【文献】
Dale Carroll, William R. Richmond,Incorporation of molybdate anion into β-FeOOH,American Mineralogist,2008年,93(10),1641-1646
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被処理水に、塩化鉄(III)と、アルカリ金属の炭酸水素塩、炭酸塩及び水酸化物塩、並びに、アルカリ土類金属の炭酸水素塩、炭酸塩及び水酸化物塩から選ばれる1種以上の塩(S)とを添加して、前記被処理水中でアカガネイトを生成し、
前記被処理水中に予め含まれている、前記S成分以外の無機化合物の陰イオンと、前記アカガネイトとを接触させることによって、
前記アカガネイトに前記無機化合物の陰イオンを吸着させる水処理方法であって、
前記陰イオンは、セレン酸イオン又は亜セレン酸イオンであることを特徴とする水処理方法。
前記S成分は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、及び水酸化ナトリウムから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の水処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《水処理方法》
本発明にかかる水処理方法は、被処理水に、塩化鉄(III)と、アルカリ金属の炭酸水素塩、炭酸塩及び水酸化物塩、並びに、アルカリ土類金属の炭酸水素塩、炭酸塩及び水酸化物塩から選ばれる1種以上の塩(S)とを添加して、前記被処理水中でアカガネイトを生成し、前記被処理水中に予め含まれている、前記S成分以外の無機化合物の陰イオンと、前記アカガネイトとを接触させることによって、前記アカガネイトに前記無機化合物の陰イオンを吸着させる方法である。
【0010】
前記無機化合物としては、例えば、セレン、ヒ素、クロム、フッ素、硫黄、リン等の無機元素を含む無機化合物が挙げられる。具体的には、例えば、セレン、ヒ素、クロムのオキソ酸、フッ化水素酸(フッ酸)、硫酸、リン酸等が挙げられる。
【0011】
前記無機化合物としては、アカガネイトに高い吸着力を示す観点から、オキソ酸が好ましく、前記無機元素を含む、1価又は2価の無機オキソ酸がより好ましい。
ここで、オキソ酸とは、1つの無機原子に水酸基(−OH)及びオキソ基(=O)が結合しており、且つその水酸基のプロトンが脱離し得る無機化合物である。オキソ酸は水中では前記プロトンが脱離したオキソ酸イオンとなり得る。
【0012】
前記オキソ酸としては、アカガネイトに高い吸着力を示す観点から、セレンのオキソ酸が好ましく、セレンのオキソ酸イオンとしては、セレン酸イオン(SeO
42−)、セレン酸水素イオン(HSeO
4−)、亜セレン酸イオン(SeO
32−)、亜セレン酸水素イオン(HSeO
3−)が挙げられる。
【0013】
被処理水に予め含まれる前記無機化合物の陰イオン(目的の陰イオン)に対する吸着剤として用いるアカガネイト(赤金鉱)(Akaganeite)は、化学組成β−Fe
3+(O(OH,Cl))で表される酸化鉄鉱物である。その結晶系は単斜晶系で、空間群I2/m、単位格子:a=10.600,b=3.0339,c=10.513,β=90.24°という結晶学的データが学術論文“Post J E, Buchwald V F, American Mineralogist, 76 (1991) p.272-277, Crystal structure refinement of akaganeite”に記載されている。この論文で明らかにされたアカガネイトの結晶構造には塩化物イオンを保持するトンネル構造が存在し、そのトンネルの壁から中心に向けて水酸基が差し出されていることも記載されている。
図2は、上記トンネル構造を模式的に表した図である。図中、灰色丸は酸素原子を表し、白色丸は水素原子を表し、八面体の中央の丸は鉄原子を表し、トンネル内の黒色丸は、塩化物イオン及び水素イオンが同じ占有率(50:50)で存在することを示す。
【0014】
本発明においては、被処理水中で生成したアカガネイトを目的の陰イオンに接触させると、目的の陰イオンがアカガネイトの上記トンネル構造にトラップされて吸着すると考えられる。この吸着によってトンネル構造に予め存在する塩化物イオンが目的の陰イオンに置換されて脱離する(試験例2参照)。
【0015】
被処理水に予め含まれる目的の陰イオンの種類は、被処理水中でアカガネイトを生成するために被処理水に添加する塩化鉄(III)及び前記S成分を構成する陰イオン以外であれば特に限定されない。
被処理水に予め含まれる目的の陰イオンは1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0016】
被処理水に予め含まれる目的の陰イオンの合計濃度としては、例えば、100mmol(ミリモル)/L以下が好ましく、10mmol/L以下がより好ましく、1mmol/L以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、被処理水中でアカガネイトが充分に生成され、目的の陰イオンがアカガネイトの生成を妨げることを抑制できる。上記範囲の下限値は特に限定されず、例えば、1nm(ナノモル)/Lとすることができる。
【0017】
被処理水に、塩化鉄(III)と前記S成分を溶解させる順序は特に限定されないが、アカガネイト生成時の被処理水のpHを酸性に維持するために、塩化鉄(III)を先に溶解することが望ましい。
【0018】
前記S成分を構成可能なアルカリ金属は周期表の第1族元素であり、アルカリ土類金属は周期表の第2族元素である。
前記S成分は、アカガネイトを高収率で合成する観点から、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムの何れかのカチオンを含む、炭酸水素塩、炭酸塩及び水酸化物塩から選ばれる1種以上が好ましい。
【0019】
塩化鉄(III)と前記S成分を被処理水に溶解させることにより、被処理水中で電離したイオン同士が自然に反応してアカガネイトが生成される。より詳しくは、前記S成分を水中に溶解させると水酸化物イオンが生成される。この水酸化物イオンと鉄イオンが、塩化物イオンが多く溶存する酸性水溶液中で反応することにより、アカガネイトが生成される。
アカガネイトの生成反応を促進するために、被処理水を例えば40〜100℃程度に加熱してもよい。
【0020】
アカガネイトを生成させる際の被処理水のpHは、7未満が好ましく、4未満がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。
pH7未満であると、塩化物イオン存在下においてアカガネイトが容易に生成される。
pH4未満であると、特にpH3以下であると、塩化物イオン存在下において高収率でアカガネイトを生成することができる。なお、pH4〜6でもアカガネイトは容易に形成されるが、このpH範囲であると、生成しつつあるアカガネイト同士が凝集して未反応の塩化鉄(III)又は塩(S)が取り込まれる場合がある。一方、pHがアルカリ性であると、異なる構造の酸化鉄鉱物(例えば、ゲータイト、スクメタイト等)が生成される可能性が高い。
【0021】
アカガネイトを生成させる際の被処理水のpHの調整は、塩化鉄(III)及び前記S成分のうち少なくとも一方を前記被処理水に添加する前に行ってもよいし、両方を前記被処理水に溶解した後で行ってもよい。ただし、両方を溶解した前記被処理水のpHがアルカリ性の状態で放置すると、アカガネイト以外の酸化鉄鉱物が生成される恐れがある。したがって、前記両方を溶解した後で速やかに、或いは前記少なくとも一方を溶解する前又は溶解中に、前記被処理水のpHを酸性に調整し、酸性のpHを維持することが好ましい。
【0022】
被処理水のpHを調整する方法は、塩酸を滴下する方法が好ましい。塩酸を用いればアカガネイトの生成に有用な塩化物イオン以外の余計な陰イオン(例えば硫酸イオン等)を被処理水に投入することを防ぎ、その余計な陰イオンがアカガネイトに吸着することを防止できる。また、水酸化ナトリウムを用いて前記水溶液のpHを調整して維持することも好ましい。
【0023】
アカガネイトを生成するために被処理水に添加して溶解する塩化鉄(III)の量は特に限定されず、例えば0.01〜3モル/Lとすることができる。同様に、被処理水に添加して溶解する前記S成分の合計量は特に限定されず、例えば0.01〜3モル/Lとすることができる。
【0024】
塩化鉄(III)及び前記S成分を添加して溶解した前記被処理水中において、塩化鉄(III)によって生成されるFe
3+と、前記S成分によって生成されるOH
−とのモル比は、1:1〜1:3であることが好ましく、1:1.5〜1:2.5であることがより好ましく、1:1.8〜1:2.2であることがさらに好ましい。理論的には、1:2のモル比が最も好ましい。
上記モル比が1:2に近い上記範囲であると、前記被処理水中のFe
3+が有する正電荷量と、OH
−が有する負電荷量とがアカガネイトの生成に適したバランスとなり、塩化鉄(III)に由来するFe
3+のほとんど全てを反応で消費して、アカガネイトを容易に高い収率で生成させることができる。
【0025】
具体的には、例えば、0.1モルの炭酸水素ナトリウムを溶解させた1Lの水溶液中において、炭酸のみかけの(二酸化炭素との平衡の影響を受けた)酸解離定数pKa
1=6.3を考慮して、溶液pHがpKa
1よりも1以上低い、pH5.3以下である場合、水溶液中に生成する水酸化物イオン濃度(炭酸分子濃度)は0.09〜0.1モル/L程度と考えられる。これに基づき、塩化鉄(III)の濃度は、0.09〜0.1モル/Lの1/3〜1倍の濃度が好ましく、1/2〜1倍の濃度がより好ましい。
また、例えば、0.1モルの炭酸ナトリウムを溶解させた1Lの水溶液中において、炭酸の酸解離定数pKa
2=10.3及び上記みかけの酸解離定数pKa
1=6.3を考慮して、溶液pHが5.3以下において、水溶液中に生成する水酸化物イオン濃度(炭酸分子濃度)は0.18〜0.2モル/L程度と考えられる。これに基づき、塩化鉄(III)の濃度は、0.18〜0.2モル/Lの1/3〜1倍の濃度が好ましく、1/2〜1倍の濃度がより好ましい。
また、例えば、0.1モルの水酸化ナトリウムを溶解させた1Lの水溶液中において、その酸解離定数pKa=13を考慮して、溶液pHが7以下の酸性域において、水溶液中に生成する水酸化物イオン濃度はほぼ0.1モル/Lと考えられる。これに基づき、塩化鉄(III)の濃度は、0.1モル/Lの1/3〜1倍の濃度が好ましく、1/2〜1倍の濃度がより好ましい。
【0026】
何れの炭酸水素塩、炭酸塩、水酸化物塩を用いる場合にも、当該塩のpKa
1よりも当該水溶液のpHが1以上低ければ、溶解した塩のモル濃度の0.9〜2倍程度の水酸化物イオンが生成する。よって、塩化鉄(III)は、上記のpH域において、溶解した前記S成分のモル濃度の約0.3〜2倍(生成する水酸化物イオン濃度の1/3〜1倍)の濃度で溶解することが好ましく、0.45〜1倍(生成する水酸化物イオン濃度の1/2倍)の濃度で溶解することがより好ましい。
【0027】
また、上記を総合的に考慮して、塩化鉄(III)及び前記S成分を添加して溶解した前記被処理水中において、塩化鉄(III)と前記S成分とのモル比は2:1〜1:3であることが好ましい。
上記モル比の範囲であると、前記被処理水中のFe
3+とOH
−の電荷バランスが良好となり、アカガネイトを容易に高い収率で生成させることができる。
【0028】
前記被処理水中におけるアカガネイトの生成反応の終了は、被処理水(反応液)が暗褐色から赤褐色に変化したことを目安にして経験的に判断することができる。アカガネイトの生成反応の開始後、その反応が一段落するまでに要する時間は10〜25℃において例えば3〜5分程度である。
【0029】
生成したアカガネイトを含む被処理水中において、目的の陰イオンはアカガネイトに接触して吸着する。被処理水を撹拌することにより、アカガネイトが分散して目的の陰イオインを吸着し易くなる。
アカガネイトに目的の陰イオンを吸着させる際の被処理水(アカガネイト分散液)のpHは、10以下が好ましく、2以上9以下がより好ましく、3以上7以下がさらに好ましく、4以上6以下が特に好ましい。
処理中の前記被処理水のpHが9以下であると、アカガネイトの分解を防止し、アカガネイトによる目的の陰イオンの吸着力を高めることができる。
処理中の前記被処理水のpHが低いほど、アカガネイトの前記トンネル構造の中心を向く水酸基に結合するプロトンが増える。これにより前記トンネル構造内が負電荷を帯びることを抑制し、前記トンネル構造内に目的の陰イオンをより容易に吸着させることができる。したがって、目的の陰イオンの吸着力を高める観点から、処理中の前記被処理水のpHは、pH2〜5が好ましく、pH2〜4がより好ましく、pH2〜3がさらに好ましい。
処理中の前記被処理水のpHが4以上6以下であると、アカガネイト同士が凝集し易くなり、アカガネイトの回収が容易になる観点から好ましい。
前記被処理水のpHを調整する方法は特に限定されず、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、後述する前記S成分を添加する方法が挙げられる。
【0030】
アカガネイトに目的の陰イオンを吸着させる際の被処理水の温度は特に限定されず、例えば、4〜60℃が好ましく、15〜50℃がより好ましく、30〜40℃がさらに好ましい。
上記温度範囲であると、アカガネイトによる目的の陰イオンの吸着力を高めることができる。上記温度範囲の下限値以上であると、被処理水中における目的の陰イオンの拡散速度が高まり、アカガネイトに接触して吸着する効率がより高められる。上記温度範囲の上限値以下であると、一度吸着した陰イオンがアカガネイトから脱離することをより低減することができる。
【0031】
被処理水に含まれる目的の陰イオンの含有量に対して、この被処理水において生成するアカガネイトの量は特に限定されず、予備実験を行って経験的に目的の陰イオンを充分に吸着できることを確認した量に設定すればよい。
通常、アカガネイトの生成量を多くすれば、吸着可能な陰イオンの量も多くなり、例えば、アカガネイトによる無機オキソ酸イオンの吸着量として0.3〜0.5mol/kgが挙げられる。
【0032】
目的の陰イオンを吸着したアカガネイトを回収する方法としては、例えば、沈殿法、濾過法等が挙げられる。沈殿法としては、例えば、被処理水を静置して沈殿させる方法、被処理水に硫酸バンド、PAC、高分子ポリマー凝集剤等を添加して凝集させて沈殿させる方法、被処理水のpHを4〜6に調整してアカガネイト同士を凝集させる方法等が挙げられる。この際、凝集を妨げない温度範囲で、例えば10〜40℃で行うことが好ましい。
【0033】
pHを調整してアカガネイトが凝集するまでに要する時間は10〜25℃において例えば5〜10程度である。被処理水のpHを4以上〜pH6以下に調整する方法としては、被処理水に前記S成分を追加して添加する方法が好ましい。前記S成分を用いることにより、余計な陰イオン(例えば硫酸イオン等)が前記被処理水に混入してアカガネイトに吸着することを防止できる。
【0034】
以上の水処理方法によって、塩化鉄(III)として投入した鉄原子の全てがアカガネイトになった場合の収率をモル基準で100%であるとした場合、例えば収率90〜99%でアカガネイトを回収して得ることができる。回収されたアカガネイトの形状は、乾燥した状態では粉末状であることが多い。
【実施例】
【0035】
(アカガネイトの合成)
0.2mol/Lの塩化鉄(III)水溶液1Lに、0.4mol/Lの水酸化ナトリウム1Lを添加して、5分間穏やかに撹拌しながら、約pH2の水溶液(Fe
3+:OH
−=約1:2)中でアカガネイトを生成した。次いで、生成したアカガネイトが含まれた懸濁液に、水酸化ナトリウムをさらに添加し、pH4〜5に調整し、5分間穏やかに撹拌しながら、アカガネイト同士を凝集させた。凝集したアカガネイトを濾過で回収し、乾燥した粘土状のアカガネイトの塊を得た。この塊を乳鉢で砕いて粉体としたアカガネイトを以下の実験に用いた。
塩化鉄(III)として投入した鉄イオンの全てがアカガネイトになった場合の収率をモル基準で100%であるとした場合、収率95%でアカガネイトを回収して得た。
合成したアカガネイトをXRDで分析したところ、アカガネイトを示すピークが確認された。
【0036】
[試験例1]
セレンを10mg/L含むセレン酸ナトリウム水溶液(pH9)を調製した。上記合成で得たアカガネイトを用いて、以下の実験手順を行った。
(1)セレン酸イオンを含む上記水溶液に、上記で合成したアカガネイトを、0.015、0.025、0.05、0.1、0.2、0.5、1.0(単位:w/w%)の各濃度で添加した。pH6に調整した上記水溶液を20℃で1時間撹拌した後に、アカガネイトを沈殿させ、上澄み液を回収し、セレン酸イオン濃度をJIS K0102:2013年の「67.セレンの水素化合物発生ICP発光分光分析法」によって測定した。
(2)セレン酸イオンを含む上記水溶液に、グリーンラストを、0.15w/w%〜1.0w/w%の重量比となるように添加した。pH6となった上記水溶液を20℃で1時間撹拌した後に、グリーンラストを沈殿させ、上澄み液を回収し、セレン酸イオン濃度を上記方法で測定した。
(3)セレン酸イオンを含む上記水溶液に、シュベルトマナイトを、0.015、0.025、0.05、0.1、0.2、0.5、1.0(単位:w/w%)の各濃度で添加した。pH6に調整した上記水溶液を20℃で1時間撹拌した後に、シュベルトマナイトを沈殿させ、上澄み液を回収し、セレン酸イオン濃度を上記方法で測定した。
上記実験によって、アカガネイト、グリーンラスト、シュベルトマナイトの各酸化鉄鉱物におけるセレン酸イオンに対する吸着等温線を得た(
図1)。
図1に示す結果から、溶存セレン酸イオンの平衡濃度が環境基準(0.01 mg/L)以下になる酸化鉄鉱物は、アカガネイトだけであり、その吸着量が最も高いことが明らかである。
【0037】
[試験例2]
硫酸を約1200mg/L(約12.5mmol/L)で含む水溶液(pH10)に、上記で合成したアカガネイトを、0.1、0.5、1.0、2.0、3.0(単位:w/w%)の各濃度で添加した。pHを6に調整した上記水溶液を20℃で1時間撹拌した後に、アカガネイトを沈殿させ、上澄み液を回収し、硫酸イオンと、塩化物イオンの濃度をそれぞれイオンクロマトグラフ法によって測定した。
その結果、
図3のグラフに示すように、アカガネイトの添加量に比例して、水溶液中の塩化物イオン濃度が増加し、それに伴って硫酸イオン濃度が低下した。増加した塩化物イオン濃度は、低下した硫酸イオン濃度の約2倍であった。この結果は、アカガネイトから脱離した塩化物イオンの電荷量と、アカガネイトに吸着した硫酸イオンの電荷量とがほぼ同じであることを意味する。
以上の結果から、アカガネイトを構成する塩化物イオンは、別の陰イオンを吸着する際に置換されると考えられる。
【0038】
[実施例1]
セレン酸イオンを0.0038 mmol/L(0.3mg/L)で含む被処理水(pH9,20℃)を調製した。この被処理水1Lに、塩化鉄(III)31.5 mmol、水酸化ナトリウム63 mmolを順次添加したところ、被処理水はpH1〜3となり、アカガネイトと考えられる沈殿が生成した。生成したアカガネイトを含む、pH1〜3の水溶液を20℃で1時間撹拌した後、被処理水の上澄みに含まれるセレン酸イオンを上記と同様のICP発光分光分析法で測定した。その結果、セレン酸イオンの濃度は0.0085mg/Lに低下していた。
また、被処理水に生成した沈殿を濾過法で回収して分析したところ、セレン酸イオンを含むアカガネイトであることが分かった。
【0039】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、公知の構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。