(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1の実施形態における位相物体可視化装置について図面を用いて説明する。
図1は、第1の実施形態の位相物体可視化装置1を示す図であり、位相物体可視化装置1は、透過照明を用いて位相物体である標本Sを観察する倒立顕微鏡である。位相物体可視化装置1は、標本Sを照明する照明光学系11として、光源2と、レンズ3、4と、ミラー5を備え、標本Sからの光を結像するための結像光学系12として、対物レンズ6と、ミラー7と、結像レンズ8と、を備えている。位相物体可視化装置1は、上述した結像光学系12によって結像される像面位置に標本Sの像を画像信号に変換する撮像素子9を備えている。また、位相物体可視化装置1は、照明光学系11中に開口絞り15を備えている。また、位相物体可視化装置1は、標本Sと撮像素子9との間に、遮光手段10を備えている。
【0015】
遮光手段10は、標本Sからの光を遮断する遮光手段である。遮光手段10は、結像光学系12の光軸から偏心した位置に開口部10aを有している。
【0016】
開口部10aは、例えば、遮光手段10に設けられる物理的な開口である。開口部10aは、照明光学系11により照明された標本Sからの光であって、標本Sによって回折されない光、すなわち位相物体である標本Sがない、または、標本Sの位相が均一であるとしたとき対物レンズ6の瞳位置で後述する領域13を形成する光(以下、0次光とも記載する)が開口部10aの一部分を通過するような位置に設けられる。言い換えると、開口部10aは、通過する0次光の面積が、開口部10aの面積よりも小さくなるような位置に設けられる。
【0017】
尚、本実施形態では一例として、遮光手段10は、対物レンズ6の瞳位置に設けられる。また、開口部10aは、結像光学系12の光軸と垂直な面上において位置が可変な構成である。例えば、開口部10aは光軸周りに回転可能な構成を有している。
【0018】
光源2には、単色LEDが用いられる。その他、水銀ランプやキセノンランプ等を用いてもよい。
【0019】
撮像素子9は、例えばCCDやCMOSといったイメージセンサである。撮像素子9は、不図示のモニタ等の表示媒体と接続されており、取得された画像信号をその表示媒体へ出力することでユーザが画像を視認する。また撮像素子9は、画像信号を記憶する記憶装置等を設けた制御装置と接続されていてもよい。
【0020】
標本Sは、光を透過し、透過した光に位相差を生じさせる培養細胞等の生体標本である。標本Sは、例えば、複数のウェルを有するウェルプレートのいずれかのウェルの中に入った状態で設置される。
【0021】
上記の構成を有する位相物体可視化装置1において、照明光学系11によって標本Sに照射された光は、0次光と、標本Sによって回折され、照明光に対して位相差をもつ回折光とに分けられて結像光学系12へ入射し、撮像素子9に結像される。特に、本発明における位相物体可視化装置1では、照明光学系11によって標本Sに対して垂直に照明される場合であっても、遮光手段10が有する開口部10aを標本Sの端部(エッジとも記載する)において回折された回折光が通過することで、標本Sの特定方向のコントラストを際立たせるような像を撮像素子9に結像させることができる。即ち、偏斜照明を行った場合と同じように、位相物体である標本Sを明瞭に可視化して観察することができる。以下、開口部10aを通過する光を例に挙げて、開口部10aの機能を詳細に説明する。
【0022】
図2は、開口部10aの配置の一例を示し、開口部10aを光軸方向から見た図である。
図2では、開口部10aと、標本Sから開口部10aが設けられた遮光手段10へ入射する0次光が形成する領域13と、対物レンズ6の瞳14との位置関係が示されている。なお、遮光手段10の大きさについては図示していないが瞳14より大きく、瞳14の外側にある。
ハッチングで記載した領域13は、照明光学系11の開口絞り15の投影像を示す。ここでは開口絞り15と対物レンズ6の射出瞳位置は、ほぼ光学的に共役な位置に配置されている。また、開口絞り15を所定の径に絞ることによって、対物レンズの射出瞳位置で光束が瞳のすべてを満たさない所定の径になるよう設定している。
なお、照明光学系の光源とコレクタレンズ等の設計により対物レンズの瞳径を満たさない所定の径となるよう設定されているならば、開口絞り15を省略することもできる。
このとき、標本Sは、標本Sに対して略垂直な照明光により照明されているため、0次光は対物レンズ6の瞳14の中心を含む領域である領域13を通っている。また、瞳14における0次光の光径の大きさ、即ち領域13の径は瞳14の径よりも小さい。また、本実施形態における位相物体可視化装置1の構成では、光源2の像が、瞳14における0次光の光束部分に形成されている。
【0023】
開口部10aは、結像光学系12の光軸から偏心した位置にあり、開口部10aの周囲の瞳14を含む領域は、遮光手段10によって遮光される。つまり、0次光が開口部10aの一部分を通過するような位置に設けられている。そのため、標本Sのエッジ部分によって回折された特定方向の1次回折光が開口部10aを通過するようになっている。
【0024】
また、開口部10aは、結像光学系12の光軸から偏心した位置であって、且つ、0次光が開口部10aの一部分を通過するような位置に設けられていればよく、
図2の配置に限定されるものではない。例えば、開口部10aは
図3のような位置関係であってもよい。
図3は、
図2とは別の開口部10aの配置の一例を示した図である。
図2では、遮光手段10によって0次光の一部が開口部10aを通過せずに遮光されている例を示したが、
図3のように0次光が遮光されずに、開口部10aを通過するような配置であってもよい。即ち、領域13の全てが開口部10a内に含まれている状態である。この場合においても、標本Sのエッジ部分によって回折された特定方向の1次回折光が開口部10aの一部分の領域を通過する。
【0025】
以上の構成を有する位相物体可視化装置1によれば、照明光学系11によって標本Sに対して略垂直に照明される場合であっても、遮光手段10が有する開口部10aを標本Sのエッジ部分で回折した特定方向の1次回折光が通過するような構成となる。従って、標本Sの特定方向のコントラストを際立たせるような像を撮像素子9に結像させることができ、偏斜照明を用いずとも、明瞭に位相物体を可視化することができる。
【0026】
一般に、偏斜照明を用いた位相物体の可視化方法では、偏斜させた照明光が生体標本へ入射されるまでの光路中に存在する培養液や培養容器に付着した水滴等によって屈折されて、照明光の角度が変わることがある。即ち、生体標本の周りの状態によって照明光の角度、ひいては生成される像コントラストが変動してしまうことがあり、安定した標本の可視化が妨げられるといった問題も生じていた。一方で、位相物体可視化装置1では、標本Sに垂直に照明される光によって標本Sで生じる回折光を検出しているとともに、照明光が標本Sを照射するまでの光路上において標本S以外の要素で屈折された光については、遮光手段10によって遮断されるため、像形成に影響しない。従って、位相物体可視化装置1を用いた位相物体の可視化を行う方法では、標本Sの周りの状態によって生成される像コントラストが変動してしまうといったことが少ない。
【0027】
また、位相物体可視化装置1によれば、標本Sに略垂直に照明される光によって標本Sで生じる回折光を検出していることから、偏斜照明を用いた場合のように、標本Sを保持するウェルの端部によって照明光が遮られてしまうといった問題が起こり得ない。そのため、ウェル端部に近い領域を含め、標本Sを余すことなく可視化することができる。
【0028】
また、開口部10aは、光軸に垂直な平面上で位置が可変であるため、開口部10aに対する、0次光が通過する領域を調整することができる。それにより、開口部10a内において、どの方向の1次回折光を通過させるかを選択することができる。
【0029】
また、開口部10aは、例えば絞り等によって大きさが可変な構造であってもよい。それにより、照明光の光束径の変更に応じて開口部10aの大きさを調整することができる。
【0030】
また、開口部10aは、特定方向の1次回折光が開口部10aを通過するような、標本Sと像面に設置された撮像素子9との間の光軸から偏心した位置であり、0次光が開口部10aの一部分を通過するような位置にあればよい。開口部10aは、瞳位置若しくはその近傍又は瞳位置と光学的に共役な位置若しくはその近傍に配置されれば良く、開口部10aが配置される位置は対物レンズ6の瞳位置に限らない。
【0031】
また、0次光が開口部10aを通過する面積、つまり開口部10a内の領域13の面積は、望ましくは、開口部10aの面積の50パーセント以下に調整されることで、標本Sを可視化する上で十分なコントラストを有する画像信号を取得することができる。
【0032】
また、遮光手段10が有する開口部10aは、物理的な開口に限定されない。例えば、遮光手段10の構成として、光を選択的に通過、及び、遮光するような液晶パネルであってもよい。その場合には、遮光手段10が光を選択的に通過している領域が、開口部10aに該当する。
【0033】
以下、第2の実施形態における位相物体可視化装置について図面を用いて説明する。
図4は、第2の実施形態における位相物体可視化装置20を示す。位相物体可視化装置20は、照明光学系11の代わりに照明光学系21と、導光ファイバー24と、ホログラム素子25とを備えている点で位相物体可視化装置1の構成と異なるが、それ以外の構成は位相物体可視化装置1と同様である。
【0034】
照明光学系21は、光源22とレンズ23を備え、照明光学系21によって形成された光束は、導光ファイバー24によってホログラム素子25へ導光される。
【0035】
ホログラム素子25は、導光ファイバー24により入射した光を入射した方向とは略直交する方向を中心に放射するよう設計された素子である。設計された放射角度によって、対物レンズ6の射出瞳位置での0次光の径が決定する。そのため、対物レンズ6の射出瞳を全部満たさない所定の径となるよう設計されている。ここでは、ホログラム素子25は、標本Sを保持するウェルプレートに対して略垂直に光を照射する。即ちホログラム素子25は、ウェルプレート内の標本Sに対して略垂直な照明光を照射するように機能する。
【0036】
以上の構成を有する位相物体可視化装置20によっても、偏斜照明を用いずとも、明瞭に位相物体を可視化することができる。
【0037】
以下、第3の実施形態における位相物体可視化装置について図面を用いて説明する。
図5は、第3の実施形態における位相物体可視化装置30を示す。位相物体可視化装置30は、撮像素子9に接続された演算装置31を含む点で位相物体可視化装置1の構成と異なるが、それ以外の構成は位相物体可視化装置1と同様である。遮光手段10は、第1の実施形態同様対物レンズ6の瞳位置に設けられている。また、開口部10aについても第1の実施形態と同じように、結像光学系12の光軸と垂直な面上において位置が可変な構成であるものとする。
【0038】
図6は、本実施形態における開口部10aの配置の一例を示し、開口部10aを光軸方向から見た図である。第1の実施形態において
図2を用いた説明と同様に、まず開口部10aは、結像光学系12の光軸から偏心した位置であって、且つ、0次光が開口部10aの一部分を通過するような位置(第1の領域とする)に設けられている。位相物体可視化装置30では、さらに、開口部10aの位置が、点線で示される第1の領域と光軸に対して対称な位置(第2の領域とする)に開口部10aが可変される。位相物体可視化装置30では、開口部10aが第1、2の領域のそれぞれの位置に変更された状態において、撮像素子9によって画像信号(第1の画像信号である)が取得される。二つの第1の画像信号は、いずれも標本Sのエッジ部分で回折された回折光が結像されることにより、標本Sの特定方向のコントラストが際立ったものである。また、二つの第1の画像信号は、それぞれコントラスト、すなわち輝度情報が反転した画像信号でもある。
【0039】
演算装置31は、撮像素子9で取得した画像信号を受信して、受信した画像信号を用いて演算処理を行う演算装置である。
【0040】
図7は、演算装置31が有する機能を機能構成として示した図である。演算装置31はその機能構成として、通信部32と、記憶部33と、演算部34とを有している。
【0041】
通信部32は、撮像素子9から画像信号を受信し、不図示のモニタ等の画像表示媒体へ画像信号の出力を行う。通信部32は、上述した第1の領域と、第2の領域とでそれぞれ取得された第1の画像信号を受信する。また、通信部32は、不図示のモニタ等の画像表示媒体へ第2の画像信号の出力を行う。
【0042】
記憶部33は、通信部32が受信した第1の画像信号を一時的に記憶する記憶手段である。例えば、光軸に対して対称な位置である第1の領域と、第2の領域とで取得される対となる第1の画像信号が揃った状態で、後述する演算部34に向けて対となる第1の画像信号を送信する。
【0043】
演算部34は、受信した上記の対となる第1の画像信号を用いて演算処理を行い、新たな画像信号(第2の画像信号)を生成する。演算部34は、生成した第2の画像信号を通信部32に送信する。
【0044】
以下、位相物体可視化装置30における演算装置31を含む構成を用いて標本Sの可視化を行う方法を、
図8を用いて説明する。
図8は、位相物体可視化装置30を用いて標本Sの可視化を行うフローチャートを示す。
【0045】
図8のステップS1では、開口部10aが
図6に示されるような結像光学系12の光軸から偏心した位置であって、且つ、0次光が開口部10aの一部分を通過するような位置(第1の領域)に配置されるように、開口部10aをユーザが調整する。
【0046】
ステップS2では、撮像素子9が第1の画像信号を取得する。取得された画像信号は、演算装置31の通信部32を介して記憶部33に記憶される。
【0047】
ステップS3では、開口部10aが
図6に示されるような第1の領域と光軸に対して対称な第2の領域に配置されるように、開口部10aをユーザが調整する。
【0048】
ステップS4では、撮像素子9が第1の画像信号を取得する。取得された画像信号は、演算装置31の通信部32を介して記憶部33に記憶される。
【0049】
ステップS5では、ステップS2及びS4で記憶部33に記憶された二つの第1の画像信号を用いて、演算部34において演算処理が実行されることで、第2の画像信号が生成される。第2の画像信号は、二つの第1の画像信号を用いて演算処理を行うことで、以下の画像情報が生成される。
【0050】
先ず、二つの第1の画像信号を用いて差演算処理を実行することでコントラスト強調した画像が形成される。二つの第1の画像信号は、それぞれコントラストが反転した画像信号であるため、差演算処理を実行することで、標本Sの特定方向のコントラストがより強調された画像信号が生成される。例えば、
図6において第1の領域に開口部10aを設置した状態で取得した第1の画像信号から、第2の領域に開口部10aを設置した状態で取得した第1の画像信号を差し引くような差演算処理を実行した場合には、第1の領域に開口部10aを設置した状態で取得した第1の画像信号、即ち差し引かれる側の画像信号で際立つコントラストがより強調された第2の画像信号が生成される。
更に、差演算した画像情報は観察物体の位相分布を微分した情報であることから、積分変換を行うことで観察物体の位相分布情報が形成できる。
【0051】
次に、片方の第1の画像信号を、コントラストを反転させた画像信号(第3の画像信号)として、他方のコントラストを反転させない第1の画像信号と第3の画像信号とは同じコントラストのステレオ画像となることから、第1の画像信号と第3の画像信号にステレオ計測手法を適応することで、観察物体の各点の合焦位置からの光軸方向の位置ズレ量を求めることが可能であり、観察物体の3次元位置情報の計測が可能になる。第2の画像信号として観察物体の3次元位置情報を生成することができる。
【0052】
ステップS6では、通信部32によって、生成された第2の画像信号を含む画像情報がモニタ等の画像表示媒体へ出力される。以上のステップをもって、フローチャートは終了する。
【0053】
以上の構成を有する位相物体可視化装置30によっても、偏斜照明を用いずとも、明瞭に位相物体を可視化することができる。位相物体可視化装置30では、位相物体可視化装置1と比較してよりコントラストが強調された画像信号が得られるため、さらに明瞭に位相物体を可視化することができる。
【0054】
また、上記の説明では、第1の領域と第2の領域は、光軸に対して対称な領域としたが、実際には、標本Sの対称的な方向の1次回折光をそれぞれ含むような領域であればよい。即ち、第2の領域は、第1の領域と光軸に対して対称な領域の少なくとも一部を含む領域であれば発明の効果を奏するものである。
【0055】
以下、第4の実施形態における位相物体可視化装置について図面を用いて説明する。
図9は、第4の実施形態における位相物体可視化装置40を示す。
【0056】
位相物体可視化装置40は、標本Sに対して落射照明を行う落射型の顕微鏡である。そのため、照明光路と標本Sからの光を結像するための光路が一部共通している。
【0057】
位相物体可視化装置40は、標本Sを照明するための照明光路上に光源41と、レンズ42と、ハーフミラー43と、遮光手段44と、対物レンズ45を備える。尚、ハーフミラー43と、遮光手段44と、対物レンズ45は、標本Sからの光を結像するための光路上に設置されたものでもある。位相物体可視化装置40は、標本Sからの光を結像するための光路上にさらに結像レンズ46と撮像素子47を備えている。位相物体可視化装置40は、撮像素子47と接続された演算装置48を備えている。
【0058】
遮光手段44は、対物レンズ45の瞳位置に配置されており、第1の実施形態で説明した遮光手段10と同様の構造を有するものである。即ち、遮光手段44は、開口部44aを備えている。尚、本実施形態において開口部44aは、位相物体可視化装置40が有する光を結像するための光路上の光学系の光軸から偏心した位置にあり、また光軸を含むような位置に備えられている。
【0059】
標本Sは、位相物体であることについては他の実施形態と変わりは無いが、標本Sが培養細胞等の生体標本である場合には、標本Sを収容したウェルプレート等の培養容器の蓋で照明光を反射させることで標本Sからの光を結像する。また、本実施形態では、標本Sは、表面に微細加工を施された金属等の位相物体であってもよい。
【0060】
演算装置48は、第3の実施形態で示した演算装置31と同様の機能を有する。
【0061】
図10と
図11は、開口部44aの配置の一例を示し、開口部44aを光軸方向から見た図である。特に、
図10は、照明時に光源41からの照明光(0次光)が開口部44aを通過する様子を示し、
図11は、結像時に標本Sからの0次光が開口部44aを通過する様子を示している。以下、位相物体可視化装置40において、標本Sへ照明し、標本Sからの光が撮像素子47に結像される流れを、
図10と
図11を用いて説明する。
【0062】
位相物体可視化装置40では、まず、照明時に開口部44aを通過して標本Sに照明光が照射される。このときの開口部44aと、対物レンズ45の瞳位置51へ入射する0次光が形成する領域50と、瞳位置51との位置関係は、
図10のようになる。瞳位置51へ入射した照明光である0次光は、光軸から偏心した位置にある開口部44aを通るため、標本Sに対して偏斜して照明される。同時に、開口部44aは光軸を含むような位置に配置されていることから標本Sに対して垂直に照射される照明光が存在することになる。
【0063】
次に、標本Sからの光が開口部44aに到達する。このときの標本Sから開口部44aへ入射する0次光が形成する領域50の位置は、
図11に示される位置となる。ここで、標本Sに対して垂直に照明される光が存在しているため、0次光は瞳位置51の中心を通っている。また、開口部44aが光軸を含むような位置に備えられているため、瞳位置51の中心付近に入射する0次光(即ち、標本Sからの垂直方向の成分を含む光)は、開口部44aの一部分を通過する。
【0064】
従って、位相物体可視化装置40の構成によっても、
図2等で示した開口部の配置と同じく、標本Sに照射された垂直な照明光により、標本Sのエッジ部分によって回折された特定方向の1次回折光が開口部44aの一部分の領域を通過するようになっている。また、瞳位置51の中心付近から外れた、偏斜照明による回折光や0次光は遮光手段44によって遮断されるため、撮像素子47において結像されることはない。
【0065】
以上の構成を有する位相物体可視化装置40によっても、偏斜照明を用いずとも、明瞭に位相物体を可視化することができる。言い換えるならば、偏斜照明を行うような場合においても、位相物体可視化装置40のように、開口部44aが光学系の光軸を含むような位置に備えられることで標本Sに対して略垂直に照明される光が存在するため、前述した各実施形態の位相物体可視化装置と同様の原理で、明瞭に位相物体を可視化することができる。
【0066】
また、位相物体可視化装置40においても演算装置48を用いて、よりコントラストが強調された画像信号を得ることができる。例えば、
図11のような位置に開口部44aが配置されたとき、その開口部44aが配置された領域を第1の領域として画像信号(第1の画像信号)を取得する。また、
図12のように、開口部44aを第1の領域と光軸に対して対称な領域を含む第2の領域に変更して画像信号(第1の画像信号)を取得する。第1、2の領域のそれぞれで取得した画像信号を用いて標本Sを可視化する手順については、第3の実施形態の
図8等で示した手順と同様である。以上のように、位相物体可視化装置40においても、よりコントラストが強調された画像信号を得ることで、さらに明瞭に位相物体を可視化することができる。
【0067】
上述した実施形態は、発明の理解を容易にするために具体例を示したものであり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。位相物体可視化装置は、特許請求の範囲に記載した本発明を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。