特許第6797319号(P6797319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6797319鉄道車両用ブレーキ制御装置および鉄道車両用ブレーキ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797319
(24)【登録日】2020年11月19日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】鉄道車両用ブレーキ制御装置および鉄道車両用ブレーキ制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/34 20060101AFI20201130BHJP
   B60T 8/172 20060101ALI20201130BHJP
   B61H 5/00 20060101ALI20201130BHJP
   B61H 1/00 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   B60T8/34
   B60T8/172 Z
   B61H5/00
   B61H1/00
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-558822(P2019-558822)
(86)(22)【出願日】2017年12月15日
(86)【国際出願番号】JP2017045047
(87)【国際公開番号】WO2019116529
(87)【国際公開日】20190620
【審査請求日】2020年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148149
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100181618
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 良平
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 俊平
(72)【発明者】
【氏名】津越 遼平
(72)【発明者】
【氏名】岡原 卓矢
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−206174(JP,A)
【文献】 特開2017−56876(JP,A)
【文献】 特開2014−46898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/32−8/96
B60T 7/12−8/1769
B61H 1/00
B61H 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の走行時に回転する回転体に摩擦材を押しつけることでブレーキ力を発生させる機械ブレーキ装置を制御するブレーキ制御装置であって、
減速度を示すブレーキ指令を取得する指令取得部と、
前記指令取得部が前記ブレーキ指令を取得した場合、前記減速度、および車両または台車の荷重から、前記減速度を得るために必要なブレーキ力である必要ブレーキ力を算出する必要ブレーキ力算出部と、
前記摩擦材を前記回転体に押しつける力である発生押圧力を算出する発生押圧力算出部と、
前記発生押圧力に基づいて、前記摩擦材と前記回転体との接触面の状態を推定し、推定した前記接触面の状態に応じて摩擦係数を算出する摩擦係数算出部と、
前記必要ブレーキ力および前記摩擦係数から、ブレーキ圧を算出するブレーキ圧算出部と、
流体源から供給される流体の圧力を、前記ブレーキ圧に応じて調節し、圧力が調節された前記流体を出力する出力部と、
を備える鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記摩擦係数算出部は、前記発生押圧力に基づいて更新され、前記接触面の状態を示す状態指数を保持し、前記状態指数に応じて前記摩擦係数を算出する、
請求項1に記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記鉄道車両の車輪の周速度を取得する速度取得部をさらに備え、
前記摩擦係数算出部は、
前記状態指数が記憶される記憶部と、
前記周速度が第1閾値以上である場合、前記発生押圧力および前記周速度の乗算値で表される負荷量を算出する負荷算出部と、
前記負荷量に基づいて前記状態指数を算出し、前記記憶部に記憶された前記状態指数を更新する指数更新部と、
前記記憶部に記憶された前記状態指数に応じた前記摩擦係数を算出する指数変換部と、を有する、
請求項2に記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記指数更新部は、前記負荷量が第2閾値以上である場合、前記負荷量に第1係数を乗算した値を加算値として算出し、前記負荷量が前記第2閾値未満である場合、前記負荷量に前記第1係数と符号が異なる第2係数を乗算した値を前記加算値として算出し、前記状態指数に1以下の正数である第3係数を乗算した値に前記加算値を加算して、前記状態指数を算出する、
請求項3に記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記第3係数は、1未満の値である、
請求項4に記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記指数更新部は、前記指令取得部が前記ブレーキ指令を取得している間は、前記負荷量に基づく前記状態指数の算出を繰り返し、前記指令取得部が前記ブレーキ指令を取得しなくなったタイミングで前記状態指数を更新する、
請求項3から5のいずれか1項に記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項7】
前記機械ブレーキ装置が有するブレーキシリンダの圧力を示すBC圧を検出する圧力センサをさらに備え、
前記発生押圧力算出部は、前記圧力センサが検出した前記BC圧に前記ブレーキシリンダの配管径を乗算することで、前記発生押圧力を算出する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項8】
前記発生押圧力算出部は、前記必要ブレーキ力算出部が算出した前記必要ブレーキ力に基づいて前記発生押圧力を算出する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の鉄道車両用ブレーキ制御装置。
【請求項9】
鉄道車両の走行時に回転する回転体に摩擦材を押しつけることでブレーキ力を発生させる機械ブレーキ装置を制御するブレーキ制御装置が行う鉄道車両用ブレーキ制御方法であって、
減速度を示すブレーキ指令を取得した場合に、前記減速度、および車両または台車の荷重から、前記減速度を得るために必要なブレーキ力である必要ブレーキ力を算出し、
前記摩擦材を前記回転体に押しつける力である発生押圧力を算出し、
前記発生押圧力に基づいて、前記摩擦材と前記回転体との接触面の状態を推定し、推定した前記接触面の状態に応じて摩擦係数を算出し、
前記必要ブレーキ力および前記摩擦係数から、ブレーキ圧を算出し、
流体源から供給される流体の圧力を、前記ブレーキ圧に応じて調節し、圧力が調節された前記流体を出力する、
鉄道車両用ブレーキ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道車両用ブレーキ制御装置および鉄道車両用ブレーキ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両に搭載される機械ブレーキ装置は、制輪子を車輪に押しつける、または、ブレーキパッドをディスクに押しつけることで、ブレーキ力を発生させる。すなわち、制輪子またはブレーキパッドである摩擦材が、車輪またはディスクである、鉄道車両の走行時に回転する回転体に押しつけられることでブレーキ力が発生する。
【0003】
特許文献1に開示される鉄道車両のブレーキ制御装置は、従来のブレーキ制御によって、所要ブレーキ力を演算し、ブレーキ制御信号を電空変換弁に出力する。該ブレーキ制御装置は、車両速度および現在の鉄道車両の位置から目標速度パターンを生成し、目標速度パターンが示す各時刻または各地点の目標速度に鉄道車両の速度を追従させるフィードバック制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−291797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
制輪子を車輪に押し付けてブレーキ力を発生させる場合に、ブレーキ力および車輪の周速度の乗算値で表される車輪への負荷が閾値以下である場合、接触面が鏡面化する。接触面の鏡面化により、摩擦係数が低下する。一方、車輪への負荷が上記閾値より大きいと、接触面が荒れることで摩擦係数が増大する。摩擦係数が変化すると、一定のブレーキ操作によって一定の押付力が生じている場合でも、ブレーキ力にばらつきが生じてしまう。特許文献1に開示される従来のブレーキ制御による所要ブレーキ力の算出時には、摩擦係数の変動は考慮されていない。そのため、従来のブレーキ制御では、車輪への負荷に応じて、ブレーキ力のばらつきが生じる。
【0006】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、ブレーキ力のばらつきを抑制することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の鉄道車両用ブレーキ制御装置は、鉄道車両の走行時に回転する回転体に摩擦材を押しつけることでブレーキ力を発生させる機械ブレーキ装置を制御するブレーキ制御装置であって、指令取得部、必要ブレーキ力算出部、発生押圧力算出部、摩擦係数算出部、ブレーキ圧算出部、および出力部を備える。指令取得部は、減速度を示すブレーキ指令を取得する。必要ブレーキ力算出部は、指令取得部がブレーキ指令を取得した場合、減速度、および車両または台車の荷重から、減速度を得るために必要なブレーキ力である必要ブレーキ力を算出する。発生押圧力算出部は、摩擦材を回転体に押しつける力である発生押圧力を算出する。摩擦係数算出部は、発生押圧力に基づいて、摩擦材と回転体との接触面の状態を推定し、推定した接触面の状態に応じて摩擦係数を算出する。ブレーキ圧算出部は、必要ブレーキ力および摩擦係数から、ブレーキ圧を算出する。出力部は、流体源から供給される流体の圧力を、ブレーキ圧に応じて調節し、圧力が調節された流体を出力する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、機械ブレーキ装置で生じている発生押圧力に基づいて推定された接触面の状態に応じて摩擦係数を算出し、算出した摩擦係数に応じてブレーキ圧を算出することで、ブレーキ力のばらつきを抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る鉄道車両用ブレーキ制御装置の構成例を示すブロック図
図2】実施の形態に係るブレーキ制御部の構成例を示すブロック図
図3】実施の形態に係る摩擦係数算出部の構成例を示すブロック図
図4】実施の形態に係る鉄道車両用ブレーキ制御装置が行うブレーキ制御の動作の一例を示すフローチャート
図5】実施の形態に係るブレーキ制御部のハードウェアの構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係る鉄道車両用ブレーキ制御装置の構成例を示すブロック図である。鉄道車両用ブレーキ制御装置(以下、ブレーキ制御装置という)1は、ブレーキ指令を取得し、取得したブレーキ指令に応じて、流体によって作動する機械ブレーキ装置4を制御する。実施の形態の例では、ブレーキ制御装置1は、例えば運転台に設けられるブレーキ設定器2からブレーキ指令を取得する。ブレーキ制御装置1は、流体源3が供給する流体の圧力を調節し、圧力が調節された流体を機械ブレーキ装置4が有するブレーキシリンダに供給することで、鉄道車両のブレーキ制御を行う。流体は、例えば、空気、油等である。実施の形態の例では、流体として空気を用いる。流体源3は、例えば、空気圧縮機で圧縮された空気が充填されている元空気タンクである。
【0012】
機械ブレーキ装置4は、制輪子を車輪に押しつける、または、ブレーキパッドをディスクに押しつけることで、ブレーキ力を発生させる。すなわち、制輪子、ブレーキパッド等である、機械ブレーキ装置4の摩擦材が、車輪、ディスク等の鉄道車両の走行時に回転する回転体に押しつけられることでブレーキ力が発生する。応荷重検出器5は、車両または台車の荷重を検出する。速度センサ6は、車輪の周速度を検出する。速度センサ6は、例えば、鉄道車両の各車両において前後の台車のそれぞれの車軸に取り付けられる。すなわち、各車両に4つの速度センサ6が取り付けられる。速度センサ6は、車軸の回転数から、車輪の周速度を検出する。
【0013】
図1において実線で接続される、流体源3とブレーキ制御装置1の各部との間およびブレーキ制御装置1の各部と機械ブレーキ装置4との間は、全て空気配管で接続される。図1において、点線の矢印は、電気信号を示し、点線の矢印で接続されるブレーキ制御装置1の各部の間およびブレーキ設定器2とブレーキ制御装置1の各部の間は、全て電気回路で接続される。
【0014】
ブレーキ制御装置1は、ブレーキ指令に基づいて、ブレーキ圧を指示する制御信号を出力するブレーキ制御部11、ブレーキ圧に応じて、流体源3が供給する流体の圧力を調節し、圧力が調節された流体を出力する出力部12、および出力部12が出力する流体の圧力を検出する圧力センサ15を備える。出力部12は、制御信号に応じて流体源3が供給する流体の圧力を調節して出力する電空変換弁13、および、電空変換弁13の出力に応じて、流体源から供給される流体の圧力を調節して機械ブレーキ装置4に出力する中継弁14を有する。
【0015】
ブレーキ制御部11は、機械ブレーキ装置4で生じている発生押圧力に基づいて摩擦材と回転体との接触面の状態を推定する。ブレーキ制御部11は、推定した接触面の状態に応じて摩擦係数を算出し、算出した摩擦係数に基づいてブレーキ圧を算出する。ブレーキ制御部11は、圧力センサ15の検出値に応じてフィードバック制御を行う。接触面の状態に応じて算出した摩擦係数に基づいてブレーキ圧を算出することで、機械ブレーキ装置4で実際に生じるブレーキ力のばらつきを抑制することが可能である。電空変換弁13を設けることで、電気信号である制御信号を、空気圧信号に変換することができる。中継弁14は、機械ブレーキ装置4の応答性を向上させるために設けられる。圧力センサ15は、中継弁14が出力する流体の圧力を検出し、検出値を電気信号としてブレーキ制御部11に送る。圧力センサ15の検出値は、機械ブレーキ装置4が有するブレーキシリンダの圧力とみなすことができる。
【0016】
図2は、実施の形態に係るブレーキ制御部の構成例を示すブロック図である。ブレーキ制御部11は、ブレーキ指令を取得する指令取得部21、ブレーキ指令が示す減速度を得るために必要なブレーキ力である必要ブレーキ力を算出する必要ブレーキ力算出部22、車輪の周速度を取得する速度取得部23、摩擦材を回転体に押しつける力である発生押圧力を算出する発生押圧力算出部24、接触面の状態を推定し、推定した接触面の状態に応じて摩擦係数を算出する摩擦係数算出部25、および、ブレーキ圧を算出するブレーキ圧算出部26を備える。
【0017】
指令取得部21は、ブレーキ設定器2から、減速度を示すブレーキ指令を取得する。指令取得部21は、ATC(Automatic Train Control:自動列車制御装置)、ATO(Automatic Train Operation:自動列車運転装置)等からブレーキ指令を取得してもよい。
【0018】
必要ブレーキ力算出部22は、ブレーキ指令が示す減速度を得るために必要なブレーキ力である必要ブレーキ力を算出する。必要ブレーキ力算出部22は、算出した必要ブレーキ力をブレーキ圧算出部26に送る。必要ブレーキ力算出部22は、車両ごとに必要ブレーキ力を算出してもよいし、台車ごとに必要ブレーキ力を算出してもよい。必要ブレーキ力算出部22は、ブレーキ指令、および車両または台車の荷重に基づき、車両または台車ごとに必要ブレーキ力を算出する。荷重は質量と重力加速度の積であるから、応荷重検出器5において荷重の検出値が質量に一致する単位で荷重が検出される場合には、減速度と荷重の検出値の積によって必要ブレーキ力を算出することができる。例えば、ブレーキ指令が示す減速度がαであり、応荷重検出器5が検出した各車両の荷重がW1,W2,・・・,Wkである場合、各車両の必要ブレーキ力は、α・W1,α・W2,・・・,α・Wkで表される。まだ応荷重検出器5が設けられていない車両または台車の荷重として、応荷重検出器5が設けられている他の車両または他の台車の荷重を用いてもよい。
【0019】
速度取得部23は、例えば車軸に取り付けられた速度センサ6から車輪の周速度を取得する。速度取得部23は、例えば、列車情報管理システム、ATC等から車輪の周速度を取得してもよい。
【0020】
発生押圧力算出部24は、摩擦材を回転体に押しつける力である発生押圧力を算出する。発生押圧力算出部24は、圧力センサ15が検出したBC圧にブレーキシリンダの配管径を乗算することで、発生押圧力を算出する。あるいは、発生押圧力算出部24は、必要ブレーキ力算出部22に基づいて、発生押圧力を算出してもよい。
【0021】
摩擦係数算出部25は、発生押圧力に基づいて、接触面の状態を推定し、推定した接触面の状態に応じて摩擦係数を算出する。摩擦係数算出部25は、発生押圧力に基づいて更新され、接触面の状態を示す状態指数を保持し、状態指数に応じて摩擦係数を算出する。あるいは、摩擦係数算出部25は、発生押圧力と接触面の状態を対応付けるテーブル、および、接触面の状態と摩擦係数とを対応付けるテーブルに基づいて、摩擦係数を算出してもよい。
【0022】
ブレーキ圧算出部26は、必要ブレーキ力算出部22が算出した必要ブレーキ力、および摩擦係数算出部25が算出した摩擦係数から、ブレーキ圧を算出する。ブレーキ圧算出部26は、下記(1)式で表されるように、ブレーキ圧の目標値Bを算出する。下記(1)式において、Fは必要ブレーキ力、kは定数、μは摩擦係数である。ブレーキ圧算出部26は、ブレーキ圧の目標値Bおよび圧力センサ15の検出値に基づきフィードバック制御を行い、ブレーキ圧の制御量を算出する。ブレーキ圧算出部26は、制御量を示す電気信号を電空変換弁13に出力する。
B=F/(k・μ) ・・・(1)
【0023】
図1に示す電空変換弁13は、例えば空気の供給を行うための電磁弁であるAV電磁弁および空気の排出を行うための電磁弁であるRV電磁弁を備える。電空変換弁13は、ブレーキ制御部11が出力するブレーキ圧の制御量を示す電気信号に応じて、流体源3が供給する流体の圧力を調節し、中継弁14に出力する。上述のように、中継弁14は、電空変換弁13の出力に応じて、流体源3から供給される流体の圧力を調節して機械ブレーキ装置4に出力する。これにより、機械ブレーキ装置4が作動する。
【0024】
上記(1)式で表されるように、摩擦係数μが大きくなると、ブレーキ圧の目標値Bは小さくなる。一方、摩擦係数μが小さくなると、ブレーキ圧の目標値Bは大きくなる。機械ブレーキ装置4で生じるブレーキ力は、摩擦係数μとブレーキシリンダのブレーキ圧の乗算値に比例する。上述のように、摩擦係数μに反比例してブレーキ圧の目標値Bが変化するため、摩擦係数が変化しても機械ブレーキ装置4で生じるブレーキ力のばらつきを抑制することが可能である。すなわち、接触面の状態に応じて算出された摩擦係数に基づいてブレーキ圧が算出されているため、接触面の状態が変化することで摩擦係数が変動しても、ブレーキ力のばらつきを抑制することが可能である。
【0025】
図3は、実施の形態に係る摩擦係数算出部の構成例を示すブロック図である。摩擦係数算出部25は、状態指数が記憶される記憶部34を有する。摩擦係数算出部25は、さらに発生押圧力および周速度の乗算値で表される負荷量を算出する負荷算出部31、負荷量に基づいて状態指数を算出し、記憶部34に記憶された状態指数を更新する指数更新部32、および、記憶部34に記憶された状態指数に応じた摩擦係数を算出する指数変換部33を有する。状態指数Wは、接触面の状態を示す。状態指数Wは、摩擦係数μと対応付けられており、摩擦係数算出部25は、状態指数Wから摩擦係数μを算出することが可能である。状態指数Wと摩擦係数μの対応付けは任意である。実施の形態の例では、状態指数Wおよび摩擦係数μは、正の相関関係で対応付けられる。すなわち、状態指数Wが大きくなると、摩擦係数μが大きくなる。状態指数Wの初期値Wに対し、摩擦材および回転体の材質に基づいて、摩擦係数μの初期値μが定められる。後述するように、摩擦係数算出部25は、状態指数W=Wの状態から、負荷量に基づいて状態指数Wを算出することを繰り返し、記憶部34に記憶された状態指数Wに対応付けられたμを算出する。
【0026】
負荷算出部31は、速度取得部23が取得した周速度が第1閾値以上である場合、下記(2)式で表されるように負荷量Qを算出する。下記(2)式において、Fbiは発生押圧力、Rは、車輪の半径、ωは車軸の角速度である。車輪の周速度は、R・ωで表される。負荷算出部31は、周速度が第1閾値以上であるか否かに基づいて、鉄道車両が走行しているか否かを判断する。第1閾値は、例えば、2km/hである。
Q=Fbi・R・ω ・・・(2)
【0027】
発生押圧力Fbiは、下記(3)式で表される。下記(3)式において、Pbcは、圧力センサ15の検出値、Sは、ブレーキシリンダの配管径である。発生押圧力算出部24は、下記(3)式のPbcとして、上記(1)式で表されるブレーキ圧の目標値Bを用い、発生押圧力Fbiを算出してもよい。
bi=Pbc・S ・・・(3)
【0028】
指数更新部32は、負荷量Qに基づいて、状態指数Wを算出する。例えば、指数更新部32は、負荷量Qが第2閾値以上である場合、下記(4)式で表されるように、負荷量Qに第1係数Aを乗算した値を加算値ΔWとして算出する。指数更新部32は、負荷量Qが第2閾値未満である場合、下記(5)式で表されるように、負荷量Qに第1係数Aと符号が異なる第2係数Bを乗算した値を加算値ΔWとして算出する。例えばA>0、B<0である。指数更新部32は、下記(6)式で表されるように、状態指数Wに、1以下の正数である第3係数σを乗算した値に加算値ΔWを加算した値で、状態指数Wを更新する。例えば、σは、1未満の正数である。σを1未満の正数とすることで、ブレーキがかかっておらず、Q=0である場合に、σに応じて状態指数Wは減少する。これにより、例えば、走行時に落ち葉、塵埃等が車輪に付着することによる、摩擦係数μの低下を考慮してブレーキ圧を算出することが可能である。第2閾値、第1係数A、第2係数B、および第3係数σは、摩擦材および回転体の材質に応じて定めることができる。
ΔW=A・Q ・・・(4)
ΔW=B・Q ・・・(5)
W=σW+ΔW ・・・(6)
【0029】
指数更新部32は、指令取得部21がブレーキ指令を取得している間は、上述のように状態指数Wの算出を繰り返し、指令取得部21がブレーキ指令を取得しなくなったタイミングで、上述のように算出した状態指数Wで、記憶部34に記憶されている状態指数Wを更新する。これにより、ブレーキ期間中に摩擦係数μが変動することによって制御系が不安定になることを抑制する。
【0030】
指数変換部33は、記憶部34に記憶されている状態指数Wに応じて摩擦係数μを算出する。摩擦係数μは、状態指数Wを引数とする関数として定義されてもよいし、摩擦係数μと状態指数Wとを対応付けるテーブルが定義されてもよい。摩擦係数μと状態指数Wとの対応付けは、鉄道車両の試験走行、シミュレーション等に応じて定めることができる。指数更新部32が、ブレーキ期間の終了時点で状態指数Wを更新する場合、指数変換部33は、直前のブレーキ期間の終了時点で更新された状態指数Wに応じて摩擦係数μを算出する。すなわち、ブレーキ制御部11は、これまでのブレーキ期間におけるブレーキ制御によって変化した接触面の状態に応じてブレーキ圧を算出する。
【0031】
図4は、実施の形態に係る鉄道車両用ブレーキ制御装置が行うブレーキ制御の動作の一例を示すフローチャートである。指令取得部21がブレーキ指令を取得していない間は(ステップS11;N)、ステップS11の処理を繰り返す。指令取得部21がブレーキ指令を取得した場合は(ステップS11;Y)、摩擦係数算出部25が有する指数変換部33は、記憶部34が保持している状態指数Wから摩擦係数μを算出する(ステップS12)。発生押圧力算出部24は、発生押圧力を算出する(ステップS13)。摩擦係数算出部25が有する指数更新部32は、負荷量Qに基づいて、状態指数Wを算出する(ステップS14)。必要ブレーキ力算出部22は、ブレーキ指令が示す減速度、および車両または台車の荷重から必要ブレーキ力を算出する(ステップS15)。ブレーキ圧算出部26は、必要ブレーキ力算出部22が算出した必要ブレーキ力および摩擦係数算出部25が算出した摩擦係数からブレーキ圧を算出する(ステップS16)。出力部は、ブレーキ圧算出部26が算出したブレーキ圧に応じて、流体源3が供給する流体の圧力を調節し、圧力が調節された流体を機械ブレーキ装置4に出力することで、機械ブレーキ装置4を制御する(ステップS17)。
【0032】
継続してブレーキ指令を取得している間は(ステップS18;Y)、ステップS13に戻って、上述の処理を繰り返す。ブレーキ指令を取得しなくなった場合は(ステップS18;N)、指数更新部32は、ステップS14の処理を繰り返して算出した状態指数Wで、記憶部34に記憶されている状態指数Wを更新する(ステップS19)。ステップS19の処理が終了すると、ブレーキ制御の処理を終了する。
【0033】
以上説明したとおり、本実施の形態に係るブレーキ制御装置1によれば、発生押圧力に基づいて推定された接触面の状態に応じて摩擦係数を算出し、算出した摩擦係数に応じてブレーキ圧を算出することで、ブレーキ力のばらつきを抑制することが可能である。
【0034】
図5は、実施の形態に係るブレーキ制御部のハードウェアの構成例を示す図である。ブレーキ制御部11は、各部を制御するハードウェア構成としてプロセッサ41、メモリ42、およびインターフェース43を備える。これらの装置の各機能は、プロセッサ41がメモリ42に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。インターフェース43は各装置を接続し、通信を確立させるためのものであり、必要に応じて複数の種類のインターフェースから構成されてもよい。図5では、プロセッサ41およびメモリ42をそれぞれ1つで構成する例を示しているが、複数のプロセッサ41および複数のメモリ42が連携して各機能を実行してもよい。
【0035】
その他、上述のハードウェア構成やフローチャートは一例であり、任意に変更および修正が可能である。
【0036】
プロセッサ41、メモリ42,およびインターフェース43で構成される制御処理を行う中心となる部分は、専用のシステムによらず、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。たとえば、上述の動作を実行するためのコンピュータプログラムを、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(フレキシブルディスク、CD−ROM(Compact Disc-Read Only Memory)、DVD−ROM(Digital Versatile Disc-Read Only Memory)など)に格納して配布し、上記コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、上述の処理を実行するブレーキ制御部11を構成してもよい。また、通信ネットワーク上のサーバ装置が有する記憶装置に上記コンピュータプログラムを格納しておき、通常のコンピュータシステムがダウンロードすることでブレーキ制御部11を構成してもよい。
【0037】
また、ブレーキ制御部11の機能を、OS(Operating System:オペレーティングシステム)とアプリケーションプログラムの分担、またはOSとアプリケーションプログラムとの協働により実現する場合などには、アプリケーションプログラム部分のみを記録媒体や記憶装置に格納してもよい。
【0038】
また、搬送波にコンピュータプログラムを重畳し、通信ネットワークを介して配信することも可能である。たとえば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS:Bulletin Board System)に上記コンピュータプログラムを掲示し、通信ネットワークを介して上記コンピュータプログラムを配信してもよい。そして、このコンピュータプログラムを起動し、OSの制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、上述の処理を実行できるように構成してもよい。
【0039】
本発明の実施の形態は上述の実施の形態に限られない。状態指数Wおよび摩擦係数μは、負の相関関係で対応付けられてもよい。
【0040】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0041】
1 ブレーキ制御装置、2 ブレーキ設定器、3 流体源、4 機械ブレーキ装置、5 応荷重検出器、6 速度センサ、11 ブレーキ制御部、12 出力部、13 電空変換弁、14 中継弁、15 圧力センサ、21 指令取得部、22 必要ブレーキ力算出部、23 速度取得部、24 発生押圧力算出部、25 摩擦係数算出部、26 ブレーキ圧算出部、31 負荷算出部、32 指数更新部、33 指数変換部、34 記憶部、41 プロセッサ、42 メモリ、43 インターフェース。
図1
図2
図3
図4
図5