特許第6797327号(P6797327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797327
(24)【登録日】2020年11月19日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】レーザレーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/481 20060101AFI20201130BHJP
   G01S 17/95 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   G01S7/481 A
   G01S17/95
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-508718(P2020-508718)
(86)(22)【出願日】2018年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2018013302
(87)【国際公開番号】WO2019186914
(87)【国際公開日】20191003
【審査請求日】2020年3月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】特許業務法人山王内外特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101133
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 初音
(74)【代理人】
【識別番号】100199749
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 成
(74)【代理人】
【識別番号】100197767
【弁理士】
【氏名又は名称】辻岡 将昭
(72)【発明者】
【氏名】亀山 俊平
(72)【発明者】
【氏名】原口 英介
(72)【発明者】
【氏名】梶山 裕
(72)【発明者】
【氏名】小竹 論季
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 隆行
(72)【発明者】
【氏名】安藤 俊行
【審査官】 佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/087842(WO,A1)
【文献】 特開昭57−211507(JP,A)
【文献】 特開昭62−038380(JP,A)
【文献】 特開2006−322916(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/187510(WO,A1)
【文献】 特開平10−186027(JP,A)
【文献】 特開昭61−076974(JP,A)
【文献】 ABARI,C.F. et al.,"An all-fiber image-reject homodyne coherent Doppler wind lidar",OPTICS EXPRESS,2014年10月14日,Vol.22,No.21,25880-25894
【文献】 ANDO,T. et al.,"All-fiber Coherent Doppler LIDAR technologies at Mitsubishi Electric Corporation",IOP Conference Series:Earth and Environmental Science,2008年,Vol.1,012011,1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48−7/51
G01S 17/00−17/95
G01P 5/26
OSA Publishing
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス変調され、かつ、パルスのLowレベル成分として設定された光強度を持つ光信号を送出する光送信部と、
前記光信号を送信光として送出すると共に、大気中の目標物からの反射光を受信光として取得するサーキュレータと、
前記サーキュレータから大気中に送信光を送出するまでの経路に設けられ、前記光信号を反射する光部分反射部と、
前記光部分反射部で反射された前記光信号のLowレベル区間の信号をローカル光として、前記受信光のコヒーレント検波を行う検波部とを備えたことを特徴とするレーザレーダ装置。
【請求項2】
前記検波部は、
前記ローカル光と前記受信光とをコヒーレント検波し、電流信号に変換する受光素子と、
前記受光素子からの電流信号を電圧信号に変換する電流電圧変換器と、
前記電流電圧変換器からの電圧信号に対して周波数分析を行う信号処理器とを備えたことを特徴とする請求項1記載のレーザレーダ装置。
【請求項3】
前記電流電圧変換器は、負帰還型トランスインピーダンスアンプであることを特徴とする請求項2記載のレーザレーダ装置。
【請求項4】
風向が向かい風方向である位置に設置されることを特徴とする請求項1記載のレーザレーダ装置。
【請求項5】
前記風向が向かい風方向である位置は風車であることを特徴とする請求項4記載のレーザレーダ装置。
【請求項6】
前記光送信部は、光を放射する光源として半導体レーザダイオードを用い、かつ、当該半導体レーザダイオードの駆動電流にパルス変調をかけることを特徴とする請求項1記載のレーザレーダ装置。
【請求項7】
前記光送信部は、連続波を出力する光源とパルス変調器を備え、前記パルス変調器として、単数または複数の半導体アンプか、単数または複数の音響光学変調器を用いることを特徴とする請求項1記載のレーザレーダ装置。
【請求項8】
前記電流電圧変換器の変換ゲインは可変であり、かつ、当該変換ゲインは前記信号処理器によって制御されることを特徴とする請求項2記載のレーザレーダ装置。
【請求項9】
前記光送信部から出力される光信号のパルスのHighレベルとLowレベルの比である消光比は、前記信号処理器によって制御されることを特徴とする請求項2記載のレーザレーダ装置。
【請求項10】
前記光部分反射部における反射率は前記信号処理器によって制御されることを特徴とする請求項2記載のレーザレーダ装置。
【請求項11】
前記光送信部は、光源を複数備え、これら光源からの複数の光信号を合波して前記光信号として出力することを特徴とする請求項1記載のレーザレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレント検波を用いるレーザレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
風を計測するレーザレーダ装置としては、ドップラ周波数計測が可能、かつ高感度受信が可能なコヒーレント検波を用いる方式が主流である。このレーザレーダ装置において、距離方向の分布を同時に計測するにはパルス方式が必要であり、これが従来から用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
従来のレーザレーダ装置は、光源からのCW(Continuous Waves:連続波)光を送信系とローカル系に分波し、送信系にパルス変調をかけ、光増幅器で増幅し、光サーキュレータと送受光学系を介し大気中のエアロゾルに対しパルス光を送受し、受信光とローカル光を光合波器により合波し、受光素子と電流電圧変換器によりコヒーレント検波する。検波した信号を信号処理器において周波数解析することで、距離毎のドップラ周波数シフトに相当する風速を求める機能を有している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】T. Ando et al., “All-fiber coherent Doppler technologies at Mitsubishi Electric Corporation,” IOP Conference Series: Earth and Environmental Science, Volume 1, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の特にコヒーレント方式かつパルス方式を用いて距離方向の風速分布を求めるレーザレーダ装置では、次のような課題があった。すなわち、レーザレーダ装置では、大気中のエアロゾルからの散乱光と、ローカル光とを合波しコヒーレント検波する際に、検波効率を高く保持するには、両者の偏波が一致していることが必要である。そのため、従来のレーザレーダ装置では、光部品や光伝送系に高コストな偏波保持部品を使用する必要があった。また、光源の出力を、送信系とローカル系に分波する分波器及びローカル系と受信系を合波する合波器が必要であり、これも高コスト化の要因となっていた。
【0005】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、構成を簡素化し低コスト化を図ることのできるレーザレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るレーザレーダ装置は、パルス変調され、かつ、パルスのLowレベル成分として設定された光強度を持つ光信号を送出する光送信部と、光信号を送信光として送出すると共に、大気中の目標物からの反射光を受信光として取得するサーキュレータと、サーキュレータから大気中に送信光を送出するまでの経路に設けられ、光信号を反射する光部分反射部と、光部分反射部で反射された光信号のLowレベル区間の信号をローカル光として、受信光のコヒーレント検波を行う検波部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明のレーザレーダ装置は、パルス変調された光信号を光部分反射部で反射し、この光信号のLowレベル区間の反射光をローカル光として用いるようにしたものである。これにより、構成を簡素化し低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】この発明の実施の形態1によるレーザレーダ装置の構成と動作を示す説明図である。
図2】この発明の実施の形態1によるレーザレーダ装置のパルス変調された光信号の説明図である。
図3図3A及び図3Bは、この発明の実施の形態1によるレーザレーダ装置の部分反射光と受信光の時間方向のタイミングずれを示す説明図である。
図4】この発明の実施の形態1によるレーザレーダ装置の電流電圧変換器の一例を示す構成図である。
図5図5A及び図5Bは、この発明の実施の形態1によるレーザレーダ装置の光源の例を示す構成図である。
図6】この発明の実施の形態1によるレーザレーダ装置の電流電圧変換器の他の例を示す構成図である。
図7】この発明の実施の形態1によるレーザレーダ装置の光源の他の例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明をより詳細に説明するために、この発明を実施するための形態について、添付の図面に従って説明する。
実施の形態1.
図1は、本実施の形態によるレーザレーダ装置の構成と動作を示す説明図である。
図1に示すレーザレーダ装置は、光源1と光源ドライバ2からなる光送信部3、光増幅器4、サーキュレータ5、光部分反射器6、送受光学系7、受光素子8と電流電圧変換器9と信号処理器10からなる検波部11を備える。光送信部3は、パルス変調され、かつ、パルスのLowレベル成分として設定された光強度を持つ光信号を送出する処理部である。光送信部3の光源1は、光を放射する回路または素子であり、光源ドライバ2は、光源1から出力された光信号をパルス変調させるための装置である。光増幅器4は、光送信部3から送出された光信号を増幅する回路である。サーキュレータ5は、光信号を送信光として送出すると共に、大気中の目標物からの反射光を受信光として取得する装置である。サーキュレータ5の送信出力端からは、空間があり、その先に送受光学系7が配置されている。この空間及び送受光学系7では、光の偏波は保持される。
【0010】
また、光部分反射器6は、サーキュレータ5の送信出力端から大気中に送信光を送出するまでの経路に設けられた光部分反射部である。図示例では、光部分反射部として、サーキュレータ5の送信出力端と送受光学系7との間に光部分反射器6を設けている。送受光学系7はサーキュレータ5からの送信光を大気中に放出し、かつ目標物からの反射光を取得するための光学系である。検波部11は、光部分反射器6で反射されたLowレベル区間の信号をローカル光として、サーキュレータ5からの受信光のコヒーレント検波を行う処理部である。検波部11の受光素子8は、ローカル光と受信光とをコヒーレント検波し、電流信号に変換するための素子である。電流電圧変換器9は、受光素子8からの電流信号を電圧信号に変換する装置である。信号処理器10は、電流電圧変換器9からの電圧信号に対して周波数分析を行う装置である。
【0011】
これらの構成において、図中、破線で示すように、光源1と光増幅器4との間、光増幅器4とサーキュレータ5との間、サーキュレータ5と光部分反射器6との間、サーキュレータ5と受光素子8との間は、光伝送路であるが、偏波保持ファイバ等の偏波保持系である必要はない。具体的には、偏波非保持のシングルモード光ファイバで接続されている。また、光源ドライバ2と光源1との間、光源ドライバ2と信号処理器10との間、受光素子8と電流電圧変換器9との間、電流電圧変換器9と信号処理器10との間の伝送路は電気信号線により接続されている。これらの信号線を実線で示す。さらに、距離101,102,103,…は、それぞれ送受光学系7からの大気中のエアロゾルの距離を示している。また、矢印100はサーキュレータ5から出力される送信光、矢印200はサーキュレータ5へ入力されるローカル光、矢印300はサーキュレータ5へ入力される受信光を示している。
【0012】
光増幅器4と送受光学系7は、大きいパワーで光を送信し、かつ、大きい受信開口で光を受信するためのものであり、受信における信号対雑音電力比を確保するために用いられる。しかし、例えば非常に近距離のみ計測する場合であれば光送信パワーが小さくさらに大きい受信開口も不要となり、光増幅器4と送受光学系7がなくとも十分な信号対雑音電力比を確保できる場合もあるので、実施の形態1のレーザレーダ装置としては必ずしも必須の構成でない。
【0013】
また、図1において、光源1、光増幅器4、サーキュレータ5、受光素子8は、偏波保持型でない光ファイバピグテール付き部品としており、光増幅器4は偏波保持型でない光ファイバ増幅器である。
【0014】
次に、実施の形態1のレーザレーダ装置の動作について説明する。
光源1に対し、光源ドライバ2からの変調信号により、パルス変調をかける。この際、消光比(パルス変調におけるHigh時間帯とLow時間帯の光強度比)を調整し、Lowの時間帯においてもあるレベルのCW(Continuous Waves、連続波)光が出力されるようにする。パルス変調された光の模式図を図2に示す。図2に示すように、消光比を調整し、少しリークさせることによってLowレベルの信号を得ている。また、光源ドライバ2から、このパルス変調に同期してトリガ信号を信号処理器10に送信する。
【0015】
光源1からの光信号は光増幅器4によって増幅されサーキュレータ5に送られる。光増幅器4からの出力においても、光信号は図2の模式図と同じ形となる。光増幅器4からの光信号は、サーキュレータ5を介し光部分反射器6に送られる。光部分反射器6では、サーキュレータ5から送られる光信号の光部分反射器6に入射される直前の偏波を保持したまま、この光信号の一部を反射する。この反射光を、以降の説明では部分反射光と呼ぶ。後述するが、この部分反射光を、コヒーレント検波におけるローカル光として活用する。
【0016】
光部分反射器6を通過した光信号は、送受光学系7を介し大気中に送信光として送信される。大気中のエアロゾルからの散乱光は送受光学系7を介し受信光として受信される。この際、パルスHigh時の信号だけでなくLow時の信号も大気中に送受信されるが、パルスHigh時の光信号のみ活用する。Low時の信号に対する受信光は妨害光となるが、所望のパルスHigh成分の送信に対する受信光に対し、この妨害光のレベルが十分低くなるように、パルス変調における消光比を適切に調整すればよい。
【0017】
送受光学系7で受信された散乱光は受信信号として光部分反射器6を通過しサーキュレータ5に送られる。この時点で、上記部分反射光と受信光は合波される。この際、光信号が光部分反射器6から送受光学系7を介して大気中のエロゾルで散乱され、受信光として部分反射光と合波されるまでのプロセスでは、偏波は保持される。従って、上記部分反射光と受信光とは、偏波が一致した状態で合波できることとなる。部分反射光と受信光との合波に関しては、光信号が大気を往復する時間だけ、時間ずれを起こして合波される。従って、この往復時間の間に、レーザレーダ装置内での偏波状態が変化すれば、上記合波において部分反射光と受信光との間で偏波の一致度が低下し、検波効率が低下する。しかし、光の往復時間は非常に短く、例えば距離15kmを往復するのでも0.1msしかかからない。これに対し偏波の変動は1秒オーダの周期で生じるものである。従って、光の往復時間における偏波の変動は無視できると考えて差し支えない。
【0018】
部分反射光と受信光の時間方向のタイミングずれを図3に示す。図3Aが送信光、図3Bが受信光を示している。図3Aに示すパルスHigh成分201は、光周波数がf0であり、受信検出には寄与しない。一方、パルスLow成分202は、光周波数がf0であり、受信検出に用いる。また、図3Bに示す距離101からの受信光301は、光周波数がf0+fd1であり、距離102からの受信光302は、光周波数がf0+fd2、距離103からの受信光303は、光周波数がf0+fd3である。fd1,fd2,fd3はドップラ周波数シフトであり、受信光は、エアロゾルが風によって移動する際の風速に相当分するだけ、ドップラ周波数シフトを受けている。また、受信光は、部分反射光の内、パルス変調Lowの時間帯の成分と合波される。
【0019】
上記受信光及び部分反射光は、合波された状態でサーキュレータ5を介し受光素子8に送られる。受光素子8では、上記受信光及び部分反射光がコヒーレント検波され、電流信号に変換される。この際、上記受信光と部分反射光の偏波が一致しているため、コヒーレント検波効率を高く保持することが可能である。
【0020】
受光素子8からの電流信号は、風速に応じた光の周波数差に相当するドップラ周波数を持つ。この電流信号は、電流電圧変換器9により電圧信号に変換され、信号処理器10に送られる。信号処理器10は、光源ドライバ2からトリガ信号を受信することで、光往復時間、つまり計測距離に関する原点を知ることができる。従って、電圧信号の時間軸上において、受信光が散乱された大気レンジまでの距離を把握できる。信号処理器10では、上記電圧信号をデジタル信号に変換し、非特許文献1に記載されている処理と同様に、各距離に相当する時間帯に時間ゲートをかけ、各々を周波数解析することで、ドップラ周波数シフトを求め、さらには風速を求める。これにより、風速の距離方向分布を1回のパルス送信で求めることが可能となる。周波数解析の手段としては、高速フーリエ変換等を用いれば良い。1回のパルス送信では十分な信号対雑音比で受信できない場合は、上述のパルス送信及び受信動作を複数回行いインコヒーレント積算等の信号処理により十分な信号対雑音比が得られるようにすればよい。
【0021】
このように、実施の形態1のレーザレーダ装置では、光伝送路を偏波保持系とすることなく、光受信におけるコヒーレント検波効率を高く保持することが可能である。さらに、パルス変調機能を有しており、距離方向の風の分布を求めることが同時に可能である。
【0022】
また、光伝送路に偏波保持系を用いることを不要とすることで、非偏波保持の光部品を用いることができる。このような光部品としては、例えば、偏波を保持しないシングルモード光ファイバ、この光ファイバを用いた光ファイバ増幅器、この光ファイバを用いた光サーキュレータ、この光ファイバのピグテールつき半導体レーザダイオード等である。従来、コヒーレント検波効率を高く保持するには、これらの光部品には高コストな偏波保持型部品が必要であったが、これら光部品が不要となることで低コストと高いコヒーレント検波効率を兼ね備えることが可能となる。
【0023】
さらに、従来必要だった、送信光とローカル光を分離するために必要だった光分配器、ローカル光と散乱光を合波するために必要だった光合波器が不要となり、この点でも装置の低コスト化の効果が生じる。
【0024】
なお、上記例では、光部分反射器6をサーキュレータ5の送信出力端の先に配置するとしたが、サーキュレータ5が光ファイバピグテール付き部品であれば、その送信出力端に部分反射コーティングを施すことで光部分反射器6とすることもできる。また、サーキュレータ5の送信出力端においては、光ファイバと空気の屈折率の差異により必ず一定量の部分反射が生じるので、これを部分反射機能として利用できる。従って、光部分反射の機能自体は本発明のレーザレーダ装置において必要であるが、これを実現する手段として光部分反射器6以外の構成を用いてもよい。
【0025】
また、光部分反射器6の部分反射機能を、送受光学系7の出力側、つまり大気側に配置すれば、サーキュレータ5と送受光学系7の間の空間も、さらには送受光学系7も偏波保持である必要はなくなる。つまり、上記部分反射機能は、サーキュレータ5の出力側に存在することが必要であるが、その先から大気に送信光が送信されるまでのプロセスにおいて偏波の変化が小さければ、どこに存在しても有効に機能する。
【0026】
また、本発明の実施の形態1において、光部分反射器6の反射率を高く設定すると、コヒーレント検波におけるローカル光のレベルを高くすることに相当するため、受信状態をコヒーレント検波における理想検波状態であるショット雑音リミットに近づけやすいが、この場合、ピークの高いパルス光も高い反射率で反射されるため、これが受光素子8に入力されると受光素子8が破損する恐れがある。従って、光部分反射器6の反射率を低く設定する必要がある場合もある。このような場合、部分反射光のレベルも下がり、ショット雑音リミットに近づけにくくなるが、この場合は、電流電圧変換器9として図4に示す負帰還型のトランスインピーダンスアンプを用いる。この例ではオペアンプ9aに対して負帰還抵抗9bを接続した構成を示している。これにより、部分反射光のレベルが下がる場合においても、ショット雑音リミットに近い状態を実現することが可能である。
【0027】
なお、上記実施の形態1において、パルス変調におけるHighとLowの時間帯に周波数変化がなければ、コヒーレント検波はホモダインとなるためドップラ周波数の正と負、つまりは風速の正と負が識別できない。しかし、例えば、このレーザレーダ装置を風車に搭載するかまたはその近接に配置して、風車の前方風を計測する用途に用いる。具体的には、前方風計測による風車制御や、風車発電量評価、といった用途では、風車が向かい風方向に向いた状態で運用するため、風速の正と負は既知であり、識別の必要がなくなる。つまり、レーザレーダ装置を風車に設置する場合は風速の正と負は予め分かっているので問題が生じない。なお、「レーザレーダ装置を風車に設置する」とは、風車の近傍に配置することを含めるものとする。
【0028】
また、上記実施の形態1においては、光源1に対しパルス変調を施しているが、この方法の具体例を図5に示す。図5Aに示す構成は、光源1を半導体レーザダイオードとして、その駆動電流に対する直接変調の例である。また、図5Bに示す構成は、半導体レーザダイオード1a等のCW光源からの出力に対しパルス変調器1bにより変調する形である。パルス変調器1bとしては、光半導体アンプ、マッハツェンダ型光変調器、音響光学(AO:Acousto−Optic)変調器等が考えられる。これらの内、特に、半導体レーザダイオード1aへの直接変調、光半導体アンプ及び音響光学変調器を使っての変調においては、パルス変調に周波数シフトが伴うので、この周波数シフト量を適切に調整すれば、これがコヒーレント検波における中間周波数となり、ドップラ周波数シフトの正と負、つまり風速の正と負を識別することができ、さらなる高機能化も可能となる。
【0029】
また、上記実施の形態1においては、レーザレーダ装置が風を計測するコヒーレントレーザレーダであるとして説明してきたが、計測対象は風に限らず、例えばハードターゲットまでのパルス光の往復時間を計測するレーザレンジファインダ等、パルス方式でコヒーレント検波を採用する全てのレーザレーダに適用できる。
【0030】
上記実施の形態1においては、部分反射光のレベルが安定せず、信号処理におけるノイズレベル変動等でドップラ周波数シフトと風速検出処理に支障をきたすケースも考えられる。しかし、この場合は、電流電圧変換器9における変換ゲインを可変として、受信状態に合わせこのゲインを制御することで、ノイズレベルの安定化を実現できる。具体的には、図6に示すように負帰還型トランスインピーダンスゲインの帰還抵抗を複数用意して切り替えるという手段が考えられる。図示の構成は3個の負帰還抵抗9b−1,9b−2,9b−3を、それぞれの負帰還抵抗9b−1,9b−2,9b−3に対応して設けられたスイッチ9c−1,9c−2,9c−3を用いて切り替える例である。なお、この構成では、信号処理器10から電流電圧変換器9に対し、図示はしないがスイッチ9c−1,9c−2,9c−3への制御信号を送る機能を設ける。
【0031】
また、上述の部分反射光の不安定が生じた場合、光源ドライバ2からの変調信号を調整する機能を新たに設ければ、部分反射光を一定化することができる。この場合は、信号処理器10から光源ドライバ2に対し、図示はしないが制御信号を送る機能を設ける。
【0032】
また、上述の部分反射光の不安定が生じた場合、光部分反射器6の反射率を調整する機能を新たに設ければ、部分反射光を一定化することができる。この場合は、信号処理器10から光部分反射器6に対し、図示はしないが制御信号を送る機能を設ける。反射率の調整手段としては、光部分反射器の傾きを変える等の手段が考えられる。
【0033】
上記実施の形態1においては、全ての光部品が非偏波保持であるとして説明してきたが、その一部または全てが偏波保持型部品であったとしても、何の問題もなく機能することは言うまでもない。その一部でも非偏波保持部品とすることができれば、それだけで低コスト化につながり、また、全てが偏波保持部品であるとしても、従来パルス方式かつコヒーレント検波を用いるレーザレーダにおいて、必要だった光分波器及び合波器が不要となり、低コスト化することができるという効果を有する。
【0034】
上記実施の形態1においては、光源1が1個の場合について示していたが、図7に示すように、異なる波長を出力する光源を複数設け、これらの出力を合波する構成とすれば、別の効果が新たに生じる。図7では、それぞれが異なる波長を出力する半導体レーザダイオード1a−1,1a−2,1a−3と波長合成型光合波器1cで構成した例を示している。このような構成とすることにより、特に、光増幅器4が光ファイバ増幅器であり、光ファイバ内における非線形現象により光出力におけるパルスピークが制限される場合等において、非線形現状を回避できるように複数の波長に差をつけ、パルスピークの制限を回避することも可能である。
【0035】
以上説明したように、実施の形態1のレーザレーダ装置によれば、パルス変調され、かつ、パルスのLowレベル成分として設定された光強度を持つ光信号を送出する光送信部と、光信号を送信光として送出すると共に、大気中の目標物からの反射光を受信光として取得するサーキュレータと、サーキュレータから大気中に送信光を送出するまでの経路に設けられ、光信号を反射する光部分反射部と、光部分反射部で反射された光信号のLowレベル区間の信号をローカル光として、受信光のコヒーレント検波を行う検波部とを備えたので、構成を簡素化し、低コスト化を図ることができる。
【0036】
また、実施の形態1のレーザレーダ装置によれば、検波部は、ローカル光と受信光とをコヒーレント検波し、電流信号に変換する受光素子と、受光素子からの電流信号を電圧信号に変換する電流電圧変換器と、電流電圧変換器からの電圧信号に対して周波数分析を行う信号処理器とを備えたので、コヒーレント検波部としての構成を容易に実現することができる。
【0037】
また、実施の形態1のレーザレーダ装置によれば、電流電圧変換器は、負帰還型トランスインピーダンスアンプであるようにしたので、部分反射光のレベルが下がる場合においても、ショット雑音リミットに近い状態を実現することができる。
【0038】
また、実施の形態1のレーザレーダ装置によれば、風向が向かい風方向である位置に設置されるようにしたので、パルス変調におけるHighとLowの時間帯に周波数変化がない場合でも風速の計測を行うことができる。
【0039】
また、実施の形態1のレーザレーダ装置によれば、風向が向かい風方向である位置は風車であるようにしたので、パルス変調におけるHighとLowの時間帯に周波数変化がない場合でも風速の計測を行うことができる。
【0040】
また、実施の形態1のレーザレーダ装置によれば、光送信部は、光を放射する光源として半導体レーザダイオードを用い、かつ、半導体レーザダイオードの駆動電流にパルス変調をかけるようにしたので、パルスのLowレベル成分として設定された光強度を持つ光信号を容易に送出することができる。
【0041】
また、実施の形態1のレーザレーダ装置によれば、光送信部は、連続波を出力する光源とパルス変調器を備え、パルス変調器として、単数または複数の半導体アンプか、単数または複数の音響光学変調器を用いるようにしたので、周波数シフト量を適切に調整することで、風速の正と負を識別することができ、さらなる高機能化も可能となる。
【0042】
また、実施の形態1のレーザレーダ装置によれば、電流電圧変換器の変換ゲインは可変であり、かつ、変換ゲインは信号処理器によって制御されるようにしたので、受信光の受信状態に応じてゲインを制御し、ノイズレベルの安定化を実現することができる。
【0043】
また、実施の形態1のレーザレーダ装置によれば、光送信部から出力される光信号のパルスのHighレベルとLowレベルの比である消光比は、信号処理器によって制御されるようにしたので、部分反射光を一定化することができる。
【0044】
また、実施の形態1のレーザレーダ装置によれば、光部分反射部における反射率は信号処理器によって制御されるようにしたので、部分反射光を一定化することができる。
【0045】
また、実施の形態1のレーザレーダ装置によれば、光送信部は、光源を複数備え、これら光源からの複数の光信号を合波して光信号として出力するようにしたので、複数の波長に差をつけることで、パルスピークの制限を回避することができる。
【0046】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように、この発明に係るレーザレーダ装置は、コヒーレント検波を用いる構成に関するものであり、風を計測するレーザレーダ装置に用いるのに適している。
【符号の説明】
【0048】
1 光源、1a,1a−1,1a−2,1a−3 半導体レーザダイオード、1b パルス変調器、1c 波長合成型光合波器、2 光源ドライバ、3 光送信部、4 光増幅器、5 サーキュレータ、6 光部分反射器、7 送受光学系、8 受光素子、9 電流電圧変換器、9a オペアンプ、9b,9b−1,9b−2,9b−3, 負帰還抵抗、9c−1,9c−2,9c−3,スイッチ、10 信号処理器、11 検波部。
図1
図2
図3
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図5
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図7