【文献】
Nature,2013年,Vol. 501,p.395-398
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
有機金属ハライドペロブスカイト膜を作製する従来の方法におけるソース材料は、PbCl
2、PbBr
2、PbI
2、SnCl
2、SnBr
2、及びSnI
2等のハライド金属、並びにCH
3NH
3Cl、CH
3NH
3Br、及びCH
3NH
3I等のメチルアンモニウム(MA=CH
3NH
3+)化合物を含む。MA化合物に代わって、又はMA化合物と組み合わせて、ホルムアミジニウム(FA=HC(NH
2)
2+)化合物も使用することができる。有機金属ハライドペロブスカイトは、一般的に、ABX
3で表され、有機元素MA、FA又は他の適切な有機元素が各Aサイトを占め、金属元素Pb
2+又はSn
2+が各Bサイトを占め、ハロゲン元素Cl
−、I
−又はBr
−が各Xサイトを占める。ソース材料は、AX及びBX
2によって表され、AXは、X−アニオンとしてのハロゲン元素Cl、I又はBrと結合されたA−カチオンとしての有機元素MA、FA又は他の適切な有機元素を有する有機ハライド化合物を表し、BX
2は、X−アニオンとしてのハロゲン元素Cl、I又はBrと結合されたB−カチオンとしての金属元素Pb又はSnを有する金属ハライド化合物を表す。ここで、AXにおける実際の元素X及びBX
2における実際の元素Xは、ハロゲン基から選択されるものであれば同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、AXにおけるXはClにすることができ、BX
2におけるXは、Cl、I又はBrにすることができる。したがって、混合ペロブスカイト、例えば、MAPbI
3−xCl
xの形成が可能である。「ペロブスカイト」及び「有機金属ハライドペロブスカイト」の用語は、この文書では同義語及び同意語として使用される。
【0012】
有機金属ハライドペロブスカイトは、太陽電池、LED、レーザ等のオプトエレクトロニクスデバイスの活性層に用いることができる。ここで、「活性層」とは、光起電力デバイスでは、電荷キャリア(電子と正孔)への光子の変換が発生する吸収層を指し、フォトルミネッセンスデバイスの場合、電荷キャリアが結合して光子を生成する層を指す。正孔輸送層(HTL)は、光起電力デバイスでは、活性層から電極に正孔キャリアを輸送する媒体として使用することができ、フォトルミネッセンスデバイスの場合、HTLは、電極から活性層に正孔キャリアを輸送する媒体を指す。ペロブスカイトベースのデバイスにHTLを形成するために用いる正孔輸送材料(HTM)の例としては、2,2’,7,7’−テトラキス(N,N’−ジ−p−メトキシフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(spiro−MeOTADまたspiro−OMeTADとも呼ばれる)、ポリスチレン、ポリ(3−ヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)(P3HT)、C60、ポリ(トリアリールアミン)(PTAA)、酸化グラフェン、酸化ニッケル、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)、チオシアン酸銅(CuSCN)、CuI、Cs
2SnI
6、アルファ−NPD、Cu
2O、CuO、サブフタロシアニン、6,13−ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(TIPS−ペンタセン)、PCPDTBT、PCDTBT、OMeTPA−FA、OMeTPA−TPA、及びキノリジノアクリジンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
最も一般的に研究されているペロブスカイト材料は、有毒であり、大規模な製造及び使用において問題を引き起こす可能性がある鉛(Pb)を含有する。ペロブスカイトを形成するために使用できる他の金属元素はスズ(Sn)である。しかしながら、溶液処理法を用いて作製されたSnベースのペロブスカイト太陽電池は、極めて不安定であり、それは、環境曝露に起因する劣化及び酸化によって引き起こされていると考えられる。一般的に、Sn含有材料は、Pb含有材料よりも酸化されやすい。さらに、溶液法は、一般に成長パラメータを制御することが困難であり、しばしば複数の直交溶媒を必要とする。このように、劣化および酸化を低減し、結果として得られるSnベースのペロブスカイト太陽電池の安定性を高めるために、新規な処理技術が必要とされている。この文書では、Snベースの鉛フリーペロブスカイト膜を形成する方法と、Snベースの鉛フリーペロブスカイト膜を含んで製造された光起電力デバイスの特性と、を説明する。真空蒸着法が本方法では利用され、成長パラメータの精密制御、成長プロファイルの再現性、結果として得られる膜の均一性、及び大規模製造との互換性を提供する。
【0014】
図1は、ソース材料を蒸発させ、膜を基板上に堆積させる真空蒸着システム(正確な縮尺ではない)の一例を概略的に示す図である。本真空蒸着システムは、その開示を参照することにより本書に組み込まれる特許文献2(PCT/JP2015/002041)及び特許文献3(PCT/JP2015/003450)に記載された考察及び実装に基づき構成されている。このシステムは、必要部品に接続された真空チャンバ100を備える。堆積処理のためにチャンバ100内に高真空を生成するためのポンプユニット(不図示)がチャンバ100に接続されている。基板ステージ104は、チャンバ100の上部に接続され、基板又は基膜を下向きに取り付けるための下向きのステージ表面を有する。基板ステージ104の温度は、基板又は基膜を均一に冷却又は加熱するために制御される。さらに、基板ステージ104は、回転可能に構成されてもよく、堆積中に基板ステージ104を回転させることによって堆積膜の均一性を高めることができる。
図1のシステムにおいて、第1蒸発ユニット108及び第2蒸発ユニット112は、チャンバ100の下部に接続され、それぞれ、ソース材料の蒸気を発生させる。第1及び第2蒸発ユニット108及び112のそれぞれは、加熱されてその蒸気を発生させる粉末状のソース材料を収容するためのるつぼを備えていてもよい。第1蒸発ユニット108は、有機ハライド化合物MABr、MAI、MACl、FABr、FAI及びFACl等の揮発性のソース材料を収容してもよく、第2蒸発ユニット112は、SnBr
2、SnI
2及びSnCl
2等のSnハライド化合物を収容してもよい。チャンバ100の側部に接続された別の第1蒸発ユニット109は、揮発性の有機ハライドを収容し蒸発させるためのアンプルを備えていてもよい。これらの容器は、例えば、タングステンフィラメント等の外部の加熱装置によってそれぞれ加熱されてもよい。材料の近傍において2種類の蒸気間の熱的干渉を低減するように、チャンバ100の下部に接続された第1蒸発ユニット108と第2蒸発ユニット112との間にシールドが設けられていてもよい。本システムは、基板ステージ104の下にシャッタ116を備え、基板ステージ104を露出させる及び覆うために移動可能に構成されている。初めには、基板ステージ104は、シャッタ116に覆われており、各蒸気ユニット内のソース材料の1つ以上は、蒸発速度がそれぞれ所定値に達するまで加熱される。その後、シャッタ116を移動して、蒸発した蒸気に基板ステージ104を直接曝露させる。
図1のシステムにおいて、第1モニタ120及び第2モニタ124、例えば、水晶振動子マイクロバランスがソース材料の蒸発速度、すなわち、膜厚を測定するためにそれぞれ設けられている。または、複数のソースを順次蒸発させる場合には、ただ1つのモニタが設置されていてもよい。各膜厚が所定厚に到達した場合に、シャッタ116を用いて堆積を中断させることができる。したがって、本システムは、成長パラメータの精密制御、成長プロファイルの再現性、結果として得られる膜の均一性、及び大規模製造との互換性を可能とする。
【0015】
図2は、鉛フリーSnベースのペロブスカイト膜を形成する真空蒸着に基づく本処理を例示するフローチャートである。
図1に示したような真空蒸着システムを用いることができる。まず、ステップ204において、基板を真空蒸着システムの真空チャンバ100内の基板ステージ104上に載置する。ここではまとめて基板と呼ぶが、1以上の基板を複数の膜成長のために1度に載置することができる。基板材料の例としては、電子輸送層(ETL)が形成された又は電子輸送層(ETL)が形成されていないフッ素ドープ酸化スズ(FTO)ガラスが挙げられる。ETL材料の例としては、TiO
2、ZnO及びフェニル−C
61−酪酸メチルエステル(PCBM)が挙げられる。ガラスに代えて、ポリエチレンテレフタレート等の可撓性ポリマーを基材として用いてもよい。ステップ208において、例えば、蒸発ユニット112に収容された粉末状のSnハライドソース材料を蒸発させ、Snハライドを堆積させ、基板上に第1層を形成する。Snハライドの例としては、SnBr
2、SnI
2及びSnCl
2等が挙げられる。膜厚は、システムに設置された、例えば、モニタ124によって測定してもよい。ステップ212において、第1層の厚さが第1所定厚に達すると、堆積を中断する。これは、シャッタ116を閉じて基板が載置されている基板ステージ104を覆い、Snハライド粉末を収容する蒸発ユニット112の加熱装置の電源を切ることによって行ってもよい。ステップ216において、例えば、蒸発ユニット108又は109に収容されている粉末状の有機ハライドソース材料を蒸発させ、有機ハライドを堆積させ、第1層上に第2層を形成する。有機ハライドの例としては、MABr、MAI、MACl、FABr、FAI及びFACl等が挙げられる。膜厚は、システムに設置された、例えば、モニタ120によって測定される。ステップ220において、第2層の厚さが第2所定厚に達すると、堆積を中断する。これは、シャッタ116を閉じて基板が載置されている基板ステージ104を覆い、有機ハライド粉末を収容する蒸発ユニット108又は109の加熱装置の電源を切ることによって行ってもよい。これにより、順次堆積2層膜が基板上に形成される。基板上に第1及び第2積層膜を形成するための順次堆積後、ステップ224において、密閉された高純度不活性雰囲気、例えば、窒素N
2内に収容されなければならない材料の操作を可能にするグローブボックス等の密閉チャンバにサンプルを移送する。移送中、サンプルは大気に曝露される。しかしながら、順次堆積の結果、Sn含有層、すなわち、第1層は、第2層によってキャップされている、又は、覆われている。その後、ステップ228において、サンプルを例えば、N
2雰囲気の密閉チャンバ内で、所定のアニーリング温度で所定のアニーリング時間アニールする。このアニーリング処理により、2層の間で相互拡散及び反応が可能となり、有機スズハライドペロブスカイトの形成が促進される。結果として得られるペロブスカイト膜にHTMを堆積して、HTLを形成し、さらに、例えば、Auを堆積して、上面に金属接点を形成する。
【0016】
本研究における第1実施例は、MABrソース及びSnBr
2ソースを用いた真空蒸着技術に基づくCH
3NH
3SnBr
3(MASnBr
3)の形成を含む。本方法は、MASnBr
xI
3−x及びMASnI
3等の他のタイプの鉛フリーペロブスカイトの形成に適用することができる。本研究における第2実施例は、MABrソース及びSnI
2ソースを用いたMASnBr
xI
3−xの形成を含む。これらの鉛フリーペロブスカイト膜及び他の鉛フリーペロブスカイト膜は、本方法に基づいて鉛フリーソース材料を選択することにより形成することができる。鉛フリーペロブスカイト膜は、原子間力顕微鏡法(AFM)、走査電子顕微鏡法(SEM)、X線回折(XRD)、紫外・可視吸収(UV−vis)、紫外光電子分光法(UPS)及びX線光電子分光法(XPS)を用いて解析できる。本研究では、鉛フリーペロブスカイト膜を用いて、(メソポーラスTiO
2を有さない)電子輸送層(ETL)として緻密TiO
2層を備え、spiro−OMeTAD、C60、及びP3HT等の様々な正孔輸送層を備える太陽電池を作製する。実験手順及び実験結果の詳細を、第1及び第2実施例の順に以下に説明する。ここでは特定の数値を例として挙げているが、これらは近似値および/またはそれぞれの機器分解能内であることを理解されたい。
【0017】
サンプル作製は、次のように行った。まず、フッ素ドープ酸化スズガラス基板(FTO、7Ω/□)をHCl及びZn粉末を用いてエッチングし、その後洗浄した。この基板上に、アセチルアセトン、Ti(IV)イソプロポキシド及び無水エタノール(3:3:2の比率)の前駆体溶液を用いて噴霧熱分解によって100nmのTiO
2の緻密層を堆積させ、ホットプレート上で480℃でポストアニールした。SnBr
2粉末及びMABr粉末をそれぞれ2つの別々の石英るつぼに入れ、真空チャンバの底部に置いた。あるいは、
図1に示すように、MABr粉末は、アンプルに収容されチャンバの側部に接続されてもよい。蒸気ユニット内のこれらの容器は、それぞれの加熱装置によって加熱される。気相堆積を、例えば、圧力1.5×10
−6Torrの高真空下で行った。基準サンプルを取得するために、SnBr
2ソースを用いたSnBr
2の薄膜及びMABrソースを用いたMABrの薄膜をTiO
2が堆積されたFTO(TiO
2/FTO、以下、基板と呼ぶ)上に形成した。
【0018】
まずMASnBr
3の実験では、膜を、MABr及びSnBr
2を共蒸着することによって成長させた。これらの膜をここでは、共蒸着膜と呼ぶ。各ソースについて、蒸発速度は、真空チャンバに設置された2つの水晶振動子マイクロバランスによってそれぞれ測定した。堆積比は、例えば、MABr:SnBr
2=4:1(0.4オングストローム/秒:0.1オングストローム/秒)であった。最適比は、AFM測定による膜厚に基づく較正によって予め決定することができる。共蒸着終了後の膜厚は、例えば400nmであった。次にMASnBr
3の実験では、SnBr
2ソース材料とMABrソース材料とを順次蒸発させて膜を成長させた。順次蒸発では、厚さ100nmのSnBr
2層を基板上に形成し、続いて厚さ300nmのMABr層を形成した。可変時間(5〜20分)120℃〜150℃でアニーリング後、アニールした膜の厚さをAFMによって測定して200nm〜270nmの範囲にあることが観察された。この手順では、続くHTL堆積のために、堆積膜を真空チャンバからN
2グローブボックスに移送するときに大気曝露を最小にするように注意を払った。
【0019】
3つの異なる材料(spiro−OMeTAD、P3HTおよびC60)を本実験においてHTLとして試験した。spiro−OMeTAD溶液のスピンコーティングは、スピンコーティング速度2000rpmで60秒間行った。溶液はクロロベンゼン中に、59mMのspiro−OMeTAD、172mMの4−tert−ブチルピリジン(t−BP)および32mMのリチウムビス−(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩を含む。HTLにC60を用いる場合、真空蒸着は、基底圧2.0×10
−7Torrで行った。P3HT溶液のスピンコーティングを行った。溶液はクロロベンゼン中に10mg/mLの(ポリ(3−ヘキシルチオフェン−2,5−ジイル))を含む。本実験では、厚さ60nmのAu接点を熱蒸着によって堆積させ、太陽電池の性能測定は、作製された太陽電池をカプセル化せず、周囲空気において行った。
【0020】
形成された鉛フリーペロブスカイト膜を以下のように解析した。AFM及び走査電子顕微鏡法を表面モルフォロジー及び膜厚を取得するために使用した。X線回折計及び紫外線可視分光光度計を結晶構造及び光学バンドギャップを取得するために使用した。In−situのUPS測定は、He放電ランプ(He I線の光子エネルギー=21.22eV)及びエネルギー分析器を用いて行った。膜は、作製チャンバにおいて形成し、その後、作製チャンバから超高真空下の分析チャンバに移動させ、そのエネルギー準位を計測した。大量nドープSi基板(0.011〜0.015Ω・cm)上に堆積された金膜のフェルミ端をE
F位置及び機器のエネルギー分解能を決定するのに使用した。高解像度X線光電子分光法(HRXPS)の場合、モノクロ化されたAl Kα(1486.6eV)をマルチチャネルプレート分析器とともに用いた。エネルギー分解能は、約0.5eVであった。O 1s内殻準位、Sn 3d内殻準位、及びBr 3d内殻準位について、大気曝露時間の関数としてサンプルの化学状態を得た。結合エネルギーは、Au4f
7/2準位(84.0eV)を基準として用いて較正した。
【0021】
形成された鉛フリーペロブスカイト膜を用いて作製した太陽電池を以下のように解析した。電流密度−電圧(j−V)曲線を、ソーラシミュレータからの1sun(AM1.5、100mW/cm
2)の較正された光の下で光源測定装置を用いて得た。測定は約0.17V/sの走査速度でマスクなしで行った。周波数応答分析器を備えた機器を用いて、LED照射下でインピーダンス分光法 (IS)測定を行った。ISデータは、ソフトウェアプログラムを用いて等価回路に近似させた。
【0022】
図3は、(A)SnBr
2膜の写真、(B)MABr膜の写真、(C)共蒸着MASnBr
3膜(MABr:SnBr
2=4:1の堆積比)の写真を示し、(A)〜(C)のそれぞれについてAFM画像及びSEM画像を示している。AFMの走査領域は、3つの全ての場合において、10μmx10μmである。(C)の差し込み図は、共蒸着MASnBr
3サンプルの暗いオレンジ色を示す光学顕微鏡写真である。(A)のSnBr
2膜が、RMS表面粗さ20.5nmのなめらかな表面を有することが観察される。一方、MABr膜の場合、島状成長の傾向が観察される。島の平均高さ及び内径はそれぞれ約40nm及び100nmである。共蒸着MASnBr
3膜は、RMS表面粗さ55.8nmを示す。SEM画像は、約15μmの大きな島を明らかにする。120℃で20分間アニーリングした後、RMS表面粗さは、55.8nmから51.6nmにわずかに減少した。
【0023】
図4は、SnBr
2膜、MABr膜、共蒸着MASnBr
3のas−grown膜、及びアニーリング後の共蒸着MASnBr
3膜について測定したXRD強度のプロットを示す図である。MABrのXRDに有意なピークは観察されない。これは、
図3(B)のAFM画像およびSEM画像に見られるような島形成の結果として、カバレッジが悪いためであり得る。一方、SnBr
2のXRDでは、13.6°、28.9°及び42.4°で低強度のピークが観測される。アニーリング前のMASnBr
3のXRDでは、6.9°、15.0°、30.1°及び43.3°でピークが観察される。150℃で20分間アニーリングした後、6.9°でのピークは完全に消失した。14.9°、30.2°及び43.3°でのピークは、MASnBr
3ペロブスカイトについてこれまでに報告されたXRDのピーク位置の値と一致し、それにより、MASnBr
3結晶相がアニール後に現れることを確認する。25°近傍のこぶは、アモルファスガラス基板に由来すると考えられる。
【0024】
図5は、as grown状態、120℃で20分間アニーリングした後、及び150℃で20分間アニーリングした後の共蒸着MASnBr
3膜について計測した吸光度のプロットを示す図である。アニーリング温度が上昇するにつれて、バンドギャップの実質的な変化なしに吸光度がわずかに増加することが観察される。吸光度測定に基づいて、光学バンドギャップをアニーリング前後の両方で2.2eVであると決定した。上記のXRDおよびUV−visの結果は、MABr:SnBr
2=4:1の堆積比での共蒸着によって得られる膜が、確かに結晶質MASnBr
3ペロブスカイトであることを確認する。
【0025】
図6は、SnBr
2膜、MABr膜及び共蒸着MASnBr
3膜についてin−situのUPSに基づくカットオフ及び価電子スペクトルのプロットを示す図である。SnBr
2、MABr及びMASnBr
3膜の仕事関数(WF)は、それぞれ、3.0eV、4.7eV及び4.3eVであると計測された。イオン化エネルギー(IE)は、それぞれ、6.9eV、6.7eV及び6.1eVであると計測された。
図7は、MASnBr
3ペロブスカイト及び3つの正孔輸送材料:spiro−OMeTAD、C60及びP3HTについて算出したエネルギー準位の図を示している。
【0026】
太陽電池デバイスを作製し、これらの太陽電池サンプルについて性能評価を行った。まず、上記3種類のHTL、すなわちspiro−OMeTAD、C60及びP3HTを備える、活性層に共蒸着MASnBr
3ペロブスカイト膜を有する太陽電池について、j−V(電流密度−電圧)曲線を得た。
図8は、spiro−OMeTAD、C60またはP3HTからなるHTLを備える共蒸着MASnBr
3活性層を有する3つのサンプルバッチを代表する3つの太陽電池デバイスのj−V曲線のプロットを示す図である。
図9は、インピーダンス分光法(IS)測定による太陽電池デバイスの再結合抵抗値のプロットを示す図である。
図8のj−V曲線から導き出される光起電力パラメータ:開回路電圧Voc、短絡回路電流密度jsc、曲線因子FF、及び電力変換効率PCEを以下の表1に示す。
【表1】
HTLにspiro−OMeTADを用いた太陽電池では、非常に大きな直列抵抗が観察され、曲線因子及び光電流を低下させた。spiro−OMeTADを用いた太陽電池は、再結合インピーダンスの弧と重なる高抵抗特性を示した。印加電圧に対する線形挙動が観察され、200kΩに近い抵抗は直列抵抗に起因するものであった。いくつかの太陽電池では、spiro−OMeTADを堆積させてHTLを形成するとき、ペロブスカイト膜の色あせが観察された。さらなる試験によって、溶液中のリチウムビス−(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩が色あせの原因であることが明らかとなった。クロロベンゼンそれ自体、又は、spiro−OMeTAD及びtert−ブチルピリジン(t−BP)を有するクロロベンゼンは、ペロブスカイト膜の色を変化させなかった。ペロブスカイト膜が劇的な色変化を示さなかった電池であっても、spiro−OMeTAD堆積後に高抵抗の中間相が検出された。3つの異なるタイプのHTLのうち、最も高い光電流は、P3HTを用いた太陽電池について得られ、他の2つの材料(すなわち、spiro−OMeTAD及びC60)と比較して、この材料のより効率的な正孔抽出の結果であると考えられる。一方、HTLにP3HTを用いた太陽電池のV
ocは、HTLにC60を用いた太陽電池のV
ocよりも低く、P3HTを用いた場合の太陽電池の再結合が大きいためと考えられる。
【0027】
表1から明らかなように、活性層に共蒸着MASnBr
3膜を用いた太陽電池デバイスは、低いPCEを示した。太陽電池製造手順を注意深く検討すると、MASnBr
3ペロブスカイトの大気曝露が、このような低いデバイス性能を引き起こしていると考えられる。MASnBr
3膜は、アニーリングおよびその上にHTLを形成するために真空蒸着システムからN
2グローブボックスに移送される間に、大気に曝露される。この移送処理には、通常30分かかり、その間、MASnBr
3ペロブスカイト膜は大気に曝露される。大気曝露の影響を、様々な時間で大気に曝露された共蒸発MASnBr
3ペロブスカイト膜の化学状態のHRXPS測定に基づいて調査した。
図10は、0分間(as grown)、30分間、60分間及び120分間大気に曝露した後の、(A)Sn 3d内殻準位のエネルギースペクトル、(B)Br 3d内殻準位のエネルギースペクトル、(C)O 1s内殻準位のエネルギースペクトルのプロットを示す図である。30分間の曝露後、Sn 3d内殻準位及びBr 3d内殻準位の化学状態は有意に変化し、O1s内殻準位の強度は、有意に増加し、532.3eV及び530.8eVに2つのピークを示した。本結果は、大気からの水分及び/又は酸素がMASnBr
3ペロブスカイト膜内のSn及びBrと反応していることを示唆している。60分間の大気曝露後、全てのスペクトルの強度及びピーク形状が飽和することが観察された。
【0028】
半値全幅0.5eVのガウス分布を用いて畳み込まれたDoniach−Sunjic曲線を用いて、as−grownの共蒸着MASnBr
3ペロブスカイト膜及び60分間大気に曝露された膜のSn 3d内殻準位スペクトル及びBr 3d内殻準位スペクトルについてデータ近似調査に基づいてさらなる分析を行なった。非弾性散乱による暗騒音は、シャーリー積分法により減算した。
図11は、(A)Sn 3d内殻準位の近似したエネルギースペクトル、及び(B)Br 3d内殻準位の近似したエネルギースペクトルのプロットを示す図である。as−grownのサンプルの場合、結果は、Sn 3d内殻準位(486.7eVでSn1)及びBr 3d内殻準位(68.6eVでBr1)の両方について、1つの化学状態を示している。一方、大気に曝露されたサンプルの場合、結果は、Sn 3d内殻準位について2つの化学状態、すなわち、Sn1(486.7eV)及びSn2(487.5eV)を示し、Br 3d内殻準位について3つの化学状態、すなわち、Br1(68.6eV)、Br2(69.3eV)及びBr3(68.1eV)を示している。したがって、本結果は、新たな化学状態、すなわち、Sn2、Br2及びBr3が大気曝露によって誘起されたことを示唆している。これまで、SnO及びSnO
2のSn 3d
5/2の結合エネルギーは、約486.6eVであると報告されている。Sn2の化学状態が、SnO及びSnO
2よりも高い結合エネルギーにあり、これは、結合エネルギー530.8eVのO 1s内殻準位のピークの1つと関連したSn−Br酸化物に由来すると考えられる。これまで、SnBr
2内のBr 3d
5/2の結合エネルギーは、69.1eVであると報告されている。MASnBr
3ペロブスカイト内のBr 3d
5/2の本測定値は、68.6eVである。大気に曝露された後、新たな化学状態(Br2及びBr3)が69.3eV及び68.1eVの結合エネルギーでそれぞれ形成される。Br2はカチオン型であるため、Sn−Br酸化物の状態に関与していると考えられる。Br3は、532.3eVピークを有するO1s内殻準位と関連したBr酸化物に関係する。大気曝露前後のCの化学状態およびNの化学状態についてほとんど変化は観察されなかった。したがって、本HRXPS結果により、真空蒸着システムからN
2グローブボックスに移送される間に、共蒸着MASnBr
3ペロブスカイト膜の上面上で急速なSn−Br酸化が起こっていることが確認される。この酸化が、低いPCEの主要な原因と考えられる。
【0029】
共蒸着MASnBr
3ペロブスカイト膜についての上記の結果を考慮して、MASnBr
3ペロブスカイト膜の大気曝露、すなわち、酸化を最小限にするために、
図2に示されたプロセスに従う順次蒸着手順が考えられる。
図12は、SnBr
2層及びMABr層を順次堆積した後、アニーリング及びその上にHTLを形成することによって、MASnBr
3ペロブスカイト膜を形成する本方法の例示的な手順を示す。例えば、ソース材料を収容する蒸気ユニットは、真空蒸着システムの真空チャンバ内に設置され、それぞれ外部の加熱装置を用いて加熱される。気相堆積は、例えば、真空圧力1.5×10
−6Torrに近い高真空下で行われる。1以上のモニタ、例えば、水晶振動子マイクロバランスが、蒸発速度を測定するために真空チャンバに設置される。まず、SnBr
2ソース材料を蒸発させ、SnBr
2膜を基板、例えば、TiO
2が堆積されたFTO(TiO
2/FTO)に堆積させる。気相堆積は、SnBr
2の膜厚が所定厚に達するまで継続される。続いて、MABrソース材料を蒸発させ、形成したSnBr
2膜の表面にMABr膜を堆積させる。気相堆積は、MABrの膜厚が所定厚に達するまで継続される。これにより、順次堆積2層膜が基板上に得られる。as−grownの積層2層サンプルを真空蒸着システムからN
2ガスで満たされたグローブボックス等の密閉チャンバに移送する。サンプルは、その後、グローブボックス内でアニールされる。アニーリングの間、SnBr
2及びMABrの2つの積層された層は、相互拡散して反応し、MASnBr
3ペロブスカイトを形成する。一例を挙げれば、厚さ100nmのSnBr
2膜及び厚さ400nmのMABr膜が、アニーリング後、厚さが200nm〜300nmの範囲のMASnBr
3ペロブスカイト膜となった。その後、グローブボックス内でHTLをMASnBr
3ペロブスカイト膜上に形成する。この手順において、順次堆積の結果として、Sn含有層、すなわち、第1層が第2層によってキャップされて、又は、覆われている。したがって、移送の間にSn含有層が空気へ直接曝露されること、すなわち、Sn含有層の酸化が防止される。
【0030】
本方法の利点は、Sn含有層の大気への直接曝露が防止されることである。MABrの上面に物理吸着したO種の大部分は、アニーリング中に脱離すると考えられる。MASnBr
3ペロブスカイトの結晶形成を確かめるためにXRD及びUV−vis吸光度計測を行うことができる。
図13は、100℃でアニーリングした後の順次堆積MASnBr
3膜について得られたXRD結果のプロットを示す図である。15.0°、30.1°および43.3°で観察された強いピークは、MASnBr
3ペロブスカイトの良好な結晶性を示唆している。
図14は、as grown状態、100℃で10分間アニーリング後、及び100℃で30分間アニーリング後の順次堆積MASnBr
3膜のUV−vis吸光度結果のプロットを示す図である。UV−vis測定に基づいて、光学バンドギャップは、2.3eVであると決定される。アニーリング処理の後、特に、450nm以下で、サンプルの吸光度が増加していることが観察された。これは、MASnBr
3ペロブスカイトが漸進的に結晶化していることを示している。
【0031】
SnBr
2を堆積し、その上にMABrを堆積させた後、アニーリングすることによって形成したMASnBr
3膜を用いて、太陽電池を作製した。例として、P3HTをHTLを形成するのに用いた。
図15は、順次堆積し3つの異なる温度:130℃、140℃および150℃で5分間アニーリングすることによって作製されたMASnBr
3膜を有する太陽電池の3つのバッチのj−V曲線のプロットを示す図である。各バッチの3つのサンプルの結果をプロットに示している。光起電力パラメータ:開回路電圧Voc、短絡回路電流密度jsc、曲線因子FF及び電力変換効率PCEは、j−V曲線に基づいて抽出し、値は、各バッチにおいて3つのデバイスを平均したものである。結果として得られる光起電力パラメータを以下の表2に示す。
【表2】
150℃でアニールされたサンプルは、より低い温度でアニールされたサンプルと比較して、光電流、FF、Voc及び再現性の値が実質的に高かった。この結果は、アニーリング処理中のSnBr
2とMABrとの間の反応が、低温(場合によっては熱脱着)よりも高温で、より活発であることに起因する可能性がある。アニーリング温度が低過ぎるか、アニーリング時間が短すぎてSnBr
2層およびMABr層を完全にMASnBr
3ペロブスカイト層に変換できない場合、MABr層はペロブスカイトとHTLとの間に依然として存在する場合がある。残っているMABr層は、キャッピング層として作用し、電荷移動をブロックし、直列抵抗を増加させ、光電流を低下させることができる。共蒸着法により作製されたMASnBr
3フィルムと比較して、本順次堆積手順は、結晶化度が向上した、酸化Sn種の効果がはるかに小さい膜を提供する。これは、向上した光電流およびFFに反映される。なぜなら、結晶化度の向上は、膜を介した良好な電荷輸送をもたらすからである。これらのデバイスは平面であり、したがって、Snベースのペロブスカイトの電荷拡散距離が小さいほど効率が制限されることに留意されたい。選択性接点として機能する骨格層を採用することにより、これらのデバイスの効率をさらに向上できる可能性がある。
【0032】
上記実験によって確認されるように、順次堆積を含む方法によって作製されたMASnBr
3ペロブスカイト膜は、共蒸着法によって作製されたものよりも高い効率を示す。これは、その下にあるSn含有層を保護する上部MABr層によって、直接大気曝露からの空気誘導酸化が最小化されたことによるものと考えられる。本方法および技術は、MASnBr
xI
3−xおよびMASnI
3のような他のタイプの鉛フリーペロブスカイトを形成するのに適用することができる。MA化合物の代わりに、またはMA化合物と組み合わせて、ホルムアミジニウム(FA=HC(NH
2)
2+)化合物または他の有機化合物を使用することができる。順次堆積を含む本方法によるペロブスカイト形成の第2実施例として、MASnBr
xI
3−x膜(0<x<3)の形成について以下に説明する。
【0033】
図16は、SnI
2層及びMABr層を順次堆積し、その後、アニーリング及びその上にHTLを形成することにより、MASnI
xBr
3−xペロブスカイト膜を形成する本方法の例示的な手順を示す図である。この手順は、
図2に示す手順に従う、
図12に示すMASnBr
3を形成する手順と同様である。ソース材料を収容する蒸気ユニットを真空蒸着システムの真空チャンバ内に設置し、例えば、外部の加熱装置を用いてそれぞれ加熱する。気相堆積は、例えば、真空圧力1.5×10
−6Torrに近い高真空下で行われる。蒸発速度を測定するために、1以上のモニタ、例えば、水晶振動子マイクロバランスが真空チャンバに設置される。まず、SnI
2ソース材料を蒸発させ、基板、例えば、TiO
2が堆積されたFTO(TiO
2/FTO)上にSnI
2膜を堆積させる。気相堆積は、SnI
2の膜厚が所定厚に達するまで継続される。続いて、MABrソース材料を蒸発させ、形成されたSnI
2膜の上面にMABr膜を堆積させる。気相堆積は、MABrの膜厚が所定厚に達するまで継続される。これにより、順次堆積2層膜が基板上に得られる。as−grownの積層2層サンプルを、真空蒸着システムからN
2で満たしたグローブボックス等の密閉チャンバに移送する。その後、サンプルをグローブボックス内でアニールする。アニーリング中、SnI
2及びMABrからなる2層は相互拡散して反応し、MASnBr
xI
3−xペロブスカイトを形成する。一例を挙げると、アニーリングは、110℃で30分間行われる。その後、グローブボックス内で、HTLをMASnBr
xI
3−xペロブスカイト膜上に形成する。この手順において、順次堆積の結果として、Sn含有層、すなわち、第1層は、第2層によってキャップされて、又は、覆われている。したがって、移送中に、Sn含有層の空気への直接曝露、すなわち、Sn含有層の酸化が防止される。
【0034】
図17は、3つの異なるSnI
2の膜厚60nm、75nm及び100nmで順次堆積によって形成されたMASnBr
xI
3−x膜のXRDスペクトルのプロットを示す図である。アニーリングは110℃で30分間行った。厚さ60nmのSnI
2膜の結晶化度は、より厚いSnI
2膜よりも良いことが観察される。
【0035】
図18は、MASnBr
xI
3−x膜のUV−vis吸光度のプロットを示す図である。UV−vis測定に基づいて、光学バンドギャップは、1.76eVであると決定された。
【0036】
図19は、アニーリング前後のO 1s内殻準位のMASnBr
xI
3−x膜について、HRXPS測定に基づくエネルギースペクトルのプロットを示す図である。アニーリング後、O1s内殻準位の強度は、約85%低下し、酸化が著しく抑制されることを示唆している。
【0037】
ここでは示されていないが、MASnBr
xI
3−x膜の表面モルフォロジーをAFM計測に基づいて調べた。18.6nmのRMS表面粗さが30分間アニーリング後のサンプルについて得られた。30分間アニーリングし、その後1時間大気に曝露した後のサンプルについて同様の滑らかな表面モルフォロジーが得られ、RMS表面粗さ17.8nmを示した。したがって、意図的な大気曝露の後でさえ、20nm未満のRMS値が維持された。
【0038】
本方法に従って、SnI
2及びMABrを順次堆積してアニーリングすることによって形成したMASnBr
xI
3−x膜を用いて太陽電池を作製した。作製した太陽電池について、65日間にわたって光起電力性能パラメータを測定した。測定間のこれらの電池は、実験室内の光を伴うN
2グローブボックスに保管されたことに留意されたい。
図20は、時間(日)の関数としての、6つの太陽電池を平均したPCE、FF、Voc及びjsc値のプロットを示す図である。これらの太陽電池は良好な安定性を示し、65日間にわたって一貫した性能レベルを維持することが観察される。これは、大気曝露後に上面にSn酸化物が形成されることにおそらく起因して不安定であると報告されている溶液法を用いて作製された太陽電池とは著しく対照的である。
【0039】
本文書は、多くの詳細を含んでいるが、これらを、発明の範囲又は特許請求の範囲とみなすべきではなく、むしろ、発明の特定の実施態様に特有の特徴についての説明であるとみなすべきである。別々の実施例に照らして本文書において説明した一定の特徴は、組み合わせて単一の実施例に組み入れることができる。反対に、単一の実施例との関連で説明した様々な特徴は、別々に、又は、適切に部分的に組み合わせて複数の実施例に組み入れることができる。さらに、特徴は一定の組み合わせで作動するように説明され、初めに、そのように主張されたかもしれないが、主張された組み合わせの1以上の特徴は、ある場合には、その組み合わせから行われてもよいし、主張された組み合わせは、部分的な組み合わせ、又は、部分的な組み合わせの変形を対象にしてもよい。