(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
老化細胞により少なくとも部分的に引き起こされたか若しくは介在された老化関連疾患の治療における使用のために構成された、プロテアソームの活性を阻害する量の化合物を含む、単位用量の薬学的組成物であって、
該化合物が、請求項1〜16のいずれか1項に記載の化合物であり、
該組成物は、該疾患が現れている対象における組織に投与するために構成された、該化合物の製剤を含み、
該組成物の製剤、および該単位用量における該化合物の量は、該対象における組織中若しくは組織周辺の老化細胞を選択的に除去するのに有効であるように該単位用量を構成し、それによって、単一用量で組織に投与した場合に、該対象において副作用を引き起こすことなく、該疾患の1つまたは複数の兆候または症状の重症度を減少させる、
薬学的組成物。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
老化細胞薬は、老化または細胞損傷に関係する様々な疾患が、老化細胞により引き起こされる、あるいは介在されるというパラダイムを包含する。老化細胞は、もはや複製しないが、病態生理をもたらす因子の分泌を含む分泌表現型を有する細胞である。本開示は、プロテアソーム経路が老化細胞において活性であり、BclまたはMDM2のような他の経路に対する代替手段として、標的組織から老化細胞を除去するための有効な手段として使用され得ることを示す。本発明の一部として、プロテアソーム阻害物質の新規なファミリーを提供する。
【0015】
プロテアソームの機能
プロテアソームは、それぞれが7つのサブユニットを有する4つの積み重なった環(2つは外側のα1-7環であり2つは内側のβ1-7環である)が配置された、28個のサブユニットからなるタンパク質複合体である。触媒的プロテアーゼ活性は、3つのβサブユニットに由来する。キモトリプシン様(CT-L)活性(β5)、トリプシン様(T-L)活性(β2)、およびカスパーゼ様活性またはポスト酸(post-acid)(PA)活性(β1)。
【0016】
図8は、細胞におけるプロテアソームの役割の図式的な描写を提供する。プロテアソームは、ユビキチン-プロテアソームシステム(UPS)のエフェクター成分であり、ユビキチン化したタンパク質を、タンパク質分解によって分解する。ユビキチン化は翻訳後修飾であり、ユビキチンタンパク質が、目印としてリジン残基に共有結合している。一連の酵素により、E1活性化酵素、E2結合酵素、およびE3転移酵素を伴う反応の連鎖が実施される。ユビキチン自体は、さらなるユビキチンユニットの付加によりユビキチン化のサイクルを伝搬する働きをし得るリジン残基を含む。K48およびK11におけるユビキチン化によって、プロテアソームによって分解するタンパク質が特徴付けられる。分解のために特徴付けられたそれらのユビキチン化されたタンパク質は、シグナル経路成分および誤った折畳み構造のタンパク質または損傷したタンパク質からなっている。
【0017】
UPS経路は、生存に必要なアミノ酸を細胞に補充するために重要である。老化細胞においては、損傷(酸化)したタンパク質およびユビキチン化されたタンパク質の両方のレベルの増加に伴って、プロテアソームのレベルの減少が観察されている。生存およびアポトーシス経路に関与するいくつかのタンパク質は、UPSシステムを介して制御されている。老化細胞は、無調節な生存/アポトーシスバランスを有し、プロテアソーム阻害が、老化細胞除去となることが提案される。
【0018】
新規プロテアソーム阻害物質
図1Aおよび
図1Bは、本発明における製造において初めて合成された低分子化合物のファミリーを記載する。それらの化合物およびそれらの類縁体は、プロテアソーム活性を阻害するために設計され、老化細胞を排除し、または老化関連疾患を治療することを目的とする試験および開発に適する。それらは、がん治療において、がん細胞または過剰増殖性細胞を排除する目的にも使用し得る。
【0019】
本発明のプロテアソーム阻害物質は、複数(典型的には3〜7個)のアミノ酸残基を有するペプチド化合物であり、アミノ基のN末端残基がオキソ基またはチオ基で置換され、C末端残基が求電子基を含むよう修飾されている。関心対象のプロテアソーム阻害物質のいくつかは、エポキシケトンまたはα-ヒドロキシアセトアミドであることを特徴とし得る。
【0020】
例示として、下記式(I)で示される構造を有する化合物が挙げられる。
式中、
XはOまたはSであり;
R
0は、H、アルキル、置換アルキル、アルカノイル、置換アルカノイル、アルキルアミノカルボニル、置換アルキルアミノカルボニル、アルコキシカルボニル、置換アルコキシカルボニル、アルキルアミノチオカルボニル、置換アルキルアミノチオカルボニル、アルコキシチオカルボニル、置換アルコキシチオカルボニルおよびプロ部分より選択され;
R
1は、アルキル、置換アルキル、アラルキル、置換アラルキル、ヘテロアリールアルキルおよび置換ヘテロアリールアルキルより選択され;
(AA)
nは、独立して選択された2〜7個のアミノ酸残基(典型的には3または4個のアミノ酸)の直鎖状配列であり、該(AA)
nのC末端残基はZを含む修飾C末端を含み;
Zは、プロテアソーム反応性求電子基である。
【0021】
本文脈で用いる場合、「アミノ酸」という用語は、L配置またはD配置のいずれかの、天然起源のアミノ酸または非天然起源のアミノ酸のいずれかを意味する。本発明の等価物として、配列(AA)
nにおける1つまたは複数のアミノ酸は、ペプチド結合ではない共有結合によって、構造の他の部位に結合するアミノ酸類縁体で置換されていてもよく、該類縁体は、対応するアミノ酸と実質的に同じである、側鎖(R
x)、反応性、および配置を有する。
【0022】
プロテアソーム阻害物質の一部分である「プロテアソーム反応性求電子基」は求電子部分であり、該求電子部分は、標的のプロテアソームと接触することにより、プロテアソームの結合ポケット近くまたは活性部位近くの官能基(アミノ酸残基上の求核側鎖)と反応し、それによって共有結合または可逆的共有結合を形成して、プロテアソームがその生物学的機能を遂行するのを阻害する。タンパク質反応性の求電子基としては、J. Krysiak and R. Breinbauer, Top Curr Chem (2012) 324: 43-84に教示される、エポキシド、マイケル受容体、ジスルフィド、ラクトン、β-ラクタム、およびキノンを含む。また、Chapter 5, pages 207 265 in The organic chemistry of drug design and drug action by Silverman and Holladay, 3rd Ed. Academic Press, 2014も参照されたい。本明細書において示される例示においては、求電子基は、プロテアソーム末端の触媒的トレオニンのβ-ヒドロキシル基と反応するように阻害物質の構造内に位置している。
【0023】
本発明は式(I)で表される化合物を含み、式中、Zは、エポキシケトン基、アジリジニルケトン基、ボロネート、ボロネートエステル、およびβ-ラクトンより選択される。本発明は式(I)で表される化合物を含み、式中、(AA)
nは、独立して選択された3個のアミノ酸残基の配列であり、該(AA)
nのC末端残基は修飾されてZを含む。C末端カルボン酸は、例えばエポキシケトン若しくはアジリジニルケトンなどのケトンに修飾され得るか、または、C末端カルボン酸は、ボロネート若しくはボロネートエステルで置換され得る。
【0024】
また本発明のプロテアソーム阻害物質は、下記式(II):
で示される構造に従ってもよい。
式中、R
2〜R
4は、アルキル、置換アルキル、アラルキル、置換アラルキル、ヘテロアリールアルキルおよび置換ヘテロアリールアルキルより独立して選択され;
Z
1は、エポキシド基またはアジリジン基である。
【0025】
式(II)のプロテアソーム阻害化合物は、下記式(III):
で表される化合物を含む。
式中、YはOおよびNR
15より選択され;
R
5およびR
15は、H、C
(1〜6)アルキルおよび置換C
(1〜6)アルキルより独立して選択される。
【0026】
本発明は、式(I)の化合物を含み、該式中、R
1〜R
4は、C
(1〜6)アルキル、置換C
(1〜6)アルキル、C
(1〜6)ヒドロキシアルキル、置換C
(1〜6)ヒドロキシアルキル、C
(1〜6)アルコキシ-C
(1〜6)アルキル、置換C
(1〜6)アルコキシ-C
(1〜6)アルキル、アリール-C
(1〜6)アルキル、置換アリール-C
(1〜6)アルキル、ヘテロアリールC
(1〜6)アルキル、置換ヘテロアリールC
(1〜6)アルキル、シクロアルキル-C
(1〜6)アルキル、置換シクロアルキル-C
(1〜6)アルキル、複素環-C
(1〜6)アルキル、および置換複素環-C
(1〜6)アルキルより独立して選択される。
【0027】
本発明のプロテアソーム阻害化合物は、下記式(IIIa)または式(IV):
によってさらに記載され得る。
【0028】
前記に列挙した構造のいずれにおいても、
Xは、OまたはSであり得;
R
0は、R
10-またはR
10-Q-であり得;
Qは、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、-C(=O)-、-NR
11C(=O)-、-OC(=O)-、-C(=S)-、-NR
11C(=S)-、-OC(=S)-、および-OC(=S)-より選択され得;
R
10およびR
11は、H、アルキルおよび置換アルキルより独立して選択され得る。
【0029】
前記に列挙した構造のいずれにおいても、R
0は、下記構造:
より選択され得る。
式中、
mは1〜6の整数であり;
pは1〜30の整数であり;
X’はO、SおよびNR
14より選択され;
R
12およびR
13は、H、アルキルおよび置換アルキルより独立して選択されるか、またはR
12およびR
13は、環状に結合して、それらが結合している窒素原子と一緒になって複素環をもたらし、該複素環はさらに置換されていてもよく;
各R
14は、H、C
(1〜6)アルキルおよび置換C
(1〜6)アルキルより独立して選択される。
【0030】
前記に列挙した構造のいずれにおいても、R
0は、下記構造:
より選択され得る。
式中、
qは1〜3の整数であり;
Y
2はOおよびNR
15より選択され;
R
15は、H、C
(1〜6)アルキルおよび置換C
(1〜6)アルキルより選択される。
【0031】
前記に列挙した構造のいずれにおいても、R
1は、C
(1〜6)アルキル、アリール-C
(1〜6)アルキル、置換アリール-C
(1〜6)アルキル、シクロアルキル-C
(1〜6)アルキル、および置換シクロアルキル-C
(1〜6)アルキルより選択され得る。R
2およびR
4は、C
(1〜6)アルキル、置換C
(1〜6)アルキル、C
(1〜6)アルコキシ-C
(1〜6)アルキル、置換C
(1〜6)アルコキシ-C
(1〜6)アルキル、C
(1〜6)ヒドロキシアルキル、および置換C
(1〜6)ヒドロキシアルキルより選択され得る。さらに、R
3は、アリール-C
(1〜6)アルキル、置換アリール-C
(1〜6)アルキル、C
(1〜6)アルコキシ-C
(1〜6)アルキル、および置換C
(1〜6)アルコキシ-C
(1〜6)アルキルより選択され得る。
【0032】
前記に列挙した構造のいずれにおいても、R
1は、フェニル-C
(1〜6)アルキル、シクロアルキル-C
(1〜6)アルキル、およびC
(1〜6)アルキルより選択され得る。R
2は、C
(1〜6)アルコキシ-C
(1〜6)アルキル、C
(1〜6)アルキル、およびC
(1〜6)ヒドロキシアルキルより選択され得る。場合によって、R
3は、フェニル-C
(1〜6)アルキル、シクロアルキル-C
(1〜6)アルキル、C
(1〜6)アルコキシ-C
(1〜6)アルキル、およびC
(1〜6)ヒドロキシアルキルより選択される。さらに、R
4は、C
(1〜6)アルキルであり得る。
【0033】
前記に列挙した構造のいずれにおいても、R
1は、フェニルエチル、シクロプロピル-メチルおよびプロピルより選択され得る。R
2は、メトキシメチル、イソブチル、および1-ヒドロキシ-エチルより選択され得る。場合によって、R
3は、フェニルメチル、シクロプロピル-メチル、メトキシメチル、および1-ヒドロキシ-エチルより選択され得る。さらに、R
4は、イソブチルであり得る。
【0034】
本発明は、下記式(Va)〜(Vd):
で表されるプロテアソーム阻害化合物を含む。
【0035】
本発明のプロテアソーム阻害化合物は、下記式(VI)および式(VII)で表される化合物を含む。任意で、YはOであり得、R
5はメチルであり得;XはOまたはSであり得る。
【0036】
図1Aおよび
図1Bは、本発明のプロテアソーム阻害物質の例を示す。
【0037】
図1Aに示される構造のいくつかは、前記の一般的構造と一致しておらず、特に、Xは、OまたはSではなく、NHである。しかしながら、これら構造の多くは新規であり、本発明の一部に含まれる。
図1Bは、現在商業的関心のある26個の非限定的な例を示す。これらの例においては、R
1は、多くがフェニルエチルであるが、C
(1〜4)アルキルであってもよい。R
2は、多くがイソブチル(ロイシン)であるが、C
(1〜4)アルコキシまたはC
(1〜4)ヒドロキシアルキルであってもよい。R
3は、多くがフェニルメチル(フェニルアラニン)である。R
2は、常にイソブチル(ロイシン)である。Yは多くがOであり、R
5は多くがメチルである。X-R
0は、-OH、-O(=O)NHCH
3、-S-(CH
2)
3N(CH
3)
2、-O-(CH
2)
2N(CH
3)
2、-O(CH
2)
3N(CH
3)
2、-S-(CH
2)
2-O-(CH
2)
2-O-CH
3、-OC(=O)CH
2-N(-CH
2)
2O(CH
2)
2-)、および-OC(=O)CH
3のいずれかであり得る。各置換基は、さらなる試験のためそれぞれの代替基のうちの1つで置換され得る。
【0038】
上記記載および図に示した選択されたプロテアソーム阻害物質の開発および使用のための技術を、下記の記載において説明する。
【0039】
他のプロテアソーム阻害物質
上記に言及したペプチド系プロテアソーム阻害物質に加え、現在本分野で知られているかまたは後になって開発されたいずれかのプロテアソーム阻害物質を、老化細胞除去薬として開発し得る。
図1Cは、従来、プロテアソーム阻害物質であると記述されている低分子化合物の例示的なリストを提供する。他の低分子プロテアソーム阻害物質が、Metcalfら(Expert Opin Ther Pat. 2014 Apr;24(4):369-8)によりレビューされている。これらの化合物のいずれかは、本発明に係る老化細胞の排除または老化関連疾患の治療を目的とする試験および開発に適切である。
【0040】
老化細胞除去活性のための化合物のスクリーニング
前記に記載および図面に記載した様々なプロテアソーム阻害物質について、それら物質が本発明における使用のための候補物質であることを示す方法によって、分子レベルでのそれらの遂行能力をスクリーニングし得る。プロテアソーム活性を阻害する能力のための分子アッセイにより、化合物を試験し得る。実施例1は、この目的のためのアッセイを提供する。
【0041】
あるいは、またはさらに、特に老化細胞を殺す能力について、化合物をスクリーニングし得る。培養細胞を該化合物と接触させ、細胞毒性または細胞の阻害の程度が測定される。老化細胞を殺すまたは阻害する化合物の能力は、低密度で自由に分裂している正常細胞、および高密度で休止状態にある正常細胞における化合物の効果と比較され得る。実施例2および3は、ヒト標的組織の線維芽細胞であるIMR90細胞株およびHUVEC細胞を用いる、老化細胞殺傷の実例を提供する。類似のプロトコールは公知であり、他の老化細胞およびがん細胞などの他の細胞型を殺すまたは阻害する細胞の能力を試験するために、該プロトコールを発展あるいは最適化させ得る。
【0042】
図2Aおよび
図2Bは、老化細胞を選択的に殺し、非老化細胞は無傷のままにする化合物を特定するスクリーニングアッセイの結果を示す。
図2Aは、
図1Aおよび
図1Cより選択された構造体に対する、老化細胞除去活性およびプロテアソーム結合のデータを提供する。
図2Bは、
図1Bより選択された構造体に対する、老化細胞除去活性およびプロテアソーム結合のデータを提供する。
【0043】
「EC
50μM」という用語は、細胞の50%を殺すのに必要となる分子の濃度を表す。「照射IMR90 EC
50μM」という見出しは、照射により老化の状態にされたIMR90細胞に対する効力を表す。「IMR90 HD EC
50μM」という見出しは、高密度(HD)で蒔かれた非老化細胞に対する効力を表す。これらは、接触阻害が原因で増殖しないのではなく、老化に達していない細胞である。
【0044】
本開示で説明される老化細胞除去薬のいずれかおよび全てにおいて、本発明は、照射IMR90細胞またはHUVEC細胞に対して、10μM未満、1μM未満、0.1μM未満、および0.02μM未満のEC
50μMを有するか、または、0.02〜1μMの範囲もしくは0.02〜0.1μMの範囲のEC
50μMを有する化合物を含む。本発明は、非老化細胞または増殖細胞と比較して、照射IMR90細胞に対して、少なくとも2、5、10、20、または50倍の特異性指数(より小さいEC
50)を有する化合物を含む。
【0045】
インビトロで老化細胞を選択的に殺すのに有効である本発明の老化細胞除去薬の候補は、特定の疾患のための動物モデルでさらにスクリーニングされ得る。下記の実施例4、5、6および7は、それぞれ、変形性関節症、眼疾患、肺疾患、およびアテローム性動脈硬化症の実例を提供する。
【0046】
医薬製剤および包装
本発明で使用するための医薬品の調製および製剤化には、例えば、現行版のRemington: The Science and Practice of Pharmacyに記載される標準的技術を用いることができる。製剤は、治療される疾患に関与しない組織に対する副作用または曝露を最小限にする一方、標的老化細胞への活性剤の接近を強化して、効果の最適な持続時間を提供する方法で、例えば局所投与により、標的組織へ投与するために典型的に最適化される。
【0047】
本発明は、本開示に記載される1つまたは複数の製剤または組成物の単位用量を含むキットである市販品を提供する。そのようなキットは、典型的には、1つまたは複数の容器中の薬学的製剤を含む。製剤は、1つまたは複数の単位用量として提供され得る(組合せまたは別々のいずれか)。キットは、例えば、それを必要とする対象の標的組織中または標的組織周辺への製剤または組成物の投与のための注射器などの装置を含み得る。老化細胞関連疾患を治療する際の薬物の用途および付随する利点を説明し、任意で組成物の送達のための器具または装置を説明する、情報の添付文書もまた、該製品は含み得るかまたは伴い得る。
【0048】
治療設計および投与スケジュール
老化細胞は、年齢とともに蓄積し、それが、老化細胞が介在する疾患が高齢の成人においてより頻繁に発生する理由である。さらに、肺組織における異なる型のストレスによって、老化細胞および老化細胞が発現する表現型の出現が促進され得る。細胞のストレス要因としては、酸化ストレス、代謝ストレス、DNA損傷(例えば、環境紫外線曝露または遺伝性障害の結果)、がん遺伝子活性化、およびテロメア短縮(例えば、過剰増殖に起因)を含む。そのようなストレス要因を受けた組織は老化細胞をより高い有病率で有し得、次には、低年齢で、またはより深刻な形態で、特定の疾患の発病の原因となり得る。早期の発現の原因となり得る遺伝子成分が、直接的または間接的に疾患を介在する老化細胞の蓄積に影響を与え得ることが、特定の疾患に対する遺伝性感受性により示唆される。
【0049】
老化細胞パラダイムの利点の一つは、老化細胞のうまく除去することにより、対象に長期の治療効果を与え得ることである。老化細胞は、基本的に非増殖性であり、これは、更なる老化細胞を有する組織のその後の再増殖が、組織における非老化細胞の老化細胞への転換だけによって起こり得ることを意味し、この工程は、単純な増殖と比べて相当長い。一般的原則としては、本発明の老化細胞除去薬を用いる、標的組織から老化細胞を除去するのに十分な治療期間(所定の単回投与量または複数回投与量で、例えば、毎日、週2回、または週1回、数日、1週間または数週間の期間に亘って)により、対象に対して、老化細胞除去薬が投与されずに、かつ治療される疾患の1つまたは複数の有害な兆候または症状の軽減、減少または反転を対象が感じる、効力期間(例えば、2週間、1ヶ月間、2ヶ月間、またはそれ以上)が提供され得る。
【0050】
治療に適切な老化関連疾患
本発明の老化細胞除去薬を、様々な老化関連疾患の予防または治療に使用し得る。そのような疾患は、典型的には(必ずではないが)、疾患部位中もしくは疾患部位周辺における老化細胞(例えば、p16および他の老化マーカーを発現している細胞)が、またはp16および他の老化マーカーの過剰な発現が、患部でない組織におけるそのような細胞の出現頻度またはそのような発現のレベルと比較した場合に、過剰であることを特徴とする。現在の関心対象の非限定的な例は、後のセクションで説明されるとおり、変形性関節症、眼疾患、肺疾患、およびアテローム性動脈硬化症の治療を含む。
【0051】
本発明の老化細胞除去薬で特定の老化関連疾患を治療するため、治療レジメンは、老化細胞のある部位、および疾患の病態生理に依存する。例えば変形性関節症、眼疾患、および肺疾患などの局所疾患は、老化細胞除去薬の局所投与によって治療し得る。アテローム性動脈硬化症は、全身投与により、より典型的に治療される播種性疾患の例である。
【0052】
変形性関節症の治療
本開示に列挙される老化細胞除去薬は、変形性関節症の治療用、または、それを必要とする対象における、変形性関節症の患部の関節を含むがそれに限定されない、関節内もしくは関節周辺における老化細胞の選択的な排除用に開発され得る。
【0053】
変形性関節症の変性関節疾患は、高い機械的ストレス、骨硬化症、および関節滑膜と関節襄の厚化の部位での、軟骨の細線維化を特徴とする。細線維化は、軟骨の表層の分裂に伴う局所表面の組織崩壊である。初期の分裂は、軟骨表面とはほとんど関係なく、優性なコラーゲン束の軸に従う。軟骨内のコラーゲンは組織崩壊し、プロテオグリカンが軟骨表面から失われる。関節中のプロテオグリカンの保護効果および潤滑効果がない状態では、コラーゲン繊維は、分解に弱くなり、機械的破壊が続発する。変形性関節症を進行させる素因となる危険因子は、老化、肥満、以前の関節損傷、関節の酷使、弱い大腿筋、および遺伝的性質を含む。変形性関節症の症状は、非活動後または酷使後の、関節、特に臀部、膝、および腰の、痛みまたは凝り;移動後にはなくなる静止後の凝り;および活動後にまたは一日の終わりにむかって悪化する疼痛、を含む。
【0054】
本発明の化合物は、関節におけるプロテオグリカン層の損失または侵食を低減または阻害するのに用い得、患部の関節における炎症を減少させ、かつコラーゲン、例えば、II型コラーゲンの生成を促進、刺激、増強、または誘発する。該化合物は、関節において生成された、IL-6などの炎症性サイトカインの量またはレベルの減少を引き起こし得、炎症を低減させる。該化合物を、変形性関節症を治療するのに使用し得、かつ/または対象の関節における、例えばII型コラーゲンなどのコラーゲン生成を誘発するのに使用し得る。また、化合物を、関節中のコラーゲンを分解するメタロプロテイナーゼ13(MMP-13)の生成を、減少させる、阻害する、または減じるために使用し得、かつプロテオグリカン層を回復するかまたはプロテオグリカン層の損失および/または分解を阻害するために使用し得る。
【0055】
本発明の老化細胞除去薬を用いる治療の潜在的な利点は、軟骨または骨浸食を阻害すること、または反転することを含む。該老化細胞除去化合物は、関節の強度の低下を回復もしくは阻害し得、または関節痛を低減し得る。
【0056】
眼疾患の治療
対象の眼中または眼周辺における老化細胞を除去することにより、それを必要とする対象における有害な眼疾患の予防または治療に本開示で列挙した老化細胞除去薬を使用し得、それによって疾患の少なくとも1つの兆候または症状の重症度が減少する。このような疾患としては、例えば、眼底疾患および眼球前方疾患の両方を含む。本開示に列挙される老化細胞除去薬は、それを必要とする対象における眼組織内または眼組織周辺の老化細胞の選択的な排除用に開発し得る。
【0057】
本発明において治療し得る眼疾患は、老視、黄斑変性症(滲出型AMDまたは萎縮型AMDを含む)、糖尿病網膜症、および緑内障を含む。
【0058】
黄斑変性症は、眼底疾患であることを特徴とし得る神経変性疾患である。黄斑変性症は、斑と呼ばれる網膜の中央部位の光受容細胞の損失を引き起こす。黄斑変性症は、萎縮型または滲出型に分類され得る。萎縮型は、滲出型よりも一般的であり、加齢黄斑変性症(AMD)の患者の約90%が、萎縮型と診断されている。該疾患の滲出型は、より深刻な視力喪失につながり得る。年齢および特定の遺伝因子および環境因子が、AMDを進行させる危険因子となり得る。環境因子は、例えば、オメガ-3脂肪酸摂取、エストロゲン曝露、およびビタミンDの血中濃度の増加を含む。遺伝の危険因子は、例えば、眼におけるDicer1レベルの減少、およびマイクロRNAの減少、およびDICER1切除を含み得る。
【0059】
萎縮型AMDは、網膜色素上皮(RPE)層の萎縮に関係し、光受容細胞の損失を引き起こす。AMDの萎縮型は、黄斑組織の老化および菲薄化ならびに斑における色素の沈着に起因し得る。滲出型AMDでは、新しい血管は、網膜の下で成長し、血液と流体を漏出し得る。この異常な漏出性の脈絡膜血管新生は、網膜細胞を死なせ、中心視野に盲点を生成させ得る。黄斑変性症の異なる形態も、より若い患者に生じ得る。年齢に関連しない病因は、例えば、遺伝、糖尿病、栄養不足、頭部外傷、または感染に関連付けられ得る。
【0060】
斑のブルック膜の下の滲出物(ドルーゼン)の形成は、黄斑変性症が進行し得る身体的徴候であり得る。黄斑変性症の症状は、例えば、直線が歪んでいると認識されることを含み、幾つかの場合では、視野の中心が、その残り部分よりも歪められているように見え;暗い、ぼやけた領域または「ホワイトアウト」が、視野の中心に現われ;または色知覚が変化または縮小する。
【0061】
別の眼底疾患は糖尿病網膜症(DR)である。ウィキペディアによれば、DRの第一段階は非増殖性であり、典型的には、実質的な症状または兆候はない。NPDRは眼底撮影により検出可能であり、微細動脈瘤(動脈壁における血液が充満した微細な膨らみ)が見られ得る。視力低下がある場合、眼底を見るため蛍光血管造影法を実施し得る。網膜血管が縮小または遮断しているのがはっきりと見られ得、これは網膜虚血(血流欠如)と呼ばれる。血管からその中身が黄斑部に漏れる黄斑浮腫は、NPDRのいずれの段階においても起こり得る。黄斑浮腫の症状は、両目で同じではない、霧視および暗いまたは歪んだ画像が挙げられる。糖尿病患者の10%が、黄斑浮腫に関係する視力喪失を有する。光コヒーレンス・トモグラフィーは、黄斑浮腫による網膜の厚化(液体貯留による)領域を示し得る。
【0062】
DRの第二段階においては、増殖糖尿病網膜症(PDR)の一部として眼底に異常な新しい血管(新生血管)が形成される;これらの新しい血管は、もろいため、破裂して出血し(硝子体出血)、視野をぼやけさせ得る。最初にこの出血が起きるときは、それほど深刻ではないかもしれない。多くの場合、ちょうど数個の血液の小斑点が残るか、またはヒトの視野に浮遊する斑点が残るが、これらの斑点はしばしば数時間後に消える。これらの斑点の後、しばしば、数日以内または数週間以内に、ずっと大きい血液漏出があり、視野をぼやけさせる。極端なケースでは、ヒトがそのような眼でできるのは、明暗の見分けだけかもしれない。血液を眼の内側からいずれかの場所に取り除くには、数日から数ヶ月または数年かかり得、いくつかのケースでは血液は取り除けない。これらのタイプの大きな出血は、2回以上、しばしば睡眠中に起こる傾向がある。眼底検査により、医師は、綿花状白斑、火炎状出血(類似の病変が、クロストリジウム ノビー(Clostridium novyi)のα溶血毒によっても引き起こされる)、およびドットブロット出血を確認するであろう。
【0063】
老視は、正常な眼の速度および調節幅が年齢とともに減少するとともに、近くにある物に焦点を合わせる能力が徐々に減少することを示す、年齢関連の疾患である。水晶体の弾性の損失および毛様筋の収縮性の損失は、老視を引き起こし得る。水晶体前嚢および水晶体後嚢の機械的性質の年齢関連の変化は、水晶体後嚢の機械強度が、年齢とともに著しく減少することを示唆している。眼の嚢の層状構造も変化し、これは、組織の組成の変化に少なくとも部分的に起因し得る。
【0064】
本開示で提供される化合物は、IV型コラーゲン網の分裂を遅くするか、上皮細胞移動を減少または阻害し得、さらに、老視の発症を遅らせ得るか、あるいは疾患の進行性の重症度を低下させ得るかまたは遅くし得る。本開示の化合物はまた、PCOの発症の可能性を低下させるための白内障手術後に有用であり得る。
【0065】
老化細胞除去薬で治療し得る別の疾患は、緑内障である。通常、透明液が、前眼房として知られる眼の前部に流れ、そこから流れ出る。開放隅角緑内障/広角緑内障を有している個体においては、この透明液の流出が緩慢過ぎて眼内の圧上昇につながる。未処置である場合、眼におけるこの高圧は、続いて視神経を傷つけ得、全盲につながり得る。辺縁視の損失は、網膜における神経節細胞の死によって引き起こされる。緑内障の進行の阻害に関する治療の効果は、自動視野計測、隅角鏡検査、画像技術、走査レーザトモグラフィー、HRT3、レーザー偏光計、GDX、視覚コヒーレンス・トモグラフィー、検眼鏡検査、および角膜中央部の厚さを測定する測厚器測定でモニタリングし得る。
【0066】
老化細胞除去薬で治療できる眼疾患は、例えば、糖尿病網膜症、緑内障網膜症、虚血性動脈炎性視神経症、ならびに動脈および静脈閉塞、未熟網膜症および鎌状細胞網膜症を特徴とする血管疾患などの、虚血性疾患または血管疾患を含む。
【0067】
老化細胞除去薬で治療できる眼疾患は、例えば、皮膚弛緩症、眼瞼下垂、乾性角膜炎、フックス角膜ジストロフィー、老眼、白内障、滲出型加齢黄斑変性(滲出型AMD)、萎縮型加齢黄斑変性(萎縮型AMD)などの、変性疾患;硝子体黄斑牽引(VMT)症候群、黄斑円孔、網膜上膜(ERM)、網膜裂孔、網膜剥離、および増殖性硝子体網膜症(PVR)を含む、変性硝子体疾患、を含む。
【0068】
老化細胞除去薬で治療できる眼疾患は、例えば、網膜色素変性症、シュタルガルト病、ベスト病、およびレーベル遺伝性視神経症(LHON)などの、遺伝子疾患を含む。本発明の老化細胞除去薬で治療できる眼疾患は、細菌感染、真菌感染またはウイルス感染によって引き起こされる疾患を含む。これらは、例えば、水痘帯状疱疹(HZV)、単純ヘルペス、サイトメガロウイルス(CMV)、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)などの、病原体によって引き起こされるか、または誘発される疾患を含む。
【0069】
老化細胞除去薬で治療できる眼疾患は、例えば、点状脈絡膜炎(PIC)、多巣性脈絡膜炎(MIC)、および匍行性脈絡膜症などの、炎症性疾患を含む。本発明の老化細胞除去薬で治療できる眼疾患は、例えば、硝子体切除術後の白内障および放射線網膜症などの、医原性疾患も含む。
【0070】
本発明の老化細胞除去薬を用いる治療の潜在的な利点は、前記に列挙した、例えば、新血管形成、血管閉塞、および眼球内圧の増加、網膜機能および視野喪失という機能障害への誘導などの、眼疾患のいずれかの兆候または症状の進行を反転または阻害することを含む。
【0071】
肺疾患の治療
本開示に列挙される老化細胞除去薬は、肺疾患の治療用に、またはそれを必要とする対象の肺中または肺周辺の老化細胞の選択的な排除用に開発し得る。本発明で治療し得る肺疾患は、特発性肺線維症(IPF)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、嚢胞性線維症、気管支拡張症、および肺気腫を含む。
【0072】
COPDは、肺組織の破壊、肺気腫、および小気道の機能不全、閉塞性細気管支炎に起因する、持続的に乏しい気流によって定義された肺疾患である。COPDの1次症状は、息切れ、喘鳴、胸部絞扼感、慢性咳、および過剰な痰生成を含む。巻きたばこ煙で活性化された好中球およびマクロファージからのエラスターゼは、胞状構造の細胞外マトリックスを分解し得、気腔の拡大および呼吸容量の損失をもたらす。COPDは、例えば、タバコ煙、巻きたばこ煙、葉巻き煙、副流煙、パイプ煙、職業性曝露、粉塵、煙、煙霧への曝露、および汚染によって引き起こされ得、これは数十年間の間にわたって生じ、そのため、COPDを進行させる危険因子としての老化に関係している。タバコ煙中の高濃度のフリーラジカルによって、気道における刺激物への炎症反応の一部としてサイトカイン放出がもたらされ、プロテアーゼによる肺損傷を引き起こし得る。
【0073】
COPDの症状は、息切れ、喘鳴、胸部絞扼感、肺における過剰粘液が原因の起き抜けの咳払い、無色、白色、黄色または緑色がかった痰をもたらす慢性咳、チアノーゼ、頻繁な呼吸器感染症、エネルギーの不足、および意図しない体重減少を含み得る。
【0074】
肺線維症は、肺の硬化および瘢痕化を特徴とする慢性および進行性の肺疾患であり、これは、呼吸不全、肺がん、および心不全につながり得る。線維症は、上皮の修復に関係している。線維芽細胞が活性化され、細胞外マトリックスタンパク質の生成が増加し、収縮性筋線維芽細胞への分化転換が創面収縮の一因となる。暫定的なマトリックスは、損傷した上皮を塞ぎ、上皮細胞の移動のための足場を提供し、これには上皮間葉転換(EMT)が伴う。上皮損傷に関係する失血は、血小板活性化、成長因子の産生、および急性炎症反応を引き起こす。通常、上皮性関門は治癒し、炎症反応は解消する。しかしながら、線維症疾患では、線維芽細胞反応が継続し、解消しない創傷治癒につながる。線維芽細胞の病巣の形成は、該疾患の特徴であり、これは進行中の線維形成の位置を反映している。
【0075】
肺線維症が進行するリスクのある対象は、例えば、石綿症および珪肺症などを患う、環境または職業上の汚染物質に曝露される対象;喫煙者;RA、SLE、強皮症、サルコイドーシス、またはヴェーゲナー肉芽腫症などの結合組織疾患を患う対象;感染症を患う対象;例えば、アミオダロン、ブレオマイシン、ブスルファン、メトトレキサート、およびニトロフラントインを含む、特定の薬剤を摂取している対象;胸部への放射線治療を受けている対象;ならびに家族が肺線維症を患っている対象、を含む。
【0076】
本発明の化合物の使用によって治療され得る他の肺疾患は、肺気腫、喘息、気管支拡張症、および嚢胞性線維症を含む。肺疾患はまた、タバコ煙、粉塵、煙または煙霧への職業性曝露、感染、または炎症をもたらす汚染物質によって悪化され得る。
【0077】
気管支拡張症は、気道に対する損傷に起因し、これにより気道が広がり、たるみかつ瘢痕化する。気管支拡張症は、気道壁を損傷するか、または気道が粘液を取り除くことを阻害する病状によって引き起こされ得る。そのような疾患の例には、嚢胞性線維症および原発性線毛機能不全(PCD)が含まれる。肺の一部のみが罹患する場合、該障害は、病状ではなくむしろ閉塞によって引き起こされ得る。
【0078】
肺疾患を治療するまたは肺疾患の可能性を減少させるための本発明の方法は、老化し、かつ肺機能の損失または肺組織の変性を有する対象を治療するためにも使用し得る。治療効果は、肺の機械的機能を評価する技術を用いて決定され得、例えば、肺の容量、弾性、および気道過敏性を測定する技術が実施され得る。例えば、予備呼気量(ERV)、努力肺活量(FVC)、努力呼気肺活量(FEV)(例えば、1秒でのFEV、FEV1)、FEV1/FEV比率、努力呼気流量25%〜75%、および最大随意換気量(MVV)、ピーク呼気流量(PEF)、遅い肺活量(SVC)が測定され得る。末梢毛細血管の酸素飽和度(SpO
2)も測定され得;正常な酸素レベルは、典型的に95%から100%の間である。90%未満のSpO
2レベルは、対象が低酸素血症を患っていることを示唆している。
【0079】
本発明の老化細胞除去薬を用いる治療の潜在的な利点は、上述したとおり一つまたは複数の治療する疾患の兆候または症状の進行を緩和または停止することを含む。目的は、肺容量または肺活量の増加、および酸素飽和度の改善といったそれらの結果を含み得る。
【0080】
アテローム性動脈硬化症の治療
例えば、対象における動脈硬化プラークの形成、拡張、または進行を阻害することにより、本発明の老化細胞除去化合物をアテローム性動脈硬化症の治療に用い得る。本発明の老化細胞除去化合物を、対象の一つまたは複数の血管に存在する動脈硬化プラークの安定性増強にも用い得、それによって動脈硬化プラークが血管を断裂および閉塞するのを阻害する。
【0081】
アテローム性動脈硬化症は、中型および大型の動脈の内腔を侵す、斑状内膜のプラーク、すなわち粉瘤、を特徴とし;プラークは、脂質、炎症細胞、平滑筋細胞、および結合組織を含有している。アテローム性動脈硬化症は、冠状動脈、頚動脈、および大脳動脈、大動脈およびその分枝、および肢の主な動脈を含む、大型および中型の動脈に影響を与え得る。
【0082】
アテローム性動脈硬化症は、動脈壁厚化の増加をもたらし得る。プラークの成長または破裂が血流を減少させるか、または妨害するときに症状は進行し;症状は、どの動脈が影響を受けるかによって変わり得る。動脈硬化プラークは、安定または不安定であり得る。安定したプラークは、時に数十年間の間、退縮したり、静止したままであり、あるいは緩慢に成長して、その後、狭窄または閉塞を引き起こし得る。不安定なプラークは、自発性の侵食、亀裂、または破裂に弱く、血行力学的に著しい狭窄を引き起こすずっと前に、急性の血栓症、閉塞、および梗塞を引き起こす。臨床徴候は、不安定なプラークに起因し、これは血管造影法では深刻には見えないようであり;したがって、プラーク安定化は、罹患率と死亡率を減少させる方法であり得る。プラークの破裂または侵食は、急性冠動脈症候群および脳卒中などの主要な心血管イベントにつながり得る。分裂したプラークは、無傷のプラークよりも多い含有量の脂質、マクロファージを有し得、より薄い線維性被膜を有する。
【0083】
アテローム性動脈硬化症は、動脈の壁の白血球の慢性炎症反応が大きな原因であると考えられる。これは、機能性高密度リポタンパク質(HDL)によるマクロファージからの脂肪およびコレステロールの適切な除去がない状態で、コレステロールおよびトリグリセリドを運ぶ血漿タンパク質である低密度リポタンパク質(LDL)によって促進される。アテローム性動脈硬化症の最も初期の可視病巣は、脂肪線条であり、これは、動脈の内膜層における脂質を持った泡沫細胞の蓄積である。アテローム性動脈硬化症の特徴は、アテローム硬化性である。
【0084】
アテローム性動脈硬化症および他の心血管疾患の診断は、患者の症状、例えば、狭心症、胸部圧迫感、腕または脚のしびれ感または脱力、発話困難または不明瞭発語、顔の垂下筋肉、下肢痛、高血圧、腎不全および/または勃起障害、病歴、および/または身体検査に基づく。診断は、血管造影法、超音波検査法、または他の画像検査によって確認され得る。心血管疾患を進行させるリスクを有する対象は、例えば心血管疾患の家族歴などの素因のいずれか1つまたは複数を有する対象、ならびに、例えば、高血圧、脂質異常症、高コレステロール、糖尿病、肥満および喫煙、セデンタリー・ライフスタイルおよび高血圧症を含む素因といった、他の危険因子を有する対象を含む。疾患は、例えば、血管造影法、心電図検査法、またはストレステストによって評価され得る。
【0085】
本発明の老化細胞除去薬を用いる治療の潜在的な利点は、プラークの頻度、プラークに覆われた血管の表面積、狭心症、および運動耐容の減少などの疾患の一つまたは複数の兆候はまたは症状の進行を、緩和または停止することを含む。
【0086】
定義
「老化細胞」は、典型的には複製するが、細胞状態の変化を引き起こす老化または他の事象の結果、もはや複製できない細胞型に由来するもの、と一般に考えられる。本発明の実施面の目的のため、老化細胞は、発現しているp16、またはp16、老化関連βガラクトシダーゼ、およびリポフスチンより選択される少なくとも一つのマーカーで特定され得;時にこれらのうち2つまたはそれ以上のマーカー、ならびにインターロイキン6、および炎症性、血管新生および細胞外マトリックス修飾タンパク質などを含むがこれに限定されない老化関連分泌表現型(SASP)の他のマーカーで特定され得る。他に明示的な記載がない場合、特許請求の範囲に記載の老化細胞はがん細胞を含まない。
【0087】
「老化関連」、「老化関係」または「年齢関連」の疾病、障害または疾患は、対象に対して有害な一つまたは複数の症状または兆候を示す生理学的状態である。それが「老化細胞により少なくとも部分的に引き起こされるか、または介在される」場合、該疾患は「老化関連」である。このことは、患部の組織における老化細胞の少なくともいくつかの排除により、患者の利益のため有害な症状または兆候の実質的な軽減または緩和がもたらされるように、患部の組織中または組織周辺のSASPの少なくとも一つの成分が、疾患の病態生理学における役割を果たすことを意味する。本発明の方法または産物を用いて潜在的に治療または処置され得る老化関連障害は、本開示および本議論において言及する前記開示において記載する障害を含む。他に明示的な記載がない場合、該用語はがんを含まない。
【0088】
タンパク質機能またはプロテアソーム機能の阻害物質は、標的細胞において既に発現しているプロテアソームが、該タンパク質またはプロテアソームが標的細胞において通常遂行する酵素的機能、結合機能、または制御機能を遂行するのを、実質的な度合いで阻止する化合物である。この結果、標的細胞の排除がもたらされるか、あるいは該細胞に対する別の化合物または治療事象による毒性をより受けやすくさせる。
【0089】
化合物、組成物または薬剤が、同じ組織型の複製細胞またはSASPマーカーを欠く静止細胞と比較して、老化細胞を排除する場合、該化合物、組成物または薬剤は、「老化細胞除去」することを典型的に意味する。あるいは、またはさらに、老化関連分泌表現型の一部としての病理学的に可溶性の因子またはメディエーターの放出を減少させる場合であって、該因子またはメディエーターが最初に発現した病理学的疾患または進行中の病理学的疾患において役割を果たすか、あるいはその疾患の回復を阻害するものである場合、化合物または組合せは、本発明にしたがって有効に使用され得る。この点において、「老化細胞除去」という用語は、機能阻害を意味し、老化細胞を排除する(老化細胞除去物質)よりは、主に阻害することによって作用する化合物は、確実に利点がある類似の方法で使用し得る。
【0090】
混合細胞集団または組織からの老化細胞の選択的な除去または「排除」においては、老化表現型を有する全ての細胞が取り除かれることを必要としない:治療後に残っている組織における最初の老化細胞の割合が、治療後に残っている組織における最初の非老化細胞の割合よりも実質的に高いだけである。
【0091】
本発明の疾患の「治療」が成功すると、治療する対象に有利ないずれかの効果がもたらされる。これには、疾患または疾患に起因するいずれかの有害な兆候または症状についての、重症度、期間または進行の減少が含まれる。いくつかの状況においては、老化細胞除去薬を、例えば、病歴からの遺伝的感受性により、対象が罹患しやすい疾患の発症の予防または阻害にも使用し得る。
【0092】
「治療上有効量」は、(i)特定の疾病、疾患または障害を治療する;(ii)特定の疾病、疾患または障害の一つまたは複数の症状を軽減する、改善する、または排除する;(iii)本明細書において記載される特定の疾病、疾患または障害の一つまたは複数の症状の発症を防ぐまたは遅らせる;(iv)特定の疾病、疾患または障害の進行を防ぐまたは遅らせる;(v)治療前に疾患によって引き起こされた損傷を少なくとも部分的に反転させる;またはそのような複数の効果のいずれかの組合せを有する、本開示の化合物の量である。
【0093】
化合物の「リン酸化」体は、リン酸化前の分子上には典型的には存在するが必ずしも存在しない場合もある酸素原子を介してコア構造に共有結合した一つまたは複数のリン酸基を有する化合物である。例えば、一つまたは複数の-OH基または-COOH基は、水素を、-OPO
3H
2または-C
nPO
3H
2(式中、nは1〜4である)のいずれかのリン酸基で置換し得る。いくつかのリン酸化体においては、リン酸基は、インビボで除去され得(例えば、酵素性分解)、その場合、リン酸化体は、非リン酸化体のプロドラッグとなり得る。非リン酸化体は、そのようなリン酸基を有していない。脱リン酸化体は、少なくとも一つのリン酸基が除去された後のリン酸化分子である。
【0094】
本発明の「低分子」老化細胞除去薬は、20,000ダルトン未満の分子量を有し、しばしば、10,000ダルトン未満、5,000ダルトン未満、または2,000ダルトン未満である。低分子阻害物質は、抗体分子またはオリゴヌクレオチドではなく、典型的には、5以下の水素結合供与体(窒素-水素結合と酸素-水素結合の総数)を有し、窒素または酸素原子である10以下の水素結合受容体を有する。
【0095】
他に言及または必要がない場合は、本発明において記載されるそれぞれの化合物構造は、これらの化合物、薬学的に許容される塩およびプロドラッグの同じ構造、結晶およびアモルファス形態を有する共役酸および共役塩基を含む。これは、例えば、互変異性体、多形、溶媒和物、水和物、非溶媒和多形(無水物を含む)を含む。特定の立体異性体または特定のキラル構造について明示的な言及がない場合、化合物は、示された構造のいずれかの立体異性体、またはそれらの混合物であってもよい。
【0096】
化合物が、インビボで活性薬を構成する関連構造に変換され得る(酵素的にまたは他の手段で)構造を有する場合、化合物は、本開示において「プロドラッグ」を意味する。「プロ部分」とは、官能基をマスクするのに用いられたときに、活性薬をプロドラッグに変換する保護基である。活性薬をプロドラッグに変化させる方法は例えば以下に記載されている:Prodrug Design: Perspectives, Approaches and Applications in Medicinal Chemistry, 1st Ed., V. Redasani and S. Bari, Academic Press, 2015;およびProdrugs and Targeted Delivery, Methods and Principles in Medicinal Chemistry Vol. 47, 1st Ed., Wiley-VCH, 2011。本開示で説明する化合物において、アシルまたは置換アシルプロ部分は、例えば、活性薬のヒドロキシ基またはチオ基に結合した場合、除去可能なエステルまたはチオエステルを形成する。
【0097】
他に言及または示唆がない場合、特定の基(group)または基(radical)を修飾するために使用されるときの「置換された」という用語は、特定の基(group)または基(radical)の一つまたは複数の水素原子が、水素ではない同じまたは異なる置換基でそれぞれ独立に置き換えられていることを意味する。他に示されていなければ、置換基の命名は、官能基の末端部分を命名し、続いて結合ポイントに向かう隣接する官能基を命名することにより終了する。例えば、「アリールアルキルオキシカルボニル」という置換基は、(アリール)-(アルキル)-O-C(O)-という基を意味する。
【0098】
「リンカー」は、2つまたはそれ以上の化学構造に共有結合した部分であり、2つの構造の間で骨格を有している。リンカーは、開裂可能であっても、開裂可能でなくてもよい。リンカーは、典型的には、1〜5原子、1〜20原子、または1〜100原子の長さの骨格を有し、直鎖または分岐の形態である。骨格原子の間の結合は、飽和または不飽和であり得る。リンカーの骨格は、例えば、置換されていてもよいアリール基、ヘテロアリール基、複素環またはシクロアルキル基といった環状の基を含んでもよい。
【0099】
他に言及または必要な場合を除き、本明細書で使用される他の用語は、それらの通常の意味である。
【0100】
参照による援用
合衆国および有効な他の管轄における全目的のため、本開示で引用したありとあらゆる公報および特許文献は、あたかもそれぞれの該公報または文献が特別にかつ個別に参照として本明細書に組み入れられることを示していたように、同じ範囲で全ての目的のため、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0101】
老化細胞の活性を排除または低減するため、および本開示で言及した疾患を含むがそれに限定されない特定の老化関連疾患を治療するための、化合物の同定、製剤、および使用を含むがそれに限定されない全ての目的のため、米国特許出願公開第2016/0339019号(Labergeら)および米国特許出願公開第2017/0266211号(Davidら)は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。老化細胞の活性を排除または低減するため、および様々な眼疾患を治療するための、化合物の同定、製剤、および使用を含むがそれに限定されない全ての目的のため、米国特許出願公開第2018/0000816号および国際特許出願PCT/US2018/046553号は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。老化細胞の活性を排除または低減するため、および様々な肺疾患を治療するための、化合物の同定、製剤、および使用を含むがそれに限定されない全ての目的のため、米国特許出願公開第2018/0000816号および国際特許出願PCT/US2018/046567号は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。老化細胞の活性を排除または低減するため、およびアテローム性動脈硬化症を治療するための、化合物の同定、製剤、および使用を含むがそれに限定されない全ての目的のため、米国特許出願公開第16/181,163号は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0102】
実施例1:プロテアソーム活性の測定
本実施例は、老化細胞除去薬として開発するために標的経路に対して十分な阻害能力を試験化合物が有するかどうかを読者が確認できるアッセイを提供する。本アッセイからの情報は、さらなる開発のために化合物を選択するための細胞溶解アッセイ(実施例2および3)からの情報と組み合せ得る。
【0103】
基質ペプチドの開裂後の蛍光発生生成物の放出をモニターすることにより、プロテアソームβ5サブユニットのキモトリプシン様活性阻害について試験化合物をアッセイする。活性プロテアーゼは、基質ペプチドのC末端アミノ酸とアミノメチルクマリンの間のアミド結合を開裂し、蛍光分析により定量化される酵素活性を与える。
【0104】
化合物を384ウェルフォーマットで試験する。DMSO中1:3の希釈系列の化合物を反応緩衝液(20mM HEPES pH7.5、0.01% BSA、0.02% SDS、0.5mM EDTA、100mM NaCl)中に希釈し、この際、反応混合物に加えたときに、DMSOの最終濃度が1%を超えないようにする。反応を初期設定するため、20mM HEPES pH7.5、0.01% BSA、0.02% SDS、0.5mM EDTA、100mM NaCl、0.5nM 構成型20Sプロテアソーム、および50μM 基質(スクシニル-Leu-Leu-Val-Tyr-AMC)を含むウェル当たり、試験化合物および基質が50μLの最終反応量になる様に加える。
【0105】
反応物を混合し、360nMの励起波長および450nMの発光を用いて、5分後に最初の読みとり値を記録する。第二の評価項目測定を1時間後に行う。対照のDMSOと比較した、蛍光の変化(最終-最初)から相対酵素活性を計算する。
【0106】
実施例2:線維芽細胞における老化細胞除去活性の測定
インビボで実験を開始する前に、通常、老化細胞を除去する効力および同一組織の非老化細胞と比較した老化細胞に対する選択性について、老化細胞除去薬の候補をスクリーニングすることが有益である。
【0107】
ヒト線維芽細胞IMR90細胞は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC(登録商標))より指定番号CCL-186で得ることができる。3% O
2、10% CO
2、および約95%湿度の雰囲気で、FBSおよびPen/Strepを含むDMEM中、該細胞を<75%の培養密度で維持する。該細胞を以下の3つのグループに分ける:照射細胞(使用前に照射した後、14日間培養)、増殖正常細胞(使用前に1日間低密度で培養)、および静止細胞(使用前に4日間高密度で培養)。
【0108】
0日目、照射細胞を以下のように調製する。IMR90細胞を洗浄し、50,000細胞/mLの密度でT175フラスコに入れ、10-15Gyで照射する。照射の後、96ウェルプレートに100μLの細胞を入れる。1日、3日、6日、10日および13日目に、各ウェルの培地を吸引し、新しい培地と交換する。
【0109】
10日目に、静止正常細胞を以下のように調製する。IMR90細胞を洗浄し、3mLのTrypLEトリプシン含有試薬(Thermofisher Scientific, Waltham, Massachusetts)と混合し、細胞が丸くなりプレートから剥がれ始めるまで5分間培養する。細胞を分散させ、細胞数を数え、50,000細胞/mLの濃度で培地中に調製する。100μLの細胞を、96ウェルプレートの各ウェルに入れる。培地を13日目に変える。
【0110】
13日目に、増殖正常細胞集団を以下のように調製する。正常IMR90細胞を洗浄し、3mLのTrypLEと混合し、細胞が丸くなりプレートから剥がれ始めるまで5分間培養する。細胞を分散させ、細胞数を数え、25,000細胞/mLの濃度で培地中に調製する。100μLの細胞を、96ウェルプレートの各ウェルに入れる。
【0111】
14日目に、以下のように試験阻害物質を細胞と混合する。各試験化合物のDMSO希釈系列を、96ウェルPCRプレートに所望の最終濃度の200倍で調製する。使用の直前、該DMSOストックを予め温めた完全培地に入れ1:200希釈とする。培地を各ウェルの細胞から吸引し、培地を含む100μL/ウェルの化合物を加える。
【0112】
試験のための老化細胞除去薬の候補化合物とともに、6日間細胞を培養し、17日目に新しい培地および同じ化合物濃度で培養培地を交換する。試験阻害物質とともに細胞を3日間培養する。アッセイ系では、細胞溶解中に放出される内因性ATPアーゼを同時に阻害し、安定な発光信号を生み出す反応条件が可能な、耐熱性ルシフェラーゼの特性を用いる。培養期間の終わりに、100μLのCellTiter-Glo(登録商標)試薬(Promega Corp.、Madison、Wisconsin)を各ウェルに加える。細胞プレートをオービタルシェーカー上に30秒間置き、発光を測定する。
【0113】
図2Aは、
図1Aおよび
図1Cより選択された構造体に対する、老化細胞除去活性およびプロテアソーム結合のデータを提供する。
図2Bは、
図1Bより選択された構造体に対する、老化細胞除去活性およびプロテアソーム結合のデータを提供する。
【0114】
実施例3:HUVEC細胞における老化細胞除去活性の測定
単一ロットからのヒト臍帯静脈細胞(HUVEC)を、ATCCから得た内皮細胞増殖キット(Endothelial Cell Growth Kit(商標))-VEGFで補充した血管細胞基本培地中で増殖させ、おおよそ8回集団を倍加させ、その後冷凍保存した。アッセイを開始する9日前に、老化細胞集団を解凍し、おおよそ27,000/cm
2で播種した。全細胞を、5% CO
2および3% O
2を伴う加湿したインキュベーター中で培養し、培地は48時間毎に交換した。播種後2日目に、X線源からの12Gyの放射線照射により、細胞を照射した。アッセイ開始の3日前に、非老化細胞集団を解凍し、老化集団に対するものとして播種する。アッセイの1日前、全細胞をトリプシン処理し、別々のプレートに、最終的な量が55μL/ウェルとなるよう、老化細胞5000個/ウェルおよび非老化細胞10,000個/ウェルで、384ウェルプレートに播種した。各プレートにおいては、中央の308個のウェルが細胞を含み、その外側の周囲のウェルは、70μL/ウェルの脱イオン水で満たした。
【0115】
アッセイの当日、10mMのストックから化合物を培地に希釈し、最高濃度の作業ストックを作成し、次にその一定分量をさらに培地に希釈し、残りの2つの作業ストックを作成した。アッセイを開始するため、5μLの作業ストックを細胞プレートに加えた。最終的な試験濃度は、20μM、2μM、および0.2μMであった。各プレートにおいて、100の試験化合物を、3つの陽性対照ウェルおよび5つの非処理(DMSO)対照とともに、一つの濃度あたり3つ組みでアッセイした。化合物を添加した後、プレートをインキュベーターに戻し3日間置く。
【0116】
CellTiter-Glo(商標)試薬(Promega)を用いて総ATP濃度を測定することにより、細胞生存を非間接的に評価した。得られた発光を、EnSpire(商標)プレートリーダー(Perkin Elmer)で定量化した。同一プレートの非処理対照に対する百分率として、化合物の各濃度における相対的な細胞生存率を計算した。
【0117】
候補となるリード化合物の用量反応を追跡するため、老化細胞および非老化細胞の384ウェルプレートを上記のとおり調製した。化合物を、DMSO中、10ポイントの1:3希釈系列として調製し、次に培地中で12倍に希釈した。次に、この作業ストック5μlを、細胞プレートに加えた。3日間のインキュベーションの後、DMSO対照に対する細胞生存を上述の通りに計算した。全測定を、4つ組みで行った。
【0118】
実施例4:変形性関節症モデルにおける老化細胞除去薬の有効性
本実施例は、変形性関節症の治療に関するマウスモデルにおけるMDM2阻害剤の試験を説明する。臨床治療における使用のための老化細胞除去薬を試験および開発するため、必要な変更を加えて適用し得る。
【0119】
以下のとおりモデルを実施した。C57BL/6Jマウスを外科手術して、片方の後肢の前十字靱帯を切り取り、その肢の関節に変形性関節症を誘導した。手術後の3週間および4週間の間、2週間の間1日おきに、処置した膝当たり5.8μgのNutlin 3A(n=7)で、関節内注射によってマウスを処置した。手術後4週間目の終わりに、マウスの関節の老化細胞の存在を測定し、機能を評価し、炎症マーカーを測定し、組織学的評価を受けた。
【0120】
実施する調査において、マウスは以下の2つの対照群を含んでいた:偽手術(n=3)(すなわち、ACLを切り取ること以外同様の外科的処置)およびGCV(ガンシクロビル)処置群に対応するビヒクルの関節内注射を受けているC57BL/6Jまたは3MRマウスを含む1グループ;ならびにACL手術およびGCV処置群に対応するビヒクル(n=5)の関節内注射を受けているC57BL/6Jまたは3MRマウスを含む1グループ。SASP因子(mmp3、IL-6)および老化マーカー(p16)の発現に関して、Nutlin 3A処置マウス由来の、手術したマウスの関節からのRNAを分析した。mRNAレベルを検出するためqRT-PCRを実施した。
【0121】
図3A、3Bおよび3Cは、それぞれ、組織中の、p16、IL-6およびMMP13の発現を示す。OA誘導手術は、これらのマーカーの発現増加に関連していた。Nutlin 3Aで処置した場合、対照のレベルより下に戻り発現が減少した。Nutlin 3Aによる処置によって、関節から老化細胞が取り除かれた。
【0122】
体重負荷試験によって手術後4週間で肢の機能を評価し、どちらの脚をマウスが好むのか測定した。測定を行う前に、少なくとも3回の機会を与え、マウスをチャンバーに順応させた。チャンバーの中にマウスを誘導し、各スケール上に後足1つで立たせた。各後肢にかかる荷重を、3秒間に亘って測定した。各時点で、各動物に対して少なくとも3回、別々の測定を実施した。結果を、処置した肢 対 反対側の処置していない肢にかかる荷重の百分率で示した。
【0123】
図4Aは、機能的調査の結果を示す。変形性関節症を誘導する手術を受けた治療していないマウスは、手術していない後肢が、手術した後肢より好ましかった(△)。しかしながら、Nutlin 3Aで老化細胞を取り除くと、手術を受けたマウスにおけるこの影響は無くなった(▽)。
【0124】
図4B、4Cおよび4Dは、それらの実験からの関節組織の組織病理を示す。ACL手術により誘導された変形性関節症は、プロテオグリカン層の破壊を引き起こした。Nutlin 3Aを用いて老化細胞を取り除いた場合、この影響が完全に無くなった。
【0125】
実施例5:糖尿病網膜症のモデルにおける老化細胞除去薬の有効性
本実施例は、眼底疾患、特に糖尿病網膜症の治療に関するマウスモデルにおけるBcl阻害物質の試験を説明する。臨床治療における使用のための老化細胞除去薬を試験するため、必要な変更を加えて適用し得る。
【0126】
モデル化合物UBX1967(Bcl-xL阻害物質)の有効性を、酸素誘導性網膜症(OIR)マウスモデル(Scott and Fruttiger, Eye (2010) 24, 416-421, Oubaha et al, 2016)で調べた。C57Bl/6マウスの仔およびそのCD1里親を、出生後7日目(P7)〜P12の間、高酸素環境(75% O
2)に曝露した。P12の時点で、1% DMSO、10% Tween-80、20% PEG-400で製剤化した1μlの試験化合物(200、20、または2ump)を、動物に硝子体内注射し、P17まで室内空気に戻した。P17で眼を摘出し、血管染色またはqRT-PCRのいずれかのために網膜を切断した。血管のない領域または新生血管領域を測定するため、網膜を平らに載せ、1mMのCaCl
2で1:100に希釈したイソレクチンB4(IB4)で染色した。老化マーカー(例えば、Cdkn2a、Cdkn1a、Il6、Vegfa)の定量的測定のため、qPCRを行った。RNAを単離し、逆転写によりcDNAを生成した。これは、選択的な転写物のqRT-PCRに使用された。
【0127】
図5Aおよび
図5Bは、硝子体内ITT投与したUBX1967により、全ての用量レベルで、血管新生および血管閉塞の度合いが統計的に顕著に改善されたことを示す。
【0128】
UBX1967の有効性を、ストレプトゾトシン(STZ)モデルにおいても調べた。
6〜7週のC57BL/6Jマウスの体重を測定し、それらの基準血糖を測定した(Accu-Chek(商標)、Roche)。マウスに、5日間連続して55 mg/KgのSTZ (Sigma-Alderich、St. Louis、MO)を腹腔内注射した。同齢の対照に、緩衝液のみ注射した。最後のSTZ注射から1週間後に血糖を再び測定し、その非絶食の血糖が17mM(300 mg/L)よりも高かった場合、マウスは糖尿病であると考えられた。STZ投与後8および9週間で、1μlのUBX1967(2μMまたは20μM、0.015% ポリソルベート80(商標)、0.2% リン酸ナトリウム、0.75% 塩化ナトリウムの懸濁液として製剤化、pH7.2)を、STZ処置糖尿病C57BL/6Jマウスの硝子体内に注射した。STZ処置後、10週間で網膜のエバンスブルー透過アッセイを実施した。
【0129】
図5Cおよび5Dは、この手順による予備的結果を示す。両方の用量レベルにおいて血管透過性の点で、UBX1967の硝子体内(IVT)投与後の網膜および脈絡膜血管漏出が改善した。
【0130】
実施例6:肺疾患モデルにおける老化細胞除去薬の有効性
本実施例は、肺疾患の治療のためのマウスモデル、特に特発性肺線維症(IPF)のモデルにおける阻害物質の試験を説明する。臨床治療における使用のための老化細胞除去薬を試験および開発するため、必要な変更を加えて適用し得る。
【0131】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)のモデルとして、マウスを巻きたばこ煙に曝露した。煙に曝露したマウスに対する老化細胞除去薬の効果を、老化細胞クリアランス、肺機能および組織病理によって評価する。
【0132】
本調査において用いるマウスは、米国特許出願公開第2017/0027139号およびDemariaら(Dev Cell. 2014 December 22; 31(6): 722-733)に記載される、3MR系を含む。3MRマウスは、プロドラッグのガンシクロビル(GCV)を細胞に対して致死性の化合物に変換するチミジンキナーゼをコードする導入遺伝子を有する。導入遺伝子において、この酵素はp16プロモーターの制御下に置かれ、特に老化細胞で発現が引き起こされる。GCVによってマウスを処置することにより、老化細胞が排除される。
【0133】
本調査において用いる他のマウスは、米国特許出願公開第2015/0296755号およびBakerら(Nature 2011 Nov 2;479(7372):232-236)に記載される、INK-ATTAC系を含む。INK-ATTACマウスは、p16プロモーターの制御下に、切替可能のカスパーゼ8をコードする導入遺伝子を有する。カスパーゼ8は、切替化合物AP20187によるマウスの処置によって活性化され得、そして該カスパーゼ8は、老化細胞におけるアポトーシスを直接誘導して、マウスからこれら老化細胞を排除する。
【0134】
実験を実施するため、6週齢の3MR(n=35)マウスまたはINK-ATTAC(n=35)マウスを、Teague TE-10システムから発生させた巻きたばこ煙に慢性的に曝露した。該Teague TE-10システムは、チャンバーで巻きたばこ煙の副流および本流の組合せを生成する自動制御の巻きたばこ煙機器であり、該組合せた煙は収集および混合チャンバーに運ばれ、各種の量の空気が煙の混合物と混合される。ジョンズホプキンス大学のCOPDコア施設からのCOPDプロトコールを適用した(Rangasamyら, 2004, J. Clin. Invest. 114:1248-1259; Yaoら、2012, J. Clin. Invest. 122:2032-2045)。
【0135】
マウスは、6ヶ月間、週5日、1日当たり合計6時間、巻きたばこ煙への曝露を受けた。火を付けた各巻きたばこ(1本の巻きたばこ当たり、10.9mgの総粒子状物質(TPM)、9.4mgのタール、および0.726 mgのニコチン、および11.9 mgの一酸化炭素を含む、3R4F試験用巻きたばこ(University of Kentucky, Lexington, KY))を、1.05L/分の流速で、2秒間、かつ1分ごとに合計8回ふかし、35 cm
3の標準的ふかしを与えた。一度に2本の巻きたばこをくすぶらせることにより、副流煙(89%)および本流煙(11%)の組合せを生成するように煙マシンを調節した。煙チャンバーの雰囲気は、総浮遊粒子(80〜120 mg/m
3)および一酸化炭素(350 ppm)と測定された。
【0136】
7日目から開始して、(10)INK-ATTACマウスおよび(10)3MRマウスを、それぞれ、AP20187(1週間当たり3x)またはガンシクロビル(連続5日間の処置後、16日間薬物を与えず、これを実験の終了まで繰返した)で処置した。同数のマウスが対応するビヒクルを受けた。残りの30匹のマウス(15 INK-ATTACおよび15 3MR)を、均等に分け、各遺伝子組換え系統について5匹を、3つの異なる処置群に入れた。1つの群(n=10)は、Nutlin 3Aを受けた(10%のDMSO中に溶解した25mg/kg/PBS中の3% Tween-20(商標)、14日間連続して処置し、その後、14日間薬物を与えず、これを実験の終了まで繰り返した)。1つの群(n=10)は、ABT-263(Navitoclax)を受け(15%のDMSO中に溶解した100mg/kg/5% Tween-20、7日間連続して処置し、その後、14日間薬物を与えず、これを、実験の終了まで繰り返した)、最後の群(n=10)は、ABT-263と同じ処置レジメンにしたがって、ABT-263に使用されたビヒクルのみを受けた(15%のDMSO/5%のTween-20)。巻きたばこ煙への曝露を受けなかった追加の70匹の動物を、対照として実験に使用した。
【0137】
巻きたばこ煙(CS)へ2ヶ月間曝露した後、肺機能を、MouseSTAT PhysioSuite(商標)のパルスオキシメータ(Kent Scientific)を使用して酸素飽和度をモニタリングすることによって評価した。イソフルラン(1.5%)で動物に麻酔をかけ、つま先クリップを適用した。マウスを、30秒間モニタリングし、この期間にわたる平均の末梢毛細血管の酸素飽和度(SpO2)測定値を計算した。
【0138】
図6に結果を示す。AP20187、ガンシクロビル、ABT-263(Navitoclax)(201)、またはNutlin 3A(101)による老化細胞のクリアランスは、未処置の対照と比較して、2か月間の巻きたばこ煙への曝露後のマウスにおけるSpO
2レベルの統計的に顕著な増加をもたらした。
【0139】
実施例7:全身投与したときのアテローム性動脈硬化症における老化細胞除去薬の有効性
本実施例は、アテローム性動脈硬化症の治療に関するマウスモデルにおけるMDM2阻害剤の試験を説明する。試験化合物は、局所投与ではなく全身投与する。モデルは、低密度リポタンパク質の受容体が欠損したLDLR-/-系のマウスにおいて実施する。ここに記載する実験は、臨床治療における使用用の他の種類の阻害薬を試験および開発するため、必要な変更を加えて適用し得る。
【0140】
LDLR-/-マウスの2つの群(10週)に、0週目から開始して調査の全体にわたって、脂肪からの42%のカロリーを有する高脂肪食(HFD)(Harlan Teklad TD.88137)を与える。LDLR-/-マウスの2つの群(10週)に、通常の餌(-HFD)を与える。0〜2週目から、HFDマウスおよび-HFDマウスの1つの群を、Nutlin 3A(腹腔内に、25mg/kg)で処置する。1回の処置サイクルは、14日間処置、14日間のオフである。ビヒクルを、HFDマウスの1つの群および-HFDマウスの1つの群に投与する。4週目(時間点1)に、マウスの1つの群を屠殺し、プラーク中の老化細胞の存在を評価する。残りのマウスの一部については、Nutlin 3Aおよびビヒクルの投与を、4〜6週目から繰り返す。8週目(時間点2)に、マウスを屠殺し、プラーク中の老化細胞の存在を評価する。残りのマウスを、8〜10週目からNutlin 3Aまたはビヒクルで処置する。12週目(時間点3)に、マウスを屠殺し、プラークのレベルおよびプラーク中の老化細胞の数を評価する。
【0141】
時間点1でHFDを与え、かつNutlin 3Aまたはビヒクルで処置したLDLR-/-マウスにおいて、-HFDを与えたマウス(1群当たりn=3)と比較して、血漿脂質レベルを測定した。血漿を、午後の中頃に収集し、脂質およびリポタンパク質の循環のために分析した。
【0142】
時間点1の終わりに、HFDを与え、かつNutlin 3Aまたはビヒクルで処置したLDLR-/-マウスを屠殺し(n=3、すべての群)、大動脈弓を、SASP因子および老化細胞マーカーのRT-PCR分析のために切開した。値を、GAPDHに対して正規化し、さらに、同齢の、ビヒクル処置した普通食のLDLR-/-マウスに対する倍率変化として表した。データは、HFDを与えたLDLR-/-マウスにおけるNutlin 3Aによる老化細胞のクリアランスにより、1回の処置サイクル後に、幾つかのSASP因子および老化細胞マーカー、MMP3、MMP13、PAI1、p21、IGFBP2、IL-1A、およびIL-1Bの発現が減少したことを示す。
【0143】
時間点2の終わりに、HFDを与え、かつNutlin 3Aまたはビヒクルで処置したLDLR-/-マウス(すべての群に対してn=3)を屠殺し、大動脈弓を、SASP因子および老化細胞マーカーのRT-PCR分析のために切開した。値を、GAPDHに標準化し、さらに、年齢が一致する、ビヒクル処置した普通食のLDLR-/-マウスに対する倍率変化として表した。データは、HFDマウス内の大動脈弓における幾つかのSASP因子および老化細胞マーカーの発現を示す。HFDを与えたLDLR-/-マウスにおけるNutlin 3Aの複数回の処置サイクルによる老化細胞のクリアランスにより、ほとんどのマーカーの発現が減した。
【0144】
時間点3の終わりに、HFDを与え、かつNutlin 3Aまたはビヒクルで処置したLDLR-/-マウス(すべての群に対してn=3)を屠殺し、大動脈を切開し、脂質の存在を検出するためにスダン(Sudan)IVで染色した。マウスの身体組成を、MRIによって分析し、循環する血液細胞を、Hemavet(商標)によって数えた。
【0145】
図7に結果を示す。Nutlin 3Aによる処置によって、下行大動脈中のプラークで覆われた表面領域が約45%まで減少した。血小板およびリンパ球の数は、Nutlin 3Aで処置したマウスとビヒクルで処置したマウスとの間で同等であった。Nutlin 3Aによる処置はまた、高脂肪食を与えたマウスにおいて体重および体脂肪の組成を減少させた。
【0146】
実施例8:インビトロおよびインビボにおける、がん細胞に対する細胞毒性の測定
本発明の新規のプロテアソーム阻害物質は、老化細胞が介在する疾患の治療用だけでなく、がん細胞が介在する疾患の治療用にも開発され得る。
【0147】
がん細胞を特に殺す化合物の能力は、他の確立した細胞株を用いるアッセイで試験し得る。これらは、HeLa細胞、OVCAR-3、LNCaP、およびMillipore Sigma, Burlington MA, U.S.Aから利用可能な認証がん細胞株(Authenticated Cancer Cell Lines)のいずれかを含む。化合物が、同じ組織型の非がん細胞と比較して少なくとも5倍低い濃度および好ましくは25倍または100倍低い濃度で細胞に対して致死性である場合に、「化合物ががん細胞を特に殺す」。対照細胞は、試験されるがん細胞株に類似する形態学的特徴および細胞表面マーカーを有するが、がんの兆候を有していない。
【0148】
どのタイプのがんが使用者の特定の関心対象であるかにしたがって、インビボにおいて、感受性SCLC(H889)および血液学的(RS4;11)細胞株で確立した側腹部異種移植モデルにおいて、あるいは他の腫瘍形成がん細胞株を用いて、化合物を評価する。経口投与または静脈内投与するとき、化合物は、H889(SCLC)腫瘍またはRS4;11(ALL)腫瘍を有する全ての動物における処置が終了したのち数週間の間持続する、迅速かつ完全な腫瘍応答(CR)を誘導する。H146 SCLC腫瘍を有するマウスの類似の治療により、動物における迅速な退縮を誘導し得る。
【0149】
本開示において提示したいくつかの仮説は、読者が発明を理解するための根拠を提供する。この根拠は、読者の知的充実のために提供される。本発明の実施には、仮説の詳細な理解または引用を必要としない。他に言及する場合を除き、本開示で提示した仮説の特徴は、請求項に係る発明の活用または実施を限定するものではない。
【0150】
例えば、老化細胞の排除が明確に必要である場合を除き、本発明の化合物は、老化細胞におけるその効果にかかわらず、記載された疾患の治療に使用し得る。本開示において言及した老化関連疾患の多くは、年長の患者において主に起こるが、老化細胞の発生と老化細胞が介在する病態生理は、照射、他のタイプの組織損傷、他のタイプの疾病、遺伝的異常、および発明などの他の事象に起因する。本発明は、他に明示的に記載または要求されていなければ、記載された疾患を有する任意の年齢の患者において実施し得る。
【0151】
本発明のペプチド系化合物の作用メカニズムについての議論も、読者の知的充実のために提供される。他に言及がある場合を除き、本発明の化合物は、該化合物が、処置される対象の標的組織におけるプロテアソームを阻害することが実際に示されているかどうかにかかわらず、老化細胞またはがん細胞を除去するために、または、下記の特許請求の範囲に記載された疾患状態の治療のために使用し得る。
【0152】
本開示に記載される化合物および組成物は、老化細胞を排除し、および老化関連疾患を治療するという文脈で説明されているが、新規の化合物およびそれらの誘導体は、実験室における使用、老化細胞疾患の治療、法律上の中毒性疾患、およびがんなどの他の疾患の治療を含むがこれに限定されない、任意の目的のために、本発明にしたがって調製され得る。
【0153】
本発明は、特定の実施例および説明に関連して記載されている一方、通常の開発および最適化として、および当業者の知見の範囲内で、特定の文脈および使用目的に適用するように、修正が可能であり、等価物で置換し得、それによって、クレームされる範囲およびその等価物の範囲から逸脱することなく、本発明の利点を達成できる。
【0154】
本明細書に示される本発明の他の技術的側面は、さらなる際立った特徴を与えるため任意に特許請求の範囲に組み入れ得る。