(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転軸となる芯金ローラと、前記芯金ローラの上に形成された弾性層と、を有し、前記弾性層の上に前記抵抗発熱体および前記導電層が形成された前記基層が配置されており、前記基層および前記抵抗発熱体の上に離型層を有するローラ部材の形態であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の加熱回転体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような定着部材における弾性層や離型層からなる絶縁層の強度は十分ではないため、機外から侵入した異物や記録材との摺擦により傷がつき、その傷が抵抗発熱層にまで及ぶ可能性がある。さらには、ユーザーのジャム処理などにより、例えばピンセットやカッターなどで抵抗発熱層に傷をつけてしまう可能性がある。そのような場合、傷の端部周辺で局所的に電流密度が高まり、その部分が異常発熱してしまう可能性がある。
【0006】
図12の参考図で説明する。この図は、定着部材として抵抗発熱層を有する円筒状の定着フィルム1を用いた定着装置において、抵抗発熱層に傷であるクラックCが生じた時の、抵抗発熱層内を流れる電流がクラック端部付近に集中する様子を示した模式図である。定着フィルム1の両端部に周方向に環状の導電層1bを設けて、そこに給電用の給電部材3a、3bを当接し、交流電源10により通電を行うことによって定着フィルム1を発熱させている。
【0007】
4は回転駆動される加圧回転体としての加圧ローラであり、定着フィルム1と共にニップ部(定着ニップ部)Nを形成する。定着フィルム1は加圧ローラ4の回転に従動して回転する。ニップ部Nに未定着トナー像を担持した記録材が導入されて挟持搬送される。これにより、トナー像が熱と圧力により記録材上に固着像として定着される。
【0008】
I1〜I4はある時点における、定着フィルム1の抵抗発熱層内を流れる電流を表す。導電層1bを設けることで、定着フィルム1の抵抗発熱層内を電流が長手方向に均一に流れ、均一に発熱させることができる。
【0009】
しかし、抵抗発熱層にクラックCが生じると、クラックCにより電流I2、I3の進行が遮られ、電流I2、I3がクラック部Cの端部周辺に回り込む。そのため、その端部周辺の領域A、領域Bにおける電流密度が一点に集中して高まり、そこで局所的な異常発熱を起こす。このような異常発熱をした部分は、通常の部分より温度が著しく高くなるため、定着フィルム1に熱的なダメージを与えたり、画像不良を引き起こしたりする場合がある。
【0010】
このクラック発生時の異常発熱を防止するために、抵抗発熱層として
図13の参考図に示したような形態をとることが考えられる。即ち、定着フィルム1の円筒状の基層1aの上に、周方向に分割した複数の抵抗発熱体1eを基層1aの長手沿って形成するのである。導電層1b、1bは基層1aの両端部に周方向にわたって形成されてそれぞれ上記のように分割されている抵抗発熱体1eと電気的に導通している。このように、抵抗発熱層を周方向に分割した複数の抵抗発熱体1eの形態にすることで、周方向にクラックが発生しても、部分的に電流密度が集中しない。
【0011】
抵抗発熱体1eは、円筒状の絶縁性の基層1aの上に印刷して形成されている。周方向に分割した抵抗発熱体1eの本数が多いほど、1本あたりに流れる電流量が少なくなるため、部分的な電流密度の集中を防止することができる。しかしながら、周方向に細かく分割した複数の抵抗発熱体1eを印刷で形成する場合には、印刷の継ぎ目部において抵抗発熱体1eが乱れやすいという課題が発生する。
【0012】
例えば、スクリーン印刷で抵抗発熱体1eを印刷する場合を説明する。
図14の(a)の参考図に示すように、円筒状に製造された基層(定着フィルム基層)1aを、スクリーン版8上を図中矢印方向に回転させながら移動させると同時に、発熱体ペーストHが供給されたスキージ9を図中矢印方向に動かす。これにより、発熱体ペーストHがスクリーン版8のメッシュMを通過して、基層1a上に抵抗発熱体1eのパターンが形成される。即ち、抵抗発熱体1eが印刷される。
【0013】
図14の(b)は、スクリーン版8および基層1aを真上からみた平面模式図を示している。スクリーン版8のメッシュ1b’が導電層1bを形成し、メッシュ1e’が抵抗発熱体1eを形成する。抵抗発熱体1eの中でも最初に印刷する抵抗発熱体をh1とし、最後に印刷する抵抗発熱体をh2とした場合、スクリーン版8のメッシュh1’が抵抗発熱体h1を形成し、メッシュh2’が抵抗発熱体h2を形成することになる。
【0014】
このスクリーン印刷工程において、基層1aが1周して最後の抵抗発熱体h2を印刷する部分を印刷の継ぎ目部と呼ぶ。印刷の継ぎ目部において、抵抗発熱体同士の間隔が狭い場合には、最初に印刷した抵抗発熱体h1がスクリーン版8に接触してしまう。このとき、印刷された抵抗発熱体は焼成を行っていないため、乾燥しないまま、スクリーン版8に接触することになり、スクリーン版8に発熱体ペーストの一部が付着して、
図15に示すように最初に印刷した抵抗発熱体h1にかすれが発生してしまう。
【0015】
このかすれた抵抗発熱体h1は、発熱体ペーストが部分的に欠落して抵抗が高くなっており、断線している場合もある。したがって、かすれた抵抗発熱体h1には通電される電流量が少ない、もしくは通電されないため発熱量が不足しており、定着フィルム1の回転周期の定着不良が発生するという課題があった。
【0016】
なお、スクリーン印刷以外にも、フレキソ、インクジェットなど様々な印刷方式があるが、無端状の基層1aに周方向に細かく分割した複数の抵抗発熱体1eを印刷する場合には、同様の課題が発生する。
【0017】
そこで、本発明は、印刷された抵抗発熱層を備える加熱回転体に関して、印刷継ぎ目部の熱量不足による加熱不良を防止できる加熱回転体およびそれを用いた画像加熱定着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するための本発明に係る加熱回転体の他の代表的な構成は、円筒状の基層と、前記基層の上に基層周方向に間隔をあけて且つ基層の長手方向に平行に印刷されて形成されている前記基層よりも体積抵抗率が小さい複数本の抵抗発熱体と、前記基層の両端部に基層周方向にわたって形成されてそれぞれ前記複数本の抵抗発熱体と電気的に導通している前記基層よりも体積抵抗率が小さい導電層と、を有し、隣り合う抵抗発熱体の間隔が他よりも大きい箇所が存在し、その間隔が大きい箇所を形成する2本の抵抗発熱体のうち少なくとも一方の抵抗発熱体の基層周方向における幅が他の抵抗発熱体の幅よりも大き
く、前記2本の抵抗発熱体が印刷の継ぎ目部における最初に印刷した抵抗発熱体と最後に印刷した抵抗発熱体であることを特徴とする。
【0020】
また、上記の目的を達成するための本発明に係る画像加熱装置の代表的な構成は、前記構成の加熱回転体と、前記加熱回転体に給電するための給電部材と、前記加熱回転体と共に画像を担持した記録材を挟持搬送するニップ部を形成するニップ形成部材と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、印刷された抵抗発熱層を備える加熱回転体に関して、印刷継ぎ目部の熱量不足による加熱不良を防止できる加熱回転体およびそれを用いた画像加熱装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に従う加熱回転体およびそれを用いた画像加熱装置の実施例を説明する。なお、以下の加熱回転体および装置構成の説明において、長手方向とは加熱回転体の母線方向を指す。周方向とは加熱回転体の回転方向を指す。厚み方向とは加熱回転体の径方向を指す。
【0024】
《実施例1》
本実施例1について、
図1から
図7を用いて説明する。本実施例では、まず、加熱回転体としての定着フィルム(フィルム部材)1の構成を説明し、その後にその定着フィルム1を用いた定着装置(画像加熱装置)の説明を行う。
【0025】
[定着フィルム]
本実施例の定着フィルム1の構成を
図1から
図3を用いて説明する。定着フィルム1は、円筒状の基層1aと、この基層1aの上に基層周方向に間隔をあけて且つ基層1aの長手方向に平行に印刷されて形成されている基層1aよりも体積抵抗率が小さい複数本の抵抗発熱体1eを有する。また、基層1aの両端部に基層周方向にわたって形成されてそれぞれ上記の複数本の抵抗発熱体1eと電気的に導通している基層1aよりも体積抵抗率が小さい導電層1b、1bを有する。そして、上記の複数本の抵抗発熱体1eのうち2本の抵抗発熱体h1、h2の少なくとも一部が基層周方向で重なっていることを特徴とする。
【0026】
図1は定着フィルム1を正面方向からみた抵抗発熱体1eの配置を説明するための模式図である。
図2の(a)は、
図1のD1−D1線における長手端部の横断面模式図であり、
図2の(b)は
図1のD2−D2線における長手中央部の横断面模式図である。また、
図3は
図1のD3−D3線における長手方向の途中部分省略の縦断面模式図である。
【0027】
定着フィルム1は、基層1aと、導電層1b、1bと、抵抗発熱体1eと、弾性層1cと、離型層1dと、を有している。この定着フィルム1は全体的に可撓性を有し、自由状態においては自身の弾発性によりほぼ円筒状の形態を呈する。なお、
図1においては、弾性層1cと離型層1dは省略されている。
【0028】
基層1aは絶縁性もしくは高抵抗の円筒状の部材であり、定着フィルム1のねじれ強度、平滑性などの機械的特性を担うベース層である。例えば、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の樹脂でできている。本実施例では、外径φ18、長手長さ240mm、厚み60μmのポリイミドの基層1aを用いた。
【0029】
定着フィルム1の外面側から抵抗発熱体1eに給電するために、基層1aの両端部10mm幅の表面領域に給電用の導電層1b、1bが銀ペーストにより周方向全域にわたって環状に形成されている。本実施例では、給電用の導電層1bとして、体積抵抗率4×10
-5Ω・cmの銀ペーストを用いた。銀ペーストは、銀の微粒子をポリイミド樹脂中に溶剤を用いて分散させたものを塗布後に焼成したものである。
【0030】
抵抗発熱体1eは、基層1a上に形成され、両端部がそれぞれ上記の導電層1b、1bと電気的に繋がっている。即ち、電気的に導通している。本実施例では、抵抗発熱体1eとして、体積抵抗率2×10
-3Ω・cmの銀ペーストをスクリーン印刷で塗布している。
【0031】
図4に本実施例で使用したスクリーン版8および基層1aを真上からみた図を示す。スクリーン版8の1b’のメッシュが導電層1bを形成し、1e’のメッシュが抵抗発熱体1eを形成する。抵抗発熱体1eの中でも最初に印刷する抵抗発熱体をh1とし、最後に印刷する抵抗発熱体をh2とした場合、スクリーン版8のメッシュh1’が抵抗発熱体h1を形成し、メッシュh2’が抵抗発熱体h2を形成することになる。
【0032】
このスクリーン版8を用いて、周方向の幅W=1mm、間隔d=1mmの2mmピッチで、厚み約10μmの線状で同じ体積抵抗率を有する銀ペーストを長手方向に平行に印刷する。そして、スクリーン印刷の1周後に、最初に印刷した抵抗発熱体h1上に再度抵抗発熱体h2を重ねている。
【0033】
図5に、本実施例のスクリーン印刷工程において最初に印刷した抵抗発熱体h1と最後に印刷した抵抗発熱体h2の拡大断面図を示している。この後、焼成を行い銀ペーストの水分やバインダ成分を除去することで抵抗発熱体1eおよび1f(h1+h2)が形成される。抵抗発熱体1eの厚みは約10μmであるが、最初に印刷した抵抗発熱体h1と最後に印刷した抵抗発熱体h2が重なった抵抗発熱体1fの厚みは約20μmとなっている。
【0034】
なお、この状態で基層1aに導電層1bを形成したときの長手両導電層1b間の抵抗値は15.7Ωである。抵抗発熱体1e、1fの本数は28本あり、抵抗発熱体1fの両端の抵抗は約230Ω、それ以外の抵抗発熱体1eの両端の抵抗は約460Ωである。
【0035】
本実施例では、体積抵抗率2×10
-3Ω・cmの銀ペーストを用いた抵抗発熱体1e、1fのスクリーン印刷と、体積抵抗率4×10
-5Ω・cmの銀ペーストを用いた導電層1b、1bのスクリーン印刷を
図4の構成のスクリーン版8で同時に行なっている。抵抗発熱体1e、1fと導電層1b、1bのどちらか一方のスクリーン印刷を行い、その焼成後に、他方のスクリーン印刷を行い、焼成する手順にすることもできる。
【0036】
弾性層1cは、熱伝導フィラーを分散した厚み170μmのシリコーンゴムからなり、離型層1dは、PFAのコーティング処理を施して15μm程度のPFA層を設けた。弾性層1cと離型層1dは電気的に絶縁であり、定着フィルム1の抵抗発熱体形成部を被覆しており、両端部の導電層1b、1bの外周面は剥き出しになっている。
【0037】
[定着装置]
本実施例における画像加熱装置たる定着装置の構成について、
図6を用いて説明する。
図6の(a)は本実施例における定着装置50の要部の長手中央部の横断面模式図であり、(b)は同装置の要部の長手方向からみた模式図である。
【0038】
この定着装置50は、一般的な電子写真方式の画像形成方法により記録材Pに形成されたトナー像Tを加熱定着するための装置である。
図6の(a)の左側より、トナー像Tを担持した記録材Pが搬送手段(不図示)により搬送され、定着装置50に導入されて通過することにより、トナー像Tが記録材P上に加熱定着される。
【0039】
本実施例の定着装置50は、加熱回転体として円筒状の定着フィルム1と、定着フィルム1に内挿されて定着フィルム1を保持するフィルムガイド2を有する。また、定着フィルム1と共にニップ部(定着ニップ部)Nを形成する加圧部材(ニップ形成部材)としての弾性加圧ローラ4を有する。加圧ローラ4は両端軸部が装置フレーム(不図示)に回転可能に軸受保持されている。本実施例の装置においてはこの加圧ローラ4は駆動回転体として、制御部(CPU)100で制御される駆動機構部101により
図6の(a)の矢印の時計方向に所定の周速度にて回転駆動される。
【0040】
フィルムガイド2は、液晶ポリマー、PPS、PEEK等の耐熱性樹脂により形成され、長手両端部が装置フレーム(不図示)に保持された定着ステー5と係合する。そして、加圧手段としての加圧バネ(不図示)が、定着ステー5の長手両端部を加圧することによって、フィルムガイド2は定着フィルム1を介して加圧ローラ4側に加圧される。
【0041】
定着ステー5は長手両端に受けた加圧力をフィルムガイド2の長手方向に対して均一に伝えるため、鉄、ステンレス、ジンコート鋼板等の剛性のある材料を使用し、断面形状をコの字型にすることで剛性を高めている。これにより、フィルムガイド2のたわみを抑えた状態で、フィルムガイド2が定着フィルム1を介して加圧ローラ4に対して加圧ローラの弾性に抗して加圧される。そして、定着フィルム1と加圧ローラ4との間に加圧ローラ4の長手方向に均一な所定の幅の定着ニップ部Nが形成される。
【0042】
本実施例では、フィルムガイド2の材質として液晶ポリマーを用い、定着ステー5の材質としては、ジンコート鋼板を用いている。加圧ローラ4に印加される加圧力は160Nで、このとき約6mmの定着ニップ部Nを形成する。
【0043】
また、フィルムガイド2には、温度検知素子6が設置されており、定着フィルム1の内面に当接している。温度検知素子6の検知温度情報が制御部100に入力する。制御部100は、定着フィルム1の温度が所定の温度に立ち上がって維持されるように、温度検知素子6から入力する検知温度情報に基づいて交流電源(給電部)10から定着フィルム1への供給電力を制御する。
【0044】
加圧ローラ4は、鉄やアルミニウム等の材質の芯金4aと、シリコーンゴム等の材質の弾性層4b、PFA等の材質の離型層4cから構成されている。加圧ローラ4の硬度は、定着性を満足する定着ニップ幅と耐久性を満足できるようにASKER−C硬度計で9.8Nの荷重において、40°から70°の範囲が好ましい。本実施例では、φ11の鉄芯金4aにシリコーンゴム層4bwo3.5tの厚みで形成し、その上に40μmの厚みの絶縁PFAチューブ4cを被覆しており、硬度は56°、外径はφ18である。弾性層4bおよび離型層4cの長手長さは240mmである。
【0045】
給電部材3a、3bは、交流電源10よりACケーブル7で配線されており、定着フィルム1の両端部の導電層1b、1bの外周面に当接する。給電部材3a、3bとして、金などの細い線束で形成したブラシや板状のバネまたはパッドなどが用いられる。
【0046】
本実施例では給電部材3a、3bとしてカーボンチップとステンレスの板状のバネを用い、この板状のバネの付勢力でカーボンチップを導電層1bの外周面の剥き出し部に押し当てて、ACケーブル7を介して交流電源10より交流電圧を印加する。これにより、定着フィルム1の抵抗発熱体1eへの給電を実現している。本実施例では、定着フィルム1の基層1aの両端部に導電層1b、1bを設けているために、定着フィルム1が回転していても常に全ての抵抗発熱体1e、1fに給電することができる。
【0047】
定着動作は次のとおりである。加圧ローラ4が
図6の(a)において矢印の時計方向に所定の速度で回転駆動される。この加圧ローラの回転駆動に伴って定着ニップ部Nにおける加圧ローラ4と定着フィルム1との摩擦力で定着フィルム1に回転力が作用する。これにより、定着フィルム1の内面がフィルムガイド2に密着して摺動しながらフィルムガイド2の外回りを矢印の反時計方向に加圧ローラ4の回転に従動して回転状態になる。
【0048】
加圧ローラ4の回転による定着フィルム1の回転がなされ、定着フィルム1に対する通電がなされて定着フィルム1の温度が所定の温度に立ち上がって温度検知素子6によって温度制御される。そして、未定着トナー像Tを載せた記録材Pが導入され、定着ニップ部Nにおいて記録材Pのトナー画像担持面が定着フィルム1と一緒に定着ニップ部Nを挟持搬送されていく。
【0049】
この挟持搬送過程において定着フィルム1の熱により記録材Pが加熱され、記録材上の未定着トナー画像Tが加熱・加圧されて溶融定着される。定着ニップ部Nを通過した記録材Pは定着フィルム1の面から曲率分離して排紙ローラ対(不図示)により搬送される。
【0050】
[特徴事項]
本実施例の定着フィルム1においては、最初に印刷した抵抗発熱体h1と最後に印刷した抵抗発熱体h2が十分に重なって抵抗発熱体1fを形成して、他の抵抗発熱体1eと比べて厚みが2倍になっている。抵抗発熱体1e、1fは両端部の導電層1b、1bにより並列に接続されている。そのため、抵抗発熱体1eに対して、抵抗発熱体1fの電流は約2倍になっており、発熱量が2倍になっている。
【0051】
図5に図示したように、2番目に印刷した抵抗発熱体1eにかすれが発生して断線したとしても、抵抗発熱体1fの発熱量は2倍であるため、隣接する抵抗発熱体1eの熱量不足を補うことができる。したがって、印刷の継ぎ目部で発熱量が不足することはなく、定着フィルム1の回転周期で定着不良が発生することはない。
【0052】
ここで、最初に印刷した抵抗発熱体h1と最後に印刷した抵抗発熱体h2の全部が十分に重なる必要はなく、一部が重なっていても良い。本実施例の変形例を
図7に示す。
図7の(a)は、抵抗発熱体h2の印刷途中から抵抗発熱体h1に重なる設定である。この場合、図示したように抵抗発熱体h1の回転方向後端部にかすれが発生するが、かすれ部に隣接して重なり部があり発熱量が多くなっているため、印刷の継ぎ目部の定着不良を改善することができる。
【0053】
また、
図7の(b)は、抵抗発熱体h1が1周して再度スクリーン版8を通過した後に、抵抗発熱体h1の途中から抵抗発熱体h2を印刷して重なる設定である。この場合、図示したように抵抗発熱体h1の回転方向先端部および2番目に印刷した抵抗発熱体1eにかすれが発生する。しかし、
図7の(a)の場合と同様に、かすれ部に隣接して重なり部があり発熱量が多くなっている。そのため、印刷の継ぎ目部の定着不良を改善することが可能である。
【0054】
また、抵抗発熱体を複数回にわけて印刷する場合には、その都度、印刷の継ぎ目が発生する。この場合は、1回目の最後に印刷した抵抗発熱体と2回目の最初に印刷する抵抗発熱体に重なり部を設けることで、同様の効果を得ることができる。
【0055】
以上説明したように、印刷の継ぎ目部で2本の抵抗発熱体h1とh2の少なくとも一部を重ねることで、印刷継ぎ目部の熱量不足を補うことができ、継ぎ目部で発生する定着不良(加熱不良)を防止することが可能である。
【0056】
《実施例2》
本実施例2では、実施例1において、定着フィルム1に印刷する継ぎ目部の発熱体パターンが異なる場合の例を示す。本実施例2における定着フィルム1の構成について、
図8から
図10を用いて説明する。
【0057】
図8は定着フィルム1を正面方向からみた抵抗発熱体1eの配置を説明するための模式図である。
図9の(a)は、
図8のD1−D1線における長手端部の横断面模式図であり、
図9の(b)は
図8のD2−D2線における長手中央部の横断面模式図である。また、
図10は
図8のD3−D3線における長手方向の途中部分省略の縦断面模式図である。実施例1における定着フィルム1と共通する構成部材・部分には同じ符号を付して再度の説明を省略する。なお、
図8においては、
図1と同様に、弾性層1cと離型層1dは省略されている。
【0058】
本実施例2における定着フィルム1も実施例1の定着フィルム1と同様に、円筒状の基層1aを有する。その基層の上に基層周方向に間隔をあけて且つ基層の長手方向に平行に印刷されて形成されている基層1aよりも体積抵抗率が小さい複数本の抵抗発熱体1eを有する。また、基層1aの両端部に基層周方向にわたって形成されてそれぞれ上記の複数本の抵抗発熱体1eと電気的に導通している基層1aよりも体積抵抗率が小さい導電層1b、1bを有している。
【0059】
本実施例の定着フィルム1における特徴は、隣り合う抵抗発熱体1g、1hの間隔d(a)が他の間隔d(b)よりも大きい箇所が存在している。そして、その間隔が大きい箇所を形成する2本の抵抗発熱体1g、1hのうち少なくとも一方の抵抗発熱体の基層周方向における幅が他の抵抗発熱体の幅よりも大きいことである。
【0060】
具体的には、最初に印刷した抵抗発熱体1gと最後に印刷した抵抗発熱体1hの間隔d(a)が他の抵抗発熱体の間隔d(b)よりも大きく、かつ最初に印刷した抵抗発熱体1gと最後に印刷した抵抗発熱体1hの幅が他の抵抗発熱体の幅よりも大きい点である。
【0061】
図11に本実施例2で使用したスクリーン版8および定着フィルム基層1aを真上からみた図を示す。スクリーン版8の1b’のメッシュが導電層1bを形成し、1e’のメッシュが抵抗発熱体1eを形成する。抵抗発熱体1eの中でも最初に印刷する抵抗発熱体を1gとし、最後に印刷する抵抗発熱体を1hとした場合、スクリーン版8のメッシュ1g’が抵抗発熱体1gを形成し、メッシュ1h’が抵抗発熱体1hを形成することになる。
【0062】
このスクリーン版8を用いて、最初に周方向の幅2mmの抵抗発熱体1gを印刷し、その後、周方向の幅W=1mm、間隔d(b)=1mmの2mmピッチで、同じ体積抵抗率を有する抵抗発熱体1eを長手方向に平行に印刷していく。そして、最後に、周方向の幅2mmの抵抗発熱体1hを印刷して終了する。このとき、最初に印刷した抵抗発熱体1gと最後に印刷した抵抗発熱体1hは、基層1a上で間隔d(a)=3mmとなるようにスクリーン版8が作製されており、最初に印刷した抵抗発熱体1gがスクリーン版8に接触することはない。
【0063】
この後、焼成を行い銀ペーストの水分やバインダ成分を除去することで抵抗発熱体1eおよび1g、1hが形成される。抵抗発熱体1e、1g、1hの厚みはいずれも約10μmである。なお、この状態で基層1aに導電層1bを形成したときの長手両導電層1b、1b間の抵抗値は15.7Ωである。抵抗発熱体1e、1g、1hの本数は26本あり、抵抗発熱体1gおよび1hの両端の抵抗はいずれも約220Ω、それ以外の抵抗発熱体1eの両端の抵抗は約440Ωである。
【0064】
[特徴事項]
本実施例2では、最初に印刷した抵抗発熱体1gと最後に印刷した抵抗発熱体1hは、他の抵抗発熱体1eと比べて周方向の幅が2倍になっている。抵抗発熱体1e、1g、1hは両端部の導電層1b、1bにより並列に接続されている。そのため、抵抗発熱体1eに対して、抵抗発熱体1gと1hの電流は約2倍になっており、発熱量が2倍になっている。
【0065】
そして、最初に印刷した抵抗発熱体1gと最後に印刷した抵抗発熱体1hの間隔d(a)は3mmであり、抵抗発熱体1e同士の間隔d(b)1mmの3倍となっている。これにより、抵抗発熱体1hを印刷するときに、抵抗発熱体1gがスクリーン版8に接触することはなく、抵抗発熱体1gにかすれは生じていない。
【0066】
抵抗発熱体1gと抵抗発熱体1hの間隔d(a)は大きくなっているものの、それぞれの発熱量が2倍であるため、印刷の継ぎ目部で発熱量が不足することはなく、定着フィルム1の回転周期で定着不良(加熱不良)が発生することはない。
【0067】
なお、本実施例では、最初に印刷した抵抗発熱体1gと最後に印刷した抵抗発熱体1hともに、発熱体幅を大きくしたが、それらの抵抗発熱体1g、1hのいずれか一方の発熱体幅のみ大きくしても良い。最初と最後に印刷する抵抗発熱体1g、1hの少なくとも一方の幅を調整することで、最初に印刷した抵抗発熱体1gがスクリーン版8に接触しない間隔に設定することが可能である。
【0068】
また、抵抗発熱体を複数回にわけて印刷する場合には、その都度、印刷の継ぎ目が発生する。この場合は、1回目の最後に印刷した抵抗発熱体から間隔をあけて2回目の最初の抵抗発熱体を印刷し、両方もしくはいずれか一方の発熱体幅を大きくしておくことで、同様の効果を得ることができる。
【0069】
以上説明したように、印刷の継ぎ目部で抵抗発熱体1g、1hの間隔d(a)が他の間隔d(b)よりも大きく、その間隔d(a)を形成する2本の抵抗発熱体1g、1hのうち少なくとも一方の周方向の幅を他の抵抗発熱体の幅よりも大きくする。これにより、印刷継ぎ目部の熱量不足を補うことができ、継ぎ目部で発生する定着不良を防止することが可能である。
【0070】
即ち、実施例1〜2のように、印刷の継ぎ目部で抵抗発熱体を重ねる、もしくは、継ぎ目部を隙間部として隣接する発熱体の発熱量をアップさせることで、印刷継ぎ目部の熱量不足を補うことができ、継ぎ目部で発生する加熱不良を防止することができる。
【0071】
以上、実施例1〜2は、加熱回転体として定着フィルム(フィルム部材)の例を示したが、円筒状の基層に抵抗発熱体を印刷して形成する加熱回転体であれば、全て本発明を適用することができる。例えば、印刷発熱層を設けた定着ベルトや定着ローラ、あるいは加圧ローラにおいても、同様の効果を得ることができる。
【0072】
図11Aの(a)と(b)にそれぞれローラ部材の形態の加熱回転体1Aの一例の構成の示す横断面模式図を示した。この加熱回転体1Aは、回転軸となる芯金ローラ11と、この芯金ローラ11の上に形成された弾性層12と、を有し、弾性層11の上に抵抗発熱体1eおよび導電層(1b)が形成された基層1aが配置されている。そして、基層1aおよび抵抗発熱体1eの上に離型層1dを有するローラ部材である。離型層1dの下に弾性層1cを有する構成にすることもできる。