステム発電量が得られなかった。
【0140】
従って、回復電流を1μA/cm
2以上100μA/cm
2以下の範囲で設定することが好ましいことが確認された。なかでも、1μA/cm
2以上5μA/cm
2以下であれば、電圧印加工程における消費電力量を低減しつつ、高い回復効果を得ることが可能である。
【0141】
電圧印加時間は、例えば光照射工程の時間の0.1倍以上10倍未満の範囲内で、回復電流の大きさに応じて適宜選択され得る。電圧印加時間および回復電流の大きさは、例えば、直前の光照射工程における太陽電池の発電量に対して、電圧印加工程における消費電力量(すなわち、電圧印加工程において電源から太陽電池に供給される電力量)が0.001%以上1%以下となるように選択されてもよい。