(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
(ファイブラスケーシング用紙素材)
本発明の一実施形態に係るファイブラスケーシング用紙素材は、主成分である天然パルプ繊維と、合成樹脂繊維とを含み、一方の面が艶面、他方の面が非艶面である。当該紙素材は、通常、食品の加熱処理の際の食品包装材として用いられるファイブラスケーシングの最内層を形成する素材として用いられる。このファイブラスケーシングにおいては、一般的に、内層としての当該紙素材(紙層)の艶面側に、外層としての合成樹脂層が積層される。
【0018】
このように当該紙素材を用いた場合、ファイブラスケーシングの内層の内面が非艶面となるため表面積が広くなり、保液性及び放出性を高めることができる。すなわち、ファイブラスケーシングにおいて、当該紙素材から形成される紙層(内層)が、十分な量の食品改質剤を吸収することができ、加熱調理の際には、この食品改質剤を食品へ効率的に放出(転写)することができる。一方、内層の外面は艶面となり、この艶面においてはパルプ繊維同士が接着し、空隙が少ない。このため、内面側から含浸した食品改質剤は、内層中の外面近傍にまで含浸することができず、加熱調理時において、内面側への食品改質剤の放出性が高まる。さらに、艶面を外面とすることで、例えば押出ラミネートにより当該紙素材の外面に合成樹脂層を積層した際に、合成樹脂層を形成する樹脂は紙素材に含浸しにくい。従って、当該紙素材によれば、合成樹脂層との積層状態においても十分な空隙を有する内層の厚みを確保することができ、保液性を高めることができる。
【0019】
さらに、当該紙素材は、合成樹脂繊維を含有し、かつ、外面が繊維密度の高い艶面となっている。このため、例えば当該紙素材の外面側に押出ラミネート等により合成樹脂層を積層した場合に、合成樹脂層を形成する合成樹脂と、紙素材中の合成樹脂繊維とが効果的に相溶、あるいは融着し、紙素材(内層)と合成樹脂層(外層)との接着性を高めることができる。
【0020】
当該紙素材中の繊維成分(天然パルプ繊維、合成樹脂繊維及びその他の繊維成分の合計量)の含有量の下限としては、通常50質量%であり、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、95質量%がさらに好ましい。繊維成分の含有量を上記下限以上とすることで、保液性、放出性、柔軟性等をより十分に発揮することができる。
【0021】
当該紙素材は、通常、天然パルプ(天然パルプ繊維)及び合成樹脂繊維を含むパルプスラリーを抄紙して得られる。
【0022】
上記天然パルプとしては、特に限定されず、例えば古紙パルプ、化学パルプ、機械パルプや、サイザル麻、マニラ麻、サトウキビ、コットン、シルク、竹、ケナフから得られるパルプ等が挙げられる。なかでも上記天然パルプとしては、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)が好ましい。上記天然パルプとして針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を用いることによって、強度が高められる。加えて、NBKPは繊維径が大きく、かつ長繊維のため、当該紙素材の空隙が大きくなり、食品改質剤等がより含浸しやすくなる。
【0023】
上記天然パルプ繊維は、当該紙素材の主成分である。当該紙素材を形成する全繊維成分に対する天然パルプ繊維の含有量の下限としては、50質量%が好ましく、55質量%がより好ましく、60質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、90質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、70質量%がさらに好ましい。天然パルプ繊維の含有量を上記範囲とすることにより、より良好な保液性、放出性等を発揮することができる。
【0024】
上記天然パルプのフリーネスの下限としては、350mlが好ましく、400mlがより好ましく、430mlがさらに好ましい。一方、上記天然パルプのフリーネスの上限としては、550mlが好ましく、500mlがより好ましく、460mlがさらに好ましい。上記天然パルプのフリーネスが上記下限未満の場合、密度が高くなり過ぎて保液性、放出性等が低下するおそれがある。逆に、上記天然パルプのフリーネスが上記上限を超える場合、透気度が低下して保温性及び断熱性が低下するおそれがある。なお、「フリーネス」とは、JIS−P−8121(2012)に準拠した値である。
【0025】
上記合成樹脂繊維としては、熱可塑性樹脂から形成されている所謂バインダー繊維が好適に用いられる。当該紙素材がこのような合成樹脂繊維を含有することにより、外層となる合成樹脂層を押出ラミネート等で積層する際、合成樹脂繊維が熱により軟化し、合成樹脂層との接着性が高まる。特に、当該紙素材において、合成樹脂層と接する外面側を艶面とすることで、この艶面の繊維密度が高まるため、この紙素材中の外面側近傍の合成樹脂繊維が合成樹脂フィルムと効果的に相溶、あるいは熱融着することができる。
【0026】
上記バインダー繊維(合成樹脂繊維)を形成する熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン(PB)等のポリオレフィンや、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン等を挙げることができる。これらは、一種又は二種以上を混合して用いることができる。
【0027】
上記バインダー繊維を形成する熱可塑性樹脂としては、ファイブラスケーシングの外層となる合成樹脂層の最内層を形成する樹脂と同じ樹脂を含むことが好ましい。このように同じ樹脂を用いることで、界面での接着性をより高めることができる。
【0028】
また、上記バインダー繊維は、芯鞘構造を有するものが好適に用いられる。この芯鞘構造の種類としては、特に限定されず、例えばPET芯/低融点PET鞘、PP芯/高密度PE鞘、PP芯/低融点共重合PE鞘等が挙げられる。
【0029】
上記バインダー繊維は、市販品等の公知のものを用いることができる。このバインダー繊維(合成樹脂繊維)の繊度としては、例えば0.1dtex以上10dtex以下とすることができる。また、上記バインダー繊維(合成樹脂繊維)の平均繊維長としては、例えば1mm以上10mm以下とすることができる。なお、繊度とは、JIS−L−1095(2010)「一般紡績糸試験方法」に準拠して測定される値をいう。平均繊維長とは、JIS−P−8226(2006)「パルプ−光学的自動分析法による平均繊維長測定方法−第1部:偏光法」に準じて測定される数平均繊維長をいう。
【0030】
上記合成樹脂繊維においては、いわゆるバインダー繊維以外の、ラミネート等の際の加熱によっても軟化しない合成樹脂繊維が併用されていてもよい。このような合成樹脂繊維としては、例えば高融点PET繊維、ポリウレタン繊維、アラミド繊維等を挙げることができる。
【0031】
当該紙素材を形成する全繊維成分に対する合成樹脂繊維(バインダー繊維)の含有量の下限としては、10質量%が好ましく、20質量%がより好ましく、30質量%がより好ましい。一方、この含有量の上限としては、45質量%が好ましく、40質量%がより好ましい。合成樹脂繊維(バインダー繊維)の含有量を上記下限以上とすることで、接着性等をより高めることができる。一方、この含有量が上記上限を超える場合、多量の合成樹脂繊維(バインダー繊維)が内容物である食品に貼りつきやすくなり、剥離性が低下するおそれ、食品改質剤の転写ムラが生じやすくなるおそれ、剛度の上昇により加工性が低下するおそれなどがある。
【0032】
当該紙素材においては、上記天然パルプ繊維及び合成樹脂繊維以外の繊維成分を含有することができる。その他の繊維成分としては、レーヨン繊維、ガラス繊維、炭素繊維等の種々の繊維を挙げることができる。これらは、一種又は二種以上を混合して用いることができる。
【0033】
当該紙素材は、添加剤として、紙力増強剤が含有されるのが好ましい。上記紙力増強剤としては、湿潤紙力増強剤及び乾燥紙力増強剤が挙げられる。
【0034】
上記湿潤紙力増強剤としては、例えばポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂、尿素樹脂、酸コロイド・メラミン樹脂、熱架橋性付与PAM等が挙げられる。当該紙素材における全繊維成分100質量部に対する上記湿潤紙力増強剤の含有量(固形分換算)の下限としては、0.5質量部が好ましく、1.5質量部がより好ましく、2質量部がさらに好ましい。一方、全繊維成分100質量部に対する上記湿潤紙力増強剤の含有量(固形分換算)の上限としては、6質量部が好ましく、5.5質量部がより好ましく、5質量部がさらに好ましい。上記湿潤紙力剤の含有量を上記下限以上とすることで、食品(内容物)との剥離性を十分に向上させることができる。なお、上記湿潤紙力剤の含有量が上記上限を超える場合、保液性が低下するおそれがある。
【0035】
上記乾燥紙力増強剤としては、例えばカチオン澱粉、両性澱粉、ポリアクリルアミド(PAM)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。当該紙素材における全繊維成分100質量部に対する上記乾燥紙力増強剤の含有量(固形分換算)の下限としては、0.2質量部が好ましく、0.5質量部がより好ましく、1質量部がさらに好ましい。一方、全繊維成分100質量部に対する上記乾燥紙力増強剤の含有量(固形分換算)の上限としては、5.5質量部が好ましく、5質量部がより好ましく、4.5質量部がさらに好ましい。上記乾燥紙力増強剤の含有量を上記下限以上とすることで、食品(内容物)との剥離性を十分に向上させることができる。なお、上記乾燥紙力増強剤の含有量が上記上限を超える場合、保液性が低下するおそれがある。
【0036】
当該紙素材は、添加剤として、サイズ剤が含有されているのが好ましい。当該紙素材は、サイズ剤が含有されることで、保温性、断熱性、艶面の平滑性等を向上することができる。上記サイズ剤としては、例えばロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水コハク酸(ASA)、各種エマルジョンサイズ剤、澱粉等が挙げられる。これらの中でも、耐水性の付与効果が大きく、当該紙素材の一方の面を艶面に形成する場合の艶面の平滑性を十分に向上することができるロジン系サイズ剤が好ましい。
【0037】
上記ロジン系サイズ剤としては、例えば変性ロジン、強化ロジン、鹸化型ロジン、乳化型ロジン等が挙げられる。これらの中でも、十分なサイズ効果を有し、パルプスラリーへの希釈性が良好な鹸化型ロジンがより好ましい。
【0038】
当該紙素材における全繊維成分100質量部に対する上記サイズ剤の含有量(固形分換算)の下限としては、1質量部が好ましく、1.5質量部がより好ましく、1.7質量部がさらに好ましい。一方、全繊維成分100質量部に対する上記サイズ剤の含有量(固形分換算)の上限としては、3質量部が好ましく、2.5質量部がより好ましく、2.3質量部がさらに好ましい。上記サイズ剤の含有量が上記下限未満の場合、保温性、断熱性が十分に向上されないおそれがある。逆に、上記サイズ剤の含有量が上記上限を超える場合、当該紙素材の表面性が低下して操業性が低下するおそれがある。
【0039】
当該紙素材は、本発明の目的を損なわない範囲で他の添加剤を含有してもよい。このような他の添加剤としては、例えば上記以外の紙力剤;タルク、炭酸カルシウム、カオリン、二酸化チタン、水和ケイ素、水和ケイ酸(ホワイトカーボン)、尿素−ホルマリンポリマー微粒子、再生粒子、シリカ複合再生粒子等の填料;硫酸バンド、ポリエチレンイミン等の凝結剤;ポリアクリルアミドやその共重合体等の凝集剤;電荷調整剤;消泡剤;分散剤等が挙げられる。
【0040】
当該紙素材は、一方の面が艶面とされ、かつ他方の面が非艶面とされた片艶紙として形成される。艶面は、非艶面よりも算術平均粗さRaが0.1μm以上小さく、通常、光沢を有する。一方、非艶面は、艶面よりも算術平均粗さが0.1μm以上大きく、艶面ほどの光沢を有さない。
【0041】
艶面の算術平均粗さRaの下限としては、0.1μmとすることができるが、0.5μmが好ましく、1μmがより好ましく、1.5μmがさらに好ましく、2.5μmが特に好ましい。一方、上記艶面の算術平均粗さRaの上限としては、3.5μm未満が好ましく、3.3μmがより好ましく、3.2μmがさらに好ましい。艶面の算術平均粗さRaを上記範囲とすることで、艶面を外面とした場合、内面側への食品改質剤等の放出性や、保液性、合成樹脂層との接着性等を高めることができる。艶面の算術平均粗さRaが上記上限を超える粗い面である場合は、内面側から含浸した食品改質剤等の内面側への放出性が低下する。また、外面となる艶面の算術平均粗さRaが上記上限を超える粗い面である場合は、外面近傍の繊維密度が低下するため、外面側に合成樹脂層を積層する際、樹脂の外面側からの含浸量が増え、保液性(保持可能な液量)が低下する。また、このように外面近傍の繊維密度が低下することで、外面近傍の合成樹脂層の存在量も少なくなるため、合成樹脂層との接着性が低下する。
【0042】
非艶面の算術平均粗さRaの下限としては、3.5μmが好ましく、3.6μmがより好ましく、3.7μmがさらに好ましい。一方、上記非艶面の算術平均粗さRaの上限としては、8μmであってよいが、7μmが好ましく、6μmがより好ましく、5μmがさらに好ましく、4μmが特に好ましい。非艶面の算術平均粗さRaを上記範囲とすることによって、非艶面を内面とした場合、食品改質剤等の放出性及び保液性を好適に高められる。内面となる非艶面の算術平均粗さRaが上記下限未満の平滑な面である場合は、表面積が小さくなり食品改質剤等の放出性や保液性が低下する。逆に、内面となる非艶面の算術平均粗さRaが上記上限を超える場合は、紙素材が食品に貼りつきやすくなり、食品に対する剥離性が低下する。
【0043】
当該紙素材の艶面及び/又は非艶面のワックスピック(表面強度)の下限としては、9Aが好ましく、10Aがより好ましく、12Aがさらに好ましい。一方、この上限としては、18Aが好ましく、16Aがより好ましい。当該紙素材の艶面及び/又は非艶面のワックスピック(表面強度)を上記範囲とすることで、当該紙素材をファイブラスケーシングとして使用する際、繊維の剥離や脱落を防止するができる。なお、当該紙素材の艶面及び非艶面におけるワックスピックは、JAPAN TAPPI No.1(2000)に準拠して測定される値を言う。
【0044】
ブリストー法による50.0mm/sの速度設定、接触時間20秒間での上記艶面からの吸水量の下限としては、20ml/m
2が好ましく、30ml/m
2がより好ましく、40ml/m
2がさらに好ましい。一方、ブリストー法による50.0mm/sの速度設定、接触時間20秒間での上記艶面からの吸水量の上限としては、70ml/m
2が好ましく、68ml/m
2がより好ましい。また、ブリストー法による50.0mm/sの速度設定、接触時間20秒間での上記非艶面からの吸水量の下限としては、10ml/m
2が好ましく、20ml/m
2がより好ましく、30ml/m
2がさらに好ましく、40ml/m
2が特に好ましい。一方、ブリストー法による50.0mm/sの速度設定、接触時間20秒間での上記非艶面からの吸水量の上限としては、65ml/m
2が好ましく、64ml/m
2がより好ましい。さらに、ブリストー法による50.0mm/sの速度設定、接触時間20秒間での艶面からの吸水量が非艶面からの吸水量よりも大きいことが好ましい。上記紙素材は、ブリストー法による50.0mm/sの速度設定、接触時間20秒間での上記艶面及び非艶面からの吸水量が上記範囲であることによって、食品改質剤等を十分に含浸させ、この食品改質剤等を好適に放出することができる。
【0045】
上記艶面の繊維配向角の絶対値の下限としては0°が好ましい。一方、上記艶面の繊維配向角の絶対値の上限としては、3°が好ましく、2.5°がより好ましく、2°がさらに好ましい。また、上記非艶面の繊維配向角の絶対値の下限としては、0.5°が好ましく、1°がより好ましく、1.5°がさらに好ましい。一方、上記非艶面の繊維配向角の絶対値の上限としては、4°が好ましく、3°がより好ましく、2.4°がさらに好ましい。さらに、上記艶面の繊維配向角の絶対値が上記非艶面の繊維配向角の絶対値よりも小さいことが好ましい。当該紙素材は、上記艶面(外面)の繊維配向角及び上記非艶面(内面)の繊維配向角が上記範囲であることによって、上記艶面における繊維の配向が緻密かつ均一化され、保液性、及び非艶面からの食品改質剤等の放出性を高めることなどができる。
【0046】
当該紙素材の坪量の下限としては、14g/m
2が好ましく、15g/m
2がより好ましく、16g/m
2がさらに好ましい。一方、当該紙素材の坪量の上限としては、30g/m
2が好ましく、25g/m
2がより好ましく、20g/m
2がさらに好ましい。上記坪量が上記下限未満の場合、当該紙素材の強度が低下して破れやすくなるおそれや、保液性が低下するおそれなどがある。逆に、上記坪量が上記上限を超える場合、当該紙素材の剛度が高くなるため、折り加工適性が低下し、内容物の形状に沿って変形しにくくなるおそれがある。なお、「坪量」とは、JIS−P−8124(2011)に準拠した値である。
【0047】
当該紙素材の密度の下限としては、0.15g/cm
3が好ましく、0.3g/cm
3がより好ましい。一方、当該紙素材の密度の上限としては、0.6g/cm
3が好ましく、0.55g/cm
3がより好ましい。上記密度が上記下限未満の場合、当該紙素材の強度が低下して破れやすくなると共に、保温性及び断熱性が低下するおそれがある。逆に、上記密度が上記上限を超える場合、上記紙素材の剛度が高くなるため、折り加工適性が低下し、内容物の形状に沿って変形しにくくなるおそれがある。また、上記密度が上記上限を超える場合、繊維間の空隙が小さく又は少なくなり、保液性が低下するおそれがある。なお、「密度」とは、JIS−P−8118(2012)に準拠した値である。
【0048】
当該紙素材の縦方向の湿潤引張強度の下限としては、0.20kN/mが好ましく、0.25kN/mがより好ましく、0.30kN/mがさらに好ましい。上記縦方向の湿潤引張強度が上記下限未満の場合、内容物との剥離性が低下するおそれがある。
【0049】
当該紙素材の紙厚の下限としては、30μmが好ましく、35μmがより好ましく、38μmがさらに好ましい。一方、当該紙素材の紙厚の上限としては、100μmが好ましく、90μm、80μm、70μm及び60μmがこの順により好ましく、50μmがさらに好ましい。上記紙厚が上記下限未満の場合、保液性及び保液性が低下するおそれがある。逆に、上記紙厚が上記上限を超える場合、折り加工適性等が低下するおそれがある。
【0050】
(ファイブラスケーシング用紙素材の製造方法)
当該紙素材の製造方法は、パルプスラリーを抄紙する工程と、抄紙したパルプの一方の面側をヤンキードライヤーによって乾燥する工程とを備える。上記紙素材の製造方法によって得られる紙素材は、上記ヤンキードライヤーとの接触面が艶面として形成され、上記ヤンキードライヤーとの非接触面が非艶面として形成される。上記製造方法によれば、当該紙素材を好適に製造することができる。
【0051】
詳細には、上記紙素材の製造方法としては、天然パルプ繊維及び合成樹脂繊維を含むパルプスラリーに、必要に応じて各種添加剤を添加したスラリーを、ワイヤーパート、プレスパート、ヤンキードライヤー、カレンダーパート等を備えた通常の抄紙機で抄紙する方法が挙げられる。また、上記抄紙機としては、例えば長網式抄紙機、オントップ式抄紙機、ツインワイヤー式抄紙機、円網式抄紙機、短網式抄紙機等の通常の湿式抄紙機を使用することができる。なかでも、繊維配向角の調整が容易で縦方向の紙力強度を高めることができる円網抄紙機が好ましい。円網抄紙機を用いた場合、非艶面がワイヤーでの脱水面となり、微細繊維が強制脱水されるため、非艶面の放出性をより高めることができる。
【0052】
(ファイブラスケーシング用紙素材の使用方法)
当該紙素材は、内層と外層との層構造を有するファイブラスケーシングの内層を形成する素材として好適に用いられる。この際、通常、当該紙素材の艶面側に外層としての合成樹脂層が積層される。以下、このように、内層と外層との層構造を有し、上記内層が当該紙素材から形成され、上記外層が合成樹脂層であるファイブラスケーシングについて説明する。
【0053】
上記内層は、当該紙素材から形成される紙層である。この内層(紙層)は、当該紙素材に含浸している食品改質剤を含む。上記食品改質剤は、食品に色、香り、風味等を付与する。上記食品改質剤としては、色素、香料、保存剤、調味料等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を混合して用いることができる。上記色素としては、カラメル、クチナシ等を挙げることができる。上記香料としては、くん液などを挙げることができる。
【0054】
上記合成樹脂層は、例えば酸素バリア性樹脂層、この酸素バリア性樹脂層の内面に積層される第1の水蒸気バリア性樹脂層、及び上記酸素バリア性樹脂層の外面に積層される第2の水蒸気バリア性樹脂層を有する三層構造とすることができる。上記合成樹脂層が、酸素バリア性樹脂層を有することにより、食品の加熱調理や、この際の食品への食品改質剤の転写を効果的に行うことができる。また、上記合成樹脂層が、第1の水蒸気バリア性樹脂層及び第2の水蒸気バリア性樹脂層を有することにより、食品の加熱調理や、この際の食品への食品改質剤の転写を効果的に行うことができる。また、これらの層を備えることで、食品の保存性等も高まる。
【0055】
上記酸素バリア性樹脂層を形成する樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ナイロン(6−ナイロン、6,6−ナイロン等)などの熱可塑性樹脂を挙げることができる。これらの中でも良好な酸素バリア性を発揮すること、良好な熱収縮性等を発揮することができることなどの点からナイロンが好ましい。ナイロンの融点としては特に制限されないが、215℃以上225℃以下のものを好適に用いることができる。
【0056】
上記酸素バリア性樹脂層の20℃、90%RHにおける酸素透過度の上限としては、100cc/m
2・24hr・atmが好ましく、50cc/m
2・24hr・atmがより好ましい。一方、この下限としては、限りなく0cc/m
2・24hr・atmに近似した数値にするのが良く、例えば1.0cc/m
2・24hr・atmとすることができる。酸素バリア性樹脂層の酸素透過度が上記範囲内であることで、良好な食品保存性、加熱調理性等を発揮することができる。
【0057】
上記酸素バリア性樹脂層は、通常、上記樹脂から形成されたフィルムを延伸してなる熱収縮性フィルム(シュリンクフィルム)が用いられる。この酸素バリア性樹脂層(シュリンクフィルム)の熱収縮温度としては、特に限定されないが、例えば70℃以上90℃以下である。熱収縮温度が上記範囲であることで、加熱調理する際に良好な収縮を生じさせることができる。
【0058】
上記酸素バリア性樹脂層の平均厚さとしては特に限定されないが、例えば15μm以上50μm以下が好ましい。このような平均厚さとすることにより、酸素バリア性等と加工適性等との両立を図ることができる。
【0059】
上記第1の水蒸気バリア性樹脂層及び第2の水蒸気バリア性樹脂層を形成する樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。これらの中でも、良好な水蒸気バリア性を発揮することができること、及び加工性などの点から、ポリオレフィンが好ましく、ポリエチレンがより好ましい。ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等を挙げることができる。ポリエチレンの融点としては特に制限されないが、105℃以上115℃以下のものを好適に用いることができる。第1の水蒸気バリア性樹脂層を形成する樹脂と、第2の水蒸気バリア性樹脂層を形成する樹脂とは、同一種であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0060】
上記各水蒸気バリア性樹脂層の20℃、90%RHにおける水蒸気透過度の上限としては、100cc/m
2・24hr・atmが好ましく、50cc/m
2・24hr・atmがより好ましい。一方、この下限としては、限りなく0cc/m
2・24hr・atmに近似した数値にするのが良く、例えば1.0cc/m
2・24hr・atmとすることができる。水蒸気バリア性樹脂層の水蒸気透過度が上記範囲内であることで、良好な食品保存性、加熱調理性等を発揮することができる。
【0061】
上記第1の水蒸気バリア性樹脂層及び第2の水蒸気バリア性樹脂層の平均厚さとしては、特に限定されないが、例えばそれぞれ15μm以上50μm以下が好ましい。このような平均厚さとすることにより、水蒸気バリア性等と加工適性等との両立を図ることができる。
【0062】
上記第1の水蒸気バリア性樹脂層及び第2の水蒸気バリア性樹脂層の形成方法としては特に限定されない。例えば酸素バリア性樹脂層への塗工により形成してもよいし、単層の水蒸気バリア性樹脂からなるフィルムとして、水蒸気バリア性樹脂層を酸素バリア性樹脂層に貼り合わせてもよい。また、後述するように、内層(紙素材)と接する第1の水蒸気バリア性樹脂層は、押出ラミネートの際に形成されていてもよい。
【0063】
上記合成樹脂層の平均厚みとしては、特に限定されないが、例えば30μm以上300μm以下とすることができる。
【0064】
上記ファイブラスケーシングの製造方法としては、特に限定されないが、ドライラミネートや押出ラミネート等のラミネート加工により効率的に製造することができる。ドライラミネートにより製造する場合、内層(紙層)となる当該紙素材と、合成樹脂層となる三層構造のフィルムとを重ね合わせてドライラミネートすることにより行うことができる。押出ラミネートにより製造する場合、内層(紙層)となる紙素材と、酸素バリア性樹脂層及び外側の第2の水蒸気バリア性樹脂層とからなる2層構造のフィルムとを用意し、溶融したポリエチレン等の熱可塑性樹脂(水蒸気バリア性樹脂)を用いた押出ラミネートにより、上記紙素材と上記フィルムとを積層させることができる。この場合、押出ラミネートに用いたポリエチレン等が、合成樹脂層の最内層である第1の水蒸気バリア性樹脂層となる。押出ラミネートにより製造することで、印刷適性、製袋適性等の加工適性に優れるファイブラスケーシングを得ることができる。また、押出ラミネートの場合、ドライラミネートと比べて、樹脂成分等の溶出が低減できる。
【0065】
このようなラミネート加工の際、当該紙素材に含有される合成樹脂繊維と、合成樹脂層の最内層とが相溶、あるいは融着し、紙素材(内層)と合成樹脂層(外層)とが強く接着することができる。特に、合成樹脂繊維が密に存在する当該紙素材の艶面側に合成樹脂層を積層させることで、層界面の接着性をより高めることができる。
【0066】
ラミネート加工の前に、紙素材における合成樹脂層を積層させる面に対してコロナ処理を行うことが好ましい。コロナ処理を行うことにより、表面の濡れ性が高まり、内層と合成樹脂層との接着性を高めることができる。
【0067】
ラミネート加工後、内層を形成する当該紙素材に食品改質剤を含浸させることにより、ファイブラスケーシングを得ることができる。食品改質剤の含浸方法としては特に限定されず、塗布や浸漬等により行えばよい。
【0068】
(他の実施形態)
本発明のファイブラスケーシング用紙素材は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば非艶面側を外面、艶面側を内面として、当該紙素材をファイブラスケーシングの内層に使用してもよい。また、当該紙素材を用いたファイブラスケーシングにおいて、外層として備わる合成樹脂層は、上記3層構造に限定されるものでは無い。合成樹脂層が酸素バリア性樹脂層又は水蒸気バリア性樹脂層からなる単層であってもよいし、2層又は4層以上の層構造であってもよい。また、合成樹脂層が、複数の酸素バリア性樹脂層又は水蒸気バリア性樹脂層を有する場合、各層の積層順は特に限定されない。但し、酸素バリア機能及び水蒸気バリア機能を共に良好に発揮させるためには、合計で3層以上の酸素バリア性樹脂層及び水蒸気バリア性樹脂層を交互に積層させることが好ましい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、本実施例における各測定値は、以下の方法にて測定した値である。
【0070】
<坪量>
坪量(g/m
2)は、JIS−P−8124(2011)「紙及び板紙−坪量の測定方法」に準拠して測定した。
【0071】
<紙厚>
紙厚(μm)は、JIS−P−8118(1998)「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した。
【0072】
<ワックスピック>
JAPAN TAPPI No.1(2000)に記載の「紙及び板紙−ワックスによる表面強さ試験方法」に準じて測定した。ワックスピック(A)は、数値が大きい程、表面強度が強いことを示している。
【0073】
<吸水量(ブリストー法)>
吸水量(ml/m
2)は、ブリストー法に準拠し、50.0mm/sの速度設定にて、接触時間20秒間での値を測定した。艶面からの吸水量及び非艶面からの吸水量のそれぞれを測定した。
【0074】
<算術平均粗さRa>
算術平均粗さRa(μm)は、JIS−B−0601(2001)に準拠して、カットオフλc2.5mm、評価長さ12.5mmで測定した。
【0075】
<繊維配向角>
繊維配向角(°)は、株式会社東洋精機製作所製の光学式配向性試験機にて繊維配向角を測定し、得られた値の絶対値を繊維配向角とした。
【0076】
[実施例1]
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)80質量%及び合成樹脂繊維として芯鞘構造PP20質量%のパルプに、湿潤紙力剤をパルプ(絶乾量)に対して固形分換算で3質量部を添加してパルプスラリーを調製した。
【0077】
次いで、このパルプスラリーを、ヤンキードライヤーを備える円網抄紙機で抄紙し、実施例1のファイブラスケーシング用紙素材を得た。なお、ファイブラスケーシング用紙素材の坪量は17.0g/m
2、紙厚は38μm、艶面及び非艶面のワックスピック(表面強度)は、それぞれ14A及び13A、吸水量(艶面)は50ml/m
2、吸水量(非艶面)は48ml/m
2、算術平均粗さRa(艶面)は1.5μm、算術平均粗さ(非艶面)は3.5μm、繊維配向角(艶面)は2.5°、繊維配向角(非艶面)は3.5°であった。
【0078】
[実施例2〜4、比較例1〜6]
パルプ繊維種の配合比を表1の通りとし、抄紙及び乾燥条件を調整したこと以外は実施例1と同様の条件にて、表1に記載の実施例2〜4及び比較例1〜4の紙素材を得た。また、両面を艶面とした比較例5及び両面を非艶面とした比較例6の各紙素材を得た。
【0079】
各紙素材の艶面(比較例5、6は一方の面)をコロナ処理し、この被処理面側に第1の水蒸気バリア性樹脂層としてのポリエチレン層(15μm)、酸素バリア性樹脂層としてのナイロン層(15μm)及び第2の水蒸気バリア性樹脂層としてのポリエチレン層(20μm)の3層構造の合成樹脂層を積層させた。この積層は、第1の水蒸気バリア性樹脂層となるポリエチレンの押出ラミネートにより行いファイブラスケーシングとした。
【0080】
得られた各ファイブラスケーシングに対して、以下の方法により、食品改質剤の保液性(保液量)、放出性及び層間の接着性を評価した。評価方法は以下の通りである。評価結果を表1に示す。
【0081】
(1)保液量(保液性)
ファイブラスケーシング(折径135mm)に、くん液(Kerry社の「Super Smoke330」)を所望量投入し、巻き取り機器で、絞り圧2bar、30m/minの速度で巻き取った。ファイブラスケーシングの単位面積当たりの質量変化から保液量を算出し、以下の基準で評価した。○以上の評価が良好と判断できる。
◎:保液量が13.0g/m
2以上
○:保液量が11.0g/m
2以上13.0g/m
2未満
×:保液量が11.0g/m
2未満
【0082】
(2)食品改質剤の放出性(食品への転写性)
くん液(Kerry社の「Super Smoke330」)を紙層に11〜13g/m
2(実測値)含浸させたファイブラスケーシング中で畜肉加工品を80℃水浴中で、1時間ボイリングして加熱調理し、その後、ファイブラスケーシングを剥離した。くん液含浸前のファイブラスケーシングの質量(M1)、くん液含浸後のファイブラスケーシングの質量(M2)、及びくん液転写(放出)後のファイブラスケーシングの質量(M3)を量り、これらの値から、下記式によりくん液(食品改質剤)の放出率を算出した。以下の基準で、放出性を評価した。◎の評価が良好と判断できる。
放出率(%)=100×(M2−M3)/(M2−M1)
◎:放出率が90%以上
○:放出率が50%以上90%未満
×:放出率が50%未満
【0083】
(3)層間の接着性
ファイブラスケーシングの内面(紙層側の面)をMDF合板に市販の木工用ボンドで貼り付け25mmにカットし、室温(20℃)で1日乾燥させた。その後、紙層と合成樹脂層との間を剥離した際の強度を、引張り試験機((株)島津製作所の「AG−IS」)にて測定した。測定値に基づき、紙素材とラミネート部分(合成樹脂層)との接着強度を以下の基準で評価した。○以上の評価が良好と判断できる。
◎:500gf/25mm以上
○:450gf/25mm以上500gf/25mm未満
×:450gf/25mm未満
【0084】
【表1】
【0085】
上記表1に示されるように、実施例1〜4の各ファイブラスケーシングは、食品改質剤の吸液性に優れ、食品改質剤の放出性や、層間の接着性も良好であった。
【0086】
一方、合成樹脂繊維を用いなかった比較例1は、層間の接着性が低かった。また、NBKPを含まない、あるいはNBKPを主成分としていない比較例2〜4は、放出性等が低かった。比較例5は、両面が艶面であり、食品改質剤の保液量及び放出性が低かった。両面を艶面とすることで、紙厚が薄くなり保液量が低下し、内面が艶面であることで放出性が低下したものと推察される。両面が非艶面である比較例6も、食品改質剤の保液量及び放出性が低かった。紙層の外面が非艶面である場合、外側の合成樹脂層が紙層に含浸するため、紙層における保液可能な厚さが低下することが原因であると推察される。