(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6797632
(24)【登録日】2020年11月20日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】フッ素含有水の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20060101AFI20201130BHJP
B01D 61/36 20060101ALI20201130BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20201130BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20201130BHJP
【FI】
C02F1/44 E
B01D61/36
B01D71/34
B01D71/36
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-206017(P2016-206017)
(22)【出願日】2016年10月20日
(65)【公開番号】特開2018-65101(P2018-65101A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】中野 徹
(72)【発明者】
【氏名】寺師 亮輔
【審査官】
小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2015−518781(JP,A)
【文献】
特開昭60−147285(JP,A)
【文献】
特開2013−119487(JP,A)
【文献】
特開2004−188411(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/006670(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/00−71/82
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物イオン及びケイフッ化物イオンの少なくとも一方を含む被処理液を処理するフッ素含有水の処理方法であって、
前記被処理液のpHが1以上6以下の条件で、疎水性多孔膜の一方の側に前記被処理液を供給して前記疎水性多孔膜により膜蒸留を行って前記被処理液におけるフッ素成分濃度を高め、
凝縮水を得たのちの気体部分におけるフッ化水素濃度が10体積ppm以下となるように、前記疎水性多孔膜の他方の側に透過しかつフッ素化合物を含む蒸発蒸気を冷却して前記凝縮水を得る、フッ素含有水の処理方法。
【請求項2】
前記凝縮水を得たのちの気体部分におけるフッ化水素濃度が1体積ppm以下となるように前記蒸発蒸気を冷却する、請求項1に記載のフッ素含有水の処理方法。
【請求項3】
前記疎水性多孔膜は、ポリテトラフルオロエチレン膜あるいはポリフッ化ビニリデン膜である、請求項1または2に記載のフッ素含有水の処理方法。
【請求項4】
フッ化物イオン及びケイフッ化物イオンの少なくとも一方を含む被処理液を処理するフッ素含有水の処理装置であって、
疎水性多孔膜と、前記疎水性多孔膜の一方の表面に接して設けられた濃縮室と、前記疎水性多孔膜の他方の表面に接して設けられた減圧室と、を有する膜蒸留モジュールと、
前記疎水性多孔膜を介して前記減圧室に透過した蒸発蒸気を冷却して凝縮水を生成する凝縮手段と、
前記減圧室内を減圧する減圧手段と、
を備え、
pHが1以上6以下である前記被処理液を前記濃縮室に供給して前記疎水性多孔膜により膜蒸留を行い、前記濃縮室内の前記被処理液におけるフッ素成分濃度を高め、
前記凝縮手段は、前記凝縮水を得たのちの気体部分におけるフッ化水素濃度が10体積ppm以下となるように、前記蒸発蒸気を冷却する、フッ素含有水の処理装置。
【請求項5】
前記減圧手段は前記凝縮手段を介して前記減圧室内を減圧する、請求項4にフッ素含有水の処理装置。
【請求項6】
前記凝縮手段は、前記減圧室の壁面を冷却する冷却手段によって構成されている、請求項4に記載のフッ素含有水の処理装置。
【請求項7】
前記濃縮室における前記被処理液に接する壁面と、前記減圧室における前記蒸発蒸気に接する壁面とが樹脂で形成されている、請求項4乃至6のいずれか1項に記載のフッ素含有水の処理装置。
【請求項8】
前記疎水性多孔膜は、ポリテトラフルオロエチレン膜あるいはポリフッ化ビニリデン膜である、請求項4乃至7のいずれか1項に記載のフッ素含有水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物イオン(F
-)及びケイフッ化物イオン(SiF
62-;ヘキサフルオロケイ酸イオンとも呼ぶ)の少なくとも一方を含有する被処理液を濃縮して処理する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ酸廃液やケイフッ酸廃液などのフッ化物イオンやケイフッ化物イオンを含む水性廃液を回収して再利用しあるいは廃棄処理のために減容するために、その廃液に対する濃縮処理が行われる。特許文献1には、フッ化物イオンの形態でフッ酸含有廃液に含まれるフッ素成分を効率よく回収する方法として、加熱蒸発缶により水分をフラッシュ蒸発させてフッ素成分を濃縮し、水分に随伴して気相側に表われたフッ化水素(HF)ガスを後段で水やアルカリに吸収させて除去することが開示されている。
【0003】
ところで、フッ素化合物を含む廃液を酸性で加熱濃縮すると、人体に有害なフッ化水素ガスや四フッ化ケイ素(SiF
4)ガスを生成する。加熱蒸発缶は、構造上、気液分離のための空間が大きいため、加熱蒸発缶の蒸発缶部分内にこれらのガスで充満し、万が一漏洩した場合には非常に危険である。また、これらのガスは装置を腐食させるため、耐食性のある高価な金属製の設備、あるいはライニングを施した設備を使用する必要がある。腐食の問題を解決するために安価な樹脂により蒸発缶を製造すると、先に述べたように空間が大きい構造であるため、耐久性の点で問題が生じる。さらに、蒸発缶を減圧するためのブロアあるいは真空ポンプは酸性のガスを吸引すると腐食するため、蒸発缶から発生したフッ化水素ガスあるいは四フッ化ケイ素ガスの大部分を除去する必要がある。そのためには、特許文献1に記載されるように、発生したガスを単純に水と接触させるだけではなく、アルカリと接触させたり、あるいは多段階で水と接触させたりする必要があり、設備が大掛かりなものとなってしまう。
【0004】
フッ化物イオンやケイフッ化物イオンを含む廃液からフッ素成分を濃縮する方法として、廃液をアルカリ性にする方法もあるが、廃液をアルカリ性にするためにコストがかかる上に、反応生成物としてフッ化ナトリウム(NaF)などの析出物が生成するという問題を生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−188411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、フッ化物イオンやケイフッ化物イオンを含む被処理液においてフッ素成分を濃縮する場合、加熱蒸発缶を用いる場合には安全面での十分な配慮が必要であり、また設備の小型化が難しいという課題がある。アルカリを用いてフッ素成分を濃縮する場合には、アルカリを利用することによるコストの問題や析出物の問題がある。
【0007】
本発明の目的は、フッ化物イオンやケイフッ化物イオンを含む被処理液を小型で安価な設備で濃縮分離できるとともに、生成するフッ化水素ガスや四フッ化ケイ素ガスを速やかに無害化できる処理方法及び処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフッ化物イオン及びケイフッ化物イオンの少なくとも一方を含む被処理液を処理するフッ素含有水の処理方法は、被処理液のpHが1以上6以下の条件で、疎水性多孔膜の一方の側に被処理液を供給して疎水性多孔膜により膜蒸留を行って被処理液におけるフッ素成分濃度を高め、疎水性多孔膜の他方の側に透過しかつフッ素化合物を含む蒸発蒸気を冷却して凝縮水を得る。
【0009】
本発明のフッ化物イオン及びケイフッ化物イオンの少なくとも一方を含む被処理液を処理するフッ素含有水の処理装置は、疎水性多孔膜と、疎水性多孔膜の一方の表面に接して設けられた濃縮室と、疎水性多孔膜の他方の表面に接して設けられた減圧室と、を有する膜蒸留モジュールと、疎水性多孔膜を介して減圧室に透過した蒸発蒸気を冷却して凝縮水を生成する凝縮手段と、減圧室内を減圧する減圧手段と、を備え、pHが1以上6以下である被処理液を濃縮室に供給して疎水性多孔膜により膜蒸留を行い、濃縮室内の被処理液におけるフッ素成分濃度を高める。
【0010】
本発明では、膜蒸留を用いることにより、被処理液の水分を水蒸気として疎水性多孔膜を透過させ、これにより被処理液におけるフッ素成分を濃縮させている。フッ化物イオン及びケイフッ化物イオンの少なくとも一方を含む被処理液に含まれるフッ素成分あるいはフッ素化合物は、イオンに解離している状態であれば膜蒸留によって疎水性多孔膜を通過することはなく、疎水性多孔膜の供給側に留まることになる。またフッ化水素酸は弱酸に分類されるので、液性によっては被処理液中にはフッ化水素分子が存在することになるが、フッ化水素分子は強い極性分子であり、水分子と比べても疎水性多孔膜を通過しにくい。したがって、疎水性多孔膜の使用により、被処理液中のフッ素成分を効率よく濃縮することができる。
【0011】
もっとも、フッ化水素分子が疎水性多孔膜に対して完全に不透過であるわけではなく、そのいくばくかは水蒸気とともに疎水性多孔膜を透過する。透過したフッ化水素は、ブロアあるいは真空ポンプといった減圧手段における腐食の要因となり得るものであるから、本発明では、腐食のリスクの低減を図るために、疎水性多孔膜の他方の側に透過しかつフッ素化合物を含む蒸発蒸気を冷却して凝縮水を得るようにする。蒸発蒸気を冷却して凝縮水を得る際には、凝縮水を得たのちの気体部分におけるフッ化水素濃度が10体積ppm以下となるようにすることが好ましく、1体積ppm以下となるようにすることがより好ましい。
【0012】
蒸発蒸気を冷却による凝縮水の生成を十分に行うためには、冷却に用いる冷媒の温度を下げたり、伝熱面の厚さを薄くしたりすることによって、凝縮に必要な熱量が十分に伝熱するように冷却の条件を決定することが重要である。冷媒には一般的に冷水が使われるが、この温度が低いほどよく、25℃以下の温度であることが好ましい。冷却の方法としては、必要な熱量が伝わるものであればよく、熱交換器など一般的なものを使用できる。しかしながら、フッ化水素などによる腐食の懸念を低減するためには、非腐食性の材料(樹脂製の伝熱面や、薄いフィルム状のものなど)を使用して熱交換を行うことが好ましい。一般的に非腐食性の材料は金属に比べて熱伝達率が低いが、伝熱面を薄くする、伝熱面積を大きく取るなどの工夫をすることによって必要な熱量を移動させることができる。
【0013】
本発明では、被処理液のpHを1以上6以下とし、好ましくは1以上4以下とする。被処理液のpHが6を超えると、アルカリを用いる従来の処理方法での処理条件に近づくこととなり、従来の処理方法と同様の課題が生ずることになる。特に、析出物は疎水性多孔膜の目詰まりの原因となり得る。一方、pHが1を下回って強酸性条件となると、フッ化水素分子が大量に疎水性多孔膜を透過することになって、疎水性多孔膜における供給側でのフッ素成分の濃縮が十分に行われないことになるとともに、疎水性多孔膜を透過したフッ化水素の処理に要する負担が過大なものとなる。従来の加熱濃縮による方法はpHが4以下のときの処理に大きな課題を有しているを考慮すると、本発明は、被処理液のpHが1以上4以下のときに著しい効果を達成する。
【0014】
膜蒸留に用いる疎水性多孔膜としては、例えば、フッ素樹脂からなるものを用いることができ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜あるいはポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜を好ましく用いることができる。疎水性多孔膜は、例えば、膜蒸留モジュールに組み込まれて使用される。膜蒸留モジュールは、疎水性多孔膜と、疎水性多孔膜の一方の表面に接して設けられた濃縮室と、疎水性多孔膜の他方の表面に接して設けられた減圧室とから構成され、フッ化物イオン及びケイフッ化物イオンの少なくとも一方を含む被処理液は濃縮室に供給される。膜蒸留モジュールでは、腐食のおそれを低減するために、濃縮室における被処理液に接する壁面と、減圧室における蒸発蒸気に接する壁面とを樹脂で形成することが好ましい。さらに、減圧室の壁面自体を冷却することによって、蒸発蒸気を冷却させて凝縮水を生成するようにしてもよい。
【0015】
本発明では、膜蒸留装置を用いて液体の濃縮を行っている。液体の濃縮に膜蒸留を用いることは例えば特開2016−68006号公報に記載されているが、フッ素化合物を含む被処理液の濃縮に膜蒸留を用いることは検討されておらず、また、疎水性多孔膜を透過した蒸気を冷却させる手段の条件についても何ら記載されていない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フッ化物イオンやケイフッ化物イオンを含む被処理液中のフッ素成分を安価な設備で濃縮分離できるとともに、蒸発側の空間を小さくし、かつ発生したフッ化水素などのガスを速やかに凝縮水に溶け込ませて回収できるので、フッ化水素ガスの無害化を容易に行うことができる。したがって本発明のフッ素含有水び処理方法及び装置は、他のものと比べ、安全上及び設備コスト上で優位である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の一形態の処理装置の構成を示す図である。
【
図2】本発明の別の実施形態の処理装置の構成を示す図である。
【
図3】実施例で用いた処理装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の一形態の処理装置の構成を示している。
【0019】
図1に示す処理装置は、フッ化物イオンやケイフッ化物イオンを含む水性の廃液を被処理液とし、被処理液中のフッ素成分を濃縮するものである。被処理液のpHは、1以上6以下とされる。処理装置は、膜蒸留を行うための膜蒸留モジュール10を備えており、膜蒸留モジュール10は、疎水性多孔膜11と、疎水性多孔膜11の一方の表面に接して設けられた濃縮室12と、疎水性多孔膜11の他方の表面に接して設けられた減圧室13と、を備えている。被処理液を一時的に貯える貯槽20が設けられており、貯槽20と膜蒸留モジュール10の濃縮室12とは配管21によって接続され、配管21には濃縮室12に被処理液を給送するための供給ポンプ22が設けられている。各種工程から排出された被処理液は、配管23を介して貯槽20に供給される。貯槽20には循環配管24が接続し、循環配管24にはポンプ25とヒータ26が設けられ、貯槽20内の被処理液を膜蒸留に適した温度まで加温できるようになっている。
【0020】
減圧室13には配管31が接続し、配管31の途中には熱交換器32が設けられている。熱交換器32は、疎水性多孔膜11を介して減圧室13に透過した蒸発蒸気を冷却水によって冷却するものであり、蒸発蒸気は熱交換器32によって冷却されて凝縮水を生成する。熱交換器32は凝縮手段として機能する。凝縮水は、配管31を通って凝縮水タンク33に溜まることとなる。また、凝縮水タンク33には減圧ブロア34が接続しており、減圧ブロア34を作動させることによって、凝縮水タンク33及び配管31を介して減圧室13の内部が所定の圧力まで減圧されるようになっている。また、貯槽20も圧力調整弁51を備える配管50によって減圧ブロア34の入口側に接続している。貯槽20内を減圧とすることにより、膜蒸留モジュール10の濃縮室12も減圧されることとなり、被処理液の沸点を低下させてより低い温度で膜蒸留を行わせることができる。
【0021】
膜蒸留モジュール10において、疎水性多孔膜11は例えばフッ素樹脂からなる多孔膜であり、好ましくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜あるいはポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜が使用される。また、膜蒸留モジュール10の腐食を防ぐために、膜モジュール10は例えば樹脂あるいは耐食性合金で構成される。例えば、濃縮室12における被処理液に接する壁面と、減圧室13における蒸発蒸気に接する壁面とは、フッ化水素などに耐性を有する樹脂で形成される。
【0022】
次に、
図1に示した処理装置を用いた、フッ酸廃液などである被処理水の濃縮処理について説明する。減圧ブロア34を駆動して減圧室13内を所定に圧力にまで減圧し、この減圧状態を維持する。ポンプ25及びヒータ26を駆動して貯槽
20内の被処理水を所定の温度(例えば60℃)まで加温した後、供給ポンプ22を駆動して被処理水を濃縮室12に供給する。その結果、膜蒸留モジュール10において疎水性多孔膜11を介した膜蒸留が起こり、被処理液中の水分は水蒸気の形態で図示波線の矢印で示すように減圧室13に透過する。被処理液中のフッ素成分はそのまま濃縮室12内に残留するから、濃縮室12内の被処理液におけるフッ素成分濃度が上昇し、フッ素成分の濃縮が行われたことになる。フッ素成分濃度が上昇した被処理液は、濃縮液として濃縮室12から排出される。なお、濃縮水を貯槽20に戻して循環させることにより、さらにフッ素成分濃度を上昇させることができる。
【0023】
疎水性多孔膜11を透過して減圧室13に到達した蒸発蒸気は主として水蒸気からなるが、多少の分子性のフッ素化合物、例えばフッ化水素や四フッ化シランを含んでおり、これらは腐食の原因となるとともにそのままでは環境中に放出するのは好ましくない。そこで熱交換器32により蒸発蒸気を冷却させて凝縮水を生成し、フッ化水素や四フッ化シランを凝縮水中に溶け込ませるようにする。生成された凝縮水は凝縮水タンク33に溜まるから、これに対して適宜の排水処理を行えばよい。このとき、凝縮水を得たのちの気体部分、すなわち減圧ブロア34の排気におけるフッ化水素濃度が10体積ppm以下となるように、熱交換器32での冷却条件を設定することが好ましい。例えば、熱交換器32に供給する冷却水の温度を25℃以下とする。
【0024】
図1に示した処理装置では、減圧ブロア34はフッ化水素などのフッ素含有ガスから保護されるものの熱交換器32はフッ化水素などに接触することになる。そこで、
図2に示すように、減圧室13から延びる配管に熱交換器を設けるのではなく、減圧室13の壁面の一部を冷却面としてこの冷却面において凝縮水を生成するように構成することもできる。
図2に示した処理装置は、
図1の処理装置に比べ、配管31、熱交換器32及び凝縮水タンク33が設けられておらず、その代わり、減圧室13の壁面の一部を冷却する冷却モジュール40が備えられている。減圧ブロア34は、減圧室13に直接接続されている。冷却モジュール40は、熱伝導率の高い材料から構成され、その内部には冷却水が循環するようになっている。冷却モジュール40の表面には耐食性を有する樹脂フィルムが張られており、この樹脂フィルムは減圧室13の壁面の一部となっている。すなわち、樹脂フィルムの一方の側は、減圧室13の内部を向いて冷却面となっており、樹脂フィルムの他方の側の冷却モジュール40によって冷却されるようになっている。減圧室13内の蒸発蒸気は、冷却モジュール40によって冷却されている冷却面に触れて凝縮して凝縮水となる。凝縮水は、減圧室13の底部に溜まるから、溜まった凝縮水の量が一定値を超えたら膜蒸留モジュール10の運転を停止して減圧室13から凝縮水を排出すればよい。
【実施例】
【0025】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。実施例では
図3に示す処理装置を使用した。
図3に示す処理装置は、
図1に示すものと同様のものであるが、濃縮室12から排出される濃縮液をそのまま貯槽20に循環させるようにしている点で、
図1に示したものと異なっている。配管21において供給ポンプ22の濃縮室12との間に調整弁27が設けられ、調整弁27の手前から貯槽20に戻る戻り配管28が設けられている。調整弁27の開度を調整することによって、濃縮室12への被処理液の流量を制御できるようになっている。貯槽には、被処理液があらかじめ蓄えられている。また、凝縮させるまえの蒸発蒸気におけるフッ化水素濃度の測定のために、配管31において熱交換器32の手前からサンプリング用の配管36が分岐し、配管36にはサンプリング弁が設けられている。
【0026】
膜蒸留モジュール10において、疎水性多孔膜11として、直径75mm、膜面積44cm
2のポリテトラフルオロエチレン膜を使用した。この膜は、公称孔径が0.2μmの多孔膜である。膜蒸留モジュール10のうち疎水性多孔膜11を除いた部分はポリエチレン(PE)製であった。熱交換器32として、耐食性合金SUS316Lからなる日阪製作所製BHE−005(伝熱面積:0.135m
2)を使用した。熱交換器32には、冷却水として25℃の水が供給されるようにした。
【0027】
被処理液として、表1に示す供給液1及び供給液2の2種類の排水を使用し、それぞれについて実験を行った。供給液1は、鉛の電解精錬工程からの排水であり、多量のヘキサフルオロケイ酸鉛(PbSiF
6)を含んでいる。供給液2はフッ酸排水であり、フッ化水素を含んでいる。表1において、「フッ素化合物」とは、F
-イオンとSiF
62-イオンについてのフッ素原子のみについての質量に基づく濃度を示している。「イオン状シリカ」とは、SiF
62-イオンについてのケイ素原子のみについての質量に基づく濃度を示している。
【0028】
【表1】
【0029】
被処理液をヒータ26によって60℃に加温し、膜蒸留モジュール10に1L/分の流量で供給した。減圧ブロア34による吸引圧力を−95kPaとした。このとき、疎水性多孔膜10での透過フラックスは、60〜110kg/m
2/時間程度であった。
【0030】
この条件で処理装置の運転を継続し、運転開始後1時間の時点において、サンプリング弁37を介して捕集された気体、すなわち減圧室13からの冷却前の気体におけるフッ化水素濃度と、減圧ブロア34の出口の気体、すなわち減圧室13を出てから冷却され凝縮水の生成を経たのちの気体(このとき、貯槽20からの気体の寄与は無視できる)におけるフッ化水素濃度とをガス検知管を用いて測定した。その結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
表2に示すように、減圧室13内の蒸発蒸気におけるフッ化水素濃度が10ppmを超える場合であっても、その蒸発蒸気を冷却して凝縮水を生成することにより、凝縮水生成後の残った気体でのフッ化水素濃度を1ppm未満とすることができ、十分な無害化を速やかに達成できることが分かった。
【符号の説明】
【0033】
10 膜蒸留モジュール
11 疎水性多孔膜
12 濃縮室
13 減圧室
20 貯槽
22 供給ポンプ
32 熱交換器
33 凝縮水タンク
34 減圧ブロア
40 冷却モジュール