(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エコー状態判定部は、前記1次エコーのスペクトルのピーク値と前記2次エコーのスペクトルのピーク値に基づいて、前記1次エコーと前記2次エコーとの強弱関係を判定すること
を特徴とする請求項1記載の信号処理装置。
前記エコー状態判定部は、前記1次エコーまたは前記2次エコーのスペクトルにおけるピーク値と、ピーク位置から一定の距離以上離れたスペクトル領域におけるピーク値との差分または比が閾値以上である場合、前記1次エコーまたは前記2次エコーを雑音化すること
を特徴とする請求項1記載の信号処理装置。
前記エコー状態判定部は、前記1次エコーまたは前記2次エコーのスペクトルにおけるピーク値と、ピーク位置から一定の距離以上離れたスペクトル領域におけるピーク値との差分または比が閾値以上である場合、前記1次エコーおよび前記2次エコーをともに雑音化すること
を特徴とする請求項1記載の信号処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るレーダ装置1の構成を示すブロック図である。
図1に示すレーダ装置1は、パルス信号を電磁波として空間に繰り返し送信し、当該空間内の物体において反射されたパルス波動の反射波の受信信号を信号処理することにより、物体との距離を測定する。レーダ装置1は、パルス発信部11、位相変調部12、位相制御部13、送信部14、送受切り替え部15、空中線部16、受信部17および信号処理装置18を備えて構成される。
【0011】
パルス発信部11は、パルス信号を繰り返し発信する。位相変調部12は、パルス発信部11から発信されたパルス信号の時系列を位相変調して送信信号を生成する。位相制御部13は、位相変調に用いる位相系列を生成する。位相変調部12は、位相制御部13によって生成された位相系列に従い、パルス発信部11から発信されたパルス列を位相変調する。位相制御部13によって生成された位相系列は位相変調部12および信号処理装置18に出力される。
【0012】
送信部14は、位相変調部12によって位相変調されたパルス信号に対して増幅および周波数変換を行うことにより送信信号を生成する。送信部14によって生成されたパルス状の送信信号は、送受切り替え部15を通じて空中線部16に出力される。送受切り替え部15は、入力信号の出力先を、空中線部16と受信部17で切り替える。例えば、送受切り替え部15は、送信部14によって生成された送信信号を空中線部16に出力し、空中線部16によって受信された信号を受信部17に出力する。
【0013】
空中線部16は、送信部14によって生成された送信信号を大気中に送信し、大気中に存在する物体で送信信号が反射された反射波を受信する。受信部17は、空中線部16によって受信された信号に対して周波数変換および増幅を行うことにより、受信信号を生成する。受信部17によって生成された受信信号は、信号処理装置18に出力される。
【0014】
信号処理装置18は、送信信号の位相変調に用いられた位相系列に基づいて、受信信号から1次エコーを復調し、2次エコーを抑圧する信号処理を行う。
図2は、実施の形態1に係る信号処理装置18の構成を示すブロック図である。
図2において、信号処理装置18は、第1のエコー復元部181、第1のエコーパラメータ算出部182、エコー状態判定部183、第2のエコー復元部184、第2のエコーパラメータ算出部185およびエコーパラメータ出力部186を備える。
【0015】
第1のエコー復元部181は、位相制御部13から出力された位相系列を用いて、受信部17によって生成された反射波の受信信号を位相補正することにより、1次エコー領域の受信信号および2次エコー領域の受信信号を復元する。
【0016】
第1のエコーパラメータ算出部182は、1次エコー領域の受信信号に基づいて、1次エコーの強度(受信電力)、ドップラ速度およびスペクトル幅を含む第1の1次エコーパラメータを算出する。さらに、第1のエコーパラメータ算出部182は、2次エコー領域の受信信号に基づいて、2次エコーの強度(振幅強度)、ドップラ速度およびスペクトル幅を含む第1の2次エコーパラメータを算出する。第1のエコーパラメータには、エコーのパワースペクトルが含まれてもよいし、エコーのスペクトル幅の代わりに、エコーのドップラ速度幅が含まれてもよい。
【0017】
エコー状態判定部183は、第1の1次エコーパラメータおよび第1の2次エコーパラメータに基づいて、1次エコーと2次エコーとの強弱関係を判定し、判定の結果に応じたエコー抽出方法を、第2のエコー復元部184に設定する。1次エコーが2次エコーよりも強度が大きい場合には、1次エコーが強エコーであり、2次エコーが弱エコーである。また、2次エコーが1次エコーよりも強度が大きければ、2次エコーが強エコーであり、1次エコーが弱エコーである。
【0018】
エコー抽出方法には、強エコーと弱エコーの強度差に応じた第1の抽出方法、第2の抽出方法および第3の抽出方法がある。第1の抽出方法は、強エコーと弱エコーの強度差が大きく、両者の強弱関係が明瞭である場合に対応した方法である。第2の抽出方法は、強エコーと弱エコーの強度差が小さく、両者の強弱関係が不明瞭である場合に対応した方法である。第3の抽出方法は、強エコーが弱エコーよりも非常に大きい強度を有し、この強エコーによって弱エコーの抽出が困難である場合に対応した方法である。
【0019】
第2のエコー復元部184は、エコー状態判定部183によって設定されたエコー抽出方法に基づいて、反射波の受信信号から1次エコーおよび2次エコーを抽出して1次エコーのスペクトルおよび2次エコーのスペクトルを復元する。第2のエコーパラメータ算出部185は、1次エコーのスペクトルおよび2次エコーのスペクトルに基づいて、1次エコーに関する第2の1次エコーパラメータと2次エコーに関する第2の2次エコーパラメータを算出する。
【0020】
エコーパラメータ出力部186は、第2の1次エコーパラメータおよび第2の2次エコーパラメータを、エコーの推定結果として出力する。例えば、エコーパラメータ出力部186は、エコーパラメータを一定の出力形式に変換することにより、表示装置に表示させる。
【0021】
図3は、第1のエコー復元部181の構成を示すブロック図である。第1のエコー復元部181は、
図3に示すように、1次エコー復元部181aと2次エコー復元部181bを備える。1次エコー復元部181aは、位相制御部13から出力された位相系列を用いて、受信部17によって生成された反射波の受信信号を位相補正することにより、1次エコー領域の受信信号を復元する。例えば、1次エコー復元部181aは、反射波の受信信号の位相を1次エコー領域の受信信号の位相に合わせる。すなわち、送信信号の位相変調に用いられた位相系列が相殺されるように、反射波の受信信号に対して、位相制御部13から出力された位相系列の逆位相系列が乗算される。これにより、受信信号の位相が1次エコー領域の受信信号の位相に合うように補正されて、1次エコー領域の受信信号が復元される。
【0022】
2次エコー復元部181bは、位相制御部13から出力された位相系列を用いて、受信部17によって生成された反射波の受信信号を位相補正することにより、2次エコー領域の受信信号を復元する。例えば、2次エコー復元部181bは、反射波の受信信号の位相を2次エコー領域の受信信号の位相に合わせる。すなわち、1周期前の送信信号の位相変調に用いられた位相系列が相殺されるように、反射波の受信信号に対し、1次エコーの復元に用いられた位相系列の1周期前の位相系列の逆位相系列が乗算される。これにより、受信信号の位相が2次エコー領域の受信信号の位相に合うように補正されて、2次エコー領域の受信信号が復元される。
【0023】
図4は、第2のエコー復元部184の構成を示すブロック図である。第2のエコー復元部184には、位相制御部13から位相系列が入力され、受信部17から受信信号が入力され、エコー状態判定部183によりエコー抽出方法が設定される。例えば、エコー状態判定部183によって1次エコーと2次エコーの強弱関係が判定された結果として得られた強エコーおよび弱エコーが第2のエコー復元部184に設定される。これにより、第2のエコー復元部184には、強エコーと弱エコーの強度差に応じたエコー抽出方法が設定される。強エコーまたは弱エコーは、1次エコーまたは2次エコーであるので、これらは対応付けて管理される。
【0024】
第2のエコー復元部184は、
図4に示すように、強エコー復元部184a、強エコー除去部184b、弱エコー抽出部184c、弱エコー復元部184d、弱エコー除去部184eおよび強エコー抽出部184fを備える。強エコー復元部184aは、位相制御部13から入力した位相系列を用いて、受信部17から入力した受信信号の位相を、エコー状態判定部183によって設定された強エコーの位相に合わせる。
【0025】
例えば、強エコーが1次エコーであった場合、強エコー復元部184aは、位相制御部13から入力した位相系列が相殺されるように、受信信号に対して当該位相系列が乗算される。また、強エコーが2次エコーである場合、強エコー復元部184aは、1周期前の送信信号の位相変調に用いられた位相系列が相殺されるように、受信信号に当該位相系列が乗算される。これにより、受信信号の位相が強エコーの位相に合うように補正されて、強エコーが復元される。
【0026】
強エコー除去部184bは、強エコー復元部184aが強エコーの位相に合わせた受信信号のパワースペクトルから、強エコーのスペクトル成分を検出して除去する。弱エコー抽出部184cは、位相制御部13から入力した位相系列を用いて、強エコー除去部184bによって強エコーのスペクトル成分が除去された受信信号の位相を、弱エコーの位相に合わせる。そして、弱エコー抽出部184cは、弱エコーの位相に合わせた受信信号のパワースペクトルから、弱エコーのスペクトル成分を抽出する。
【0027】
弱エコー復元部184dは、位相制御部13から入力した位相系列を用いて、受信部17から入力した受信信号の位相を、エコー状態判定部183によって設定された弱エコーの位相に合わせる。例えば、弱エコーが1次エコーである場合、弱エコー復元部184dは、位相制御部13から入力した位相系列が相殺されるように、受信信号に対して当該位相系列が乗算される。また、弱エコーが2次エコーである場合、弱エコー復元部184dは、1周期前の送信信号の位相変調に用いられた位相系列が相殺されるように、受信信号に当該位相系列が乗算される。これにより、受信信号の位相が弱エコーの位相に合うように補正されて、弱エコーが復元される。
【0028】
弱エコー除去部184eは、弱エコー復元部184dが弱エコーの位相に合わせた受信信号のパワースペクトルから、弱エコーのスペクトル成分を検出して除去する。強エコー抽出部184fは、位相制御部13から入力した位相系列を用いて、弱エコー除去部184eによって弱エコーのスペクトル成分が除去された受信信号の位相を、強エコーの位相に合わせる。そして、強エコー抽出部184fは、強エコーの位相に合わせた受信信号のパワースペクトルから、強エコーのスペクトル成分を抽出する。
【0029】
信号処理装置18による信号処理は、以下の通りである。
図5は、実施の形態1に係る信号処理方法を示すフローチャートであり、信号処理装置18によって推定されたエコーに関するエコーパラメータが出力されるまでの一連の処理を示している。
【0030】
第1のエコー復元部181は、受信部17から入力した受信信号に対して、送信信号に施された位相変調の位相系列を相殺する位相系列を乗ずることにより、受信信号の位相を1次エコーの位相に合わせる。そして、第1のエコー復元部181は、1次エコーの位相に合わせた受信信号を高速フーリエ変換(FFT)もしくは離散フーリエ変換(DFT)することによって、受信信号のパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルから地形エコーを除去する。地形エコーとは、1次エコーと同じレンジセル内にある地面あるいは山からの大きな反射波である。このようにして1次エコー領域の受信信号が復元される。ここまでの処理がステップST11である。
【0031】
第1のエコー復元部181は、受信部17から入力した受信信号に対して、1周期前の送信信号に施された位相変調の位相系列を相殺する位相系列を乗ずることにより、受信信号の位相を2次エコーの位相に合わせる。そして、第1のエコー復元部181は、2次エコーの位相に合わせた受信信号をFFTもしくはDFTすることによって、受信信号のパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルから地形エコーを除去する。このようにして、2次エコー領域の受信信号が復元される。ここまでの処理がステップST12である。
【0032】
第1のエコーパラメータ算出部182は、第1のエコー復元部181によって算出された1次エコー領域の受信信号のパワースペクトルに基づいて、第1の1次エコーパラメータを算出する(ステップST13)。例えば、第1のエコーパラメータ算出部182は、1次エコー領域の受信信号のパワースペクトルに基づいて、1次エコーの強度、ドップラ速度およびスペクトル幅を含む第1の1次エコーパラメータを算出する。エコーパラメータの算出には、例えば、パルスペア法またはモーメント法が用いられる。
【0033】
第1のエコーパラメータ算出部182は、第1のエコー復元部181によって算出された2次エコー領域の受信信号のパワースペクトルに基づいて、第1の2次エコーパラメータを算出する(ステップST14)。例えば、第1のエコーパラメータ算出部182は、2次エコー領域の受信信号のパワースペクトルに基づいて、2次エコーの強度、ドップラ速度およびスペクトル幅を含む第1の2次エコーパラメータを算出する。1次エコーパラメータと同様に、エコーパラメータの算出には、例えば、パルスペア法またはモーメント法が用いられる。
【0034】
エコー状態判定部183は、1次エコーと2次エコーとの強弱関係を判定する(ステップST15)。エコー状態判定部183は、1次エコーと2次エコーとの強弱関係の判定結果に応じたエコー抽出方法を第2のエコー復元部184に設定する。以下の処理では、1次エコーが強エコーまたは弱エコーと呼ばれ、2次エコーが弱エコーまたは強エコーと呼ばれる。すなわち、1次エコーが2次エコーよりも強度が大きい場合には、1次エコーが強エコーであり、2次エコーが弱エコーである。2次エコーが1次エコーよりも強度が大きければ、2次エコーが強エコーであり、1次エコーが弱エコーである。
【0035】
図6Aは、強エコーのスペクトルを示す概念図である。
図6Bは、強エコーとの強度の差が大きい弱エコーのスペクトルを示す概念図である。
図6Cは、
図6Bの弱エコーが重畳した
図6Aの強エコーのスペクトルを示す概念図である。
図6Dは、
図6Aの強エコーが重畳した
図6Bの弱エコーのスペクトルを示す概念図である。
図6A、
図6B、
図6Cおよび
図6Dにおいて、横軸はドップラ速度を示しており、ドップラ速度に対するエコーの振幅強度を示しいる。vNは、ナイキスト速度である。
【0036】
図6Cに示す弱エコーが重畳した強エコーのスペクトルは、強エコーに位相が合っているが、弱エコーには位相が合っていないエコーのパワースペクトルである。
図6Dに示す強エコーが重畳した弱エコーのスペクトルは、弱エコーに位相が合っているが、強エコーには位相が合っていないエコーのパワースペクトルである。位相変調を用いた多次エコーの抑圧処理では、位相が合っていない多次エコーは、周波数領域全域に白色雑音的に分布するか、一定の間隔で並ぶように分布する。
【0037】
図6A、
図6B、
図6Cおよび
図6Dは、強エコーと弱エコーとの強度差が大きい場合を示している。受信信号の位相が強エコーに合わせられた場合、強エコーA1の強度が弱エコーB1よりも大きいので、
図6Cに示すように、強エコーA1のパワースペクトルが明瞭に現れる。受信信号の位相が弱エコーに合わせられた場合は、
図6Dに示すように、周波数領域全域に拡散した強エコーA2と弱エコーB2との強度差が小さいので、弱エコーB2のスペクトルは不明瞭となる。
【0038】
図7Aは、強エコーのスペクトルを示す概念図である。
図7Bは、強エコーとの強度の差が小さい弱エコーのスペクトルを示す概念図である。
図7Cは、
図7Bの弱エコーが重畳した
図7Aの強エコーのスペクトルを示す概念図である。
図7Dは、
図7Aの強エコーが重畳した
図7Bの弱エコーのスペクトルを示す概念図である。
図7A、
図7B、
図7Cおよび
図7Dにおいて、横軸はドップラ速度を示しており、ドップラ速度に対するエコーの振幅強度を示しいる。vNは、ナイキスト速度である。
【0039】
図7A、
図7B、
図7Cおよび
図7Dは、強エコーと弱エコーとの強度差が小さい場合を示している。受信信号の位相が強エコーに合わせられた場合、
図7Cに示すように、強エコーA1のピークと周波数領域全域に拡散した弱エコーB1との強度差が小さく、強エコーA1が弱エコーB1に埋もれた状態になる。受信信号の位相が弱エコーに合わせられた場合においても、
図7Dに示すように、弱エコーB2のピークと周波数領域全域に拡散した強エコーA2との強度差が小さく、弱エコーB2が強エコーA2に埋もれた状態になる。すなわち、受信信号の位相が強エコーまたは弱エコーのいずれに合わせられても、強エコーと弱エコーのスペクトルの明瞭さは同程度になる。
【0040】
図8Aは、強エコーのスペクトルを示す概念図である。
図8Bは、強エコーとの強度の差が非常に大きい弱エコーのスペクトルを示す概念図である。
図8Cは、
図8Bの弱エコーが重畳した
図8Aの強エコーのスペクトルを示す概念図である。
図8Dは、
図8Aの強エコーが重畳した
図8Bの弱エコーのスペクトルを示す概念図である。
図8A、
図8B、
図8Cおよび
図8Dにおいて、横軸はドップラ速度を示しており、ドップラ速度に対するエコーの振幅強度を示しいる。vNは、ナイキスト速度である。
【0041】
図8A、
図8B、
図8Cおよび
図8Dは、強エコーが、例えば、地形エコーのように、弱エコーに比べて非常に強度が大きい場合を示している。受信信号の位相が強エコーに合わせられた場合、強エコーA1の強度が弱エコーB1よりも非常に大きいので、
図8Cに示すように、強エコーA1のパワースペクトルが明瞭に現れる。また、受信信号の位相が弱エコーに合わせられた場合には、
図8Dに示すように、弱エコーB2のスペクトルが、周波数領域全域に拡散した強エコーA2に完全に埋もれた状態となる。すなわち、弱エコーB2の抽出は困難である。
【0042】
エコー状態判定部183は、1次エコーと2次エコーとの強弱関係を判定することで、弱エコーに対して強エコーのスペクトルが明瞭である場合、強エコーと弱エコーとのスペクトルの明瞭さが同程度である場合および強エコーが弱エコーよりも非常に大きい強度であり、弱エコーの抽出が困難である場合のいずれであるかを決定する。エコー状態判定部183は、決定した場合に対応するエコー抽出方法を、第2のエコー復元部184に設定する。
【0043】
1次エコーと2次エコーの強弱関係の判定方法には、例えば、1次エコーに位相を合わせた受信信号のパワースペクトルにおけるピーク値と、2次エコーに位相を合わせた受信信号のパワースペクトルにおけるピーク値とを用いる方法がある。ただし、受信信号のパワースペクトルにおけるピーク値を比較する前に、当該パワースペクトルにおけるドップラ速度0付近に分布する地形エコーのスペクトル成分が除去されていることが望ましい。
【0044】
エコー状態判定部183は、1次エコーに位相を合わせた受信信号のパワースペクトルのピーク値と2次エコーに位相を合わせた受信信号のパワースペクトルのピーク値との差もしくは比が、閾値よりも大きければ明瞭な差があると判定し、閾値よりも小さければ明瞭な差はないと判定する。
【0045】
1次エコーと2次エコーの強弱関係の判定方法には、例えば、1次エコーに位相を合わせた受信信号のパワースペクトルにおけるスペクトル幅と、2次エコーに位相を合わせた受信信号のパワースペクトルにおけるスペクトル幅とを用いる方法がある。この方法においても、受信信号のパワースペクトルにおけるピーク値を比較する前に、当該パワースペクトルにおけるドップラ速度0付近に分布する地形エコーのスペクトル成分が除去されていることが望ましい。
【0046】
エコー状態判定部183は、1次エコーに位相を合わせた受信信号のパワースペクトルのスペクトル幅と2次エコーに位相を合わせた受信信号のパワースペクトルのスペクトル幅との差もしくは比が、閾値よりも大きければ明瞭な差があると判定し、閾値よりも小さければ明瞭な差はないと判定する。ただし、1次エコーと2次エコーの強弱関係の判定にスペクトル幅を用いる場合、スペクトル幅が狭くなるに伴いエコー成分をスペクトルから除去したときにスペクトルに与える損失は小さくなる。すなわち、スペクトル幅が狭い方のエコーを除去したときにスペクトル幅が広い方のエコーへに与えるダメージが小さいと考えられる。そこで、エコー状態判定部183は、スペクトル幅が狭い方のエコーの強度が大きいと判定し、エコーの強度差の判定を優先して行う。
【0047】
1次エコーおよび2次エコーのうち、一方のエコーの強度が他方のエコーよりも非常に大きい場合、1次エコーに位相を合わせた受信信号のパワースペクトルおよび2次エコーに位相を合わせた受信信号のパワースペクトルのうち、ピーク強度が高い方のスペクトルにおいて、ピーク値とこのピーク位置から一定の距離以上離れた領域のピーク値とを比較することにより、1次エコーと2次エコーの強弱関係を判定する方法がある。
【0048】
図9は、強エコーの強度が弱エコーよりも非常に大きいか否かの判定処理の概要を示す説明図である。
図9において、横軸はドップラ速度を示しており、ドップラ速度に対するエコーの振幅強度を示しいる。vNはナイキスト速度である。
図9に示すスペクトルは、1次エコーに位相を合わせた受信信号のパワースペクトルおよび2次エコーに位相を合わせた受信信号のパワースペクトルのうち、ピーク強度が高い方のスペクトルである。
【0049】
エコー状態判定部183は、
図9に示すように、スペクトルのピーク位置を中心として一定の幅のマスク領域を設定し、マスク領域外からもピークを検出する。
図9において、マスク領域がハッチングで示され、スペクトルにおけるピークが、下に凸の黒三角形マークで示され、マスク領域外におけるピークが、上に凸の黒三角形マークで示されている。スペクトルのピーク値とマスク領域外のピーク値との差もしくは比が閾値以上である場合に、エコー状態判定部183は、強エコーのスペクトルのサイドローブが弱エコーのスペクトルが拡散した領域まで広がっており、弱エコーの抽出が困難であると判定する。
【0050】
マスク領域の幅Vmは、例えば、ドップラ速度領域である全周波数領域の1/2または3/4の幅に設定される。なお、弱エコー側にも強度が高いエコーが存在する場合には、スペクトルのピーク値とマスク領域外のピーク値との強度差が小さくなると考えられる。そのため、エコー状態判定部183は、ピーク値の比較においてピークの(絶対)強度値を併用し、両スペクトルの(絶対)強度値が閾値以上である場合、両スペクトルがともに精度よくエコーを抽出することが困難であると判定する。
【0051】
なお、エコー状態判定部183は、受信信号のスペクトルのピーク値とスペクトル幅とを組み合わせて、1次エコーと2次エコーとの強弱関係を判定してもよい。
【0052】
第2のエコー復元部184は、エコー状態判定部183から設定された強エコーと弱エコーとの強弱関係に基づいて、強エコーと弱エコーとのスペクトルを復元する(ステップST16)。例えば、第2のエコー復元部184は、受信部17から入力した受信信号に対して、強エコーまたは弱エコーに位相を合わせる処理とパワースペクトルの算出処理を行う。なお、強エコーと弱エコーのスペクトルの復元には、第1のエコー復元部181によって復元されたエコーに関する情報、および、第1のエコーパラメータ算出部182によって算出された第1のエコーパラメータを用いることもできる。また、強エコーと弱エコーのスペクトルの復元では、必要に応じてスペクトルから地形エコーを除去する処理が行われる。
【0053】
第2のエコー復元部184は、エコー状態判定部183から弱エコーに対して強エコーのスペクトルが明瞭であることが設定された場合、受信信号の位相を強エコーに合わせてパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルから地形エコー成分を除去する。これにより、強エコーが抽出され、そのパワースペクトルが算出される。第2のエコー復元部184は、受信信号の位相を強エコーに合わせてパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルから地形エコー成分および強エコー成分を除去する。そして、第2のエコー復元部184は、地形エコー成分および強エコー成分を除去した受信信号の位相を弱エコーに合わせてパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルから弱エコー側の地形エコー成分を除去する。これにより、弱エコーが抽出され、そのパワースペクトルが算出される。以上の処理が、弱エコーに対して強エコーのスペクトルが明瞭である場合に応じたエコー抽出方法によるエコースペクトルの復元である。
【0054】
第2のエコー復元部184は、エコー状態判定部183から強エコーと弱エコーとのスペクトルの明瞭さが同程度であることが設定された場合、受信信号の位相を強エコーに合わせてパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルから地形エコー成分および強エコー成分を除去する。そして、第2のエコー復元部184は、地形エコー成分および強エコー成分を除去した受信信号の位相を弱エコーに合わせてパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルから弱エコー側の地形エコー成分を除去する。これにより、弱エコーが抽出され、そのパワースペクトルが算出される。
【0055】
さらに、第2のエコー復元部184は、受信信号の位相を弱エコーに合わせてパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルから地形エコー成分および弱エコー成分を除去する。そして、第2のエコー復元部184は、地形エコー成分および弱エコー成分を除去した受信信号の位相を強エコーに合わせてパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルから強エコー側の地形エコー成分を除去する。これにより、強エコーが抽出され、そのパワースペクトルが算出される。以上の処理が、強エコーと弱エコーとのスペクトルの明瞭さが同程度である場合に応じたエコー抽出方法によるエコースペクトルの復元である。
【0056】
第2のエコー復元部184は、エコー状態判定部183から、強エコーが弱エコーよりも非常に大きい強度を有し、強エコーによって弱エコーの抽出が困難であることが設定された場合、受信信号の位相を強エコーに合わせてパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルから地形エコー成分を除去して強エコーのパワースペクトルを算出する。一方、弱エコーの抽出は困難であるため、弱エコーは、例えば白色雑音に置き換えられて無効値化される。また、強エコーと弱エコーがともに抽出が困難である場合は、両エコーともに無効値化される。
【0057】
続いて、第2のエコーパラメータ算出部185は、第2のエコー復元部184によって復元されたエコースペクトルに基づいて、第2のエコーパラメータを算出する(ステップST17)。第2のエコーパラメータには、第1のエコーパラメータに含まれる、エコーの強度、ドップラ速度およびスペクトル幅に加え、例えば、偏波パラメータおよびマルチラグ推定値が含まれる。偏波パラメータには、レーダ反射因子差、偏波間位相差、および偏波間相関係数がある。1次エコーに関する第2の1次エコーパラメータおよび2次エコーに関する第2の2次エコーパラメータは、1次エコーと2次エコーの強弱関係により、第2の強エコーのエコーパラメータおよび第2の弱エコーのエコーパラメータとされる。
【0058】
エコーパラメータ出力部186は、第2のエコーパラメータ算出部185によって算出された強エコーおよび弱エコーに関する第2のエコーパラメータを1次エコーおよび2次エコーに再び対応付けることにより、1次エコーパラメータおよび2次エコーパラメータとして出力する(ステップST18)。例えば、1次エコーパラメータおよび2次エコーパラメータは、表示装置に表示される。
【0059】
図10Aは、信号処理装置18の機能を実現するハードウェア構成を示すブロック図であり、
図10Bは、信号処理装置18の機能を実現するソフトウェアを実行するハードウェア構成を示すブロック図である。
図10Aおよび
図10Bにおいて、第1のインタフェース100は、例えば、位相制御部13から信号処理装置18へ出力される位相系列と、受信部17から信号処理装置18へ出力される受信信号とを中継するインタフェースである。第2のインタフェース101は、例えば、エコーパラメータ出力部186から表示装置へ出力されるエコーパラメータを中継するインタフェースである。
【0060】
信号処理装置18における、第1のエコー復元部181、第1のエコーパラメータ算出部182、エコー状態判定部183、第2のエコー復元部184、第2のエコーパラメータ算出部185およびエコーパラメータ出力部186の機能は、処理回路によって実現される。すなわち、信号処理装置18は、
図5に示したステップST11からステップST18までの処理を実行するための処理回路を備える。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいが、メモリに記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)であってもよい。
【0061】
処理回路が
図10Aに示す専用のハードウェアの処理回路102である場合、処理回路102は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field−Programmable Gate Array)、または、これらを組み合わせたものが該当する。信号処理装置18における、第1のエコー復元部181、第1のエコーパラメータ算出部182、エコー状態判定部183、第2のエコー復元部184、第2のエコーパラメータ算出部185およびエコーパラメータ出力部186の機能は、別々の処理回路で実現されてもよく、これらの機能がまとめて1つの処理回路で実現されてもよい。
【0062】
処理回路が
図10Bに示すプロセッサ103である場合、信号処理装置18における、第1のエコー復元部181、第1のエコーパラメータ算出部182、エコー状態判定部183、第2のエコー復元部184、第2のエコーパラメータ算出部185およびエコーパラメータ出力部186の機能は、ソフトウェア、ファームウェアまたはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。なお、ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述されてメモリ104に記憶される。
【0063】
プロセッサ103は、メモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、信号処理装置18における第1のエコー復元部181、第1のエコーパラメータ算出部182、エコー状態判定部183、第2のエコー復元部184、第2のエコーパラメータ算出部185およびエコーパラメータ出力部186の機能を実現する。例えば、信号処理装置18は、プロセッサ103によって実行されるときに、
図5に示したステップST11からステップST18まで処理が結果的に実行されるプログラムを記憶するメモリ104を備える。これらのプログラムは、第1のエコー復元部181、第1のエコーパラメータ算出部182、エコー状態判定部183、第2のエコー復元部184、第2のエコーパラメータ算出部185およびエコーパラメータ出力部186の手順または方法をコンピュータに実行させる。メモリ104は、コンピュータを、第1のエコー復元部181、第1のエコーパラメータ算出部182、エコー状態判定部183、第2のエコー復元部184、第2のエコーパラメータ算出部185およびエコーパラメータ出力部186として機能させるためのプログラムが記憶されたコンピュータ可読記憶媒体であってもよい。
【0064】
メモリ104は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically−EPROM)などの不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVDなどが該当する。
【0065】
信号処理装置18における、第1のエコー復元部181、第1のエコーパラメータ算出部182、エコー状態判定部183、第2のエコー復元部184、第2のエコーパラメータ算出部185およびエコーパラメータ出力部186の機能の一部が、専用のハードウェアで実現され、一部がソフトウェアまたはファームウェアで実現されてもよい。例えば、エコーパラメータ出力部186は、専用のハードウェアである処理回路102により機能を実現し、第1のエコー復元部181、第1のエコーパラメータ算出部182、エコー状態判定部183、第2のエコー復元部184および第2のエコーパラメータ算出部185は、プロセッサ103がメモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することによって機能を実現する。このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアまたはこれらの組み合わせによって、上記機能を実現することができる。
【0066】
以上のように、実施の形態1に係る信号処理装置18は、1次エコーと2次エコーとの強弱関係に応じたエコー抽出方法に基づいて、受信信号から1次エコーおよび2次エコーを抽出して1次エコーおよび2次エコーのスペクトルを算出し、これらのスペクトルに基づいて、1次エコーパラメータおよび2次エコーパラメータを算出する。エコーの抽出精度が高くなるように、1次エコーと2次エコーとの強弱関係に応じて、受信信号から1次エコーおよび2次エコーが抽出される。これにより、信号処理装置18は、エコーの推定精度を向上させることができる。
【0067】
実施の形態1に係る信号処理装置18において、エコー状態判定部183が、1次エコーのスペクトルのピーク値と2次エコーのスペクトルのピーク値に基づいて、1次エコーと2次エコーとの強弱関係を判定する。1次エコーと2次エコーとを正確に弁別することができ、1次エコーと2次エコーの強弱関係の判定を精度よく行うことが可能である。
【0068】
実施の形態1に係る信号処理装置18において、エコー状態判定部183が、1次エコーのスペクトル幅と2次エコーのスペクトル幅に基づいて、1次エコーと2次エコーとの強弱関係を判定する。これにより、エコー状態判定部183は、強エコー成分が除去されたスペクトルにおける弱エコーの残存状況または強エコー成分の除去が弱エコーに与えるダメージに応じて、1次エコーと2次エコーとの強弱関係を判定することができる。
【0069】
実施の形態1に係る信号処理装置18において、エコー状態判定部183が、1次エコーまたは2次エコーのスペクトルにおけるピーク値とピーク位置から一定の距離以上離れたスペクトル領域におけるピーク値との差分または比が閾値以上である場合、1次エコーまたは2次エコーを雑音化する、あるいは、1次エコーおよび2次エコーをともに雑音化する。このように1次エコーと2次エコーの強弱関係に基づいてエコーの推定精度を劣化させると予想されるエコーは、エコーパラメータを推定せずに無効値化(雑音化)する。これにより、エコーパラメータの誤推定を抑止することができる。
【0070】
実施の形態1に係るレーダ装置1は、信号処理装置18を備えるので、前述した効果が得られる。実施の形態1に係る信号処理方法は、信号処理装置18によって実施される、
図5に示す一連の処理であるので、前述した効果が得られる。
【0071】
なお、レーダ装置1は、信号処理装置18によって1次エコーを雑音化して算出された2次エコーのエコーパラメータを用いることで、1次エコーが得られた距離測定範囲以遠に存在する物体との距離を測定可能である。また、信号処理装置18は、レーダ装置のみならず、電磁波または音波をパルス波動として用いた観測装置に適用することができる。観測装置には、レーダ装置の他に、ライダー装置(例えば、光波レーダ)、音波レーダであるソーダ装置がある。
【0072】
なお、各実施の形態の組み合わせまたは実施の形態のそれぞれの任意の構成要素の変形もしくは実施の形態のそれぞれにおいて任意の構成要素の省略が可能である。
信号処理装置(18)は、1次エコーと2次エコーとの強弱関係に応じたエコー抽出方法に基づいて、受信信号から1次エコーおよび2次エコーを抽出して1次エコーおよび2次エコーのスペクトルを算出し、これらのスペクトルに基づいて1次エコーパラメータおよび2次エコーパラメータを算出する。