(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0017】
本実施形態のサブマージアーク溶接方法は、溶接ワイヤと焼結型フラックスを組み合わせて用いるサブマージアーク溶接方法において、前記溶接ワイヤが、溶接ワイヤ全質量に対する質量%で、Ni:50質量%以上、Cr:14.5〜16.5質量%、Mo:15.0〜17.0質量%、W:3.0〜4.5質量%、Fe:4.0〜7.0質量%、C:0.02質量%以下(0質量%を含まない)、Si:0.08質量%以下(0質量%を含まない)、Mn:1.0質量%以下(0質量%を含まない)、P:0.04質量%以下(0質量%を含まない)、S:0.03質量%以下(0質量%を含まない)、Cu:0.5質量%以下(0質量%を含まない)、V:0.35質量%以下(0質量%を含まない)、Co:2.5質量%以下(0質量%を含まない)、及びAl:0.1質量%以下(0質量%を含まない)を含有し、かつ、前記焼結型フラックスが、焼結型フラックス全質量に対する質量%で、Al
2O
3:35〜55質量%、SiO
2:5〜25質量%、CaO:2〜10質量%、CaF
2:25〜45質量%、及びNa
2O:2〜4質量%を含有する、サブマージアーク溶接方法である。
【0018】
<溶接ワイヤ>
まず、本実施形態のサブマージアーク溶接方法に用いられる溶接ワイヤ(以下、本実施形態の溶接ワイヤ、又は単にワイヤともいう)における各成分量の数値限定の理由について説明する。なお、本明細書において、質量を基準とする百分率(質量%)は、重量を基準とする百分率(重量%)と同義である。また、各成分の含有量について、「X質量%以下(0質量%を含まない)」であることを、「0超X質量%以下」と表すことがある。
【0019】
本実施形態の溶接ワイヤは、溶接ワイヤ全質量に対する質量%で、Ni:50質量%以上、Cr:14.5〜16.5質量%、Mo:15.0〜17.0質量%、W:3.0〜4.5質量%、Fe:4.0〜7.0質量%、C:0.02質量%以下(0質量%を含まない)、Si:0.08質量%以下(0質量%を含まない)、Mn:1.0質量%以下(0質量%を含まない)、P:0.04質量%以下(0質量%を含まない)、S:0.03質量%以下(0質量%を含まない)、Cu:0.5質量%以下(0質量%を含まない)、V:0.35質量%以下(0質量%を含まない)、Co:2.5質量%以下(0質量%を含まない)、及びAl:0.1質量%以下(0質量%を含まない)を含有する。
本実施形態の溶接ワイヤの成分系は、Al以外の成分については、ハステロイC276系であるワイヤ規格AWS A5.14 ERNiCrMo−4に合致している。
【0020】
(Ni:50質量%以上)
Niは、溶接金属のマトリックスを構成する主要元素である。本実施形態では、溶接金属の靭性および延性を確保し、また、耐食性の低下を防ぐために、溶接ワイヤ中のNi含有量を50質量%以上とする。
【0021】
(Cr:14.5〜16.5質量%)
Crは、酸化性酸に対する耐食性を向上させるために必要な元素であり、本実施形態では、その効果を十分に得るために、溶接ワイヤ中のCr含有量を14.5質量%以上とし、好ましくは15.0質量%以上とする。一方、多量に添加するとCr炭化物が析出して機械的性質が劣化するおそれがあることから、溶接ワイヤ中のCr含有量を16.5質量%以下とし、好ましくは16.0質量%以下とする。
【0022】
(Mo:15.0〜17.0質量%)
MoをCrとともに含有することで、酸化性酸のみならず、非酸化性酸や塩類に対しても優れた耐食性を実現できる。本実施形態では、その効果を十分に得るために、溶接ワイヤ中のMo含有量を15.0質量%以上とし、好ましくは15.5質量%以上とする。一方、多量に添加するとNi等との金属間化合物の析出が顕著になり、機械的性質が劣化するおそれがあることから、溶接ワイヤ中のMo含有量を17.0質量%以下とし、好ましくは16.5質量%以下とする。
【0023】
(W:3.0〜4.5質量%)
Wを添加すると、固溶体強化によりγ相が安定化し引張強度の向上が期待できる。本実施形態では、その効果を十分に得るために、溶接ワイヤ中のW含有量を3.0質量%以上とし、好ましくは3.5質量%以上とする。一方、Wを過度に添加すると、Wの濃化した偏析が生じ、靱性が低下する。また、ワイヤ加工性が難化する。したがって、本実施形態では、溶接ワイヤ中のW含有量を4.5質量%以下とし、好ましくは4.0質量%以下とする。
【0024】
(Fe:4.0〜7.0質量%)
Ni合金に固溶したFeは、引張強度を向上させる効果を有する。本実施形態では、その効果を十分に得るために、溶接ワイヤ中のFe含有量を4.0質量%以上とし、好ましくは5.0質量%以上とする。一方、Feは低融点のラーベス相として粒界に析出し、多パス溶接時の再熱により再溶融して、粒界の再熱液化割れの原因となる。そのため、本実施形態では、溶接ワイヤ中のFe含有量を7.0質量%以下とし、好ましくは6.0質量%以下とする。
【0025】
(C:0.02質量%以下(0質量%を含まない))
Ni合金中のCは固溶強化元素であり、引張強度の向上に有効である。しかしながら、Cの過剰な含有は、凝固割れの原因となるほか、溶接金属の低温靭性を低下させる。したがって、本実施形態では、溶接ワイヤ中のC含有量を0.02質量%以下とし、好ましくは0.01質量%以下とする。
【0026】
(Si:0.08質量%以下(0質量%を含まない))
Siは、脱酸剤として添加することによって、溶接金属において耐BH性を向上させる。しかしながら、多量に添加すると、耐高温割れ性が劣化する。したがって、本実施形態では、溶接ワイヤ中のSi含有量を0.08質量%以下とし、好ましくは0.05質量%以下とする。
【0027】
(Mn:1.0質量%以下(0質量%を含まない))
Mnはγ相形成元素であり、マトリックスの強化に有効な元素であるが、Mnの過剰な添加は、スラグ剥離性の劣化の原因となる。したがって、本実施形態では、溶接ワイヤ中のMn含有量を1.0質量%以下とし、好ましくは0.7質量%以下とする。
【0028】
(P:0.04質量%以下(0質量%を含まない))
Pは溶接金属の凝固時に粒界に偏析して、凝固割れの原因となる。したがって、本実施形態では、溶接ワイヤ中のP含有量を0.04質量%以下とし、好ましくは0.02質量%以下とする。
【0029】
(S:0.03質量%以下(0質量%を含まない))
Sは、Pと同様に、溶接金属の凝固時に粒界に偏析して,凝固割れの原因となる。したがって、本実施形態では、溶接ワイヤ中のS含有量を0.03質量%以下とし、好ましくは0.01質量%以下とする。
【0030】
(Cu:0.5質量%以下(0質量%を含まない))
Cuは、その添加によって耐食性を確保する効果が期待できるが、Cuの過剰な添加は溶接割れ感受性を高め、凝固割れや再熱割れの原因となる。したがって、本実施形態では、溶接ワイヤ中のCu含有量を0.5質量%以下とし、好ましくは0.1質量%以下とする。
【0031】
(V :0.35質量%以下(0質量%を含まない))
Vは、γ相の安定化及び固溶体強化により強度を向上させることを期待して、0.35質量%以下、好ましくは0.1質量%以下であれば含有されることが許容される。
【0032】
(Co:2.5質量%以下(0質量%を含まない))
Coは、γ相の割合を増加させて強度を上昇させ、また、耐摩耗性を向上させることを期待して、2.5質量%以下、好ましくは1.0質量%以下であれば含有されることが許容される。
【0033】
(Al:0.1質量%以下(0質量%を含まない))
溶接金属の低温靭性を向上させるためには,溶接金属中のC含有量、Si含有量及びAl含有量を制限することが有効である。ここで、溶接ワイヤ中のC含有量とSi含有量が上記範囲に規制されている場合、溶接ワイヤ中のAl含有量を0.10質量%以下、好ましくは0.05質量%以下に規制することで、溶接金属の低温靭性を確保することができる。
【0034】
(その他の成分)
本実施形態の溶接ワイヤのその他の成分としては、Ti、Mg、Nb、N等の不可避不純物がある。
【0035】
<焼結型フラックス>
つづいて、本実施形態のサブマージアーク溶接方法に用いられる焼結型フラックス(以下、本実施形態の焼結型フラックス、又は単にフラックスともいう)における各成分量の数値限定の理由について説明する。
本実施形態の焼結型フラックスは、焼結型フラックス全質量に対する質量%で、Al
2O
3:35〜55質量%、SiO
2:5〜25質量%、CaO:2〜10質量%、CaF
2:25〜45質量%、及びNa
2O:2〜4質量%を含有する。
【0036】
(Al
2O
3:35〜55質量%)
フラックス中のAl
2O
3は、スラグ形成剤として作用し、溶融スラグの凝固温度及び粘性を上げるのに有効な成分であると共に、スラグの剥離性を良好にする効果を有する。フラックス中のAl
2O
3含有量が35質量%未満では、横向溶接姿勢において溶融スラグのビード保持力不足となり、ビードの凹凸状態が顕著になる。したがって、本実施形態では、フラックス中のAl
2O
3含有量を35質量%以上とする。一方、フラックス中のAl
2O
3含有量が55質量%を超える場合は、スラグの粘性が高くなりすぎて流動性が悪くなるため、スラグ巻き込みが発生する。また、ビードの波目が粗くなる他、ポックマーク発生数が増える。したがって、本実施形態では、フラックス中のAl
2O
3含有量を55質量%以下とする。
【0037】
フラックス中のAl
2O
3含有量の好ましい範囲は、40〜50質量%である。この範囲においては、特に横向溶接において、溶融スラグのビード保持力が更に一層適切となり、ビード形状が安定して平滑化するため、より一層、良好なビード外観を得ることが出来る。
【0038】
(SiO
2:5〜25質量%)
フラックス中のSiO
2は、溶融スラグの凝固温度を高くすると共に、ビードの保持力を高め、ビード形状を安定化させる効果がある。また、SiO
2中のSiが溶接金属中に還元され、溶接金属中のSi値が高くなる効果がある。フラックス中のSiO
2含有量が5質量%未満では溶融スラグのビード保持力不足のため、ビード形状が不安定となる。したがって、本実施形態では、フラックス中のSiO
2含有量を5質量%以上とする。一方、SiO
2含有量が25質量%を超えると、溶融スラグの粘性が高くなりすぎ、スラグの剥離性が悪化し、スラグ巻き込みが発生する。また、溶接金属中のSi値が高くなり低温靭性が劣化する。したがって、本実施形態では、フラックス中のSiO
2含有量を25質量%以下とする。
【0039】
フラックス中のSiO
2含有量の好ましい範囲は、13〜18質量%である。この範囲においては、スラグ剥離性が向上し、特に横向姿勢において、更に一層良好なスラグ剥離性が得られると共に、ビード形状が安定して平滑化するため、良好なビード外観を得ることが出来る。また。良好な低温靭性値となる。
【0040】
(CaF
2:25〜45質量%)
フラックス中のCaF
2は、アークを安定させると共に、スラグの粘性を高めてビード形状を良好にする効果を有する。また、フラックス中にCaF
2を添加することにより、得られる溶接金属中の酸素量を低減して、低温靭性を向上させることが出来る。ただし、フラックス中のCaF
2含有量が25質量%未満であると、これらの効果を十分に得ることが出来ない。したがって、本実施形態では、フラックス中のCaF
2含有量を25質量%以上とする。一方、フラックス中のCaF
2含有量が45質量%を超えると、アークが不安定になり、スラグの流動性が悪くなるので、スラグ巻き込みが発生する。したがって、本実施形態では、フラックス中のCaF
2含有量を45質量%以下とする。
【0041】
フラックス中のCaF
2含有量の好ましい範囲は、30〜35質量%である。この範囲においては、特にビード形状が安定して平滑化するため、良好なビード外観を得ることが出来る。
【0042】
(CaO:2〜10質量%)
フラックス中のCaOは、スラグの塩基性を高めて、溶接金属の低温靭性を向上させる効果を有する成分である。ただし、フラックス中のCaO含有量が2質量%未満では、その効果を十分に得ることが出来ない。したがって、本実施形態では、フラックス中のCaO含有量を2質量%以上とする。一方、フラックス中のCaO含有量が10質量%を超えると、スラグの剥離性が著しく低下する。したがって、本実施形態では、フラックス中のCaO含有量を10質量%以下とする。
【0043】
フラックス中のCaO含有量の好ましい範囲は、4〜8質量%である。この範囲においては、特にスラグの剥離性が良好である。
【0044】
(Na
2O:2.0〜4.0質量%)
フラックス中のNa
2Oは、アーク安定性を良好とすると共に、アークの集中性を高め、溶接金属中のスラグ巻き込みを防ぐ効果がある。フラックス中のNa
2O含有量が2.0質量%未満では、特に横向溶接においてその効果が十分に得られない。したがって、本実施形態では、フラックス中のNa
2O含有量を2.0質量%以上とする。一方、フラックス中のNa
2Oが4.0質量%を超えると、スラグの剥離性が劣化する.したがって、本実施形態では、フラックス中のNa
2O含有量を4.0質量%以下とする。
【0045】
フラックス中のNa
2O含有量の好ましい範囲は、2.5〜3.5質量%である。この範囲においては、特にスラグの剥離性が良好である。
【0046】
また、溶接金属の低温靭性を向上させるためには,溶接金属中のC量、Si量、及びAl量を制限することが有効である。そのため、フラックス中から溶接金属中に歩留る可能性があるC源、Si源、Al源は添加しないことが好ましい。よって、フラックス中に炭酸塩や金属脱酸成分を極力含有させないことが好ましい。
【0047】
(炭酸塩)
BaCO
3、CaCO
3等の炭酸塩をフラックス中から添加すると、溶接中にCO
2が発生し、ビード表面でのポックマーク数が増加する。また、溶接金属中にて炭化物が形成され、低温靭性が劣化する。したがって、本実施形態によれば、フラックスは炭酸塩を実質的に含まないことが好ましい。なお、炭酸塩を実質的に含まないとは、意図的に炭酸塩を添加していないことを意味する。例えば、製造時に用いた原料に不純物として含まれている可能性はあるが、本発明に影響を及ぼさない範囲、例えば0.1質量%以下であれば、許容することができる。
【0048】
(金属脱酸成分)
金属脱酸成分であるAlおよびSiをフラックス中から添加すると、溶接金属中に還元されて金属間化合物が形成され、低温靭性が劣化する。したがって、本実施形態によれば、フラックスは金属脱酸成分であるAlおよびSiを実質的に含まないことが好ましい。なお、AlやSiを実質的に含まないとは、これらを意図的に添加していないことを意味する。例えば、製造時に用いた原料に不純物として含まれている可能性はあるが、本発明に影響を及ぼさない範囲、例えば0.1質量%以下であれば、許容することができる。また、Alには、Al単体の他、Fe−Al等の形態で添加されるAlも含まれる。さらに、Siには、Si単体の他、Fe−Si等の形態で添加されるSiも含まれる。
【0049】
(その他の成分)
本実施形態のフラックスのその他の成分としては、フラックス原材料での不可避不純物であるP、S、Feおよび水分などがある。
【0050】
本実施形態の焼結型フラックスは、たとえば、上述した組成となるようにフラックス原料を調整し、これに固着剤としての水ガラス、滑り剤等を添加して造粒した後、焼結することにより製造することができる。焼結温度としては特に限定されないが、例えば470〜600℃である。
【0051】
本実施形態のサブマージアーク溶接方法においては、溶接ワイヤと焼結型フラックスを組み合わせて用いていればよく、その他の溶接条件については、サブマージアーク溶接に適用されうる溶接条件を適宜選択して採用すればよい。
【0052】
また、本実施形態のサブマージアーク溶接方法により溶接される母材は、たとえば、9%Ni鋼であり、その他として、1.5〜2.5%Ni鋼、3.5%Ni鋼、5%Ni鋼、オーステナイト系ステンレス鋼等の低温用鋼である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により、本発明の効果を具体的に説明する。
【0054】
ワイヤとしては、表1に示す種々の化学成分を有するサブマージアーク溶接用ワイヤを使用した。なお、ワイヤ径はいずれも2.4mmであった。
【0055】
【表1】
【0056】
フラックスとしては、フラックス原料を調整し、これに固着剤として水ガラスを添加して造粒した後、500℃で焼結することにより、表2に示す種々の化学組成を有するサブマージアーク溶接用フラックスを作製した。
【0057】
【表2】
【0058】
母材としては、表3に示す化学成分を有する9%Ni鋼を使用した。
【0059】
【表3】
【0060】
低温靭性は、全溶着金属を作製して実測した。試験条件は表4に示す通りである。溶接母材の形状およびサイズを
図1A及び
図1Bに示す。
図1Aは母材の形状およびサイズを示す正面図であり、
図1Bは開先形状を示す断面図である。また、
図1Cは積層要領を示す模式図である。そして、
図1Dに示される試験片採取位置より、深さ2mmのVノッチ形状のシャルピー衝撃試験片を採取し、−196℃における低温靱性を評価した。
【0061】
低温靱性の評価結果を表9に示す。低温靱性の評価については、−196℃での衝撃値が70J以上であるものを◎とし、70J未満から55J以上であるものを○とし、55J未満であるものを△とした。なお、評価が◎ないし○のものを合格とする。
【0062】
【表4】
【0063】
ポックマーク及び溶接作業性(ビードの垂れやすさ、ビード形状の平滑さ、スラグ巻き込み)は横向溝埋試験により評価を行った。溶接条件は表5に示す通りである。溶接母材の形状およびサイズを
図2A及び
図2Bに示す。
図2Aは母材の形状およびサイズを示す正面図であり、
図2Bは開先形状を示す断面図である。また、
図2Cは積層要領を示す模式図である。
【0064】
【表5】
【0065】
ここで、ポックマークとしては、
図2Cにより示される横向溝埋試験の溶着金属表面について、
図3に示すように、スタート部とエンド部それぞれ25mmを除いた中央部300mmに見られる、1mm以上の長さをもつポックマーク数を合計した。判定基準を表6に示す。また、評価結果を表9に示す。なお、評価が◎ないし○のものを合格とする。
【0066】
【表6】
【0067】
ビード垂れやすさの評価は、
図2Cにより示される横向溝埋試験の溶着金属表面について、
図4に示すように、ビードの下端部及び上端部の高さ方向の変位(A)を判定基準とした。スタート部とエンド部それぞれ25mmを除いた中央部300mmにおいて、Aの値が最大となる箇所の変位について、表7の判断基準を用いて評価を行った。評価結果を表9に示す。なお、評価が◎ないし○のものを合格とする。
【0068】
【表7】
【0069】
ビード平滑さの評価は、
図2Cにより示される横向溝埋試験の溶着金属表面について、
図5Aおよび
図5Bに示すように、スタート部とエンド部それぞれ25mmを除いた中央部300mmにおいて、ビード表面の凹凸変動が最大となる位置(B)で判定を行った。表8の判断基準を用いて評価を行った。評価結果を表9に示す。なお、評価が◎ないし○のものを合格とする。
【0070】
【表8】
【0071】
スラグ剥離性については、
図2Cにより示される横向溝埋試験の溶着金属について、スラグハンマーによる10回以下の打突によりビード全長にわたってスラグが完全に剥離したものを◎とし、スラグハンマーによる10回の打突を行った後にはビード際等にスラグが若干残るものの、11乃至20回未満のスラグハンマーによる打突で全て除去可能であったものを○とし、スラグハンマーではスラグ除去が困難であったものを△とした。評価結果を表9に示す。なお、評価が◎ないし○のものを合格とする。
【0072】
【表9】
【0073】
例1〜26のうち、例1〜8は実施例であり、例9〜26は比較例である。表9に示すように、例1乃至8はワイヤ中のAl量が低位かつフラックス中の化学成分が適切に規制されているため、低温靱性値が良好で、ポックマーク数も少なく、溶接作業性も良好であった。
【0074】
例9はフラックス中のAl
2O
3の含有量が本発明範囲の上限を超えているため、ポックマーク数が増加し、ビード形状が不安定であり、スラグ剥離性が劣化していた。また、CaF
2の含有量が本発明範囲の下限未満であるため、ビード形状が更に不安定になっており、低温靱性値も低下していた。
【0075】
例10はフラックス中のSiO
2の含有量が本発明範囲の上限を超えているため、スラグの剥離性が劣化していた。また、SiO
2の影響に加え、CaOの含有量が本発明範囲の下限未満であるため、低温靱性値は低下していた。
【0076】
例11はフラックス中のCaF
2の含有量が本発明範囲の上限を超えているため、スラグ剥離性が劣化していた。また、Al
2O
3の含有量が本発明範囲の下限未満であるため、ビードが垂れやすく、ビード表面の平滑性も劣化していた。
【0077】
例12はフラックス中のCaOの含有量が本発明範囲の上限を超えており、かつ、NaOの含有量が本発明範囲の下限未満であるため、スラグ剥離性が劣化していた。
【0078】
例13はフラックス中のNaOの含有量が本発明範囲の上限を超えているため、スラグ剥離性が劣化していた。また、SiO
2の含有量が本発明範囲の下限未満であるため、ビードが垂れやすく、平滑性も劣化していた。
【0079】
例14〜26については、ワイヤ中のAl量が0.10質量%を超えているため、低温靱性値はフラックスの組成に因らず低下していた。
【0080】
例14はフラックスの化学成分は適切に規制されているため、ポックマークや溶接作業性は良好であったが、上記ワイヤからの影響により、低温靱性値は低下していた。
【0081】
例15はフラックス中のAl
2O
3の含有量が本発明規定の好ましい範囲の上限を超えているため、ポックマーク数が若干増加し、スラグ剥離性がやや劣化していた。また、ビード形状については、上記Al
2O
3の影響に加え、CaF
2の含有量が本発明規定の好ましい範囲の下限未満であるため、劣化していた。
【0082】
例16はフラックス中のSiO
2の含有量が本発明規定の好ましい範囲の上限を超えているため、スラグ剥離性がやや劣化していた。また、低温靱性値については、SiO
2の影響に加え、CaOの含有量が本発明規定の好ましい範囲の下限未満であるため低下していた。
【0083】
例17はフラックス中のCaF
2の含有量が本発明規定の好ましい範囲の上限を超えているため、スラグ剥離性がやや劣化していた。また、Na
2Oの含有量が本発明規定の好ましい範囲の下限未満であるため、スラグ剥離が若干劣化していた。
【0084】
例18はフラックス中のCaOの含有量が本発明規定の好ましい範囲の上限を超えているため、スラグ剥離性が若干低下していた。また、Al
2O
3の含有量が本発明規定の好ましい範囲の下限未満であるため、ビードが若干垂れやすくビード平滑性も若干劣化していた。
【0085】
例19はフラックス中のNa
2Oの含有量が本発明規定の好ましい範囲の上限を超えているため、スラグ剥離性が若干劣化していた。また、SiO
2の含有量が本発明規定の好ましい範囲の下限未満であるため、ビードが若干垂れやすくビード平滑性も若干劣化していた。
【0086】
例20〜26についてのフラックス中の組成に関する低温靱性、ポックマーク数、溶接作業性への影響は、例7〜13と同様であり、それぞれにおいて低温靱性値の低下、ポックマーク数の増加、溶接作業性の劣化等が確認された。
【0087】
以上詳述したように、本発明によれば、ワイヤ中およびフラックス中の化学成分を適正に規制することで、ハステロイC276系サブマージアーク溶接材料(フラックスおよびワイヤ)の溶接において、良好な低温靱性を有する溶接金属が得られるとともに、優れた溶接作業性(ビード形状、ビード外観)を得ることができる。