(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797030
(24)【登録日】2020年11月19日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】導電性ポリマーコンポジット
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20201130BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20201130BHJP
C08K 5/18 20060101ALI20201130BHJP
C08K 5/315 20060101ALI20201130BHJP
B29C 67/00 20170101ALI20201130BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20201130BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20201130BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/04
C08K5/18
C08K5/315
B29C67/00
B33Y70/00
B33Y10/00
【請求項の数】18
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-2450(P2017-2450)
(22)【出願日】2017年1月11日
(65)【公開番号】特開2017-128720(P2017-128720A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2019年12月23日
(31)【優先権主張番号】15/000,554
(32)【優先日】2016年1月19日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レイチェル・プレスタイコ
(72)【発明者】
【氏名】サラ・ジェイ・ヴェラ
(72)【発明者】
【氏名】キャロライン・ムーアラグ
(72)【発明者】
【氏名】バーケフ・コシュケリアン
【審査官】
幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/147031(WO,A1)
【文献】
特開2015−170766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/04
C08K 5/18
C08K 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマーと、
カーボンナノチューブと、
N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(アルキルフェニル)−1,1−ビフェニル−4,4’−ジアミン、および、N,N’−ビス(4−メチルフェニル)−N,N’−ビス(4−エチルフェニル)−[1,1’−(3,3’−ジメチル)ビフェニル]4,4’−ジアミンからなる群から選択される、少なくとも1つの電子供与分子と、
少なくとも1つの電子受容分子と
を含む、導電性ポリマーコンポジット。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリマーは、アクリレート単位、カルボン酸エステル単位、アミド単位、乳酸単位、ベンズイミダゾール単位、炭酸エステル単位、エーテル単位、スルホン単位、アリールケトン単位、アリールエーテル単位、アリールアルキル単位、エーテルイミド単位、エチレン単位、フェニレンオキシド単位、プロピレン単位、スチレン単位、ハロゲン化ビニル単位およびカルバメート単位からなる群から選択される少なくとも1つの繰り返し単位を含む、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリマーは、2つ以上の前記繰り返し単位のコポリマーである、請求項2に記載のコンポジット。
【請求項4】
前記コポリマーが、1つ以上のアクリレート単位を含む、請求項3に記載のコンポジット。
【請求項5】
前記熱可塑性ポリマーは、ポリアクリレート、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルケトン、ポリエチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ(エチレン−コ−酢酸ビニル)、ポリエーテルイミド、ポリ(フッ化ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロピレン)、ポリ(スチレンイソプレンスチレン)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ(スチレンエチレンブチレンスチレン)(SEBS)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトンおよびナイロンからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリマーは、前記導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、10重量%〜90重量%の範囲の量である、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブである、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブは、前記導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、1重量%〜40重量%の範囲の量である、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項9】
前記少なくとも1つの電子供与分子は、前記導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、0.5重量%〜50重量%の範囲の量である、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項10】
前記少なくとも1つの電子受容分子は、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)およびその共役した誘導体、テトラシアノエチレン(TCNE)およびその共役した誘導体、キノンおよびその共役した誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項11】
前記少なくとも1つの電子受容分子は、テトラシアノキノジメタンである、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項12】
前記電子受容分子は、前記導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、0.1重量%〜10重量%の範囲の量である、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項13】
前記コンポジットは、0.7S/cmより大きいバルク導電率を有し、
前記バルク導電率は、前記コンポジットから押出成型され、末端に銀塗料が塗られたフィラメントの抵抗の測定値に基づいて、式σ=L/(R×A)を用いて計算され、前記フィラメントは、10cmの長さ(L)および1.75mmの直径を有し、Aは、フィラメントの断面積(πr2)であり、rは、フィラメントの半径である、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項14】
三次元印刷の方法であって、この方法は、
三次元プリンタに、熱可塑性ポリマーと、カーボンナノチューブと、ベンジジン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(アルキルフェニル)−1,1−ビフェニル−4,4’−ジアミン、および、N,N’−ビス(4−メチルフェニル)−N,N’−ビス(4−エチルフェニル)−[1,1’−(3,3’−ジメチル)ビフェニル]4,4’−ジアミンからなる群から選択される、少なくとも1つの電子供与分子と、少なくとも1つの電子受容分子とを含むコンポジットを提供することと;
前記コンポジットを加熱することと;
加熱したコンポジットを構築プラットフォームの上に押出成型し、三次元物体を作成することと
を含む、方法。
【請求項15】
前記加熱されたコンポジットが、フィラメントの形態である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
熱可塑性ポリマーと、
カーボンナノチューブと、
ベンジジン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(アルキルフェニル)−1,1−ビフェニル−4,4’−ジアミン、および、N,N’−ビス(4−メチルフェニル)−N,N’−ビス(4−エチルフェニル)−[1,1’−(3,3’−ジメチル)ビフェニル]4,4’−ジアミンからなる群から選択される、少なくとも1つの電子供与分子と、
少なくとも1つの電子受容分子と
を含む、導電性ポリマーコンポジットフィラメント。
【請求項17】
前記熱可塑性ポリマーは、ポリアクリレート、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルケトン、ポリエチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ(エチレン−コ−酢酸ビニル)、ポリエーテルイミド、ポリ(フッ化ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロピレン)、ポリ(スチレンイソプレンスチレン)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ(スチレンエチレンブチレンスチレン)(SEBS)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトンおよびナイロンからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含む、請求項16に記載の導電性ポリマーコンポジットフィラメント。
【請求項18】
少なくとも1つの電子受容分子が、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)およびその共役した誘導体、テトラシアノエチレン(TCNE)およびその共役した誘導体、キノンおよびその共役した誘導体からなる群から選択される、請求項16に記載の導電性ポリマーコンポジットフィラメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導電性ポリマーコンポジットに関する。
【背景技術】
【0002】
現在までに産業界で実施されている積層造形(三次元印刷としても知られる)は、ほとんどの場合、構造的な特徴を印刷することに関心がある。機能的な特性(例えば、電気特性)を積層造形に組み込む材料およびプロセスが必要とされている。近年、積層造形に潜在的に有用な導電性材料が商業化されているが、その導電率は、〜10
−3S/cmから〜2.0S/cmまでと一般的に低い。市販材料、特に、導電性材料(例えば、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)またはポリ乳酸(PLA))の機械特性は、一般的に制限されており(例えば、柔軟ではなく、および/またはかなり脆い)、導電性成分としての使用が限定されている。
【0003】
積層造形の分野で、後での組立てが制限される完全に一体化された機能的な物体を簡単に印刷するために使用可能な改良された材料を開発することに大きな関心がもたれている。これにより、日々の物体の製造および消費において、特に、導電性材料と共に実施することができる場合、完全に新しいデザインが可能になるだろう。物体の中に導電性要素を印刷する能力によって、埋め込まれたセンサおよび電子機器の可能性を与えることができる。
【0004】
積層造形の一般的な技術は、加熱したノズルを介した溶融ポリマーの押出成型を利用する。この方法は、例えば、連続押出成型のためにフィラメントが加熱領域に供給される熱溶解積層法(FDM)で使用される。三次元物体を作成するために、溶融ポリマーを構築プレートの上に層ごとに堆積させることができる。現時点で、導電性を示すフィラメント材料は市場には非常にわずかしか存在せず、入手可能なものは導電率が比較的低く、潜在的な用途の範囲を限定する。この材料は、典型的には、絶縁性ポリマー基材の中にある導電性材料が入り込んで網目構造を形成し、電子が連続した経路を流れるように構築される。この導電性の網目構造の形成は、導電性粒子がポリマー基材内に整列する方法を限定する。これらの材料は、学術研究界および産業界の両方で広範囲に開発されてきたが、典型的には、中に入り込む網目構造を形成するのに必要な導電性添加剤の量をできるだけ少なくすることに注目が向けられており、導電性は比較的低い。
【0005】
高い導電率を示す新規可塑性コンポジット材料は、当該技術分野で歓迎される進歩であろう。このような材料は、積層造形の分野に顕著な影響を与えるだろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態は、導電性ポリマーコンポジットに関する。このコンポジットは、熱可塑性ポリマーと、カーボンナノチューブと、少なくとも1つの電子供与分子と、少なくとも1つの電子受容分子とを含む。
【0007】
本開示の別の実施形態は、三次元印刷の方法に関する。この方法は、三次元プリンタに、熱可塑性ポリマーと、カーボンナノチューブと、少なくとも1つの電子供与分子と、少なくとも1つの電子受容分子とを含むコンポジットを提供することを含む。コンポジットを加熱し、加熱したコンポジットを構築プラットフォームの上に押出成型し、三次元物体を作成する。
【0008】
本開示のさらに別の実施形態は、導電性ポリマーコンポジットフィラメントに関する。このフィラメントは、熱可塑性ポリマーと、カーボンナノチューブと、少なくとも1つの電子供与分子と、少なくとも1つの電子受容分子とを含む。
【0009】
本出願の組成物は、以下の1つ以上の利点を示す。3D印刷用途、例えば、熱溶解積層法(FDM)のためのフィラメントの改良された導電率;改良された3D印刷の加工能。
【0010】
上の一般的な記載および以下の詳細な記載は、両方とも例示であり、単なる説明であり、特許請求の範囲に記載されるような本教示を制限するものではないことを理解すべきである。
【0011】
添付の図面は、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成し、本教示の実施形態を説明し、本記載とともに本教示の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の組成物を用いて作られたフィラメントを使用する三次元プリンタを示す。
【
図2】
図2は、本開示の一例のカーボンナノチューブと電子供与体と電子受容体とを含む熱可塑性材料の相乗的な効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面のいくつかの詳細は単純化されており、厳格な構造的な正確性、詳細および縮尺を維持するのではなく、本実施形態の理解を促進するために描かれていることを注記すべきである。
【0014】
本教示の実施形態について詳細に参照し、その例を添付の図面に示す。以下の図面では、全体で同一の要素を示すために同じ参照番号を使用した。以下の記載では、その一部を生成する添付の図面を参照し、本教示を実施し得る特定の例示的な実施形態を説明することによって示される。従って、以下の記載は、単なる例示である。
【0015】
本開示の一実施形態は、導電性ポリマーコンポジットに関する。このコンポジットは、熱可塑性ポリマーと、カーボンナノチューブと、少なくとも1つの電子供与分子と、少なくとも1つの電子受容分子とを含む。
【0016】
三次元印刷に有用な任意の適切な熱可塑性ポリマーを本開示のコンポジットに使用することができる。コンポジットは、単一のポリマーまたは熱可塑性ポリマーの混合物を含んでいてもよく、本明細書に開示される任意の熱可塑性ポリマーの混合物を含む。一実施形態において、熱可塑性ポリマーは、アクリレート単位、カルボン酸エステル単位、アミド単位、乳酸単位、ベンズイミダゾール単位、炭酸エステル単位、エーテル単位、スルホン単位、アリールケトン単位、アリールエーテル単位、アリールアルキル単位、エーテルイミド単位、エチレン単位、フェニレンオキシド単位、プロピレン単位、スチレン単位、ハロゲン化ビニル単位およびカルバメート単位からなる群から選択される少なくとも1つの繰り返し単位を含む。一実施形態において、熱可塑性ポリマーは、コポリマー、例えば、上に列挙した任意の繰り返し単位の2つ以上のコポリマーである。一例として、熱可塑性ポリマーは、ポリアクリレート、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルケトン、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエチレン、例えば、ポリエチレンおよびポリ(エチレン−コ−酢酸ビニル)、ポリフェニレンオキシド、ポリプロピレン、例えば、ポリプロピレンおよびポリ(フッ化ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロピレン)、ポリスチレン、例えば、ポリスチレン、ポリ(スチレンイソプレンスチレン)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)およびポリ(スチレンエチレンブチレンスチレン)(SEBS)、ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸(PLA)およびポリカプロラクトン、ポリウレタン、ポリアミド、例えば、ナイロン、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)およびポリ塩化ビニルからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーを含んでいてもよい。一実施形態において、熱可塑性ポリマーは、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)またはPLAを含まない。
【0017】
一実施形態において、熱可塑性ポリマーは、ポリアクリレートおよびアクリレートのコポリマー、例えば、アクリレートのブロックコポリマーからなる群から選択される。アクリレートコポリマーは、少なくとも1つのアクリレートモノマーと、場合により、1つ以上のさらなるモノマー(例えば、熱可塑性ポリマーに使用するために上に列挙した任意のモノマー)を含んでいてもよい。このようなポリマーを、望ましい程度の柔軟性を有するように配合してもよい。一実施形態において、ポリマーは、ポリエステル、例えば、ポリカプロラクトンであってもよい。
【0018】
三次元印刷プロセスでコンポジットが機能するような任意の適切な量で、熱可塑性ポリマーがコンポジットに含まれていてもよい。適切な量の例としては、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、約10重量%〜約90重量%、例えば、約40〜約80重量%、約40〜約70重量%の範囲の量が挙げられる。
【0019】
コンポジットは、望ましい導電率を与えるような任意の適切な量でカーボンナノチューブと、電子供与分子と、電子受容分子とを含んでいてもよい。カーボンナノチューブの量の例としては、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、約1重量%〜約40重量%、例えば、約2重量%〜約20重量%、または約5重量%〜約15重量%の範囲の量が挙げられる。カーボンナノチューブの量がさらに多いと、特に、使用される熱可塑性樹脂の種類および印刷プロセスの種類によっては、3Dプリンタによる組成物の処理能が下がる場合がある。従って、一実施形態において、20重量%以下、例えば、10重量%以下の濃度のカーボンナノチューブが好ましいだろう。電子供与分子の例の量としては、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、約0.5重量%〜約50重量%、例えば、約5重量%〜約45重量%、または約10重量%〜約40重量%、または約15重量%〜約30重量%の範囲の量が挙げられる。電子受容分子の例の量としては、導電性ポリマーコンポジットの合計重量を基準として、約0.1重量%〜約10重量%、例えば、約0.2重量%〜約5重量%、または約0.3重量%〜約2重量%の範囲の量が挙げられる。
【0020】
任意の適切なカーボンナノチューブを使用してもよい。適切なカーボンナノチューブの例としては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、およびこれらの混合物が挙げられる。一実施形態において、カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブである。カーボンナノチューブの市販の供給源としては、例えば、CHEAPTUBES(商標)またはNANOCYL(商標)から入手可能なカーボンナノチューブ、例えば、Nanocyl 7000が挙げられる。
【0021】
電子供与分子と、電子受容分子とが、電荷移動複合体を生成してもよく、電荷移動複合体は、カーボンナノチューブと組み合わせて、熱可塑性組成物の導電性を高める。任意の適切な種類の電子供与体と電子受容体を使用してもよい。一実施形態において、電子供与体は、低分子半導体であってもよい。適切な電子供与体の例としては、三級アリールアミン、ベンジジンおよびその誘導体、例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(アルキルフェニル)−1,1−ビフェニル−4,4’−ジアミンまたはN,N’−ビス(4−メチルフェニル)−N,N’−ビス(4−エチルフェニル)−[1,1’−(3,3’−ジメチル)ビフェニル]4,4’−ジアミン、またはこれらの組み合わせが挙げられ、誘導体としては、例えば、誘導体が共役構造を維持し、電子供与体として作用する限りにおいて、三級アリールアミンまたはベンジジンの1つ以上のフェニル環の水素原子をハロゲン化物、アミン、アルデヒド、エーテル、ホウ酸またはさらなるフェニル環で置き換えたものが挙げられる。一実施形態において、少なくとも1つの電子受容体は、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラシアノエチレン(TCNE)またはキノン、およびこれらの誘導体、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるドーパントであり、誘導体としては、誘導体が共役のままであり、電子受容体として作用する限りにおいて、TCNQ、TCNEまたはキノンの水素原子を、他の原子またはラジカル、例えば、塩素原子、ヒドロキシルラジカル、シアノラジカルまたは任意の他の適切なラジカルで置き換えたものが挙げられる。
【0022】
本開示の導電性ポリマーコンポジットは、熱可塑性の処理、分散剤および界面活性剤の流れを管理するために、任意の他の適切な任意要素の成分、例えば、担体液体、可塑剤、および他のそのような要素を任意の望ましい量で含んでいてもよい。本開示の明確に引用されていない成分は、本明細書に開示される導電性ポリマーコンポジットに限定されてもよく、および/または本明細書に開示される導電性ポリマーコンポジットから除外されていてもよい。従って、熱可塑性ポリマー、カーボンナノチューブ、電子供与体および電子受容体の量は、本明細書に引用される任意要素の成分を含むか、または含まずに、本開示のコンポジットに使用される全成分の90重量%〜100重量%、例えば、95重量%〜100重量%、または98重量%〜100重量%、または99重量%〜100重量%、または100重量%になるように加えてもよい。
【0023】
本開示のコンポジットは、任意の適切な形態であってもよい。一実施形態において、コンポジットは、導電性ペーストである。ペーストは、室温でペーストであってもよく、またはペーストのように流動させるために加熱することが必要な材料であってもよい。一実施形態において、ペーストは、少なくとも1つの担体液体を含む。一実施形態において、担体液体は、1つ以上のペースト成分を溶解することができる溶媒であってもよい。別の実施形態において、担体液体は、溶媒ではない。ペーストに適した担体液体としては、例えば、トルエン、ピロリドン(例えば、N−メチルピロリドン、1−シクロヘキシル−2−ピロリドン)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミドジメチルスルホキシドおよびヘキサメチルホスホラミドが挙げられる。担体液体は、ペースト中に任意の適切な量で、例えば、濡れたコンポジットペーストの合計重量を基準として約0.5重量%〜約60重量%の量で含まれていてもよい。ペーストに含まれ得る任意要素の添加剤は、例えば、担体液体および他の導電性添加剤に加え、分散剤、界面活性剤、他の溶媒である。
【0024】
代替的な実施形態において、コンポジットは、乾燥したコンポジット(例えば、液体担体を含まない)の合計重量を基準として、5重量%未満、例えば、3重量%未満、2重量%未満、または1重量%未満の液体担体を含む、乾燥したコンポジットの形態であってもよい。乾燥したコンポジットは、溶媒を用いて作られてもよく、次いで、任意の方法によって(例えば、加熱、減圧および/または他の液体除去技術によって)溶媒を除去する。または、コンポジットは、無溶媒処理技術を用い、担体液体または溶媒を用いずに製造することができる。
【0025】
コンポジットは、バルク導電率が、0.7S/cmより大きく、例えば、0.8S/cmより大きい。バルク導電率は、以下の式を用いて計算される。
σ = L/(R*A) (1)
式中、
σは、バルク導電率であり;
Lは、フィラメントの長さであり;
Rは、押出成型されたフィラメントの測定された抵抗であり;
Aは、フィラメントの断面積(πr
2)であり、ここで、rは、フィラメントの半径である。
【0026】
抵抗Rは、コンポジットから作られる押出成型されたフィラメントを作成することによって測定することができる。フィラメントの先端に銀を塗り、試験装置との良好な電気接続を与えるが、積層造形にフィラメントを使用する場合、塗ることは必須ではないだろう。次いで、フィラメントの長さ方向に沿って、抵抗を測定することができる。次いで、フィラメントの寸法およびRの測定値を使用し、コンポジットのバルク導電率(σ)を計算することができる。
【0027】
本開示のコンポジットを任意の適切な方法によって製造することができる。例えば、溶融混合技術を用い、熱可塑性ポリマーを、カーボンナノチューブ、電子供与体および電子受容体と合わせてもよい。このような組成物を混合するための他の適切な技術は、当該技術分野でよく知られている。
【0028】
本開示は、三次元印刷の方法にも関する。例えば、フィラメント印刷(例えば、FDM)またはペーストの押出成型のような任意の種類の三次元印刷を使用してもよい。この方法は、三次元プリンタに本開示の任意の導電性ポリマーコンポジットを提供することを含む。コンポジットは、三次元印刷に有用な任意の適切な形態、例えば、フィラメントまたはペーストであってもよい。導電性ポリマーを、押出成型に適した溶融状態になるまで加熱してもよい。次いで、加熱した導電率ポリマーを、基材の上に押出成型し、三次元物体を作成する。
【0029】
まず、コンポジットから、所望の形状および寸法を有するフィラメントを作成することによって(例えば、押出成型または任意の他の適切なプロセスによって)本開示の導電性ポリマーコンポジットをFDMプロセスに使用してもよい。フィラメントは、3D FDMプリンタにフィラメントを入れ、印刷することができる任意の適切な形状を有していてもよい。最初に供給したときのフィラメントは、その厚みTよりかなり長い連続的な長さを有していてもよく(
図1に示される)、例えば、厚みに対する長さの比率は、1に対して100より大きく、例えば、1に対して500より大きく、または1に対して1000以上であり、Tは、フィラメントの最も小さな厚み寸法である(例えば、フィラメントが円形の断面を有する場合は直径)。任意の適切な厚みを使用してもよく、厚みは、使用する3Dプリンタに依存して変わるだろう。一例として、厚みは、約0.1mm〜約10mm、例えば、約0.5mm〜約5mm、または約1mm〜約3mmの範囲であってもよい。
【0030】
本開示のフィラメントを使用する三次元プリンタ100の一例を
図1に示す。三次元プリンタ100は、フィラメント104を液化部106に供給するためのフィーダー機構102を備えている。液化部106は、フィラメント104を溶融し、得られた溶融プラスチックを、ノズル108を介して押出成型し、構築プラットフォーム110の上に堆積させる。フィーダー機構102は、フィラメント104を供給することができるローラーまたは任意の他の適切な機構、例えば、フィラメントのスプール(図示せず)を備えていてもよい。液化部106は、フィラメントを加熱するための任意の技術、例えば、加熱要素、レーザーなどを使用してもよい。
図1に示される三次元プリンタ100は、単なる例であり、任意の種類の三次元プリンタを使用し、本開示のフィラメントを堆積させてもよい。
【実施例】
【0031】
実施例1
ツインスクリュー押出成形機を用い、30rpmで30分間、導電性添加剤を含み、22重量%の電子供与分子(N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(アルキルフェニル)−1,1−ビフェニル−4,4’−ジアミン、mTBDとも呼ばれる)、0.4重量%の電子受容分子(テトラシアノキノジメタン、TCNQとも呼ばれる)および11重量%の多層カーボンナノチューブ(MWNT)を含むポリマーベース(ポリカプロラクトン)の溶融混合によって導電性ポリマーコンポジットを調製した。得られた材料を低温粉砕し、Melt Flow Indexer(MFI)および改変されたダイを用い、粉砕したコンポジットを押出成型してフィラメントにした。MFIで押出成型するための条件は、最終的なフィラメントを調製するために、1.8mmのオリフィスおよび16.96kgのおもりを含んでいた(MFIのおもりは、押出成型のための力を与える)。最終的なフィラメントは、直径が約1.75mmであった。
【0032】
実施例2
バルク導電率を計算するために、実施例1の押出成型されたフィラメントの10cm片の末端に銀塗料を塗り、これを使用し、抵抗を測定した。デジタルマルチメーターを用い、抵抗の測定を終了した。上の式1を用いて計算すると、バルク導電率は、約0.89S/cmと計算された。
【0033】
比較例A
実施例1と同様のコンポジットを作成したが、10重量%のMWNTと、30重量%のmTBDを用いた(受容体ドーパントは加えなかった)。
【0034】
比較例B
実施例1と同様のコンポジットを作成したが、多層カーボンナノチューブを含まない。
【0035】
比較例C
実施例1と同様のコンポジットを作成したが、35重量%のmTBDを含み、多層カーボンナノチューブまたは受容体ドーパントを含まなかった。
【0036】
比較例D
実施例1と同様のコンポジットを作成したが、10重量%のMWNTを含み、低分子半導体または受容体ドーパントを含まなかった。
【0037】
実施例2に記載したのと同様に、それぞれの比較例A〜Dの組成物について、バルク導電率を測定した。結果を
図2に示す。この結果から、電子供与分子であるN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(アルキルフェニル)−1,1−ビフェニル−4,4’−ジアミン(mTBD)と、電子受容分子であるテトラシアノキノジメタン(TCNQ)およびMWNTとは、可塑性コンポジット中で互いに組み合わせると、相乗的な効果を有していることは明らかであった。電子供与分子であるmTBDは、MWNTが存在しない状態では、電子受容分子を含む場合、または含まない場合で(比較例BおよびC)、導電性コンポジットを生成しなかった。また、mTBDとMWNTを組み合わせたとき、導電率の顕著な増加は観察されなかった(比較例A)。
図1に示されるように、3種類すべての添加要素(mTBD、TCNQおよびMWNT)が存在する場合に、相対的に、mTBD、TCNQおよびMWNT単独の結果から予想される相加効果より大きな導電率の増加が観察された。従って、
図1のデータは、多層カーボンナノチューブと電荷移動複合体との相乗的な効果を示す。この材料は、改良された導電率を示しつつ、積層造形技術(3D印刷とも呼ばれる)のための加工能および適用可能性を維持する。
【0038】
本開示の広い範囲に記載する数値範囲およびパラメータは概算値であるが、具体例に記載する数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、任意の数値は、それぞれの試験測定で見出される標準偏差から必然的に得られる特定の誤差を本質的に含む。さらに、本明細書に開示するすべての範囲は、その範囲に包含される任意の部分範囲およびあらゆる部分範囲を包含することが理解されるべきである。
【0039】
本教示を1つ以上の実施の観点で示してきたが、添付の特許請求の範囲の精神および範囲から逸脱することなく、示されている実施例に対し、変更および/または改変を行ってもよい。それに加え、本教示の具体的な特徴が、いくつかの実施例の1つのみに関して開示されていてもよいが、このような特徴を、所望なように、任意の所与の機能または具体的な機能に有利な他の実施例の1つ以上の他の特徴と組み合わせてもよい。さらに、「〜を含む(including)」、「含む(includes)」、「〜を有する(having)」、「有する(has)」、「伴う(with)」という用語またはこれらの変形語をいずれかの詳細な記載および特許請求の範囲に使用する程度まで、このような用語は、「〜を含む(comprising)」という語句と同様の様式で包括的であることを意図している。さらに、本明細書の記載および特許請求の範囲では、「約」という語句は、変更によって、示されている実施形態に対するプロセスまたは構造と不整合がない限り、列挙した値をある程度変えてもよいことを示す。最終的に、「例示的な」は、理想的であると暗示されているのではなく、その記載が実施例として使用されることを示す。