特許第6796954号(P6796954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6796954加工肉食品用ネット包材の切断方法、当該方法を適用した加工肉食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796954
(24)【登録日】2020年11月19日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】加工肉食品用ネット包材の切断方法、当該方法を適用した加工肉食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B26D 3/00 20060101AFI20201130BHJP
   A22C 13/00 20060101ALI20201130BHJP
   B26D 1/06 20060101ALI20201130BHJP
   B26F 3/00 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   B26D3/00 601A
   A22C13/00 Z
   B26D1/06 Z
   B26F3/00 E
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-116730(P2016-116730)
(22)【出願日】2016年6月11日
(65)【公開番号】特開2017-217749(P2017-217749A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2019年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】591264197
【氏名又は名称】OCI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092439
【弁理士】
【氏名又は名称】豊永 博隆
(72)【発明者】
【氏名】藤田 繁
(72)【発明者】
【氏名】三浦 治
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−194064(JP,A)
【文献】 特表平11−508967(JP,A)
【文献】 特開2002−103271(JP,A)
【文献】 特表2009−525802(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3122407(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 3/00
A22C 13/00
B26D 1/06
B26F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状のネットから構成された原反大の原初包材を、加工肉食品の原材料を充填するための個別のネット包材に切断する方法において、
切断用空隙を介して2本のガイドロールを左右に設置し、当該ガイドロール間にネット包材を左右方向に走行させ、切断用空隙におけるネット包材の走行面の上側に超音波カッターを設置するとともに、
切断用空隙におけるネット包材の走行面の下側近傍に支持版を当該走行面に沿って設置し、超音波カッターの刃先部をネット包材の走行面に交差する角度で支持版に向けて臨ませ、ガイドロール間を走行するネット包材を支持版で下側から支持しながら超音波カッターで切断することにより、ネット包材からの繊維屑の発生を防止可能に構成したことを特徴とする加工肉食品用ネット包材の切断方法。
【請求項2】
上記ネット包材が、熱可塑性樹脂製のケーシングに熱可塑性樹脂製のネットを熱融着して一体化したラミネート包材であることを特徴とする請求項1に記載の加工肉食品用ネット包材の切断方法。
【請求項3】
上記ネット包材を構成する繊維状のネットが、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミドより選ばれた熱可塑性樹脂を材質とする繊維紐から構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の加工肉食品用ネット包材の切断方法。
【請求項4】
上記加工肉食品が畜肉、魚肉のハム、ソーセージ、ベーコン、焼き豚であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の加工肉食品用ネット包材の切断方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法で切断した個別充填用のネット包材に加工肉食品の原材料を塩漬し、或は塩漬しないで充填し、くん煙及び加熱処理を施し、或はくん煙及び加熱処理の少なくともいずれかを施さないで加工肉食品を製造することを特徴とする加工肉食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハム、ソーセージなどの加工肉食品用ネット包材の切断方法、並びに当該方法を適用した加工肉食品の製造方法に関して、原反大のネット包材を個別充填用の包材に切断する際に、繊維状ネットからの繊維屑の発生を円滑に防止することで、労働衛生環境に優れ、繊維屑の混入による加工肉食品の汚染を解消できるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
ハム、ソーセージの製造では、肉の身割れや脂肪の分離を防止し、食品の美観を高め、
高級感を付与するためにネット包材を使用することが多い。
このネット包材は筒状のケーシングに網状体を被せた形態を基本構造とし、例えば、ポリエステル、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂を材質とするケーシングとネットを、熱融着で一体化したラミネート包材が挙げられる。
従来では、上記ネット包材は、原反状の大きな原初包材を長尺巻物として、この長尺ロールをスリッター(切断機)にかけて巻き取りながら、スリッター刃で所定形状の個別充填用の包材に切断(slitting)し、製袋した後、加工肉食品の原材料を充填することを基本原理とする。
【0003】
例えば、特許文献1(段落36〜39、54〜55、図1(1)〜(2))、特許文献2(請求項1〜3、段落21〜25、図3)には、原反大の包材、或は連鎖状ソーセージ材料の結束部を夫々切断するためのナイフやカッターが開示されている。
このように、従来では、包材を個別に切断する手段にはカッターや丸ナイフなどのスリッター刃が使用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−231639号公報
【特許文献2】特開2005−034081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スリッター刃でネット包材を切断する場合、包材を構成するネットがポリエチレン、ポリエステルなどの合成樹脂の網状成形物から構成されているとネット屑は発生しないが、その一方、上記成形物とは異なり繊維構造を有するネットを使用すると、食品表面に柔軟に沿い易く、強度と装飾性が高いなどの利点がある。このため、ネット構造の包材には繊維状ネットが好ましいが、繊維状ネットを使用すると以下の弊害がある。
例えば、マルチフィラメントを撚糸した繊維紐から構成された繊維状ネットでは、切断の際にネットにスリッター刃の走行外力が急激に負荷されて、いわば繊維を引きちぎる状態になって激しくケバ立つため、微細な繊維屑が周囲に飛散して包材内に侵入し、加工肉食品を汚染したり、作業者に対する労働衛生環境を悪化させ、或は切断機周辺を汚損するという問題があった。
【0006】
本発明は、繊維状のネットから構成されたハム、ソーセージなどの加工肉食品用のネット包材において、原反大のネット包材を個別充填用の包材に切断する際に、繊維屑の発生を防止して、包材内への侵入による加工肉食品の汚染をなくし、労働衛生環境を改善することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、自動車内装材、基板のパターン、シリコン原料などの切断、樹脂成形品のバリ取り、或は手術用メスなどに使用される超音波カッターに着目し、繊維状のネットの切断にスリッター刃による物理的な切り裂き力ではなく、上記超音波カッターを適用することを着想し、繊維屑が飛散しようとするのを超音波振動の摩擦熱で防止できることを見い出して、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明1は、繊維状のネットから構成された原反大の原初包材を、加工肉食品の原材料を充填するための個別のネット包材に切断する方法において、
切断用空隙を介して2本のガイドロールを左右に設置し、当該ガイドロール間にネット包材を左右方向に走行させ、切断用空隙におけるネット包材の走行面の上側に超音波カッターを設置するとともに、
切断用空隙におけるネット包材の走行面の下側近傍に支持版を当該走行面に沿って設置し、超音波カッターの刃先部をネット包材の走行面に交差する角度で支持版に向けて臨ませ、ガイドロール間を走行するネット包材を支持版で下側から支持しながら超音波カッターで切断することにより、ネット包材からの繊維屑の発生を防止可能に構成したことを特徴とする加工肉食品用ネット包材の切断方法である。
【0009】
本発明2は、上記本発明1において、上記ネット包材が、熱可塑性樹脂製のケーシングに熱可塑性樹脂製のネットを熱融着して一体化したラミネート包材であることを特徴とする加工肉食品用ネット包材の切断方法である。
【0010】
本発明3は、上記本発明1又は2において、上記ネット包材を構成する繊維状のネットが、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミドより選ばれた熱可塑性合成樹脂を材質とする繊維紐から構成されることを特徴とする加工肉食品用ネット包材の切断方法である。
【0011】
本発明4は、上記本発明1〜3のいずれかにおいて、上記加工肉食品が畜肉、魚肉のハム、ソーセージ、ベーコン、焼き豚であることを特徴とする加工肉食品用ネット包材の切断方法である。
【0013】
本発明5は、上記本発明1〜4のいずれかに記載の方法で切断した個別充填用のネット包材に加工肉食品の原材料を塩漬し、或は塩漬しないで充填し、くん煙及び加熱処理を施し、或はくん煙及び加熱処理の少なくともいずれかを施さないで加工肉食品を製造することを特徴とする加工肉食品の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
スリッター刃を用いて切断する従来方式とは異なり、本発明では、スリッター(切断機)に装填した超音波カッターで繊維状のネット包材を切断することにより、具体的には、切断用空隙を介して2本のガイドロールを左右に設置し、当該ガイドロール間を走行するネット包材の走行面の上側に超音波カッターを、また、当該走行面の下側近傍に支持版を夫々設置し、ネット包材を支持版で下側から支持しながら超音波カッターで切断することにより、超音波振動による摩擦熱で切断部位が瞬時に熱溶融して固着する(即ち、溶着する)。
このため、ネットから微細な繊維屑が発生・飛散することはなく、スリット周辺の汚損をなくし、作業者に対して労働衛生上の環境に優れ、また、包材内に微細な繊維屑が侵入して加工肉食品を汚染することを円滑に防止できる。
【0015】
前記特許文献1には、ハム・ソーセージの包材を封止する手段に超音波振動による溶着を適用することが開示されるが(請求項4、段落32、42)、超音波装置(具体的には超音波ホーン(段落41〜42))は包材を溶着するためのもので、包材封止部の切断は別途カッターで行っていることから(段落52〜54)、超音波の適用は切断ではなく溶着を主眼とするうえ、繊維構造を含む包材を前提にしたものではないため、超音波カッターの使用により包材の切断屑の発生を防止するという本発明の技術的思想はない。
一方、特開2006−111269号公報には、ハム・ソーセージのフィルム包材の結束部に超音波を印加して溶断すると同時に融着一体化することが開示されるが(段落25〜29、40)、上記溶断の対象は本発明の繊維構造を含む包材とは異なるフィルム包材であり、また、フィルムの切断手段は超音波印加に限らず切断刃を用いても良いとしており(段落33)、切断手段を超音波に一義的に特化しているわけではないため、やはり上記特許文献1と同じく、超音波カッターの適用による切断屑の発生防止という本発明の技術的思想はない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、第一に、切断用空隙を介して2本のガイドロールを左右に設置し、当該ガイドロール間を走行するネット包材の走行面の上側に超音波カッターを、また、当該走行面の下側近傍に支持版を夫々設置し、ネット包材を支持版で下側から支持しながら、上記超音波カッターにより、繊維状のネットから構成された原反大の原初包材を、加工肉食品の原材料を充填するための個別のネット包材に切断する方法であり、第二に、第一の方法で切断した個別充填用の包材に加工肉食品の原材料を充填し、所定の処理をして加工肉食品を製造する方法である。

【0017】
本発明は、原反の大きな加工肉食品用の原初包材を所定形状の個別充填用の包材に切断する方法において、包材が繊維状のネットから構成されたネット包材であり、上記切断に超音波カッターを適用した切断方法を特徴とする。
この場合、原反大の原初包材はシート状であり、巻き取られた長尺ロールをスリッター(切断機)にかけて巻き戻しながら、スリッターに装填した超音波カッターで個別包材に切断される。切断された個別包材は熱融着などで製袋されて、その開口部から加工肉食品の原材料を充填し、塩漬、加熱などを施して加工肉食品に仕上げられる。
上記加工肉食品は豚肉、牛肉、鳥肉、羊肉などの畜肉、或は魚肉のハム・ソーセージ、ベーコン、焼き豚などをいう。従って、上記包材はこれらの加工肉食品を包装するための包材に限定される。
【0018】
ネットを必須の構成部材とするネット包材の形態としては、ケーシングにネットを熱融着で一体化したラミネート包材、ネットでケーシングを囲繞した包材(熱融着はなし)、ケーシングなしのネット単独包材などが挙げられる。
本発明のネットは繊維構造を必須構成要件としたネットであり、例えば、マルチフィラメントを捩って撚糸状にした繊維紐からなるネットが代表例である。従って、前述したように、網状成形物から構成されて繊維状を呈していないネットは、スリッター刃で切断する従来方式を適用しても、ネット屑が発生しないため、本発明の繊維状ネットからは排除される。
【0019】
上述の通り、繊維状のネット包材のうち、第一の形態はケーシングにネットを熱融着したラミネート包材であり、ケーシング及びネットが共に熱可塑性樹脂を材質とし、両者を熱融着して一体化したラミネート包材である。
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデンなどのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、各種ナイロンなどのポリアミド樹脂、或は、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)などが挙げられる。
上記ケーシングは熱可塑性樹脂の単層又は積層フィルム、或は熱可塑性樹脂の単独又は混抄きの不織布から構成される。
上記積層フィルムを例示すると、ポリエチレン/ポリアミド/ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン/ポリアミド/ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン/ポリアミド/ポリプロピレン、ポリアミド/EVOH/ポリエチレン、ポリエチレン/EVA/ポリアミド/ポリエチレンなどが挙げられる。
ネットを構成する繊維紐の場合、ポリエステル、ポリエチレン、或はポリプロピレンなどを材質とする繊維紐が適している。
【0020】
繊維状のネット包材の第二の形態はネットとケーシングを積層した包材である。この場合、繊維状ネットはケーシングに熱融着しておらず、袋状のネットをケーシングに単に重ねた構造となっている。
この第二の形態では、ケーシングとネットの熱融着は必要ないため、熱可塑性樹脂でない材質を使用することもできる。例えば、ケーシングに従来のセルロースケーシング、ファイブラスケーシング、コラーゲンケーシング、或は天然腸のケーシングなどを使用できる。また、ネットの繊維にはレーヨンやビスコースなどの半合成繊維を使用しても良い。
次いで、第三の形態はケーシングなしのネット単独包材であり、シート状の繊維状ネットのみで包材が構成される。この第三の形態にあっては、上記第二の形態のように、熱可塑性樹脂でない材質を選択することができる。
第一から第三のネット包材では、確実、円滑な切断により生産性を向上する見地から、第一の形態のラミネート包材が好ましい。
【0021】
原反の大きな原初包材から個別充填用の包材への切断は、前述したように、原反状の長尺巻物をスリッター(切断機;広義には切断及び巻き取りを行うロール加工機械に分類される)にかけて巻取りながら、切断手段で所定形状の個別充填用の包材に切断(slitting)することを基本原理とする。
本発明は繊維状ネット包材の切断手段が従来の丸ナイフやカッターなどのスリッター刃ではなく、超音波カッターである点に特徴がある。
従来のように、スリッター刃で包材を切断すると、包材のネット部分の繊維をいわば物理的に切り裂く状態になるため、微細な繊維屑が周囲に飛散するが、本発明では超音波カッターで切断するため、超音波振動による摩擦熱で切断部の繊維が瞬時に溶融して固着するため、繊維屑の発生を円滑に防止できる。
上記超音波カッターは振動子(圧電素子)と発振器からなり、振動子の先端の刃先を超音波で振動させることを基本とするが、周波数、振幅、送り速度、刃角度などの作動条件は包材の切断方向、包材の材質や形態(即ち、ネット或はケーシングの材質、ネットの繊維形態、或はケーシングの形態がフィルムか不織布か)などに応じて適宜調整すれば良い。
本発明では、超音波カッターの作動に特段の条件は必要とせず、例えば、周波数15〜60kHz程度で作動すれば良い。
繊維状ネット包材は超音波カッターで縦方向、横方向に切断して、ハム・ソーセージなどの加工肉食品の原材料を充填するための個別包材に整えられるが、繊維の長さ方向に沿うよりも、繊維に交差する方向に超音波カッターが移行するように設定すると、ネット繊維の切断効率が増す。
【0022】
以下、図1により繊維状ネット包材を円滑に切断する方法を説明する。
図1は超音波カッターにより製袋前のシート状のネット包材を切断する操作部を示すスリッターの要部拡大原理図である。尚、図11は当該超音波カッターを装填したスリッターによりネット包材を切断する際の作業要部の写真である。
先ず、スリッター1には、切断用空隙5を介して2本のガイドロール4a・4bが左右に回転自在に設置され、長尺ロールから巻き出されたシート状のネット包材3が当該ガイドロール4a・4b間に左右方向に走行可能に配置される。
上記切断用空隙5において、ネット包材3の走行面の下側近傍には支持版6が当該走行面に沿って設置される。上記支持版6には耐久性の観点から、焼き入れされた鉄系素材を材質とする版が好適である。
同じく、切断用空隙5において、ネット包材3の走行面の上側空間には超音波カッター2がスリッター1に上下の縦向きに設置され、超音波カッター2の刃先部2aをネット包材3の走行面に交差する角度で上記支持版6に向けて臨ませる。この交差する角度は代表的には走行面に対して直交する角度であるが、ネット包材の材質や走行速度などに合わせて適宜調整すれば良い。
シート状のネット包材3はガイドロール4a・4b間を巻き取られていくが、当該ロール4a・4b間の切断用空隙5には超音波カッター2の刃先部2aが上から臨んでおり、走行するネット包材3はこの切断用空隙5で支持版6に下方から支持されながら超音波カッター2により個別に切断される。
図10はネットとケーシングが一体になったネット包材の切断状態を俯瞰する写真であり、当該ネット包材の切断部を拡大した図1又は図2に見るように、ケバ立ちが防止された状態で繊維状ネットは円滑に切断され、周囲への繊維屑の飛散はない。
【0023】
支持版で位置決め支持しながら切断する上記図示の支持版方式を各形態のネット包材に適用した場合、先ず、繊維状ネットとケーシングが熱融着されていない第二形態のネット包材では、繊維状ネットがケーシングにより位置決め固定されないが、支持版での支持があるため、実用的な切断にあまり支障はない。従って、繊維状ネットとケーシングが熱融着された第一形態のネット包材では、繊維状ネットがケーシングにより位置決め固定されるうえ、支持版での補強支持があるため、より円滑な切断が実現できる。これに対して、第三形態のネット単独包材では、ネットを位置決め支持するケーシングがないため、上記支持版での支持があっても切断時にネットが動くリスクがあり、切断効率は低下する懸念がある。
一方、従来、スリッター刃でシートや布などを切断する場合、溝の入ったロールにスリッター刃を侵入させた状態で切断する嵌挿方式がとられている。
従って、繊維状ネットとケーシングが熱融着されていない第二形態のネット包材に上記嵌挿方式を適用して、包材に溝付き支持台を接当しながら切断すると、上記支持版方式と同様か、或はその修正として、ネットの位置決めが容易になり、切断効率を高められる。
特に、ネットを位置決め支持するケーシングがない第三形態のネット単独包材では、上記嵌挿方式の採用により切断の実用度を上げることが期待できる。
【0024】
次いで、本発明の方法で切断した繊維状ネット包材を用いて加工肉食品を製造する方法を説明する。以下では、加工肉食品としてハム・ソーセージを例にとり、その製造方法を述べる。
先ず、超音波カッターで切断されて所定形状に整えられた個別充填用の包材は熱融着などで製袋される(例えば、ピロー成形される)。
一方、ハム・ソーセージの原材料となる肉塊は整形して塩漬剤の水溶液(ピックル液)に浸漬し、或は肉塊に当該液をすり込み、又は肉中に注入するなどの従来法による塩漬処理を施された後、個別充填用の包材に充填される。但し、無塩漬食品の場合には、上記原材料は塩漬処理をすることなく包材に充填することになる。
続いて、包材に充填した上記原材料にくん煙及び加熱処理などの従来法の処理を施してハム・ソーセージが製造される。但し、くん煙又は加熱のいずれかの処理を施さず(例えば、生ハムなど)、或はくん煙及び加熱の両方の処理を施さないでハム・ソーセージを製造することもできる。
いずれにせよ、上記加工肉食品は特段の手法を必要とせず、従来法に則して製造すれば良い。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の繊維状ネット包材の製造例1〜3、各製造例で製造した繊維状ネット包材を所定の切断手段で切断する実施例1〜3及び比較例1〜3、各ネット包材を切断した場合の繊維屑の発生の防止度合を評価した試験例を順次説明する。
尚、本発明は下記の製造例、実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0026】
《本発明の繊維状ネット包材の製造例》
以下の製造例1〜3に示す各繊維状ネット包材は製袋加工前のシート状包材であり、各ネット包材は後述する繊維屑発生の防止度合を評価する切断試験に供される。
製造例1〜3のうち、製造例1はケーシングと繊維状ネットを熱ラミネートしたネット包材、製造例2は熱ラミネートなしでケーシングと繊維状ネットを重ね合わせただけのネット包材、製造例3は繊維状ネットのみからなるネット包材である。
【0027】
(1)製造例1
ポリエステルを主材料とする不織布からなるケーシングに、ポリエステル製の繊維紐からなるネットを熱融着して一体化し、ラミネート包材を製造した。
即ち、ポリエステル(PET)75重量%とポリエチレン25重量%の複合材料を混抄きした不織布(大福製紙(株)製;ハム用原紙No.9)と、ポリエステル(PET)100%で構成された3本撚りの繊維状ネット(日本テープ(株);平ネットC)を用意し、上記不織布の長尺ロール品(1000m巾)と上記繊維状ネットの長尺ロール品(1000m巾)を速度20m/分、180℃の条件で圧接ローラーを通して熱融着しながら巻き取り、熱ラミネート型のネット包材を製造した。
【0028】
(2)製造例2
上記製造例1の不織布と繊維状ネットを用意し、不織布と繊維状ネットを重ねあわせてロールで巻き取り、不織布と繊維状ネットを熱ラミネートしないでネット包材を製造した。
【0029】
(3)製造例3
前記製造例1の繊維状ネットを単独で、そのままネット包材とした。
【0030】
《繊維状ネット包材に対する切断処理の実施例》
そこで、上記製造例1〜3の各繊維状ネット包材について、ネット包材の切断手段に超音波カッターを選択した場合を実施例1〜3とし、従来のスリッター刃(=セラミックス刃)を選択した場合を比較例1〜3とした。
(1)実施例1
スリッター(片岡機械製作所;スリット機KE-70)に超音波カッター(超音波工業(株);超音波プラスチックウェルダユニット(形式:USWP-200Z28S-U))を取り付け、図1に示した前記支持版方式を適用して、2本のガイドロールの間に製造例1の熱ラミネートしたネット包材を走行させ、包材(製造例1)を支持版で下方から支持しながら、上記超音波カッターで切断した。
切断条件は次の通りである。
[切断条件]
スリット速度(包材の走行速度):10〜20m/分
超音波カッターの作動条件 :28kHz(出力200W)
【0031】
(2)実施例2
上記実施例1を基本として、製造例1から製造例2のネット包材(熱ラミネートなし)に変更して切断した。
切断条件は実施例1と同様に設定した。
【0032】
(3)実施例3
上記実施例1を基本として、製造例1から製造例3のネット包材(繊維状ネットの単独包材)に変更して切断した。
切断条件は実施例1と同様に設定した。
【0033】
(4)比較例1
上記実施例1のスリッターに、スリッター刃としてセラミックス刃((株)アイアンドエム製のセラミックス製薄刃を使用)を取り付け、前記支持版方式(図1参照)を適用して、2本のガイドロールの間に製造例1の熱ラミネートしたネット包材を走行させ、包材(製造例1)を支持版で下方から支持しながら、上記セラミック刃で切断した。
但し、スリット速度は20m/分に設定した。また、セラミックス刃は図1の超音波カッターに相当する位置に配置した。図12は当該セラミックス刃を装填したスリッターでネット包材を切断する際の作業要部の写真である。
【0034】
(5)比較例2
上記比較例1を基本として、製造例1から製造例2のネット包材(熱ラミネートなし)に変更して切断した。
スリット速度は比較例1と同様に設定した。
【0035】
(6)比較例3
上記比較例1を基本として、製造例1から製造例3のネット包材(繊維状ネットの単独包材)に変更して切断した。
スリット速度は比較例1と同様に設定した。
【0036】
《繊維状ネット包材の評価試験例並びにその試験結果の評価》
そこで、上記実施例1〜3並びに比較例1〜3について、繊維状ネット包材の切断部位を目視観察し、繊維屑の発生度合を中心に下記の基準に基づいて切断の優劣(繊維屑防止の優劣)を評価した。
[評価基準]
○:切断部位で繊維のケバ立ちがなく、繊維屑が発生しなかった。
×:切断部位で繊維がケバ立ち、繊維屑が発生した。
下表はその試験結果である。
繊維屑の防止度合 繊維屑の防止度合
実施例1 ○ 比較例1 ×
実施例2 ○ 比較例2 ×
実施例3 ○ 比較例3 ×
【0037】
上表によると、製造例1の熱ラミネート包材を超音波カッターで切断した実施例1では、図2に示す通り、繊維状ネットの切断部は、熱溶融で一体化した不織布(ケーシング)の切断部に沿って一直線状に切断・溶着しており、ケバ立ちは認められず、図3に示す通り、切断部の下方に位置するスリッターの平坦部位(底シールカット部)やロールには繊維屑の飛散は認められなかった。
製造例2の熱ラミネートなしの包材を切断した実施例2についても、図4に示す通り、繊維状ネットの切断部は実施例1に準じるレベルで直線状に溶着しており、若干のケバ立ちは認められたが繊維屑の発生はほとんどなかった。この実施例2では、繊維状ネットがケーシングに位置決め固定されていないため、支持版による存在下でも切断時にネットが揺動したことが若干の上記ケバ立ちの原因になったものと推定される。
製造例3の繊維状ネットの単独包材を切断した実施例3については、ケーシングの支持がなく、切断時のネット位置が不安定で超音波カッターの接点調整に難があるため、包材を良好に個別切断して大量生産することには問題があるが、図5に示す通り、ケバ立ちがなく良好に切断できる部位が認められることから、前記嵌挿方式か、或はこの方式にさらに修正を加えた措置を講じることで、個別包材の実際的な生産の可能性が期待できる。
【0038】
これに対して、製造例1の熱ラミネート包材を従来のセラミックス刃で切断した比較例1では、図6に示す通り、繊維状ネットの切断部が一直線状を呈することなく、明らかな繊維のケバ立ちが見られ、その結果、図7に示す通り、切断部の下方に位置するスリッターの底シールカット部やロールには繊維屑の飛散が多く見られた(図7の丸で囲った部位を参照)。
従って、製造例2〜3は製造例1に比してネットに対するケーシングの位置決め機能がないか、ケーシング自体がないため、製造例2の熱ラミネートなしの包材、或は繊維状ネットの単独包材を夫々セラミックス刃で切断した比較例2〜3では、繊維状ネットの切断部位に顕著なケバ立ちが認められた。図8は比較例2の切断結果、図9は比較例3の結果である。
【0039】
以上のことから、上記実施例1〜3を上記比較例1〜3に対比すると、繊維状ネットを円滑に切断して繊維屑の発生を防止する観点から、従来のセラミックス刃に対してネット包材を超音波カッターで切断することの顕著な優位性が裏付けられた。
ネット包材を超音波カッターで切断する場合、特に、繊維状ネットとケーシングが一体化した実施例1は繊維屑の発生防止効果に優れ、熱ラミネートなしの実施例2にあっても、実用上、繊維屑の発生防止効果は高いことが分かる。
また、前記支持版方式を適用下で超音波カッターを使用すると、繊維状ネット包材をより効率的に切断できることが判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は超音波カッターでシート状の繊維状ネット包材を切断する操作部を示すスリッターの要部拡大原理図である。
図2図2は実施例1に関し、製造例1の繊維状ネット包材を超音波カッターで切断した部位の拡大写真である。
図3図3は上記製造例1の包材を超音波カッターで切断した際の、スリッターの切断部周辺の写真である。
図4図4は実施例2に関し、製造例2の包材を超音波カッターで切断した部位の拡大写真である。
図5図5は実施例3に関し、製造例3の包材を超音波カッターで切断した部位の拡大写真である。
図6図6は比較例1に関し、製造例1の包材をセラミックス刃で切断した部位の拡大写真である。
図7図7は上記製造例1の包材をセラミックス刃で切断した際の、スリッターの切断部周辺の写真である。
図8図8は比較例2に関し、製造例2の包材をセラミックス刃で切断した部位の拡大写真である。
図9図9は比較例3に関し、製造例3の包材をセラミックス刃で切断した部位の拡大写真である。
図10図10はネットとケーシングが一体になったネット包材の切断状態を俯瞰する写真である。
図11図11は超音波カッターを装填したスリッターでネット包材を切断する際の作業要部の写真である。
図12図12はセラミックス刃を装填したスリッターでネット包材を切断する際の作業要部の写真である。
【符号の説明】
【0041】
1…スリッター(切断機)、2…超音波カッター、2a…超音波カッターの刃先部、3…繊維状ネット包材、4a・4b…ガイドロール、5…切断用空隙、6…支持版。
図1
図2
図3
図4
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図12