【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明のレンズ球面加工方法は、
回転しているカップ形砥石を、加工対象のガラス製のレンズのレンズ表面に所定の圧力で当接させた当接状態を形成し、
前記当接状態を維持しながら、前記カップ形砥石が前記レンズ表面に沿って球芯揺動する球芯揺動状態を形成して、前記レンズ表面を、所定の面精度および中心肉厚を備えた球面となるまで研削し、
前記球芯揺動状態においては、球芯揺動の揺動中心から、前記カップ形砥石における前記レンズ表面との接触点までの距離を、前記球面の半径と同一に設定し、
前記球芯揺動の揺動幅を、前記カップ形砥石における前記レンズ表面との接触点が、前記レンズ表面上のレンズ中心を超えて、前記レンズ表面の一方の外周縁側から他方の外周縁側に移動するように設定している。
【0018】
本発明によれば、カップ形砥石を球芯揺動させて、カップ形砥石のレンズ表面に対する接触点を、レンズ表面に沿ってレンズ中心を超えて往復移動させながら、レンズ表面を球面に加工している。これにより、CG機によりカップ形砥石を用いて球面加工を行う場合に生じるレンズ中心部の落ちくぼみ、突出などの発生を無くし、真球状態にレンズ表面を加工することができる。また、皿型砥石を用いる場合のように、事前に、CG機による粗研削を行う必要がなくなる。
【0019】
また、本発明によれば、皿形砥石を用いて最初からレンズに球面を加工する場合に比べて、研削時間を大幅に短縮することができる。さらに、皿型砥石を用いる場合には、加工初期に皿形砥石にレンズ素材が部分的に当たり、レンズ素材周辺のカケや皿形砥石の部分摩耗が発生し、皿形砥石の形状が安定せず、レンズ球面の加工精度が安定しないという問題がある。このような問題を解消できる。
【0020】
このように、本発明の方法では、従来において着目されていなかったカップ形砥石と球芯揺動の組み合わせを新たに採用してレンズ球面を加工している。従来におけるレンズ球面の加工は、粗研削および精密研削の2工程を経て行われている。また、粗研削を、カーブジェネレータ(CG機)によりカップ形砥石を用いて行い、次の精密研削を、球芯式加工装置により皿形砥石を用いて行い、必要な面精度、中心肉厚を備えたレンズ球面を得ている。本発明者等の実験によれば、一台の球芯揺動式加工装置により一種類の砥石(カップ形砥石)を用いて、従来におけるレンズ球面加工と同等以上の精度で、レンズ球面を加工できることが確認された。
【0021】
さらに、本発明の方法によれば、球芯揺動の揺動幅を、カップ形砥石におけるレンズ表面との接触点が、レンズ表面上のレンズ中心を超えて、レンズ表面の一方の外周縁側から他方の外周縁側に移動するように設定している。換言すると、カップ形砥石の大きさに応じて、カップ形砥石の揺動幅を変えて、カップ形砥石のレンズ表面に対する接触点を、レンズ表面の外周部からレンズ表面に沿ってそのレンズ中心を超える位置まで移動可能としている。これにより、各種サイズのカップ形砥石を使用することが可能になる。
【0022】
本発明のレンズ球面加工方法において、
前記レンズを、前記カップ形砥石よりも遅い速度で強制回転させ、
球芯揺動する前記カップ形砥石と前記レンズ表面との間の摩擦力により前記レンズに発生するトルクによって、前記レンズが前記強制回転の速度よりも速い速度で前記カップ形砥石に追従して従属回転可能な従属回転可能状態になると、前記強制回転状態を解除している。
【0023】
例えば、レンズ表面を平面から凹状の球面に加工する場合等において、切削初期のカップ形砥石におけるレンズに対する接触状態によっては、従属回転に必要なトルクが得られない場合がある。本発明では、補助的に、レンズを強制回転させ、従属回転に必要なトルクが得られた時点で従属回転に切り替えている。これにより、カップ形砥石のレンズへの食い込みを確実に防止できるので、レンズ表面の加工粗さを向上でき、また、レンズ表面にうねりが発生することを防止できる。
【0024】
本発明のレンズ球面加工方法において、
前記カップ形砥石に当接させた前記レンズを弾性伸縮部材によって支持し、
前記弾性伸縮部材の伸縮によって生じる弾性力によって、前記カップ形砥石と前記レンズの間を当接させることが望ましい。
【0025】
レンズにカップ形砥石が食い込むことにより発生するツールマークを無くすためには、レンズ表面とカップ形砥石の間に過剰な押し付け力が発生しないように、レンズを保持することが望ましい。本発明では、弾性伸縮部材を用いてレンズを支持しており、弾性伸縮部材の弾性変形によって、レンズとカップ形砥石の間に生じる過剰な力を逃がすことができる。これにより、ツールマークの発生を防止できる。
【0026】
次に、本発明のレンズ球面加工方法において、
レンズ肉厚を安定させ、レンズの両面に加工される球面の光軸を一致させるために、レンズをレンズホルダによって真空吸着して保持することが望ましい。
【0027】
これにより、一方のレンズ表面が球面加工された後の他方のレンズ表面の加工においては、その加工基準が既に加工されているレンズ球面となる。よって、双方のレンズ表面の中心、および、一方のレンズ表面の中心から他方のレンズ表面の中心までの距離を正確に検出することができるので、光軸の一致と肉厚の安定を実現できる。
【0028】
次に、本発明は、上記の方法により、レンズ球面の加工を行うレンズ球面加工装置は、
カップ形砥石と、
前記カップ形砥石をその中心軸線回りに回転させる砥石回転機構と、
加工対象のレンズを保持するレンズホルダと、
前記カップ形砥石に対して、前記レンズホルダに保持された前記レンズのレンズ表面を、接近および離れる方向に移動させるレンズ移動機構と、
前記レンズホルダに保持された前記レンズのレンズ表面に沿って前記カップ形砥石を球芯揺動させる球芯揺動機構と、
前記砥石回転機構、前記レンズ移動機構、および、前記球芯揺動機構を制御するコントローラとを有している。
【0029】
また、前記コントローラは、
回転しているカップ形砥石を、前記レンズ表面に所定の圧力で当接させた当接状態を形成し、
前記当接状態を維持しながら、前記カップ形砥石が前記レンズ表面に沿って球芯揺動する球芯揺動状態を形成して、前記レンズ表面を、所定の面精度および中心肉厚を備えた球面となるまで研削し、
前記球芯揺動状態においては、球芯揺動の揺動中心から、前記カップ形砥石における前記レンズ表面との接触点までの距離を、前記球面の半径と同一に設定し、
前記球芯揺動の揺動幅を、前記カップ形砥石における前記レンズ表面との接触点が、前記レンズ表面上のレンズ中心を超えて、前記レンズ表面の一方の外周縁側から他方の外周縁側に移動するように設定することを特徴としている。
【0030】
本発明のレンズ球面加工装置は、上記構成に加えて、前記レンズホルダをその中心軸線回りに強制回転させる強制回転機構と、前記強制回転機構による強制回転を解除可能なワンウエイクラッチとを有していることが望ましい。この場合には、前記コントローラは、前記レンズを、前記カップ形砥石よりも遅い速度で強制回転させ、前記ワンウエイクラッチは、球芯揺動する前記カップ形砥石と前記レンズ表面との間の摩擦力により前記レンズに発生するトルクによって、前記レンズが前記強制回転の速度よりも速い速度で前記カップ形砥石に追従して従属回転可能な従属回転可能状態になると、前記強制回転状態を解除するように設定されている。
【0031】
本発明のレンズ球面加工装置は、上記構成に加えて、前記レンズホルダを前記ホルダ中心軸線の方向から支持し、前記レンズホルダに保持された前記レンズのレンズ表面を所定の力で前記カップ形砥石に当接させる弾性伸縮部材を有していることが望ましい。弾性伸縮部材の伸縮によって生じる弾性力が、カップ形砥石をレンズ表面に当接させる当接力になる。
【0032】
本発明のレンズ球面加工装置は、上記構成に加えて、真空吸着機構を有し、前記レンズホルダは、前記レンズを前記真空吸着機構による真空吸着力により保持するようになっていることが望ましい。