(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796824
(24)【登録日】2020年11月19日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】放射線遮蔽壁
(51)【国際特許分類】
G21F 3/00 20060101AFI20201130BHJP
G21F 1/04 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
G21F3/00 S
G21F1/04
G21F3/00 L
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-170972(P2016-170972)
(22)【出願日】2016年9月1日
(65)【公開番号】特開2018-36200(P2018-36200A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門脇 秀宜
【審査官】
鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−092462(JP,A)
【文献】
米国特許第05225685(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 1/00
G21F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形板状のプレキャストコンクリートパネルを互いに端面を突き合わせて複数並設することによって構成される放射線遮蔽壁であって、
前記プレキャストコンクリートパネルは、一定の板厚を有した本体部と、前記本体部の両端部に前記本体部よりも大きな板厚を有して形成され、隣接するプレキャストコンクリートパネルとの間に目地材が配設される目地部と、を有し、
前記目地部の板厚は、前記プレキャストコンクリートパネルの並設方向に沿い、かつ前記本体部の表面に直交する基準平面上において内側となる表面から外側の表面に至るすべての直線に対して、前記プレキャストコンクリートパネルの部分を通過する通過長さの総和が、前記本体部の板厚以上となるように構成されていることを特徴とする放射線遮蔽壁。
【請求項2】
前記プレキャストコンクリートパネルは、前記本体部に対して内側となる表面から前記目地部が突出していることを特徴とする請求項1に記載の放射線遮蔽壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線遮蔽壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線遮蔽壁としては、複数のプレキャストコンクリートパネル(以下PCaパネルと記す)を連続させて形成するものがある(例えば特許文献1参照)。この放射線遮蔽壁では、PCaパネルとPCaパネルとの間に継ぎ目ができる。継ぎ目に充填される目地材は、PCaパネル部分と比較して放射線遮蔽性能が低い。このため、この種の放射線遮蔽壁では、PCaパネルの板厚が、目地材のみで放射線を遮蔽できる寸法に設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−333345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、目地材のみで放射線を遮蔽できる寸法は、コンクリートのみで放射線を遮蔽できる寸法より大きくなるため、放射線遮蔽壁が無駄に厚くなり、製造コストが嵩むという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、製造コストを抑えて放射線遮蔽性能を満たすことのできる放射線遮蔽壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る放射線遮蔽壁は、矩形板状のプレキャストコンクリートパネルを互いに端面を突き合わせて複数並設することによって構成される放射線遮蔽壁であって、前記プレキャストコンクリートパネルは、一定の板厚を有した本体部と、前記本体部の両端部に前記本体部よりも大きな板厚を有して形成され、隣接するプレキャストコンクリートパネルとの間に目地材が配設される目地部と、を有し、前記目地部の板厚は、前記プレキャストコンクリートパネルの並設方向に沿い、かつ前記本体部の表面に直交する基準平面上において内側となる表面から外側の表面に至るすべての直線に対して、前記プレキャストコンクリートパネルの部分を通過する通過長さの総和が、コンクリートで放射線の要求遮蔽性能を満たす最低遮蔽寸法以上となるように構成され、前記本体部の板厚は、前記最低遮蔽寸法以上であって、前記目地部の板厚より小さい値に設定されたものであることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る放射線遮蔽壁においては、プレキャストコンクリートパネルは、本体部に対して内側となる表面から目地部が突出しているとよい。
【発明の効果】
【0008】
これらの構成によれば、プレキャストコンクリートパネルの並設方向に沿い、かつ本体部の表面に直交する基準平面上において内側となる表面から外側の表面に至るすべての直線に対して、プレキャストコンクリートパネルを通過する通過長さの総和が、最低遮蔽寸法以上となるように目地部を形成しているので、幾何的な計算によって目地部の板厚を容易に算出することができる。しかも、プレキャストコンクリートパネルの本体部については、最低遮蔽寸法以上であって目地部の板厚より小さい寸法に設定しているので、プレキャストコンクリートパネル全体のコンクリート量が少なくて済み、製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る放射線遮蔽壁を示した背面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した放射線遮蔽壁のA−A線断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示した放射線遮蔽壁を構成するプレキャストコンクリートパネルを示す斜視図である。
【
図4】
図4は、
図2に示した放射線遮蔽壁の要部を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る放射線遮蔽壁の好適な実施形態について詳細に説明する。
図1及び
図2に示すように、放射線遮蔽壁1は、複数のプレキャストコンクリートパネル(以下PCaパネルと記す)2の端面同士を突き合わせるように並設して構成したものである。
【0011】
PCaパネル2は、コンクリートを用いて工場生産されたプレキャストコンクリート製品であり、外形が長方形状となるように構成している。PCaパネル2は、
図3に示すように、本体部11と目地部12a,12bとを有している。本体部11は、一定の板厚w1を有した平板状に形成したものである。本体部11の板厚w1は、PCaパネル2の原材料であるコンクリートによって放射線の要求遮蔽性能を満たす最低遮蔽寸法Sに設定してある。この板厚w1は、必ずしも最低遮蔽寸法Sに一致している必要はなく、後述する目地部12a,12bの板厚w2よりも小さい値であれば、最低遮蔽寸法Sを超える値であっても良い。
【0012】
目地部12a,12bは、本体部11の両端部に設けられた厚板部分であり、それぞれが本体部11の一方の表面22から突出するように形成してある。目地部12a,12bは、その一方側の表面31が、本体部11の他方の表面23と同一平面上に存在するように形成されている。本体部11の一方の端部に設けた目地部12aは、第一の端面13と段差面14と第二の端面15とを有している。第一の端面13は、目地部12aの一方側の表面31から他方側の表面32に向けて本体部11の延在方向と直交するように形成された平面である。段差面14は、第一の端面13の延在方向一端から、
図3において上方に向けて、第一の端面13と直交するように延在している平面である。第二の端面15は、段差面14の延在方向一端から、目地部12aの表面32側に向けて、第一の端面13と平行に延在している平面である。
【0013】
もう一方の端部に設けた目地部12bは、第一の端面16と段差面17と第二の端面18とを有している。第一の端面16は、目地部12bの一方側の表面31から他方側の表面32に向けて本体部11の延在方向と直交するように形成された平面である。段差面17は、第一の端面16の延在方向一端から、
図3において上方に向けて、第一の端面16と直交する方向に延在している平面である。第二の端面18は、段差面17の延在方向一端から、表面32側に向けて、第一の端面16と平行に延在している平面である。
【0014】
目地部12a,12bは、互いに同じ板厚w2であり、2つのPCaパネル2の目地部12aと目地部12bとを互いに対向させた場合に、第一の端面13と第一の端面16とが対向し、段差面14と段差面17とが対向し、第二の端面15と第二の端面18とが対向する。それぞれの端面の寸法は、互いに等しい間隔を確保して配置することができるように設定してある。
【0015】
上記のように構成されたPCaパネル2は、一方の目地部12aと他方の目地部12bとが対向するとともに、目地部12a,12bの突出した部分21a,21bが、放射線源Bと対向するように順次並設し、目地部12a,12bの間に目地材3を充填することで放射線遮蔽壁1を構成する。
【0016】
ここで、目地部12a,12bの板厚w2は、放射線遮蔽壁1を構成した状態、つまり、隣接するパネルの目地部12a,12bを互いに対向させた状態において、PCaパネル2の並設方向に沿い、かつ本体部11の表面22,23に直交する仮想の基準平面Hを設定し、この基準平面H上において表面32から表面31に至るすべての直線に対して、PCaパネル2のコンクリート部分を通過する通過長さの総和が、最低遮蔽寸法Sと同等以上となるように構成している。
【0017】
例えば、
図4において、内側に露出した目地材3を通過して放射線遮蔽壁1に直交する直線X1は、基準平面H上においてPCaパネル2のコンクリート部分を通過する長さの総和がaとなる。従って、PCaパネル2では、目地部12bにおいて表面31から段差面17までの板厚aがS=<aとなるように設定してある。同様に、外側に露出した目地材3を通過して放射線遮蔽壁1に直交する直線X2は、基準平面H上においてコンクリート部分を通過する長さの総和がbとなる。従って、PCaパネル2では、目地部12aにおいて段差面14から表面32までの板厚bがS=<bとなるように設定してある。また、コンクリート部分と目地材3とを交互に通過するように放射線遮蔽壁1に対して斜めとなる直線X3は、基準平面H上においてコンクリート部分を通過する長さの総和gがc+d+e+fとなる。従って、PCaパネル2では、長さgが、S=<g(=c+d+e+f)を満足するように目地部12a,12bの板厚w2が設定してある。以下、同様にして幾何的に算出すれば、目地部12a,12bの板厚w2を決定することができる。このように基準平面H上の直線X1、X2,X3すべてにおいてPCaパネル2のコンクリート部分を通る長さの総和がそれぞれ最低遮蔽寸法S以上に設定してあれば、目地材3の放射線遮蔽性能に関わらず、放射線遮蔽壁1としての放射線遮蔽性能を満たすことができる。
【0018】
PCaパネル2の外側となる表面(表面23,31)には、
図4において、下側に2か所、PCaパネル2の延在方向に所定の間隔を空けて、第一ファスナー41が埋め込まれている。第一ファスナー41は、PCaパネル2の外側となる表面から板状部41aが突出するように形成されている。板状部41aは、その板面がPCaパネル2の外側となる表面と垂直となり、PCaパネル2の延在方向と平行となるように配設されている。
【0019】
PCaパネル2には、
図4において、上側に2か所、PCaパネル2の延在方向に所定の間隔を空けて、第二ファスナー42が埋め込まれている。第二ファスナー42はボルトが嵌め込まれる孔を形成する金具である。
【0020】
このように形成されているPCaパネル2は、大梁51に配設された受鉄骨52に第一ファスナー41を載せるようにして配設する。受鉄骨52の上部からは、ピン53が突出しており、このピン53を第一ファスナー41の板状部41aに形成された孔に挿入する。また、PCaパネル2の上部は、第二ファスナー42と上階の大梁とをアングルを介して結合させる。受鉄骨52は、大梁51の長さ方向に沿った中心線Lから外れた位置(内側)に配設されているが、PCaパネル2は、本体部11を大梁51よりに凹ませることで重心が大梁51寄りとなるように形成されているので、大梁51のねじれを小さくできる。
【0021】
本実施の形態では、PCaパネル2の並設方向に沿い、かつ本体部11の表面22,23に直交する仮想の基準平面Hを設定し、この平面上において表面32から表面31に至るすべての直線に対して、PCaパネル2を通過する通過長さの総和が、最低遮蔽寸法S以上となるように目地部12a,12bの厚さ方向の寸法を決定している。従って、目地材3の放射線遮蔽率を実験や高度な演算によって求めなくとも目地部12a,12bの放射線遮蔽性能を満たすことができ、製造コストを抑えることができる。更に、PCaパネル2の本体部11の板厚w1は、コンクリートによる最低遮蔽寸法S以上であって、目地部12a,12bの板厚w2より小さくなるように形成しているので、PCaパネル2全体のコンクリート量が少なくて済み、製造コストを抑えることができる。
【0022】
なお、外形が長方形のパネルを例示しているが、平行四辺形や台形であっても同様に目地部を構成することが可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 放射線遮蔽壁
2 プレキャストコンクリートパネル
3 目地材
11 本体部
12a,12b 目地部
13 第一の端面
14 段差面
15 第二の端面
16 第一の端面
17 段差面
18 第二の端面
22,23 表面
31,32 表面