特許第6797539号(P6797539)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797539
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】異物検出装置および異物検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/18 20180101AFI20201130BHJP
   G01N 23/04 20180101ALI20201130BHJP
【FI】
   G01N23/18
   G01N23/04
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-65496(P2016-65496)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-181161(P2017-181161A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】302046001
【氏名又は名称】アンリツインフィビス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140501
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 格
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/111728(WO,A1)
【文献】 特開2010−091483(JP,A)
【文献】 特開平09−113631(JP,A)
【文献】 特開2002−148214(JP,A)
【文献】 特開2003−288853(JP,A)
【文献】 特開2007−256096(JP,A)
【文献】 特開2017−181306(JP,A)
【文献】 特開2015−158407(JP,A)
【文献】 特開2011−024773(JP,A)
【文献】 特開2013−088143(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0133563(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物が通過する通過路にX線を出射するX線発生部(22)と、
前記X線発生部から前記通過路に出射されて被検査物を透過したX線を受ける位置で、被検査物の通過方向と交差する方向に並ぶように配置され、それぞれがX線を受けて電気信号に変換する複数のX線センサ(31〜31)と、
前記X線発生部と前記複数のX線センサとの間を被検査物が通過している間に前記複数のX線センサからそれぞれ出力される信号を所定期間ずつ区切って所定の信号処理を行い、被検査物の通過方向と前記X線センサの並び方向とで決まる2次元の位置の情報と、該位置毎の信号処理結果からなる被検査物の透過画像データを生成する透過画像データ生成手段(40)と、
前記透過画像データ生成手段によって生成された透過画像データに基づいて、被検査物内の異物の有無を判定する判定手段(50)とを有する異物検出装置において、
前記X線センサは、X線の光子が入力される毎に該光子のエネルギーに対応した波高値のパルス信号を出力する光子検出型であって、
前記透過画像データ生成手段は、
前記各X線センサについて、該X線センサから前記所定期間内に出力されるパルス信号の波高値が、予め所定範囲内を複数に区分けした領域のいずれに入るかを判定し、前記所定期間内のパルス信号入力数を前記領域毎に累積し、該領域毎の累積結果を用いて、X線透過エネルギーが異なる複数の透過画像データを生成するように構成され、
前記判定手段は、
前記透過画像データ生成手段で得られる複数の透過画像データに対するサブトラクション処理を含む所定の画像処理を行なうことで、被検査物内の異物の有無を判定するように構成されており、
さらに、
前記X線発生部が出射するX線に照射される位置に進入する前の被検査物のX線透過方向の厚さを検出する厚さ検出手段(60)と、
前記厚さ検出手段によって検出された被検査物の厚さに基づいて、該被検査物を透過して前記X線センサに入射されて出力される前記所定期間内の前記パルス信号入力数が所定の下限値と上限値により設定された適正範囲に入るように前記X線発生部が出射するX線の線量を可変するX線線量可変手段(70)とを設けたことを特徴とする異物検出装置。
【請求項2】
前記適正範囲の前記下限値は、1つの前記X線センサが前記所定期間内に出力することができる規格上の最大パルス数の4割であり、
前記適正範囲の前記上限値は、前記最大パルス数の6割であることを特徴とする請求項1記載の異物検出装置。
【請求項3】
X線発生部(22)から被検査物が通過する通過路にX線を出射する段階と、
前記通過路に出射されて被検査物を透過したX線を、被検査物の通過方向と交差する方向に並んだ複数のX線センサ(31〜31)で受けて電気信号に変換する段階と、
前記X線発生部と前記複数のX線センサとの間を被検査物が通過している間に前記複数のX線センサからそれぞれ出力される信号を所定期間ずつ区切って所定の信号処理を行い、被検査物の通過方向と前記X線センサの並び方向とで決まる2次元の位置の情報と、該位置毎の信号処理結果からなる被検査物の透過画像データを生成する段階と、
前記生成された透過画像データに基づいて、被検査物内の異物の有無を判定する段階とを含む異物検出方法において、
前記X線センサとして、X線の光子が入力される毎に、該光子のエネルギーに対応した波高値のパルス信号を出力する光子検出型を用い、
前記透過画像データを生成する段階では、
前記各X線センサについて、該X線センサから前記所定期間内に出力されるパルス信号の波高値が、予め所定範囲内を複数に区分けした領域のいずれに入るかを判定し、前記所定期間内のパルス信号入力数を前記領域毎に累積し、該領域毎の累積結果を用いて、X線透過エネルギーが異なる複数の透過画像データを生成し、
前記被検査物内の異物の有無を判定する段階では、
前記生成された複数の透過画像データに対してサブトラクション処理を含む所定の画像処理を行なうことで、被検査物内の異物の有無を判定し、
さらに、前記X線の照射位置に被検査物が進入する前に、その被検査物のX線透過方向の厚さを検出し、該検出した厚さに応じて、前記X線センサに入射されて出力される前記所定期間内の前記パルス信号入力数が所定の下限値と上限値により設定された適正範囲となるように前記X線発生部から出射されるX線の線量を可変することを特徴とする異物検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を用いて被検査物内の異物検出を行なう技術に関する。
【背景技術】
【0002】
食品等の製造を行なう工場では、製品に金属やプラスチック等の異物が混入していないか否かを異物検出装置によって調べている。
【0003】
この異物検出装置として、従来では、コンベア等によって所定方向に搬送される被検査物の通過路にX線を出射し、被検査物を透過したX線の強さをセンサ(複数のX線センサが通過方向と直交する方向に並んで一体化されたラインセンサ)で検出し、その検出信号が異物の存在によって局所的に変化することを利用して検出する方式のものが用いられている。
【0004】
しかし、上記したように被検査物を透過したX線の強度をセンサで検出する方式では、X線が透過する方向の厚さや材質が変化する物品による透過率の違いにより、異物を正確に検出できない場合があった。
【0005】
これを解決する技術として、例えば特許文献1には、被検査物を透過するX線のエネルギーを異ならせて得られる二つの透過X線データに対するサブトラクション(画像データの差分処理)等の処理を行なうことで、異物の検出精度を高めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−318943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1では、単一のX線源から出力されて被検査物を透過したX線を、被検査物の搬送方向に並んで配置され、X線に対するエネルギー感度が異なる二つの検出器(ラインセンサ)で検出することで、二つの透過X線データを得るようにしている。
【0008】
このため、必然的に一方の検出器に入射するX線が被検査物内を透過する経路と、他方の検出器に入射するX線が被検査物内を透過する経路が一致せず、その影響で、被検査物の異物を正しく認識できなくなることが考えられる。また、二つの検出器のセンサ素子の特性差により、正確な異物検出を行なえないことも考えられる。
【0009】
なお、特許文献1には、X線エネルギーが異なる2つのX線源を用いることも記載されているが、その場合、二つのX線が互いに干渉しないようにX線源およびそれに対応する二つの検出器(ラインセンサ)の間隔を広くとらなければならず、装置全体が大きくなるとともに、その間で搬送中の被検査物の姿勢変化が起きやすくなり、しかも、前記同様に二つの検出器を用いるため、異物の検出精度が低下する恐れがある。
【0010】
これを解決する方法として、X線管等から発生されるX線の光子のエネルギーにばらつきがあることに着目し、X線の光子が入射される毎にそのエネルギーに対応した波高値のパルス信号を出力する光子検出型のX線センサを用い、一定時間内にX線センサから出力されたパルス信号をその波高値の違いにより複数の領域に分類し、その領域毎のパルス信号の数を累積することで、X線エネルギーが異なる場合の透過画像データを得ることが考えられる。この方式であれば、複数のX線センサを被検査物の通過方向と交差する方向に1列に並べておけばよく、上記問題を解消できる。
【0011】
ここで、被検査物を透過するX線のエネルギーは、被検査物の材質とX線透過方向の厚さによって大きく変化する。被検査物の材質をほぼ均一とし、X線透過方向の厚さがほぼ一定であれば、その厚さに合わせてX線の平均的な出射エネルギーを一定に調整しておけば、X線センサに入射するX線の線量を適正範囲に維持できる。
【0012】
しかし、厚さの異なる被検査物が順不同に検査ラインに搬入されるような場合がある。この場合、例えば、厚さが大の被測定物に合わせてX線の出射エネルギーを決めると、厚さが小の被検査物に対してX線の線量が過大となり、逆に、厚さが小の被検査物に合わせてX線の出射エネルギーを決めると、厚さが大の被検査物を透過するX線の線量が過小となる。
【0013】
このように被検査物を透過したX線の線量が過大になると、上記した光子検出型のX線センサでは、光子の入力頻度が過大となって、例えば図5のように、X線センサから出力されるパルス信号P、P同士やパルス信号P、P同士が重なってしまい、二つのパルス信号に対してそれぞれ一つのピーク値(波高値H、H)しか得られない現象が発生する。この現象を一般的にパイルアップ現象と呼び、この現象が高い確率で発生すると、領域ごとの正しい計数結果が得られなくなり、その結果、異物の検出を正確に行なえなくなる。
【0014】
また、被検査物を透過したX線の線量が過小になると、パルス信号の累積数が極端に少なくなってノイズ成分との区別がつかなくなり、透過画像データのS/Nが低下してしまう。
【0015】
本発明は、上記課題を解決し、光子検出型のX線センサを用いながら、被検査物の厚さの違いによって生じるパイルアップ現象やS/N低下の影響を抑制して、高精度に異物検出が行なえる異物検出装置および異物検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の異物検出装置は、
被検査物が通過する通過路にX線を出射するX線発生部(22)と、
前記X線発生部から前記通過路に出射されて被検査物を透過したX線を受ける位置で、被検査物の通過方向と交差する方向に並ぶように配置され、それぞれがX線を受けて電気信号に変換する複数のX線センサ(31〜31)と、
前記X線発生部と前記複数のX線センサとの間を被検査物が通過している間に前記複数のX線センサからそれぞれ出力される信号を所定期間ずつ区切って所定の信号処理を行い、被検査物の通過方向と前記X線センサの並び方向とで決まる2次元の位置の情報と、該位置毎の信号処理結果からなる被検査物の透過画像データを生成する透過画像データ生成手段(40)と、
前記透過画像データ生成手段によって生成された透過画像データに基づいて、被検査物内の異物の有無を判定する判定手段(50)とを有する異物検出装置において、
前記X線センサは、X線の光子が入力される毎に該光子のエネルギーに対応した波高値のパルス信号を出力する光子検出型であって、
前記透過画像データ生成手段は、
前記各X線センサについて、該X線センサから前記所定期間内に出力されるパルス信号の波高値が、予め所定範囲内を複数に区分けした領域のいずれに入るかを判定し、前記所定期間内のパルス信号入力数を前記領域毎に累積し、該領域毎の累積結果を用いて、X線透過エネルギーが異なる複数の透過画像データを生成するように構成され、
前記判定手段は、
前記透過画像データ生成手段で得られる複数の透過画像データに対するサブトラクション処理を含む所定の画像処理を行なうことで、被検査物内の異物の有無を判定するように構成されており、
さらに、
前記X線発生部が出射するX線に照射される位置に進入する前の被検査物のX線透過方向の厚さを検出する厚さ検出手段(60)と、
前記厚さ検出手段によって検出された被検査物の厚さに基づいて、該被検査物を透過して前記X線センサに入射されて出力される前記所定期間内の前記パルス信号入力数が所定の下限値と上限値により設定された適正範囲に入るように前記X線発生部が出射するX線の線量を可変するX線線量可変手段(70)とを設けたことを特徴としている。
【0017】
また、本発明の請求項2の異物検出装置は、請求項1記載の異物検出装置において、
前記適正範囲の前記下限値は、1つの前記X線センサが前記所定期間内に出力することができる規格上の最大パルス数の4割であり、
前記適正範囲の前記上限値は、前記最大パルス数の6割であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項3の異物検出方法は、
X線発生部(22)から被検査物が通過する通過路にX線を出射する段階と、
前記通過路に出射されて被検査物を透過したX線を、被検査物の通過方向と交差する方向に並んだ複数のX線センサ(31〜31)で受けて電気信号に変換する段階と、
前記X線発生部と前記複数のX線センサとの間を被検査物が通過している間に前記複数のX線センサからそれぞれ出力される信号を所定期間ずつ区切って所定の信号処理を行い、被検査物の通過方向と前記X線センサの並び方向とで決まる2次元の位置の情報と、該位置毎の信号処理結果からなる被検査物の透過画像データを生成する段階と、
前記生成された透過画像データに基づいて、被検査物内の異物の有無を判定する段階とを含む異物検出方法において、
前記X線センサとして、X線の光子が入力される毎に、該光子のエネルギーに対応した波高値のパルス信号を出力する光子検出型を用い、
前記透過画像データを生成する段階では、
前記各X線センサについて、該X線センサから前記所定期間内に出力されるパルス信号の波高値が、予め所定範囲内を複数に区分けした領域のいずれに入るかを判定し、前記所定期間内のパルス信号入力数を前記領域毎に累積し、該領域毎の累積結果を用いて、X線透過エネルギーが異なる複数の透過画像データを生成し、
前記被検査物内の異物の有無を判定する段階では、
前記生成された複数の透過画像データに対してサブトラクション処理を含む所定の画像処理を行なうことで、被検査物内の異物の有無を判定し、
さらに、前記X線の照射位置に被検査物が進入する前に、その被検査物のX線透過方向の厚さを検出し、該検出した厚さに応じて、前記X線センサに入射されて出力される前記所定期間内の前記パルス信号入力数が所定の下限値と上限値により設定された適正範囲となるように前記X線発生部から出射されるX線の線量を可変することを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
このように、本発明では、X線センサとして、X線の光子が入力される毎に、その光子のエネルギーに対応した波高値のパルス信号を出力する光子検出型を用いるとともに、X線の照射位置に進入する被検査物のX線透過方向の厚さを検出し、その厚さに応じて、被検査物を透過してX線センサに入射されるX線の線量が適正範囲となるように可変した状態で、その被検査物をX線の照射位置に進入させ、各X線センサについて、そのX線センサから所定期間内に出力されるパルス信号の波高値が、予め所定範囲内を複数に区分けした領域のいずれに入るかを判定し、所定期間内のパルス信号入力数を領域毎に累積し、その領域毎の累積結果を用いて、X線透過エネルギーが異なる複数の透過画像データを生成する。そして、これらの透過画像データに対してサブトラクション処理を含む所定の画像処理を行なうことで、被検査物の異物の有無を判定している。
【0020】
このため、被検査物の通過方向と交差する方向に一列に並んだ複数のX線センサを用いながら、複数のX線透過エネルギーが異なる複数の透過画像データを生成することができ、従来のように複数のラインセンサを被検査物の通過方向に並べる方法や、複数のX線源を用いる方法に比べて、異物の検出精度を高くすることができ、装置全体を小型化できる。
【0021】
また、X線が照射される位置に進入する前に検出された被検査物の厚さに応じて、X線発生部から出射されるX線の線量を可変させているので、X線センサに入射するX線の線量を適正範囲に維持でき、パイルアップ現象やS/N低下による精度低下が抑制された透過画像データを得ることができ、厚さの異なる被検査物が順不同に搬入する場合であっても異物検出を正確に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態の構成図
図2】X線センサから出力されるパルス信号と領域との関係を示す図
図3】波高値の領域毎に得られる3種類の透過画像データの例を示す図
図4】厚さが異なる被検査物が搬入した場合にX線発生部22から出射されるX線の線量の変化例を示す図
図5】X線センサから出力されるパルス信号が重なった場合の波形を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した異物検出装置20の全体構成を示している。
【0024】
この異物検出装置20は、搬送装置21、X線発生部22、複数NのX線センサ31〜31、透過画像データ生成手段40、判定手段50、厚さ検出手段60およびX線線量可変手段70を有している。
【0025】
搬送装置21は、被検査物Wを所定方向(図では紙面に直交する方向)に搬送するためのものであり、一般的には、コンベアのように被検査物Wを一定速度で水平に搬送するものが使用されるが、必ずしも動力源をもつ搬送装置を用いる必要はなく、被検査物の重さを利用して傾斜路を滑走させる方式や、上方から落下させる方式であってもよい。
【0026】
X線発生部22は、搬送装置21によって所定方向に搬送される被検査物Wが通過する通過路にX線を出射する。この実施形態では、搬送装置21によって搬送される被検査物Wの上方からその搬送路の幅方向に拡がるX線を出射するものとするが、X線の出射方向はこれに限らず、被検査物Wの側方から側面方向へ出射してもよい。
【0027】
X線発生部22のX線源には、加熱したフィラメントから放出される電子を加速して陽極のターゲットに衝突させてX線を放出させる熱陰極X線管や、格子制御型熱陰極X線管が用いられ、その他にX線管を駆動するために必要な電源が含まれている。
【0028】
X線発生部22が出射するX線の線量(単位時間当りのエネルギーの総和)は、単位時間当りにX線管のフィラメントから陽極のターゲットに到達する電子の数(管電流)や管電圧に対応しており、管電流は、電子の放出量を決めるフィラメント電流や、電子の流れを制御する格子電圧等に依存する。このX線発生部22が出射するX線の線量は、X線線量可変手段70によって可変されるが、それについては後述する。
【0029】
複数NのX線センサ31〜31は、それぞれがX線を受けて電気信号に変換するものであり、X線発生部22から被検査物Wの通過路に出射されて被検査物Wを透過したX線を受ける位置で、被検査物Wの通過方向(紙面と直交する方向)と交差(この例では直交)する方向に隙間がほとんど無い状態で一列に並んでいる。
【0030】
実際の装置としては、複数NのX線センサ31〜31は、それぞれが一体的に連結された一本のラインセンサ30で構成され、搬送装置21の搬送路の下面側に配置されている。ここで、例えばX線センサの幅を1mm、X線センサ同士の隙間を幅に対して無視できる程小さいとし、被検査物Wを搬送する搬送路の幅を200mmとすれば、概略200個のX線センサを有するラインセンサを用いればよい。
【0031】
従来の異物検出装置で用いられるX線センサは、一般的に入射したX線により可視光を発生してこれをフォトセンサで受けて電気信号に変換するシンチレータ型フォトセンサであって可視光のエネルギーを積分した値が画像の濃淡を表すが、この異物検出装置20が用いるX線センサ31〜31は、被検査物Wを透過したX線の光子が入力される毎に、その光子のエネルギーに対応した波高値のパルス信号を出力する光子検出型(CdTeセンサ)であり、単位時間当りに出力するパルス数が透過画像の濃淡を表すことになる。
【0032】
透過画像データ生成手段40は、X線発生部22とX線センサ31〜31の間を被検査物Wが通過している間にX線センサ31〜31からそれぞれ出力される信号をスキャン時間ずつ区切って所定の信号処理を行い、被検査物Wの通過方向とX線センサの並び方向とで決まる2次元の位置の情報と、その位置毎の信号処理結果からなる被検査物の透過画像データを生成する。
【0033】
前記したように、光子検出型のX線センサ31〜31は、一つの光子の入力に対して、その光子のエネルギーに対応した波高値のパルス信号を一つ出力するが、X線発生部22から出射されるX線の光子のエネルギーは、その管電流が一定であってもばらつきがあるため、それに応じて、図2に示すように、各X線センサから出力されるパルス信号P、P、P、…の波高値H、H、H、…にばらつきが生じる。
【0034】
言い換えれば、エネルギーの異なるX線が混在していることになり、スキャン時間内に一つのX線センサから出力されるパルス信号の波高値H、H、H、…が、予め波高値の出力範囲全体を複数M(図2ではM=4)に区分けした領域R〜Rのいずれに入るかを判定し、そのスキャン時間内のパルス信号入力数を領域毎に累積すれば、そのスキャン時間に対応する部位についてX線透過エネルギーの範囲が異なる複数の透過画像データを生成することができる。
【0035】
上記X線透過エネルギーの範囲が異なる複数の透過画像データを生成するために、透過画像データ生成手段40は、各X線センサ31〜31の出力信号を、それぞれA/D変換器41〜41によってデジタルのデータ列に変換し、波高値検出手段42〜42に入力する。
【0036】
各波高値検出手段42〜42は、入力されるデータ列からパルス信号の波高値を検出するためのものであり、例えば入力されるデータ列に対して微分処理を行い、微分値(信号の傾き)が所定以上の正の値から所定以下の負の値に切り換わるときのゼロクロスタイミングを検出し、そのゼロクロスタイミングにおけるデータ値をパルス信号の波高値として検出し、それぞれ領域判定手段43〜43に出力する。
【0037】
領域判定手段43〜43は、前記した波高値の出力範囲を複数Mの領域R〜Rに区分けする境界値領域L〜LM−1と、波高値検出手段42〜42で検出された波高値とを比較し、その波高値がいずれの領域に入るかを判定し、波高値が入る領域を表す領域識別信号を領域別累積手段44〜44に出力する。
【0038】
各領域別累積手段44〜44は、スキャン時間内に領域判定手段43〜43からそれぞれ出力される領域識別信号を受け、同一領域を示す領域識別信号の入力数をそれぞれ累積して、スキャン時間内における領域毎の累積数を求めて順次出力する。
【0039】
この領域識別信号の累積数は、スキャン時間内に1つのX線センサから出力されるパルス信号のうち、その波高値が入る領域が同じパルス信号同士の累積数であり、上記各領域別累積手段44〜44からスキャン時間毎に出力される領域識別信号の累積数を、透過画像データメモリ45に、並列的に且つ時系列に記憶することで、領域ごとの被検査物に対するX線透過画像データが得られる。
【0040】
簡単な例として、スキャン時間を3単位、X線センサ数Nを3、波高値の領域数Mを3とし、パルス信号の累積数をA(波高値の領域の順位、スキャン時間の順位,センサの並び順位)で表すと、最初のスキャン時間T1内で、1番目のX線センサ31が出力したパルス信号のうち、その波高値が領域Rに入るものの累積数をA(1,1,1)、領域Rに入るものの累積数をA(2,1,1)、領域Rに入るもの累積数をA(3,1,1)とする。
【0041】
また、同じスキャン時間T1内で2番目のX線センサ31が出力したパルス信号のうち、その波高値が領域Rに入るものの累積数をA(1,1,2)、領域Rに入るものの累積数をA(2,1,2)、領域Rに入るものの累積数をA(3,1,2)とする。
【0042】
また、同じスキャン時間T1内で3番目のX線センサ31が出力したパルス信号のうち、その波高値が領域Rに入るものの累積数をA(1,1,3)、領域Rに入るものの累積数をA(2,1,3)、領域Rに入るものの累積数をA(3,1,3)とする。
【0043】
同様に、次のスキャン時間T2内で、1番目のX線センサ31が出力したパルス信号のうち、その波高値が領域Rに入るものの累積数をA(1,2,1)、領域Rに入るものの累積数をA(2,2,1)、領域Rに入るものの累積数をA(3,2,1)とし、2番目のX線センサ31が出力したパルス信号のうち、その波高値が領域Rに入るものの累積数をA(1,2,2)、領域Rに入るものの累積数をA(2,2,2)、領域Rに入るものの累積数をA(3,2,2)とし、3番目のX線センサ31が出力したパルス信号のうち、その波高値が領域Rに入るものの累積数をA(1,2,3)、領域Rに入るものの累積数をA(2,2,3)、領域Rに入るものの累積数をA(3,2,3)とする。
【0044】
さらに、次のスキャン時間T3内で、1番目のX線センサ31が出力したパルス信号のうち、その波高値が領域Rに入るものの累積数をA(1,3,1)、領域Rに入るものの累積数をA(2,3,1)、領域Rに入るものの累積数をA(3,3,1)とし、2番目のX線センサ31が出力したパルス信号のうち、その波高値が領域Rに入るもの累積数をA(1,3,2)、領域Rに入るものの累積数をA(2,3,2)、領域Rに入るものの累積数をA(3,3,2)とし、3番目のX線センサ31が出力したパルス信号のうち、その波高値が領域Rに入るものの累積数をA(1,3,3)、領域Rに入るものの累積数をA(2,3,3)、領域Rに入るものの累積数をA(3,3,3)とする。
【0045】
このようにして得られたデータから、領域Rについて得られた9つの累積数を、図3の(a)のように、横方向をスキャン時間の順、縦方向をセンサの並び順となるように3行3列に配置すれば、領域Rに対応したエネルギー範囲のX線による被検査物の9つの部位の透過画像データが得られる。
【0046】
同様に、領域Rについて得られた9つの累積数を、図3の(b)のように3行3列に配置すれば、領域Rに対応したエネルギー範囲のX線による被検査物の透過画像データが得られ、領域Rについて得られた9つの累積数を、図3の(c)のように3行3列に配置すれば、領域Rに対応したエネルギー範囲のX線による被検査物の透過画像データが得られる。
【0047】
実際には、異物検査に必要なスキャン数は、物品の搬送方向の長さを搬送速度で除して得られる搬送時間(例えば0.5秒)をスキャン時間(例えば1ミリ秒)で除算した値(例えば500)となり、センサの並び方向の分割数はX線センサの数N(例えば200)に対応している。
【0048】
このようにして、波高値の領域にそれぞれ対応したエネルギー範囲毎の透過画像データが得られれば、判定手段50により、それら複数の透過画像データに対して従来から行なわれているサブトラクション処理を含む所定の画像処理を行なうことで、被検査物の異物の有無を判定することができる。
【0049】
なお、上記の波高値の領域の区分けの仕方は任意であり、一つの例としては、X線発生部22から出射されるX線の光子のエネルギーの最大値(X線管の場合、電子の加速電圧に依存する理論値)に対してX線センサが出力するパルス信号の波高値と、所定の基準値(例えば0)との間を複数に等分すればよい。また、領域数も2つ以上で任意であり、最初に多くの領域で透過画像データを生成しておき、その被検査物について異物の検出に最適な透過画像データの組合せを見つけ、その最適な透過画像データによるサブトラクション処理を含む所定の画像処理を行なってもよい。
【0050】
具体的には、例えば、初期の領域数を10として、それぞれの領域で透過画像データを生成しておき、エネルギーの大きい方から数えて1番目の領域を前述の領域Rに割当て、3番目の領域を前述の領域Rに割当て、……というように、初期の領域から最終的な領域に選択的に割り当てて、この割り当てられた領域の透過画像データを複数用いて、所定の画像処理を行なってもよい。また、エネルギーの大きい方から数えて1番目と2番目の領域の透過画像データを合成して、これを前述の領域Rの透過画像データとし、3番目と4番目の領域の透過画像データを合成して、これを前述の領域Rの透過画像データとし、……というように初期の複数の領域の透過画像データを合成して最終的な1つの領域の透過画像データとし、その合成された透過画像データを複数用いる、あるいは合成された透過画像データと、それを含まない初期の領域の透過画像データとを用いて所定の画像処理を行なってもよい。
【0051】
上記具体例では、初期の領域の数だけ透過画像データを生成しておき、異物の検出に最適な透過画像データの組合せに応じて、領域の割当てや透過画像データの合成を行なうようにしているが、被検査物に対して異物検出に最適な透過画像データの組合せが既知の場合には、割当てられる領域についての透過画像データのみを生成すればよく、また、複数の透過画像データを合成する代わりに、複数の領域の領域識別信号の累積数を加算して、一つの透過画像データを生成してもよい。これにより、透過画像データの記憶領域を節約することができる。
【0052】
ここで、サブトラクション処理について簡単に説明すると、同一部位について異なるエネルギーによるX線透過データが得られた場合、その差分処理を行なうと、その部位の厚さの影響が除去され、材質(透過率)の影響だけが現れ、X線エネルギーの違いに対する被検査物自体の材質の透過率変化と、異物の材質の透過率変化の差が顕著化する。これにより、異物に対する検出感度が高くなる。判定手段50では、この処理の他に、ノイズの除去等のために各種のフィルタ処理などを行い、異物の検出をより高い精度で行なっている。
【0053】
上記方法で得られた複数の透過画像データは、物品の通過方向と直交する方向に一列に並んだ複数のX線センサの出力から求めているので、二つのラインセンサを用いる従来方式に比べて、格段に精度の高い透過画像データが得られ、それにより、異物検出を正確に行なうことができ、しかも小型に構成できる。
【0054】
なお、判定手段50の判定結果(異物の有無を示す信号)は、図示しない後続の選別装置に送られ、異物有りと判定された物品が、良品の経路から排除されることになる。
【0055】
上記のように光子検出型のX線センサを用いた場合、前記したように、X線センサに入射されるX線の線量(単位時間当りに出力される光子数)が多すぎるとパイルアップ現象が高い確率で発生して、領域ごとの正しい計数結果が得られなくなり、X線の線量が少なすぎるとノイズとの区別がつかなくなり、やはり正しい透過画像データが得られない。
【0056】
被検査物を透過するX線の線量は、被検査物の材質が同じであれば、その透過方向の厚さが大きい程少なくなるので、一般的には、被検査物の厚さに応じてX線発生部22から出射されるX線の線量を設定しているが、材質は同じでも厚さが均一でない被検査物が順不同に検査ラインに搬入するような場合には対応できない。
【0057】
これを解決するために、実施形態の異物検出装置20では、厚さ検出手段60とX線線量可変手段70が設けられている。
【0058】
厚さ検出手段60は、搬送装置21上のX線照射位置の手前で、被検査物WのX線透過方向の厚さを検出する。この厚さ検出の方法は任意であるが、例えば光学的な構成例で言えば、厚さ検出領域に進入した被検査物の側面の一方側から光を照射し、その光を反対側に縦方向に並んだ複数の受光器で受け、被検査物によって光の入射が遮られた受光器の高さにより検出する。また、光学反射型のセンサを通過路(搬送面)の上方に配置して、レーザー光を出射し、被検査物の上面で反射した反射光を受光して変位を測定し、センサから通過路(搬送面)までの距離とセンサから被検査物の上面までの距離の差を被検査物の厚さとして検出する方式であってもよい。
【0059】
ここで検出される厚さとは、厚さ検出領域を通過する際に得られる被検査物の厚さの最大値、平均値等のいずれであってもよい。
【0060】
厚さ検出手段60によって検出された厚さHを受けたX線線量可変手段70は、その厚さHの被検査物を透過してX線センサに入射するX線の線量が、前記パイルアップ現象の発生確率が低く、またパルス信号累積数がノイズレベルより十分大きい適正範囲内に入るように、X線発生部22から出射されるX線の線量(具体的には、X線発生部22のX線管の管電流や管電圧を制御する制御値)を可変させる。
【0061】
この可変処理の方法は種々あるが、例えば、被検査物の種類(材質)および厚さの区分毎に予めサンプル品によって最適なX線の線量を与える制御値を記憶しておき、厚さ検出手段60で検出された厚さHが含まれる区分に対応した制御値を読み出してX線発生部22に設定する方法や、厚さと最適制御値との関係を示す式に、厚さ検出手段60で検出された厚さHを代入して制御値を算出し、これをX線発生部22に設定する方法等が採用できる。
【0062】
図4は、厚さ検出手段60によって検出される被検査物の厚さと、X線発生部22が出射するX線の線量の関係を示すものであり、図4の(a)のように、被検査物W1が厚さ検出領域に入ってその厚さH1(ここでは厚さ一定とするが、前記したように、通過方向に沿って得られる厚さのうちの最大値や平均値等であってもよい)が検出されると、それから所定時間Tdが経過したタイミング(被検査物W1がX線照射位置の直前に達し、且つスキャン時間が開始されるタイミング)に図4の(b)のように、X線発生部22のX線の線量が厚さH1に対応した適正な線量A1に切り換わる。これによって、厚さH1の被検査物W1についての透過画像データが正確に得られ、異物検出が正しく行なわれる。
【0063】
そして、この被検査物W1の後に、隙間を開けて次の被検査物W2が厚さ検出領域に入り、その厚さH2が検出されると、前記同様に、この被検査物W2がX線照射位置に進入するタイミングに合わせて、X線発生部22のX線の線量が厚さH2に対応した適正な線量A2に切り換わる。これによって、厚さH2の被検査物W2についての透過画像データが正確に得られ、異物検出が正しく行なわれる。なお、X線線量可変手段70は、厚さ検出手段60で検出される厚さが所定値以下となる範囲Bを被検査物の隙間と判断して、被検査物を区別している。
【0064】
なお、X線センサに入射されるX線の線量の適正範囲としては、例えば、1つのX線センサがスキャン時間内に出力することができる規格上の最大パルス数(例えば、スキャン時間1ミリ秒で1000個)に対して設定された範囲(例えば、400〜600)とすることができる。この場合、実際に被検査物について得られる透過画像データのうち、1つのX線センサがスキャン時間内に出力したパルス信号の全領域分の累積数を上記適正範囲となるように線量を設定していることになるが、全領域分でなく、一部の領域の累積数を対象とする場合、それに合わせて適正範囲を変更すればよい。
【0065】
このように、被検査物の厚さを検出し、その厚さに応じてX線センサに入射されるX線の線量が適正範囲に入るように、X線発生部22が出射するX線の線量を可変することで、厚さの異なる被検査物が順不同に搬入される場合であっても、それぞれの被検査物に対する異物検出を正確に行なうことができる。
【0066】
なお、前記した透過画像データの保存形式は任意であるが、波高値の領域ごとに異なる色を割当て、その領域に割り当てた色の輝度を、パルス信号の累積数に対応させることで、透過画像を観察する場合に観測者が分かりやすくなる。
【0067】
例えば、波高値の領域を3つとし、各領域に赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色を割当て、それぞれの色の輝度値にパルス累積数を割当てる。ただし、各色の輝度に割り当てる値は例えば8ビットで表せる範囲(0〜255)とし、実際のパルス累積数の範囲が8ビットで表せる範囲内に収まるように正規化(圧縮処理または伸長処理)する。この場合、3つの透過画像データを1つのRGBカラー画像データとして保存することができる。このため、透過画像データの記憶領域を節約することができる。また、データ形式が、一般的なRGBカラー画像データであるため、画像処理や画像表示が容易に行なえる。
【0068】
また、このように各領域に異なる色を割当て、その色の輝度をパルス信号の累積数で表すデータ保存形式を用いれば、各領域の透過画像をそれぞれ異なる色の画像で表すことができ、それらを図示しない表示装置に並列的に並べて表示する場合の識別性が非常に高くなる。
【符号の説明】
【0069】
20……異物検出装置、21……搬送装置、22……X線発生部、30……ラインセンサ、31〜31……X線センサ、40……透過画像データ生成手段、41〜41……A/D変換器、42〜42……波高値検出手段、43〜43……領域判定手段、44〜44……領域別累積手段、45……透過画像データメモリ、50……判定手段、60……厚さ検出手段、70……X線線量可変手段
図1
図2
図3
図4
図5