特許第6796868号(P6796868)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796868
(24)【登録日】2020年11月19日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】糞便の保存方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20201130BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   C12Q1/02
   G01N33/50 Z
【請求項の数】7
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2018-48606(P2018-48606)
(22)【出願日】2018年3月15日
(65)【公開番号】特開2019-154382(P2019-154382A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2020年6月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515163313
【氏名又は名称】株式会社メタジェン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 慎之介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】森 友花
(72)【発明者】
【氏名】西本 悠一郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 真嗣
【審査官】 小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−249847(JP,A)
【文献】 特開平05−126827(JP,A)
【文献】 実開平05−025358(JP,U)
【文献】 特開2001−221721(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/104132(WO,A1)
【文献】 特開平02−151765(JP,A)
【文献】 特開2008−208037(JP,A)
【文献】 特表2014−507466(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/043087(WO,A1)
【文献】 特開2011−019505(JP,A)
【文献】 J. Virol. Methods,2004年,Vol. 116,p. 11-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00 − 1/70
G01N 33/50 − 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糞便の解析方法であって、以下:
(A)糞便を乾燥保存させること;および
(B)乾燥保存した糞便を解析することを含み、
ここで、
(A)糞便の乾燥保存が、固形乾燥剤との非接触条件下にて密封容器中にて4〜60℃で行われ、
固形乾燥剤に対する糞便の重量比(固形乾燥剤/糞便)が0.1〜10000であり、
(B)乾燥保存した糞便の解析が、糞便中の物質に対して行われるメタボローム解析であり、
糞便中の物質が、以下からなる群より選ばれる1種以上の物質を含む、方法:
(4)3−メチル酪酸;
(5)4−(β−アセチルアミノエチル)イミダゾール;
(12)アンセリン;
(14)アゼライン酸;
(15)酪酸;
(16)カルニチン;
(18)コリン;
(24)ドデカン二酸;
(32)ヘキサン酸;
(36)イミダゾール−4−酢酸;
(38)乳酸;
(43)N−アセチルアスパラギン酸;
(45)N−メチルアラニン;
(46)N−メチルグルタミン酸;
(51)ペンタン酸;
(52)フタル酸;
(53)ピメリン酸;
(54)ピペコリン酸;
(60)セリン;
(62)テレフタル酸;および
(64)トリゴネリン。
【請求項2】
糞便中の物質が、以下からなる群より選ばれる1種以上の物質を含む、方法:
(4)3−メチル酪酸;
(5)4−(β−アセチルアミノエチル)イミダゾール;
(12)アンセリン;
(14)アゼライン酸;
(15)酪酸;
(16)カルニチン;
(18)コリン;
(24)ドデカン二酸;
(45)N−メチルアラニン;
(51)ペンタン酸;
(54)ピペコリン酸;
(60)セリン;および
(62)テレフタル酸
【請求項3】
糞便中の物質が酪酸を含む1種以上の物質を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
固形乾燥剤が吸水性固形乾燥剤である、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法
【請求項5】
吸水性固形乾燥剤がシリカゲルである、請求項記載の方法
【請求項6】
乾燥が加熱機器を用いる加熱による乾燥をさらに含む、請求項1〜のいずれか一項記載の方法
【請求項7】
加熱機器がマイクロ波照射機器である、請求項記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糞便の保存方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの腸管内には多くの腸内細菌が存在しており、複雑な腸内細菌叢を形成している。近年、腸内細菌叢は、ヒトにおける種々の生理学的機能および疾患に関与し得ることが報告されている。したがって、腸内細菌を定性的および定量的に評価するマイクロバイオーム解析(例、メタゲノム解析、メタトランスクリプトーム解析)、ならびに腸内代謝物質を定性的および定量的に評価するメタボローム解析の双方に糞便を供し、それにより得られた情報を統合的に解析することで、腸内環境の評価が可能になると期待されている。
【0003】
ところで、糞便中に含まれる腸内細菌および腸内代謝物質を安定的に保存し、適切に解析するためには、採糞便直後に凍結し、0℃未満の温度条件を維持することが望ましい(非特許文献1)。しかしながら、凍結保存による糞便検体の保存および輸送は、凍結可能な機器の準備(特に、長期の保存および輸送の場合)、ならびに凍結のための電力消費により、多大なコストを要する。また、凍結保存された糞便の不慮の融解処理によって貴重な検体が損なわれ、マイクロバイオーム解析および/またはメタボローム解析による高精度な評価が困難になる可能性がある。したがって、糞便検体をより安価かつ安定的に保存できる非凍結保存方法の開発が望まれている。
【0004】
これまでに、糞便中の遺伝子を常温で安定的に保存できる溶液として、グアニジンチオシアン酸含有溶液が報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Murakami et al.,Evidence−Based Complementary and Alternative Medicine,2015,pp.824395.
【非特許文献2】Nishimoto et al.,Gut.,2016,65(9):1574−5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、糞便を安価かつ安定的に保存できる非凍結保存方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討したところ、生物一般の代謝反応および物質の分解(例、加水分解)には水の存在が不可欠であることから、糞便中の水分を除くことが排糞便直後の代謝物質組成の保持に有効であることを着想した。そこで、本発明者らは、糞便中の水分を除くために種々の乾燥法を検討したところ、固形乾燥剤を用いた乾燥が、従来技術(グアニジンチオシアン酸含有溶液)よりも糞便中の遺伝子を安定的に保存できることを見出した(図1〜3)。
【0008】
しかも、従来技術(グアニジンチオシアン酸含有溶液)で糞便検体を保存すると、塩濃度の関係で、キャピラリー電気泳動(CE)−飛行時間型質量分析(TOFMS)によるイオン性代謝物質の解析が非常に困難であるという問題があったところ、本発明によれば、塩濃度の調節が不要であるため、塩濃度に伴う上記問題を解決することもできると考えられる。
【0009】
本発明者らは、上述した知見に基づき、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0010】
〔1〕糞便を固形乾燥剤の存在下で乾燥させることを含む、糞便の保存方法。
〔2〕糞便が動物、魚類または昆虫の糞便である、〔1〕の保存方法。
〔3〕固形乾燥剤が吸水性固形乾燥剤である、〔1〕または〔2〕の保存方法。
〔4〕吸水性固形乾燥剤がシリカゲルである、〔3〕の保存方法。
〔5〕固形乾燥剤との接触条件下で糞便の乾燥が行われ、
糞便および固形乾燥剤の接触面積が100(mm/1g糞便)以上である、〔1〕〜〔4〕のいずれかの保存方法。
〔6〕固形乾燥剤との非接触条件下で糞便の乾燥が行われ、
固形乾燥剤に対する糞便の重量比(固形乾燥剤/糞便)が0.1〜10000である、〔1〕〜〔4〕のいずれかの保存方法。
〔7〕乾燥が0℃を超える温度で行われる、〔1〕〜〔6〕のいずれかの保存方法。
〔8〕乾燥が4〜60℃で行われる、〔7〕の保存方法。
〔9〕乾燥が加熱機器を用いる加熱により行われる、〔7〕の保存方法。
〔10〕加熱機器がマイクロ波照射機器である、〔9〕の保存方法。
〔11〕以下を含む、糞便の解析方法:
(1)糞便を固形乾燥剤の存在下で乾燥させること;および
(2)乾燥した糞便を解析すること。
〔12〕解析が、糞便中の腸内細菌および/または物質に対して行われる、〔11〕の方法。
〔13〕腸内細菌が、クロストリジウム目(Clostridiales)に属する微生物、およびパラバクテロイデス属(Parabacteroides)に属する微生物からなる群より選ばれる1種以上の微生物である、〔12〕の方法。
〔14〕腸内細菌が、ファーミキューテス門(Firmicutes)、バクテロイデス門(Bacteroidetes)、プロテオバクテリア門(Proteobacteria)、アクチノバクテリア門(Actinobacteria)、およびウェルコミクロビウム門(Verrucomicrobia)からなる群より選ばれる1種以上の微生物である、〔12〕の方法。
〔15〕腸内細菌が、バクテロイデス属(Bacteroides)、ブラウティア属(Blautia)、プレボテラ属(Prevotella)、ルミノコッカス属(Ruminococcus)、バルネシエラ科(Barnesiellaceae)からなる群より選ばれる1種以上の微生物である、〔12〕の方法。
〔16〕物質が、以下からなる群より選ばれる1種以上の物質を含む、〔12〕〜〔15〕のいずれか一項記載の方法:
(1)2−ヒドロキシグルタル酸;
(2)2−ヒドロキシペンタン酸;
(3)2−アミノベンズアミド;
(4)3−メチル酪酸;
(5)4−(β−アセチルアミノエチル)イミダゾール;
(6)4−メチル−5−チアゾールエタノール;
(7)5−アミノペンタン酸;
(8)7−メチルグアニン;
(9)アジピン酸;
(10)アラニルアラニン;
(11)α−アミノアジピン酸;
(12)アンセリン;
(13)アスパラギン酸;
(14)アゼライン酸;
(15)酪酸;
(16)カルニチン;
(17)コール酸;
(18)コリン;
(19)シトラマル酸;
(20)クエン酸;
(21)シトルリン;
(22)デオキシコール酸;
(23)ジエタノールアミン;
(24)ドデカン二酸;
(25)γ−ブチロベタイン;
(26)グルタミン酸;
(27)グルタル酸;
(28)グリシルロイシン;
(29)グリセロリン酸;
(30)グリコール酸;
(31)グアニン;
(32)ヘキサン酸;
(33)ヒスタミン;
(34)ホモセリン;
(35)ヒポキサンチン;
(36)イミダゾール−4−酢酸;
(37)イソプロパノールアミン;
(38)乳酸;
(39)リジン;
(40)リンゴ酸;
(41)マロン酸;
(42)メチオニン;
(43)N−アセチルアスパラギン酸;
(44)N−アセチルグルタミン酸;
(45)N−メチルアラニン;
(46)N−メチルグルタミン酸;
(47)N1−アセチルスペルミジン;
(48)N1,N8−ジアセチルスペルミジン;
(49)オルニチン;
(50)ペラルゴン酸;
(51)ペンタン酸;
(52)フタル酸;
(53)ピメリン酸;
(54)ピペコリン酸;
(55)プロリン;
(56)プロリンベタイン;
(57)プロピオン酸;
(58)ピリドキサミン;
(59)セバシン酸;
(60)セリン;
(61)コハク酸;
(62)テレフタル酸;
(63)チアミン;
(64)トリゴネリン;
(65)トリメチルアミン;および
(66)トリプトファン。
〔17〕(a)固形乾燥剤、および(b)固形乾燥剤と非接触条件下にある糞便を含む、密封容器。
〔18〕固形乾燥剤に対する糞便の重量比(固形乾燥剤/糞便)が0.1〜10000である、〔17〕の密封容器。
〔19〕固形乾燥剤が吸水性固形乾燥剤である、〔17〕または〔18〕の糞便固定物。
〔20〕吸水性固形乾燥剤がシリカゲルである、〔19〕の糞便固定物。
〔21〕糞便が乾燥している、〔17〕〜〔20〕のいずれかの糞便固定物。
〔22〕(a)固形乾燥剤を含有または固定する1以上の部材、および(b)固形乾燥剤と接触条件下にある糞便を備える、糞便固定物。
〔23〕(a1)第1の保持面を有する第1のプレート、(a2)第2の保持面を有する第2のプレート、および(b)糞便を備えており、
糞便が、互いに対向するように配置された第1および第2の保持面の間に挟持されることにより、固形乾燥剤と接触しており、
糞便と、固形乾燥剤を含有する保持面との接触面積が100(mm/1g糞便)以上である、
〔22〕の糞便固定物。
〔24〕互いに対向するように配置された第1および第2の保持面の間に(c)スペーサーをさらに備える、〔22〕または〔23〕の糞便固定物。
〔25〕第1の部材および第2の部材の少なくとも一方が吸水性固形乾燥剤プレートである、〔22〕〜〔24〕のいずれかの糞便固定物。
〔26〕前記吸水性固形乾燥剤プレートがシリカゲルプレートである、〔25〕の糞便固定物。
〔27〕糞便が乾燥している、〔22〕〜〔26〕のいずれかの糞便固定物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、糞便を安価かつ安定的に保存することができる。また、本発明によれば、糞便を迅速に乾燥させることができる。さらに、本発明によれば、糞便の外界への露出を少なくできることから、糞便と外界環境との接触を回避でき、取扱い易いため、糞便の保管および輸送にも適している。
また、本発明により保存された糞便は、マイクロバイオーム解析およびメタボローム解析の双方に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、各サンプリング条件における腸内細菌叢解析結果の属レベルでの解析結果について100%積み上げ棒グラフを示す図である。「−80℃で冷凍ののち凍結乾燥」(従来条件:非特許文献1に記載される凍結乾燥)を最も左側に示し、次いでシリカゲルを用いる本発明の非凍結保存方法により得られた腸内細菌叢解析結果を示す。
図2図2は、各サンプリング条件における腸内細菌叢解析結果の門レベルでの解析結果について100%積み上げ棒グラフを示す図である。
図3図3は、試料糞便の保存条件に対するweighted UniFrac distanceの平均値およびSD(標準偏差)を示す図である。同一の糞便検体を様々な保存条件に置いた後、DNA抽出を行って細菌叢解析を実施した。各保存条件は3サンプルずつ実施した。グラフは、「−80℃で冷凍ののち凍結乾燥_1日」の3サンプルと、各条件の3サンプルの総当り(n=9)におけるweighted UniFrac distanceの平均値およびSD(標準偏差)を示す。「−80℃で冷凍ののち凍結乾燥_1日」の棒グラフのみは、同一サンプル間の距離を除外したn=6の平均値および標準偏差である。
図4図4は、異なる乾燥条件下で同一の糞便検体から抽出された代謝物質の比較を示す図である。各代謝物質について、「−80℃で冷凍ののち凍結乾燥_5日」(従来条件)および「シリカゲル_5日」(本発明の条件)で算出された濃度を散布図で表した。
図5図5は、乾燥時間に対する未凍結糞便と凍結融解糞便の水分含有率の比較(25℃)を示す図である。「水分含有率(処理前)」は、同一の試料糞便の凍結乾燥前後の重量差から求めた。
図6図6は、乾燥時間に対する試料糞便の水分含有率の推移(4℃)を示す図である。「水分含有率(処理前)」は、同一の試料糞便の凍結乾燥前後の重量差から求めた。
図7図7は、使い捨てカイロを用いた際の、糞便試料中温度の経時変化を示す図である。
図8図8は、高温条件(50℃以上)における、板状シリカゲルに挟んだ試料糞便の水分含有率の経時変化を示す図である。「水分含有率(処理前)」は、同一の試料糞便の凍結乾燥前後の重量差から求めた。
図9図9は、電子レンジ中で加熱処理した場合における、板状シリカゲルに挟んだ試料糞便の水分含有率の経時変化を示す図である。「水分含有率(処理前)」は、同一の試料糞便の凍結乾燥前後の重量差から求めた。
図10図10は、脱酸素剤封入時と未封入時における、板状シリカゲルに挟んだ試料糞便の水分含有率の経時変化を示す図である。「水分含有率(処理前)」は、同一の試料糞便の凍結乾燥前後の重量差から求めた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、糞便を固形乾燥剤の存在下で乾燥させることを含む、糞便の保存方法を提供する。本発明の保存方法は、糞便を凍結させることなく乾燥して保存することができるので、糞便の凍結乾燥による従来の保存方法とは思想が異なる。
【0014】
糞便としては、任意の生物由来の糞便を用いることができる。このような生物としては、例えば、動物、魚類、昆虫が挙げられるが動物が好ましい。動物としては、例えば、哺乳動物、鳥類、爬虫類、両生類が挙げられるが、哺乳動物が好ましい。哺乳動物としては、例えば、霊長類(例、ヒト、サル、チンパンジー)、齧歯類(例、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ)、家畜および使役哺乳動物(例、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ)が挙げられる。好ましくは、糞便は、ヒト糞便である。
【0015】
糞便は、任意の形状または状態において用いることができる。例えば、糞便が固形乾燥剤と接触条件下で乾燥される場合、糞便は、固形乾燥剤との接触面積を向上させるために、平板状に押しつぶして用いることができる。また、糞便は、一つの塊の状態、または複数の塊に分断された状態において、固形乾燥剤と接触することができる。糞便が固形乾燥剤と非接触条件下で乾燥される場合、糞便は、糞便の重量に対する表面積の割合を向上させるように押しつぶしてもよく、または、複数の塊に分断されてもよい。
【0016】
本発明において乾燥に用いられる糞便の量は、特に限定されるものではないが、糞便が固形乾燥剤と接触条件下または非接触条件下のいずれで乾燥されるかに応じて適宜設定することができる。糞便が固形乾燥剤と接触条件下で乾燥される場合、糞便の量は、例えば0.01〜10.0g、好ましくは0.02〜5.0g、より好ましくは0.03〜1.0g、さらにより好ましくは0.04〜0.5g、特に好ましくは0.05〜0.3gである。糞便が固形乾燥剤と非接触条件下で乾燥される場合、糞便は少量が好ましい。このような場合、糞便の量は、例えば0.01〜1.0g、好ましくは0.01〜0.8g、より好ましくは0.01〜0.6g、さらにより好ましくは0.01〜0.4g、特に好ましくは0.01〜0.3gである。
【0017】
固形乾燥剤としては、例えば、任意の固形乾燥剤を用いることができる。このような固形乾燥剤としては、例えば、吸水性固形乾燥剤、シート状乾燥剤が挙げられるが、吸水性固形乾燥剤が好ましい。吸水性固形乾燥剤としては、例えば、シリカゲル、アルミナシリカゲル、アロフェン、モレキュラーシーブ、ゼオライト、生石灰、塩化カルシウム、珪藻土、吸水ポリマーが挙げられる。吸水性固形乾燥剤のなかでも、シリカゲル、アルミナシリカゲル、アロフェンが好ましく、シリカゲルがより好ましい。
【0018】
固形乾燥剤は、任意の形状のものを用いることができる。このような形状としては、例えば、プレート、粒子(例、直径2〜5mmである球状物等の固形物)、粉末が挙げられる。簡便な操作等の観点からは、固形乾燥剤として、プレートを用いてもよい。
【0019】
一実施形態では、糞便の乾燥は、固形乾燥剤との接触条件下で行うことができる。このような場合、糞便および固形乾燥剤の接触は、糞便の乾燥を十分に促進できるように行うことができる。例えば、接触は、接触様式、接触面積、温度、および接触時間等の条件を適宜設定することにより行うことができる。
【0020】
糞便および固形乾燥剤の接触様式は、任意の様式で行うことができる。例えば、固形乾燥剤としてプレートが用いられる場合には、プレート上に糞便を載置することにより、あるいは2以上のプレート間に糞便を挟持することにより行うことができる。固形乾燥剤として、粒子または粉末を用いる場合には、多数の粒子または多量の粉末で糞便を覆うこと(例、多数の粒子または多量の粉末中に糞便を埋没させること)により行うことができる。また、本発明の糞便固定物において後述するような、固形乾燥剤を含有する1以上の部材が用いられる場合には、後述する様式において、糞便を処理することができる。
【0021】
糞便および固形乾燥剤の接触は、糞便の乾燥を十分に促進する観点から、十分な接触面積が確保されるように行うことができる。このような接触面積は、糞便および固形乾燥剤の種類および量、温度、接触期間等の因子によって変動するが、例えば100(mm/1g糞便)以上であってもよい。接触面積は、好ましくは500(mm/1g糞便)以上、より好ましくは1,000(mm/1g糞便)以上、さらにより好ましくは1,600(mm/1g糞便)以上、特に好ましくは2,000(mm/1g糞便)または2,500(mm/1g糞便)以上であってもよい。接触面積はまた、10,000(mm/1g糞便)以下、8,000(mm/1g糞便)以下、6,000(mm/1g糞便)以下、または4,000(mm/1g糞便)以下であってもよい。より具体的には、このような接触面積は、500〜10,000(mm/1g糞便)、800〜8,000(mm/1g糞便)、より好ましくは1,200〜6,000(mm/1g糞便)、さらにより好ましくは1,600〜4,000(mm/1g糞便)、特に好ましくは2,000〜4,000(mm/1g糞便)または2,500〜4,000(mm/1g糞便)であってもよい。
【0022】
乾燥のための温度は、水が凍結しない温度(すなわち、0℃を超える温度)に設定することができるが、より簡便に乾燥を達成するためには、非加熱条件下(例、気温、室温または常温)で行うことができる。本発明の保存方法によれば、4℃以上の温度範囲において糞便を十分に乾燥できることが実証されている。したがって、本発明では、このような温度範囲内(例、4〜60℃、10〜45℃、15℃〜37℃、または20〜35℃)で糞便を乾燥させることができる。あるいは、乾燥のための温度は高温であってもよい。例えば、加熱機器を用いて加熱することによって糞便の乾燥を促してもよい。加熱機器としては、例えば、マイクロ波照射機器(例、電子レンジ)、ホットプレート、オーブンが挙げられる。好ましくは、乾燥機器としては、マイクロ波の照射による糞便中の微生物の死滅および酵素の失活ならびに糞便の乾燥を瞬時に行うことができるマイクロ波照射機器(例、電子レンジ)が用いられる。
【0023】
別の実施形態では、糞便の乾燥は、固形乾燥剤との非接触条件下で行うことができる。このような場合、乾燥は、閉鎖系において行われてもよい。閉鎖系としては、例えば、密封可能な容器(例、チューブ、ボトル、ケース)が挙げられる。このような場合、固形乾燥剤に対する糞便の重量比(固形乾燥剤/糞便)は、糞便が固形乾燥剤との非接触条件下で十分に乾燥される限り特に限定されないが、例えば0.1〜10000、好ましくは0.5〜5000、より好ましくは1〜1000、さらにより好ましくは5〜500、特に好ましくは10〜300であってもよい。
【0024】
糞便の乾燥はまた、接触条件または非接触条件のいずれであっても、外装(例、バック、袋、シート)を利用して密閉することにより行われてもよい。例えば、採便済の採便用具を、壁面に固形乾燥剤を担持する容器中に非接触となるようにセットしたものをガスバリア性の高いプラスチックバッグ(例、ジップロック(登録商標))のような外装で密封してもよい。あるいは、採便済の採便用具を、固形乾燥剤を担持する非密封性の保護ケース(例、歯ブラシ先端の保護ケース等のはめ込み式ケース、またはキャップ式ケース)で保護・乾燥されてもよい。採便用具としては、採便可能な任意の用具を用いることができるが、例えば、柄の先端に採便部を有する棒(形状としては、綿棒や歯ブラシのように片端が機能部として作用するもの)を利用してもよい。採便用具の持ち手の形状としては、棒状、ヘラ状、鋏状、手袋、ミトン等の種々の形状を備えるものを利用することができる。
【0025】
乾燥時間は、糞便および固形乾燥剤の種類および量、温度等の因子によって大きく変動するが、本発明によれば、例えば5分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、さらにより好ましくは30分以上、特に好ましくは40分または50分以上であってもよい。
【0026】
糞便の乾燥の程度は、乾燥前の糞便に比し水分量が有意に減少する限り特に限定されず、用いた糞便の元々の水分量、および糞便について所望される保存期間等の因子に応じて異なる。糞便としてヒト糞便(固形糞便)を例に挙げて説明すると、ヒト糞便の水分量は通常、約70〜85重量%である。したがって、糞便の「乾燥」は、糞便の水分量が30重量%以下に減少することを基準にして判定することができる。しかしながら、糞便の安定的な長期保存のためには水分量のさらなる減少が所望されるため、乾燥した糞便の水分量は、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、8重量%以下であることがさらにより好ましく、5重量%以下であることが特に好ましい。糞便の水分量の測定は、糞便を凍結乾燥し、凍結乾燥前後における重量変化の差分から除水分量を求めることにより、除水分量に基づき決定することができる。
【0027】
本発明の保存方法では、糞便の乾燥後、糞便および固形乾燥剤の接触または非接触が維持されたまま、糞便を乾燥状態で保存することができる。したがって、糞便の乾燥後、長期の保存期間が設定されてもよい。このような保存期間としては、例えば、1日以上、10日以上、20日以上、1ヶ月以上、3か月以上、6か月以上、1年以上、または3年以上を想定することができる。
【0028】
本発明はまた、以下を含む、糞便の解析方法を提供する:
(1)糞便を固形乾燥剤の存在下で乾燥させること;および
(2)乾燥した糞便を解析すること。
【0029】
上記(1)の工程は、本発明の保存方法と同様にして行うことができる。
【0030】
上記(2)の工程では、上記(1)の工程で得られた糞便の解析を行うことができる。糞便の解析前に、糞便を処理することができる。このような糞便の処理方法としては、例えば、糞便をビーズで破砕・懸濁処理して懸濁液を得る方法が挙げられる。このような処理方法としては、当該分野で公知の任意の方法を用いることができる(例、国際公開2017/043087号;Murakami, S. et al.,‘‘The Consumption of Bicarbonate−Rich Mineral Water Improves Glycemic Control.’’ Evidence−Based Complementary and Alternative Medicine;2015, pp.824395.)。
【0031】
例えば、解析は、糞便中の腸内細菌に対して行われてもよい。このような腸内細菌の解析は、例えば、メタゲノム解析、メタトランスクリプトーム解析等として知られている。したがって、糞便中の腸内細菌の解析は、例えば、当該分野で公知のメタゲノム解析方法等の方法により行うことができる(例、非特許文献1;国際公開2017/043087号)。例えば、このような解析は、核酸(DNAおよび/またはRNA)抽出、および抽出した核酸のシーケンスにより行うことができる。
【0032】
本発明の解析方法では、糞便中の任意の糞便中の腸内細菌を解析することができるが、後述する実施例において示されるような1種以上の腸内細菌を解析してもよい。このうち、クロストリジウム目(Clostridiales)、パラバクテロイデス属(Parabacteroides)に属する微生物については、乾燥方法によらず比率が大きく変動し得ない腸内細菌として同定されている。したがって、腸内細菌のデータを乾燥・保存方法によらずシンプルかつ汎用的に比較検討する観点からは、糞便中の腸内細菌として、クロストリジウム目(Clostridiales)に属する微生物、パラバクテロイデス属(Parabacteroides)に属する微生物からなる群より選ばれる1種以上の微生物を解析することが好ましい。クロストリジウム目(Clostridiales)に属する微生物としては、例えば、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、またはラクノスピラ科(Lachnospiraceae)に属する微生物が挙げられる。ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)に属する微生物としては、例えば、ルミノコッカス属(Ruminococcus)、またはフィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)、アセトアナエロバクテリウム属(Acetanaerobacterium)、ハイドロジェノアナエロバクテリウム属(Hydrogenoanaerobacterium)、オシロスピラ属(Oscillospira)、パピリバクター属(Papillibacter)、ルミノクロストリジウム属(Ruminoclostridium)、サブドリグラニュラム属(Subdoligranulum)に属する微生物が挙げられる。ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)に属する微生物としては、例えば、アセチトマキュラム属(Acetitomaculum)、アナエロスタイプ属(Anaerostipes)、ブチリビブリオ属(Butyrivibrio)、コプロコッカス属(Coprococcus)、ドレア属(Dorea)、アーセンバージエラ属(Eisenbergiella)、フシカテニバクター属(Fusicatenibacter)、ラクノクロストリジウム属(Lachnoclostridium)、ラクノスピラ属(Lachnospira)、マーバインブリアンティア属(Marvinbryantia)、モリエラ属(Moryella)、シュードブチリビブリオ属(Pseudobutyrivibrio)、ロビンソニエラ属(Robinsoniella)、ロゼブリア属(Roseburia)、セリモナス属(Sellimonas)、シュトレウォーシア属(Shuttleworthia)、タイゼラ属(Tyzzerella)に属する微生物が挙げられる。
【0033】
また、本発明の解析方法では、本発明の保存方法以外の非凍結保存方法(例、常温またはRNA安定化試薬による保存)では従来の凍結保存方法(非特許文献1に記載されるような凍結乾燥)と比較して変化してしまうにも関わらず、本発明の保存方法では従来の凍結保存方法と同等の存在比率を担保できる1種以上の腸内細菌を解析してもよい。このような腸内細菌としては、例えば、ファーミキューテス門(Firmicutes)、バクテロイデス門(Bacteroidetes)、プロテオバクテリア門(Proteobacteria)、アクチノバクテリア門(Actinobacteria)、およびウェルコミクロビウム門(Verrucomicrobia)からなる群より選ばれる1種以上の微生物が挙げられる。より具体的には、バクテロイデス科(Bacteroidaceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、プレボテラ科(Prevotellaceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、バルネシエラ科(Barnesiellaceae)に属する微生物が挙げられる。バクテロイデス科(Bacteroidaceae)に属する微生物としては、例えば、バクテロイデス属(Bacteroides)に属する微生物が挙げられる。ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)に属する微生物としては、例えば、ブラウティア属(Blautia)に属する微生物が挙げられる。プレボテラ科(Prevotellaceae)に属する微生物としては、例えば、プレボテラ属(Prevotella)に属する微生物が挙げられる。ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)に属する微生物としては、例えば、ルミノコッカス属(Ruminococcus)に属する微生物が挙げられる。
【0034】
勿論、上記で具体的に述べた微生物以外の腸内細菌についても、乾燥方法による変動比率等の因子を考慮することで、データの比較検討が可能である。本発明において解析される微生物の数は、特に限定されないが、例えば1種以上、2種以上、5種以上、10種以上、または20種以上であってもよい。また、微生物の解析は、目、科、属、または種のいずれのレベルでも行うことができる。
【0035】
解析はまた、糞便中の物質に対して行われてもよい。このような物質の解析は、メタボローム解析等として知られている。したがって、糞便中の物質は、当該分野で公知のメタボローム解析方法等の方法により行うことができる(例、非特許文献1;Mishima et al.,Kidney Int. 2017 Sep;92(3):634−645;国際公開2017/043087号)。例えば、このような解析は、クロマトグラフィー(例、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー)、キャピラリー電気泳動、質量分析法、核磁気共鳴分光法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法等の方法を適宜組み合わせて行うことができる。
【0036】
本発明の解析方法では、糞便中の任意の物質を解析することができるが、後述する実施例において示される物質からなる群より選ばれる1種以上の物質を解析してもよい。好ましくは、乾燥・保存方法にかかわらず、量の変動が小さい、以下に示されるような物質が解析される。
(1)2−ヒドロキシグルタル酸(2−hydroxyglutarate)
(2)2−ヒドロキシペンタン酸(2−hydroxypentanoate)
(3)2−アミノベンズアミド(2−aminobenzamide:2AB)
(4)3−メチル酪酸(3−methylbutanoate)
(5)4−(β−アセチルアミノエチル)イミダゾール〔4−(β−acetylaminoethyl)imidazole〕
(6)4−メチル−5−チアゾールエタノール(4−methyl−5−thiazoleetanol)
(7)5−アミノペンタン酸(5−aminovalerate)
(8)7−メチルグアニン(7−Methylguanine)
(9)アジピン酸(adipate)
(10)アラニルアラニン(Ala−Ala)
(11)α−アミノアジピン酸(α−aminoadipate)
(12)アンセリン(anserine)
(13)アスパラギン酸(Asp)
(14)アゼライン酸(azelate)
(15)酪酸(butyrate)
(16)カルニチン(carnitine)
(17)コール酸(cholate)
(18)コリン(choline)
(19)シトラマル酸(citramalate)
(20)クエン酸(citrate)
(21)シトルリン(citrulline)
(22)デオキシコール酸(deoxycholate:DCA)
(23)ジエタノールアミン(diethanolamine)
(24)ドデカン二酸(dodecanedioate)
(25)γ−ブチロベタイン(γ−butyrobetaine)
(26)グルタミン酸(Glu)
(27)グルタル酸(glutarate)
(28)グリシルロイシン(Gly−Leu)
(29)グリセロリン酸(Glycerophosphate)
(30)グリコール酸(glycolate)
(31)グアニン(guanine)
(32)ヘキサン酸(hexanoate)
(33)ヒスタミン(Histamine)
(34)ホモセリン(homoserine)
(35)ヒポキサンチン(hypoxanthine)
(36)イミダゾール−4−酢酸(imiadzole−4−acetate)
(37)イソプロパノールアミン(isopropanolamine)
(38)乳酸(lactate)
(39)リジン(lysine:Lys)
(40)リンゴ酸(malate)
(41)マロン酸(malonate)
(42)メチオニン(methionine:Met)
(43)N−アセチルアスパラギン酸(N−acetylaspartate)
(44)N−アセチルグルタミン酸(N−acetylglutamate)
(45)N−メチルアラニン(N−methylalanine)
(46)N−メチルグルタミン酸(N−methylglutamate)
(47)N1−アセチルスペルミジン(N1−acetylspermidine)
(48)N1,N8−ジアセチルスペルミジン(N1,N8−diacetylspermidine)
(49)オルニチン(ornithine)
(50)ペラルゴン酸(pelargonate)
(51)ペンタン酸(pentanoate)
(52)フタル酸(phthalate)
(53)ピメリン酸(pimelate)
(54)ピペコリン酸(pipecolate)
(55)プロリン(proline:Pro)
(56)プロリンベタイン(proline betaine)
(57)プロピオン酸(propionate)
(58)ピリドキサミン(pyridoxamine)
(59)セバシン酸(sebacate)
(60)セリン(serine:Ser)
(61)コハク酸(succinate)
(62)テレフタル酸(terephthalate)
(63)チアミン(thiamine)
(64)トリゴネリン(trigonelline)
(65)トリメチルアミン(trimethylamine)
(66)トリプトファン(tryptophan:Trp)
これらの物質については、乾燥方法によらず量の変化が小さい代謝物質として同定されている。したがって、代謝物質のデータを乾燥・保存方法によらずシンプル、汎用的かつ信頼性が高いものとして比較検討する観点からは、糞便中の物質として、上記に示されるような1種以上の物質を解析することが好ましい。解析される物質としては、上記物質のうち変動比が0.3以上の物質が好ましく、変動比が0.4以上の物質がより好ましく、変動比が0.5以上の物質がさらにより好ましく、変動比が0.6以上、0.7以上または0.8以上の物質が特に好ましい(実施例を参照)。解析される物質としてはまた、上記物質のうち変動比が3.0以下の物質が好ましく、変動比が2.5以下の物質がより好ましく、変動比が2.0以下の物質がさらにより好ましく、変動比が1.5以下、1.35以下、または1.2以下の物質が特に好ましい(実施例を参照)。より具体的には、解析される物質としては、上記物質のうち変動比が0.3以上3.0以下の物質が好ましく、変動比が0.4以上2.5以下の物質がより好ましく、変動比が0.5以上2.0以下の物質がさらにより好ましく、変動比が0.6以上1.5以下、0.7以上1.35以下、または0.8以上1.2以下の物質が特に好ましい(実施例を参照)。勿論、これらの物質以外の物質についても、乾燥方法による変動比等の因子を考慮することで、データの比較検討が可能である。あるいは、健康と腸内細菌との関係が知られている、または示唆されている特定の物質を解析してもよい。このような特定の物質としては、例えば、炭素原子数6個以下である短鎖脂肪酸(例、プロピオン酸、酪酸)、胆汁酸(例、コール酸、デオキシコール酸)、トリメチルアミンが挙げられる。本発明において解析される物質の数は、特に限定されないが、例えば1種以上、2種以上、5種以上、10種以上、20種以上、50種以上、または100種以上であってもよい。
【0037】
本発明は、本発明の保存方法に好適に用いることができる物を提供する。
【0038】
一実施形態では、本発明の保存方法に好適に用いることができる物は、(a)固形乾燥剤、および(b)固形乾燥剤と非接触条件下にある糞便を含む密封容器である。このような密閉容器は、糞便の乾燥および保存を固形乾燥剤との非接触条件下で好適に行うために有用である。固形乾燥剤、糞便、および密封容器は、上述したとおりである。
【0039】
密閉容器における固形乾燥剤に対する糞便の重量比(固形乾燥剤/糞便)は、糞便が固形乾燥剤との非接触条件下で十分に乾燥される限り特に限定されないが、例えば0.1〜10000、好ましくは0.5〜5000、より好ましくは1〜1000、さらにより好ましくは5〜500、特に好ましくは10〜300であってもよい。
【0040】
別の実施形態では、本発明の保存方法に好適に用いることができる物は、(a)固形乾燥剤を含有または固定する1以上の部材、および(b)糞便を備えており、糞便が固形乾燥剤と接触している糞便固定物を提供する。このような糞便固定物は、糞便の乾燥および保存を固形乾燥剤との接触条件下で好適に行うために有用である。固形乾燥剤、糞便、および密封容器は、上述したとおりである。
【0041】
固形乾燥剤を含有する部材は、本質的に固形乾燥剤のみからなる、固形乾燥剤の成形部材であってもよく、また、固形乾燥剤および他の材料との混合物から構成される部材であってもよい。固形乾燥剤の例および好ましい例は、上述したとおりである。他の材料としては、固形乾燥剤を保持できる任意の材料を用いることができる。このような他の材料としては、例えば、金属、プラスチック、ガラス、膜、フィルターが挙げられる。シンプルな部材の利用等の観点から、固形乾燥剤を含有する部材は、本質的に固形乾燥剤のみからなる、固形乾燥剤の成形部材であってもよい。
【0042】
部材としては、糞便を固定もしくは収容できる、または糞便に吸着できる任意の部材を用いることができる。このような部材としては、糞便を固定可能な物(例、プレート)、糞便に吸着可能な物(例、粒子)、便を収容可能な物(例、四角柱状、円柱状、三角柱状等の形態を有する容器(例、チューブ、ボトル、ケース)、上述したような採便用具)が挙げられる。部材の数は、1以上である限り特に限定されず、その種類に応じて、変動する。例えば、部材がプレートの場合には、例えば1個または2個のプレートを用いることができる。一方、部材が粒子の場合には、糞便を覆うのに十分な個数の粒子を用いることができる。また、部材が容器の場合には、糞便を1個の容器に収容してもよいし、糞便を分割した上で、複数の容器に個別に収容してもよい。2以上の部材が用いられる場合には、それぞれの部材は、同一であっても異なっていてもよい。例えば、2個のプレートが用いられる場合には、一方のプレートの所定の部位にくぼみを設けることにより、当該所定の部位に糞便を収容し易くした上で、他方のプレートにはくぼみを設けず、蓋のような役割を果たすように用いてもよい。簡便な操作および取扱い易さ等の観点からは、部材として、プレートを用いてもよい。糞便固定物は、上述したように外装を利用して密閉されることも好ましい。あるいは、糞便固定物(例、採便済の採便用具)を、上述したような非密封性の保護ケース中で保護・乾燥させることも好ましい。
【0043】
好ましくは、固形乾燥剤を含有する部材として、糞便の保持面を有する部材であって、保持面において固形乾燥剤を含有しているものを用いることができる。このような部材としては、例えば、プレート、容器、および採便用具が挙げられるが、固形乾燥剤を含有する部材をより容易に調製・入手する等の観点からは、プレートが好ましい。
【0044】
好ましくは、本発明の糞便固定物は、(a1)第1の保持面を有する第1のプレート、(a2)第2の保持面を有する第2のプレート、および(b)糞便を備えており、糞便が、互いに対向するように配置された第1および第2の保持面の間に挟持されることにより、固形乾燥剤と接触しており、糞便と、固形乾燥剤を含有する保持面との接触面積が100(mm/1g糞便)以上であってもよい。
このような糞便固定物は、2個のプレートの保持面により糞便を確実に保持することができる。また、糞便および固形乾燥剤が十分な接触面積で接触しているため、効率的に吸水することができ、糞便を迅速に乾燥させることができる。さらに、糞便が第1および第2のプレート(第1および第2の保持面)間に挟持されており、糞便の外界環境への露出が少ない。したがって、糞便と外界環境との接触を回避でき、取扱い易いことから、糞便の保管および輸送にも適している。
【0045】
上述したプレートは、固形乾燥剤の成形部材であってもよく、また、固形乾燥剤および他の材料との混合物から構成される部材であってもよいが、シンプルな部材の利用等の観点から、固形乾燥剤の成形部材であってもよい。プレートは、好ましくは、吸水性固形乾燥剤プレートであり、より好ましくは、シリカゲルプレートである。第1および第2のプレートが用いられる場合、プレートは、上述したように同一であっても異なっていてもよいが、画一的なプレートの汎用等の観点からは、同一であることも好ましい。
【0046】
プレートの厚みは、例えば、乾燥剤としての機能(例、吸水性)を発揮でき、また、取扱い易さ等の観点から、適度な固さを確保できる程度の厚みを備えることができるのであれば特に限定されない。このような厚みは、例えば1.0mm以上、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは2.0mm以上、さらにより好ましくは2.5mm以上、特に好ましくは3.0mm以上である。厚みはまた、10mm以下、8mm以下、6mm以下、または5mm以下であってもよい。
【0047】
プレートの長さおよび幅は、2つのプレートにより挟持される糞便の量等の因子によって適宜決定することができる。例えば、長さおよび幅は、同じであってもよいし(すなわち、正四角形)、または異なっていてもよい(すなわち、長方形)。プレートの長さおよび幅はそれぞれ、任意のサイズを採用することができるが、例えば5mm以上、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上であってもよい。プレートの長さおよび幅はまたそれぞれ、1000mm以下、500mm以下、250mm以下、150mm以下、または100mm以下であってもよい。
【0048】
2つのプレート(保持面)により挟持される糞便の厚みは、糞便を乾燥できる限り(例、糞便内部からプレートへの水分の移動(吸水)を損なわない限り)特に限定されず、例えば30mm以下、好ましくは15mm以下、より好ましくは5mm以下、さらにより好ましくは4mm以下、特に好ましくは2mm以下であってもよい。極力短い長さおよび幅のプレートによる多量の糞便の保存、および適度な厚みの糞便の回収(乾燥糞便の回収効率の向上)等の観点からは、挟持される糞便の厚みは、例えば0.1mm以上、好ましくは1.0mm以上、より好ましくは1.5mm以上、さらにより好ましくは1.7mm以上、特に好ましくは2.0mm以上であってもよい。
【0049】
上述した好ましい本発明の糞便固定物は、2つのプレート(保持面)により挟持される糞便の厚みの厳密な制御等の観点から、互いに対向するように配置された第1および第2の保持面の間に(c)スペーサーをさらに備えていてもよい。スペーサーは、所望される糞便の厚みと一致する厚みを有するように設定することができる。したがって、スペーサーは、糞便の厚みについて上述した寸法を有することができる。また、スペーサーとしては、複数(例、2〜4個)のスペーサーが用いられてもよい。例えば、2個のスペーサーが用いられる場合、スペーサーは、挟持された糞便の両側において、2つのプレート(保持面)により挟持されていてもよい。3個のスペーサーが用いられる場合、挟持された糞便を中心とする正三角形の位置において、2つのプレート(保持面)により挟持されていてもよい。4個のスペーサーが用いられる場合、2つのプレート(保持面)の長さおよび幅に沿う四辺において、2つのプレート(保持面)により挟持されていてもよい。このような4個のスペーサーの使用は、糞便の厚みの厳密な制御に加えて、糞便の外界環境からの隔離も可能にする。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
(材料)
(1)吸水性乾燥剤
(a)乾燥剤(パワードライ ウルトラ・X)
デイブレイク・トレーディングから入手した。
本乾燥剤は、不活性吸水ポリマーと塩化カルシウム(CaCl)を成分として含む吸水性乾燥剤である。
(b)粒状シリカゲル
関東化学株式会社から入手した。
シリカゲル NeoBLUE(登録商標)(中粒)500g Cat.No.37489−08)
(c)板状シリカゲル
トヨタプレート 不織布包装タイプ TPF3040 30mmx40mm,厚み3.2mm
トヨタプレート 裸タイプ TP6040 60mmx40mm,厚み3.2mm
トヨタプレート 裸タイプ TP3040 30mmx40mm,厚み3.2mm
トヨタプレート 裸タイプ TP3040 30mmx40mm,厚み5mm
【0052】
(2)採糞便容器「スプーン型(保存液あり)」
株式会社テクノスルガ・ラボから入手した。
【0053】
試料糞便
以降の実験では、1検体のヒト糞便を1条件あたり3個となるよう分割して用いた(すなわち、n=3)。通常、ヒト糞便の水分量は、約70〜85重量%である。
【0054】
実施例1:粒状シリカゲルを用いた試料糞便乾燥試験
1−1.パワードライを用いた乾燥条件の検討
以下のとおり実験を行った。
(1)30mLチューブ(labcon)2本に試料糞便を量り取った。
(2)パワードライ1.27gを試料糞便にまぶすようにして30mLチューブ(labcon)中に収容し、室温(25℃)で静置した。パワードライと試料糞便は、接触条件下で同一閉鎖空間(30mLチューブ)内に封入されている。
(3)およそ20時間後に開封し、試料糞便の様子を観察した。
【0055】
その結果、試料糞便が固くなっていたことから、接触条件下で水分が除かれたことが推察された。試料糞便の固さの程度は、金属製のスパチュラを用いた破砕を試みても、かなり力を必要とするほどであった。したがって、試料糞便の乾燥のためには、試料糞便と吸水性固形乾燥剤との接触が有効であることが実証された。
【0056】
1−2.粒状シリカゲルを用いた乾燥方法の検討
以下のとおり実験を行った。
(1)30mLチューブ(labcon)に粒状シリカゲルを加えて水平にならし、次いで、潰して平たくした試料糞便をその上に載せ、最後に、試料糞便の上に粒状シリカゲルを充填した(D3)。すなわち、D3では、潰して平たくした試料糞便は、粒状シリカゲルとの接触条件下で、粒状シリカゲル中に埋没している。
(2)30mLチューブ(labcon)にパワードライを加えて水平にならし、次いで、潰して平たくした試料糞便をその上に載せ、最後に、試料糞便の上にパワードライを充填した(D4)。すなわち、D4では、潰して平たくした試料糞便は、パワードライとの接触条件下で、パワードライ中に埋没している。
(3)30mLチューブの蓋にパラフィルムを巻き、室温でおよそ40時間静置した。
(4)30mLチューブを開封し、試料糞便を観察した。
【0057】
その結果、D3(粒状シリカゲルとの接触条件)では、試料糞便の脱水が進み、試料糞便は乾燥したコンブのように変化した。一方、D4(パワードライとの接触条件)では、試料糞便のうち、乾燥剤と触れていた部分はよく脱水されているが、試料糞便の内部に水分が残存しているように感じられた。したがって、試料糞便の乾燥において、シリカゲルは、パワードライに比し、吸水性固形乾燥剤として好ましいことが実証された。
【0058】
1−3.粒状シリカゲルと糞便の量比および経時変化が及ぼす影響の検討
以下のとおり実験を行った。
(1)30mLチューブ(labcon)に約1gの試料糞便を量り取った。
(2)粒状シリカゲルを試料糞便のおよそ2倍、3倍、6倍重量加え、3、6、12、24時間、室温(25℃)で静置した。
(3)30mLチューブを開封した後、試料糞便のみ取り出して重量を計測した。
(4)「乾燥率(%)=100×(乾燥前重量−乾燥後重量)/乾燥前重量」として乾燥率を算出し、比較した。
【0059】
その結果、24時間後の乾燥率(%)は、シリカゲルの量が多いほうが最終的な乾燥率が高くなることが明らかとなった(6倍重量では約83%の乾燥率)。特に、糞便の6倍重量のシリカゲルを用いると6時間程度でかなり乾燥した(約76%)。
【0060】
1−4.粒状シリカゲルを用いて乾燥させた糞便の破砕
試料糞便から代謝物質の抽出等の操作を行う際、試料糞便の凍結乾燥物をビーズにより粉砕する手法が用いられている(国際公開第2017/043087号の実施例2−1−1)。そこで、試料糞便の非凍結乾燥物についても、ビーズによる粉砕が可能か検討した。
【0061】
以下のとおり実験を行った。
(1)粒状シリカゲルを用いて試料糞便を十分に乾燥させた。
(2)十分に乾燥した固い試料糞便をビーズで破砕した。より具体的には、取り出した試料糞便と4個のφ3mmジルコニアビーズ(TOMY)を2mL破砕チューブに封入し、Shake master NEO(バイオメディカルサイエンス社製)を用いて1500rpm,10minの条件で振盪破砕を試みた。
(3)破砕チューブの蓋を開け、内容物を観察した。
【0062】
その結果、試料糞便はある程度粉末状に破砕することができた。したがって、本方法は、試料糞便の非凍結乾燥物の破砕法として有効であると考えられた。
しかし、本方法では、試料糞便の破砕後に、1−2mmほどの大きさの塊の残存が確認された。本方法により解析に必要な量の粉末状試料糞便は得られると考えられるが、均一な解析資料を得るという観点から改善の余地があると考えられた。
【0063】
実施例2:試料糞便の乾燥・保管条件が腸内細菌叢解析の結果に及ぼす影響の検討
常温で乾燥・保管した試料糞便から様々な手法でDNA抽出を実施し、腸内細菌叢解析の結果を既存の手法(非特許文献1)と比較した。
【0064】
サンプリング条件
単一の試料糞便(排糞便1回分)を全体が均一になるように混ぜ、以下の条件に振り分けてそれぞれの処理を行った。
【0065】
【表1】
【0066】
DNA抽出ならびに16S rRNAライブラリーの調製およびそのシークエンス解析を、既報(非特許文献1)に記載の方法と同様に行うことにより、腸内細菌叢を解析した。
【0067】
その結果、バクテロイデス属(Bacteroides)、ブラウティア属(Blautia)、プレボテラ属(Prevotella)、バルネシエラ科(Barnesiellaceae)の比率は、保存条件によって大きく変動した(図1)。一方、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、クロストリジウム目(Clostridiales)、パラバクテロイデス属(Parabacteroides)、およびルミノコッカス属(Ruminococcus)に属する微生物の比率は、保存条件によって大きく変動しなかった(図1)。シリカゲルを用いた試料糞便の常温保存は「−80℃で冷凍ののち凍結乾燥_5日」(従来条件:非特許文献1に記載される凍結乾燥)と比較して、腸内細菌叢の解析結果にほぼ変化がなかった(図2)。保存条件によって比率が大きく変動しなかった微生物はいずれも、それらの目・科・属の関係を考慮すると、クロストリジウム目(Clostridiales)、パラバクテロイデス属(Parabacteroides)に属する。したがって、このような微生物の解析は、乾燥方法に依存しない信頼性の高い指標となると考えられる。
【0068】
また、本発明の保存方法以外の非凍結保存方法(例、常温またはRNA安定化試薬による保存)では従来の凍結保存方法(凍結乾燥)と比較して変化してしまうにも関わらず、本発明の保存方法では従来の凍結保存方法と同等の存在比率を担保できる1種以上の腸内細菌として、ファーミキューテス門(Firmicutes)、バクテロイデス門(Bacteroidetes)、プロテオバクテリア門(Proteobacteria)、アクチノバクテリア門(Actinobacteria)、およびウェルコミクロビウム門(Verrucomicrobia)に属する微生物が見出された(図1、2)。より詳細に解析した結果、上記門に属する微生物としては、少なくともバクテロイデス属(Bacteroides)、ブラウティア属(Blautia)、プレボテラ属(Prevotella)、ルミノコッカス属(Ruminococcus)、およびバルネシエラ科(Barnesiellaceae)に属する微生物が存在することが確認された(図1)。
【0069】
また、Weighted UniFrac distanceにより腸内細菌叢のプロファイルを比較したところ、従来条件(上記と同じ)と最も類似のプロファイルとなった条件は「液体窒素(乾燥あり)」であったが、常温で保存した条件の中では「シリカゲル_1日」が最も類似のプロファイルであり、「シリカゲル_5日」においても同様のプロファイルを得た(図3)。
【0070】
以上より、シリカゲルを用いた試料糞便の常温保存は、常温で行われるにもかかわらず従来法(非特許文献1)と同等の良好な方法であること、および腸内細菌叢の解析結果に殆ど影響を与えないことが示唆された。
【0071】
実施例3:試料糞便の乾燥・保管条件が腸内細菌叢の代謝物質の解析結果に及ぼす影響の検討
表1に記載の条件のうち、試料番号01〜08、13および14について、国際公開第2017/043087号に記載の方法と同様にして代謝物質抽出を行った。また、試料番号02「−80℃で冷凍ののち凍結乾燥_5日」(従来条件)と、試料番号14「シリカゲル_5日」(本発明の条件)による代謝物質濃度の違いを比較するため、これら2条件における各代謝物質の濃度を散布図で表した(図4)。
【0072】
その結果、検出対象とした513種の代謝物質のうち、「−80℃で冷凍ののち凍結乾燥5日」(従来条件)では103種、「シリカゲル_5日」(本発明の条件)では108種が検出された。そのうち従来条件のみから検出された代謝物質は18種、本発明の条件のみから検出された代謝物質は23種、いずれの条件においても検出された代謝物質は85種であった。
【0073】
つぎに、「−80℃で冷凍ののち凍結乾燥_5日」(従来条件)と「シリカゲル_5日」(本発明の条件)のいずれの条件においても検出された85種の代謝物質について、式(1)に従い試料糞便1g(乾燥重量)当たりのmol数[nmol/g]の変動比を求め、シリカゲルを用いた際にどの代謝物質がどれだけ変化するかを算出した。
【0074】
(変動比)=(シリカゲル_5日)/(−80℃で冷凍ののち凍結乾燥_5日) 式(1)
【0075】
変動比による分類の結果は、以下のとおりである。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3-1】
【0078】
【表3-2】
【0079】
【表4】
【0080】
その結果、乾燥方法によらず、表3−1および3−2に示されるように、量の変動が小さい代謝物質が明らかとなった。注目すべきことに、量の変動が小さい代謝物質群として、短鎖脂肪酸〔例、プロピオン酸(Propionate)、酪酸(Butyrate)〕、胆汁酸〔例、コール酸(Cholate)、デオキシコール酸(DCA)〕、トリメチルアミン(Trimethylamine)が見出された。これらの代謝物質は健康と腸内細菌との関わりを考える上で重要な指標となりうる。したがって、表3−1および3−2に示される代謝物質の定量解析は、乾燥方法に依存しない信頼性の高い指標となるだけではなく、健康と腸内細菌との関わりを考える上での重要な指標となりうると考えられる。
【0081】
なお、「−80℃で冷凍ののち凍結乾燥_5日」(従来条件)と「シリカゲル_5日」(本発明の条件)において量が増加または減少する代謝物質が存在する理由を考察すると、多くの細菌の代謝反応に必要とされる液体状態の水に起因する可能性が考えられる。従来条件では、採糞便後即座に冷凍し、乾燥時も凍結乾燥によって水分を除去するため、分析に至る間に液体状態の水が存在する時間は極めて短い。一方、シリカゲルによる乾燥においては、液体状態の水が存在する時間が従来条件と比較して長くなると考えられるため、細菌の代謝が完全に停止するまでにある程度の時間を要する。したがって、液体状態の水が存在する間に、細菌によって生産または消費される代謝物質があるために、従来条件と比較して増加する代謝物質と減少する代謝物質の両方が存在すると考えられる。
【0082】
実施例4:板状シリカゲルを用いた糞便乾燥試験
4−1.目的
実施例1〜3では、試料糞便中のDNAや代謝物質を安定的に保存するには水分の除去が有効であることが示されている。実験の過程において充分な乾燥には試料糞便と粒状シリカゲルとの接触が有効であることが示されたものの、乾燥後の試料糞便は粒状シリカゲルと癒着しており、分離が煩雑であった。また、本手法の実用化を考えると、粒状シリカゲルを試料糞便に密着させる操作は、粒状シリカゲルが容器よりこぼれる恐れがあるなど、取扱いが容易ではない。
そこでシリカゲル微粉末を板状に成形した板状シリカゲルに着目した。ひと塊の試料糞便の埋没に多数を必要とする粒状シリカゲルと異なり、十分な大きさの板状シリカゲルであれば試料糞便に対し上下より2枚のみで接触することが可能である。さらに板状シリカゲルは平滑な表面を有することから、試料糞便を乾燥させたのちに簡糞便に剥離できることが期待される。
【0083】
4−2.板状シリカゲル(不織布包装タイプ)を用いた試料糞便の乾燥
以下のとおり実験を行った。
〔1〕板状シリカゲル(不織布包装タイプ)に約1gの試料糞便を載せ、もう1枚の板状シリカゲルで全体に広がるようプレスして室温(25℃)に約6時間静置した。
〔2〕静置した試料を剥離したのち、試料糞便を観察した。
【0084】
その結果、試料糞便は全く乾燥しなかった。これはシリカゲル表面が不織布に覆われていることで糞便とシリカゲル本体とが接触しなかったことにより乾燥が妨げられたものと推察された。したがって、使用する乾燥剤を再検討することとした。また、試料糞便の乾燥にはシリカゲルとの接触が有効であることが示唆されたため、不織布なしのシリカゲルの使用を検討することとした。
【0085】
4−3.板状シリカゲル(裸タイプ)を用いた試料糞便乾燥
以下のとおり実験を行った。
〔1〕板状シリカゲルに約1gの試料糞便を載せ、もう1枚の板状シリカゲルで全体に広がるようプレスして室温(25℃)に静置した。これを2セット作成した。
〔2〕上記工程〔1〕で作成したセットのうち1つを約2時間後に試料を剥離して試料糞便を観察した。
〔3〕上記工程〔1〕で作成したセットの残りの1つを、試料調製から約6時間後に剥離して観察した。
なお、乾燥後に剥離したシリカゲルによれば、糞便が付着している板状シリカゲル片面における試料糞便とシリカゲルとの接触面積はおよそ1350mmと推察された。糞便が板状シリカゲル両面に同様に接触していたことを考慮すると、約1gの試料糞便を60mmx40mmの平板2枚に挟み込んだ場合の接触面積は約2700mmと見積もられた。
【0086】
その結果、用いた板状シリカゲルは、これまでに使用した素材の中で最も扱い易かった。また、試料糞便は6時間経過後には十分に乾燥していた。粒状シリカゲルは乾燥後の糞便からシリカゲルを除去する作業が困難であったが、板状シリカゲルは金属製のスパチュラを用いた削ぎ落としにより容易に試料糞便との分離が可能であった。
以降、板状シリカゲルを用いた場合の試料糞便乾燥条件について検討した。
【0087】
4−4.脱水実験のための試料として用いる糞便の検討
板状シリカゲルによる試料糞便乾燥実験を繰り返し行った。一度凍結し、融解した試料糞便が未凍結の試料糞便と同様に取り扱うことができるならば、試料糞便を安定的に供給できると考え、未凍結の糞便と凍結融解した糞便をそれぞれ板状シリカゲルで乾燥させ、試料の重量変化を経時的に調べた。
【0088】
以下のとおり実験を行った。
〔1〕あらかじめ試料糞便を約1g採糞便管に量り取り、凍結乾燥した。
凍結乾燥前後の重量を測定することで糞便に含有される水分の割合を算出した。
〔2〕上記工程〔1〕で用いた試料糞便と同じ試料糞便を、スパチュラと計量カップを用い、約1gとなるよう計量した。
〔3〕量り取った糞便を1枚の板状シリカゲル(30mmx40mmx3.2mm)中央付近に載せ、板状シリカゲルの形状にあわせてスパチュラで整形した。
〔4〕糞便の周囲にスペーサーとして、高さ2mmのプラスチック片を2枚配置した。
〔5〕糞便の上からもう1枚の板状シリカゲルで挟み込み、糞便の厚みがスペーサーの厚みとなるよう手で上方より軽く押し付けた。
〔6〕糞便を板状シリカゲルで挟み込んだものをチャック付きビニール袋(ユニパック(株式会社生産日本社製、E−8))に封入し、空気をできる限り除いて密閉した。
〔7〕室温(25℃)にて糞便を10,30,60,90,120分間静置した。
試料は各条件と処理時間に対し1個、計10個用意し、タイムポイントごとに開封した。
〔8〕ユニパック(株式会社生産日本社製、E−8)を開封して試料を剥がし、スパチュラの平たい側を用いてシリカゲルから削ぎ落とすようにして糞便を計量カップに剥がし取った。
〔9〕剥がし取った糞便の重量を計測、記録した。シリカゲル処理後の水分含有率は、(a)シリカゲル処理後の試料を凍結乾燥し、凍結乾燥前後の重量変化から除水分量を求め、除水分量に基づき決定した。
【0089】
その結果、未凍結糞便と凍結融解糞便との間では乾燥挙動に大きな差異は確認されなかった(表5、図5)。よって以降の実験では利糞便性を考慮し、凍結融解糞便を用いることとした。また、水分含有率が10%を下回るには室温で90分以上の静置が有効であることが明らかとなった。
【0090】
【表5】
【0091】
4−5.低温(4℃)における乾燥挙動
板状シリカゲルを用いて試料糞便を処理する際、低温条件(4℃)での乾燥挙動を経時的に評価した。
【0092】
以下のとおり実験を行った。
〔1〕4−4と同様の実験操作を行った(工程〔7〕を除く)。
〔2〕工程〔7〕において冷蔵庫内(4℃)で糞便を静置した。また試料は10,30,60,90,120,150,180,300,540,720分間静置し、各処理時間に対し1個、計10個用意した。
【0093】
その結果、試料糞便中の水分含有率は540分間の静置で10%を下回り、90分を要した常温(25℃)よりも乾燥が遅延することが明らかになった(表6、図6)。また、最終的な水分含有率も、常温(25℃)では3.1%であったのに対し、4℃では6.6%と高い値となった(表6、図6)。したがって、低温条件でシリカゲルを使用した場合、水分含有率低下に時間を要することが明らかになった。
【0094】
【表6】
【0095】
4−6.高温(50℃以上)における乾燥挙動
板状シリカゲルを用いて試料糞便を処理する際、高温条件(50℃以上)での乾燥挙動を経時的に評価した。実験温度帯を簡糞便に再現する手法として、カイロ(ウイング社製、暖ま〜るカイロ、貼るタイプ、10コ入り)をユニパック(株式会社生産日本社製、E−8)の外側表面に貼り付けたもので試料を加熱する手法を採用した。
【0096】
以下のとおり実験を行った。
〔1〕あらかじめ試料糞便を採糞便管に量り取り、凍結乾燥した。
凍結乾燥前後の重量を測定することで糞便に含有される水分の割合を算出した。
〔2〕ユニパック(株式会社生産日本社製、E−8)の表裏両面にカイロを貼り付け、内部温度の経時変化をデジタル式温度計を用いて記録した。
〔3〕カイロ製品仕様で示された維持可能温度50℃に到達したことを確認した。
〔4〕上記工程〔1〕で用いた試料糞便と同じ試料糞便を、スパチュラと計量カップを用い、およそ1gとなるよう計量した。
〔5〕量り取った糞便を1枚の板状シリカゲル(30mmx40mmx3.2mm)中央付近に載せ、板状シリカゲルの形状にあわせてスパチュラで整形した。
〔6〕糞便の周囲にスペーサー(高さ:2mm)を2枚配置した。
〔7〕糞便の上からもう1枚の板状シリカゲルで挟み込み、スペーサーの高さまで軽く押し付けた。
〔8〕糞便を板状シリカゲルで挟み込んだものをユニパック(株式会社生産日本社製、E−8)に封入し、空気をできる限り除いて密閉した。
〔9〕遮熱板として敷いた板状発泡スチロールを土台とし、その上にキムタオル、カイロ付試料、キムタオル、発泡スチロール、アルミブロックの順で重ねた状態で室温下にて10,30,60,90,120分間静置した。試料は各処理時間に対し1個、計5個用意し、タイムポイントごとに開封した。
〔10〕ユニパック(株式会社生産日本社製、E−8)を開封して試料を剥がし、スパチュラの平たい側を用いてシリカゲルから削ぎ落とすようにして糞便を計量カップに剥がし取った。
〔11〕剥がし取った糞便の重量を計測、記録した。
【0097】
その結果、カイロ開封後およそ50分でカイロの内部温度は50℃に達し、最大測定時間250分までは50℃以上を維持することが明らかになった(表7、図7)。また、およそ100分後まで温度上昇は続き最高温度60.0℃(実測値)を記録した。
【0098】
【表7】
【0099】
また、カイロを用いた加熱と120分以上の静置により、試料糞便中の水分はほぼ除かれることが明らかになった(表8、図8)。試料糞便中の水分含有率は30分間の静置で10%を下回り、90分を要した常温(25℃)よりも急速に試料糞便を乾燥できることが明らかになった(表8、図8)。
【0100】
【表8】
【0101】
4−7.電子レンジを使用した乾燥方法の検討
試料糞便を瞬間的に加熱し、菌体の生命活動を停止させることで細菌叢と代謝物質の割合を固定できると考えた。そこで身近にある機器のうち水分を電磁波により加温する電子レンジに着目し、板状シリカゲルによる乾燥と併用することで乾燥挙動にどのような影響をおよぼすかについて検討した。
【0102】
以下のとおり実験を行った。
〔1〕あらかじめ試料糞便を採糞便管に量り取り、凍結乾燥した。
凍結乾燥前後の重量を測定することで糞便に含有される水分の割合を算出した。
〔2〕上記工程〔1〕で用いた試料糞便と同じ試料糞便を、スパチュラと計量カップを用い、およそ1gとなるよう計量した。
〔3〕量り取った糞便を1枚の板状シリカゲル(30mmx40mmx3.2mm)中央付近に載せ、板状シリカゲルの形状にあわせてスパチュラで整形した。
〔4〕糞便の周囲にスペーサー(高さ:2mm)を2枚配置した。
〔5〕糞便の上からもう1枚の板状シリカゲルで挟み込み、スペーサーの高さまで軽く押し付けた。
〔6〕糞便を板状シリカゲルで挟み込んだものをユニパック(株式会社生産日本社製、E−8)に封入し、空気をできる限り除いて密閉した。
〔7〕試料を電子レンジ中央に静置し、出力500Wで10,20,30秒間加熱した
試料は各処理時間に対し1個、計3個用意し、タイムポイントごとに開封した。
〔8〕ユニパック(株式会社生産日本社製、E−8)を開封して試料を剥がし、スパチュラの平たい側を用いてシリカゲルから削ぎ落とすようにして糞便を計量カップに剥がし取った。
〔9〕剥がし取った糞便の重量を計測、記録した。
【0103】
その結果、板状シリカゲルと電子レンジを用いた試料糞便の乾燥(500W,30秒)によって試料糞便中の水分は急速に除かれることが明らかになった(表9、図9)。処理時間10秒で水分含有量はおよそ10%に到達し、20秒では10%を下回ることが明らかになった(表9、図9)。
【0104】
【表9】
【0105】
4−8.嫌気条件下での乾燥条件の検討(1)
糞便中に含まれる菌には代謝活動するに際し水分のほかに酸素を必要とするものが含まれることが知られている。大気中の酸素を除くことで代謝活動を抑制するため、まず脱酸素剤の存在が板状シリカゲルを用いた試料糞便の乾燥にどのような影響を与えるかについて検討した。
【0106】
以下のとおり実験を行った。
〔1〕あらかじめ試料糞便を採糞便管に量り取り、凍結乾燥した。
凍結乾燥前後の重量を測定することで糞便に含有される水分の割合を算出した。
〔2〕上記工程〔1〕で用いた試料糞便と同じ試料糞便を、スパチュラと計量カップを用い、およそ1gとなるよう計量した。
〔3〕量り取った糞便を1枚の板状シリカゲル(30mmx40mmx3.2mm)中央付近に載せ、板状シリカゲルの形状にあわせてスパチュラで整形した。
〔4〕糞便の周囲にスペーサー(高さ:2mm)を2枚配置した。
〔5〕糞便の上からもう1枚の板状シリカゲルで挟み込み、スペーサーの高さまで軽く押し付けた。
〔6〕上記工程〔2〕〜〔5〕を2セット作成し、そのうち1つを酸素透過性の低いラミジップスタンドタイプ(株式会社生産日本社製、AL−9)に封入し、空気をできる限り除いて密閉した。もう一方は脱酸素剤(鳥繁産業製、エバーフレッシュ、QJ−30)と共にラミジップスタンドタイプ(株式会社生産日本社製、AL−9)に封入し、空気をできる限り除いて密閉した。
〔7〕室温(25℃)にて10,30,60,90,120分間静置した。試料は各条件と処理時間に対し1個ずつ、計10個用意し、タイムポイントごとに開封した。
〔8〕ラミジップスタンドタイプを開封して試料を剥がし、スパチュラの平たい側を用いてシリカゲルから削ぎ落とすようにして糞便を計量カップに剥がし取った。
〔9〕剥がし取った糞便の重量を計測、記録した。
【0107】
その結果、脱酸素剤封入時と未封入時では乾燥挙動に大きな差異は確認されなかった(表10、図10)。水分含有率が10%を下回る時間も脱酸素剤未封入時と同様に90分以上の静置を要することが明らかになった(表10、図10)。
【0108】
【表10】
【0109】
4−9.粒状シリカゲルを用い、糞便とシリカゲルとが直接接触しない乾燥方法の検討
糞便に板状シリカゲルを接触させることで室温での乾燥が可能であることが実証されてきたが、実際乾燥糞便を試料として取り扱う際には板状シリカゲルからの剥離の工程が作業の律速段階となる。そこで糞便をシリカゲルとともに密閉し封入することで乾燥可能か検討した。
【0110】
以下のとおり、実験を行った。
〔1〕スクリューキャップに棒状の採便部が連結した採便チューブに、乾燥した粒状シリカゲルおよそ2グラムを底部に添加した。
〔2〕リング状の紙テープ内側表面に粒状シリカゲルを塗布したものを採便チューブに積層した。
〔3〕あらかじめ試料糞便を採糞便管に量り取り、凍結乾燥した。凍結乾燥前後の重量を測定することで糞便に含有される水分の割合を算出した。
〔4〕あらかじめシリカゲル入り採便チューブの重量を測定し、採便前後の重量を測定することで採便重量を算出した。
〔5〕上記工程〔3〕で用いた試料糞便と同じ試料糞便を、スクリューキャップ付採便棒で採取した。
〔6〕採便チューブ壁面のシリカゲルに便が触れぬように注意して挿入し、容器を密閉し室温(25℃)にて120分間静置した。
〔7〕採便チューブを開封して試料を回収した。
〔8〕回収した糞便の重量を計測、記録した。
【0111】
その結果、100.5mg採便した場合31.2mg(水分含有率6.8%)まで乾燥されることが明らかとなった。このことから、少量の糞便試料であればシリカゲルと接触せずとも求める乾燥程度を達成できることが明らかとなった。
【0112】
実施例5:乾燥後の糞便に含まれる微生物の培養実験
排泄後すぐの便、凍結した便、凍結乾燥した糞便、およびシリカゲルで乾燥した糞便を用いた培養実験を実施した。培養実験は、以下のとおり行った。
〔1〕それぞれの試料糞便をリン酸緩衝液に懸濁した。このとき糞便要素の重量が等しくなるよう懸濁液を調製した。すなわち糞便の水分含有量を考慮して、1mLのリン酸緩衝液に対して排泄後すぐの糞便は20mg、シリカゲル乾燥糞便は6mgを懸濁した。
〔2〕得られた懸濁液をビフィドバクテリウム属の生育に特化した培地(TOSプロピオン酸寒天培地(ヤクルト薬品工業株式会社))に塗布し、アネロパックを使用した嫌気条件において37℃で一晩静置した。
〔3〕培地上に発生した菌のコロニーを確認し、コロニー数を計測した。
〔4〕培養効率を求めた。培養効率は下記の式に従って算出した。
(培養効率)=(各条件でのコロニー計測数)/(排泄後すぐの糞便を使用した際のコロニー計測数)x100(%)
〔5〕培養効率は次のように求められた。
排泄後すぐの糞便:100%、凍結した糞便:37.6%、凍結乾燥した糞便:0.1%、シリカゲルで乾燥した糞便:15.6%
【0113】
以上より、シリカゲルによる糞便の乾燥手法は、糞便中の遺伝子情報や代謝物質の保存に加え、利活用を目指した微生物の保存方法としても有効であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
例えば、本発明は、糞便およびその中に含まれる微生物の保存、ならびにその解析に有用である。
図1
図2
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図10