(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797364
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】押出機用口金
(51)【国際特許分類】
B29C 48/305 20190101AFI20201130BHJP
B29K 21/00 20060101ALN20201130BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20201130BHJP
【FI】
B29C48/305
B29K21:00
B29L30:00
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-166642(P2016-166642)
(22)【出願日】2016年8月29日
(65)【公開番号】特開2018-34315(P2018-34315A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】谷口 昌幸
【審査官】
田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−205331(JP,A)
【文献】
特開2002−160281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/305
B29K 21/00
B29L 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の断面形状を有するタイヤ構成部材を押出成形する押出機用口金であって、
材料ゴムが供給される供給口と、
前記断面形状と同一形状の吐出口と、
前記供給口から前記吐出口に通じるゴム流路とを備えており、
前記ゴム流路には、両側に前記供給口側から前記吐出口側に向かって三角形の傾斜面を有するゴム溜まりがそれぞれ形成されており、
それぞれの前記三角形の傾斜面は、前記供給口に最も近い頂点、前記供給口に次に近く、前記供給口に最も近い頂点より前記ゴム流路の幅方向の外側に位置する頂点および前記吐出口に最も近い頂点を3頂点とし、前記供給口側から前記吐出口側に向けて先細りに形成されており、さらに、前記供給口に最も近い頂点を起点にして、前記供給口側から前記吐出口側に向けて前記ゴム流路の幅方向の内側から前記吐出口のエッジに向かって傾斜して形成されていることを特徴とする押出機用口金。
【請求項2】
前記三角形の傾斜面の最も前記吐出口に近い頂点の位置が前記吐出口の位置に略一致しており、
前記三角形の傾斜面の最も前記供給口に近い頂点の位置が前記供給口の位置に略一致していることを特徴とする請求項1に記載の押出機用口金。
【請求項3】
前記三角形の傾斜面を有するゴム溜まりの前記供給口における幅が10〜20mmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の押出機用口金。
【請求項4】
前記三角形の傾斜面の最も前記供給口に近い頂点と次に前記供給口に近い頂点の垂直方向の距離が10〜15mmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の押出機用口金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料ゴムを所定の断面形状を有するタイヤ構成部材に押出成形する押出機用口金に関する。
【背景技術】
【0002】
生タイヤの製造工程においては、例えばインナーライナゴム、カーカスプライ、サイドウォールゴム、クリンチゴム、トレッドゴムなどのシート状のゴム部材が成形ドラムに貼付けられ、円筒状の生タイヤが成形される。
【0003】
これらのシート状ゴム部材は押出機によって所定の断面形状でシート状に押出成形される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記押出機は、押出機本体の先端部に押出機用口金を備えている。また、通常押出機用口金の上流側に隣接して口金直前の治具(プリフォーマー)が設けられており、スクリューによって送られる材料ゴムは、プリフォーマーに形成されたゴム流路および押出機用口金に形成されたゴム流路を通って、吐出口から吐出されることにより所定の形状に形成される(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
上記押出機を用いて成形する場合、押出機用口金のゴム流路のエッジ部分は、材料ゴムが流れにくく、吐出されたゴムシートにエッジ切れが発生したり、所定の長さにカットしたときにシュリンクするという問題がある。このような問題を解決するため、例えば供給口側が
図7、
図8に示すように加工されたダイプレート21を有する押出機用口金が用いられている。なお、
図7は従来のダイプレートを下方から見た拡大平面図であり、
図8は従来のダイプレートを下方から見た平面図である。
【0006】
従来のダイプレート21は、ゴム流路24のエッジ部分22に向けてエッジ外側から材料ゴムを取り込めるようにゴム溜まり23が設けられている。このように加工された押出機用口金を用いることにより、エッジ部分22近辺の吐出量が増加するため、上記エッジ切れやシュリンクの発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−160281号公報
【特許文献2】特開2012−81716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のようなダイプレートを使用した場合、シュリンクの発生は解消できたものの、エッジ部分22では幅方向外側からエッジに向けて内側に材料ゴムが流れるため、エッジ部分22における材料ゴムの吐出量の増加が十分とは言えない。このため、エッジ切れの発生を十分に抑制できないという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、シート状のゴム部材を押出成形するに際して、押出成形されたゴム部材のエッジ切れの発生を十分に抑制できる押出機用口金を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、
所定の断面形状を有するタイヤ構成部材を押出成形する押出機用口金であって、
材料ゴムが供給される供給口と、
前記断面形状と同一形状の吐出口と、
前記供給口から前記吐出口に通じるゴム流路とを備えており、
前記ゴム流路には、両側に前記供給口側から前記吐出口側に向かって三角形の傾斜面を有するゴム溜まりがそれぞれ形成されており、
それぞれの前記三角形の傾斜面
は、前記供給口に最も近い頂点、前記供給口に次に近く、前記供給口に最も近い頂点より前記ゴム流路の幅方向の外側に位置する頂点および前記吐出口に最も近い頂点を3頂点とし、前記供給口側から前記吐出口側に向けて先細りに形成されており、さらに、
前記供給口に最も近い頂点を起点にして、前記供給口側から前記吐出口側に向けて
前記ゴム流路の幅方向の内側から前記吐出口のエッジ
に向かって傾斜して形成されていることを特徴とする押出機用口金である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、
前記三角形の傾斜面の最も前記吐出口に近い頂点の位置が前記吐出口の位置に略一致しており、
前記三角形の傾斜面の最も前記供給口に近い頂点の位置が前記供給口の位置に略一致していることを特徴とする請求項1に記載の押出機用口金である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、
前記三角形の傾斜面を有するゴム溜まりの前記供給口における幅が10〜20mmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の押出機用口金である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、
前記三角形の傾斜面の最も前記供給口に近い頂点と次に前記供給口に近い頂点の垂直方向の距離が10〜15mmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の押出機用口金である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シート状のゴム部材を押出成形するに際して、押出成形されたゴム部材のエッジ切れの発生を十分に抑制できる押出機用口金を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る押出機用口金の供給口側の正面図である。
【
図2】本発明の一実施の形態におけるダイプレートを下方から見た平面図である。
【
図3】本発明の一実施の形態に係る押出機用口金とプリフォーマーとを組み合わせた斜視図である。
【
図4】本発明の一実施の形態に係る押出機用口金のエッジ部における材料ゴム流れを説明する図である。
【
図5】本発明の一実施の形態に係る押出機用口金のY−Y矢視図である。
【
図6】プリフォーマーを吐出口側から見た正面図である。
【
図7】従来のダイプレートを下方から見た拡大平面図である。
【
図8】従来のダイプレートを下方から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施の形態により図面に基づいて説明する。
【0017】
1.押出機用口金
図1は本実施の形態に係る押出機用口金の供給口側の正面図である。
図1では本発明において特徴的なダイプレート11を実線で示し、受け金12を2点鎖線で示している。また、
図2はダイプレート11を
図1のX方向、即ち下方から見た平面図である。
図3は、本実施の形態に係る押出機用口金とプリフォーマーとを組み合わせた斜視図である。
【0018】
図1に示すように、口金1はダイプレート11と受け金12とを備えている。そして、口金1は、材料ゴムが供給される供給口14と、タイヤ構成部材と同一形状の吐出口16と、供給口14から吐出口16に通じるゴム流路15とを備えている。また、ゴム流路15には、両側に供給口14から吐出口16に向かって三角形の傾斜面13を有するゴム溜まりがそれぞれ形成されている。
【0019】
それぞれの三角形の傾斜面13は、供給口14側から吐出口16側に向けて先細りに形成されており、さらに、供給口14側から吐出口16側に向けて吐出口16のエッジに対して外側に傾斜して形成されている。
【0020】
図2に示すように、Aは三角形の傾斜面13の頂点の内、最も供給口14に近い頂点であり、A’は次に供給口14に近い頂点であり、Bは最も吐出口16に近い頂点である。
【0021】
また、Cは、三角形の傾斜面13を有するゴム溜まりの供給口14における幅である。Dは、三角形の傾斜面13の頂点Bと頂点A’の垂直方向の距離であり、供給口の高さである。
【0022】
図4は、本実施の形態に係る押出機用口金のエッジ部における材料ゴムの流れを説明する図であり、
図5は本実施の形態に係る押出機用口金のY−Y矢視図である。なお、
図5において17は供給口形成端面であり、18は吐出口形成端面であり、tは口金の厚さである。
【0023】
上記した三角形の傾斜面13を有するゴム溜まりを設けることにより、
図4に矢印で示すように、材料ゴムが、供給口14から吐出口16に移動する際、ゴム流路15の両側の材料ゴムを、幅方向で内側から吐出口16のエッジに対して外側に向けて、強制的に流すことができる。また、
図5に示すように、頂点A’から頂点Bに向かって材料ゴムが下り傾斜で流れる。この結果、吐出口16の近くでは材料ゴムの流れが、ゴム流路15のエッジに集中して、押出成形されたゴム部材のエッジ切れの発生を十分に抑制することができる。
【0024】
2.押出機用口金の使用方法
上記した口金1は、以下のようなプリフォーマーと組み合わされて使用される。即ち、
図3に示すようにプリフォーマー3の下流側でプリフォーマー3の吐出口側端面に口金1が取り付けられる。材料ゴムは、プリフォーマー3を通って、口金1のゴム流路15に供給され、吐出口16から所定の断面形状のタイヤ構成部材が連続して吐出される。プリフォーマー3は、上型31と下型32とを備えており、例えば、
図6に示すように断面形状が矩形の吐出口33が形成されている。
【0025】
3.押出機用口金の好ましい態様
三角形の傾斜面13を有するゴム溜まりの供給口14における幅C(
図1)は、10〜20mmであることが好ましい。
【0026】
幅Cがこの範囲である場合、三角形の傾斜面13を形成した効果がより十分に発揮されるため、エッジ切れが十分に抑制される。
【0027】
また、三角形の傾斜面13の頂点Bと頂点A’の垂直方向の距離(供給口の高さ)Dをプリフォーマー3の吐出口33の高さE(
図6)以上にし、また、供給口14の幅(間口)を吐出口33の幅以上にした場合、口金1とプリフォーマー3の境界での材料ゴムの滞留が抑制され、材料ゴムがよりスムーズに流れるため好ましい。なお、
図6はプリフォーマーを吐出口側から見た正面図である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。なお、以下においては、サイズ195/65R15のタイヤのサイドウォールゴムを、押出回転数30.0rpmで、20m連続押出した。なお、プリフォーマーの吐出口の高さ(
図6のE)は、10mmに設定した。
【0029】
1.ゴム部材の押出成形
(1)実施例1〜15
図1、
図2、
図5で示した形状に加工されており、頂点A、頂点A’および頂点Bの三角形の傾斜面13において、ゴム溜まりの幅Cおよび供給口の高さDを表1に示すように変化させた押出機用口金を用いて、押出加工を行った。
【0030】
(2)比較例1
供給口側の形状が吐出口側の形状と同じ押出機用口金を用いて、押出加工を行った。
【0031】
(3)比較例2
図7に示したゴム溜まり(幅a:5mm、長さb:11mm、エッジ部分からの距離c:10mm)が形成された押出機用口金を用いて、押出加工を行った。
【0032】
2.評価方法
エッジ切れの有無を目視で検査し、エッジ切れの発生件数を基に5点法で評価した。4点以上が特に好ましい。評価結果をまとめて表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1より、供給口側の形状が吐出口側の形状と同じであり、エッジ部分近辺の吐出量の増量について全く対策が講じられていない比較例1の場合は評価点が1点であったのに対して、
図7で示したゴム溜まり23が設けられた口金が用いられた比較例2では、評価点が2点となり向上している。しかし、ゴム溜まり23を設けても、特に好ましい4点までには至っておらず、エッジ切れ抑制効果は充分とは言えない。
【0035】
一方、本実施の形態の押出機用口金で規定する三角形の傾斜面13の頂点Aを有し、厚みが、頂点Aから厚みが最薄となる所定の頂点Bに向けて薄くなるように三角形の傾斜面13が形成されている口金を用いた実施例1〜15では、いずれも比較例2に比べても同等以上の評価点であり、エッジ切れ抑制に対して効果があることが分かる。
【0036】
そして、実施例の内でも、ゴム溜まりの幅Cが10〜20mmであり、供給口の高さDが10〜15mmの場合(実施例5、6、8、9、11、12)、評価点が4点以上となり、特に顕著な効果が得られることが分かった。
【0037】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 口金(押出機用口金)
3 プリフォーマー
11、21 ダイプレート
12 受け金
13 三角形の傾斜面
16、33 吐出口
14 供給口
15、24 ゴム流路
17 供給口形成端面
18 吐出口形成端面
22 エッジ部分
23 ゴム溜まり
31 上型
32 下型
A、A’、B 頂点
a、C ゴム溜まりの幅
b ゴム溜まりの長さ
c エッジ部分からの距離
D 供給口の高さ
E 吐出口の高さ
t 口金の厚さ