特許第6797570号(P6797570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6797570定着部材、定着部材の製造方法、および画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797570
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】定着部材、定着部材の製造方法、および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20201130BHJP
【FI】
   G03G15/20 515
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-117097(P2016-117097)
(22)【出願日】2016年6月13日
(65)【公開番号】特開2017-3994(P2017-3994A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2019年6月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-119286(P2015-119286)
(32)【優先日】2015年6月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】久保山 あかね
(72)【発明者】
【氏名】馬場 祐介
(72)【発明者】
【氏名】前田 松崇
【審査官】 飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−003223(JP,A)
【文献】 特開2003−167462(JP,A)
【文献】 特開2006−205151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
該基体上の弾性層と、
該弾性層上の、厚さが15μm以上、25μm以下の、フッ素樹脂を含む離型層と、
を有する定着部材の製造方法であって、
(1)メルトフローレート(MFR)が1g/10分以上、3g/10分以下のフッ素樹脂とアクリル樹脂とを含む離型層形成用塗料を調製する工程;
(2)該離型層形成用塗料の塗膜を該弾性層上に形成する工程;および、
(3)該塗膜を焼成して、該塗膜中の該フッ素樹脂を熔融せしめて、該弾性層の表面を熔融した該フッ素樹脂で被覆して、該離型層を形成する工程、
を有し、
該工程(3)は、該塗膜を温度T1℃から温度T2℃に、昇温速度3℃/秒以上、7℃/秒以下で加熱し、さらに、該塗膜をT2℃またはそれ以上の温度に加熱する工程を含むことを特徴とする定着部材の製造方法(、但し、T1℃は、該アクリル樹脂の分解温度を表し、T2℃は、該フッ素樹脂の融点を表す)。
【請求項2】
前記弾性層がシリコーンゴムを含む請求項1に記載の定着部材の製造方法。
【請求項3】
前記フッ素樹脂がPFA樹脂である請求項1または2に記載の定着部材の製造方法。
【請求項4】
前記フッ素樹脂の融点(T2℃)が280℃以上、320℃以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の定着部材の製造方法。
【請求項5】
前記アクリル樹脂の分解温度(T1℃)が、200℃以上、280℃以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の定着部材の製造方法。
【請求項6】
前記離型層形成用塗料に含まれる前記フッ素樹脂が粒子形状であり、該粒子の体積平均粒径が0.1μm以上、0.5μm以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の定着部材の製造方法。
【請求項7】
前記離型層形成用塗料が、さらに、MFRが1g/10分以上、3g/10分以下の範囲外のMFRを有するフッ素樹脂をさらに含み、かつ、該離型層形成用塗料中のフッ素樹脂の全体のMFRが、1g/10分以上、3g/10分以下である請求項1に記載の定着部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を用いた画像形成装置の定着装置に用いる定着部材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザービームプリンタの如き電子写真方式の画像形成装置において、未定着のトナー像を熱及び圧力によって記録材上に定着させる方法として、定着ローラおよび定着ベルトの如き定着部材を用いる方式が採用されている。この方式では、加熱用回転体としての定着部材と、これと対になって配置された加圧用回転体(加圧部材)とが圧接されてニップ部を形成している。そして、そのニップ部を、未定着のトナー像を担持した紙の如き記録材が通過することによってトナーが溶融・加圧されて定着画像が形成される。
【0003】
定着部材としては、基体の外面にシリコーンゴムの如き耐熱ゴムを含む弾性層、およびフッ素樹脂を含む離型層が順次形成された構成のものが用いられている。このような定着部材の作製方法としては、弾性層の表面に、フッ素樹脂粒子を含む離型層形成用塗料(水系分散塗料)を塗装して塗膜を形成し、塗膜をフッ素樹脂の融点以上に加熱して焼成する方法(以下、「コート法」と呼ぶ)がある。
【0004】
しかしながら、においては、塗膜を加熱する際に、シリコーンゴムを含む弾性層も加熱され、膨張する。弾性層の膨張は、離型層にクラックを生じさせることがある。
【0005】
特許文献1は、コート法によって形成されてなる表面層へのクラックの発生を抑制することのできる方法を開示している。すなわち、特許文献1は、段落番号0028において、離型層形成用塗料として、アクリル樹脂の如き成膜剤を含むフッ素樹脂ディスパージョンを用いることが好ましいことを開示している。当該成膜剤は、フッ素樹脂ディスパージョン中のフッ素樹脂粒子同士を、該フッ素樹脂粒子が軟化し始めるまでの間、つなぎとめているものと考えられる。そのため、離型層へのクラックの発生が抑制できるものと考えられる。
【0006】
一方、近年の印刷スピードの高速化に伴い、定着部材にはより高い耐久性が求められている。耐久性に優れる定着部材として、特許文献2には、溶融粘度(メルトフローレート(MFR))が1g/10分〜3g/10分であるフッ素樹脂をコーティングし焼成してなる定着部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本特許公開2006−205151号公報
【特許文献2】日本特許公開2003−167462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、特許文献1の記載に鑑み、MFRが1g/10分〜3g/10分であるフッ素樹脂と成膜剤とが混合された離型層形成用塗料を用いて、平滑な表面を有する離型層を形成することを試みた。その結果、例えば、15μm以上、25μm以下の如き厚みを有する離型層を形成する場合において、離型層にボイドが形成され、厚さ方向にくぼんだ表面欠陥を招来することが判明した。
【0009】
本発明の一態様は、耐久性に優れ、かつ、表面欠陥が少なく平滑な表面を有する定着部材およびその製造方法の提供に向けたものである。
【0010】
また、本発明の他の態様は、高品位な画像を安定して提供することができる画像形成装置の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、基体と、該基体上に設けられた弾性層と、該弾性層上に設けられた、厚さが15μm以上、25μm以下の、フッ素樹脂を含む離型層とを有する定着部材の製造方法であって、
(1)メルトフローレート(MFR)が1g/10分以上、3g/10分以下のフッ素樹脂とアクリル樹脂とを含む離型層形成用塗料を調製する工程;
(2)該離型層形成用塗料の塗膜を該弾性層上に形成する工程;および、
(3)該塗膜を焼成して、該塗膜中の該フッ素樹脂を熔融せしめて、該弾性層の表面を熔融した該フッ素樹脂で被覆して、該離型層を形成する工程、
を有し、
該工程(3)は、該塗膜を温度T1℃から温度T2℃に、昇温速度3℃/秒以上、7℃/秒以下で加熱し、さらに、該塗膜をT2℃またはそれ以上の温度に加熱する工程を含む定着部材の製造方法が提供される(、但し、T1℃は、該アクリル樹脂の分解温度を表し、T2℃は、該フッ素樹脂の融点を表す)。
【0012】
また、本発明の他の態様によれば、基体と、該基体上に設けられた弾性層と、該弾性層上に設けられた、厚さが15μm以上、25μm以下の、フッ素樹脂を含む離型層とを有する定着部材であって、
該フッ素樹脂は、メルトフローレート(MFR)が1g/10分以上、3g/10分以下であり、
該離型層は、該フッ素樹脂を含む離型層形成用塗料の塗膜の焼成物からなり、
該離型層の表面の算術平均粗さ(Sa)が、0.1μm以上、0.5μm以下であり、 該離型層の表面の最大断面高さ(St)が、10.0μm以下である定着部材が提供される。
【0013】
さらにまた、本発明の他の態様によれば、定着部材と加熱手段とを具備する定着装置を備える画像形成装置であって、該定着部材が上記の定着部材であることを特徴とする画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、耐久性に優れ、かつ、表面欠陥が少なく平滑な表面を有する定着部材を得られる。また、本発明の他の態様によれば、高品位な画像を安定して提供することができる、定着装置および画像形成装置を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る定着部材の層構成の一例の断面図である。
図2】本発明に係る定着装置の構成の一例の概略図である。
図3】本発明に係る画像形成装置の構成の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、MFRが1g/10分以上、3g/10分以下であるフッ素樹脂と成膜剤としてのアクリル樹脂とが混合された離型層形成用塗料を用いた場合において、離型層にボイドが発生する理由について検討した。
【0017】
特許文献1には、フッ素樹脂の塗膜を緩やかな昇温条件でフッ素樹脂の融点まで昇温すると、フッ素樹脂が融解し合一するよりも速くアクリル樹脂が分解していき、離型層にクラックが生じやすいことが記載されている。そのため、フッ素樹脂の融点までの昇温速度として、10℃/秒以上、50℃/秒以下であることが好ましいとしている。
【0018】
しかし、本発明者らの検討の結果、MFRが1g/10分以上、3g/10分以下であるフッ素樹脂を含む塗膜を焼成する場合は、上記のような速い昇温速度では、離型層に、クラックとは異なる表面欠陥の発生を招来する場合があることが判明した。
【0019】
すなわち、MFRが1g/10分以上、3g/10分以下であるフッ素樹脂は、溶融時の流動性が低く、アクリル樹脂の分解物が、フッ素樹脂の溶融膜から脱離(揮発)しにくいと考えられる。そのため、アクリル樹脂の分解物が、フッ素樹脂の溶融膜中に気泡として残り、それが、ボイドとなって離型層の表面欠陥を招来すると考えられる。
【0020】
特に、離型層が比較的厚い(15μm以上、25μm以下)場合はボイドに起因する表面欠陥が生じやすい。これは、アクリル樹脂の分解物が、フッ素樹脂の溶融膜から、より一層脱離し難くなるためであると考えられる。
【0021】
したがって、本発明者らは、MFRが1g/10分以上、3g/10分以下であるフッ素樹脂を用いて、膜厚が15μm以上、25μm以下である離型層を形成するためには、フッ素樹脂の塗膜を速すぎない昇温速度で加熱し焼成することが重要であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0022】
すなわち、本発明に係る定着部材の製造方法は、基体と、該基体上に設けられた弾性層と、該弾性層上に設けられた、厚さが15μm以上、25μm以下の、フッ素樹脂を含む離型層とを有する定着部材の製造方法であって、
(1)メルトフローレート(MFR)が1g/10分以上、3g/10分以下のフッ素樹脂とアクリル樹脂とを含む離型層形成用塗料を調製する工程;
(2)該離型層形成用塗料の塗膜を該弾性層上に形成する工程;および、
(3)該塗膜を焼成して、該塗膜中の該フッ素樹脂を熔融せしめて、該弾性層の表面を熔融した該フッ素樹脂で被覆して、該離型層を形成する工程、を有する。
【0023】
そして、上記工程(3)は、該塗膜を温度T1℃から温度T2℃に、昇温速度3℃/秒以上、7℃/秒以下で加熱し、さらに、該塗膜をT2℃またはそれ以上の温度に加熱する工程を含む。ここで、T1℃は、該アクリル樹脂の分解温度を表し、T2℃は、該フッ素樹脂の融点を表す。
【0024】
また、本発明に係る定着部材は、基体と、該基体上に設けられた弾性層と、該弾性層上に設けられた、厚さが15μm以上、25μm以下の、フッ素樹脂を含む離型層とを有する定着部材であって、
該フッ素樹脂は、メルトフローレート(MFR)が1g/10分以上、3g/10分以下であり、
該離型層は、該フッ素樹脂を含む離型層形成用塗料の塗膜を焼成することによって形成されたものであり、
該離型層の表面の算術平均粗さ(Sa)が、0.1μm以上、0.5μm以下であり、該離型層の表面の最大断面高さ(St)が、10.0μm以下である。
【0025】
以下に本発明の詳細を、図面を用いて説明する。
【0026】
<定着部材>
本発明に係る定着部材としては、ベルト形状の定着ベルト、ローラ形状の定着ローラが好ましく用いられる。以下、本発明の定着部材の一実施形態について、定着ベルトを例にとり説明する。
【0027】
本発明の一実施形態に係る定着ベルトは、薄肉の可撓性を有する無端状のベルトである。図1は該定着ベルトの部分断面図を示す。定着ベルト3は、定着ベルト3の内周面側から外周面側に向かって、基体5、弾性層6及び離型層7が設けられた複層構造を有する部材である。なお、弾性層6は複層構成であってもよい。
【0028】
〔基体〕
基体5の材料としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の如き耐熱性樹脂が好ましく用いられる。また、より熱伝導性を高めるために、ステンレス、ニッケル電鋳の如き金属材料を用いてもよい。
【0029】
基体5の厚さは、5μm以上100μm以下、特には20μm以上85μm以下とすることが好ましい。基体5の厚さを100μm以下とすることで、定着ベルト3の熱容量を低く抑えることができ、定着装置に装着した場合にクイックスタート性を満足させることができる。また、基体5の厚さを5μm以上とすることで、十分な機械的強度を有する定着ベルト3を得ることが可能である。
【0030】
〔弾性層〕
基体5の外周面には弾性層6を設けられている。弾性層6を設けることで、高光沢で定着ムラの少ない良質な画像を得ることが可能である。これは、弾性層6が、定着ニップ部8で記録材9上のトナー10や記録材9の繊維形状に対して追従するように変形し、未定着のトナー像を包み込むことによって、トナー像に対して均一に熱を与えることができるためである。
【0031】
弾性層6の厚さは、30μm以上500μm以下、特には100μm以上300μm以下とすることが好ましい。弾性層6の厚さが30μm以上であると、弾性層6の弾性が十分に発揮され、高光沢で定着ムラの少ない良質な画像を得ることが可能である。また、弾性層6の厚さが100μm以下であると、定着ベルト3の熱容量を低く抑えることができ、定着装置のクイックスタート性を満足させることが可能である。
【0032】
弾性層6は、シリコーンゴムを含むことが好ましい。シリコーンゴムの原料は、室温で流動性を持つポリマーであって加熱により硬化が進行する液状シリコーンゴムであることが好ましい。かかる液状シリコーンゴムによって形成された弾性層6は、適度に低硬度であり、定着装置で用いるのに十分な耐熱性と変形回復力を有する。特に、加工性が良好で寸法精度の安定性が高く、かつ、硬化反応時に反応副生成物が発生しないことから、付加反応架橋型の液状シリコーンゴムを用いることが好ましい。
【0033】
付加反応架橋型の液状シリコーンゴム組成物は、基本的な構成成分として下記(a)、(b)及び(c)を含む。
(a)不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサン;
(b)ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサン;
(c)ヒドロシリル化触媒。
【0034】
上記(a)成分である、不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサンとしては以下のものが挙げられる。
・分子両末端がR1R2SiO1/2で表され、中間単位がR1SiO及びR1R2SiOで表される直鎖状オルガノポリシロキサン
・分子両末端がR1R2SiO1/2で表され、中間単位にR1SiO3/2及び/又はSiO4/2が含まれる分岐状ポリオルガノシロキサン
ここで、R1はケイ素原子に結合した、脂肪族不飽和基を含まない1価の非置換又は置換の炭化水素基を表す。具体例は、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基)、アリール基(フェニル基、ナフチル基)、置換炭化水素基(例えば、クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−シアノプロピル基、3−メトキシプロピル基)が挙げられる。
【0035】
特に、合成や取扱いが容易で、優れた耐熱性が得られることから、R1の50%以上がメチル基であることが好ましく、すべてのR1がメチル基であることがより好ましい。
【0036】
また、R2はケイ素原子に結合した不飽和脂肪族基を表す。R2としては、ビニル基、アリール基、3−ブテニル基、4−ペンテニル基、5−ヘキセニル基が例示され、合成や取扱いが容易でシリコーンゴムの架橋反応も容易に行われることから、特にビニル基が好ましい。
【0037】
また、上記(a)成分であるオルガノポリシロキサンの数平均分子量は5000以上100000以下が好ましく、重量平均分子量は10000以上500000以下が好ましい。
【0038】
上記(b)成分である、ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサンは、白金化合物の触媒作用により、上記(a)成分のアルケニル基との反応によって架橋構造を形成させる架橋剤である。
【0039】
上記(b)成分において、ケイ素原子に結合した水素原子の数は、1分子中に平均して3個を越える数であることが好ましい。ケイ素原子に結合した有機基としては、不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサン成分のR1と同じ非置換又は置換の1価の炭化水素基が例示される。特に、合成及び取扱いが容易なことから、メチル基が好ましい。ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサンの分子量は特に限定されない。
【0040】
また、上記(b)成分の25℃における粘度は、好ましくは10mm/s以上100,000mm/s以下、さらに好ましくは15mm/s以上1,000mm/s以下の範囲である。粘度が10mm/s以上であると、該オルガノポリシロキサンが保存中に揮発しにくく、得られるシリコーンゴムにおいて所望の架橋度や物性を得ることができる。また、粘度が100,000mm/s以下であると、該オルガノポリシロキサンの取扱いが容易で系に容易に均一に分散させることができる。
【0041】
上記(b)成分のシロキサン骨格は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、また、これらの混合物を用いることもできる。中でも、合成が容易性であることから、直鎖状のシロキサン骨格を有するものが好ましい。
【0042】
また、上記(b)成分において、Si−H結合は、分子中のどのシロキサン単位に存在してもよいが、少なくともその一部が、R1HSiO1/2単位のように、オルガノポリシロキサンの分子末端に存在することが好ましい。
【0043】
更に、上記(a)成分および上記(b)成分は、付加硬化型シリコーンゴム組成物において、ケイ素原子数に対する不飽和脂肪族基数の割合が、0.001以上0.020以下、より好ましくは0.002以上0.010以下となるように配合されることが好ましい。また、不飽和脂肪族基に対する活性水素の数の割合が、0.3以上0.8以下となるように配合されていることが好ましい。不飽和脂肪族基数に対する活性水素数の割合が0.3以上であると、硬化後のシリコーンゴムにおいて安定して所望の硬度を得ることができる。また、不飽和脂肪族基数に対する活性水素数の割合が0.8以下であると、シリコーンゴムの硬度の過度の上昇を抑えられる。不飽和脂肪族基に対する活性水素の数の割合は、水素核磁気共鳴分析(1H−NMR(商品名:AL400型FT−NMR、日本電子株式会社製))を用いた測定により不飽和脂肪族基数及び活性水素数を定量して算出することができる。
【0044】
上記(c)成分としては、白金化合物およびロジウム化合物の如き公知の物質が挙げられる。
【0045】
また、上記した成分(a)〜(c)の他に、反応制御剤(阻害剤)を含んでもよい。反応制御剤としては、メチルビニルテトラシロキサン、アセチレンアルコール類、シロキサン変性アセチレンアルコール、ハイドロパーオキサイドの如き公知の物質を用いることができる。
【0046】
また、弾性層6の熱伝導率を上げるために、弾性層6中に高熱伝導性フィラー(以下「フィラー」と称する)を含むことが好ましい。該フィラーとしては、SiC、ZnO、Al、AlN、MgO、カーボンを用いることができる。また、これらのフィラーは単一で用いても良く、2種類以上を混合して使用してもよい。なお、これらのフィラーを弾性層6に含有させることで、弾性層6に導電性を付与することも可能である。
【0047】
〔離型層〕
弾性層6の外周面には、フッ素樹脂を含む離型層7が設けられている。離型層7を設けることにより、加熱溶融されたトナー10が定着ベルト3の表面へ付着するのを抑制することが可能である。
【0048】
離型層7を形成するフッ素樹脂としては、四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、四フッ化エチレン(PTFE)樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)樹脂が好ましく用いられる。これらのフッ素樹脂の中でも、特に、トナー10の離型性に優れたPFA樹脂を主たるフッ素樹脂成分として用いることが好ましい。フッ素樹脂中におけるPFA樹脂の割合は、50質量%以上、100質量%以下であることが好ましい。
【0049】
フッ素樹脂としては、耐摩耗性と伝熱性を考慮すると、分子量が大きい、すなわち、メルトフローレート(MFR)が小さいものを用いることが好ましい。具体的には、MFRの範囲が1g/10分以上、3g/10分以下であるフッ素樹脂を用いる。
【0050】
離型層7には、MFRが上記数値範囲外であるフッ素樹脂が含まれていてもよいが、耐久性の観点から、離型層7に含まれるフッ素樹脂の全体のMFRが、1g/10分以上、3g/10分以下であることが好ましい。
【0051】
フッ素樹脂のMFRとは、JIS K7210−1:2014のA法に準じ、温度372℃、荷重5kgfの条件下において、標準ダイを使用して測定した値である。MFRの測定試料としては、例えば、定着ベルト3の離型層7を4〜6g削り取ったものを用いることができる。
【0052】
離型層7の表面の算術平均粗さ(Sa)は、0.1μm以上、0.5μm以下である。算術平均粗さ(Sa)が0.5μm以下であると、ニップ部8における記録材9およびトナー10と定着ベルト3との接触状態が良好であるため、トナーを十分に溶融することができ、良好な画像を得ることが可能である。また、算術平均粗さ(Sa)が0.1μmより小さく、表面が過度に平滑であると、オフセットと呼ばれる画像不良が生じる可能性がある。これは、記録材9とトナー10との接着力よりもトナー10の離型層7への付着力が強くなりやすく、記録材9と定着ベルト3がニップ部8を通過する際に、トナー10の一部が記録材9に定着されずに定着ベルト3の表面に付着したまま周回することがあるためである。その結果、定着ベルト3が次に記録材9と接触した際に、定着ベルト3上に移ったトナーが記録材9に定着されてオフセットが生じ得る。
【0053】
また、本発明において、離型層7の表面の最大断面高さ(St)は、10.0μm以下である。最大断面高さ(St)が10.0μmより高い部分が離型層7の表面に存在すると、形成される画像上に欠陥が生じ得る。なお、最大断面高さ(St)は0.2μm以上であることが好ましい。
【0054】
上記算術平均粗さ(Sa)及び最大断面高さ(St)は、日本工業規格(JIS)B0601:2001に規定される線粗さを表すパラメータである「粗さ曲線の算術平均粗さ(Ra)」及び「粗さ曲線の最大断面高さ(Rt)」を、それぞれ、三次元に拡張したパラメータである。これらは、市販の非接触式白色干渉計(例えば、VertScan(菱化システム社製))によって測定することができる。具体的には、次のようにして測定する。
【0055】
まず、定着ベルト3の表面の三次元画像を、5倍の対物レンズを用いて、測定範囲XY=952×702μmの範囲で取得する。そして、取得した画像について、全測定範囲領域の高さデータをもとに、二次曲線で近似して近似曲面を求め、該近似曲面が水平になるように面補正を行う(2次曲面補正)。
【0056】
次に、面補正した画像において、カットオフ値500μmでうねり成分を除去して計測表面を得る。得られた計測表面の全領域(952×702μm)を評価領域とし、該計測表面における算術平均粗さ(Sa)及び最大断面高さ(St)をそれぞれ求める。ここで、算術平均粗さ(Sa)は、評価領域中の各点の高さの絶対値の平均値として算出し、最大断面高さ(St)は、評価領域中の、平均面からの最大山高さと最大谷深さの和として算出する。なお、本発明でいう最大断面高さ(St)とは、仮に離型層7表面の一部に局所的な欠陥や局所的な粗さの変化部位が存在したとしても、それらを除外しないで求めるものとする。
【0057】
この測定を、定着ベルト3の表面の全面において行う。本発明において、全ての計測表面における算術平均粗さ(Sa)および、全ての計測表面における最大断面高さ(St)が、それぞれ上記した数値範囲内に入っているものとする。ただし、定着ベルト3の表面において、記録材が通過しない領域については必ずしもこの限りではない。
【0058】
離型層7の厚さは、15μm以上、25μm以下、特には、18μm以上、22μm以下とすることが好ましい。離型層7の厚さが15μm以上であると、離型層7の耐摩耗性や耐摺擦性が良好である。また、離型層7の厚さが25μm以下であると、定着ベルト3の伝熱性が良好であり定着ベルト3の熱容量を低く抑えることができるため、定着装置のクイックスタート性を達成することが可能である。
【0059】
〔離型層の形成方法〕
本発明において、離型層7はコート法によって形成される。
【0060】
コート法は、
アクリル樹脂と、メルトフローレートが1g/10分以上3g/10分以下のフッ素樹脂と、を含む離型層形成用塗料を調製する工程、
該離型層形成用塗料の塗膜を該弾性層の表面に形成する工程、および、
該塗膜を焼成する工程を含む。
【0061】
従って、コート法によって得られる離型層は、メルトフローレートが1g/10分以上3g/10分以下のフッ素樹脂を含む離型層形成用塗料の塗膜の焼成物ということができる。
【0062】
離型層7の形成方法としては、コート法以外に、予め押出成形により円筒状に作製したフッ素樹脂チューブを弾性層6の表面に被覆して接着する方法(以下、「チューブ法」と呼ぶ)がある。このうち、加工精度や生産性の観点からコート法の方が有利である。例えば、チューブ法で形成した離型層7はコート法で形成した離型層7に比べて算術平均粗さ(Sa)が約一桁小さくなる。そのため、コート法で形成した離型層と比較して、相対的にオフセットが発生し易くなる傾向がある。
【0063】
コート法による離型層7の形成方法を以下に説明する。
【0064】
(i)離型層形成用塗料の調製工程、および、離型層形成用塗料の塗膜の形成工程
まず、メルトフローレートが、1g/10分以上3g/10分以下のフッ素樹脂を含む離型層形成用塗料を調製する。次いで、該離型層形成用塗料を、弾性層6上に塗布して乾燥させ、フッ素樹脂を含む塗膜(以下、単に「塗膜」とも称す)を形成する。
【0065】
ここで、離型層形成用塗料とは、上記フッ素樹脂に加えて、成膜剤としてのアクリル樹脂が分散されたものである。
アクリル樹脂の分解温度(T1)は、200℃以上、280℃以下、特には、220℃以上、260℃以下であることが好ましい。
【0066】
なお、アクリル樹脂の分解温度(T1)とは、熱重量分析(TG)(メトラートレド社製:商品名:TGA851)で、大気下、1℃/分で25〜400℃まで昇温させたときの分解開始温度のことである。分解開始温度は低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、TG曲線の変曲点での接線との交点の温度として定義される。
【0067】
このようなアクリル樹脂としては、アクリル酸及びその誘導体、メタクリル酸及びその誘導体のうち、一種又は複数種を重合して得られる重合体が挙げられる。誘導体としてはエステル、酸無水物が挙げられ、特に、炭素数1〜8のアルキル基を含有するものが好ましい。該アクリル樹脂の好ましい具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸エチルのうち一種又は複数種を重合して得られる重合体が挙げられる。特には、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、及びメタクリル酸からなる3元重合体であることが好ましい。
【0068】
アクリル樹脂は、離型層形成用塗料中に、0.5質量%以上、30質量%、特には1質量%以上、20質量%以下の割合で含まれることが好ましい。
【0069】
離型層形成用塗料中に含まれるフッ素樹脂は、表面層を形成しやすいことから、粒子形状であることが好ましい。フッ素樹脂粒子の平均粒径(体積平均粒径)は、0.1μm以上、0.5μm以下であることが好ましい。フッ素樹脂粒子の体積平均粒径は、光散乱法で測定したときの、体積平均粒径である。
【0070】
このようなフッ素樹脂粒子としては、三井・デュポンフロロケミカル社製PFA:350−J、450HP−J、451HP−J、950HP Plus、951HP Plusが挙げられる。
【0071】
なお、離型層形成用塗料中には、これらの他に、界面活性剤及び/又は粘度調整剤を含んでいてもよい。該界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの如き非イオン性界面活性剤が挙げられる。粘度調整剤としては、エチレングリコールが挙げられる。
【0072】
また、離型層形成用塗料の粘度は、塗料の塗工性の観点から、300cpより高く、1500cp以下であることが好ましい。ここでいう粘度とは、B型粘度計(英弘精機社製、商品名:DV−E)を用いて、温度25℃、回転数20rpmの条件で測定した値である。
【0073】
なお、離型層形成用塗料を弾性層上に塗布する前に、弾性層6と離型層7との接着性を高めるために、弾性層6に表面処理を行ってもよい。該表面処理としては、具体的には、シランカップリング剤の塗布、紫外線(UV)照射、プラズマ処理やフレーム処理が挙げられる。特に、UV処理を行うことで、シリコーンゴム弾性層表面のタック性が低下し、かつ、シリコーンゴム弾性層の表面を親水性にすることが可能である。なお、紫外線照射処理の後にシランカップリング剤を塗布するなど、複数の表面処理を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
(ii)塗膜を焼成して離型層を形成する工程
焼成工程は、弾性層6の表面上の塗膜を温度T1℃から温度T2℃に加熱する。このときに昇温速度は、3℃/10分以上7℃/10分以下である。続いて、該塗膜を、T2℃またはそれ以上の温度に加熱し、該塗膜中のフッ素樹脂を熔融せしめ、該弾性層の表面を熔融した該フッ素樹脂の膜で被覆して、該離型層を形成する。該塗膜を加熱すると、まずアクリル樹脂が先に分解し始め、続いてフッ素樹脂が融解し合一化してフッ素樹脂膜となる。
【0075】
ここで、アクリル樹脂の分解温度をT1℃、フッ素樹脂の融点をT2℃としたとき、塗膜がT1℃からT2℃まで加熱されるときの昇温速度が、3℃/秒以上、7℃/秒以下となるように、塗膜を加熱する。T1℃からT2℃までの昇温速度とは、塗膜がT1℃からT2℃まで加熱されるのに要する時間をt(秒)としたときに、(T2−T1)/tで表される値である。昇温速度をこの範囲とすることで、ボイドやクラックの発生が抑制され、平滑な表面を有する離型層7を形成することができる。昇温速度が7℃/秒を超えると、昇温速度が速すぎるためボイドが発生しやすくなる。又、昇温速度が3℃/秒未満の場合は、昇温速度が遅すぎるためクラックが発生しやすくなる。
【0076】
なお、本発明でいうフッ素樹脂の融点(T2)とは、示差走査熱量分析(DSC)(メトラートレド社製:商品名DSC823)で、昇温速度20℃/分で昇温させたときの吸熱ピークのピークトップの温度である。フッ素樹脂を約5mg精秤し、これをアルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用い、温度範囲50〜400℃で測定する。フッ素樹脂の融点は、通常、280℃以上、320℃以下、特には、290℃以上、315℃以下である。
【0077】
フッ素樹脂を融解して膜を形成するために、塗膜は、少なくともT2+15℃以上の温度で加熱することが望ましい。具体的には、フッ素樹脂の融点(T2)に応じて、320℃以上、400℃以下の温度範囲で加熱することが好ましい。また、塗膜の加熱時間は、弾性層6の熱劣化を招くため、1分以上、15分以下とすることが望ましく、さらに好適には3分以下とすることが望ましい。
【0078】
塗膜の加熱工程においては、フッ素樹脂の塗膜の全域において、昇温速度が上記範囲に入るように、均一に加熱ができる焼成装置を用いることが好ましい。焼成装置としては、オーブン、マッフル炉、赤外線ランプ加熱装置、管状炉が挙げられるが、本発明は必ずしもこれら焼成手段に限定されるものではない。
【0079】
<定着装置>
定着装置114は、電子写真画像形成装置に用いる定着装置であって、本発明に係る定着部材が、定着ベルトあるいは定着ローラとして配置されているものである。
【0080】
以下、定着装置の一実施形態について、上記した定着ベルト3を搭載した定着ベルト方式の定着装置を例にとり説明する。
【0081】
図2は、定着装置の断面の概略図である。
【0082】
定着装置は、加熱体としてのセラミックスヒータ1と、支持部材としてのヒータホルダ2と、加熱回転体としての無端状の定着ベルト3と、加圧回転体(バックアップ部材)としての加圧部材4とを有している。
【0083】
ヒータホルダ2は、剛性を有する耐熱性材料からなり、横断面が略樋形状である。そしてヒータホルダ2の中央の下面に設けられた溝部で、セラミックスヒータ(以下、「ヒータ」と記す)1を支持している。
【0084】
定着ベルト3は、ヒータ1を支持させたヒータホルダ2の外周にルーズに外嵌されている。さらに定着ベルト3の内周面(内面)には、ヒータ1との摺動性を向上させるためにグリスが塗られている。
【0085】
加圧部材4は、定着ベルト3の下方で定着ベルト3と略平行に配置されている。そしてこの加圧部材4とヒータ1との間には加圧機構(不図示)により所定の圧力がかけられており、定着ベルト3をヒータ1側に加圧している。この圧力により、上述の定着ベルト3の弾性層6が弾性変形し、定着ベルト3の表面と加圧部材4の表面との間に所定幅の定着ニップ部8を形成している。
【0086】
加圧部材4は、少なくとも画像形成時には、制御回路部(不図示)で制御されるモータ(不図示)によって所定の速度で矢印に示す反時計方向に回転駆動される。この加圧部材4の回転によって、ニップ部8において、加圧部材4と定着ベルト3との間に摩擦力が生じる。これにより、定着ベルト3は、その内面がセラミックスヒータ1の底面と密着して摺動しながら、矢印に示す時計方向に、加圧部材4の回転周速度にほぼ対応した周速度で回転する。即ち、画像形成部側から搬送されてくる、未定着トナー10を担持した記録材9の搬送速度とほぼ同一の周速度で回転される。
【0087】
セラミックヒータ1が所定の定着温度に温調され、また、加圧部材4が回転駆動されている状態において、ニップ部8に、未定着トナー10を有する記録材9がそのトナー像担持面側を定着ベルト3側にして導入される。記録材9は、ニップ部8において、定着ベルト3の外面に密着して定着ベルト3と一緒に挟持搬送されていく。これにより、記録材9に対して、セラミックスヒータ1の熱が定着ベルト3を介して、また、加圧力が加圧部材4を介して付与され、未定着トナー10が記録材9の表面に定着される。ニップ部8を通過した記録材9は、定着ベルト3の外周面から自己分離して定着装置外へ搬送される。
【0088】
<画像形成装置>
図3は、本発明に係る定着部材としての定着ベルトを用いた定着装置114を、記録材上の未定着トナーを加熱処理して定着する定着装置として搭載した画像形成装置100の一例の構成の概略図である。この画像形成装置100は電子写真方式を用いたカラープリンタである。
【0089】
画像形成装置100は、パーソナルコンピュータ、イメージリーダーの如き外部ホスト装置200から画像形成装置側の制御回路部(制御手段)101に入力する電気的画像信号に基づいて記録材としてのシート状の記録材9にカラー画像形成を行う。制御回路部101はCPU(演算部)、ROM(記憶手段)を含み、ホスト装置200や画像形成装置100の操作部(不図示)との間で各種の電気的な情報の授受を行う。また、制御回路部101は画像形成装置100の画像形成動作を所定の制御プログラムや参照テーブルに従って統括的に制御する。
【0090】
Y、C、M、Kは、それぞれ、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの色トナー像を形成する4つの画像形成部であり、画像形成装置内において下からY、C、M、Kの順に配列されている。各画像形成部Y、C、MおよびKは、それぞれ、像担持体としての電子写真感光体ドラム51と、このドラム51に作用するプロセス手段としての、帯電装置52、現像装置53、クリーニング装置54を有している。イエローの画像形成部Yの現像装置53には現像剤としてイエロートナーが、シアンの画像形成部Cの現像装置53には現像剤としてシアントナーが収容されている。マゼンタの画像形成部Mの現像装置53には現像剤としてマゼンタトナーが、ブラックの画像形成部Kの現像装置53には現像剤としてブラックトナーがそれぞれ収容されている。ドラム51に露光を行うことにより静電潜像を形成する光学系55が上記4色の画像形成部Y、C、M、Kに対応して設けられている。光学系としては、レーザー走査露光光学系を用いている。
【0091】
各画像形成部Y、C、M、Kにおいて、帯電装置52により一様に帯電されたドラム51に対して光学系55より画像データに基づいた走査露光がなされる。これにより、ドラム面に走査露光画像パターンに対応した静電潜像が形成される。それらの静電潜像が現像装置53によりトナー像として現像される。即ち、例えば、イエローの画像形成部Yのドラム51にはフルカラー画像のイエロー成分像に対応したイエロートナー像が形成される。
【0092】
各画像形成部Y、C、M、Kのドラム51上に形成された上記の色トナー像は各ドラム51の回転と同期して、略等速で回転する中間転写体56上へ所定の位置合わせ状態で順に重畳されて一次転写される。これにより中間転写体56上に未定着のフルカラートナー像が合成形成される。本実施例においては、中間転写体56として、エンドレスの中間転写ベルトを用いており、該ベルト56は、駆動ローラ57、二次転写ローラ対向ローラ58、テンションローラ59の3本のローラに巻きかけて張架してあり、駆動ローラ57によって駆動される。
【0093】
各画像形成部Y、C、M、Kのドラム51上からベルト56上へのトナー像の一次転写手段としては、一次転写ローラ60を用いている。ローラ60に対して不図示のバイアス電源よりトナーと逆極性の一次転写バイアスを印加する。これにより、各画像形成部Y、C、M、Kのドラム51上からベルト56に対してトナー像が一次転写される。
【0094】
各画像形成部Y、C、M、Kにおいてドラム51上からベルト56へトナー像が一次転写された後、ドラム51上に残留したトナーはクリーニング装置54により除去される。
【0095】
上記工程をベルト56の回転に同調して、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色に対して行い、ベルト56上に、各色の一次転写トナー像を順次重ねて形成していく。なお、単色のみの画像形成(単色モード)時には、上記工程は、目的の色についてのみ行われる。
【0096】
一方、記録材カセット61内の記録材9が給送ローラ62により所定のタイミングで一枚分離され給送される。そして、その記録材9がレジストローラ63により所定のタイミングで、二次転写ローラ対向ローラ58に巻きかけられている中間転写ベルト部分と二次転写ローラ64との圧接部である転写ニップ部に搬送される。ベルト56上に形成された一次転写トナー像は、二次転写ローラ64に不図示のバイアス電源より印加されるトナーと逆極性のバイアスにより、記録材9上に一括転写される(二次転写)。
【0097】
二次転写後にベルト56上に残留した二次転写残トナーは中間転写ベルトクリーニング装置65により除去される。記録材9上に二次転写された未定着トナー像は、定着装置114により記録材9上に溶融混色定着され、フルカラープリントとして排紙パス66を通って排紙トレイ67に送り出される。
【実施例】
【0098】
<定着部材の作製>
(定着ベルトE1)
ステンレス鋼(SUS)製の、外径30mm、厚さ40μm、長さ240mmの基体を用意した。基体上に、液状シリコーンゴム混合物(東レ・ダウコーニング社製:DY35−4097)を、プライマー(東レ・ダウコーニング社製:DY39−051)を介してリングコート法により厚さ300μmで塗膜し、その後、架橋させて弾性層を形成した。架橋は、温風循環式オーブンにより200℃にて4時間行った。次に、弾性層の表面に対してUV処理を行った。
【0099】
次いで、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越シリコーン社製、商品名:「KBE−903」)を、エタノールを用いて重量比で5倍に希釈したシランカップリング剤溶液を弾性層の表面にスプレーにて塗布し、室温にて自然乾燥した。乾燥後のシランカップリング剤の塗膜の膜厚が1.0μmになるようにした。
【0100】
次に、MFRが3g/10分のPFA樹脂粒子(三井・デュポンフロロケミカル社製、商品名:「350−J」)、および、成膜剤として分解温度(T1)が240℃であるアクリル樹脂を水に添加し分散させた離型層形成用塗料を、弾性層の表面に厚さが25μmになるようにスプレーにて塗布した。その後、室温にて15分間乾燥させ、離型層形成用塗料の塗膜を形成した。なお、本定着ベルトの作製に使用したPFA樹脂の融点(T2)は310℃である。
【0101】
その後、塗膜が形成されたベルトを360℃に調整した炉に投入し、1分間保持してPFA樹脂を加熱し溶融した。このとき、塗膜直下に差し込んだ熱電対で塗膜の温度を測定し、塗膜の昇温速度を算出したところ、5℃/秒であった。その後、得られたベルトを冷風により急冷し、25μmn厚さを有する離型層を備えた定着ベルトE1を得た。
【0102】
(定着ベルトE2)
離型層の膜厚を20μmに、昇温速度を7℃/秒に変更したこと以外は実施例1と同様にして定着ベルトE2を作製した。
【0103】
(定着ベルトE3)
離型層の膜厚を20μmに、昇温速度を3℃/秒に変更したこと以外は実施例1と同様にして定着ベルトE3を作製した。
【0104】
(定着ベルトE4)
離型層の膜厚を20μmに、昇温速度を3℃/秒に変更し、成膜剤として分解温度(T1)が260℃であるアクリル樹脂を使用したこと以外は実施例1と同様にして定着ベルトE4を作製した。
【0105】
(定着ベルトE5)
離型層の膜厚を20μmに変更し、フッ素樹脂粒子としてMFRが1g/10分であるPFA樹脂粒子(三井・デュポンフロロケミカル社製:451HP―J)を使用したこと以外は実施例1と同様にして定着ベルトE5を作製した。
【0106】
(定着ベルトE6〜E8)
離型層の膜厚を20μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして定着ベルトE6〜E8を作製した。
【0107】
(定着ベルトE9)
離型層の膜厚を15μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして定着ベルトE9を作製した。
【0108】
(定着ベルトC1)
離型層の膜厚を20μmに、昇温速度を10℃/秒に変更したこと以外は実施例1と同様にして定着ベルトC1を作製した。
【0109】
(定着ベルトC2)
離型層の膜厚を20μmに、昇温速度を2℃/秒に変更したこと以外は実施例1と同様にして定着ベルトC2を作製した。
【0110】
(定着ベルトC3)
離型層の膜厚を20μmに変更し、フッ素樹脂粒子としてMFRが8g/10分であるPFA樹脂粒子(三井・デュポンフロロケミカル社製:945HP Plus)を使用したこと以外は実施例1と同様にして定着ベルトC3を作製した。
【0111】
(定着ベルトC4)
離型層の膜厚を10μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして定着ベルトC4を作製した。
【0112】
<定着ベルトの表面観察>
作製した定着ベルトE1〜E9及び定着ベルトC1〜C4について、離型層の表面を目視で観察し、クラックまたはボイドに起因する表面欠陥の発生の有無を調べた。結果は表1に示す。
【0113】
表1に示す通り、昇温速度が3℃/秒以上、7℃/秒以下の範囲に入っている定着ベルトE1〜E9は、ボイドやクラックが認められなかった。しかし、昇温速度が7℃/秒より高い比較例1に係る定着ベルトC1ではクラックの発生が、昇温速度が3℃/秒未満である比較例2に係る定着ベルトC2ではボイドの発生が、それぞれ認められた。
【0114】
【表1】
【0115】
<定着ベルトの性能評価>
作製した定着ベルトE1〜E9及び定着ベルトC1〜C4について、下記(1)〜(2)に係る性能評価、および、下記(3)に係る測定を行った。結果を表2に示す。
【0116】
(1)耐久試験
上記各定着ベルトについて、離型層の耐久性を評価するために耐久試験を行った。まず、図2に示す構成を有する定着装置に各定着ベルトを装着し、この定着装置を、60枚/分(プロセススピード350mm/sec)の出力が可能なレーザービームプリンタに組み込んだ。そして、連続通紙モードでA4サイズの紙を連続して30万枚通紙した。定着時の各定着ベルトの表面温度は200℃に設定し、通紙は温度15℃、湿度20%の環境下で行った。そして、連続通紙後に定着ベルトを取り外し、該定着ベルトの表面を目視で観察し、定着ベルトの耐久性を下記基準にて評価した。
評価ランク「A」:離型層の剥離が認められない。
評価ランク「B」:離型層の紙のエッジが当接する部位(紙コバ部)に剥離が認められる。
【0117】
(2)定着試験
(2−1)電子写真画像へのオフセット起因による不良の有無の観察
上記各定着ベルトの定着性を評価する試験を行った。上記(1)と同様に、図2に示す構成を有する定着装置に上記各定着ベルトを装着し、この定着装置を、60枚/分(プロセススピード350mm/sec)の高速定着が可能なレーザービームプリンタに組み込んだ。そして、記録材9として、坪量75g/cmのレターサイズのラフ紙(Fox River Paper社製:フォックスリバーボンド)を用い、5mm角の黒およびハーフトーン(灰色)パターンが1枚の紙上に、それぞれ9か所ずつ形成された画像を、連続で250枚出力した。なお、画像出力中の定着ベルトの表面温度は200℃になるように設定した。また、画像の出力は、温度15℃、相対湿度/20%の環境下で行った。 そして、250枚目の画像において、オフセットによる画像不良が見られるか否かを確認した。
【0118】
(2−2)濃度低下率の測定および評価
上記(2−1)に係る評価に供した250枚目の画像について、温度15℃、相対湿度/20%の環境に保たれた実験室内で摺り試験を実施した。摺り試験は、22mm角のシルボン紙を画像に対して190gfの力で押しつけ、その状態で10回擦って行った。そして、摺擦前および摺擦後の全パターンの光学濃度を、濃度測定器(マクベス社製)を用いて測定し、下記式によって、濃度低下率を算出した。

濃度低下率(%)=摺擦後の光学濃度/摺擦前の光学濃度×100
この擦り試験による濃度低下率が小さいほど定着性が良いということになる。この濃度低下率を、250枚目の画像上の全てのパターン上において算出し、下記基準にて定着ベルトの定着性を評価した。
評価ランク「A」:全てのパターンにおいて濃度低下率が20%以下である。
評価ランク「B」:濃度低下率が20%を超えるパターンが1つ以上ある。
【0119】
(3)表面性状パラメータの測定
先に述べた方法によって、各定着ベルトの離型層の表面全域において、算術平均粗さ(Sa)および最大断面高さ(St)をそれぞれ算出した。そして、得られた算術平均粗さ(Sa)のうち、最小値および最大値を求め、それぞれSa(min)およびSa(max)とした。また、得られた最大断面高さ(St)の最大値をSt(max)として求めた。
【0120】
【表2】
【0121】
実施例に係る定着ベルトにおいては、フッ素樹脂を焼成した後のベルトの表面を研磨することなく、所望の算術平均粗さ(Sa)にすることができた。また、実施例に係る定着ベルトは、いずれも、耐久性、定着性、およびオフセット性に優れていた。
【0122】
一方、比較例1に係る、算術平均粗さ(Sa)が大きい定着ベルトでは定着性が低下した。
【0123】
また、比較例3に係る、MFRが大き過ぎるPFA樹脂を用いて作製された定着ベルトでは、表面性状パラメータの数値が上記範囲内に入っていても、耐久性が良好でなかった。
【符号の説明】
【0124】
3 定着ベルト(定着部材)
5 基体
6 弾性層
7 離型層
100 画像形成装置
114 定着装置
図1
図2
図3