特許第6796978号(P6796978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6796978
(24)【登録日】2020年11月19日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20201130BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20201130BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20201130BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20201130BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20201130BHJP
   C08K 5/19 20060101ALI20201130BHJP
   C08K 5/3462 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   H01L21/304 621D
   H01L21/304 622D
   H01L21/304 622F
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550D
   C09K3/14 550Z
   C08L1/08
   C08K3/36
   C08K5/19
   C08K5/3462
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-185443(P2016-185443)
(22)【出願日】2016年9月23日
(65)【公開番号】特開2018-49980(P2018-49980A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2019年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】391011102
【氏名又は名称】株式会社岡本工作機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100165423
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 雅久
(72)【発明者】
【氏名】三井 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】坂東 翼
【審査官】 中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−128089(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/42812(WO,A1)
【文献】 特開2006−352042(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102766408(CN,A)
【文献】 特開平11−116942(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/142362(WO,A1)
【文献】 特開2011−061089(JP,A)
【文献】 特開2014−082509(JP,A)
【文献】 特開2003−300151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C08K 3/36
C08K 5/19
C08K 5/3462
C08L 1/08
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨液を供給しながら研磨パッドにシリコンウエハを摺接させて前記シリコンウエハの主面を研磨する工程において、
前記研磨液は、二酸化ケイ素、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化アンモニウム、ピペラジン及びセルロース誘導体を含み、
前記シリコンウエハには、10kPaから50kPaの研磨圧力が加えられ
前記研磨液は、前記水酸化アンモニウムを0.001質量%から0.01質量%含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記研磨液は、前記二酸化ケイ素を0.5質量%から2質量%、前記水酸化テトラメチルアンモニウムを0.02質量%から0.1質量%、前記ピペラジンを0.1質量%から0.6質量%、前記セルロース誘導体を0.01質量%から0.2質量%、含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記研磨パッドは、周速度1.2m/秒から4.2m/秒で回転駆動され、
前記シリコンウエハは、周速度0.3m/秒から1.1m/秒で回転駆動されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記研磨パッドとして不織布が用いられることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法に関し、特に、シリコンウエハの研磨方法を改良した半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置の製造方法において、シリコンのインゴットをスライスして形成されたシリコンウエハの表面及び裏面を平滑化するためにシリコンウエハの研磨が行われている。また、シリコンウエハの表面に回路が形成された後、その回路が形成されたシリコンウエハの裏面を研削して研磨することも知られている。
【0003】
この種のシリコンウエハを研磨する研磨工程では、シリコンウエハの主面に研磨パッドが摺接され、その摺接箇所に研磨液(研磨スラリ)が供給される。通常、研磨工程は、研磨液を変更して粗研磨から精研磨へと複数回実行され、各回の研磨工程の後には、純水等の洗浄液を供給してシリコンウエハの主面等から研磨液や研磨屑等を除去するリンス工程が実行される。リンス工程では、洗浄液として親水剤等が用いられ、シリコンウエハの研磨された主面の親水性が高められる(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0004】
上記のようにシリコンウエハの主面の親水性が高められることにより、シリコンウエハの主面に研磨屑等が付着し難くなり、研磨屑等の排出が良好になる。これにより、研削屑等がシリコンウエハの主面に残留することに起因する半導体装置の品質の低下等を防止することができる。
【0005】
なお、例えば、特許文献2に開示されているように、洗浄液として純水のみを供給して研磨液等を除去した後に、親水剤等を供給して親水化処理を行うというように、洗浄液を変えてリンス工程を複数回実行することも一般に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−285967号公報
【特許文献2】特開2016−1705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、半導体装置の生産性を高めるために、半導体装置を製造する各工程の時間を短縮することが求められる。シリコンウエハの研磨工程においては、単位時間当たりのシリコンウエハの研磨量である研磨レートを高めて研磨時間を短縮することが求められている。
【0008】
また、上述の通り、半導体装置の品質を向上させるためには、シリコンウエハの主面に研磨屑等が付着、残留しないように、シリコンウエハの主面は、親水性に優れ、濡れ易い方が望ましい。
【0009】
しかしながら、従来技術の半導体装置の製造方法では、研磨レートが高く且つシリコンウエハの主面を好適に親水化処理できる研磨方法が無かった。具体的には、比較的高い研磨レート、例えば、0.3μm/分から0.5μm/分程度、で研磨する粗研磨工程では、シリコンウエハの主面に親水性を付与することができなかった。
他方、シリコンウエハに親水化処理を施すリンス工程では、研磨レートが低く、その研磨レートは、例えば、0.01μm/分程度若しくはそれ以下であった。
【0010】
また、従来、リンス工程等で用いられる親水剤に、例えば、二酸化ケイ素等の砥粒成分を含有させた、いわゆる高研磨レートの親水剤(研磨液若しくは研磨剤と呼ばれることもある。)がある。しかし、このような高研磨レートと称される親水剤は、粗研磨工程の後に実行される精研磨工程で用いられるものであり、その研磨レートは、例えば、約0.03μm/分から0.04μm/分であり、粗研磨工程の研磨レートと比べると遥かに低かった。
【0011】
このように、従来、研磨レートが高く且つ好適な親水性が得られる研磨方法が無かったので、上述の通り、研磨レートの高い研磨工程を実行した後に、シリコンウエハの主面に親水性を施すためのリンス工程を別途実行する必要があった。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、研磨レートが高く且つ好適な親水性が得られる研磨方法を具備する生産性に優れる半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の半導体装置の製造方法は、研磨液を供給しながら研磨パッドにシリコンウエハを摺接させて前記シリコンウエハの主面を研磨する工程において、前記研磨液は、二酸化ケイ素、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化アンモニウム、ピペラジン及びセルロース誘導体を含み、前記シリコンウエハには、10kPaから50kPaの研磨圧力が加えられ、前記研磨液は、前記水酸化アンモニウムを0.001質量%から0.01質量%含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の半導体装置の製造方法によれば、研磨液を供給しながら研磨パッドにシリコンウエハを摺接させて前記シリコンウエハの主面を研磨する工程において、前記研磨液は、二酸化ケイ素、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化アンモニウム、ピペラジン及びセルロース誘導体を含み、前記シリコンウエハには、10kPaから50kPaの研磨圧力が加えられ、前記研磨液は、前記水酸化アンモニウムを0.001質量%から0.01質量%含む。これにより、シリコンウエハの主面を、例えば、0.3μm/分から0.5μm/分程度の高い研磨レートで研磨することができ、且つ、研磨後のシリコンウエハの主面には、好適な親水性が得られる。
【0015】
即ち、本発明によれは、従来技術の親水化処理のみを目的とするリンス工程と比べて約30倍以上の研磨レートが得られる。また、従来の高研磨レートと称される親水剤を用いた研磨と比較しても、約10倍以上の高い研磨レートが達成される。よって、シリコンウエハの研磨時間を短縮することができ、且つ、研磨工程の後に親水化処理のみを目的とするリンス工程を行う必要がなくなり、半導体装置の生産性を高めることができる。
【0016】
また、本発明の半導体装置の製造方法によれば、前記研磨液は、二酸化ケイ素を0.5質量%から2質量%、水酸化テトラメチルアンモニウムを0.02質量%から0.1質量%、ピペラジンを0.1質量%から0.6質量%、セルロース誘導体を0.01質量%から0.2質量%、含んでも良い。このような組成の研磨液を上記の研磨条件下で用いることにより、高い研磨レートと好適な親水性が得られる。
【0017】
また、本発明の半導体装置の製造方法によれば、前記研磨パッドは、周速度1.2m/秒から4.2m/秒で回転駆動され、前記シリコンウエハは、周速度0.3m/秒から1.1m/秒で回転駆動されても良い。このような研磨条件の組み合わせにより、高い研磨レートでシリコンウエハの主面を研磨して主面の表面粗さを好適にすることができ、且つ、シリコンウエハの主面に優れた親水性を付与することができる。
【0018】
また、本発明の半導体装置の製造方法によれば、前記研磨パッドとして不織布が用いられても良い。不織布の研磨パッドを上記の研磨条件下で用いることにより、研磨レートを低下させない好適な研磨が可能となり、且つ、シリコンウエハの主面に優れた親水性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法における製造工程を示すフローチャートである。
図2】本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法で用いられる研磨装置の概略構成を示す正面図である。
図3】本発明の実施例及び比較例による試験結果を示す図であり、(A)はセルロース誘導体の含有量と研磨レートの関係を示すグラフであり、(B)は水酸化アンモニウムの含有量と研磨レートの関係を示すグラフである。
図4】本発明の実施例及び比較例による試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る半導体装置の製造工程を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態に係る半導体装置の製造方法は、スライシング工程S10と、ラッピング工程S20と、エッチング工程S30と、1次ポリッシング工程S40と、洗浄工程S50と、2次ポリッシング工程S60と、洗浄工程S70と、を具備する。
【0021】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法は、特に、シリコンウエハ10(図2参照)の主面11(図2参照)を研磨する研磨工程としての1次ポリッシング工程S40に特徴を有するものである。以下、1次ポリッシング工程S40の前に行われるスライシング工程S10から1次ポリッシング工程S40の後に行われる洗浄工程S70までの各工程について順番に説明する。
【0022】
先ず、スライシング工程S10では、前工程において形成された略円柱状の単結晶シリコンインゴットがダイヤモンドブレード等によって切断されて、厚さ約1mmの略円板状のシリコンウエハ10が形成される。
【0023】
次に、ラッピング工程S20では、スライシング工程S10で切断されたシリコンウエハ10の両主面が、例えば、アルミナ研磨剤等のラップ剤を用いたラッピング加工によって粗研磨される。これにより、シリコンウエハ10の主面11である表面及び裏面が平行になるよう整えられ、シリコンウエハ10が所定の厚さに加工される。
【0024】
そして次に、エッチング工程S30では、溶液やガス等を用いて、シリコンウエハ10の主面11がエッチングされる。これにより、シリコンウエハ10の主面11に形成された凹凸が減り、シリコンウエハ10の主面11が平坦化される。
【0025】
次に、1次ポリッシング工程S40では、例えば、後述する研磨装置20(図2参照)を用いて、シリコンウエハ10の主面11が粗研磨されると共に親水化処理される。詳細については後述する。
【0026】
次に、洗浄工程S50では、純水等の洗浄液を用いてシリコンウエハ10の主面11が洗浄され、1次ポリッシング工程S40等でシリコンウエハ10に付着した研磨屑等が洗い流される。
【0027】
次に、2次ポリッシング工程S60では、1次ポリッシング工程S60と同様に、例えば、研磨装置20等を用いて、シリコンウエハ10の主面11が精研磨されて、鏡面状に仕上げられる。
【0028】
次に、洗浄工程S70では、洗浄工程S50と同様に、純水等の洗浄液を用いてシリコンウエハ10の主面11が洗浄され、2次ポリッシング工程S60等でシリコンウエハ10に付着した研磨屑等が洗い流される。
【0029】
洗浄工程S70で洗浄されたシリコンウエハ10について、その後、シリコンウエハ検査工程、酸化工程、フォトレジスト塗装工程、回路パターン形成工程、エッチング工程、酸化工程、拡散工程、化学気相蒸着(CVD)工程、イオン注入工程、化学的機械研磨(CMP)工程、バックグラインド工程、バックポリッシング工程、電極形成工程、ダイシング工程、チップマウンティング工程、ワイヤーボンディング工程、モールド工程、トリミング工程、検査工程等の各種後工程が必要に応じて実行され、これにより、半導体装置が完成する。
【0030】
なお、前述の通り、本実施形態に係る半導体装置の製造方法は、高い研磨レートで親水化処理が可能な1次ポリッシング工程S40に特徴を有する。前述した1次ポリッシング工程S40の前に行われるスライシング工程S10からエッチング工程S30までの各工程、及び1次ポリッシング工程S40の後に行われる洗浄工程S50から洗浄工程S70までの各工程については、加工対象である半導体装置に応じて、他の公知の方法に置き換えられても良いし、省略されても良い。
【0031】
また、本実施形態に係る半導体装置の製造方法では、表面に回路が形成されたシリコンウエハ10の裏面を研磨するバックポリッシング工程においても、1次ポリッシング工程S40と同等の研磨方法によってシリコンウエハ10を研磨することができる。即ち、シリコンウエハ10の表面に回路が形成された後、バックグラインド工程でシリコンウエハ10の回路が形成されていない裏面が研削される。その後に、1次ポリッシング工程S40と同等の研磨方法によるバックポリッシング工程において、シリコンウエハ10の裏面を高い研磨レートで研磨することができ、且つ、シリコンウエハの裏面に親水性を付与することができる。
【0032】
次に、図2を参照して、1次ポリッシング工程S40で用いられる研磨装置20について詳細に説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法で用いられる研磨装置20の概略構成を示す正面図である。研磨装置20は、1次ポリッシング工程S40でシリコンウエハ10の主面11を研磨するために用いられる装置である。
【0033】
図2に示すように、研磨装置20は、シリコンウエハ10を固定するヘッド21と、シリコンウエハ10を研磨する研磨パッド25と、研磨液を供給する研磨液供給ノズル26と、を有する。
【0034】
研磨装置20は、ヘッド21及び研磨パッド25によってシリコンウエハ10を上下方向から挟み込んだ状態で、ヘッド21及び研磨パッド25を回転させてシリコンウエハ10を研磨するものである。この時、シリコンウエハ10と研磨パッド25とが摺接される部分には、研磨液供給ノズル26から研磨液が供給される。
【0035】
ヘッド21は、回転軸22に取り付けられ、シリコンウエハ10を押さえて回転駆動させるものである。ヘッド21の下部には、シリコンウエハ10を吸着して固定する吸着パッド27が設けられる。吸着パッド27としては、例えば、合成樹脂板、酸化アルミナ板、セラミックス板及びステンレス板等が用いられ、シリコンウエハ10を吸着可能に表面加工された各種バッキングパッドや、多数の小孔が形成された真空吸着式のパッド等でも良い。
【0036】
ヘッド21の上部に接続される回転軸22は、例えば、モータ等の図示しない駆動装置に接続される。そして、該駆動装置によって、回転軸22及びヘッド21が回転駆動される。これにより、シリコンウエハ10が所定の速さで回転し、シリコンウエハ10の主面11が研磨パッド25に摺接される。
また、研磨装置20は、ヘッド21をシリコンウエハ10の切り込み方向に送り移動させる図示しない昇降装置等を備えても良い。
【0037】
また、研磨装置20は、シリコンウエハ10に研磨圧力を加える図示しない加圧手段を有する。ここで、研磨圧力とは、シリコンウエハ10の切り込み方向、即ち図2に示す研磨装置20において、ヘッド21から下方向に加えられる圧力である。加圧手段としては、例えば、可撓性の隔壁を介してヘッド21や吸着パッド27を押圧する空気圧式の加圧手段が用いられても良い。これにより、シリコンウエハ10は、加圧手段によって一定の研磨圧力が加えられた状態で、研磨されることになる。
【0038】
研磨パッド25は、シリコンウエハ10に摺接されてシリコンウエハ10の主面11を研磨するものであり、回転駆動されるテーブル24の上面に、例えば、粘着剤等によって固定される。なお、シリコンウエハ10は、研磨される主面11が研磨パッド25に接するように研磨パッド25の上面に載置される。
【0039】
研磨パッド25としては、例えば、不織布、スウェード、発泡ポリウレタン等の合成樹脂シート、その他各種研磨パッドが用いられる。なお、粗研磨に好適な高い研磨レートを実現し、且つ、シリコンウエハ10の主面に優れた親水性を付与するために、研磨パッド25として不織布を用いることが望ましい。これにより、研磨レートを低下させずに平滑で良好な研磨面が形成される好適な研磨が可能となり、且つ、シリコンウエハ10の主面11に優れた親水性が得られる。
【0040】
研磨パッド25が固定されるテーブル24の下部には、テーブル24を支えるための回転軸23が接続され、回転軸23は、例えば、モータ等の図示しない駆動装置に接続される。そして、該駆動装置によって、回転軸23、テーブル24及び研磨パッド25が回転駆動される。これにより、シリコンウエハ10と研磨パッド25とが摺接されてシリコンウエハ10が研磨される。
【0041】
なお、上記の説明では、1次ポリッシング工程S40で用いられる研磨装置20として、ヘッド21にシリコンウエハ10が取り付けられ、テーブル24に研磨パッド25が取り付けられる構成の例を示したが、研磨装置20の構成はこれに限定されるものではない。例えは、1次ポリッシング工程S40で用いられる研磨装置20としては、テーブル24にシリコンウエハ10が取り付けられ、ヘッド21に研磨パッド25が取り付けられる構成の研磨装置でも良い。
【0042】
また、例示した研磨装置20は、1回の研磨工程でシリコンウエハ10の一方の主面11のみを研磨する片面研磨装置であるが、例えば、1次ポリッシング工程S40で用いられる研磨装置としては、シリコンウエハ10の表面及び裏面を同時に研磨することができる両面研磨装置であっても良い。
【0043】
次に、図2を参照して、1次ポリッシング工程S40における研磨条件等について詳細に説明する。
先ず、シリコンウエハ10に加えられる研磨圧力は、5kPaから50kPaであり、好ましくは、10kPaから30kPa、更に好ましくは、15kPaから25kPaである。研磨圧力が5kPaよりも低いと、高い研磨レートが得られない。他方、研磨圧力が50kPaを超えると、シリコンウエハ10の親水性が低下してしまう。
【0044】
シリコンウエハ10の回転条件としては、シリコンウエハ10の最外端である外周部分の周速度が、0.3m/秒から1.1m/秒であることが望ましい。この条件は、シリコンウエハ10の直径が200mmであれば、ヘッド21及びシリコンウエハ10の回転数約30rpmから100rpmに相当し、シリコンウエハ10の直径が300mmであれば、回転数約20rpmから70rpmに相当する。シリコンウエハ10の周速度が0.3m/秒よりも低いと、研磨レートが低下して粗研磨に適した所望の研磨レートが得られず、周速度が1.1m/秒を超えると、親水性が低下してしまう。
【0045】
シリコンウエハ10の周速度として、更に好ましくは、0.4m/秒から0.9m/秒が良い。ヘッド21及びシリコンウエハ10の回転数に換算すれば、シリコンウエハ10の直径が200mmであれば、回転数は、約40rpmから80rpm、シリコンウエハ10の直径が300mmであれば、回転数は、約25rpmから55rpmである。これにより、高い研磨レートで、優れた親水性を有する平滑な研磨面が得られる。
【0046】
研磨パッド25の回転条件としては、研磨パッド25の最外端である外周部分の周速度が、1.2m/秒から4.2m/秒であることが望ましい。この条件は、研磨パッド25の直径が240mmであれば、研磨パッド25及びテーブル24の回転数約100rpmから350rpmに相当し、研磨パッド25の直径が800mmであれば、回転数約30rpmから100rpmに相当する。研磨パッド25の周速度が1.2m/秒よりも低いと、研磨レートが低下して粗研磨に適した所望の研磨レートが得られず、周速度が4.2m/秒を超えると、親水性が低下してしまう。
【0047】
研磨パッド25の周速度として、更に好ましくは、1.6m/秒から3.4m/秒が良い。研磨パッド25及びテーブル24の回転数に換算すれば、研磨パッド25の直径が240mmであれば、回転数は、約130rpmから270rpm、研磨パッド25の直径が800mmであれば、回転数は、約40rpmから80rpmである。これにより、高い研磨レートと優れた親水性が得られる。
【0048】
次に、研磨液供給ノズル26から研磨面に供給される研磨液について詳細に説明する。
研磨液は、純水、二酸化ケイ素、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化アンモニウム、ピペラジン及びセルロース誘導体を含んでいる。
【0049】
二酸化ケイ素は、研磨液に含まれる研磨成分であり、例えば、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、ゾルゲル法シリカ等である。研磨液に含まれる二酸化ケイ素の量は、研磨液全体の量を基準として、0.5質量%から2質量%が好ましい。二酸化ケイ素の量が0.5質量%よりも少ないと、高い研磨レートが得られず、二酸化ケイ素の量が2質量%よりも多いと、親水性が低下してしまう。
また、二酸化ケイ素の平均一次粒子径は、15nmから50nmであり、より好ましくは、20nmから40nmである。
【0050】
水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化アンモニウム及びピペラジンは、研磨促進作用を有する成分である。研磨レートを高くし、且つ、好適な親水性を得る観点から、研磨液に含まれる水酸化テトラメチルアンモニウムの量は、研磨液全体の量を基準として、0.02質量%から0.1質量%が好ましい。また、研磨液に含まれる水酸化アンモニウムの量は、研磨液全体の量を基準として、0.001質量%から0.02質量%であり、好ましくは、0.002質量%から0.01質量%、更に好ましくは、0.003質量%から0.006質量%である。研磨液に含まれるピペラジンの量は、研磨液全体の量を基準として、0.1質量%から0.6質量%が好ましい。
【0051】
なお、研磨工程における研磨液として水酸化カリウムを含む研磨液が一般的に用いられているが、水酸化テトラメチルアンモニウムの代わりに水酸化カリウムを含有する研磨液を用いた場合には、本実施形態のような親水性を得ることはできない。
【0052】
研磨液に含まれるセルロース誘導体として、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
【0053】
研磨液に含まれるセルロース誘導体の量は、研磨液全体の量を基準として、0.01質量%から0.2質量%である。セルロース誘導体の量が0.01質量%よりも少ないと、好適な親水性が得られず、セルロース誘導体の量が0.2質量%よりも多いと、研磨レートが低下して所望の研磨レートを達成することができない。研磨レートを高くし、且つ、好適な親水性を得る観点から、好ましくは、セルロース誘導体の量は、研磨液全体の量を基準として、0.02質量%から0.1質量%であり、更に好ましくは、0.03質量%から0.06質量%である。
【0054】
以上説明の本実施形態によれば、上記の成分を含む研磨液を用いて、前述の研磨条件下でシリコンウエハ10を研磨することにより、高い研磨レートと好適な親水性が得られる。具体的には、シリコンウエハ10の主面11を、例えば、0.3μm/分から0.5μm/分程度の高い研磨レートで研磨することができ、平滑で良好な研磨面を形成することができ、且つ、研磨後のシリコンウエハ10の主面11には、好適な親水性が得られる。
【0055】
即ち、本実施形態に係る製造方法によれは、シリコンウエハ10の主面11の親水性が高められることにより、主面11に研磨屑等が付着し難くなり、シリコンウエハ10の品質を向上させることができ、且つ、従来技術の親水化処理のみを目的とするリンス工程と比べて約30倍以上の高い研磨レートが得られる。
【0056】
また、従来の高研磨レートと称される親水剤を用いた研磨と比較しても、約10倍以上の高い研磨レートが達成される。よって、シリコンウエハ10の研磨時間を短縮することができ、且つ、研磨工程の後に親水化処理のみを目的とするリンス工程を行う必要がなくなり、半導体装置の生産性を高めることができる。
【0057】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下に挙げる実施例によって何ら限定されるものではない。
以下の実施例は、成分比率の異なる複数種類の研磨液の試料P1、P2、P3を用いてシリコンウエハ10を研磨し、研磨レート及び親水性を評価した結果の一例である。
【0058】
先ず、評価用の研磨液として、二酸化ケイ素、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化アンモニウム、ピペラジン、セルロース誘導体及び溶媒となる純水を用いて、成分比率の異なる複数種類の試料P1、P2、P3を調製した。
【0059】
調製された試料P1は、二酸化ケイ素を1質量%、水酸化テトラメチルアンモニウムを0.05質量%、ピペラジンを0.27質量%、セルロース誘導体を0.024質量%、水酸化アンモニウムを0.0024質量%含有する。
【0060】
試料P2は、二酸化ケイ素を1質量%、水酸化テトラメチルアンモニウムを0.05質量%、ピペラジンを0.27質量%、セルロース誘導体を0.048質量%、水酸化アンモニウムを0.0048質量%含有する。
【0061】
試料P3は、二酸化ケイ素を1質量%、水酸化テトラメチルアンモニウムを0.05質量%、ピペラジンを0.27質量%、セルロース誘導体を0.095質量%、水酸化アンモニウムを0.0095質量%含有する。
【0062】
上記のように調製された試料P1、P2、P3を研磨液として、研磨装置20を用いてシリコンウエハ10を研磨した。研磨したシリコンウエハ10の寸法は、直径約200mm、厚さ約1mmである。研磨装置20の研磨パッド25として、直径約800mm、厚さ約1.27mm、硬度約80AskerC、圧縮率約4.2%の不織布製の研磨パッドを用いた。
【0063】
研磨パッド25の上に、被研磨対象物となるシリコンウエハ10を載置し、研磨液として試料P1、P2、P3の何れかを300mL/分で供給しながら、シリコンウエハ10を研磨した。
【0064】
具体的には、ヘッド21によってシリコンウエハ10に21kPaの研磨圧力を加えながら、ヘッド21及びテーブル24をそれぞれ60rpmで回転させて、シリコンウエハ10を研磨パッド25に摺接させた。この時のシリコンウエハ10の周速度は、0.63m/秒であり、研磨パッド25の周速度は、2.51m/秒である。
【0065】
そして、研磨時間と、研磨量であるシリコンウエハ10の厚さ減少量から、それぞれの条件における研磨レートを算出した。その結果を図3及び図4に示す。また、研磨面に純水を吹き付け、目視により親水性を評価した。その結果を図4に示す。
【0066】
[比較例]
比較例として、以下に示す試料P11、P12、P13を調製した。
試料P11は、水酸化アンモニウム及びセルロース誘導体を含まない研磨液である。試料P11は、二酸化ケイ素を1質量%、水酸化テトラメチルアンモニウムを0.05質量%、ピペラジンを0.27質量%含有する。
【0067】
試料P12は、水酸化テトラメチルアンモニウム、ピペラジン及びセルロース誘導体を含まない研磨液である。試料P12は、二酸化ケイ素を0.33質量%、水酸化アンモニウムを0.018%含有する。
【0068】
試料P13は、二酸化ケイ素、水酸化テトラメチルアンモニウム及びピペラジンを含まない。試料P13は、セルロース誘導体を0.033質量%、水酸化アンモニウムを0.0033質量%含有する。
【0069】
そして、研磨液として試料P11、P12、P13を用い、上記の実施例と同様の研磨条件下で、シリコンウエハ10を研磨して、研磨レートを算出すると共に、親水性を評価した。算出した研磨レートの結果を図3及び図4に、親水性の評価を図4に示す。
【0070】
図3(A)及び(B)は、本発明の実施例及び比較例による試験結果を示すグラフである。図3(A)は、横軸に試料P1、P2、P3、P11に含まれるセルロース誘導体の量を試料全体に対する比率(質量%)で示しており、縦軸に研磨レート(μm/分)を示している。また、図3(B)は、横軸に試料P1、P2、P3、P11に含まれる水酸化アンモニウムの量を試料全体に対する比率(質量%)で示しており、縦軸に研磨レート(μm/分)を示している。
図4は、本発明の実施例及び比較例による試験結果を示す表であり、研磨レート(μm/分)及び親水性の評価を示している。
【0071】
図3及び図4に示すように、水酸化アンモニウム及びセルロース誘導体を含まない比較例としての試料P11を用いた研磨では、研磨レートが約0.55μm/分であり、最も高い値となった。しかしながら、比較例の試料P11を用いた研磨では、親水性が得られなかった。
【0072】
水酸化アンモニウム及びセルロース誘導体を含有する試料P1を用いた研磨では、粗研磨に適した0.4μm/分を超える高い研磨レートが示された。また、試料P1を用いた研磨では、シリコンウエハ10の研磨された主面11に大変良好な親水性が得られた。
【0073】
セルロース誘導体及び水酸化アンモニウムを更に多く含む試料P2を用いた研磨では、研磨レートは僅かに低下するものの、0.3μm/分を超える高い値が示された。また、試料P2を用いた研磨では、シリコンウエハ10の研磨された主面11の親水性が、試料P1を用いた研磨の結果と比較して、更に良好になることが確認された。
【0074】
また、セルロース誘導体及び水酸化アンモニウムの量が更に多い試料P3を用いた研磨では、研磨レートは僅かに低下するものの、0.3μm/分に近い値であり、従来技術による研磨レートと比べて遥かに優れた値であることが示された。また、試料P3を用いた研磨では、試料P2を用いた研磨と同等に、シリコンウエハ10の研磨された主面11の親水性が大変良好であった。
【0075】
なお、試料P1、P2、P3、P11の何れを用いた研磨においても、研磨後のシリコンウエハ10の主面11の表面粗さは、Ra0.5nm程度であり、平滑で良好な研磨面が得られた。
【0076】
図4に示すように、水酸化テトラメチルアンモニウム、ピペラジン及びセルロース誘導体を含まない試料P12を用いた研磨では、シリコンウエハ10の研磨された主面11に親水性が得られた。しかしながら、試料P12を用いた研磨では、研磨レートが0.03μm/分であり、本発明の実施例に係る試料P1、P2、P3を用いた結果と比較すると遥かに低い。
【0077】
二酸化ケイ素、水酸化テトラメチルアンモニウム及びピペラジンを含まない試料P13を用いた研磨では、シリコンウエハ10の厚みは殆ど減少しなかった。即ち、試料P13では、粗研磨としての十分な研磨レートが得られなかった。また、試料P13を用いた研磨では、シリコンウエハ10の研磨された主面11に良好な親水性が得られた。しかしながら、試料P13を用いた場合の主面11の親水性は、本発明の実施例に係る試料P1、P2、P3を用いた場合と比較すると、やや劣るものであった。
【0078】
以上、実施例及び比較例による評価試験結果から明らかなように、本実施形態に係る半導体装置の製造方法によれば、研磨工程における研磨レートが高く、平滑で良好な研磨面を形成することができ、且つ、研磨面に優れた親水性を付与することができる。
【0079】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更実施が可能である。
【符号の説明】
【0080】
10 シリコンウエハ
11 表面
20 研磨装置
21 ヘッド
22 回転軸
23 回転軸
24 テーブル
25 研磨パッド
26 研磨液供給ノズル
27 吸着パッド
図1
図2
図3
図4