(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パイプ材を曲げ加工した曲げ加工品は、スプリングバックを含むため、設計図面通りの位置に孔あけを行おうとすると、上述の如き治具を用いたとしても、スプリングバック分だけオフセットされた位置を見出して孔あけを行う必要がある。このために、曲げ加工品に高い位置精度をもって孔あけ加工することが難しく、高い位置精度をもって設計図面通りの位置孔あけ加工するには、スプリングバックを矯正(除去)する前処理を行った後に孔あけ加工を行う必要がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、曲げ加工品に対してスプリングバックを矯正する前処理を行うことなく、高い位置精度をもって設計図面通りの位置に孔あけ加工が行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による孔あけ加工用治具は、パイプ材による曲げ加工品(W)に孔あけ工具(T)によって孔あけを行う加工に用いられる治具であって、前記曲げ加工品(W)を形状矯正状態で拘束保持する保持部(62、64)を含む保持部材(55)を有し、前記保持部材(52)には外面から前記保持部(62、64)の前記曲げ加工品(W)の所定位置に到達し、前記曲げ加工品(W)に対する前記孔あけ工具(T)の進行を案内する工具案内孔(76)が設けられている。
【0007】
この構成によれば、スプリングバックを除去された形状矯正状態の曲げ加工品(W)に孔あけ加工が行われるようになり、設計図面通りの位置に孔があけられることになる。これにより、スプリングバックを矯正する前処理を行うことなく、曲げ加工品(W)に、高い位置精度をもって設計図面通りの位置に孔あけ加工が行われる。
【0008】
本発明による孔あけ加工用治具は、好ましくは、前記保持部材(55)は、各々、前記保持部として前記曲げ加工品の半割形状をした溝断面形状の溝部(62、64)を有する一対の保持板(52、54)を具備し、当該一対の保持板(52、54)が互いに重ね合わせられることにより、前記溝部(62、64)において前記曲げ加工品(W)を形状矯正状態で拘束保持し、前記工具案内孔(76)は前記一対の保持板(52、54)の少なくとも一方に設けられている。
【0009】
この構成によれば、一対の保持板(52、54)が曲げ加工品(W)を挟み込み、溝部(62、64)によって曲げ加工品(W)が形状矯正状態で良好に拘束保持される。
【0010】
本発明による孔あけ加工方法は、パイプ材(W)を曲げ加工した曲げ加工品(W)に孔あけ工具(T)によって孔あけ加工を行う方法であって、前記曲げ加工品(W)を形状矯正状態で拘束保持する保持部(62、64)及び前記保持部(62、64)に配置された前記曲げ加工品(W)に対する前記孔あけ工具(T)の進行を案内する工具案内孔(76)を含む保持部材(55)を有する孔あけ加工用治具(50)を用い、前記孔あけ加工用治具(50)に前記曲げ加工品(W)をセットし、前記保持部(62、64)によって前記曲げ加工品(W)を、スプリングバックを除去した形状矯正状態で拘束保持し、当該形状矯正状態で前記工具案内孔(76)に前記孔あけ工具(T)を挿入し、前記工具案内孔(76)による前記孔あけ工具(T)の案内のもとに前記孔あけ工具(T)を進行させて前記曲げ加工品(W)に孔(30)をあける。
【0011】
この孔あけ加工方法によれば、孔あけ加工用治具(50)の使用のもとに、スプリングバックを除去された形状矯正状態の曲げ加工品(W)に孔あけ加工が行われるようになり、設計図面通りの位置に孔があけられることになる。これにより、スプリングバックを矯正する前処理を行うことなく、曲げ加工品(W)に、高い位置精度をもって設計図面通りの位置に孔あけ加工が行われる。
【発明の効果】
【0012】
本発明による孔あけ加工用治具及び孔あけ加工方法によれば、曲げ加工品に対してスプリングバックを矯正する前処理を行うことなく、高い位置精度をもって設計図面通りの位置に孔あけ加工が行われる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、パイプ材を曲げ加工した曲げ加工品による孔あけ対象物の一つの具体例を、
図1〜
図5を参照して説明する。
【0015】
オムニホイール式の車輪10は孔あけ対象物である芯体12を含んでいる。芯体12は、
図5(A)に示されているように、ステンレス鋼(例えば、機械構造用炭素鋼鋼管STKM)やアルミニウム等の金属製の円形横断面形状のパイプを180度の曲げ加工によって半円形に成形した2個の分割部材14の組み合わせによって
図5(B)に示されているような所定輪径による円環状の輪体をなしている。つまり、芯体12は、2個の分割部材14の端部同士の突き合わせによって端面同士が互いに対向して接合することにより2個の継ぎ目A(
図1参照)を形成し、各継ぎ目Aにおいて分割部材14同士が接合されることによって連続した円環状をなしている。
【0016】
芯体12には、
図1に示されているように、複数のインナースリーブ16が嵌装されている。インナースリーブ16は、内孔18を有する円筒部20と、円筒部20の軸線方向の両端の互いに180度反転した周方向位置に設けられた半円筒体22(
図5(B)参照)とを一体に有し、内孔18に芯体12を通されることにより芯体12に取り付けられる。
【0017】
各円筒部20の外周にはボールベアリング24によってゴム製のフリーローラ26が回転可能に設けられている。
【0018】
芯体12に対するインナースリーブ16の装着は、既にフリーローラ26を装着されているインナースリーブ16を、
図5(A)に示されているように、分割部材14が円環状に組み合わせられていない2個の半円状の分割部材14の各々に、分割部材14の端部より所定個数挿入することにより行われる。
【0019】
インナースリーブ16は、各々、芯体12の円周方向に隣り合うインナースリーブ16の半円筒体22が互いに180度異なった周方向位置にある状態で、内孔18に芯体12を通されることにより、芯体12の円周方向に隣り合う半円筒体22同士が補完し合って、つまり組み合わさって略円筒状をなし(
図3参照)、
図1に示されているように、芯体12の周方向の全体に亘って実質的に隙間なく配置される。
【0020】
半円筒体22には、
図3及び
図4に示されているように、リベット孔28が貫通形成されている。芯体12には、
図3〜
図5に示されているように、各インナースリーブ16のリベット孔28に整合するリベット孔30が複数貫通形成されている。リベット孔28及び30には、
図3に示されているように、半円筒体22の外周側からこれらリベット孔28、30を貫通するようにブラインドリベット32が挿入されている。各ブラインドリベット32は、先端が芯体12の中空部内において膨径変形することによって芯体12に係止され、各インナースリーブ16を芯体12に固定する。
【0021】
半円筒体22には、
図3及び
図4に示されているように、もう一つのリベット孔34が貫通形成されている。芯体12には、
図3〜
図5に示されているように、継ぎ目Aに位置するインナースリーブ16のリベット孔34に整合するリベット孔36が貫通形成されている。インナースリーブ16のうち、各継ぎ目Aに位置するインナースリーブ16は、継ぎ目Aを芯体12の周方向を跨って延在し、半円筒体22が継ぎ目Aの両側に位置している。換言すると、フリーローラ26毎の複数のインナースリーブ16は、継ぎ目Aを跨って延在し、各半円筒体22が継ぎ目Aの両側に位置するものを2個含んでいる。
【0022】
リベット孔34及び36には、
図3に示されているように、半円筒体22の外周側からこれらリベット孔34、36を貫通するようにブラインドリベット38が挿入されている。ブラインドリベット38は、先端が芯体12の中空部内において膨径変形するによって芯体12に係止される。これにより、継ぎ目Aに位置するインナースリーブ16はブラインドリベット32に加えてブラインドリベット38によって継ぎ目Aの両側に固定される。つまり、継ぎ目Aに位置するインナースリーブ16は、円筒部20の一方の側の半円筒体22を、継ぎ目Aを隔てて突き合わせられている2個の分割部材14のうちの一方の分割部材14に固定され、他方の側の半円筒体22を他方の分割部材14に固定され、2個の分割部材14を接合する継手を兼ねている。
【0023】
芯体12の円周方向に隣り合うボールベアリング24及びフリーローラ26の各間には、
図1〜
図3に示されているように、スペーサ40が配置されている。各スペーサ40は、芯体12の円周方向に隣り合うボールベアリング24及びフリーローラ26間にできる楔形状(芯体12の軸線方向で見て楔形状)の空間、特に芯体12の輪外側の空間を埋めるように、芯体12の軸線方向で見て楔形、つまり側面形状が楔形をしており、且つ正面形状がインナースリーブ16を芯体12の輪外側に跨ぐ門形(ステープル形)をしており、板ばね42によってインナースリーブ16に固定されている。
【0024】
次に本発明による孔あけ加工用治具として、
図6〜
図11を参照して、上述の芯体12の各分割部材14に複数のリベット孔30を設ける孔あけ加工に用いられる孔あけ加工用治具50について説明する。リベット孔30は、貫通丸孔であり、ドリルT(
図9参照)によって穿設される。
【0025】
孔あけ加工用治具50は、下側の受け側保持板52と上側の抑え側保持板54による保持部材55を有する。受け側保持板52と抑え側保持板54とは、上下一対で、共に金属製の矩形の平板によって構成されている。受け側保持板52の4隅には案内柱56が立設されている。抑え側保持板54の4隅には案内柱56が軸線方向に摺動可能に嵌合する案内孔58が上下に貫通形成されている。抑え側保持板54は、案内柱56と案内孔58との嵌合によって案内されて受け側保持板52に対して上下に移動可能であり、
図6に示されているように受け側保持板52上に接合する閉じ位置と、
図7及び
図8に示されているように、受け側保持板52から上方に離間した開き位置との間に変位可能になっている。なお、手動開閉の場合には、抑え側保持板54に持上用ハンドル60が設けられていてよい。
【0026】
受け側保持板52の上面には、分割部材14の半割形状(下半分)、つまり半円形状をした溝断面形状で、且つ平面視で半円状の保持溝62が形成されている。抑え側保持板54の下底面には、分割部材14の半割形状(上半分)、つまり半円形状をした溝断面形状で、且つ平面視で半円形状の保持溝64が形成されている。保持溝62と64とは、互いに同一形状であり、前記閉じ位置では互いに協働して分割部材14の横断面形状に略等しい円形の空間をなす。保持溝62及び64の平面視での半円形状の半径は、曲げ加工品に生じるスプリングバックを含まない設計通り(設計図面通り)の分割部材14の半径に等しい。
【0027】
抑え側保持板54には上面から保持溝64に貫通する複数の貫通孔66(
図9参照)が保持溝64に沿って形成されている。貫通孔66の配置は分割部材14のリベット孔30の配置と同一であり、各貫通孔66には円筒状のブッシュ68が嵌め込み固定されている。各ブッシュ68には工具案内ブッシュ70の円筒部72が抜き差し可能に嵌挿されている。工具案内ブッシュ70は、抑え側保持板54の保護のためのものであり、円筒部72の上端に頭部74を有し、ドリルTのドリル径に略等しい工具案内孔76を貫通形成されている。頭部74には固定用フランジ部74Aと円弧状の切欠部74Bとが形成されている。
【0028】
抑え側保持板54には、各貫通孔66の近傍に上方開口のねじ孔78(
図9参照)が形成されている。ねじ孔78には頭付き止めねじ80のねじ部80Aがねじ係合している。頭付き止めねじ80は、頭部80Bが固定用フランジ部74Aの上部に当接係合することにより、工具案内ブッシュ70を抑え側保持板54に回り止め且つ抜け止め固定する。頭付き止めねじ80は、ねじ係合を少し弛められることにより、工具案内ブッシュ70の回転を許し、切欠部74Bが頭部80Bに整合する位置に位置することにより、抑え側保持板54から取り外されなくても、貫通孔66からの工具案内ブッシュ70の抜き出しを可能にする。これにより、工具案内ブッシュ70の交換作業等が簡便に行われ得るようになる。
【0029】
受け側保持板52には各工具案内孔76と上下に整合する位置にドリルTの逃がし孔82が穿設されている。
【0030】
受け側保持板52の保持溝62の近傍には保持溝62に沿って所定間隔をおいて複数のねじ孔84が形成されている。抑え側保持板54の保持溝64近傍には各ねじ孔84と上下に整合するボルト通し孔86が貫通形成されている。受け側保持板52と抑え側保持板54とは締結ボルト88を各ボルト通し孔86に挿入され、各締結ボルト88がねじ孔84にねじ係合することにより、互いに締結される。
【0031】
図6〜
図11において、符号Wは芯体12を構成する分割部材14の素材である曲げ加工品を示している。曲げ加工品Wは、余剰の両端部分Waを切除され、リベット孔30となる指定個数の貫通孔をあけられることにより、分割部材14になる。
【0032】
曲げ加工品Wは、自由状態では、
図11に仮想線によって示されているように、スプリングバックを含み、設計図面通りのものより少し大きい円弧を描いて拡がった形状をしている。
【0033】
孔あけに際しては、抑え側保持板54が開き位置にある状態において、曲げ加工品Wを弾性変形させてスプリングバックを除去した状態で、曲げ加工品Wの下半分を、受け側保持板52の保持溝62に嵌め込む。その後、抑え側保持板54を閉じ位置に降下することにより、え側保持板54の保持溝64に曲げ加工品Wの上半分が嵌め込まれる。これにより、曲げ加工品Wは、スプリングバックを除去された形状矯正状態で、受け側保持板52と抑え側保持板54とによって上下から挟まれるようにして孔あけ加工用治具50に拘束保持される。
【0034】
この後、各ボルト通し孔86に締結ボルト88を挿入し、各締結ボルト88をねじ孔84にねじ係合させることにより、受け側保持板52と抑え側保持板54とが互い締結され、孔あけ加工用治具50によって曲げ加工品Wを形状矯正状態で拘束保持することが強固に行われる。
【0035】
この後、複数の工具案内孔76にドリルTを順次挿入し、工具案内孔76によってドリルTの進行、つまりドリルTの軸線方向の送り移動を案内されつつドリルTの先端を曲げ加工品Wに到達させ、曲げ加工品Wに貫通孔(リベット孔30)をあける。
【0036】
所定個数の貫通孔(リベット孔30)の孔あけ加工が完了すれば、締結ボルト88を外し、抑え側保持板54を持ち上げて開き位置に移動させ、受け側保持板52の保持溝62から曲げ加工品Wを取り外す。
【0037】
曲げ加工品Wは、孔あけ加工用治具50から取り外されると、スプリングバックを含む形状に戻るが、各貫通孔、つまり、各リベット孔30は、スプリングバックを除去された形状矯正状態の曲げ加工品Wにあけられているので、自ずと、設計図面通りの位置にあけられていることになる。これにより、スプリングバックを矯正する前処理を行うことなく、曲げ加工品Wに、高い位置精度をもって設計図面通りの位置に孔あけ加工が行われることになる。
【0038】
これにより、曲げ加工品Wによる芯体12に、リベット孔30を貫通するブラインドリベット32によって複数のインナースリーブ16が周方向に連続して固定されると、スプリングバックを除去された曲げ加工品Wによる設計図面通りの芯体12が得られる。
【0039】
以上、本発明を、その好適な実施形態について説明したが、当業者であれば容易に理解できるように、本発明はこのような実施形態により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0040】
例えば、曲げ加工品Wは半円形状のものに限られることなく、鉤形や波形等の各種形状のものであってよい。保持溝62は曲げ加工品Wの全体を受け入れる形状をしていて、抑え側保持板54は、平板で、保持溝62を蓋するような構造であってもよい。また、保持溝62、64は、必ずしも曲げ加工品Wの全長に亘って連続したものでなくてもよい。また、曲げ加工品Wの拘束保持は、受け側保持板52等に設けられる複数の突起によって行われてもよい。また、工具案内孔76は受け側保持板52及び抑え側保持板54の双方に設けられていてもよい。
【0041】
また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。