特許第6797511号(P6797511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6797511水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤、及びこれを利用した赤外線・紫外線遮蔽処理方法
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  • 特許6797511-水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤、及びこれを利用した赤外線・紫外線遮蔽処理方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797511
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤、及びこれを利用した赤外線・紫外線遮蔽処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20201130BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20201130BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20201130BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20201130BHJP
   C09D 5/32 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
   C09D175/04
   C09D5/02
   C09D7/65
   C09D7/61
   C09D5/32
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-117513(P2015-117513)
(22)【出願日】2015年6月10日
(65)【公開番号】特開2017-2182(P2017-2182A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年5月1日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593093696
【氏名又は名称】株式会社大建化学
(73)【特許権者】
【識別番号】711013128
【氏名又は名称】岡本 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 忠
(72)【発明者】
【氏名】岡本 浩司
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−074862(JP,A)
【文献】 特開2009−051981(JP,A)
【文献】 特開2013−087228(JP,A)
【文献】 特開2012−236871(JP,A)
【文献】 特開2013−053207(JP,A)
【文献】 特開平08−165444(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/033578(WO,A1)
【文献】 特開平06−088064(JP,A)
【文献】 米国特許第05891961(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 175/04
C09D 5/02
C09D 5/32
C09D 7/61
C09D 7/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被膜形成樹脂成分と、紫外線吸収剤と、赤外線吸収剤とを含有し、各成分の分散媒体として水を使用した水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤(シリコーンを含有するもの、または、透明性シリコン変性ウレタン樹脂エマルジョンを含有するものの、一方または両方に該当するものを除く)であって、
前記被膜形成樹脂成分が、ポリウレタン水性エマルジョン及び変性ポリウレタン水性エマルジョンのうち少なくとも一方の常温硬化型樹脂成分であり、
前記常温硬化型樹脂成分は、常温乾燥によって硬化剤を使用する必要なく被膜を形成する樹脂であり、
前記紫外線吸収剤が、前記被膜形成樹脂成分と相溶している紫外線吸収ポリマーであり、
前記被膜が、JIS A 5759に基づき測定した可視光透過率が77.8%以上85.5%以下となる透明性が維持されたものであり、
前記紫外線吸収ポリマーが、
ベンゾトリアゾール系単量体、ベンゾエート系単量体、ベンゾフェノン系単量体、トリアジン系単量体、及びシアノアクリレート系単量体の中から選ばれる少なくとも一種の単量体と、
アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、及びビニル系単量体の中から選ばれる少なくとも一種の単量体との共重合体であり、
前記赤外線吸収剤が、無機系赤外線吸収微粒子である、水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤。
【請求項2】
前記紫外線吸収ポリマーを、固形分比率で5〜40質量%含有する、請求項1に記載の水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤。
【請求項3】
前記無機系赤外線吸収微粒子を10〜30質量%含有する、請求項1または請求項2のいずれかに記載の水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤。
【請求項4】
前記無機系赤外線吸収微粒子が、水中に分散している水分散体の状態で添加されている、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤。
【請求項5】
ガラス基材の内面及び外面の少なくとも一方面に、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤を塗布し、硬化剤を使用せずに被膜を形成する、赤外線・紫外線遮蔽処理方法。
【請求項6】
有機系透明基材の内面及び外面の少なくとも一方面に、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤を塗布し、硬化剤を使用せずに被膜を形成する、赤外線・紫外線遮蔽処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線・紫外線遮蔽効果を有する水性コーティング剤と、これを利用した赤外線・紫外線遮蔽処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル、工場、及び住宅等の一般的な建造物においては、自然光を採光するために、主に窓ガラスが採用されている。窓ガラスから差し込む自然光は主として太陽光であるが、この太陽光に含まれる赤外線は、物質の温度を上昇させる働きを持つ。したがって、主に夏場において、ガラスを通じて太陽光が当たる室内等では、赤外線による温度上昇が原因で、室内を冷却する冷房の効果が阻害されてしまうことが知られている。また、冬場においては、室内で暖房器具から発せられる赤外線が窓ガラスを透過して屋外へと出て行ってしまい、暖房の効果も低減してしまう原因ともなっている。
【0003】
さらに、太陽光には紫外線も含まれるが、この紫外線は室内の調度品や装飾品(畳、木材、襖等)の劣化を促進し、人間の皮膚にも炎症を起こすことが知られている。したがって、採光という目的を達成するため透過性を維持しつつ、窓ガラスには赤外線・紫外線を遮蔽できる効果を持たせることが望ましい。
【0004】
そこで近年では、赤外線及び紫外線を遮ることのできるフィルムやコーティング剤によって窓ガラスの表面を被覆し、赤外線や紫外線から室内を遮蔽しようとしている。例えば、特許文献1においては、赤外線を吸収する錫ドープ酸化インジウムや、紫外線を吸収する酸化チタン微粒子等を被膜成分と共に有機溶剤(例えばイソプロピルアルコールや混合キシレン)に加えて混合し、ガラスへのコーティング剤としたものが記載されている。特許文献2においては、赤外線を吸収するインジウム錫酸化物を含有し、赤外線吸収能を持つシリコーン塗料(溶媒としてイソプロピルアルコールを使用)が示されている。特許文献3においては、水性エマルジョン中に赤外線を吸収する錫ドープ酸化インジウム、紫外線を吸収する微粒子状の紫外線吸収剤が含まれた、水性の近赤外線・紫外線遮蔽塗料が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−221049号公報
【特許文献2】特開2014−34627号公報
【特許文献3】特許2013−87228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1のコーティング剤は、紫外線・赤外線を吸収し、遮断することが可能である。しかし、有機溶剤を使用しているため、VOC(揮発性有機化合物)が発生して臭気を発してしまう。さらに、使用者がVOCに過度に曝されると、健康上の問題を引き起こす可能性もある。
【0007】
また、特許文献2のシリコーン塗料も、有機溶剤を使っている点で特許文献1と同じ課題を有する。しかも、シリコーンを使用しているため、温度が高い場所で使用すると、シリコーンが不規則な箇所で硬化してしまい、塗膜に白濁が生じてしまうという問題があった。
【0008】
一方で、特許文献3では有機溶剤を使用していないため、臭気等の問題はない。しかし、紫外線吸収微粒子を使用している。これでは、塗料の塗付後、時間の経過と共に紫外線吸収微粒子が被膜表面に浮き出してしまい、粉を吹いたようにざらついて見た目も触感も変わってしまう、いわゆるブリードアウトを起こしてしまうという問題があった。しかも、硬化助剤を使用しているため、保存安定性や取り扱いにも難がある。
【0009】
そこで、本発明の目的とするところは、上記課題を解決するものであって、紫外線・赤外線の遮蔽効果を有しつつ、VOCが発生せず、かつブリードアウトや白濁の問題も生じない、水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤と、これを利用した赤外線・紫外線遮蔽処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのための手段として、本発明は、被膜形成樹脂成分と、紫外線吸収剤と、赤外線吸収剤とを含有する水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤である。当該被膜形成樹脂成分はポリウレタン水性エマルジョン及び変性ポリウレタン水性エマルジョンのうち少なくとも一方であり、前記紫外線吸収剤は紫外線吸収ポリマーであり、前記赤外線吸収剤は無機系赤外線吸収微粒子である。
【0011】
前記紫外線吸収ポリマーは、ベンゾトリアゾール系単量体、ベンゾエート系単量体、ベンゾフェノン系単量体、トリアジン系単量体、及びシアノアクリレート系単量体の中から選ばれる少なくともいずれか一種の単量体と、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、及びビニル系単量体の中から選ばれる少なくとも一種の単量体との共重合体とすることが好ましい。
【0012】
前記紫外線吸収ポリマーの含有量は、固形分比率で5〜40質量%が好ましい。前記無機系赤外線吸収剤微粒子の含有量は、10〜30質量%が好ましい。
【0013】
無機系赤外線吸収微粒子は、水中に分散している水分散体の状態で添加することが望ましい。微粒子状の無機系赤外線吸収剤を、水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤内に均一に分散することができ、赤外線及び紫外線の遮蔽(吸収)効果が高まるためである。
【0014】
上記水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤を、窓ガラス等のガラス基材のほか、透明樹脂パネルや透明樹脂フィルム等の有機系透明基材の内面及び外面の少なくとも一方面に塗布し、硬化剤を使用せずに被膜を形成することで、赤外線・紫外線遮蔽処理を施す方法も提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤は、有意な赤外線及び紫外線遮蔽機能を有する。そのため、これを窓ガラスや透明樹脂パネル等へ塗布し、その被膜を形成することで、断熱効果及び家具等の劣化防止効果を得ることができる。具体的には、夏場には日射中の赤外線を吸収することによって、室内への熱侵入を防ぐ。冬場には、屋内からの暖房器具の赤外線による熱を屋外に逃がさない。同時に、紫外線が遮蔽されることで、室内調度品や内装品の変色を防止できると共に、皮膚への紫外線の影響も低減させることができる。
【0016】
そのうえで、本発明の水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤は、各成分の分散媒体として水を使用した水性コーティング剤なので、VOCが発生しない。したがって、作業環境や人体への悪影響は無い。また、紫外線吸収剤として、被膜形成樹脂成分に対して相溶性を有する紫外線吸収ポリマーを使用しているため、ブリードアウトが発生しない。且つ、形成される被膜は無機基材及び有機基材共に密着性が良好であり、耐候性や耐摩傷性も向上する。また、シリコーンを含有していないため、高温雰囲気下における白濁といった問題も生じない。
【0017】
また、常温硬化型(一液硬化型)なので硬化剤を使用する必要は無く、保存安定性や施工性に有利である。しかも、例え既設の窓ガラス等へも、そのままローラー、刷毛、吹き付け等の一般的な塗布方法で塗布するだけで、一般家庭においても簡単に被膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1の水性赤外線・紫外線コーティング剤をフロートガラスに塗布した際の分光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤>
本発明の水性赤外線・紫外線遮蔽コーティング剤(以下、単にコーティング剤と称すことがある)は、被膜形成樹脂成分と、紫外線吸収剤として紫外線吸収ポリマーと、赤外線吸収剤として無機系赤外線吸収微粒子とを含有することを基本構成とする。
【0020】
≪被膜形成樹脂成分≫
被膜形成樹脂成分は、コーティング剤のベース材料である。被膜形成樹脂成分としては、ポリウレタン水性エマルジョン及び変性ポリウレタン水性エマルジョンの少なくとも一方、又は双方を使用する。ポリウレタン水性エマルジョン及び変性ポリウレタン水性エマルジョンは、常温硬化型の樹脂成分である。したがって、コーティング剤に硬化剤を添加する必要は無く、常温乾燥によって被膜を形成できる。また、ポリウレタン水性エマルジョン及び変性ポリウレタン水性エマルジョンは、硬化後に透明被膜を形成する。しかも、無機系のガラス基材だけではなく、樹脂パネルや樹脂フィルムといった種々の有機系基材への密着性にも優れているため、塗布対象が広く汎用性が高い。なお、被膜形成樹脂成分としてポリウレタン水性エマルジョン及び変性ポリウレタン水性エマルジョン以外の樹脂成分を使用した場合、後述の紫外線吸収剤や赤外線吸収剤との相性が悪い。そのため、形成される被膜の密着性や透明性に問題が生じるばかりか、白濁やブリードアウトが生じる可能性がある。
【0021】
変性ポリウレタン水性エマルジョンとしては、アクリル変性ポリウレタン水性エマルジョン、ポリカーボネート変性ポリウレタン水性エマルジョン、エステル変性ポリウレタン水性エマルジョン、エーテル変性ポリウレタンエマルジョン、エポキシ変性ポリウレタンエマルジョン等を挙げることができる。これらの変性ポリウレタン水性エマルジョンは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混用することもできる。
【0022】
このようなポリウレタン水性エマルジョン及び変性ポリウレタン水性エマルジョンの市販品としては、例えば、GSIクレオス社製の「TURBOSET 2025」、アデカ社製の「アデカボンタイターシリーズ(品番:HUX−232,HUX−320,HUX−380,HUX−401,HUX−522など)」、楠本化成社製の「NEOREZシリーズ(品番:R−972,R−967,R−600,R−9603など)」、第一工業製薬社製の「スーパーフレックスシリーズ(品番:500,550,610,650など)」、及び大日本インキ化学工業社製の「ハイドランシリーズ(品番:HW−311,HW−350,HW−150など)」等が挙げられる。
【0023】
ポリウレタン水性エマルジョン及び変性ポリウレタン水性エマルジョンは、樹脂固形分換算で、コーティング剤中に30質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上含有されていればよい。樹脂固形分換算で30質量%未満では、形成される被膜の密着性や耐擦傷性が不足する虞があるほか、他の成分の含有量が相対的に多くなって透明性が低下する虞もある。一方、ポリウレタン水性エマルジョン及び変性ポリウレタン水性エマルジョンの含有量の上限は、特に制限されない。
【0024】
≪紫外線吸収ポリマー≫
紫外線吸収ポリマーは分散媒を水とし、ポリマー分子を構成する共重合モノマーセグメントの一つとして、紫外線吸収性(紫外線吸収基)を有する単量体を用いている。これにより、紫外線吸収ポリマー全体として紫外線吸収性能を有する。また、紫外線吸収ポリマーは、被膜形成樹脂成分との相溶性を有する。したがって、コーティング剤中において紫外線吸収ポリマーは被膜形成樹脂成分と相溶している。これにより、従来のように紫外線吸収微粒子を使用した場合のブリードアウトを避けることができる。且つ、形成される被膜の密着性や、耐候性及び耐擦傷性の向上にも寄与する。
【0025】
紫外線吸収性を有する単量体としては、ベンゾトリアゾール系単量体、ベンゾエート系単量体、ベンゾフェノン系単量体、トリアジン系単量体、及びシアノアクリレート系単量体の中から選ばれる少なくとも一種の単量体とする。一方、当該紫外線吸収性を有する単量体と共重合するその他の単量体としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、及びビニル系単量体の中から選ばれる少なくとも一種の単量体とすることができる。このような紫外線吸収ポリマーの市販品としては、例えば新中村化学工業社製の「ニューコートシリーズ(ニューコートUVA−101,UVA−102,UVA−103,UVA−104,UVA−204W等)」、一方社油脂工業(株)製の「ULS−700、ULS−1700等」などが挙げられる。
【0026】
紫外線吸収ポリマー中、紫外線吸収性を有する単量体の構成比は5〜60質量%が好ましく、より好ましくは20〜50質量%である。紫外線吸収性を有する単量体の構成比が5質量%未満では、紫外線吸収性を有意に発現し難い。これを補うためにコーティング剤への紫外線吸収ポリマーの配合量を多くすると、形成される被膜において後述の悪影響を及ぼす。一方、紫外線吸収性を有する単量体の構成比が60質量%を超えると、被膜形成樹脂成分への相溶性が低下し、形成される被膜の密着性等が悪化する虞がある。
【0027】
コーティング剤中における紫外線吸収ポリマーの含有量は、固形分(ポリマー分)で3〜40質量%が好ましく、5〜35質量%がより好ましい。紫外線吸収ポリマーの含有量が3質量%未満では、被膜の紫外線吸収性能が不足する虞がある。一方、40質量%を超えると、他の成分の相対的な含有量が低下して、被膜の密着性や赤外線吸収性能が低下する虞がある。なお、コーティング剤を調整する際は、水分散状態の紫外線吸収ポリマーとして、被膜形成樹脂成分100重量部に対して10〜100質量部程度を目安として配合すればよい。
【0028】
≪無機系赤外線吸収微粒子≫
無機系赤外線吸収微粒子(以下、単に赤外線吸収微粒子と称す)としては、例えば、アンチモンドープ酸化錫微粒子、アンチモンドープ酸化亜鉛微粒子、及びインジウムドープ酸化錫微粒子を挙げることができる。これらの赤外線吸収微粒子は、1種のみを単独で使用することもできるし、2種以上を混用することもできる。
【0029】
赤外線吸収微粒子は、被膜形成樹脂成分に対して相溶性が無いため、コーティング剤中に分散している。そこで、形成される被膜の透明性(可視光線透過率)を損なわないために、できるだめ粒径が小さいことが好ましい。具体的には、メジアン径(50%積算径)が400nm以下が好ましく、より好ましくは350nm以下である。赤外線吸収微粒子の粒径の下限は、特に制限されない。
【0030】
一方、赤外線吸収微粒子の粒径が小さいほど、コーティング剤へ添加した際に凝集し易く、均一分散性が低下する。そこで、赤外線吸収微粒子は、予め水中に分散された水分散体の状態で添加することが好ましい。これにより、赤外線吸収微粒子がコーティング剤中に均一に分散し、得られる被膜の赤外線吸収性能や密着性等が向上する。このような赤外線吸収微粒子水分散体の市販品としては、例えば三菱マテリアル社製の「透明導電性分散
(品番:TDL−S)」や、日産化学社製の「セルナックス(品番:CX−Z330H)」等が挙げられる。
【0031】
コーティング剤中における赤外線吸収微粒子の含有量は、10〜30質量%が好ましく、15〜25質量%がより好ましい。赤外線吸収微粒子の含有量が10質量%未満では、被膜の赤外線吸収性能が不足する虞がある。一方、30質量%を超えると、被膜の透明性や密着性等が低下する虞がある。なお、コーティング剤を調整する際は、水分散体として被膜形成樹脂成分100重量部に対して10〜50質量部程度を目安として配合すればよい。
【0032】
≪その他の成分≫
なお、形成される被膜の透明性や密着性等に悪影響を及ぼさず、特にブリードアウトも生じない範囲の極微量であれば、コーティング剤へ予備的に紫外線吸収微粒子を添加してもよい。紫外線吸収微粒子としては、ガリウムドープ酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化チタン等の金属酸化物微粒子を挙げることができる。この場合も、均一分散性を向上させるため、予め水中に分散している水分散体の状態で配合する。紫外線吸収微粒子水分散体の市販品としては、BYK社製の「NANOBYK(品番:NANOBYK-3810、NANOBYK-3820、NANOBYK-3840など)」、ハクスイテック社製「パゼット(品番:CK、GK、GK-40、23-K)」などが挙げられる。
【0033】
また、本発明の作用効果を阻害しない範囲で、増粘剤、レベリング剤、界面活性剤、消泡剤、着色剤、酸化防止剤、造膜助剤等の添加剤を、必要に応じて添加することもできる。但し、シリコーンは添加しない。使用環境によっては、被膜が白濁する虞があるからである。
【0034】
<適用対象>
コーティング剤の適用対象としては、典型的には窓ガラス等のガラス基材が挙げられる。ガラス基材としては、一般的な無機ガラスはもちろん、有機ガラスにも同様に適用できる。本発明のコーティング剤は、無機系基材のみならず有機系基材に対しても良好な密着性を有するからである。そのため、例えばアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂等からなる透明樹脂パネルにも適用可能である。透明樹脂パネルとしては、建造物における採光用のパネルのほか、サンバイザーや眼鏡等の日用品も挙げられる。さらに、例えばPETフィルム等のポリエステルフィルムや、アクリルフィルム等の透明樹脂フィルムにも適用可能である。透明樹脂フィルムとしては、窓ガラスや透明樹脂パネルの表面に貼着された各種透明樹脂フィルムのほか、ビニール傘等の日用品も挙げられる。
【0035】
コーティング剤を硬化させて形成される被膜は、透明性(可視光線透過率)が高く、適用対象である基材の透明性を担保することができる。適用対象は、透明性を有する限り、有色透明と無色透明とを問わない。また、コーティング剤は、建造物等に既設の基材に適用することもできるし、建造物等へ設置する前の製造工場にて適用してもよい。
【0036】
<被膜形成方法>
コーティング剤は、適用対象へ塗布し、硬化剤を使用せずにそのまま常温乾燥(自然乾燥)にて被膜を形成することができる。温風やヒータ熱等を使用することで、硬化速度を短縮することもできる。コーティング剤の塗布方法は特に限定されないが、ローラー塗布、刷毛塗り、スポンジ塗布、噴霧、流延法など、一般家庭でも比較的容易に塗布できる方法を採用することが好ましい。塗布面は、適用対象である基材の一方面のみでもよいし、一方面及び他方面の双方でもよい。形成される被膜は、無機系基材及び有機系基材に対して密着性が良好で、耐擦傷性に優れるため、窓拭き等の一般的な清掃作業によって傷付いたり剥がれたりすることはない。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれに限られることはない。
<実施例1>
実施例1では、無機系の赤外線吸収微粒子としてアンチモンドープ酸化亜鉛微粒子ゾル(日産化学工業社製「セルナックス」(品番:CX−Z330H 固形分:30%))を30質量部、被膜形成樹脂成分としてエステル変性ポリウレタン水性エマルジョン(GSIクレオス社製「TURBOSET」(品番:2025 樹脂固形分約38%))を70質量部、紫外線吸収剤として紫外線吸収ポリマー(新中村化学社製「UVA−204W」(ポリマー分約30%)を10質量部混合し、15分間撹拌した。その後、得られた撹拌混合液に、消泡剤(BYKケミー社製「BYK−1610」)を0.2質量部、レベリング剤(ネオス社製「フタージェント」(品番:100C))を0.1質量部、及び増粘剤(アデカ社製「アデカノール」(品番:UH−756VF))を0.8質量部添加し、さらに15分撹拌した。
【0038】
以上のように調整した実施例1のコーティング剤を、市販の4インチ無泡ローラー毛丈6mmを用いて4mm厚の板ガラス上に塗布し、1週間自然乾燥させて被膜を形成し、試験片とした。
【0039】
<実施例2>
実施例2では、無機系の赤外線吸収微粒子としてアンチモンドープ酸化錫微粒子水分散液(三菱マテリアル社製「TDL−S」(固形分約18%))を40質量部、被膜形成樹脂成分としてポリウレタン水性エマルジョン(アデカ社製「アデカボンタイター」(品番:HUX−522 樹脂固形分約30%))を60質量部、紫外線吸収剤として紫外線吸収ポリマー(新中村化学社製「UVA−204W」)を10質量部混合し、15分間撹拌した。その後、得られた撹拌混合液に、消泡剤(BYKケミー社製「BYK−1610」)を0.2質量部、レベリング剤(ネオス社製「フタージェント」(品番:100C))を0.1質量部、及び増増粘剤(アデカ社製「アデカノール」(品番:UH−756VF))を0.8質量部添加し、さらに15分撹拌した。得られた実施例2のコーティング剤を、実施例1と同様にして被膜を形成し、試験片とした。
【0040】
<実施例3>
実施例3では、無機系の赤外線吸収微粒子としてアンチモンドープ酸化錫微粒子水分散液(三菱マテリアル社製「TDL−S」)を40質量部、被膜形成樹脂成分としてポリウレタン水性エマルジョン(アデカ社製「アデカボンタイター」(品番:HUX−522))を60質量部、紫外線吸収剤として紫外線吸収ポリマー(新中村化学社製「UVA−204W」)を50質量部混合し、15分間撹拌した。その後、得られた撹拌混合液に、消泡剤(BYKケミー社製「BYK−1610」)を0.2質量部、レベリング剤(ネオス社製「フタージェント」(品番:100C))を0.1質量部、及び増増粘剤(アデカ社製「アデカノール」(品番:UH−756VF))を0.8質量部添加し、さらに15分撹拌した。得られた実施例3のコーティング剤を、実施例1と同様にして被膜を形成し、試験片とした。
【0041】
<実施例4>
実施例1のコーティング剤を、市販の4インチ無泡ローラー毛丈6mmを用いて2mm厚のアクリル板上に塗布し、1週間自然乾燥させて被膜を形成し、試験片とした。
【0042】
<比較例1>
比較例1では、無機系の赤外線吸収微粒子としてアンチモンドープ酸化亜鉛微粒子ゾル(日産化学工業社製「セルナックス」(品番:CX−Z330H))を30質量部、被膜形成樹脂成分としてアクリル水性エマルジョン(高圧ガス社製「ぺガール」(品番:756 樹脂固形分約45%))を70質量部、紫外線吸収剤として紫外線吸収ポリマー(新中村化学社製「UVA−240W」)を10質量部混合し、15分間撹拌した。その後、得られた撹拌混合液に、消泡剤(BYKケミー社製「BYK−1610」)を0.2質量部、レベリング剤(ネオス社製「フタージェント」(品番:100C))を0.1質量部、及び増粘剤(アデカ社製「アデカノール」(品番:UH−756VF))を0.8質量部添加し、さらに15分撹拌した。得られた比較例1のコーティング剤を、実施例1と同様にして被膜を形成し、試験片とした。
【0043】
<比較例2>
比較例2では、無機系の赤外線吸収剤としてアンチモンドープ酸化亜鉛微粒子ゾル(日産化学工業社製「セルナックス」(品番:CX−Z330H))を30質量部、被膜形成樹脂成分としてエステル変性ポリウレタン水性エマルジョン(GSIクレオス社製「TURBOSET」(品番:2025))を70質量部、紫外線吸収剤として無機系紫外線吸収剤(BYK社製「BYKNANO」(品番:3840))を2質量部混合し、15分間撹拌した。その後、得られた撹拌混合液に、消泡剤(BYKケミー社製「BYK−1610」)を0.2質量部、レベリング剤(ネオス社製「フタージェント」(品番:100C))を0.1質量部、及び増粘剤(アデカ社製「アデカノール」(品番:UH−756VF))を0.8質量部添加し、さらに15分撹拌した。得られた比較例2のコーティング剤を、実施例1と同様にして被膜を形成し、試験片とした。
※有機基材に適用した実施例もあると好ましいです。
【0044】
上記で得られた各試験片の被膜について、各種物性を下記の方法および基準で評価した。その結果を、各コーティング剤の組成と共に表1に示す。
【0045】
<透明性>
目視により、作成したコーティング膜の透明性の評価を行った。その際の評価基準は、次の通りである。
○:透明性が維持された ×:白濁した
【0046】
<耐候性(耐湿潤冷熱繰り返し試験)>
JISK 5600 7−4に基づき、小型低温恒湿機(SH−642)を用いて、あいち産業科学技術センターにて400時間の促進耐候性試験(耐湿潤冷熱繰り返し試験)を行った。
湿潤状態:50±1℃、95%RH、18時間
低温状態:−20±2℃、3時間
標準状態:23±2℃、3時間
高温状態:50±2℃ 3時間のサイクル試験を30回行った。
また、その際の評価基準は次の通りである。
○:塗膜の膨れ、剥がれは見られなかった ×:塗膜の膨れ、剥がれが見られた
【0047】
<VOC(ホルムアルデヒド放散量測定)>
1平方メートルあたり40gの塗布量において、JIS A 1901(2009)の小型チャンバー法により(一財)塗料検査協会で測定を行った。
【0048】
【表1】
【0049】
また、各試験片の可視光透過率、紫外線透過率、及び赤外線透過率を、JIS A 5759に基づき測定した。その結果を表2に示す。なお、実施例1については、その分光スペクトルも図1に示す。
【表2】
【0050】
表1の結果から、実施例1〜4においては、被膜の透明性及び耐候性が良好であり、VOCであるホルムアルデヒドの発生もなかった。また、表2の結果から、実施例1〜4においては、良好な可視光透過率を保ちながらも、紫外線及び赤外線に関しては透過率が大幅に下がっており、赤外線・紫外線吸収性能に優れていることが確認された。一方で、表1,2の結果から、比較例1は被膜形成樹脂成分がポリウレタン水性エマルジョン又は変性ポリウレタン水性エマルジョンではなく、アクリル水性エマルジョンであったため、透明性が損なわれ、耐候性試験においても膨れ、剥がれが見られた。また、比較例2は、紫外線吸収剤として紫外線吸収ポリマーでない、従来の紫外線吸収微粒子を用いたため、透明性が損なわれ、耐候試験においても膨れ、剥がれが見られた。
図1