(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
半結晶化時間(ST(P))が20〜500秒であるポリアミド樹脂100質量部と、数平均繊維長が3〜10mmである炭素繊維5〜60質量部と、数平均繊維長が50〜200μmであり、炭素繊維およびガラス繊維から選択される無機繊維を含み、
前記数平均繊維長が50〜200μmである無機繊維は、前記数平均繊維長が3〜10mmである炭素繊維100質量部に対し、40〜850質量部含み、
前記数平均繊維長が50〜200μmである無機繊維は、ミルドファイバーである、ポリアミド樹脂組成物。
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミンの少なくとも一方に由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
半結晶化時間(ST(P))が20〜500秒であるポリアミド樹脂に、数平均繊維長が3〜10mmである炭素繊維と、数平均繊維長が50〜200μmであり、炭素繊維およびガラス繊維から選択される無機繊維を配合して混練することを含み、
前記半結晶化時間(ST(P))が20〜500秒であるポリアミド樹脂100質量部に対し、数平均繊維長が3〜10mmである炭素繊維を5〜60質量部配合し、
前記数平均繊維長が3〜10mmである炭素繊維100質量部に対し、前記数平均繊維長が50〜200μmである無機繊維を40〜850質量部配合する、ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0008】
ポリアミド樹脂組成物
本発明のポリアミド樹脂組成物は、半結晶化時間(ST(P))が20〜500秒であるポリアミド樹脂100質量部と、数平均繊維長が3〜10mmである炭素繊維(以下、「特定炭素繊維」ということがある。)5〜60質量部と、数平均繊維長が50〜200μmであり、炭素繊維およびガラス繊維から選択される無機繊維を含み、前記数平均繊維長が50〜200μmである無機繊維(以下、「特定無機繊維」ということがある。)は、前記数平均繊維長が3〜10mmである炭素繊維100質量部に対し、40〜850質量部含むことを特徴とする。このようなポリアミド樹脂組成物を用いて成形することにより、機械的強度が高く、外観に優れた成形品が得られる。
本発明では、半結晶化時間(ST(P))が20〜500秒であるポリアミド樹脂を用いることにより、成形時の樹脂の固化測祖が遅いため、成形品表面をより樹脂で覆いやすくなり、表面のフィラー浮きを低減することができ、良好な外観が得られる。特定無機繊維は、短い繊維のため、炭素繊維に配合することによって、炭素繊維の間に短い特定無機繊維が入り込むことで成形品表面のうねりを抑制することができる。そのため、機械的強度を保ちつつ、外観に優れた成形品が得られる。
【0009】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、前記数平均繊維長が3〜10mmである炭素繊維を配合することにより、特定無機繊維を配合しても、比重を小さくできる。具体的には、本発明のポリアミド樹脂組成物の比重は、上限値を1.70以下、1.60以下、1.55以下、1.50以下、1.48以下、1.45以下、1.42以下とすることもできる。 前記比重の下限は、例えば、1.30以上とすることができる。本発明のポリアミド樹脂組成物の比重は、後述の実施例に記載の方法に従って測定される。
【0010】
<半結晶化時間(ST(P))が20〜500秒であるポリアミド樹脂>
本発明では、半結晶化時間(ST(P))が20〜500秒であるポリアミド樹脂(以下、「特定ポリアミド樹脂」ということがある)を用いる。
半結晶化時間は、脱偏光光度法で、試料溶融温度がポリアミド樹脂の融点+30℃、試料溶融時間が3分、結晶化油浴温度が140℃の条件で測定された値をいう。脱変更高度法は、例えば、ポリマー結晶化速度測定装置(コタキ製作所製、形式:MK701)を使用して測定できる。
【0011】
本発明において、特定ポリアミド樹脂の、脱偏光光度法における140℃における結晶化による半結晶化時間(ST(P))は、好ましくは20〜450秒であり、より好ましくは25〜150秒である。
半結晶化時間を20秒以上とすることで、成形品の表面状態を均一化することができる。また前記半結晶化時間が500秒以下であれば、射出成形における固化不良や離型不良を抑制することができる。さらに、得られた成形品の結晶化が十分に進むことで、成形品の吸水率や物性の温度依存性も小さく、寸法安定性も良好となる。
【0012】
本発明で用いるポリアミド樹脂は、上記半結晶化時間を満たすポリアミド樹脂であれば特に定めるものではないが、分子内に芳香環を含むポリアミド樹脂が好ましい。
本発明で用いる特定ポリアミド樹脂は、より好ましくは、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミンの少なくとも一方に由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂である。このようなポリアミド樹脂を用いることにより、得られる成形品が、機械的強度と外観のバランスに優れる。
【0013】
特定ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位の好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上がメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミンの少なくとも一方に由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%、特に好ましくは95モル%以上が、炭素原子数が4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
【0014】
特定ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
ジアミン成分として、キシリレンジアミン以外のジアミンを用いる場合は、ジアミン由来の構成単位の20モル%未満であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0015】
ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸またはセバシン酸がより好ましい。
【0016】
上記炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸といった異性体等のナフタレンジカルボン酸等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分を用いる場合、ジカルボン酸由来の構成単位の20モル%未満であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0017】
なお、特定ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を主成分として構成される場合でも、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいても良いことは言うまでもない。本発明では、特定ポリアミド樹脂におけるジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の93%以上を占めることが好ましく、97%以上を占めることがより好ましい。
【0018】
また、ポリアミド樹脂の半結晶化時間を調整するために、2種以上のポリアミド樹脂を用いてもよい。例えば、上記ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミンの少なくとも一方に由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂と、脂肪族ポリアミド樹脂のブレンドなどが例示される。脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、11、12、46、66、610、612、6I、6/66等が挙げられる。
【0019】
特定ポリアミド樹脂の融点は、150〜310℃であることが好ましく、180〜300℃であることがより好ましく、180〜280℃であることがさらに好ましい。
また、特定ポリアミド樹脂のガラス転移点は、50〜150℃が好ましく、55〜120℃がより好ましく、さらに好ましくは60〜100℃である。この範囲であると、成形品の耐熱性がより良好となる傾向にある。
融点およびガラス転移点は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0020】
特定ポリアミド樹脂は、数平均分子量(Mn)の下限が、6,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、15,000以上であることが一層好ましく、20,000以上であることがより一層好ましく、22,000以上であることがさらに一層好ましい。上記Mnの上限は、35,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましく、28,000以下がさらに好ましく、26,000以下が一層好ましい。このような範囲であると、耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性がより良好となる。
【0021】
特定ポリアミド樹脂は、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn))が、好ましくは1.8〜3.1である。分子量分布は、より好ましくは1.9〜3.0、さらに好ましくは2.0〜2.9である。分子量分布をこのような範囲とすることにより、機械物性に優れた立体構造物が得られやすい傾向にある。
特定ポリアミド樹脂の分子量分布は、例えば、重合時に使用する開始剤や触媒の種類、量および反応温度、圧力、時間等の重合反応条件などを適宜選択することにより調整できる。
【0022】
数平均分子量および重量平均分子量は、GPC測定により求めることができ、具体的には、装置として東ソー社製「HLC−8320GPC」、カラムとして、東ソー社製「TSK gel Super HM−H」2本を使用し、溶離液トリフルオロ酢酸ナトリウム濃度10ミリモル/Lのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、樹脂濃度0.02質量%、カラム温度40℃、流速0.3mL/分、屈折率検出器(RI)の条件で測定し、標準ポリメチルメタクリレート換算の値として求めることができる。また、検量線は6水準のPMMAをHFIPに溶解させて測定し作成する。
【0023】
本発明のポリアミド樹脂組成物における特定ポリアミド樹脂の含有量の下限は、ポリアミド樹脂組成物の45質量%以上であることが好ましく、47質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。前記含有量の上限は、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる特定ポリアミド樹脂は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。2種以上の場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0024】
<数平均繊維長が3〜10mmである炭素繊維>
本発明では、数平均繊維長が3〜10mmである炭素繊維(特定炭素繊維)を用いる。このような長さの炭素繊維を用いることにより、機械的強度に優れた成形品が得られる。特定炭素繊維は、その種類等を特に定めるものではなく、ポリアクリロニトリル系炭素繊維(PAN系繊維)およびピッチを使ったピッチ系炭素繊維のいずれも好ましく用いられ、ポリアクリロニトリル系炭素繊維(PAN系繊維)がより好ましい。
【0025】
特定炭素繊維は、チョップドストランドであることが好ましい。
特定炭素繊維は、数平均繊維長の下限が3mm以上であり、4mm以上が好ましい。前記数平均繊維長の上限は、10mm以下であり、8mm以下が好ましく、7mm以下がより好ましく、6mm以下がさらに好ましい。
特定炭素繊維は、数平均繊維径が3〜20μmのものが好ましく、5〜15μmのものがより好ましい。このような範囲の炭素繊維を用いることにより、得られる成形品を機械強度と外観のバランスにより優れたものとすることができる。
また、特定炭素繊維は、特定炭素繊維の23℃におけるJIS R7601準拠による測定で引張強度が5.0GPa以下であるもの(好ましくは、3.5〜5.0GPa、より好ましくは、3.5〜4.9GPa)を用いることもできる。
本発明のポリアミド樹脂組成物では、このように引張強度が比較的低いものを用いても、弾性率とシャルピー衝撃強度を維持することができ、さらに、良好な外観を達成できる。
特定炭素繊維の具体例としては、例えば、東レ(株)製のトレカ、東邦テナックス(株)製のベスファイトフィラメント、三菱レイヨン(株)製のパイロフィル等が挙げられる。
【0026】
本発明のポリアミド樹脂組成物における特定炭素繊維の含有量の下限は、特定ポリアミド樹脂100質量部に対し、特定炭素繊維5質量部以上であり、10質量部以上が好ましく、13質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましく、30質量部以上が一層好ましく、34質量部以上がより一層好ましい。前記含有量の上限は、60質量部以下であり、50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましい。このような範囲とすることにより、得られる成形品を機械的強度と外観のバランスにより優れたものとすることができる。
本発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる特定炭素繊維は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。2種以上の場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0027】
<数平均繊維長が50〜200μmであり、炭素繊維およびガラス繊維から選択される無機繊維>
本発明では、数平均繊維長が50〜200μmである無機繊維(特定無機繊維)を用いるが、ミルドファイバーであることが好ましい。ミルドファイバーは、無機繊維をミルする際に、繊維の表面に傷がつく。この傷の部分が溶融混練の際に、特定炭素繊維をより細かく破砕するのを助け、得られる成形品の表面外観をより効果的に向上させることができる。
【0028】
本発明で用いる特定無機繊維は、数平均繊維長の下限が10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることがさらに好ましく、50μm以上であることが一層好ましい。前記数平均繊維長の上限は200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、120μm以下であることがさらに好ましく、100μm以下であることが一層好ましい。このような範囲とすることにより、得られる成形品を機械的強度と外観のバランスにより優れたものとすることができる。
本発明で用いる特定無機繊維は、数平均繊維径の下限が1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。前記数平均繊維径の上限は25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。このような範囲とすることにより、得られる成形品を機械的強度と外観のバランスにより優れたものとすることができる。
平均繊維長および平均繊維径は、それぞれ、任意の100本の繊維について、顕微鏡を用いて長さおよび径を観察し、平均値を算出することによって求められる。
【0029】
本発明で用いる特定無機繊維は、炭素繊維およびガラス繊維から選択され、少なくとも炭素繊維を含むことが好ましく、本発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる特定無機繊維の90質量%以上が炭素繊維であることがより好ましい。特定無機繊維として、炭素繊維を用いることにより、特定炭素繊維との馴染みがよくなり、本発明の効果がより効果的に発揮される。
本発明で用いる特定無機繊維の市販品としては、セントラル硝子社製、EFH 50−31/T、日本電気硝子社製、EPG70M−01N、ゾルテック社製、PX35MF0150が例示される。
【0030】
本発明で用いる特定無機繊維は、表面処理剤で表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランおよびγ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤が例示される。また、表面処理剤の付着量は、特定無機繊維の0.01〜1質量%であることが好ましい。
【0031】
本発明のポリアミド樹脂組成物における特定無機繊維の含有量の下限は、特定炭素繊維100質量部に対し、特定炭素繊維が40質量部以上であり、50質量部以上が好ましく、60質量部以上がより好ましく、70質量部以上がさらに好ましく、80質量部以上が一層好ましく、90質量部以上がより一層好ましい。前記含有量の上限は、850質量部以下であり、650質量部以下が好ましく、450質量部以下がより好ましく、350質量部以下がさらに好ましく、200質量部以下が一層好ましく、150質量部以下がより一層好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる特定無機繊維は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。2種以上の場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0032】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、前記特定炭素繊維と前記特定無機繊維の合計量の下限は、全体の35質量%以上であることが好ましく、37質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。前記含有量の上限は、55質量%以下であることが好ましく、53質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0033】
<エラストマー>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、エラストマーを含んでいてもよい。エラストマーを含むことにより、耐衝撃性を向上させることができる。エラストマーは耐衝撃改良剤として知られているが、炭素繊維を配合した樹脂組成物では、耐衝撃性が向上しないことが知られており、本発明のポリアミド樹脂組成物に、エラストマーを配合することにより、耐衝撃性が向上することは驚くべきことである。
本発明で用いるエラストマーとしては、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエンゴム共重合体(MB樹脂)、SBS、SEBSと呼ばれているスチレン−ブタジエン系トリブロック共重合体とその水添物、SPS、SEPSと呼ばれているスチレン−イソプレン系トリブロック共重合体とその水添物、TPOと呼ばれているオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系エラストマー、シロキサン系ゴム、アクリレート系ゴム、シロキサン共重合体エラストマー等が挙げられる。エラストマーとしては、特開2012−251061号公報の段落番号0075〜0088に記載のエラストマー、特開2012−177047号公報の段落番号0101〜0107に記載のエラストマー等を用いることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。本発明では、スチレン−ブタジエン系トリブロック共重合体とその水添物が好ましく、SEBSがより好ましい。
【0034】
エラストマーの配合量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、0.5〜10質量部であり、1〜8質量部が好ましく、3〜7質量部がより好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、エラストマーを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となる。
【0035】
<黒色系着色剤>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、黒色系着色剤を含むことが好ましい。本発明では、黒色系着色剤を配合することにより、剛性が高く、かつ、弾性率が高く、さらに、炭素繊維の浮きおよび炭素繊維の透けの抑制された、外観に優れた成形品を提供可能になる。
【0036】
黒色系着色剤の種類は特に定めるものではないが、カーボンブラック、チタンブラックなどの顔料、ニグロシンおよびアニリンブラックが例示される。
本発明のポリアミド樹脂組成物では、カーボンブラックを配合することにより、カーボンブラックが核剤として働き、薄肉成形した際にも、良好な成形性を達成できる。すなわち、本発明では結晶化速度が遅い樹脂を用いているため、薄肉成形では硬化が進みにくいが、黒色系着色剤として、カーボンブラックを配合することにより、カーボンブラックが核剤として働き、硬化を進める。この結果、本発明では、厚さ1mm以下の部分を有する薄肉成形品についても、良好に成形できる。
【0037】
本発明に用いるカーボンブラックとしては、従来公知の任意のカーボンブラックを用いることができる。例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。中でも隠蔽力に優れる、DBP吸収量が30〜300g/100cm
3のカーボンブラック、特にファーネスブラックを用いることにより、安定した色調を発現させることができるので好ましい。
【0038】
本発明に用いるニグロシンとは、ニグロシン染料として従来公知の任意のものを使用でき、C.I.SOLVENTBLACK5や、C.I.SOLVENTBLACK7として、COLORINDEXに記載の黒色のアジン系縮合混合物が挙げられる。市販品としては、オリエント化学製、ヌビアンブラック(商品名)が挙げられる。
【0039】
本発明に用いるニグロシンはその製造方法は特に制限はないが、例えば、アニリン、アニリン塩酸塩およびニトロベンゼンを、塩化鉄の存在下、反応温度160〜180℃で酸化および脱水縮合することにより得る方法が挙げられる。ニグロシンは反応条件や仕込み原料、仕込比等により、種々の異なる化合物の混合物として得られるものであり、各種のトリフェナジンオキサジンや、フェナジンアジン等のアジン系化合物の混合物である。
【0040】
本発明に用いるアニリンブラックとしては、例えばC.I.PIGMENTBLACK1としてCOLORINDEXに記載の、黒色のアニリン誘導体等の酸化縮合混合物であり、酸化縮合の反応条件により、数種の中間体や副生物との混合物になる。具体的には、塩酸アニリンおよびアニリンを反応温度40〜60℃で1〜2日間酸化縮合させたものを、硫酸酸性の重クロム酸塩の溶液に短時間浸すことにより完全に酸化縮合させることによって、黒色系着色剤混合物として得ることができる。アニリンブラックとしては、ICI社製アニリンブラック等が挙げられる。
【0041】
本発明のポリアミド樹脂組成物における黒色系着色剤の配合量は、0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.5〜3.0質量%であることがより好ましく、1.0〜2.5質量%であることがさらに好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物に含まれる黒色系着色剤は、1種のみでもよいし、2種以上であってもよい。2種以上含まれる場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0042】
<離型剤>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形時の離型性を向上させるため、離型剤を配合することが好ましい。離型剤としては、本発明のポリアミド樹脂組成物の難燃性を低下させ難いものが好ましく、例えば、カルボン酸アミド系ワックスやビスアミド系ワックス、長鎖脂肪酸金属塩等が挙げられる。
【0043】
カルボン酸アミド系ワックスは、高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸の混合物とジアミン化合物との脱水反応によって得られる。高級脂肪族モノカルボン酸としては、炭素原子数16以上の飽和脂肪族モノカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸が好ましく、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などが挙げられる。多塩基酸としては、二塩基酸以上のカルボン酸で、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸および、フタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸および、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。
ジアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
【0044】
本発明におけるカルボン酸アミド系ワックスは、その製造に使用する高級脂肪族モノカルボン酸に対して、多塩基酸の混合割合を変えることにより、軟化点を任意に調整することができる。多塩基酸の混合割合は、高級脂肪族モノカルボン酸2モルに対して、0.18〜1モルの範囲が好適である。また、ジアミン化合物の使用量は、高級脂肪族モノカルボン酸2モルに対して1.5〜2モルの範囲が好適であり、使用する多塩基酸の量に従って変化する。
【0045】
ビスアミド系ワックスとしては、例えば、N,N'−メチレンビスステアリン酸アミドおよびN,N'−エチレンビスステアリン酸アミドのようなジアミン化合物と脂肪酸の化合物、または、N,N'−ジオクタデシルテレフタル酸アミド等のジオクタデシル二塩基酸アミドを挙げることができる。
【0046】
長鎖脂肪酸金属塩とは、炭素原子数16〜36の長鎖脂肪酸の金属塩で、例えば、ステアリン酸カルシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム等が挙げられる。
【0047】
本発明のポリアミド樹脂組成物に離型剤を配合する場合、その含有量は、特定ポリアミド樹脂100質量部に対し、0.1〜3.0質量部が好ましく、0.1〜2.0質量部がより好ましい。
離型剤は、1種のみでもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上併用する場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0048】
<核剤>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、結晶化速度を調整するために、核剤を含んでいてもよい。核剤の種類は、特に、限定されるものではないが、タルク、窒化ホウ素、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、窒化珪素、チタン酸カリウムおよび二硫化モリブデンが好ましく、タルクおよび窒化ホウ素がより好ましく、タルクがさらに好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物が核剤を含む場合、その含有量は、特定ポリアミド樹脂100質量部に対し、0.01〜10質量部であることが好ましく、0.1〜8質量部がより好ましく、0.1〜5質量部がさらに好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、核剤を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0049】
<他の添加剤>
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物は、必要に応じ、他の成分を含有してもよい。例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、黒色系着色剤以外の染顔料、難燃剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、上記以外の熱可塑性樹脂などが挙げられる。これらの成分は、本発明のポリアミド樹脂組成物の5質量%以下であることが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、特定炭素繊維および特定無機繊維以外の他のフィラー成分を含んでいてもよい。他のフィラー成分としては、数平均繊維長が3mm未満の炭素繊維や数平均繊維長が10mmを超える炭素繊維やウィスカーが挙げられる。本発明のポリアミド樹脂組成物の一実施形態として、他のフィラー成分を実質的に含まないこともできる。ここでの実質的に含まないとは、特定炭素繊維の配合量の5質量%以下とすることが例示される。
【0050】
<ポリアミド樹脂組成物の製造方法>
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、公知の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法の一実施形態として、半結晶化時間(ST(P))が20〜500秒であるポリアミド樹脂に、数平均繊維長が3〜10mmである炭素繊維と、数平均繊維長が50〜200μmであり、炭素繊維およびガラス繊維から選択される無機繊維を配合して混練することを含み、前記半結晶化時間(ST(P))が20〜500秒であるポリアミド樹脂100質量部に対し、数平均繊維長が3〜10mmである炭素繊維を5〜60質量部配合し、前記数平均繊維長が3〜10mmである炭素繊維100質量部に対し、前記数平均繊維長が50〜200μmである無機繊維を40〜850質量部配合する、ポリアミド樹脂組成物の製造方法が挙げられる。このようなポリアミド樹脂組成物の一例として、ペレットが挙げられる。
具体的には、特定ポリアミド樹脂、特定炭素繊維および特定無機繊維、ならびに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0051】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分(例えば、特定炭素繊維および特定無機繊維)のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、本発明のポリアミド樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、一部の成分(例えば、黒色系着色剤)を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって本発明のポリアミド樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、分散し難い成分を混合する際には、その分散し難い成分を予め水や有機溶剤等の溶媒に溶解または分散させ、その溶液または分散液と混練するようにすることで、分散性を高めることもできる。
【0052】
<成形品>
本発明の成形品は、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなる。この成形品の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その成形品の用途に応じて任意に設定すればよい。
特に、本発明の成形品の例としては、薄肉成形品が挙げられる。本発明のポリアミド樹脂組成物から提供される成形品中の薄い部分の厚さは、0.2〜4mmとすることが可能であり、特に厚さ0.5〜2mmの部分を有する成形品を提供することも可能である。
本発明のポリアミド樹脂組成物から得られた成形品は、曲げ強度が300MPa以上であることが好ましく、340MPa以上であることがより好ましく、350MPa以上であることがさらに好ましく、370MPa以上であることが一層好ましい。前記曲げ強度の上限は、特に定めるものではないが、例えば、500MPa以下、さらには、450MPa以下でも十分に実用レベルである。
本発明のポリアミド樹脂組成物から得られた成形品は、曲げ弾性率が23GPa以上であることが好ましく、25GPa以上であることがより好ましく、27GPa以上であることがさらに好ましい。前記弾性率の上限は、特に定めるものではないが、例えば、40GPa以下、さらには、38GPa以下でも十分に実用レベルである。
本発明における曲げ強度および曲げ弾性率は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0053】
本発明の成形品の用途例を挙げると、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品が挙げられる。
【0054】
本発明の成形品の製造方法は、特に限定されず、熱可塑性樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることもできる。成形において金型を使用する場合、本発明では特定ポリアミド樹脂を使用するため、金型温度は100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。金型温度が低すぎると特定ポリアミド樹脂の結晶化が不十分となって外観の金型転写性が低下したり、炭素繊維が浮いたりする傾向にある。金型温度の上限は、成形品の離型突出し時の変形抑制の観点から180℃以下が好ましい。上限については、特に定めるものではないが、例えば、160℃以下とすることができる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0056】
<実施例に使用した材料>
MXD6:ポリメタキシリレンアジパミド、三菱ガス化学社製、商品名「MXナイロンS6000」、融点243℃、ガラス転移点75℃。
脱偏光光度法で、試料溶融温度がポリアミド樹脂の融点+30℃、試料溶融時間が3分、結晶化油浴温度が140℃の条件でポリマー結晶化速度測定装置(コタキ製作所製、形式:MK701)を使用して測定した半結晶化時間(ST(P))は100秒であった。
なお、ポリアミド樹脂の融点は、DSC(示差走査熱量測定)法により観測される昇温時の吸熱ピークのピークトップの温度として測定した。ポリアミド樹脂のガラス転移温度は、ポリアミド樹脂を一度加熱溶融させ熱履歴による結晶性への影響をなくした後、再度昇温して測定されるピークトップの温度として測定した。
具体的には、DSC測定器を用い、試料であるポリアミド樹脂の量は約1mgとし、雰囲気ガスとしては窒素を30mL/分で流し、昇温速度は10℃/分の条件で室温から予想される融点以上の温度まで加熱し溶融させた際に観測される吸熱ピークのピークトップの温度から融点を求めた。次いで、溶融したポリアミド樹脂を、ドライアイスで急冷し、10℃/分の速度で融点以上の温度まで再度昇温し、ガラス転移温度を求めた。DSC測定器としては、島津製作所(SHIMADZU CORPORATION)製、DSC−60を用いた。
【0057】
PA66:ポリアミド66、デュポン社製、Zytel 101NC−10、融点265℃、ガラス転移点55℃。
上記と同様にして測定した半結晶化時間(ST(P))は3秒であった。
【0058】
MP6:下記製造例に従って合成した。
<<ポリアミド(MP6)の合成>>
アジピン酸を窒素雰囲気下の反応缶内で加熱溶解した後、内容物を攪拌しながら、パラキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)とメタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)のモル比が3:7の混合ジアミンを、加圧(0.35MPa)下でジアミンとアジピン酸(ローディア社製)とのモル比が約1:1になるように徐々に滴下しながら、温度を270℃まで上昇させた。滴下終了後、0.06MPaまで減圧し10分間反応を続け分子量1,000以下の成分量を調整した。その後、内容物をストランド状に取り出し、ペレタイザーにてペレット化し、ポリアミド樹脂を得た。以下、「MP6」という。得られたMP6の融点は257℃、ガラス転移点は75℃であった。上記と同様にして測定した半結晶化時間(ST(P))は30秒であった。
【0059】
MP10:下記製造例に従って合成した。
<<ポリアミド(MP10)の合成>>
撹拌装置、温度計、還流冷却器、原料滴下装置、加熱装置などを装備した容量が3Lのフラスコに、セバシン酸730gを仕込み、窒素雰囲気下、フラスコ内温を160℃に昇温してセバシン酸を溶融させた。フラスコ内に、パラキシリレンジアミンを30モル%、メタキシリレンジアミンを70モル%含有する混合キシリレンジアミ680gを、約2.5時間かけて逐次滴下した。この間、撹拌下、内温を生成物の融点を常に上回る温度に維持して反応を継続し、反応の終期には270℃に昇温した。反応によって発生する水は、分縮器によって反応系外に排出させた。滴下終了後、275℃の温度で攪拌し反応を続け、1時間後に反応を終了した。生成物をフラスコより取り出し、水冷しペレット化した。得られたMP10の融点は215℃、ガラス転移点は63℃であった。上記と同様にして測定した半結晶化時間(ST(P))は30秒であった。
【0060】
炭素繊維1:ポリアクリロニトリル系炭素繊維、三菱レイヨン社製、パイロフィルTR06NL、引張強度4.9GPa、数平均繊維径7μm、数平均繊維長6mm
炭素繊維2:ゾルテックミルドファイバー、ゾルテック社製、PX35MF0150、数平均繊維径7μm、数平均繊維長100μm
ガラス繊維1:ミルドファイバー、セントラル硝子社製、EFH 50−31/T、数平均繊維径11μm、数平均繊維長50μm
ワラストナイト:NYGLOS8−10013、巴工業社製
エラストマー:SEBS、FG1901GH、クレイトンポリマージャパン社製
核剤1:タルク、林化成社製、ミクロンホワイト5000S
核剤2:タルク、林化成社製、ミクロンホワイト5000A
【0061】
黒色系着色剤1:カーボンブラック、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、PR−MP10BK1
黒色系着色剤2:カーボンブラック、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、PR−MP6BK
黒色系着色剤3:カーボンブラック、オオタ化成社製、#45−50
離型剤1:ケトンワックス、エメリーオレオケミカルズジャパン社製、LOXIOLEP2036−18
離型剤2:モンタン酸カルシウム、日東化成工業社製、CS−8CP
【0062】
実施例および比較例
<ポリアミド樹脂組成物のコンパウンド>
各成分を後述する表1に従って秤量し、炭素繊維、ガラス繊維、ワラストナイトおよび黒色系着色剤を除く成分をタンブラーにてブレンドし、二軸押出機(東芝機械社製、TEM26SS)の根本から投入し、溶融した。黒色系着色剤は、ポリアミド樹脂で50質量%マスターバッチを製造してから投入し、混練した。混練後、炭素繊維、ガラス繊維およびワラストナイトをサイドフィードして樹脂ペレット(ポリアミド樹脂組成物)を作製した。押出機の設定温度は、280℃にて実施した。
【0063】
<曲げ強さおよび曲げ弾性率の測定方法>
上述の製造方法で得られた樹脂ペレットを120℃で4時間乾燥させた後、日精樹脂工業社製、NEX140IIIを用いて、4mm厚さのISO引張り試験片を射出成形した。シリンダー温度は280℃、金型温度は130℃にて実施した。
ISO178に準拠して、上記ISO引張り試験片(4mm厚)を用いて、23℃の温度で曲げ強度(単位:MPa)および曲げ弾性率(単位:GPa)を測定した。
【0064】
<シャルピー衝撃強度>
上述の方法で得られたISO引張り試験片を用い、ISO179−1およびISO179−2に準拠し、23℃の条件で、ノッチ付きシャルピー衝撃強度を測定した。シャルピー衝撃強度の単位は、kJ/m
2で示した。
【0065】
<比重の測定方法>
上記の方法で得られたISO引張試験片を用い、ISO1883に準拠し、比重を測定した。
【0066】
<外観>
上述の製造方法で得られた樹脂ペレットを120℃で4時間乾燥させた後、ファナック社製、ファナックα−100iAを用いて、厚さ3mmの100角プレートを射出成型した。シリンダー温度は280℃、金型温度は130℃にて実施した。得られたプレートを三波長蛍光灯下にて斜めから目視で確認し、プレート表面の状態を以下の基準で数値化した。
5:うねりが確認されず完全に鏡面となっているもの
4:うねりがほとんど確認されずほぼ鏡面となっているもの
3:うねりが極一部で確認されるものの鏡面に近いもの
2:うねりが一部で確認されるもの
1:うねりが全面に渡り確認されるもの
【0067】
【表1】
【0068】
上記表1の各成分の単位は質量%である。
上記結果から明らかな通り、本発明のポリアミド樹脂組成物は、高い機械的強度と優れた外観を達成できた。さらに、比重も小さい成形品が得られた。さらに、エラストマーを配合することにより、より高いシャルピー衝撃強度を達成可能になった。