特許第6796938号(P6796938)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796938
(24)【登録日】2020年11月19日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】水系接着用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 105/00 20060101AFI20201130BHJP
   C09J 129/04 20060101ALI20201130BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20201130BHJP
   B27N 3/00 20060101ALI20201130BHJP
   B27K 3/52 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   C09J105/00
   C09J129/04
   C09J11/04
   B27N3/00 D
   B27K3/52 E
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-63804(P2016-63804)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-178988(P2017-178988A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】391047558
【氏名又は名称】ヘンケルジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】田母神 剛
(72)【発明者】
【氏名】吉田 良夫
【審査官】 川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−002204(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/018707(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0314427(US,A1)
【文献】 米国特許第04183997(US,A)
【文献】 特開2002−146317(JP,A)
【文献】 英国特許出願公告第00527704(GB,A)
【文献】 特表2006−518789(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/173008(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
B27D 1/04
B27N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)糖類、(B)水溶性合成樹脂、(C)無機酸アンモニウム塩、及び(D)金属塩を含有し、
(C)無機酸アンモニウム塩は、リン酸二水素アンモニウム及び塩化アンモニウムから選ばれる少なくとも1種を含み、
(A)糖類は、フルクトースに由来する構造を含み、
(B)水溶性合成樹脂は、ポリビニルアルコール系化合物を含む、水系接着用組成物。
【請求項2】
(D)金属塩は塩化マグネシウムを含む、請求項に記載の水系接着用組成物。
【請求項3】
(A)〜(D)の総重量100重量部に対し、(B)水溶性合成樹脂を5〜20重量部含む、請求項1又は2に記載の水系接着用組成物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の水系接着用組成物と、木質要素を含む混合物である木質材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系接着剤を製造可能な水系接着用組成物、及びそのような水系接着用組成物を用いて製造される木質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
木質材料(例えば、合板(ベニヤ板など)、パーティクルボード、繊維板(中密度繊維板MDFなど)及び集成材など)は、一般に、木質要素(原料)(例えば、木材又は草本植物が細分化された種々の寸法の繊維、小片及び単板など)に接着剤等を塗布又は散布し、必要に応じて加圧及び加熱し、成形して、製造される。木質材料は、天然系の再生可能な材料であり、木材の有する長所を活かしながら、寸法及び強度の安定性を高め、木材特有の欠点が除去された材料である。地球環境の保護及び木質材料製造の作業者保護や、シックハウス症候群防止の観点から、使用される接着剤として、ホルムアルデヒドの放散がなく、有機溶剤を含まない、水系接着剤の開発が行われている。
【0003】
ユリア樹脂及びフェノール樹脂等を使用して木質材料(例えば、パーティクルボード)を製造する場合、一般に、約130〜170℃の温度に、木質要素と接着剤の混合物は加熱され、成形される。従って、水系接着剤も、同程度の温度に加熱して、木質材料を製造できることが好ましい。しかし、水系接着剤を用いると、より高温を要することが多い。
【0004】
更に、得られる木質材料(例えば、パーティクルボード)が、曲げ強さ、湿潤時の曲げ強さ、吸水厚さ膨張率及びはく離強さ等の性質に優れることも求められる。しかし、水系接着剤を用いると、性能が不十分なことが多い。
【0005】
特許文献1は、デキストロース等の還元糖と、クエン酸トリアンモニウム等のカルボン酸アンモニウムを有する水系バインダーを開示する(特許請求の範囲及び[0131]表1等参照)。この水系バインダーは、繊維ガラス及び木質繊維板の製造に利用される([0016]〜[0017]等参照)。しかしながら、特許文献1の繊維ガラス及び木質繊維板は、湿潤時の曲げ強さが低く、吸水厚さ膨張率が高くなるため、厳しい耐湿性が求められる構造材料に適しているとは言えない。
【0006】
特許文献2は、糖類(スクロース及びマルトースなど)と多価カルボン酸(クエン酸、リンゴ酸、無水マレイン酸、ポリマレイン酸及びポリアクリル酸など)を含み、ホルムアルデヒドが放散され難い接着用組成物を開示する([請求項1]、[請求項2]及び[0031]〜[0032]等参照)。特許文献2は、更にこの組成物で木質ボードを製造することを開示する([0126]等参照)。特許文献2は、接着用組成物が増粘剤を含むことを開示し([請求項4]、[請求項13]及び[0046]等参照)、増粘剤を含む接着用組成物はその表5に具体的に開示されている。
【0007】
特許文献2の接着用組成物は、多価カルボン酸を含むことで、木材との間の結合力が向上する。しかしながら、特許文献2の木質ボートも、湿潤時の曲げ強さ及び吸水厚さ膨張率が不十分であり、厳しい耐湿性が求められる構造材料には不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009−503193号公報
【特許文献2】特開2012−214687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年では、木質材料を製造するために用いられる水系接着剤として、比較的低い温度で接着可能で有りながら、木質材料の曲げ強さ、湿潤時の曲げ強さ、吸水厚さ膨張率及びはく離強さ等の性能をバランスよく向上させることが求められている。
【0010】
さらに、水系接着用組成物を様々な基材と混合し、成形板等の構造材料を製造する際、構造材料の製造効率を考慮すると、水系接着用組成物には、各成分の相溶性に優れ、スプレー等の噴射機器を詰まらせることなく、容易に噴き付け可能であることも、好ましくは求められる。
【0011】
本発明は、このような事情を鑑みなされたものであり、含有成分の相溶性に優れ、比較的低い温度で接着可能で有りながら、木質材料の曲げ強さ、湿潤時の曲げ強さ、吸水厚さ膨張率及びはく離強さ等の性能をバランスよく向上させるために有用な水系接着用組成物、及びその水系接着用組成物を用いて得られる木質材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本研究者らは、鋭意研究を続けた結果、糖類、水溶性合成樹脂、及び特定の無機酸のアンモニウム塩を含む水系接着用組成物は、相溶性に優れ、比較的低い温度で接着可能で有りながら、木質材料の曲げ強さ、湿潤時の曲げ強さ、吸水厚さ膨張率及びはく離強さ等の性能をバランスよく向上させるために有用であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、一の要旨において、
(A)糖類、(B)水溶性合成樹脂、及び(C)無機酸アンモニウム塩を含有し、
(C)無機酸アンモニウム塩は、リン酸二水素アンモニウム及び塩化アンモニウムから選ばれる少なくとも1種を含む、水系接着用組成物を提供する。
【0014】
本発明は、一の態様において、(B)水溶性合成樹脂は、ポリビニルアルコール系化合物を含む、水系接着用組成物を提供する。
本発明は。他の態様において、更に(D)金属塩を含み、(D)金属塩は塩化マグネシウムを含む、水系接着用組成物を提供する。
【0015】
本発明は、更なる態様において、(A)〜(D)の総重量100重量部に対し、(B)水溶性合成樹脂が5〜20重量部である、水系接着用組成物を提供する。
本発明は、他の要旨において、水系接着用組成物と、木質要素を含む木質材料を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の形態の水系接着用組成物は、(A)糖類、(B)水溶性合成樹脂、(C)無機酸アンモニウム塩を有し、(C)無機酸アンモニウム塩がリン酸二水素アンモニウム及び塩化アンモニウムから選ばれる少なくとも1種を含むので、各成分の相溶性が向上し、比較的低い温度でも接着可能である。更に、スプレー等で好ましく噴射することができる。
本発明の水系接着用組成物が塗布又は散布された材料を加工、成形及び硬化すると、曲げ強さ、湿潤時の曲げ強さ、吸水厚さ膨張率及びはく離強さのバランスに優れる材料を得ることができる。
硬化物である材料の性質を考慮すると、本発明の水系接着用組成物は、様々な材料を製造するのに有用であるが、木質材料の製造に最適である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の形態の水系接着用組成物は、(A)糖類、(B)水溶性合成樹脂及び(C)無機酸アンモニウム塩を含む。
本発明において、「(A)糖類」とは、一般に糖類と呼ばれ、本発明が目的とする水系接着用組成物を得られる限り特に制限されることはない。(A)糖類は、例えば、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、多糖類、及びその他オリゴ糖を含む。
【0018】
「単糖類」として、具体的に以下のものを例示できる。
グルコース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトロース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フコース、フクロース及びラムノース等のヘキソース;
ケトトリオース(ジヒドロキシアセトン)及びアルドトリオース(グリセルアルデヒド)等のトリオース;
エリトリロース、エリトロース及びトレオース等のテトロース;及び
リブロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース及びデオキシリボース等のペントース。
【0019】
「二糖類」として、例えば、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノース及びセロビオースを例示できる。
「三糖類」として、例えば、ラフィノース、メレジトース、マルトトリオース及び1−ケストース(GF2)を例示できる。
「四糖類」として、例えば、アカルボース、スタキオース及びニストース(GF3)を例示できる。
【0020】
「多糖類」として、例えば、グリコーゲン、デンプン(アミロース、アミロペクチン)、セルロース、デキストリン、グルカン、N-アセチルグルコサミン、キチン質及びイヌリン(フラクトフラノシルニストース:GF4を含む)を例示できる。
「その他のオリゴ糖」として、例えば、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖及びマンナンオリゴ糖を例示できる。
これらの「糖類」は、単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0021】
「糖類」は、フルクトースに由来する構造を含むことが好ましい。そのような糖類として、フルクトース自身、スクロース、及びイヌリンを例示することができる。
イヌリンとは、通常、その末端にグルコースが結合した、フルクトースの重合体をいう。従って、イヌリンには、例えば、具体的には、最も単純な三糖類に含まれる1−ケストース(GF2)、四糖類に含まれるニストース(GF3)、多糖類に含まれるフラクトフラノシルニストース(GF4)等も含まれる。1−ケストースは、2つのフルクトースと1つのグルコースからなり、ニストースは、3つのフルクトースと1つのグルコースからなる。
【0022】
(A)糖類は、更に、例えば、糖蜜を含むことができる。「糖蜜」とは、サトウキビ、テンサイ、サトウカエデ及びオウギヤシ等の砂糖原料から得られる繊維質および不純物を取り除いた糖液(シロップ)であるか、又は、砂糖を原料から精製するときに得られ、糖分以外の成分も含む粘性のある液体(モラッセス)をいう。
糖蜜は、例えば、廃糖蜜、氷糖蜜、白蜜、カラメル、粗糖、砂糖溶液、及び砂糖原料(サトウキビ、テンサイ、サトウカエデ及びオウギヤシ等)の絞り汁を含む。
糖蜜は、廃糖蜜、氷糖蜜および粗糖から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0023】
本発明の水系接着用組成物は、(A)糖類を含むので、水系接着用組成物が塗布された後に硬化された材料は、曲げ強さ、湿潤時の曲げ強さ、吸水厚さ膨張率、剥離強さに優れ、特に、湿潤時の曲げ強さ、吸水厚さ膨張率に優れる。
【0024】
「糖類」は、フルクトースに由来する構造を含む場合、本発明の水系接着用組成物は耐水性により優れるので、本発明の木質材料は、湿潤時曲げ強さがより高くなり、吸水厚さ膨張率がより低くなり得る。
「糖類」として、市販品を使用することができる。
【0025】
本発明における(B)水溶性合成樹脂とは、水性媒体に溶ける性質を持ち、人為的に製造されたポリマーをいう。従って、澱粉、糖類、寒天、ゼラチン及びにかわ等は、天然(植物若しくは動物)由来のポリマーなので、(B)水溶性合成樹脂に含まれない。
本明細書において「水性媒体」とは、蒸留水、イオン交換水及び純水等のいわゆる水をいうが、水溶性の有機溶剤、例えばアセトン及び低級アルコール等を含むことができる。
【0026】
(B)水溶性合成樹脂として、例えば、
ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等の非イオン性水溶性高分子;
ポリアクリル酸ソータ、ポリスルホン酸ソーダ等のアニオン性水溶性高分子;
ジアリルジメチルアンモニウム塩の重合体、ポリエチレンイミン等のカチオン性水溶性高分子
を例示できる。これらは、単独で又は組み合わせて使用できる。
尚、エチレングリコール及びジエチレングリコールは、ポリマーではなく、モノマーなので、(B)水溶性合成樹脂には該当しない。
本明細書では、二量体や三量体は、ポリマーとはみなさず、(B)水溶性合成樹脂に該当しないものとする。
【0027】
本発明において、(B)水溶性合成樹脂は、ポリビニルアルコール系化合物を含むことが好ましい。ポリビニルアルコール系化合物として、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール変性体(又は変性ポリビニルアルコール)等を例示することができる。
「ポリビニルアルコール」は、一般的に、ポリ酢酸ビニルを加水分解することで製造されており、酢酸エステル基(CHCOO−)を含むことができる。
【0028】
本明細書における「ポリビニルアルコール変性体」とは、新たな官能基(好ましくは親水基)を付与することで、変性されたポリビニルアルコールをいう。ポリビニルアルコールを合成中又は合成後に、新たな官能基(好ましくは親水基)を付与することで、ポリビニルアルコールを変性して、変性ポリビニルアルコールを製造することができる。
ポリビニルアルコール変性体として、例えば、ブテンジオール変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、カルボン酸変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0029】
本発明の水系接着用組成物は、(B)水溶性合成樹脂を有するので、より優れた硬化性を有し、木質材料の接着性(湿潤時曲げ強さ及び吸水厚さ膨潤率)をより向上させることができる。(B)水溶性合成樹脂がポリビニルアルコール系化合物を含む場合、本発明の木質材料は、更に、湿潤時曲げ強さおよび吸水厚さ膨張率のバランスにより優れる。
【0030】
本発明において(C)無機酸アンモニウム塩は、リン酸二水素アンモニウム及び塩化アンモニウムから選ばれる少なくとも1種を含む。本発明の水系接着用組成物は、(C)無機酸アンモニウム塩を含むので、より優れた硬化性を有し、木質材料の接着性(曲げ強さ、湿潤時曲げ強さ剥離強さ及び吸水厚さ膨潤率)がより向上しえる。
【0031】
更に、リン酸二水素アンモニウム及び塩化アンモニウムは、(A)糖類及び(B)水溶性合成樹脂との良好な相溶性を有するので、本発明の水系接着用組成物に、析出物の発生を抑制することができ、好ましくは析出物が生じない。よって、本発明の水系接着用組成物は、スプレー等の噴射機器による噴き付けを行うためにより適する。
【0032】
本発明の目的とする水系接着用組成物を得られる限り、(C)無機酸アンモニウム塩はリン酸二水素アンモニウム及び塩化アンモニウム以外のその他のアンモニウム塩を含むことができる。その他のアンモニウム塩として、硫酸アンモニウム、フッ化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウムを例示することができる。
「無機酸アンモニウム塩」は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
「無機酸アンモニウム塩」として、市販品を使用することができる。
【0033】
本発明において、水系接着用組成物は(D)金属塩を有することが好ましく、(D)金属塩は塩化マグネシウムを含むことが好ましい。
本発明の水系接着用組成物が(D)金属塩を含む場合、本発明の木質材料は、より低温で、より短時間、加熱及び加圧することで硬化することが可能である。(D)金属塩が塩化マグネシウムを含む場合、本発明の水系接着用組成物を用いて製造された木質材料は、より低温で、かつより短時間、加熱及び加圧することで硬化し、吸水厚さ膨張率がより低くなり、湿潤時曲げ強さがより高くなりえる。
【0034】
(D)金属塩は、塩化マグネシウムを含むことが好ましく、本発明の効果が失われない程度に、「その他の金属塩」を、更に含むことができる。
その他の金属塩として、例えば、
硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、ハロゲン化カリウム(例えば、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム及びヨウ化カリウム)、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム及びリン酸二水素カリウム等のカリウム塩;
硫酸カルシウム、硫酸水素カルシウム、ハロゲン化カルシウム(例えば、フッ化カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム及びヨウ化カルシウム)、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム及びリン酸二水素カルシウム等のカルシウム塩;
硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、ハロゲン化ナトリウム(例えば、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム及びヨウ化ナトリウム)、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウム等のナトリウム塩;及び
硫酸マグネシウム、硫酸水素マグネシウム、ハロゲン化マグネシウム(例えば、フッ化マグネシウム、臭化マグネシウム及びヨウ化マグネシウム)、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム及びリン酸二水素マグネシウム等のマグネシウム塩
などを例示できる。
【0035】
(D)金属塩は、強酸の金属塩であることが好ましく、硫酸の金属塩及びハロゲン化金属塩であることがより好ましい。(D)金属塩が強酸の金属塩である場合、本発明の水系接着用組成物のpHは1〜6になり得る。本発明では、水系接着用組成物は、pH1〜6が好ましく、特にpH2〜5が望ましく、pH3〜4.5が最も望ましい。
【0036】
(D)金属塩が強酸の金属塩であり、上記範囲のpHを示す水系接着用組成物を用いて製造された木質材料は、より低温で、より短時間、加熱及び加圧することで硬化することが可能である。
(D)金属塩は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
(D)金属塩として、市販品を使用することができる。
【0037】
含まれる(A)〜(C)成分及び任意に含まれ得る(D)成分の量は、本発明が目的とする水系接着用組成物を得ることができる限り特に制限されることはない。以下に各成分の配合組成を記載するが、各成分の数値は、水分を除去した固形分換算値をいう。
(D)が含まれない場合は(A)〜(C)の合計100重量部当たり、(D)が含まれる場合は(A)〜(D)の合計100重量部当たり、(A)は60〜90重量部含まれることが好ましく、(A)は、70〜90重量部含まれることがより好ましく、(A)は、70〜85重量部含まれることが特に好ましい。
(D)が含まれない場合は(A)〜(C)の合計100重量部当たり、(D)が含まれる場合は(A)〜(D)の合計100重量部当たり、(B)は、5〜20重量部含まれることが好ましく、(B)は5〜15重量部含まれることがより好ましく、(B)は、5〜10 重量部含まれることが特に好ましい。
(D)が含まれない場合は(A)〜(C)の合計100重量部当たり、(D)が含まれる場合は(A)〜(D)の合計100重量部当たり、(C)は2〜15重量部含まれることが好ましく、(C)は5〜15重量部含まれることがより好ましく、(C)は7〜15重量部含まれることが特に好ましい。
(A)〜(D)の合計100重量部当たり、(D)は5〜15重量部含まれることが好ましく、(D)は7〜15重量部含まれることがより好ましく、(D)は8〜12重量部含まれることが特に好ましい。
【0038】
(A)糖類が、60〜90重量部含まれる場合、本発明の水系接着用組成物で製造された木質材料は、より優れる曲げ強さ及び湿潤時曲げ強さを有し得る。
(B)水溶性合成樹脂が、5〜20重量部含まれる場合、本発明の水系接着用組成物で製造された木質材料は、湿潤時曲げ強さ及び吸水厚さ膨張率のバランスにより優れ得る。
(C)無機酸アンモニウム塩が、2〜15重量部含まれる場合、本発明の水系接着用組成物は硬化性が向上するため、木質材料はより低温で、かつより短時間、加熱及び加圧することで、硬化することができる。
(D)金属塩が5〜15重量部含まれる場合、本発明の木質材料は、より低温硬化に優れ得る。
【0039】
本発明に係る水系接着用組成物は、水を含み、上述の(A)〜(C)及び任意に含まれ得る(D)成分の全てが、水に溶解された水溶液の形態、又は、上述の(A)〜(C)及び任意に含まれ得る(D)成分の少なくともいずれか一種が水に溶解すること無く分散された分散液の形態を有する。
本明細書において「水」とは、一般的に「水」と呼ばれ、本発明が目的の水系接着用組成物を得ることができる限り、特に制限されることはないが、例えば、蒸留水、イオン交換水、純水、水道水及び工業用水等を例示することができる。
【0040】
本発明の形態の水系接着用組成物に含まれる水の量は、本発明が目的とする水系接着用組成物を得ることができる限り特に制限されることはなく、使用される(A)〜(C)及び任意に使用され得る(D)成分及び添加剤などによって、適宜選択される。
本発明の形態の水系接着用組成物は、(D)が含まれない場合は(A)〜(C)の合計100重量部当たり、(D)が含まれる場合は(A)〜(D)の合計100重量部当たり、水を50〜250重量部含むことが好ましく、水を70〜200重量部含むことがより好ましく、水を100〜200重量部含むことが特に好ましい。
【0041】
本発明に係る水系接着用組成物は、水溶液の形態又は水分散液の形態を有するので、被着体への塗布及び散布が容易である。更に、本発明に係る水系接着用組成物は、有機溶媒を好ましくは使用せず、地球環境の保護、及び作業者の作業環境の保護に優れる。
【0042】
本発明の形態の水系接着用組成物は、その他の成分を含むことができる。そのような成分として、例えば、貯蔵安定剤、増粘剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤及び分散安定化剤等を例示できる。
貯蔵安定剤として、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、エルソルビン酸等の多価カルボン酸を例示できる。
【0043】
増粘剤とは、組成物を加圧し加熱する際に、その粘度が低下することを防止するために使用し、本発明が目的とする水系接着用組成物を得ることができる限り特に制限されることはない。そのような増粘剤は、例えば、有機系増粘剤と無機系増粘剤に分類される。
【0044】
無機系増粘剤として、例えば、クレイ、タルク及びシリカなどを例示できる。
有機系増粘剤として、例えば、カルボキシメチルセルロース、植物粉末の小麦粉、コーンスターチ、上新粉、クルミ粉及びヤシ粉などを例示できる。
増粘剤は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0045】
本発明の形態の水系接着用組成物は、上述の(A)〜(C)成分及び任意の(D)成分、水及び必要に応じて他の成分などを加えて、攪拌して製造することができる。(A)〜(D)各成分、水及び他の成分を加える順序、各成分及び水を加える方法及び攪拌方法などは、本発明が目的とする水系接着用組成物を得ることができる限り、特に限定されることはない。
【0046】
本発明の水系接着用組成物を用いて得られる材料として、珪酸カルシウム、石膏、ロックウール、コンクリート、セメント、モルタル及びスレート等の材料が種々の形態(板、ブロック等)に成型された無機質形成部材及び木質材料を例示できる。
本発明では、木質材料が最適である。
【0047】
本発明に係る木質材料は、本発明の形態の水系接着用組成物と木質要素(原料)(例えば、木質又は草本植物の繊維、小片及び単板など)との混合物である。水系接着用生物が木質要素に塗布又は散布され、木質要素が加熱され、結合(接着)され、成形されて木質材料が製造される。
木質要素(原料)として、木材から切削等して得られる、例えば、挽き板、単板、木質ストランド、木質チップ、木質繊維及び植物繊維などを例示することができる。
【0048】
木質材料として、例えば、木質要素が接着剤によって接着されて得られる、集成材、合板、パーティクルボード、繊維板及び中密度繊維板(MDF)等を例示できる。
本発明の形態の水系接着用組成物は、種々の被着体(例えば、紙、木質繊維及び合板等を接着するために使用することができるが、上述の木質材料を製造するために好適に使用することができる。
【0049】
木質材料を成形して製造する場合、水系接着用組成物の塗布量、塗布方法、成形圧力、成形温度及び成形時間などの製造条件は、木質要素の種類、形状及び寸法、製造される木質材料の寸法などによって、適宜選択され、本発明が目的とする木質材料を得ることができる限り特に制限されることはないが、製造効率を考慮すると、塗布方法として、スプレー等で水系接着用組成物を木質要素に噴射する方法が好ましい。
【0050】
水系接着用組成物の塗布量は、乾燥した木質要素と、水系接着用組成物の総重量100重量部当たり、5〜80重量部であることが好ましく、10〜60重量部であることがより好ましく、15〜30重量部であることが特に好ましい。
水系接着用組成物の塗布方法は、ロール及び刷毛などを用いる塗布、スプレー等を用いる散布、水系接着用組成物中への含浸などが好ましい。
【0051】
成形圧力は、0.5〜6.0MPaであることが好ましい。成形圧力が、6.0MPa以下の場合、圧力が大きすぎないので、木質材料に痛みを生じにくい。成形圧力が、0.5MPa以上の場合、十分に木質要素を接着することができる。
成形温度は、140〜230℃であることが好ましく、140〜200℃であることがより好ましく、140〜180℃であることが特に好ましい。成形温度が、230℃以下の場合、温度が高すぎず、エネルギーの消費が小さく、木質材料も痛みにくい。成形温度が、140℃以上の場合、接着が適度の時間で進行し得る。
【0052】
成形時間は、3〜10分であることが好ましく、3〜9分であることがより好ましく、3〜7分であることが特に好ましい。成形時間が、10分以下の場合、時間が長くかかりすぎないので、エネルギーの消費が小さく、木質材料も痛みにくい。成形時間が、3分以上の場合、適度の接着時間が確保され、適度の接着強度を確保できる。
上述のようにして得られる木質材料は、従来の木質材料と同様に、例えば、建築資材やや家具等の種々の用途に使用することができる。
【実施例】
【0053】
以下に本発明を実施例及び比較例を用いて説明するが、これらの例は本発明を説明するためのものであり、本発明を何ら限定するものではない。
水系接着用組成剤の成分として、以下の成分を準備した。()内に、商品名及び製造会社名を記載した。尚、部とは重量部を意味する。
【0054】
(A)糖類
(A-1)スクロース(和光純薬工業(株)社製)
(A-2)廃糖蜜(林商会(株)、糖蜜H(商品名))
(A-3)氷糖蜜(林商会(株)、氷糖蜜(商品名))
【0055】
(B)水溶性合成樹脂
(B-1)ポリビニルアルコール(クラレ(株)社製、PVA203(商品名))
(B-2)ブテンジオール変性ポリビニルアルコール(日本合成化学社製、Gポリマー(商品名))
(B-3)スルホン酸変性ポリビニルアルコール(日本合成化学社製、ゴーセネックスL3266(商品名))
(B-4)アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール(日本合成化学社製、ゴーセネックスZ320(商品名))
(B-5)カルボン酸変性ポリビニルアルコール(日本合成化学社製、ゴーセネックスT330(商品名))
(B-6)アミノ基変性ポリビニルアルコール(日本合成化学社製、ゴーセネックスK434(商品名))
(B'-7)ジエチレングリコールモノマー(和光純薬(株)社製、 (商品名))
【0056】
(C)無機酸アンモニウム塩
(C-1)リン酸二水素アンモニウム(和光純薬工業(株))
(C-2)塩化アンモニウム(和光純薬工業(株))
(C'-3)リン酸水素二アンモニウム(和光純薬工業(株))
(C'-4)パラトルエンスルホン酸(和光純薬工業(株))
(D)金属塩
(D-1)塩化マグネシウム(和光純薬工業(株))
【0057】
参考例1、実施例2〜8、参考例9〜10および比較例11〜19の水系接着用組成物を下記のように製造した。
参考例1]水系接着用組成物の製造
81.6部の(A-1)スクロース、8.2部の(B-1)ポリビニルアルコール、10.2部の(C-1)リン酸二水素アンモニウム(和光純薬工業(株))、及び10.0部を混合し、これら混合物を蒸留水に加え、常温で攪拌して溶解し、参考例1の水系接着用組成物を得た。
参考例1の水系接着用組成物は、表1に示すように、(A-1)、(B-1)および(C-1)の総重量100部、水186部であった。
表1に記載された(A-1)の数値は固形分のみを示す。
【0058】
実施例2〜8、参考例9〜10]及び[比較例11〜19]水系接着用組成物の製造
実施例2〜8、参考例9〜10及び比較例11〜19の水系接着用組成物の組成を表1〜2に示す。
参考例1で使用した(A)、(B)、(C)及び(D)金属塩((D-1)塩化マグネシウム)を用い、水系着用組成物を製造した。
表1〜2に記載した成分とその量に変更した他は、参考例1と同様の方法を用いて、実施例2〜8、参考例9〜10及び比較例11〜19の水系接着用組成物を製造した。
尚、表1〜2の成分(A-2)廃糖蜜、(A-3)氷糖蜜の数値は、固形分のみの値であり、水分を含まない。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
上述の参考例1、実施例2〜8、参考例9〜10及び比較例11〜19の水系接着用組成物を用いて、参考例20、実施例21〜29、参考例30〜31及び比較例32〜41の木質材料(パーティクルボード)を製造した。
【0062】
参考例20]木質材料製造
木質要素(原料)として、60メッシュの篩を通過した針葉樹の木質繊維を使用した。80部の木質要素に、固形分換算で20部となるように、参考例1の水系接着剤組成物を、スプレーで均一に塗布し、80℃のオーブンで2時間乾燥した。その後、熱盤温度170℃、圧力4MPaで、9分間プレス成形して、厚さ9mm、密度0.8g/cm参考例20の木質材料(パーティクルボード)を製造した。参考例20で使用した組成及び製造条件などを表3に示す。
【0063】
実施例21〜29、参考例30〜31]及び[比較例32〜41]木質材料の製造
実施例21〜29、参考例30〜31及び比較例32〜41のパーティクルボードの製造のために使用された組成及び製造条件を表3〜5に示す。
参考例20で使用した水系接着剤組成物、その量、木質要素の量、プレス形成条件(熱盤温度、圧力、及び成形時間)を、表3〜5に記載したものに変更した他は、参考例20に記載の方法と同様の方法を用いて、実施例21〜29、参考例30〜31及び比較例32〜41の木質材料(パーティクルボード)を製造した。
但し、比較例15及び16の水系接着用組成物は、リン酸水素二アンモニウム及びパラトルエンスルホン酸が析出するので、スプレーで木質要素に噴き付けることができなかった。比較例37及び38の木質材料は、製造できなかったので、表5に示すように、性能を評価していない。
比較例37及び38を除き、各パーティクルボードの寸法と密度などの他の条件は、参考例20のパーティクルボードのものと同様である。
【0064】
得られたパーティクルボードは、JISA5908:2003に準じて、各々の曲げ強さ(N/mm)、湿潤時曲げ強さ(B試験)(N/mm)、吸水厚さ膨張率(%)、及び剥離強さ(N/mm)を測定した。
尚、上述のパーティクルボードは、JISA5908:2003に記載された「素地パーティクルボード」の「無研磨板」に該当する。それらの幅方向と長さ方向の「曲げ強さ」は、ほぼ等しいが、より小さい値を、「曲げ強さ」と「湿潤時の曲げ強さ」の結果として採用した。
【0065】
各試験の評価基準は以下のとおりである。
<曲げ強さの評価基準>
◎:強度が16N/mm以上
○:強度が13N/mm以上、16N/mm未満
×:強度が13N/mm未満
<湿潤時曲げ強さの評価基準>
◎:強度が7.0N/mm以上
○:強度が6.5N/mm以上、7.0N/mm未満
×:強度が6.5N/mm未満
<吸水厚さ膨潤率の評価基準>
◎:膨潤率が6%以下
○:膨潤率が6%より大きく、12%以下
×:膨潤率が12%を超えるか、若しくはパーティクルボードが崩壊
<剥離強さの評価基準>
◎:強度が1.0N/mm以上
○:強度が0.3N/mmより大きく、1.0N/mm未満
×:強度が0.3N/mm以下
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
表3〜4に示すように、実施例2〜8の水系接着用組成物を用いて製造された、実施例21〜29の木質材料は、170℃という比較的低い温度で成形されたにもかかわらず、曲げ強さ、湿潤時曲げ強さ及び剥離強さに優れ、吸水厚さ膨張率が小さかった。更に、これらの性能のバランスにも優れていた。従って、本発明に係る接着用組成物は、木質要素に使用して木質材料を製造するのに好適に使用できる。
【0070】
これに対し、表5に示すように、比較例11〜19の水系接着用組成物を用いて製造された、比較例32〜41の木質材料は、曲げ強さ、湿潤時曲げ強さ、剥離強さ及び吸水厚さ膨張率剥離性のいずれかに問題があり、特に、湿潤時曲げ強さや吸水厚さ膨張率の性能が劣る。
既に述べたように、比較例15及び16の水系接着用組成物は、スプレーで木質要素に噴き付けることができない。それゆえ、比較例37及び38の木質材料は、表5に示すように、性能を評価していない。
このように、比較例11〜19の水系接着用組成物は、木質材料を製造するには不十分である。
【0071】
これらの結果から、上述の3成分(A)〜(C)を有する水系接着用組成物は、木質要素(原料)の接着に有用であり、それを用いて木質要素を成形することで優れた木質材料を製造可能なことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、木質要素の接着に有用な水系接着用組成物を提供できる。本発明に係る水系接着用組成物を用いて木質要素を成形することで、木質材料を効率良く製造することができる。