【文献】
Han Q., Li Y., Zhang G. ,Online Control of Deposited Geometry of Multi-layer Multi-bead Structure for Wire and Arc Additive Manufacturing,Transactions on Intelligent Welding Manufacturing. Transactions on Intelligent Welding Manufacturing,Springer,2017年 8月 3日,No.1,2017,p85-93
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一幾何情報と前記第二幾何情報は、前記溶接トーチの狙い位置近傍の幾何学的特徴点、前記ビード高さ、前記ビード幅、前記溶着ビードのビード断面積、ビード外形状を表す断面形状近似曲線のうち、少なくともいずれかの情報を含む、請求項4又は5に記載の積層造形方法。
前記第一幾何情報と前記第二幾何情報は、前記溶接トーチの狙い位置近傍の幾何学的特徴点、前記ビード高さ、前記ビード幅、前記溶着ビードのビード断面積、ビード外形状を表す前記断面形状近似曲線のうち、少なくともいずれかの情報を含む、請求項6〜9のいずれか1項に記載の積層造形方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
ここでは、溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層する積層造形装置を用いて、複数層の溶着ビードからなる積層造形物を製造する手順を説明する。
【0013】
図1は、積層造形物の製造装置の構成図である。
本構成の積層造形装置100は、造形装置11と、造形装置11を統括制御するコントローラ13と、電源装置15と、を備える。
【0014】
造形装置11は、先端軸に溶接トーチ17が設けられた溶接ロボット19と、溶接トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部21とを有する。造形装置11は、溶接ロボットの駆動によって溶接トーチ17を移動させながら、溶着ビードBを形成する。
【0015】
また、溶接ロボット19の先端軸には、溶接トーチ17と一体に移動する非接触式形状センサが設けられている。非接触式形状センサとしては、ここでは、光切断法、パターン投影法等により3次元形状を検出するレーザ形状センサ23を用いているが、検出方法は限定されない。
【0016】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、ロボットアームの先端軸に取り付けた溶接トーチ17には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。溶接トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0017】
溶接トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。
【0018】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。溶接トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21から溶接トーチ17に送給される。そして、溶接トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、ベース部25上に溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶着ビードBが形成される。
【0019】
ベース部25は、鋼板等の金属板からなり、基本的には積層造形物Wの底面(最下層の面)より大きいものが使用される。なお、ベース部25は、板状に限らず、ブロック体、棒状、円柱状等、他の形状のベースであってもよい。
【0020】
溶加材Mとしては、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0021】
コントローラ13は、CAD/CAM部31と、軌道演算部33と、記憶部35と、これらが接続される制御部37と、を有する。
【0022】
CAD/CAM部31は、作製しようとする積層造形物の形状データ(CADデータ等)が入力されて、軌道演算部33と協働して積層造形物の造形手順を表す積層軌道計画を作成する。この積層軌道計画は、入力された形状データから、その形状、材質、入熱量等の諸条件に基づいて、効率よく積層できるように適宜なアルゴリズムに基づいて解析的に求められる。
【0023】
積層軌道計画の作成においては、まず、形状データを複数の層に分割して、各層の形状を表す層形状データを生成する。そして、生成された層形状データに応じて溶接トーチ17の移動軌跡と溶接条件とを決定し、溶着ビードBを形成するための溶接ロボット19及び電源装置15の駆動プログラムを生成する。この駆動プログラムは、積層軌道計画に対応した動作を実現する。駆動プログラム及び溶接条件の各種データは記憶部35に記憶される。
【0024】
制御部37は、記憶部35に記憶された駆動プログラムを実行することで、溶接ロボット19と電源装置15等を駆動し、溶着ビードBを形成する。つまり、制御部37は、溶接ロボット19を駆動して、設定された溶接トーチ17の軌道軌跡に沿って溶接トーチ17を移動させるとともに、設定された溶接条件に応じて溶接トーチ17の先端から突出する溶加材Mをアークによって溶融させて溶着ビードBを形成する。そして、ベース部25上に複数の溶着ビードBを互いに隣接させて溶着ビード層27を形成し、この溶着ビード層27の上に次層の溶着ビード層27を積層することを繰り返す。このようにして、所望の形状の積層造形物Wを造形する。
【0025】
また、制御部37は、ビード形成のために溶接トーチ17を移動させる際、形成済となった既設の溶着ビードBの形状をレーザ形状センサ23により測定する。レーザ形状センサ23による測定は、溶接時以外に行ってもよい。
【0026】
<積層軌道計画、溶接条件の修正>
ここで、本構成の積層造形装置100においては、軌道演算部33が、作成した積層軌道計画及び溶接条件と、既設の溶着ビードの形状測定結果とに応じて、積層途中において、これから形成する溶着ビードを形成するための溶接トーチ17の狙い位置(以下、トーチ狙い位置という。)及び溶接条件を求め、必要に応じて積層軌道計画及び溶接条件を変更する。
【0027】
図2は、積層軌道計画及び溶接条件と、溶着ビードの形状測定結果とから、ビード形のためのトーチ狙い位置及び溶接条件を決定する手順を示すフローチャートである。
まず、入力された形状データに基づいて作成した積層軌道計画に従って溶着ビードを形成する(S1)。
【0028】
図3は、溶着ビードBを形成する様子を示す概略図である。
溶接ロボット19を駆動して、溶接トーチ17を移動させながら溶着ビードBを形成する。このとき、溶接ロボット19の先端軸に溶接トーチ17と一体に設けたレーザ形状センサ23によって、トーチ狙い位置Pよりも溶接方向WD下流側の位置で、既設の溶着ビードBの形状を測定する。
【0029】
レーザ形状センサ23は、レーザ照射部23A及び検出センサ23Bを備える。例えば光切断法により測定する場合には、レーザ照射部23Aからスリット光L1を照射し、イメージセンサである検出センサ23Bにより既設の溶着ビードBからの反射光L2を検出する。検出センサ23Bで検出された2次元画像には、溶着ビードの高さに応じたパターンが含まれており、そのパターンによって溶着ビードの形状が求められる。具体的な形状検出方法についての説明は公知であるため、ここでは省略する。
【0030】
図4は、溶接方向下流側から溶接位置を見た場合の溶着ビードBの断面形状と、溶接トーチ17の位置とを示す模式的な説明図である。
この場合では、溶着ビードが形成されるトーチ狙い位置Pの周囲には、下層の溶着ビードB1,B2,B3と、溶着ビードB1の上方に形成された溶着ビードB4とが設けられている。
【0031】
レーザ形状センサ23は、スリット光L1を照射し、溶着ビードB1〜B4からの反射光を検出することによって、トーチ先端の周囲における各溶着ビードの形状が求められる。
図4においては、測定された各溶着ビードの形状から、溶接トーチ17の軸線Axの直下に位置する溶着ビードB2の頂点P1と、溶接トーチ17の側方に配置される溶着ビードB4の表面と溶着ビードB2の表面と接続される狭隘点P2を含む形状情報が求められる。
【0032】
図5は、
図4に示す既設の溶着ビードに沿って、新たに溶着ビードを形成する様子を示す模式的な説明図である。
図4に示す溶接トーチ17の先端周囲における既設の溶着ビードB1〜B4の形状に応じて、
図5に示される、次に形成する溶着ビードB5のトーチ狙い位置、ビード形成時の溶接条件等を決定する。決定したトーチ狙い位置及び溶接条件等の設定内容と、当初の積層軌道計画のトーチ移動軌跡及び溶接条件等の設定内容との間に差が生じた場合には、積層軌道計画と溶接条件を変更する。
【0033】
ここで、上記した積層軌道計画と溶接条件の変更手順について詳細に説明する。
<基本の変更手順>
図6は、既設の溶着ビードの形状に応じて、新設の溶着ビードを形成するための積層軌道計画と溶接条件を変更する基本の変更手順を(A)〜(C)に段階的に示す説明図である。なお、
図6の(A)〜(C)は、溶着ビードの長手方向の直交断面における形状を示している。
【0034】
まず、
図6の(A)に示すように、レーザ形状センサ23によって、既設の溶着ビードの形状プロファイルPfを測定する(S2)。ここでは簡略化して1つの溶着ビードの測定例を示している。形状プロファイルPfは、複数の測定点を接続する線のほか、測定点間を内挿した直線、曲線等にしてもよい。
【0035】
そして、積層軌道計画を参照して、測定した溶着ビードに対するトーチ狙い位置Pを抽出する。測定した形状プロファイルPfと、抽出したトーチ狙い位置Pの情報とから、ビード形状の第一幾何情報を抽出する(S3)。第1幾何情報とは、レーザ形状センサ23によるセンサ座標系で表した溶着ビードの形状プロファイルPfと、溶接ロボット19(
図1参照)のロボット座標系で表したトーチ狙い位置Pとを、座標変換して同じ座標系で表した形状プロファイルPf及びトーチ狙い位置Pを含む情報を意味する。
【0036】
ここで、トーチ狙い位置Pを形状プロファイルPfに対応させるには、次のようにする。まず、溶接ロボットのロボット座標上でのトーチ先端位置に、溶接トーチ17の傾き(姿勢)を考慮して溶接位置を求める。つまり、トーチ先端から、その直下となる既設の溶着ビードまでの間の距離ΔLの設定値(
図4参照)をトーチ先端位置にオフセットする。オフセットした位置が溶接トーチ17による溶接位置となり、この位置をトーチ狙い位置Pと定義する。そして、ロボット座標系でのトーチ狙い位置Pを、センサ座標系に座標変換する。これにより、センサ座標系の形状プロファイルPfと、トーチ狙い位置Pとが同じ座標系で対応付けられる。
【0037】
次に、抽出された上記の第一幾何情報に対応する第二幾何情報を抽出する(S4)。ここで第二幾何情報とは、前述のビード形状が測定された溶着ビードを形成する際に用いた積層軌道計画における、その溶着ビードの目標形状とトーチ狙い位置の情報である。
【0038】
図6の(B)は、
図6の(A)に示す形状プロファイルPfの溶着ビードを形成する際に、積層軌道計画で定めた溶着ビードの目標形状Tsとトーチ狙い位置Pとを示している。
【0039】
そして、第一幾何情報と第二幾何情報とを比較して、双方のずれ量を算出する(S5)。つまり、測定された溶着ビードの形状と、目標形状とのずれ量を求める。
【0040】
図6の(C)は、
図6の(A)に示す形状プロファイルPfと
図6の(B)に示す目標形状Tsとの高さのずれ量ΔHを示している。ずれ量ΔHは、形状プロファイルPfの頂点と、目標形状Tsの頂点との高さの差であり、形状プロファイルPfの頂点は、頂点付近の測定点の高さを用いて決定される。なお、ここでは形状プロファイルPfと目標形状Tsとを、各トーチ狙い位置Pが同一位置になるように配置している。
【0041】
この高さのずれ量ΔHが小さくなるように、積層軌道計画で定めた溶着ビードBの目標形状Tsにおけるビード高さBhとビード幅Bw(
図7参照)との少なくとも一方を変更して、積層軌道計画を更新する(S6)。ここでの積層軌道計画の更新は、ビード高さBh、ビード幅Bwの変更の他にも、トーチ狙い位置、ビード断面積等の各種パラメータを変更してもよい。
【0042】
また、積層軌道計画の更新結果に応じて、溶接条件を変更する(S7)。溶接条件としては、溶接トーチの位置、姿勢、溶接速度、溶接電圧、溶接電流、溶加材の送給速度、等が挙げられる。これらのうち、少なくとも1つ、又はいずれか2つ以上を組み合わせて変更する。
【0043】
そして、変更後の積層軌道計画、溶接条件で溶着ビードを形成する(S8)。以上の工程を積層造形物が完成するまで繰り返す(S9)。
【0044】
溶接トーチの先端位置、溶着ビードの位置、既設の溶着ビードの形状の把握は、常に行う必要はなく、必要とする箇所にのみ、又は上記のいずれかのみを優先して行うことであってもよい。例えば、枠部を形成する溶着ビードと、枠部の内側を埋める溶着ビードとを有する積層造形物を製造する場合、比較的細い溶着ビードを積層する枠部の造形においては、各ビード位置を精密に調整する必要があるため、上記した位置と形状を常時把握する。一方、枠部内を充填する造形においては、枠内を隙間なく充填する必要があるため、トーチ位置の調整よりも溶着ビードの断面積の把握を優先する。
【0045】
図7は、溶着ビードの形状を示す断面図である。
上記した第一幾何情報及び第二幾何情報は、ビード高さBh、ビード幅Bw、ビード長手方向に直交する断面におけるビード断面積A、トーチ狙い位置近傍の幾何学的特徴点、詳細を後述する溶着ビードBのビード外形状を表す断面形状近似曲線のうち、少なくともいずれかの情報を含むことが好ましい。
【0046】
ここで、幾何学的特徴点とは、
図4に示すように、溶接トーチ17の周囲に配置された既設の溶着ビードから抽出した特徴点であり、具体的には、既設の溶着ビードB2の凸形状の頂点P1、溶着ビードB2に隣接する他の溶着ビードB4との間でビード外表面が内側に窪んで形成された狭隘点P2を含む。溶着ビードB3の形成前である場合には、溶着ビードB2の一対の幅方向端部の点P3a,P3bのうち、溶着ビードB2が形成された下層面(ここではベース部25)と交差する点P3aも含む。
【0047】
また、溶着ビードの断面積は、既設の溶着ビードについては、ビード形成時の溶接条件によっても決定できる。ビード断面積Aは、ビード形成のために新たに投入された金属材料の断面積に等しい。例えば、ビード断面積Aは、溶着ビードを楕円モデルで近似した場合の、楕円モデルの短径と、ベース(下層)からの高さに応じて変化する。なお、ここでいう断面積とは、溶着ビードの単位長さ当たりの体積を意味し、下記(1)式で表される。
【0048】
A=dw
2Fwπ/4F ・・・(1)
dw:溶加材の直径[mm]
Fw:溶加材の送給速度[mm/min]
F:トーチ送り速度[mm/min]
【0049】
一方、これから形成する溶着ビードの断面積については、例えば、トーチ狙い位置Pを中心とした円弧を溶着ビードの外形線として、円弧内側の面積を溶着ビードの断面積として求めてもよい。ただし、断面積の計算の手法はこれに限らない。
【0050】
この積層造形方法によれば、積層軌道計画と実際の溶着ビードの形成結果とのビード高さの差に応じて積層軌道計画を更新し、これに合わせて溶接条件を変更するため、次に形成する溶着ビードを高精度に形成できる。また、実際のビード形成結果をフィードバックした積層軌道計画で溶着ビードを形成するため、例えば0.1mmオーダーの精度での造形を安定して実現できる。
【0051】
次に、上記した基本の変更手順に基づく、他の積層軌道計画と溶接条件の変更手順を順次に説明する。
<第1の変更手順>
図8は、既設の溶着ビードの形状に応じて、新設の溶着ビードを形成するための積層軌道計画と溶接条件を変更する第1の変更手順を(A)〜(C)に段階的に示す説明図である。
【0052】
図8の(A)に示す溶着ビードの長手方向の直交断面における形状プロファイルPfの断面積をApf、
図8の(B)に示す積層軌道計画で定めた溶着ビードの目標形状Tsの断面積をAtsとする。
【0053】
本変更手順では、
図8の(C)に示すように、形状プロファイルPfの断面積Apfと目標形状Tsの断面積Atsとの差Dfをずれ量として、このずれ量が小さくなるように積層軌道計画を変更する。そして、更新された積層軌道計画に応じて、溶接条件を必要に応じて変更する。
【0054】
この手順によれば、形状プロファイルPfと目標形状Tsとの面積差を小さくするため、仮に形状プロファイルPfが目標形状Tsと局所的に大きな形状差を有する場合でも、この局所的な形状差に大きく影響されることなく、ずれ量の適正な縮小が可能となる。
【0055】
<第2の変更手順>
図9は、既設の溶着ビードの形状に応じて、新設の溶着ビードを形成するための積層軌道計画と溶接条件を変更する第2の変更手順を(A)〜(C)に段階的に示す説明図である。
【0056】
本変更手順では、
図9の(A)に示すように、形状プロファイルを回帰計算によって曲線モデルに近似させた断面形状近似曲線Cpfを求める。曲線モデルとしては、放物線、3次以上の関数、スプライン曲線等、任意の曲線を使用できる。例えば、Z=aY
2+bY+c(a,b,cは係数)の曲線モデルを用いて、測定した形状プロファイルPf(Yj,Zj)とのフィッティングを行う。フィッティングは、最小二乗法、最急降下法等の公知の方法を採用できる。
【0057】
そして、断面形状近似曲線Cpfと、
図9の(B)に示す目標形状Tsとを、
図9の(C)に示すようにトーチ狙い位置Pを一致させて重ね合わせて、断面形状近似曲線と目標形状とに生じる高さのずれ量ΔHの分布を求める。このずれ量ΔHが小さくなるように、積層軌道計画を変更する。そして、更新された積層軌道計画に応じて、溶接条件を必要に応じて変更する。
【0058】
この手順によれば、形状プロファイルを曲線モデルに近似させるため、ビード形状をより精密に把握でき、形状プロファイルのビード中心位置、ビード高さ等がより正確に求められる。よって、次に形成する溶着ビードを更に高精度に形成できる。
【0059】
<第3の変更手順>
図10は、既設の溶着ビードの形状に応じて、新設の溶着ビードを形成するための積層軌道計画と溶接条件を変更する第3の変更手順を(A)〜(C)に段階的に示す説明図である。
【0060】
本変更手順では、
図10の(A)に示すように、形状プロファイルを回帰計算によって曲線モデルに近似させた断面形状近似曲線Cpfを、その断面形状近似曲線Cpfで囲まれる領域の断面積Acと、
図10の(B)に示す目標形状Tsの断面積Atsとが等しくなるようにする。この計算には、例えば、制約付き最小二乗法(constrained least squares method)を採用できる。この制約付き最小二乗法とは、誤差量を表す目的関数を最小にする際に、モデル曲線となる断面形状近似曲線Cpfが形成する断面積Acと、積層軌道計画で予め定めた断面積Atsとが一致することを制約として近似処理する方法である。
【0061】
そして、
図10の(C)に示すように、断面積Acを断面積Atsと等しくした断面形状近似曲線Cpfの最頂部Paが、目標形状Tsの最頂部Pbである溶着ビードの目標形成位置に一致するように積層軌道計画を変更する。つまり、形成された溶着ビードに対応する断面形状近似曲線の最頂部Paが、目標形状Tsの最頂部Pbと一致するように、溶着ビードの目標形成位置を修正する。そして、更新された積層軌道計画に応じて、溶接条件を必要に応じて変更する。
【0062】
この手順によれば、断面形状近似曲線の最頂部Paを目標形状Tsの最頂部Pbに一致させるという簡単な処理で、次に形成する溶着ビードを高精度に形成できる。
【0063】
<第4の変更手順>
図11は、既設の溶着ビードの形状に応じて、新設の溶着ビードを形成するための積層軌道計画と溶接条件を変更する第4の変更手順を(A)、(B)に段階的に示す説明図である。
【0064】
本変更手順では、
図11の(A)に示すように、形状プロファイルを回帰計算によって曲線モデルに近似させた断面形状近似曲線Cpfを求める。
次に、
図11の(B)に示すように、断面形状近似曲線Cpfの全体にわたり、断面形状近似曲線Cpfの任意点の高さと、その任意点に対応する目標形状Tsの外形線の高さとの差であるずれ量ΔHが小さくなるように、溶着ビードの目標形成位置を修正する。そして、更新された積層軌道計画に応じて、溶接条件を必要に応じて変更する。
【0065】
この手順によれば、断面形状近似曲線Cpfを用いてずれ量ΔHを決定するため、
図6に示す形状プロファイルを用いてずれ量ΔHを決定する場合よりも安定して精度の高い補正が行え、より高精度な溶着ビードの形成が可能となる。
【0066】
<第5の変更手順>
図12は、既設の溶着ビードの形状に応じて、新設の溶着ビードを形成するための積層軌道計画と溶接条件を変更する第5の変更手順を(A)、(B)に段階的に示す説明図である。
【0067】
本変更手順では、
図12の(A)に示すように、形状プロファイルを回帰計算によって曲線モデルに近似させた断面形状近似曲線Cpfを、
図12の(B)に示すように、その断面形状近似曲線Cpfの任意点の高さと、その任意点に対応する目標形状Tsの外形線の高さとの差であるずれ量ΔHが小さくなるように変更する。
【0068】
また、断面形状近似曲線Cpfの位置が、目標形状Tsである溶着ビードの目標形成位置に一致するように積層軌道計画を変更する。つまり、形成された溶着ビードに対応する断面形状近似曲線の最頂部Paと、目標形状Tsの最頂部Pbとを一致させるように、積層軌道計画を変更する。そして、更新された積層軌道計画に応じて、溶接条件を必要に応じて変更する。
【0069】
この手順によれば、ビード高さのずれ量ΔHを低減し、且つ、ずれ量ΔHを低減した断面形状近似曲線Cpfのビード幅方向の位置を、目標形成位置に一致させるため、次に形成する溶着ビードをより高精度に形成できる。
【0070】
<溶着ビードの高精度化>
次に、溶着ビードをより高精度に形成する方法について説明する。
上記した実施態様では、溶着ビードを平板状のベース部に形成していたが、ここでは、溶着ビードをベース部の円周面に形成する場合を説明する。
図13は、溶接ロボット19に設けた溶接トーチ17により下層の溶着ビードB1と上層の溶着ビードB2を形成するとともに、レーザ形状センサ23によりビード形状を測定する様子を示す説明図である。
【0071】
円柱状のベース部25Aが、中心軸Oを中心に
図13に示す方向Rtに回転駆動されて、ベース部25Aの外周の円周面に、溶接トーチ17により溶着ビードBが形成される。溶接ロボット19に取り付けられたレーザ形状センサ23は、ベース部25Aの回転方向の上流側(溶接方向の下流側)に配置されて、既設の溶着ビードB1の形状を測定する。
【0072】
レーザ形状センサ23は、溶着ビードB1の形状を、反射光L2を検出した2次元画像により測定する。その形状は、測定点Pmにおける反射光L2と平行なビード断面における形状となる。反射光L2は溶接トーチ17の軸線(トーチ軸線)Axと平行である。ここで、
図13に示すベース部25Aにおけるトーチ狙い位置Pと測定点Pmとを結ぶ円弧の中心角をθとする。
【0073】
ベース部25Aを回転駆動しながら溶着ビードB2の形成を進めると、測定点Pmの溶着ビードB1がトーチ狙い位置Pに到達する。そのとき、測定点Pmで測定された溶着ビードB1の形状は、トーチ軸線Axを含む断面における形状ではなく、トーチ軸線Axから角度θだけ溶接方向後方に傾斜した直線Lmを含む断面における形状となる。
【0074】
そのため、測定した溶着ビードB1の形状を、トーチ狙い位置Pにおけるトーチ軸線Axの断面の形状となるように射影変換する。射影変換は、幾何学的に角度θを傾斜させる公知の変換処理であるため、変換処理の説明は省略する。
【0075】
これによれば、測定点Pmで測定した溶着ビードの形状をトーチ狙い位置Pでトーチ軸線Axの位置に相当する断面形状に変換される。これにより、正確な溶接軌道計画の変更が可能となり、更に高精度に溶着ビードを形成できる。
【0076】
図14は、測定したビード形状に誤差が生じた場合の溶接状態の変化を(A),(B)で示す説明図である。
図14の(A)に示すように、トーチ狙い位置Pに近い既設の溶着ビードB2,B4の形状に測定誤差が生じると、溶着ビードB2とトーチ先端位置との距離S1や、溶着ビードB4と狙い位置Pとの距離S2が、想定した距離と異なってしまう。その場合、
図14の(B)に示すように、溶加材Mの実質的な突き出し長さ(露出長)が変化して、周囲の既設の溶着ビードと溶加材Mとの距離に応じてアークArcが変位する等、アークArcが不安定となる。その結果、形成される溶着ビードの形状精度が低下するおそれがある。
【0077】
図15は、溶加材の突き出し長さに対する溶接電流の変化特性を概略的に示すグラフである。
溶加材Mの突き出し長さの変化は、発生するアークが不安定になる要因となる他に、溶接電流にも影響を及ぼす。すなわち、突き出し長さが長いほど溶接電流が小さくなり、形成される溶着ビードが小さくなる傾向になる。そのため、上記したように、既設の溶着ビードの形状を高精度に測定することで、溶接条件の変動を抑制して高精度な溶着ビードを形成できる。
【0078】
<溶着ビードの形状モデル>
上記では、溶着ビードの形状を、ビード高さ、ビード幅、ビード断面積、溶着ビードのビード外形状を表す断面形状近似曲線を用いて表現したが、形状を表すパラメータはこれに限らない。
【0079】
例えば、文献(B M Berezovskii and A V Stikahin, Optimisation of the formatin of a metal layer in arc deposition,Welding International, 1991, 5(11), pp.888-891)には、ビード幅、ベース表面からビード頂部までの高さ、ビート頂部の曲率R、溶着ビードのベースとの接触角φ、隣接する一対の溶着ビードを形成するトーチ位置の軸間距離、等の各種のパラメータを用いてビード形状を表現している。本積層造形方法においても、上記のようなパラメータを用いて積層軌道計画、溶接条件を変更する構成としてもよい。
【0080】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0081】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) ロボット先端軸に取り付けた溶接トーチを移動させながら、溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層する積層造形方法であって、
前記溶接トーチの狙い位置及び前記溶着ビードの形状を定めた積層軌道計画に基づいて、前記溶着ビードを形成して積層造形物を造形する途中で、前記溶接トーチと一体に前記ロボット先端軸に設けられた非接触式形状センサにより、既設の溶着ビードの形状プロファイルを測定する工程と、
前記形状プロファイルと前記溶接トーチの狙い位置からビード形状の第一幾何情報を抽出する工程と、
前記積層軌道計画から前記第一幾何情報に対応する第二幾何情報を抽出して前記第一幾何情報と前記第二幾何情報とのずれ量を算出する工程と、
前記ずれ量に応じて、前記積層軌道計画で定めた前記溶着ビードの、ビード長手方向に直交する断面におけるビード高さとビード幅との少なくとも一方を変更して、前記積層軌道計画を更新する工程と、
前記積層軌道計画の更新結果に応じて溶接条件を変更する工程と、
を含む積層造形方法。
この積層造形方法によれば、形成後の溶着ビード形状を表す第一幾何情報と、目標形状を表す第二幾何情報とのずれ量を小さくするように、積層軌道計画と溶接条件が変更されるため、形成後の溶着ビードの形状と目標形状とをより正確に一致させることができる。
【0082】
(2) 前記第一幾何情報と前記第二幾何情報は、前記溶接トーチの狙い位置近傍の幾何学的特徴点、前記ビード高さ、前記ビード幅、前記溶着ビードのビード断面積、ビード外形状を表す断面形状近似曲線のうち、少なくともいずれかの情報を含む(1)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、各種のパラメータを用いることで、溶着ビードの形状を特定でき、より正確な溶着ビードの形成に寄与できる。
【0083】
(3) 前記幾何学的特徴点は、
既設の前記溶着ビードの凸形状の頂点、
前記溶着ビードに隣接する他の溶着ビードとの間でビード外表面が内側に窪んで形成された狭隘部の端点、
前記溶着ビードの幅方向端部と、当該溶着ビードが形成された下層面とが交差する点、
のいずれかを含む(2)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、既設の溶着ビードの代表的な特徴点を含むことで、各点の検出が比較的容易に行え、制御に利用しやすい情報となる。
【0084】
(4) 前記幾何学的特徴点を、前記溶接トーチの狙い位置近傍に配置された既設の前記溶着ビードから抽出する(2)又は(3)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、ビード形成位置の近傍の既設の溶着ビードから幾何学的特徴点が抽出されることで、形成する溶着ビードの形状制御をより正確に行える。
【0085】
(5) 溶接条件を変更する工程では、
前記溶接トーチの位置、姿勢、溶接速度、溶接電圧、溶接電流、前記溶加材の送給速度のうち、少なくとも1つ、又はいずれか2つ以上を組み合わせて変更する(1)〜(4)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、各種の溶接条件によって溶着ビードを適切に制御できる。
【0086】
(6) 前記形状プロファイルは、前記非接触式形状センサによる前記溶着ビードの検出方向と平行な面から所定角度傾斜した、前記溶接トーチの軸線を含む平面に投影変換したプロファイルである(1)〜(5)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、非接触式形状センサによるセンサ座標系と、溶着ビード形成時のロボット座標系との軸線方向を一致させることで、正確なプロファイルが得られる。
【0087】
(7) 前記溶着ビードの長手方向の直交断面における、前記積層軌道計画で定めた前記溶着ビードの目標形状の断面積と、前記形状プロファイルから求めた前記溶着ビードの断面積との差を前記ずれ量とする(1)〜(6)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、仮に形状プロファイルに局所的な目標形状との大きな形状差が存在した場合でも、この局所的な形状差に大きく影響されずにずれ量の縮小が可能となる。
【0088】
(8) 前記溶着ビードの長手方向の直交断面における前記形状プロファイルを、回帰計算によって曲線モデルに近似させた断面形状近似曲線を求め、
前記断面形状近似曲線に囲まれた断面積と、前記積層軌道計画で定めた前記溶着ビードの目標形状の断面積との差を前記ずれ量とする(1)〜(6)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、形状プロファイルを曲線モデルに近似させることで、溶着ビードの形状測定のバラつきが緩和された断面形状近似曲線が得られる。また、少ない測定点であっても正確性を増した断面形状近似曲線が得られる。この断面形状近似曲線と目標形状の断面積差に応じて、積層軌道計画と溶接条件を変更することで、より正確な溶着ビードの形成が行える。
【0089】
(9) 前記溶着ビードの長手方向の直交断面における前記形状プロファイルを回帰計算によって曲線モデルに近似させた断面形状近似曲線を、当該断面形状近似曲線で囲まれる領域の断面積と、前記積層軌道計画で定めた前記溶着ビードの目標形状の断面積とが等しくなるようにし、
前記断面形状近似曲線の最頂部の位置と、前記溶着ビードの目標形成位置と差を前記ずれ量とする(1)〜(6)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、断面積差が小さくなる制約付きで断面形状近似曲線を求め、求めた断面形状近似曲線の最頂部の位置と、溶着ビードの目標形成位置との差が小さくなるように制御されるため、より正確な溶着ビードの形成が行える。
【0090】
(10) 前記溶着ビードの長手方向の直交断面における、前記積層軌道計画で定めた前記溶着ビードの目標形状のビード高さと、前記形状プロファイルから求めた前記溶着ビードのビード高さとの差を前記ずれ量とする(1)〜(6)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、測定された溶着ビードのビード高さと、目標形状のビード高さの差を小さくするように制御することで、演算処理が煩雑にならずに、比較的簡単に溶着ビードを目標形状に近づけられる。
【0091】
(11) 前記溶着ビードの長手方向の直交断面における前記形状プロファイルを回帰計算によって曲線モデルに近似させた断面形状近似曲線を求め、
前記断面形状近似曲線の任意点の高さと、前記積層軌道計画で定めた前記溶着ビードの目標形状における該任意点に対応する位置の高さとの差を前記ずれ量とする(1)〜(6)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、形状プロファイルを曲線モデルに近似させることで、溶着ビードの形状測定のバラつきが緩和された断面形状近似曲線が得られる。また、少ない測定点であっても正確性を増した断面形状近似曲線が得られる。この断面形状近似曲線の任意点の高さと、目標形状の外形線の高さとの差に応じて、積層軌道計画と溶接条件を変更することで、より正確な溶着ビードの形成が行える。
【0092】
(12) 前記溶着ビードの長手方向の直交断面における前記形状プロファイルを回帰計算によって曲線モデルに近似させた断面形状近似曲線を、当該断面形状近似曲線の任意点の高さと、前記積層軌道計画で定めた前記溶着ビードの目標形状における該任意点に対応する位置の高さとの差が小さくなるようにし、
前記断面形状近似曲線の最頂部の位置と、前記溶着ビードの目標形成位置との差を前記ずれ量とする(1)〜(6)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、ビート高さが小さくなる制約付きで断面形状近似曲線を求め、求めた断面形状近似曲線の最頂部の位置と、溶着ビードの目標形成位置との差が小さくなるように制御されるため、より正確な溶着ビードの形成が行える。
【解決手段】積層軌道計画に基づいて積層造形物を造形する途中で、溶接トーチと一体にロボット先端軸に設けられた非接触式形状センサにより、既設の溶着ビードの形状プロファイルPfを測定する。形状プロファイルPfと溶接トーチの狙い位置Pからビード形状の第一幾何情報を抽出し、積層軌道計画から第一幾何情報に対応する第二幾何情報を抽出し、第一幾何情報と第二幾何情報とのずれ量ΔHを算出する。ずれ量ΔHに応じて、積層軌道計画で定めた溶着ビードのビード高さとビード幅との少なくとも一方を変更して積層軌道計画を更新し、積層軌道計画の更新結果に応じて溶接条件を変更する。