特許第6796864号(P6796864)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6796864核酸送達用キャリア、核酸送達用キット、及び核酸送達方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796864
(24)【登録日】2020年11月19日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】核酸送達用キャリア、核酸送達用キット、及び核酸送達方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20201130BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20201130BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20201130BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20201130BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20201130BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20201130BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20201130BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20201130BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   A61K31/7088
   A61K31/713
   A61P35/00
   A61P15/00
   A61K9/127
   A61K48/00
   A61K47/24
   A61K47/18
   A61K47/32
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-523717(P2017-523717)
(86)(22)【出願日】2016年6月10日
(86)【国際出願番号】JP2016067382
(87)【国際公開番号】WO2016199895
(87)【国際公開日】20161215
【審査請求日】2019年4月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-117429(P2015-117429)
(32)【優先日】2015年6月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】金澤 秀子
(72)【発明者】
【氏名】王 堅
【審査官】 岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−269846(JP,A)
【文献】 特開2003−212755(JP,A)
【文献】 国際公開第2001/080900(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第01046394(EP,A1)
【文献】 SAKAGUCHI Naoki et al.,Enhancement of transfection activity of lipoplexes by complexation with transferrin-bearing fusogeni,International Journal of Pharmaceutics,2006年,Vol.325,No.1-2,p.186-190
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7088
A61K 9/127
A61K 31/713
A61K 47/18
A61K 47/24
A61K 47/32
A61K 48/00
A61P 15/00
A61P 35/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜融合性能を有するリポソームからなる、細胞内への核酸送達用キャリアであって、
前記リポソームは、膜構成成分としてカチオン性脂質を含み、
前記リポソームの表面が温度応答性ポリマーで修飾され、
前記温度応答性ポリマーは、水に対する下限臨界溶解温度以下の温度で前記リポソーム表面に水和層を形成させ、かつ、水に対する下限臨界溶解温度以上で疎水化し、
前記温度応答性ポリマーは、下記式(5)又は下記式(8)で表される脂質修飾温度応答性ポリマーである、
核酸送達用キャリア。
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記温度応答性ポリマーの水に対する下限臨界溶解温度が35.0〜45.0℃である、請求項1に記載の核酸送達用キャリア。
【請求項3】
前記リポソームは、膜構成成分としてリン脂質を含む、請求項1又は2に記載の核酸送達用キャリア。
【請求項4】
子宮頸癌細胞内への核酸の送達に用いられる、請求項1から3のいずれかに記載の核酸送達用キャリア。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の核酸送達用キャリアを含む、細胞内への核酸送達用キット。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の核酸送達用キャリアと核酸との複合体と、単離された細胞とを接触させる工程、又は、
前記核酸送達用キャリアと核酸との複合体をヒトを除く動物に投与する工程を有する、細胞内への核酸送達方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内への核酸送達用キャリア、核酸送達用キット、及び核酸送達方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療において、siRNA等の核酸を単独で静脈内へ投与すると、細網内皮系(RES)による取り込みやヌクレアーゼ等による分解によって、血中から消失しやすいため、標的細胞へのsiRNA等の核酸を到達させることは困難である。そのため、核酸をより効率的に標的細胞へ送達することに適した、薬物送達システム(Drug Delivery System:DDS)のためのキャリアが、従来より必要とされている。
【0003】
他方、近年、リポソームのDDSへの利用が注目されている。リポソームは、細胞膜と同様の脂質二分子膜構造を有する球状の粒子であり、核酸と複合体を形成して核酸を安定に保持できることから、核酸のDDSにも使用されている。
【0004】
例えば、インビトロジェン株式会社製のリポフェクタミン(登録商標)(非特許文献1を参照)は、効率的にsiRNAを細胞内へと送達可能なDDSのキャリアとして、従来から利用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】https://www.lifetechnologies.com/order/catalog/product/13778030
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のリポフェクタミン(登録商標)は、核酸の細胞内への送達効率には優れるものの、核酸送達後に細胞が死滅しやすいという点で問題がある。
【0007】
他方、リポソームの表面をPEG(ポリエチレングリコール)で修飾することで、核酸の送達後の細胞の死滅を抑えることは可能である。しかし、PEGで表面が修飾されたリポソームでは、核酸の細胞内への送達効率は低い。
【0008】
核酸送達後の細胞の死滅を抑え、かつ、核酸の細胞内への送達効率に優れた核酸送達用キャリアは、未だ存在しなかった。
【0009】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、核酸送達後の細胞の死滅の抑制効果に優れ、かつ、核酸の細胞内への送達効率に優れた核酸送達用キャリア、核酸送達用キット、及び核酸送達方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、膜構成成分としてカチオン性脂質を含むリポソームの表面を温度応答性ポリマーで修飾することで、核酸送達後の細胞の死滅の抑制しつつ、核酸の細胞内への送達効率に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) 膜融合性能を有するリポソームからなる、細胞内への核酸送達用キャリアであって、
前記リポソームは、膜構成成分としてカチオン性脂質を含み、
前記リポソームの表面が温度応答性ポリマーで修飾された、核酸送達用キャリア。
【0012】
(2) 前記温度応答性ポリマーの水に対する下限臨界溶解温度が35.0〜45.0℃である、(1)に記載の核酸送達用キャリア。
【0013】
(3) 前記リポソームは、膜構成成分としてリン脂質を含む、(1)又は(2)に記載の核酸送達用キャリア。
【0014】
(4) 子宮頸癌細胞内への核酸の送達に用いられる、(1)から(3)のいずれかに記載の核酸送達用キャリア。
【0015】
(5) (1)から(4)のいずれかに記載の核酸送達用キャリアを含む、細胞内への核酸送達用キット。
【0016】
(6) (1)から(4)のいずれかに記載の核酸送達用キャリアと核酸との複合体と、単離された細胞とを接触させる工程、又は、
前記核酸送達用キャリアと核酸との複合体をヒトを除く動物に投与する工程を有する、細胞内への核酸送達方法。
【0017】
本発明によれば、核酸送達後の細胞の死滅の抑制効果に優れ、かつ、核酸の細胞内への送達効率に優れた核酸送達用キャリア、核酸送達用キット、及び核酸送達方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1、比較例1、対照例1、2についてのルシフェラーゼ活性の測定結果のグラフを示す図である。
図2】実施例1、比較例1〜3、対照例2についてのルシフェラーゼ活性の測定結果のグラフを示す図である。
図3】実施例1、比較例1、対照例3、4についての細胞生存率の測定結果のグラフを示す図である。
図4】実施例1、比較例1、比較例3についての30℃又は40℃におけるルシフェラーゼ活性の測定結果のグラフを示す図である。
図5】実施例2についての37℃又は42℃におけるルシフェラーゼ活性の測定結果のグラフを示す図である。
図6】カルボキシフルオレセインを封入した実施例1に係るリポソームに対する、Triton処理前と処理後の蛍光強度の測定結果のグラフを示す図である。
図7】カルボキシフルオレセインを封入した実施例1に係るリポソーム、及び比較例1に係るリポソームについてのルシフェラーゼ活性の測定結果のグラフを示す図である。
図8】実施例1、比較例1、比較例3を用いてプラスミド(MSCV−IRES−GFPプラスミド)をHeLa細胞にトランスフェクションさせたときに、GFPを発現した細胞の割合のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されず、適宜変更可能である。
【0020】
<核酸送達用キャリア>
本発明の核酸送達用キャリアは、膜融合性能を有するリポソームからなる、細胞内への核酸送達用キャリアであって、リポソームは、膜構成成分としてカチオン性脂質を含み、リポソームの表面が温度応答性ポリマーで修飾されたものである。本発明の核酸送達用キャリアは、かかる構成により、核酸送達後の細胞の死滅の抑制効果に優れ、かつ、核酸の細胞内への送達効率に優れる。
【0021】
本発明の核酸送達用キャリアが、核酸送達後の細胞の死滅の抑制効果に優れ、かつ、核酸の細胞内への送達効率に優れる理由は、以下のとおりであると推測される。
【0022】
本発明の核酸送達用キャリアは、リポソーム表面に温度応答性ポリマーが修飾されることで、温度応答性ポリマーが下限臨界溶解温度以下のときには、該ポリマーが水和層を形成し、これによりカチオン性脂質による細胞毒性を抑制することが可能であり、また、温度上昇により温度応答性ポリマーが疎水性となることにより、形成された水和層が減少することにより細胞親和性が向上し、膜融合性能を有する脂質であるためにリソソームを経由せず細胞内へ直接核酸を送達することができる。これにより、結果的に、本発明の核酸送達用キャリアは、核酸送達後の細胞の死滅の抑制効果に優れ、かつ、核酸の細胞内への送達効率に優れる。
【0023】
本発明におけるリポソームを構成する脂質は、膜融合性能を有し、膜構成成分としてカチオン性脂質を有するものであれば、特に限定されず、例えば、カチオン性脂質と、膜融合性能を有する脂質もしくは高分子等とから形成されたものであってもよく、カチオン性脂質自体が、膜融合性能を有する脂質であってもよい。本発明におけるリポソームにおいて、膜構成成分として含まれる脂質は、1種類であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。なお、本発明における「膜融合性能」とは、エンドソーム膜又は細胞膜に対する融合性能のことを指す。
【0024】
カチオン性脂質としては、例えば、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、N−[1−(2,3−ジオレオイルプロピル)]−N,N−ジメチルアミン(DODAP)、N,N−ジオレイル−N,N−ジメチルアンモニウムクロライド(DODAC)、N,N−ジステアリル−N,N−ジメチルアンモニウムブロミド(DDAB)、N−(1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル)−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)、N,N−ジメチル−2,3−ジオレイルオキシプロピルアミン(DODMA)、2,3−ジオレイルオキシ−N−[2−(スペルミンカルボキシアミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパナミニウムトリフルオロ酢酸(DOSPA)、N−[1−(2,3−ジテトラデシルオキシプロピル)]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチル臭化アンモニウム(DMRIE)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシプロピル)]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチル臭化アンモニウム(DORIE)等のリン脂質でないカチオン性脂質が挙げられる。あるいは、カチオン性のリン脂質等が挙げられる。これらのうち、核酸の細胞内への送達効率に優れることから、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、DODAP、DMRIE、DORIEを用いることが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明におけるリポソームが膜融合性能を有するために、カチオン性脂質とともに膜構成成分として用いられる脂質(以下、本明細書において、「膜融合性脂質」ということがある。)としては、例えば、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、大豆レシチン、卵黄レシチン、リゾレシチン等の天然リン脂質等のリン脂質や膜融合能を持つ高分子サクシニル化ポリグリシドール(SucPG)等が挙げられる。これらのうち、特に、核酸の細胞内への送達効率に優れることから、ホスファチジルエタノールアミン、サクシニル化ポリグリシドールが好ましい。また、カチオン性脂質による細胞の死滅をより抑えることができることから、本発明におけるリポソームは、膜構成成分として、リン脂質を含むことが好ましい。
【0026】
ホスファチジルエタノールアミンとしては、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2−ジリノレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DLoPE)、1,2−ジエルコイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DEPE)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DMPE)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DPPE)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DSPE)が挙げられる。これらのうち、特に、核酸の細胞内への送達効率に優れることから、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DPPE)が好ましい。
【0027】
本発明におけるリポソームは、より核酸送達後の細胞の死滅の抑制効果に優れ、かつ、核酸の細胞内への送達効率に優れるという観点から、リン脂質でないカチオン性脂質と膜融合性脂質とを、核酸の細胞内への送達効率に優れるモル比で、3:0.5〜3:20のモル比で膜構成成分として含むことが好ましく、3:2〜3:15のモル比で膜構成成分として含むことがより好ましく、3:5〜3:10のモル比で膜構成成分として含むことが更に好ましい。
【0028】
また、カチオン性脂質として1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)を、膜融合性脂質として1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)を、これらのモル比でリポソームの膜構成成分として含むことが特に好ましい。また、温度応答性ポリマーを、リポソームの膜構成成分としての脂質によって修飾することで、リポソーム表面を修飾する場合、該脂質で修飾された温度応答性ポリマーは、より核酸送達後の細胞の死滅の抑制効果に優れ、かつ、核酸の細胞内への送達効率に優れるという観点から、膜構成成分としての全脂質のうち、0.05〜40モル%であることが好ましく、1.0〜20モル%であることがより好ましく、2.0〜8.0モル%であることが更に好ましい。また、温度応答性ポリマーは、膜融合性脂質により修飾されることが好ましく、膜融合性脂質のうち、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)により修飾されることが特に好ましい。
【0029】
温度応答性ポリマーは、水に対する下限臨界溶解温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST)以下の温度では、リポソーム表面に水和層を形成させ、リポソームと細胞膜との親和性を低下させるが、下限臨界溶解温度以上では、凝集して疎水化し、リポソームとの細胞膜との親和性を向上させる。このように、本発明における温度応答性ポリマーは、水に対する下限臨界溶解温度が低いと、リポソームと細胞膜との親和性を低下して細胞内への送達効率が下がる。そのため、本発明における温度応答性ポリマーの水に対する下限臨界溶解温度は、体温に近い温度(例えば、35.0〜45.0℃)の温度であることが好ましい。他方、本発明のおける温度応答性ポリマーは、下限臨界溶解温度が体温付近の温度であっても、できるだけ高い方が、核酸の細胞内への送達後の細胞死滅を抑制しやすい。このように、核酸の細胞内への送達にも優れ、かつ、核酸の細胞内への送達後の細胞死滅を抑制しやすいことから、温度応答性ポリマーは、水に対する下限臨界溶解温度は、37.0〜42.0℃であることが好ましく、37.5〜41.0℃であることがより好ましく、38.0〜40.5℃であることが更に好ましい。なお、本発明において、温度応答性ポリマーの水に対する下限臨界溶解温度は、示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry:DSC)により測定する。
【0030】
本発明におけるリポソームの表面を修飾する温度応答性ポリマーの具体例としては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(又はN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエーテル誘導体等を構成モノマーとして構成されたポリマーや、これらのうちの2種類以上のモノマーの共重合体であってもよい。また、これらのモノマー以外のモノマーとの共重合、ポリマー同士のグラフト重合又は共重合を行ったものを用いてもよく、あるいはこれらモノマーの単独重合体と共重合体の混合物を用いてもよい。また、温度応答性ポリマーは、ポリマー本来の性質を損なわない範囲で架橋してもよい。
【0031】
具体的な温度応答性ポリマーを構成するモノマーとしては、例えば、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリルアミド、N,N−エチルメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。温度応答性ポリマーは、これらのモノマーの単独重合体であってもよく、2種以上の共重合体であってもよい。また、これらのモノマーと更に共重合してもよいモノマーとしては、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノ(メタ)アクリルアミド、N、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、エチレンオキシド、(メタ)アクリル酸及びその塩、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、セルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。温度応答性ポリマーの水に対する下限臨界溶解温度は、以上で述べたような温度応答性ポリマーを構成するモノマーを、それぞれの性質に応じて適宜選択することで、調節することができる。
【0032】
温度応答性ポリマーとしては、核酸の細胞内への送達にも優れ、かつ、核酸の細胞内への送達後の細胞死滅を抑制しやすいことから、特に、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド(NIPAA)と、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)との共重合体である以下の一般式(1)で表される化合物を用いることが好ましい。以下の式(1)中、xは、60〜99であることが好ましく、90〜99であることがより好ましく、yは、1〜40であることが好ましく、1〜10であることがより好ましい。
【0033】
【化01】
【0034】
本発明における温度応答性ポリマーの分子量は、特に限定されず、例えば、重量平均分子量が1000〜100000であってもよいが、核酸の細胞内への送達にも優れ、かつ、核酸の細胞内への送達後の細胞死滅を抑制しやすいことから、重量平均分子量が2000〜50000であることが好ましく、3000〜10000であることがより好ましく、4000〜7000であることが更に好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0035】
温度応答性ポリマーでリポソームの表面を修飾するには、例えば、カチオン性脂質と膜融合性脂質とからリポソームを作製する際に、あらかじめ、膜融合性脂質、あるいはカチオン性脂質のいずれかによって温度応答性ポリマーを化学的に修飾しておき、この脂質で修飾された温度応答性ポリマーを、リポソーム作製時に混合することで、リポソームの作製後、表面が温度応答性ポリマーにより修飾された構造となる。
【0036】
本発明のリポソームの作製方法は、従来の公知の方法を用いることができる。例えば、本発明のリポソームをカチオン性脂質と膜融合性脂質とから作製する場合、カチオン性脂質と膜融合性脂質を、溶媒(例えば、クロロホルム等)中に溶解し、溶媒を取り除いてから、形成された脂質の薄膜をリン酸緩衝生理食塩水等を用いて水和させ、次いで超音波処理を行って、リポソームの粒径を調整することで、作製することができる。
【0037】
リポソームの粒径は、特に限定されず、例えば、平均粒径0.05〜1μmのものを用いることができる。また、リポソームの平均粒径は、動的散乱法(DLS)により測定する。
【0038】
本発明の核酸送達用キャリアが送達される細胞は、特に限定されず、例えば、肺細胞、結腸細胞、直腸細胞、肛門細胞、胆管細胞、小腸細胞、胃細胞、食道細胞、胆嚢細胞、肝細胞、膵臓細胞、虫垂細胞、乳細胞、卵巣細胞、子宮頸細胞、前立腺細胞、腎細胞、神経膠芽腫細胞、皮膚細胞、リンパ細胞、絨毛腫瘍細胞、頭頸部細胞、骨原性肉腫細胞、血液細胞等の細胞、又はこれらの癌細胞(子宮頸癌細胞、肺癌細胞、結腸癌細胞、直腸癌細胞、肛門癌細胞、胆管癌細胞、小腸癌細胞、胃癌細胞、食道癌細胞、胆嚢癌細胞、肝癌細胞、膵臓癌細胞、虫垂癌細胞、乳癌細胞、卵巣癌細胞、前立腺癌細胞、腎癌細胞、中枢神経系の癌細胞、神経膠芽腫細胞、皮膚癌細胞、リンパ腫細胞、絨毛癌腫瘍細胞、頭頸部癌細胞、骨原性肉腫細胞、血液癌細胞等)等が挙げられる。本発明の核酸送達用キャリアが送達される細胞は、特に、細胞内への核酸送達効率、及び核酸送達後の細胞の死滅を抑制しやすいことから、癌細胞内への送達に用いることが好ましく、また、癌細胞のうち、特に、子宮頸癌細胞内、結腸癌細胞内、腎癌細胞内リンパ細胞内への送達に好適である。
【0039】
送達する核酸は、特に限定されず、例えば、siRNA、mRNA、tRNA、rRNA、cDNA、miRNA、環状プラスミドDNA等が挙げられる。これらの核酸は、1本鎖、2本鎖、3本鎖のいずれでもよい。また、本発明において、核酸は化学的に修飾されたものであってもよく、酵素、ペプチド等で修飾されたものであってもよい。また、核酸は、1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを適宜組み合わせて使用してもよい。核酸は、核酸送達後の細胞の死滅の抑制効果に優れ、かつ、核酸の細胞内への送達効率に優れることから、siRNAの送達に用いられることが好ましい。また、核酸の塩基数は、特に限定されず、目的に応じて適宜変更することができ、例えば、10〜10000bpの範囲内から選択することができる。すなわち、本発明の核酸送達用キャリアによると、10〜50bpという短い塩基数の核酸でも送達可能であり、1000〜10000bpといった長い塩基数の核酸でも送達可能である。
【0040】
<核酸送達用キット>
本発明の核酸送達用キットは、上述の核酸送達用キャリアを含むものである。
【0041】
本発明の核酸送達用キットは、上述の核酸送達用キャリア以外のものを含んでもよい。例えば、本発明の核酸送達用キットの構成要素は、上述の核酸送達用キャリアを溶媒(水、バッファー、スクロース等)に分散させた分散液を含む容器や、キットの使用方法を記載した取扱説明書等であってもよい。また、該核酸送達用キャリアを含む分散液には、水やバッファー等の溶媒のほか、核酸送達用キャリア以外の成分(例えば、スクロース等)を含んでいてもよい。
【0042】
<細胞内への核酸送達方法>
本発明の核酸送達方法は、上述の核酸送達用キャリアと核酸との複合体と、単離された細胞とを接触させる工程、又は、核酸送達用キャリアと核酸との複合体をヒトを除く動物に投与する工程を有する、細胞内への核酸送達方法である。
【0043】
(接触工程)
本発明の核酸送達方法における接触工程は、上述の核酸送達用キャリアと核酸との複合体と、単離された細胞とを接触させる工程である。該工程はin vitroで行われる。これにより、細胞内に上述の核酸送達用キャリアを介して核酸が送達される。
【0044】
核酸送達用キャリアと核酸との複合体は、従来の公知の方法により行うことができ、例えば、核酸送達用キャリアと核酸とを、それぞれ別々の培地(血清MEM(最少必須培地等))に分散させ、これらを混合することで、作製することができる。
【0045】
リポソーム−核酸複合体中の窒素とリンとのモルの割合(N/P)は、特に限定されないが、特に、核酸の細胞内への送達効率に優れることから、5:0.1〜5:10であることが好ましく、5:0.5〜5:8であることがより好ましく、5:0.7〜5:2.0であることが更に好ましい。リポソーム−核酸複合体中の窒素とリンとのモル比(N/P)は、動的散乱法(DLS)によるゼータ電位により測定する。
【0046】
接触は、従来の公知の方法により行うことができ、核酸送達用キャリアと核酸との複合体を、細胞を含む培地に投与してから、37〜42℃で、20分〜48時間インキュベートすることで、細胞内への拡散の投与を行うことができる。
【0047】
接触される細胞は、単離された細胞であれば、ヒト又は非ヒトの細胞であってもよく、また、上述の核酸送達用において核酸が送達される細胞と同様のものを用いることができる。
【0048】
(投与工程)
本発明の核酸送達方法における投与工程は、上述の核酸送達用キャリアと核酸との複合体をヒトを除く動物に投与する工程である。該工程はin vivoで行われる。これにより、ヒトを除く動物の細胞内に上述の核酸送達用キャリアを介して核酸が送達される。
【0049】
投与方法は、特に限定されず、標的とする細胞の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、経口投与、注射(静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射等)による投与方法を用いることができる。
【0050】
ヒトを除く動物は、特に限定されず、例えば、マウス、ラット、イヌ、ネコ、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウサギ等の哺乳等物等の動物であってよい。
【実施例】
【0051】
<核酸送達用キャリアの準備−1>
(実施例1)
[温度応答性ポリマーの合成]
式(2)で表されるNIPAAm(N−イソプロピルアクリルアミド)と式(3)で表されるDMAPAAm(メチルアミノプロピルアクリルアミド)とのモル比率が95:5の割合になるようにDMF(ジチルホルムアミド)に溶解させた。なお、NIPAAmとDMAPAAmとの総量は10gとした。溶解後の溶媒に、MPA(3−メルカプトプロピオン酸)をNIPAAmの0.028mol倍となるように加え、更にAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を58mg加えた。その後、溶媒に対して窒素置換と超音波による脱気を行った後、70℃で5時間ラジカル重合を行った。反応後の液体の温度を室温に戻してから、あらかじめ冷やしておいたジエチルエーテルに滴下し、再沈精製を行った。その後、沈殿物を濾過で回収した。この再沈精製を更に2回行い、式(1)で表される温度応答性ポリマーを回収した。この式(1)で表される温度応答性ポリマーについて水により透析を行い、その後、凍結乾燥によって式(1)で表される温度応答性ポリマーを更に精製した。なお、式(1)で表される温度応答性ポリマーの分子量は5500であり、水に対する下限臨界溶解温度は40℃である。この反応スキームを以下に示す。
【0052】
【化02】
【0053】
[脂質修飾温度応答性ポリマーの合成]
式(1)で表される温度応答性ポリマーを活性エステル化させるために、モル比が、式(1)で表される温度応答性ポリマー:DCC(N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド):NHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)=1:2.5:2.5の割合となるように塩化メチルに溶解させてから、室温で24時間反応させた。反応後、吸引濾過により副生成物のジシクロヘキシル尿素を取り除き、ジエチルエーテルによる再沈精製を行い、沈殿物として、式(4)で表されるスクシニルポリマーを回収した。式(4)で表されるスクシニルポリマーと膜融合性脂質であるDOPE(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン)がモル比1:1でとなるようにジオキサンに溶解させ、室温で24時間反応させた。反応後の溶液をエバポレーターでバキュームし、溶媒を飛ばすことによって、式(5)で表される脂質修飾温度応答性ポリマーを調製した。この反応スキームを以下に示す。
【0054】
【化03】
【0055】
[リポソームの作製]
脂質総量が20mgとなり、モル比率が、カチオン性脂質であるDOTAP(1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン):DOPE(式(5)で表される脂質修飾温度応答性ポリマーを含む)=3:7の割合となるように、それぞれの脂質をクロロホルムに溶解した。なお、クロロホルムに溶解したDOPEのうち、DOPEと式(5)で表される脂質修飾温度応答性ポリマーとのモル比は、6.5:0.5とした。その溶液を、ナスフラスコに移動させ、エバポレーターで溶媒を飛ばし、リピッドフィルムを作製した。このリピッドフィルムに精製水を1ml加え、リピッドフィルムを水和させた後、ボルテックスで分散させた。その後、超音波槽で30分ソニケーションを行い、リポソームのサイズを小さくしてから、エクストルーダーを用いて、100nmのフィルターを通して、リポソームのサイズを整えた。その後、ゲル濾過によりリポソームを分離させて精製し、目的の、表面が式(1)で表される温度応答性ポリマーにより修飾された、実施例1に係るリポソームを作製した。
【0056】
(比較例1)
インビトロジェン社製のリポフェクタミン(Lipofectamine(登録商標)RNAiMAX)を準備し、これを比較例1に係るリポソームとした。
【0057】
(比較例2)
リポソームを作製する際に、DOPEに式(5)で表される脂質修飾温度応答性ポリマーを含まずに行わなかった点以外は、実施例1と同様の手順によって、比較例2に係るリポソームを作製した。比較例2に係るリポソームは、表面が式(1)で表される温度応答性ポリマーにより修飾されてない点以外は、実施例1に係るリポソームと同様である。
【0058】
(比較例3)
実施例1において、式(1)で表される温度応答性ポリマーの代わりに、PEG(ポリエチレングリコール、分子量:2000)を用いた点以外は、実施例1と同様の手順によって、比較例3に係るリポソームを作製した。
【0059】
<siRNAの細胞内への送達後のルシフェラーゼ活性の測定−1>
実施例1、比較例1〜3に係るリポソームについて、それぞれ、核酸との複合体の分散液を作製し、この分散液を用いて、核酸のHeLa細胞への送達を行った。核酸としては、ルシフェラーゼ活性を抑制するsiRNA(シグマジェノシス社製のsiRNA duplex)を用いた。以下に、実施例1、比較例1〜3についての、siRNAと複合体との分散液中における、それぞれのリポソームとsiRNAの量を示す。なお、siRNAと複合体との分散液中のsiRNA濃度は、全て終濃度を50nMとした。
実施例1:リポソーム−siRNA複合体/siRNA(N/P(窒素とリンとのモル比))=5:1
比較例1:siRNA:リポソーム=0.1nmol:10μl(インビトロジェン社製のリポフェクタミン(液体に分散した状態で)10μl)
比較例2:リポソーム−siRNA複合体/siRNA(N/P)=5:1
比較例3:リポソーム−siRNA複合体/siRNA(N/P)=5:1
【0060】
具体的には、以下のような方法で、核酸との複合体の分散液の作製と、核酸の細胞内への送達を行った。
まず、6wellプレートを用いて、それぞれのwellで最終濃度50nMとなるようにsiRNAを(non FBS(非ウシ胎児血清)(血清MEM(最少必須培地)))に混合して、合計125μlとして、5分間静置した。他方、実施例1、比較例1〜3に係るそれぞれのリポソームをnon FBS培地(血清MEM(最少必須培地))125μlに分散させ、5分間静置した。これら2つのnon FBS培地を混合することで、リポソーム−siRNA複合体の分散液を作製し、30分間静置した。その後、分散液をFBS培地で1mlにメスアップした。メスアップの後に、前日に5.0×10cells/mlの濃度で6wellプレートにまいておいたHeLa細胞(子宮頸癌細胞)の培地をリポソーム−siRNA複合体の分散液に変えて、37℃で48時間インキュベートした。インキュベート後、それぞれのwellから培地を取り除き、PBSで5倍希釈した細胞溶解剤(ピッカジーン細胞溶解剤Lcβ(東洋インキ))を250μl/well加えた。この状態で30分インキュベートした後、ピペッティングにより細胞をはがしてから、得られた溶液をマイクロチューブに移した。その後、マイクロチューブを−80℃で凍結させ、細胞を崩壊させた。細胞を崩壊させた後、37℃の浴槽で溶液を融解させ、12000rpm、4℃、5分の条件で遠心を行い、夾雑物を沈殿させた。得られた上澄みのうち90μlを他のマイクロチューブに移し、そこから10μlを96wellプレートに加え、更に50μlピッカジーン溶液を加えて発光測定を行い、HeLa細胞内へのsiRNA送達後のルシフェラーゼ活性を測定した。ルシフェラーゼ活性は、検出された発光量をC(Count per Second)とし、これをタンパク量P(Protein Abundant)で除したものを単位発光量(C/P)として、それぞれの単位発光量について評価を行った。なお、上記の他にsiRNAを細胞内に送達していないHeLa細胞の培地10μlを96wellプレートに加え、BCA(ビシンコニン酸)アッセイキットを使用して、BCA標準品を0〜1mg/mlの範囲の濃度として検量線を作成してからタンパク定量を行い、発光量C及びタンパク量Pから求められた単位発光量(C/P)を100%(control)とし、上記の実施例1、比較例1〜3に係るルシフェラーゼ活性を相対的に評価した。
【0061】
(対照例1)
実施例1に係るリポソームについて、siRNAとの複合体を形成せず、リポソーム単独で細胞内へ送達した点以外は、全て上述と同様の条件で、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0062】
(対照例2)
比較例1に係るリポソームについて、siRNAとの複合体を形成せず、リポソーム単独で細胞内へ送達した点以外は、全て上述と同様の条件で、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0063】
<siRNAの細胞内への送達後の細胞生存率の測定>
96wellプレートを用いて、それぞれのwellで最終濃度100nMとなるようにsiRNAを(non FBS(非ウシ胎児血清)(血清MEM(最少必須培地)))に混合して、合計125μlとして、5分間静置した。他方、実施例1、比較例1に係るそれぞれのリポソームをnon FBS培地(血清MEM(最少必須培地))125μlに分散させ、5分間静置した。これら2つのnon FBS培地を混合することで、リポソーム−siRNA複合体の分散液を作製し、30分間静置した。その後、分散液をFBS培地で1mlにメスアップした。メスアップの後に、前日に5.0×104cells/mlの濃度で6wellプレートにまいておいたHeLa細胞(子宮頸癌細胞)の培地をリポソーム−siRNA複合体の分散液に変え、37℃で48時間インキュベートした。インキュベートした後に、それぞれのwellにWST−8溶液(同仁化学製品 Cell Counting Kit−8 − 同仁化学研究所社製)を10μl加えて、更に37℃で30分インキュベートしてから、450nmの吸光度を測定し、細胞生存率を測定した。また、未処理のHeLa細胞について、450nmを測定し、この数値を細胞生存率100%(control)として、上記の実施例1、比較例1に係る細胞生存率を相対的に評価した。
【0064】
(対照例3)
実施例1に係るリポソームについて、siRNAとの複合体を形成せず、リポソーム単独で細胞内へ送達した点以外は、全て上述と同様の条件で、細胞生存率を測定した。
【0065】
(対照例4)
比較例1に係るリポソームについて、siRNAとの複合体を形成せず、リポソーム単独で細胞内へ送達した点以外は、全て上述と同様の条件で、細胞生存率を測定した。
【0066】
<評価結果>
図1に、実施例1、比較例1、対照例1、2についてのルシフェラーゼ活性の測定結果を示す。図2に、実施例1、比較例1〜3、対照例2についてのルシフェラーゼ活性の測定結果を示す。図3に、実施例1、比較例1、対照例3、4についての細胞生存率の測定結果を示す。
【0067】
図1に示すグラフより、リポフェクタミンを用いてsiRNAを送達した比較例1に係るルシフェラーゼ活性と、表面が式(1)で表される温度応答性ポリマーにより修飾されたリポソームを用いてsiRNAを送達した実施例1に係るルシフェラーゼ活性は、同等であることが確認された。また、図2に示すグラフから、実施例1に係るルシフェラーゼ活性は、比較例2に係るルシフェラーゼ活性(表面が式(1)で表される温度応答性ポリマーにより修飾されていない以外、実施例1に係るリポソームと同様の構成を有するリポソームを用いたときのルシフェラーゼ活性)、比較例3に係るルシフェラーゼ活性(式(1)で表される温度応答性ポリマーの代わりに、表面がPEGにより修飾された点以外は、実施例1に係るリポソームと同じリポソームを用いたときのルシフェラーゼ活性)より、高いことが確認された。これらの結果より、表面を温度応答性ポリマーで修飾したリポソームは、表面をPEGで修飾したリポソーム、及び表面を修飾していないリポソームより、核酸の細胞内への送達効率が優れており、従来品であるリポフェクタミンと同様の核酸の細胞内への送達効率を有することが示された。
【0068】
図3に示すグラフより、実施例1に係る細胞生存率は、比較例1に係る細胞生存率より、有意に優れていることが示された。しかも、実施例1に係る細胞生存率は、未処理のHeLa細胞(control)の細胞生存率と、同等の細胞生存率を示した。このことから、実施例1に係る細胞生存率は、従来品であるリポフェクタミンより、核酸送達後の細胞の死滅の抑制効果に優れることが示された。
【0069】
以上のことから、本発明の核酸送達用キャリアは、核酸の細胞内への送達効率に優れ、更に、膜構成成分としてカチオン性脂質を含むにもかかわらず、核酸送達後の細胞の死滅の抑制効果に優れることが示された。その理由は、本発明の核酸送達用キャリアは、リポソームの表面が温度応答性ポリマーで修飾されていることで、下限臨界溶解温度では水和層が形成され、カチオン性脂質による細胞毒性を抑制することが可能であり、温度上昇によりポリマーが疎水性となることにより水和層が減少し細胞親和性が向上し、膜融合性能を有する脂質によりリソソームを経由せず細胞内へ直接核酸を送達することができるからと推測される。
【0070】
<siRNAの細胞内への送達後のルシフェラーゼ活性の測定−2>
実施例1、比較例1、比較例3に係るリポソームについて、それぞれ、核酸との複合体の分散液を作製し、この分散液を用いて、異なる温度条件下で核酸のHeLa細胞への送達を行った。核酸としては、ルシフェラーゼ活性を抑制するsiRNA(シグマジェノシス社製のsiRNA duplex)を用いた。以下に、実施例1、比較例1についての、siRNAと複合体との分散液中における、それぞれのリポソームとsiRNAの量を示す。なお、siRNAと複合体との分散液中のsiRNA濃度は、全て終濃度を50nMとした。
実施例1:リポソーム−siRNA複合体/siRNA(N/P(窒素とリンとのモル比))=5:1
比較例1:siRNA:リポソーム=0.1nmol:10μl(インビトロジェン社製のリポフェクタミン(液体に分散した状態で)10μl)
比較例3:リポソーム−siRNA複合体/siRNA(N/P)=5:1
【0071】
具体的には、以下のような方法で、核酸との複合体の分散液の作製と、核酸の細胞内への送達を行った。
まず、6wellプレートを用いて、それぞれのwellで最終濃度50nMとなるようにsiRNAを(non FBS(非ウシ胎児血清)(血清MEM(最少必須培地)))に混合して、合計125μlとして、5分間静置した。他方、実施例1、比較例に係るそれぞれのリポソームをnon FBS培地(血清MEM(最少必須培地))125μlに分散させ、5分間静置した。これら2つのnon FBS培地を混合することで、リポソーム−siRNA複合体の分散液を作製し、30分間静置した。その後、分散液をFBS培地で1mlにメスアップした。メスアップの後に、前日に1.0×10cells/mlの濃度で6wellプレートにまいておいたHeLa細胞(子宮頸癌細胞)の培地をリポソーム−siRNA複合体の分散液に変えて、30℃又は40℃で48時間インキュベートした。インキュベート後、それぞれのwellから培地を取り除き、PBSで5倍希釈した細胞溶解剤(ピッカジーン細胞溶解剤Lcβ(東洋インキ))を250μl/well加えた。この状態で30分インキュベートした後、ピペッティングにより細胞をはがしてから、得られた溶液をマイクロチューブに移した。その後、マイクロチューブを−80℃で凍結させ、細胞を崩壊させた。細胞を崩壊させた後、37℃の浴槽で溶液を融解させ、12000rpm、4℃、5分の条件で遠心を行い、夾雑物を沈殿させた。得られた上澄みのうち90μlを他のマイクロチューブに移し、そこから10μlを96wellプレートに加え、更に50μlピッカジーン溶液を加えて発光測定を行い、HeLa細胞内へのsiRNA送達後のルシフェラーゼ活性を測定した。ルシフェラーゼ活性は、検出された発光量をC(Count per Second)とし、これをタンパク量P(Protein Abundant)で除したものを単位発光量(C/P)として、それぞれの単位発光量について評価を行った。なお、上記の他にsiRNAを細胞内に送達していないHeLa細胞の培地10μlを96wellプレートに加え、BCA(ビシンコニン酸)アッセイキットを使用して、BCA標準品を0〜1mg/mlの範囲の濃度として検量線を作成してからタンパク定量を行い、発光量C及びタンパク量Pから求められた単位発光量(C/P)を100%(control)とし、上記の実施例1、比較例1、比較例3に係るルシフェラーゼ活性を相対的に評価した。その結果を図4に示す。
【0072】
図4に示すグラフより、温度応答性ポリマーにより修飾されたリポソームにおいては、温度応答性ポリマーの下限臨界溶解温度以下(30℃)ではルシフェラーゼ活性が十分に抑制されていなかったにもかかわらず、下限臨界溶解温度以上(40℃)ではルシフェラーゼ活性が従来品であるリポフェクタミンと同等に抑制されていた。
【0073】
この結果により、表面を温度応答性ポリマーで修飾したリポソームは、温度を下限臨界溶解温度以上又は以下に調整することにより、細胞内への核酸の送達を制御できることが示された。
【0074】
<核酸送達用キャリアの準備−2>
(実施例2)
[温度応答性ポリマーの合成]
式(2)で表されるNIPAAm(N−イソプロピルアクリルアミド)と式(7)で表されるDMAAm(ジメチルアミノアクリルアミド)とのモル比率が69.5:30.5の割合になるようにDMF(ジチルホルムアミド)に溶解させた。なお、NIPAAmとDMAAmとの総量は10gとした。溶解後の溶媒に、MPA(3−メルカプトプロピオン酸)をNIPAAmの0.028mol倍となるように加え、更にAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を58mg加えた。その後、溶媒に対して窒素置換と超音波による脱気を行った後、70℃で5時間ラジカル重合を行った。反応後の液体の温度を室温に戻してから、あらかじめ冷やしておいたジエチルエーテルに滴下し、再沈精製を行った。その後、沈殿物を濾過で回収した。この再沈精製を更に2回行い、式(6)で表される温度応答性ポリマーを回収した。この式(6)で表される温度応答性ポリマーについて水により透析を行い、その後、凍結乾燥によって式(6)で表される温度応答性ポリマーを更に精製した。なお、式(6)で表される温度応答性ポリマーの分子量は5000であり、水に対する下限臨界溶解温度は41.8℃である。この反応スキームを以下に示す。
【0075】
【化04】
【0076】
[脂質修飾温度応答性ポリマーの合成]
式(6)で表される温度応答性ポリマーを活性エステル化させるために、モル比が、式(6)で表される温度応答性ポリマー:DCC(N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド):NHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)=1:2.5:2.5の割合となり、かつ、ポリマーと膜融合性脂質であるDOPE(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン)とのモル比が1:1となるようにクロロホルムに溶解させ、室温で24時間反応させた。反応後の溶液をメタノール溶液により透析することにより生成物を精製した。さらにエバポレーターでバキュームして溶媒を飛ばすことによって、式(8)で表される脂質修飾温度応答性ポリマーを調製した。この反応スキームを以下に示す。
【0077】
【化05】
【0078】
[リポソームの作製]
脂質総量が20mgとなり、モル比率が、カチオン性脂質であるDOTAP(1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン):DOPE(式(8)で表される脂質修飾温度応答性ポリマーを含む)=3:7の割合となるように、それぞれの脂質をクロロホルムに溶解させた。なお、クロロホルムに溶解したDOPEのうち、DOPEと式(8)で表される脂質修飾温度応答性ポリマーとのモル比は、6.5:0.5とした。その溶液を、ナスフラスコに移動させ、エバポレーターで溶媒を飛ばし、リピッドフィルムを作製した。このリピッドフィルムに精製水を1ml加え、リピッドフィルムを水和させた後、ボルテックスで分散させた。その後、超音波槽で30分ソニケーションを行い、リポソームのサイズを小さくしてから、エクストルーダーを用いて、100nmのフィルターを通して、リポソームのサイズを整えた。その後、ゲル濾過によりリポソームを分離させて精製し、目的の、表面が式(6)で表される温度応答性ポリマーにより修飾された、実施例2に係るリポソームを作製した。
【0079】
<siRNAの細胞内への送達後のルシフェラーゼ活性の測定−1>
実施例2に係るリポソームについて、核酸との複合体の分散液を作製し、この分散液を用いて、異なる温度条件下の核酸のHeLa細胞への送達を行った。核酸としては、ルシフェラーゼ活性を抑制するsiRNA(シグマジェノシス社製のsiRNA duplex)を用いた。以下に、実施例2についての、siRNAと複合体との分散液中における、それぞれのリポソームとsiRNAの量を示す。なお、siRNAと複合体との分散液中のsiRNA濃度は、全て終濃度を50nMとした。
実施例2:リポソーム−siRNA複合体/siRNA(N/P(窒素とリンとのモル比))=5:1
【0080】
具体的には、以下のような方法で、核酸との複合体の分散液の作製と、核酸の細胞内への送達を行った。
まず、6wellプレートを用いて、それぞれのwellで最終濃度50nMとなるようにsiRNAを(non FBS(非ウシ胎児血清)(血清MEM(最少必須培地)))に混合して、合計125μlとして、5分間静置した。他方、実施例2に係るそれぞれのリポソームをnon FBS培地(血清MEM(最少必須培地))125μlに分散させ、5分間静置した。これら2つのnon FBS培地を混合することで、リポソーム−siRNA複合体の分散液を作製し、30分間静置した。その後、分散液をFBS培地で1mlにメスアップした。メスアップの後に、前日に5.0×10cells/mlの濃度で6wellプレートにまいておいたHeLa細胞(子宮頸癌細胞)の培地をリポソーム−siRNA複合体の分散液に変えて、37℃又は42℃で48時間インキュベートした。インキュベート後、それぞれのwellから培地を取り除き、PBSで5倍希釈した細胞溶解剤(ピッカジーン細胞溶解剤Lcβ(東洋インキ))を250μl/well加えた。この状態で30分インキュベートした後、ピペッティングにより細胞をはがしてから、得られた溶液をマイクロチューブに移した。その後、マイクロチューブを−80℃で凍結させ、細胞を崩壊させた。細胞を崩壊させた後、37℃の浴槽で溶液を融解させ、12000rpm、4℃、5分の条件で遠心を行い、夾雑物を沈殿させた。得られた上澄みのうち90μlを他のマイクロチューブに移し、そこから10μlを96wellプレートに加え、更に50μlピッカジーン溶液を加えて発光測定を行い、HeLa細胞内へのsiRNA送達後のルシフェラーゼ活性を測定した。ルシフェラーゼ活性は、検出された発光量をC(Count per Second)とし、これをタンパク量P(Protein Abundant)で除したものを単位発光量(C/P)として、それぞれの単位発光量について評価を行った。なお、上記の他にsiRNAを細胞内に送達していないHeLa細胞の培地10μlを96wellプレートに加え、BCA(ビシンコニン酸)アッセイキットを使用して、BCA標準品を0〜1mg/mlの範囲の濃度として検量線を作成してからタンパク定量を行い、発光量C及びタンパク量Pから求められた単位発光量(C/P)を100%(control)とし、上記の実施例2に係るルシフェラーゼ活性を相対的に評価した。その結果を図5に示す。
【0081】
図5に示す結果により、実施例1とは異なる組成の温度応答性ポリマーを用いたリポソームである実施例2によるsiRNAトランスフェクションにおいても、ルシフェラーゼ活性の抑制が見られ、LCST(下限臨界溶解温度)以下の温度と比較して、LCST(下限臨界溶解温度)以上における活性の抑制が強く示された。
【0082】
<カルボキシフルオレセイン封入量測定>
リポソームは実施例1に係るリポソームを準備し、リピッドフィルムの水和には精製水の代わりにカルボキシフルオレセイン(CF)2mMを含有したPBSを1ml加えた。準備したリポソームをPBSで20倍希釈し、蛍光光度測定器にてその蛍光強度を測定し、CF封入時蛍光強度とした。また、Triton10Xを1%加え、リポソームを完全崩壊させたのちに測定した蛍光強度を完全放出時の蛍光強度とした。そしてTritonを加えたときの蛍光強度の値から封入時の蛍光強度の値を引くことで、その差を封入量として算出した。Triton処理前と処理後の蛍光強度を図6に示す。図6に示すように、Triton処理後に蛍光強度が増加したことから、カルボキシフルオレセインを封入できたことが確認された。
【0083】
<CF封入リポソームによるsiRNAトランスフェクション>
上記のカルボキシフルオレセインを封入した実施例1に係るリポソーム、及び比較例1に係るリポソーム(リポフェクタミン)に対して、ルシフェラーゼ活性を測定し、siRNAトランスフェクション能を有するかを確認した。その結果を図7に示す。図7に示すように、比較例1と同等にルシフェラーゼ活性が低下しており、同等の効率のトランスフェクション能を有することが確認できた。すなわち、実施例1に係るリポソームは、リポソーム内に低分子物質であるカルボキシフルオレセインを封入することができ、かつそれを利用してsiRNAと複合体を作製することにより、リポフェクタミンと同等な効率のトランスフェクション能を示した。
【0084】
<プラスミドトランスフェクション>
上記の比較例1に係るリポソーム(インビトロジェン社製のリポフェクタミン(Lipofectamine2000))、比較例3に係るリポソーム(温度応答性ポリマーの代わりにPEGにより修飾)を準備した。また、上記の実施例1に係るリポソームを準備した。実施例1、比較例1及び比較例2に係るリポソームについて、核酸(プラスミド)との複合体の分散液をそれぞれ作製し、核酸(プラスミド)のHeLa細胞内への送達を行った。具体的には、以下のような方法で、核酸との複合体の分散液の作製と、核酸の細胞内への送達を行った。
【0085】
5μgのMSCV−IRES−GFPプラスミドを50μlの血清free培地に分散させた。更に3μlのLipofectamine2000及び2μlのそれぞれのリポソームを50μlの血清free培地に分散させた。これら2つの培地を混合して30分間静置することでリポソーム・プラスミド複合体を作製した。その後、血清入り培地を複合体分散液に加え、1mlになるようにメスアップした。メスアップ後に、前日に6wellプレートの1wellあたりに5.0×10cellsで播種したHeLa細胞の培地を、リポソーム・プラスミド複合体を分散させた培地に入れ替えて48時間40℃でインキュベートした。インキュベート後、培地を取り除き、細胞をトリプシン処理によりdishからはがし、PBSを加えて遠心により細胞を洗浄したのち、フローサイトメトリーで観察を行い、HeLa細胞のGFPタンパク発現率を評価した。その結果を図8に示す。
【0086】
図8に示す結果より、温度応答性ポリマーを修飾したリポソーム(実施例1)は、PEGリポソーム(比較例3)と比較して有意にプラスミドをHeLa細胞にトランスフェクションすることができ、そのトランスフェクション能はリポフェクタミンと同等以上であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8