(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
以前よりプランジャで燃料を圧送する燃料噴射ポンプは知られており、燃料の噴射量や燃料噴射時期等が電磁スピル弁の作動により制御される構成が公知となっている(例えば、特許文献1、2を参照。)。
【0003】
従来技術として示す
図7(a)を参照することで理解されるように、燃料噴射ポンプに適用される電磁スピル弁500は、スピル弁体510と、スピル弁体510が摺動可能に挿入される電磁弁本体520と、スピル弁体510の一端部に固定ボルト513によって固定される磁性体からなるアーマチャ530と、電磁弁本体520の一側に配置され、アーマチャ530を引き付ける電磁力を発生してスピル弁体510を摺動させるソレノイド540と、ソレノイド540と電磁弁本体520との間に設けられるアーマチャ530を収納するアーマチャ室550と、を備える。スピル弁体510は、スピル弁ばね511によってソレノイド540とは反対側に付勢される。アーマチャ室550は、スピル弁体510の中空部512と、スピル弁ばね511の空間を介して連通され、アーマチャ530に配設される連通孔531やアーマチャ530の外周部を通って燃料が流通可能に構成されている。
【0004】
そして、該電磁スピル弁500においては、ソレノイド540に磁力が発生して、アーマチャ530がソレノイド540に引き付けられると、スピル弁体510がスピル弁ばね511の付勢力に抗してソレノイド540側に摺動する。これにより、電磁スピル弁500が閉弁して、燃料の噴射が開始される。一方、ソレノイド540に磁力が発生しなくなって、アーマチャ530がソレノイド540に引き付けられなくなると、スピル弁体510がスピル弁ばね511の付勢力によってソレノイド540とは反対側に摺動する。これにより、電磁スピル弁500が開弁して、燃料の噴射が終了する。電磁スピル弁500においては、ソレノイド540に磁力を発生させてアーマチャ530を吸引した状態におけるアーマチャ530とソレノイド540の端面との隙間は、ソレノイド540の磁力をアーマチャ530により強く作用させるため、可能な限り狭く設定される。
【0005】
図7(a)を参照しながらさらに説明すると、該電磁スピル弁500を構成するソレノイド540は、磁性体からなるソレノイドコア541と、該ソレノイドコア541の凹部542に巻きつけられるソレノイドコイル543と、を有し、ソレノイドケース544のケース凹部545に対して絶縁性の樹脂(例えば、絶縁性ポリマ)からなるモールド560を充填してソレノイドコア541が埋設されて保持されることで構成される。ソレノイドコア541とソレノイドケース544とで形成される空間は、ソレノイドコア541の凹部542と連通していることから、当該空間にモールド560が充填されることにより凹部542にもモールド560が充填される。よって、アーマチャ530に対向する位置に位置付けられるソレノイドコイル543は凹部542に充填されるモールド560に覆われ、凹部542に充填されるモールド560の表面560Aと、ソレノイドコア541の端面541Aは面一に構成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、船舶等に利用される大型のディーゼルエンジンでは、A重油等に比べ粘度の高いC重油等の低質油が燃料として一般的に使用されるが、常温の状態では粘度が高すぎることから、燃料噴射ポンプで燃料を圧送する前に、ヒータで予熱して粘度を低下させ、燃料噴射ポンプに供給すると共に、該燃料噴射ポンプからエンジンの燃焼室に供給される。このように、燃料を予熱してから燃料噴射ポンプに供給すると、電磁スピル弁内は高温に曝されることになる。上記したように、アーマチャ530と、ソレノイド540との隙間は、ソレノイド540の磁力がアーマチャ530に対してより強力に作用するように、可能な限り狭い寸法に設定されることが好ましい。しかし、電磁スピル弁500の内部、特にアーマチャ室550の温度が高温になることで、凹部542に充填されているモールド560がソレノイドコア540の端面542よりも隆起すると、スピル弁体510がシート部に当接しないシート不良を起こし、所望の燃料噴量が正確に噴射されない問題が生じる。よって、シート不良を防止するためには、電磁スピル弁500が閉弁した際のアーマチャ530とソレノイド540との隙間を広く設定する必要が生じ、その場合はソレノイド540の磁力がアーマチャ530まで届きにくくなり、ソレノイド540の磁力をより大きなものに設定しなければならなくなるという問題が発生する。
【0008】
また、上記したように電磁スピル弁500は、ソレノイド540に磁力を発生させて閉弁すると共に、磁力が発生しないようにすることで開弁させられる。この際、アーマチャ530がアーマチャ室550内を高速で動作するため、アーマチャ530がソレノイド540から離反する方向に移動する際に、アーマチャ530とソレノイド540との間の狭い空間の圧力が急激に低下してキャビテーションが発生する。このキャビテーションの発生と消滅が繰り返されることにより、アーマチャ530とソレノイド540とで構成される空間においてキャビテーションエロージョンが発生してソレノイドコイル543を覆うモールド560が損壊するという問題がある。この問題は、電磁スピル弁500の閉弁時におけるアーマチャ530とソレノイド540との隙間が小さい程、すなわち当該隙間によって形成される空間容積が狭いほど顕著になる。この問題に対処すべく、
図7(b)に示すように、アーマチャ530に対して連通孔531を設けてアーマチャ室530内の燃料の流動を促したり、モールド560の表面の一部に肉抜き凹部561を形成したりして、キャビテーションエロージョンの発生を抑制することも試みられているが、この対策だけでは十分とはいえなかった。
【0009】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、燃料噴射ポンプの電磁スピル弁におけるシート不良を起こすことなく、また、キャビテーションエロージョンの発生を抑制することができる燃料噴射ポンプ、及び燃料噴射ポンプのソレノイドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、電磁スピル弁を備えた燃料噴射ポンプであって、該電磁スピル弁を構成するスピル弁体の一端部に配設されるアーマチャと、該アーマチャを引き付ける磁力を発生してスピル弁体を作動させるソレノイドと、を少なくとも含み、該ソレノイドは、ソレノイドコアの凹部にソレノイドコイルが巻きつけられて構成され、該アーマチャと対向する該ソレノイドコイルを覆うように該凹部に形成されるモールドの表面が、該ソレノイドコアの表面の高さに対して低く形成され
、該スピル弁体の一端部と、該アーマチャとは、該スピル弁体の一端部に対して固定ボルトが螺合されることにより該アーマチャの中心部が結合されるものであり、該固定ボルトには、該アーマチャに対向する該ソレノイド側の領域と、該スピル弁体の中空部と、を連通する貫通孔が設けられている燃料噴射ポンプが提供される。
【0012】
また、上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、電磁スピル弁を備えた燃料噴射ポンプであって、該電磁スピル弁を構成するスピル弁体の一端部に配設されるアーマチャと、該アーマチャを引き付ける磁力を発生してスピル弁体を作動させるソレノイドと、を少なくとも含み、該ソレノイドは、ソレノイドコアの凹部にソレノイドコイルが巻きつけられて構成され、該アーマチャと対向する該ソレノイドコイルを覆うように該凹部に形成されるモールドの表面が、該ソレノイドコアの表面の高さに対して低く形成され、該スピル弁体の一端部と、該アーマチャとは、一方が他方に対して直接螺合されることにより結合され、該スピル弁体及び該アーマチャには、該アーマチャに対向するソレノイド側の領域と、該スピル弁体の中空部と、を連通する貫通孔
が設け
られている燃料噴射ポンプが提供される。
【0013】
また、本発明によれば、本発明により提供される燃料噴射ポンプの電磁スピル弁を構成するソレノイドの製造方法であって、ソレノイドケースのケース凹部に対し、ソレノイドコアの凹部に巻きつけられたソレノイドコイルと共に、該ソレノイドコアを絶縁性の樹脂からなるモールドによって埋設する埋設工程と、該埋設工程によりソレノイドコアの凹部に充填された該モールドを、該ソレノイドコアの凹部の開口端部から所定の深さだけ除去することにより、該ソレノイドコアの表面の高さに対し、該モールドの表面が低くなるように段差を形成する段差形成工程と、を少なくとも含むソレノイドの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に基づいて構成された燃料噴射ポンプは、電磁スピル弁を構成するスピル弁体の一端部に配設されるアーマチャと、該アーマチャを引き付ける磁力を発生してスピル弁体を作動させるソレノイドと、を少なくとも含み、該ソレノイドは、ソレノイドコアの凹部にソレノイドコイルが巻きつけられて構成され、該アーマチャと対向する該ソレノイドコイルを覆うように該凹部に形成されるモールドの表面が、該ソレノイドコアの表面の高さに対して低く形成され
、該スピル弁体の一端部と、該アーマチャとは、該スピル弁体の一端部に対して固定ボルトが螺合されることにより該アーマチャの中心部が結合されるものであり、該固定ボルトには、該アーマチャに対向する該ソレノイド側の領域と、該スピル弁体の中空部と、を連通する貫通孔が設けられている
か、又は、該スピル弁体の一端部と、該アーマチャとは、一方が他方に対して直接螺合されることにより結合され、該スピル弁体及び該アーマチャには、該アーマチャに対向するソレノイド側の領域と、該スピル弁体の中空部と、を連通する貫通孔が設けられていることにより、ヒータで予熱された燃料が電磁スピル弁に供給されたとしても、電磁スピル弁のシート不良を起こすことなく所望の燃料噴射量がエンジンの燃焼室に供給することができ、さらには、アーマチャとソレノイドとの間に形成される空間容積をより確保することができることから、キャビテーションの発生を抑制することが可能になる。
【0015】
さらに、本発明に基づいて構成された燃料噴射ポンプのソレノイドの製造方法によれば、ソレノイドケースのケース凹部に対し、ソレノイドコアの凹部に巻きつけられたソレノイドコイルと共に、該ソレノイドコアを絶縁性の樹脂からなるモールドによって埋設する埋設工程と、該埋設工程によりソレノイドコアの凹部に充填された該モールドを、該ソレノイドコアの凹部の開口端部から所定の深さだけ除去することにより、該ソレノイドコアの表面の高さに対し、該モールドの表面が低くなるように段差を形成する段差形成工程と、を少なくとも含むソレノイドの製造方法が提供されることから、ヒータで予熱された燃料が電磁スピル弁に供給されたとしても、電磁スピル弁のシート不良を起こすことがないソレノイドを容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に基づいて構成された燃料噴射ポンプについて添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
先ず、本発明の第一実施形態に係る燃料噴射ポンプ1の全体構成について、
図1及び
図2により説明する。なお、
図1には、上下左右を示す矢印を示し、該矢印で示す方向に基づき、以下に述べる各部材の位置や方向等を説明する。
【0019】
図1に示すように、燃料噴射ポンプ1は、ポンプ本体部10と、電磁スピル弁20と、等圧弁部30と、を備える。燃料噴射ポンプ1は、例えば、C重油等の低質油が燃料として使用されるディーゼルエンジン(例えば、船舶に搭載されるディーゼルエンジン)に用いられる。
【0020】
ポンプ本体部10には、ポンプ本体11が備えられる。ポンプ本体11には、バレル孔111及びタペット室112が上下方向に連続して延びるように形成される。タペット室112の下端部は、ポンプ本体11下面にて開口する。タペット室112には、その下端開口部からタペット12が上下方向に摺動自在に挿入される。
【0021】
また、バレル孔111の上端部は、ポンプ本体11上面にて開口する。バレル孔111には、その上端開口部からプランジャバレル13が挿入される。プランジャバレル13の下端部は、バレル孔111から下方のタペット室112内に突出する一方、プランジャバレル13の上端部は、バレル孔111から上方に突出する。プランジャバレル13の上端部には、フランジ部131が形成される。プランジャバレル13は、フランジ部131を介してポンプ本体11上面に図示しないボルトで固定される。また、バレル孔111の上下中途部には、その孔径が拡大された拡径部が形成される。この拡径部とプランジャバレル13の外周面とで、燃料ギャラリ14が形成される。
【0022】
さらに、ポンプ本体11には、燃料ギャラリ14と接続されるエア抜き通路113、燃料入口114、及び燃料入口114と同一の平面上に並設される燃料出口(図示は省略する。)が形成される。燃料入口114は、図示しないフィードポンプと接続され、燃料入口114からは、前記フィードポンプによって圧送された燃料が燃料ギャラリ14内に送入される。エア抜き通路113の外端部はポンプ本体11の外部に開口しており、エア抜き通路113を閉塞するエア抜きボルト113aが着脱可能に取り付けられていることから、メンテナンス等の必要に応じ燃料ギャラリ14内に残存する空気を外部に抜くことができる。また、該燃料出口からは、燃料ギャラリ14から溢れ出た燃料が排出される。
【0023】
また、プランジャバレル13には、第一燃料供給路132及びプランジャ孔133が上下方向に連続して延びるように形成される。第一燃料供給路132の上端部は、プランジャバレル13の上面にて開口する。また、プランジャ孔133の下端部は、プランジャバレル13の下面にて開口する。プランジャ孔133には、その下端開口部からプランジャ15が上下方向に摺動自在に挿入される。プランジャ孔133の上端部には、その内周面とプランジャ15の上端面とで、加圧室135が形成される。
【0024】
また、プランジャ15の下端部は、プランジャ孔133から下方のタペット室112内に突出するとともに、下部ばね受け16を介してタペット12内の底部に固定される。また、バレル孔111から下方に突出するプランジャバレル13には、上部ばね受け17が外嵌される。上部ばね受け17と下部ばね受け16との上下間には、プランジャばね151が介装される。プランジャばね151によってタペット12が下方に付勢され、タペット12の下方に架設される図示しないカム軸上のカムにタペット12の下面が当接する。
【0025】
さらに、プランジャバレル13には、第一スピル油排出路134が燃料ギャラリ14側から上方向に延びるように形成される。第一スピル油排出路134の上端部は、プランジャバレル13の上面にて開口する一方、第一スピル油排出路134の下端部は、燃料ギャラリ14内にて開口する。
【0026】
また、電磁スピル弁20は、電磁弁本体21と、電磁弁本体21の右側面に配設されたスペーサ22を介してソレノイド23とから構成される。電磁弁本体21は、プランジャバレル13のフランジ部131上面に図示しないボルトで固定される。電磁弁本体21には、吐出弁室211、等圧弁ばね室212及び第二燃料供給路213が、上下方向に連続して延びるように形成される。吐出弁室211の上端部は、電磁弁本体21の上面にて開口する。また、第二燃料供給路213の下端部は、電磁弁本体21の下面にて開口する。
【0027】
さらに、電磁弁本体21には、スピル弁孔214が第二燃料供給路213と交差して電磁弁本体21を左右方向に貫通するように形成される。スピル弁孔214には、スピル弁体24が左右方向に摺動自在に挿入される。
【0028】
電磁スピル弁20をさらに拡大して示す
図2(a)から理解されるように、スピル弁孔214の右端部には、スピル弁ばね室214Aが形成される。スピル弁ばね室214Aの右端部は、電磁弁本体21の右側面にて開口する。また、スピル弁孔214の左側において、その左端部には、インサートピース室214B、インサートピース室214B右側には、連通室214Cが形成される。インサートピース室214Bの左端部は、電磁弁本体21の左側面にて開口する。また、連通室214Cは、スピル弁孔214の左方側の中途部が、左方に向かって段差部を介して段差状に拡径されて形成される。連通室214Cの段差部には、弁座214Dが形成される。なお、弁座214Dには、スピル弁体24に形成される後述するシール面241が着座する。
【0029】
さらに、電磁弁本体21には、第二スピル油排出路215が連通室214C側から下方向に延びるように形成される。第二スピル油排出路215の上端部は、連通室214C内にて開口する一方、第二スピル油排出路215の下端部は、電磁弁本体21の下面にて開口する。第二燃料供給路213と第二スピル油排出路215とは、スピル弁孔214を介して連通される。第二燃料供給路213及び第二スピル油排出路215は、それぞれプランジャバレル13の第一燃料供給路132及び第一スピル油排出路134と接続される(
図1も併せて参照。)。
【0030】
また、インサートピース室214Bには、その左端開口部から略円環状のインサートピース25が挿入されるとともに、これに続いてストッパ26が挿入される。ストッパ26によってインサートピース25がインサートピース室214B内に固定される。インサートピース25には、スピル弁体24が左右方向に摺動自在に挿入される。
【0031】
また、スピル弁体24には、中空部242がスピル弁体24の軸部を左右方向に貫通するように形成される。中空部242の左端部は、インサートピース25内にて開口する一方、中空部242の右端部は、スペーサ22に形成されたアーマチャ室221内にて開口する。また、スピル弁体24の軸方向中途部外周には、縮径部243が形成される。縮径部243は、スピル弁体24の軸方向中途部外周が段差状に縮径されて形成される。縮径部243の左右両側の段差部のうち左側の段差部には、弁座214Dに着座するシール面241が形成される。また、スピル弁体24の右端部には、アーマチャ247が設けられる。アーマチャ247は、スピル弁体24の右端部の軸部に形成された雌ねじ部244Aに締結する固定ボルト248を介してスピル弁体24の中空部242の右端開口部に固定されるとともに、アーマチャ室221に収納される。アーマチャ247には、アーマチャ室221内をアーマチャ247が移動する際に、アーマチャ247の左方側と右方側の燃料の移動を許容する連通孔247Aが設けられている。そして、アーマチャ247を固定する固定ボルト248には、本発明に基づいて形成されたスピル弁体24の中空部242とアーマチャ室221とを連通する貫通孔248Aが形成されている。
【0032】
アーマチャ室221は、右方からの側面視で略円形状に形成されるとともに、その左右両端部がそれぞれスペーサ22の左右両側面にて開口する。アーマチャ室221の右端開口部を通じて、アーマチャ247とソレノイド23とが対向する。また、アーマチャ室221の左端開口部には、突出孔281が形成されたスペーサ側ばね受け28が嵌設される。スペーサ側ばね受け28の突出孔281からは、スピル弁体24の突出部244が突出する。
【0033】
突出部244は、スピル弁体24の右端部が右方に向かって段差状に縮径されて形成される。突出部244の外周面と突出孔281の内周面との間には、アーマチャ室221とスピル弁ばね室214Aとを連通させる隙間が形成される。突出部244の段差部には、スピル弁体側ばね受け29が外嵌される。スピル弁体側ばね受け29とスペーサ側ばね受け28との左右間には、スピル弁ばね245が介装される。スピル弁ばね245によってスピル弁体24が左方(ソレノイド23とは反対側)に付勢される。
【0034】
また、等圧弁部30には、等圧弁ホルダ31が備えられる。等圧弁ホルダ31は、電磁弁本体21上面に図示しないボルトで固定される。等圧弁ホルダ31の下部には、吐出弁ばね室311が上下方向に延びるように形成される。吐出弁ばね室311の下端部は、等圧弁ホルダ31の下面にて開口する。吐出弁ばね室311は、電磁弁本体21の吐出弁室211と接続される。これら吐出弁室211及び吐出弁ばね室311には、吐出弁32が収納される。
【0035】
また、等圧弁ホルダ31の上下中途部には、吐出通路312が上下方向に延びるように形成される。吐出通路312を介して、等圧弁ホルダ31の上部には、図示しない高圧管継手が取り付けられる。
【0036】
また、等圧弁ばね室212には、等圧弁33が収納される。等圧弁33は、等圧弁体331、等圧弁ばね332、等圧弁下部ばね受け333、及び等圧弁上部ばね受け334から構成される。等圧弁体331は、等圧弁通路331Bの下端開口部に着座するように、等圧弁上部ばね受け334を介して等圧弁ばね332によって上方へ付勢される。等圧弁ばね332の下端部は、等圧弁下部ばね受け333を介して等圧弁ばね室212内の下面に固定される。
【0037】
また、ソレノイド23は、磁性体からなるソレノイドコア231と、該ソレノイドコア231の凹部231Aに巻きつけられるソレノイドコイル232と、を備え、ソレノイドケース233のケース凹部233Aに対して絶縁性ポリマからなるモールド234を介して保持されることで構成される。ソレノイドコア231は側方視でE型形状をなし(Eコアとも呼ばれる。)、モールド234が充填されるソレノイドコア231とソレノイドケース233とで形成される空間は、ソレノイドコイル232が配設される凹部231Aと連通していることから、ケース凹部233Aにモールド234が充填されることにより、ソレノイドコア231の凹部231Aにもモールド234が充填される。ここで、本発明に基づいて構成されるソレノイド23では、アーマチャ247と対向する該ソレノイドコイル232を覆うように凹部231Aに形成されるモールド234の表面234Aは、アーマチャ247と対向するソレノイドコア231の表面231Bの高さに対して低くなるように形成され、ソレノイドコア231の表面231Bとモールド234の表面234Aとの間には段差が形成される。この段差によって、ソレノイドコア231の凹部231Aには空間部231Cが構成される。なお、
図2(b)には、ソレノイド23を電磁スピル弁20から取り外し、アーマチャ247に対向する側から見た外観の斜視図を示している。
図2(b)から理解されるように、ケース凹部233Aの開口部は略円形状をなし、ソレノイドコア231は、充填されたモールド234から3つの表面231Bが表出すると共に、ソレノイドコア231の凹部231Aには、空間部231Cが形成される。なお、
図2(b)においては、説明の都合上、空間部231Cを強調して記載している。
【0038】
本発明の燃料噴射ポンプ1は、概ね以上のように構成されており、燃料噴射ポンプ1の各作動態様(燃料噴射ポンプ1が燃料を噴射する場合、及び燃料噴射ポンプ1が燃料の噴射を停止する場合)について、
図3により説明する。なお、
図3における黒塗り矢印は、燃料の流れを示す。
【0039】
先ず、燃料噴射ポンプ1を構成する電磁スピル弁20が燃料を噴射する場合は、
図3(a)に示すように、図示しないフィードポンプからの燃料が、燃料入口114から燃料ギャラリ14に送られ、燃料ギャラリ14内の燃料が、加圧室135に送られる。なお、矢印で示していないが、燃料ギャラリ14内の燃料は、スピル弁体24が左方にあるときに、燃料ギャラリ14から第一スピル油排出路134、第二スピル油排出路215、縮径部243、第二燃料供給路213、第一燃料供給路132の順に流れて、加圧室135に送られる。そして、プランジャ15が図示しないカムの回転に従って上方向に摺動されて、加圧室135内の燃料が加圧されると、この燃料が加圧室135から第一燃料供給路132、第二燃料供給路213の順に流れる。
【0040】
この際、電磁スピル弁20においては、図示しない制御装置からの信号に基づいてソレノイド23に磁力が発生し、
図3(a)に示すように、アーマチャ247がソレノイド23に引き付けられる。すると、アーマチャ247を介して、スピル弁体24がスピル弁ばね245の付勢力に抗して右方(ソレノイド23側の方向)に摺動される。そして、スピル弁体24のシール面241がスピル弁孔214の弁座214Dに着座し、電磁スピル弁20が閉弁する。これにより、第二燃料供給路213と第二スピル油排出路215との連通が遮断されるため、第二燃料供給路213内の燃料圧力が低下することなく維持される。そして、加圧室135、第一燃料供給路132、第二燃料供給路213、及び等圧弁ばね室212内が、燃料で加圧された状態となる。
【0041】
そして、吐出弁32においては、吐出弁体321を上方に付勢する力(等圧弁ばね室212内の燃料圧力)が、吐出弁体321を下方に付勢する力(吐出弁ばね322の付勢力)よりも大きくなると、吐出弁体321が上方に移動して吐出弁室211の下面から離間し、吐出弁32が開弁する。ここで、等圧弁33は、閉弁しているため、等圧弁ばね室212内の燃料は、等圧弁通路331Bを流れずに、吐出弁体321の外周を通り、吐出弁ばね室311、吐出通路313の順に流れて、図示しない上方に連結された高圧管継手から吐出される。
【0042】
一方、燃料噴射ポンプ1が燃料の噴射を終了する場合は、
図3(b)に示すように、電磁スピル弁20において、前記制御装置からの信号に基づいてソレノイド23に磁力が発生しなくなると、アーマチャ247がソレノイド23に引き付けられなくなる。すると、スピル弁ばね245の付勢力によってスピル弁体24がストッパ26に当接するまで左方(ソレノイド23とは反対側の方向)に摺動される。そして、スピル弁体24のシール面241がスピル弁孔214の弁座214Dから離間し、電磁スピル弁20が開弁する。これにより、第二燃料供給路213と第二スピル油排出路215とが、スピル弁孔214を介して連通されるため、第二燃料供給路213内の燃料圧力が低下する。そして、第二燃料供給路213内の燃料は、スピル弁孔214、第二スピル油排出路215、第一スピル油排出路134の順に流れて、燃料ギャラリ14に排出され燃料の噴射が停止される。なお、スピル弁孔214内の燃料は、スピル弁孔214内周面とスピル弁体24外周面との隙間等から、アーマチャ室221内に漏れ出る。
【0043】
ここで、
図3(a)に示す状態から、
図3(b)に示す状態、すなわち、制御装置からの信号に基づいてソレノイド23に磁力が発生している状態から磁力が発生しない状態とされ、アーマチャ247がソレノイド23に引き付けられなくなり、スピル弁ばね245の付勢力によってスピル弁体24がストッパ26に当接するまで左方に摺動される際のアーマチャ室221におけるアーマチャ247の動作及び燃料の流動について、
図4に基づいて説明する。
【0044】
図4に示すように、アーマチャ247がソレノイド23に引き付けられなくなり、スピル弁ばね245の付勢力によってスピル弁体24がストッパ26側、すなわち、左方に摺動されると、アーマチャ室221内におけるアーマチャ247が黒塗り矢印の方向に高速で移動し、アーマチャ247の左側にあった燃料がアーマチャ247の外周部と連通孔247Aを通ってアーマチャ247の右側に移動する。さらに、本発明によって構成される固定ボルト248に形成された貫通孔248Aを介してスピル弁体24の中空部242内からもアーマチャ247とソレノイド23とで構成される空間に燃料が供給される。上記したように、本実施形態では、ソレノイドコア231の凹部231Aには空間部231Cが構成されることによって、アーマチャ237とソレノイド23との間の空間の容積がより大きくなるように確保されており、高速で移動するアーマチャ247によって、アーマチャ247とソレノイド23とにより形成される空間が負圧になることが抑制され、キャビテーションの発生が抑制される。
【0045】
また、本実施形態のソレノイド23では、アーマチャ247と対向する該ソレノイドコイル232を覆うように凹部231Aに形成されるモールド234の表面234Aが、ソレノイドコア231の表面231Bとモールド234の表面234Aとの間に段差が形成されることで、アーマチャ247と対向するソレノイドコア231の表面231Bの高さに対して低くなるように形成されている。これにより、低質の燃料(C重油)等を用いる場合に燃料が予熱されて高温状態で供給され、モールド234が加熱により隆起しても、ソレノイドコア231の表面231Bよりもアーマチャ237側に突出することが防止される。したがって、アーマチャ247がソレノイド23に引き付けられる際の両者の間隙を極限まで小さくしたとしても、シート不良を発生することがない。
【0046】
本発明は、上記した実施形態に限定されず、本発明の技術的範囲に属するかぎり種々の変形例を想定することができる。
図5を参照しながら電磁スピル弁20の他の実施形態について説明する。なお、
図5に示す他の実施形態では、スピル弁体24’と、アーマチャ247’以外の構成は、上記した実施形態と同一であるため、相違する点の説明のみ行い、他の詳細な説明については省略する。
【0047】
図5に示すように、他の実施形態におけるスピル弁体24’の突出部244’の先端部には、雄ねじ部244’Aが形成されている。さらに、アーマチャ247’の中心部には、スピル弁体24’の雄ねじ部244’Aが螺合されるように雌ねじ部247’Bが形成される。さらに、突出部244’には一端部まで貫通する貫通孔244’Bが形成され、アーマチャ247’の中心部にもソレノイド23側に形成される間隙部に連通する貫通孔247’Cが形成される。これにより、貫通孔244’Bと貫通孔247’Cとを介して、アーマチャ247’とソレノイド23とで形成される領域と、スピル弁体24’の中空部とが連通される。当該貫通孔244’Bと貫通孔247’Cとにより、上記した実施形態の固定ボルト248に形成された貫通孔248Aと同様の効果を奏することができ、また、当該実施形態によれば、部品点数を削減することが可能になる。
【0048】
また、本発明は、上記した他の実施形態にも限定されず、例えば、アーマチャ247’側に雄ねじ部を形成し、スピル弁体24’側に雌ねじ部を形成して直接的に螺合して結合するものであってもよい(図示は省略する。)。
【0049】
図6を参照しながら、本発明に適用されるソレノイド23の製造方法について、以下に説明する。
【0050】
まず、ソレノイド23を構成するソレノイドケース233には、ソレノイドコア231を保持するケース凹部233Aが形成されており、このケース凹部233Aに絶縁性ポリマからなるモールド234を充填して、ソレノイドコア231を覆うように埋設する埋設工程を実施して、
図6(a)に示すソレノイド23を得る。
図6(a)に示されているように、ソレノイドコア231の凹部231Aにはソレノイドコイル232が巻き付けられており、ソレノイドコア231の凹部231Aにおいてソレノイドコイル232がモールド234によって覆われ、ソレノイドコイル232を覆うモールド234の表面と、ソレノイドコア231の表面231Bとは、面一に形成されている。
【0051】
次いで、該埋設工程が施されたソレノイド23に対して、ソレノイドコア231の凹部231Aに充填されたモールド234を、ソレノイドコア231の凹部231Aの開口端部から所定の深さだけ除去することにより、ソレノイドコア231の表面231Bの高さに対し、凹部231A内に充填されたモールド234の表面234Aが低くなるように段差を形成する段差形成工程を実施する。該段差形成工程は、例えば、
図6(b)に示すように、エンドミル400を図示しないフライス加工装置により回転駆動して、モールド234を、ソレノイドコア231の凹部231Aの開口端部から所定の深さ(例えば、0.5mm程度)だけ除去する。この際、凹部231Aの開口端部から所定の深さにおける内壁には、モールド234を残すことなく除去する(
図2(b)も合わせて参照されたい。)。
【0052】
上記した埋設工程、段差形成工程を実施することにより、ソレノイドコア231の凹部231Aの開口端部から所定の深さだけ低くなった空間部231Cが形成され、キャビテーションの発生を抑制するための空間容積が確保されると共に、予熱された燃料が供給されモールド234が隆起しても、ソレノイドコア231の表面231Bの高さよりも突出することが抑制され、スピル弁体24のシート不良が生じない電磁スピル弁20のソレノイド23が製造される。