特許第6797421号(P6797421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797421
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20201130BHJP
   G01N 23/2209 20180101ALI20201130BHJP
【FI】
   G01N23/223
   G01N23/2209
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-149950(P2018-149950)
(22)【出願日】2018年8月9日
(65)【公開番号】特開2020-26951(P2020-26951A)
(43)【公開日】2020年2月20日
【審査請求日】2019年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 康治郎
(72)【発明者】
【氏名】原 真也
(72)【発明者】
【氏名】松尾 尚
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−041909(JP,A)
【文献】 特開2005−351687(JP,A)
【文献】 特開平07−055734(JP,A)
【文献】 特許第2592723(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0122957(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
G01T 1/00−7/12
G01B 15/00−15/08
A61B 6/00−6/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に1次X線を照射するX線源と、
試料から発生した2次X線を分光する分光素子と、
その分光素子で分光された2次X線が入射されて、2次X線のエネルギーに応じた波高のパルスを強度に応じた数だけ発生させる検出器と、
その検出器に入射する2次X線の波長が変化するように前記分光素子と前記検出器を連動させる連動手段と、
前記検出器で発生したパルスを多数の波高範囲ごとに分別して計数することにより、波高に対する2次X線の強度の分布である微分曲線を出力する多重波高分析器と、
前記連動手段により波長が変化しながら前記検出器に入射する2次X線について、前記多重波高分析器が出力する微分曲線と、一次線である分析線についての所定の分析波高幅およびその分析波高幅よりも狭小な所定の狭小波高幅とに基づいて、前記連動手段による走査角度に対する2次X線の強度の分布である、分析波高幅プロファイルおよび狭小波高幅プロファイルを同時に取得する定性分析手段とを備え、
その定性分析手段が、前記分析波高幅プロファイルおよび前記狭小波高幅プロファイルについて分析線の同定を行い、前記分析波高幅プロファイルにおいて同定された分析線に前記狭小波高幅プロファイルにおいてのみ同定された分析線を追加して分析線の同定結果とする蛍光X線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光X線分析装置において、
前記分光素子が複数種類で、使用される分光素子が交換機構により切り替えられ、
前記定性分析手段が、前記分析波高幅プロファイルおよび前記狭小波高幅プロファイルについて高次線の同定を行い、
前記分析波高幅プロファイルおよび前記狭小波高幅プロファイルに基づく定量分析である半定量分析を行う半定量分析手段を備え、
その半定量分析手段が、
分析元素ごとに分析線を選択するにあたり、
前記分析波高幅プロファイルにおいて同定された分析線に対して妨害線となる高次線が同定されているか否かを判定し、
高次線が同定されていなければその分析線を選択し、
高次線が同定されていれば、その高次線を除去する分光素子によって分光された同じ分析線が前記分析波高幅プロファイルに含まれているか否かを判定し、
同じ分析線が含まれていれば、その分析線を選択し、
同じ分析線が含まれていなければ、線種の異なる分析線が前記分析波高幅プロファイルに含まれているか否かを判定し、
線種の異なる分析線が含まれていなければ、前記狭小波高幅プロファイルにおける検討中の分析線を選択し、
線種の異なる分析線が含まれていれば、その線種の異なる分析線に対して妨害線となる高次線が同定されているか否かを判定し、
高次線が同定されていなければその線種の異なる分析線を選択し、
高次線が同定されていれば、検討中の分析線および線種の異なる分析線のうち、高次線との理論走査角度差が大きい方の、前記狭小波高幅プロファイルにおける分析線を選択し、
選択した分析線の強度に基づいて半定量分析を行う蛍光X線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型の蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型の蛍光X線分析装置では、分光素子と検出器を連動させて、走査角度2θに対する2次X線の強度の分布である2θプロファイルを取得し、ピーク検索および分析線の同定により定性分析を行う。ここで、多くの分光素子は、ある波長のX線の一次回折による一次線と同時に、その波長の1/n(nは2以上の自然数)の波長のX線の高次回折(n次回折)による高次線(n次線)を分光し得る。したがって、2θプロファイルにおいて、ある元素の蛍光X線の一次線である分析線に対し、他の元素の蛍光X線の高次線が近接する走査角度に現れて妨害線となり、分析線の同定が困難となる場合がある。
【0003】
この場合、検出器で発生したパルスのうち所定の波高範囲(いわゆる窓の幅内)のものを選別する波高分析器において窓を適切に狭め、再度2θプロファイルを取得すれば、分析線の同定が可能となるが、分光素子と検出器を連動させての走査をやり直さなければならず、また、分析線の同定が可能となるように窓を適切に狭めることは、必ずしも容易でない。
【0004】
そこで、多重波高分析器を利用して、1回の走査で、一次線と高次線の2θプロファイルを別個に同時に取得し、分析線の同定を行う走査型の蛍光X線分析装置がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−41909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この装置で分析線を同定するためには、一次線と高次線の2θプロファイルに基づいて、一次線への高次線の重なりを評価するための解析処理を実行しなければならず、しかもその解析処理を実行するには、あらかじめ標準試料を実測して、一次線によるピーク強度と高次線によるピーク強度との比を求めておく必要がある。また、個々の分析試料に対して、標準試料の実測に基づく解析処理を適用しても、必ずしも一次線への高次線の重なりを正確に評価できるとはいえない。
【0007】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、迅速かつ正確に分析線を同定できる走査型の蛍光X線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の蛍光X線分析装置は、まず、試料に1次X線を照射するX線源と、試料から発生した2次X線を分光する分光素子と、その分光素子で分光された2次X線が入射されて、2次X線のエネルギーに応じた波高のパルスを強度に応じた数だけ発生させる検出器と、その検出器に入射する2次X線の波長が変化するように前記分光素子と前記検出器を連動させる連動手段とを備えている。つまり、走査型の蛍光X線分析装置である。
【0009】
本発明の蛍光X線分析装置は、さらに、前記検出器で発生したパルスを多数の波高範囲ごとに分別して計数することにより、波高に対する2次X線の強度の分布である微分曲線を出力する多重波高分析器と、前記連動手段により波長が変化しながら前記検出器に入射する2次X線について、前記多重波高分析器が出力する微分曲線と、一次線である分析線についての所定の分析波高幅およびその分析波高幅よりも狭小な所定の狭小波高幅とに基づいて、前記連動手段による走査角度に対する2次X線の強度の分布である、分析波高幅プロファイルおよび狭小波高幅プロファイルを同時に取得する定性分析手段とを備えている。
【0010】
そして、その定性分析手段が、前記分析波高幅プロファイルおよび前記狭小波高幅プロファイルについて分析線の同定を行い、前記分析波高幅プロファイルにおいて同定された分析線に前記狭小波高幅プロファイルにおいてのみ同定された分析線を追加して分析線の同定結果とする。
【0011】
本発明の蛍光X線分析装置によれば、多重波高分析器を利用する1回の走査で、2θプロファイルとして、走査角度において分析線に高次線が近接しない場合に適切な所定の分析波高幅による分析波高幅プロファイルと、走査角度において分析線に高次線が近接する場合に適切な所定の狭小波高幅による狭小波高幅プロファイルとが取得される。そして、分析波高幅プロファイルにおいて同定された分析線に狭小波高幅プロファイルにおいてのみ同定された分析線が自動的に追加されるので、迅速かつ正確に分析線を同定できる。
【0012】
本発明の蛍光X線分析装置においては、前記分光素子が複数種類で、使用される分光素子が交換機構により切り替えられ、前記定性分析手段が、前記分析波高幅プロファイルおよび前記狭小波高幅プロファイルについて高次線の同定を行い、前記分析波高幅プロファイルおよび前記狭小波高幅プロファイルに基づく定量分析である半定量分析を行う半定量分析手段を備え、その半定量分析手段が、以下のように動作することが好ましい。
【0013】
まず、分析元素ごとに分析線を選択するにあたり、前記分析波高幅プロファイルにおいて同定された分析線に対して妨害線となる高次線が同定されているか否かを判定する。そして、高次線が同定されていなければその分析線を選択し、高次線が同定されていれば、その高次線を除去する分光素子によって分光された同じ分析線が前記分析波高幅プロファイルに含まれているか否かを判定する。そして、同じ分析線が含まれていれば、その分析線を選択し、同じ分析線が含まれていなければ、線種の異なる分析線が前記分析波高幅プロファイルに含まれているか否かを判定する。
【0014】
そして、線種の異なる分析線が含まれていなければ、前記狭小波高幅プロファイルにおける検討中の分析線を選択し、線種の異なる分析線が含まれていれば、その線種の異なる分析線に対して妨害線となる高次線が同定されているか否かを判定する。そして、高次線が同定されていなければその線種の異なる分析線を選択し、高次線が同定されていれば、検討中の分析線および線種の異なる分析線のうち、高次線との理論走査角度差が大きい方の、前記狭小波高幅プロファイルにおける分析線を選択する。そして、以上の手順で選択した分析線の強度に基づいて半定量分析を行う。
【0015】
この好ましい構成の場合には、分析波高幅プロファイルに、高次線を除去する分光素子によって分光された分析線が含まれ、分析元素ごとに、分析波高幅プロファイルおよび狭小波高幅プロファイルに含まれる、使用される分光素子が相異なる分析線または線種が相異なる分析線のうち、高次線の重なりがないか最も少ない分析線が自動的に選択されるので、それらの選択された分析線の強度に基づいて、高次線の重なりについての補正を要することなく、十分正確に半定量分析を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略図である。
図2】同蛍光X線分析装置の動作を示すフローチャートである。
図3】同蛍光X線分析装置で取得された分析波高幅プロファイルの一例を示す図である。
図4】同蛍光X線分析装置で取得された狭小波高幅プロファイルの一例を示す図である。
図5】分析波高幅プロファイルにおいて同定された分析線に対して妨害線となる高次線が同定されている例を示す図である。
図6図5で同定されている高次線を除去する分光素子によって分光された図5と同じ分析線が分析波高幅プロファイルに含まれている例を示す図である。
図7】線種の異なる分析線が分析波高幅プロファイルに含まれており、その線種の異なる分析線に対して妨害線となる高次線が同定されている例を示す図である。
図8図7に対応する狭小波高幅プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態の蛍光X線分析装置について、図にしたがって説明する。図1に示すように、この蛍光X線分析装置は、走査型の蛍光X線分析装置であって、試料台2に載置された試料1に1次X線3を照射するX線管などのX線源4と、試料1から発生する蛍光X線などの2次X線5を分光する分光素子6(符号「6」は、後述する符号「6A」、「6B」、「6C」および「6D」の総称である)と、その分光素子6で分光された2次X線7が入射され、その強度を測定する検出器8と、前記分光素子6で分光される2次X線7の波長を変えながら、その分光された2次X線7が検出器8に入射するように、分光素子6と検出器8を連動させるゴニオメータなどの連動手段10とを備えている。
【0018】
すなわち、2次X線5がある入射角θで分光素子6へ入射すると、その2次X線5の延長線9と分光素子6で分光(回折)された2次X線7は入射角θの2倍の分光角2θをなすが、連動手段10は、分光角2θを変化させて分光される2次X線7の波長を変化させつつ、その分光された2次X線7が検出器8に入射し続けるように、後述する交換機構16で切り替えられて使用中の分光素子6を、分光素子6の表面の中心を通る紙面に垂直な軸Oを中心に回転させ、その回転角の2倍だけ、検出器8を、軸Oを中心に円12に沿って回転させる。
【0019】
また、この蛍光X線分析装置は、複数種類、例えば4種類の分光素子6A,6B,6C,6Dを備えており、使用される分光素子6は、4種類の分光素子6A,6B,6C,6Dが取り付けられた交換機構16が紙面に垂直な中心軸Pを中心にして回転することにより切り替えられる。4種類の分光素子6A,6B,6C,6Dは、PETH、Ge、LiF(200)およびRX25である。なお、分光素子6の種類によるが、前述したように、分光されて検出器8に同時に入射する2次X線7には、ある元素の蛍光X線の一次線である分析線だけでなく、他の元素の蛍光X線の高次線も含まれ得る。
【0020】
さらに、この蛍光X線分析装置は、以下の多重波高分析器13、定性分析手段14および半定量分析手段15を含む、コンピューターである制御装置11を備えている。多重波高分析器13は、検出器8で発生したパルスを多数の波高範囲ごとに分別して計数することにより、波高に対する2次X線7の強度の分布である微分曲線を出力する。
【0021】
定性分析手段14は、連動手段10により波長が変化しながら検出器8に入射する2次X線7について、多重波高分析器13が出力する微分曲線と、一次線である分析線についての所定の分析波高幅およびその分析波高幅よりも狭小な所定の狭小波高幅とに基づいて、連動手段10による走査角度2θ(分光角と同じで2θ角度ともいう)に対する2次X線7の強度の分布である、分析波高幅プロファイルおよび狭小波高幅プロファイルを同時に取得する。
【0022】
そして、定性分析手段14は、分析波高幅プロファイルおよび狭小波高幅プロファイルについて分析線の同定を行い、分析波高幅プロファイルにおいて同定された分析線に狭小波高幅プロファイルにおいてのみ同定された分析線を追加して分析線の同定結果とする。さらに、分析波高幅プロファイルおよび狭小波高幅プロファイルについて高次線の同定も行う。
【0023】
半定量分析手段15は、分析波高幅プロファイルおよび狭小波高幅プロファイルに基づく定量分析である半定量分析を行う。定性分析手段14および半定量分析手段15の動作について、図2のフローチャートにしたがって、以下に説明する。
【0024】
まず、ステップS1で、分析対象の試料1に対して連動手段10による走査を1回行い、波長が変化しながら検出器8に入射する2次X線7について、多重波高分析器13が時々刻々出力する微分曲線と、一次線である分析線についての所定の分析波高幅およびその分析波高幅よりも狭小な所定の狭小波高幅とに基づいて、2種類の2θプロファイルとして、分析波高幅プロファイルおよび狭小波高幅プロファイルを同時に取得する。
【0025】
ここで、所定の分析波高幅は、走査角度2θにおいて分析線に高次線が近接しない場合に適切な波高幅であって、例えば100Vから300Vまでの200V、所定の狭小波高幅は、走査角度2θにおいて分析線に高次線が近接する場合に適切な波高幅であって、例えば180Vから220Vまでの40Vである。試料としてモリブデン鉱石を例に取り、取得される分析波高幅プロファイルを図3に、狭小波高幅プロファイルを図4に示す。
【0026】
次に、ステップS2で、分析波高幅プロファイルについて、公知のピーク検索などにより、分析線および高次線の同定を行う。ここで、図3図8において、LGにおけるGはγを意味し、LBなどにおけるBはβを意味し、KA,KaなどにおけるA,aはαを意味し、2ndは二次を意味し、4thは四次を意味している。図3の分析波高幅プロファイルにおいては、走査角度2θにおいて分析線であるべきZn−Kα線に高次線であるMo−Kα−2nd線が近接するために、Zn−Kα線については、ピークが現れず同定されていない。
【0027】
次に、ステップS3で、狭小波高幅プロファイルについて、同様に公知のピーク検索などにより、分析線および高次線の同定を行う。図4の狭小波高幅プロファイルにおいては、図3の分析波高幅プロファイルと比べてX線強度は落ちるものの一次線に対する高次線の影響が相対的に小さくなるので、分析波高幅プロファイルでは同定されなかったZn−Kα線が分析線として同定されている。
【0028】
次に、ステップS4で、図3の分析波高幅プロファイルにおいて同定された分析線であるCu−Kα線、W−Lα線、Ga−Kα線などに、図4の狭小波高幅プロファイルにおいてのみ同定された分析線であるZn−Kα線を、図3に記載したように自動追加して、分析線の同定結果とする。なお、分析線の同定にあたっては、分析波高幅プロファイルおよび狭小波高幅プロファイルで検索されたピークについて、どの線種の分析線のピークか、分析線以外のピークかが判別できればよく、高次線の線種の判定つまり高次線の同定はしなくてもよい。
【0029】
このように、本発明の蛍光X線分析装置によれば、多重波高分析器13を利用する1回の走査で、2θプロファイルとして、走査角度2θにおいて分析線に高次線が近接しない場合に適切な所定の分析波高幅による分析波高幅プロファイル(例えば図3)と、走査角度2θにおいて分析線に高次線が近接する場合に適切な所定の狭小波高幅による狭小波高幅プロファイル(例えば図4)とが取得される。そして、分析波高幅プロファイルにおいて同定された分析線に狭小波高幅プロファイルにおいてのみ同定された分析線(例えば図4でのZn−Kα線)が自動的に追加されるので、定性分析において迅速かつ正確に分析線を同定できる。
【0030】
次に、定性分析で同定された分析線の中から半定量分析のために分析元素ごとに分析線を選択するにあたり、ステップS5で、分析波高幅プロファイルにおいて同定された分析線(ステップS4で追加されたものを含む)に対して妨害線となる高次線が同定されているか否かを判定する。分析線に対して妨害線となる高次線が同定されているとは、公知技術により分析線の強度に影響すると判定されるほど近接する走査角度に高次線が同定されていることであり、図2中では簡略に、分析線について高次線が同定されていると表現している。
【0031】
そして、高次線が同定されていなければ、ステップS6で、その分析線を選択する。一方、図5に示した、銅合金を試料とし、Geである分光素子6Bを使用した部分の分析波高幅プロファイルのように、分析線として同定されたP−Kα線に対して、妨害線となる高次線としてCu−Kα1−4th線が同定されていれば、ステップS7で、その高次線であるCu−Kα1−4th線を除去する分光素子によって分光された同じ分析線であるP−Kα線が分析波高幅プロファイルに含まれているか否かを判定する。
【0032】
そして、図6に示した分析波高幅プロファイルのように、Cu−Kα1−4th線を除去するRX25である分光素子6Dによって分光されたP−Kα線が含まれていれば、ステップS8で、図6に示した分析波高幅プロファイルのP−Kα線を分析線として選択する。この際、P−Kα線の強度は、公知の手法により、例えば図6中のP−Kα線のピーク強度からバックグラウンド強度としてBG1およびBG2の平均強度を差し引いた強度である。一方、高次線を除去する分光素子によって分光された同じ分析線が分析波高幅プロファイルに含まれていなければ、ステップS9で、線種の異なる分析線が分析波高幅プロファイルに含まれているか否かを判定する。
【0033】
そして、線種の異なる分析線が分析波高幅プロファイルに含まれていなければ、ステップS10で、狭小波高幅プロファイルにおける検討中の分析線を選択する。一方、線種の異なる分析線が分析波高幅プロファイルに含まれていれば、ステップS11で、その線種の異なる分析線に対して妨害線となる高次線が同定されているか否かを判定する。
【0034】
そして、分析波高幅プロファイルにおいて、その線種の異なる分析線に対して妨害線となる高次線が同定されていなければ、ステップS12で、その線種の異なる分析線を選択する。
【0035】
一方、分析波高幅プロファイルにおいて、その線種の異なる分析線に対して妨害線となる高次線が同定されていれば、例えば、モリブデンを主成分とする試料における図7の分析波高幅プロファイルのように、分析線であるRe−Lα線に対して妨害線となる高次線としてMo−Kα−2nd線が同定され、線種の異なる分析線であるRe−Lβ1線に対して妨害線となる高次線としてMo−Kβ−2nd線が同定されていれば、ステップS13で、検討中の分析線であるRe−Lα線および線種の異なる分析線であるRe−Lβ1線のうち、高次線との理論走査角度差が大きい方について、対応する図8に示した狭小波高幅プロファイルにおける分析線を選択する。この場合、Re−Lα線とMo−Kα−2nd線との理論走査角度差よりも、Re−Lβ1線とMo−Kβ−2nd線との理論走査角度差の方が大きいので、図8の狭小波高幅プロファイルにおけるRe−Lβ1線を分析線として選択する。
【0036】
そして、以上の手順で選択した分析線の強度に基づいて半定量分析を行う。このように、本実施形態の蛍光X線分析装置によれば、分析波高幅プロファイルに、高次線を除去する分光素子6Dによって分光された分析線が含まれ、分析元素ごとに、分析波高幅プロファイルおよび狭小波高幅プロファイルに含まれる、使用される分光素子が相異なる分析線または線種が相異なる分析線のうち、高次線の重なりがないか最も少ない分析線が自動的に選択されるので、それらの選択された分析線の強度に基づいて、高次線の重なりについての補正を要することなく、十分正確に半定量分析を行なうことができる。
【符号の説明】
【0037】
1 試料
3 1次X線
4 X線源
5 試料から発生した2次X線
6,6A,6B,6C,6D 分光素子
7 分光素子で分光された2次X線
8 検出器
10 連動手段
13 多重波高分析器
14 定性分析手段
15 半定量分析手段
16 交換機構
2θ 走査角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8